龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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裏から回る裏稼業

 海賊に慣れすぎだ、この島。

 すごい親切にしてもらえた。

 船乗りなんて、そもそも荒っぽいものだ。武装化が一般的な現状だと、海賊か否かなんて、本当にただの流行り廃りでしかないのだろう。

 社会階層が、内陸、沿岸、海みたいな理解だろうか。本来は高い階層だった内陸組が、天上金によって貧しくなる。沿岸や海にいた貧しい階層が、貿易と武力によって、それを逆転させていく。

 貴族的価値観と、世界政府という仕組みによって、特権階級の地位は保障されているが、経済と暴力で殴られて、階層ごと死にかけている、といったところか。

 これな。難しいんだよ。こういう変化へ対応するの。歴史上、ほとんどの国家、文明がこうした理由で混乱を生んでいる。

 まず間違いなく、政権が変わる。

 税制を変えるだけの簡単な仕事なのだが、これが本当に出来ないのだ。

 現代だと、EVと内燃機関みたいな産業構造の変化。いつか変わるんだろうけど、それが今かというとそうでもないみたいな。

 そもそも、本当に変わるのか、変わらないのか。

 未来ってやつはわからない。時代は読めない。

 なので、政治は遅いぐらいでちょうどよかったり、そうでもなかったり。

 世界政府は嫌いなんだけども、まさにそんな時代を駆け抜けた空母なもんだから、どうにも複雑な。

 まさか、龍驤が上陸する前から、そんな難しいことを考えているとは、クルーの誰も思うまい。

 思ってても、放置するが。

「略奪かって聞くか、フツー?」

 普通を語るな、非常識一味。普通なんだよ、この世界では、むしろ。でなきゃ、出迎えは沿岸砲台だ。

 どうしても、港を守るって発想が出てこないらしい。最底辺の社会階層だからだ。凝り固まった常識と言ってしまえば楽なのだが、常識とは成功の実績でもある。

 発想なんてものが簡単に出てこれば、天才なんて生まれない。

 それ以上に、海賊が客なんだろうけど。

 世の中の世知辛さを噛み締めていると、ナミが声をかけてきた。メリーはいつの間にか、接岸している。

「黄金を換金したいから、着いてきてよ」

「あっちに頼んだらええやろ?」

 龍驤じゃ貫禄が足りない。よーいドンの体勢になっているルフィとウソップを指す。頼りない。

 いや、ゾロだってサンジだって、見た目だけならただのチンピラなんだが、それでも美少女二人よりはマシなはずだ。

 なお、チョッパーと楽しくデートの段取りをしているロビンの邪魔したらいけない。

「あいつらに振り回されんのもヤダし、サンジくんはサンジくんでやることがあるでしょ?」

「なにがあんだ?」

 みんなで、船長を残念な目で見る。麦わらの船、一番の働き者だぞ。

「メリーから乗り換えるなら、どうするんだ? 宿にでも移るか?」

「え!? いやだ!! 出来るだけ、メリーで暮らしたい」

「つーことで、食糧の仕入れ先だな。新造するか、中古を買うかは知らねえが、いちいちスーパーで買い物するのも手間だろう」

 航海中、能力の悪用による詰め込みは許していないが、龍驤はチョッパーやサンジと相談して、なるだけルフィには食わせるようにしている。

 結果、ナミの胸が育った。尻も。揉んでないのに。

 色々と工夫はしているが、カツカツだ。メリーの積載じゃ足りない。釣りと漁で補っている。

 ログのたまる、最低でも一週間は停泊する。そんなのを毎回、スーパーで買っていたら、スーパーにも迷惑だ。

 ここで消化する予定次第では、さらに期間は延びるだろう。サンジには、その準備をしてもらう。

「へー、そうなのかー」

 一味が頭を抱える。船長、と言いたいが、戦闘員も似たようなもんだろう。働け、もっと。

 しかし、この戦闘員。同行させる選択肢はない。一切ない。なんなら、船から降りないで欲しい。

 悩ましい。

「集合って言って来るかな?」

「難しいでしょうね」

「なんのことだ?」

「金だけ持って、なにすんねん」

「船を買うんでしょう? 船長のアンタがいなきゃ、始まらないじゃない」

「そうだった!!」

 どんだけワクワクなんだ。もう、街を冒険して、なんか食うこと以外、考えていない。

 そうなると、当然、ウソップもついて来ることになった。ますます、龍驤はいらない。

 だが、海賊じゃないせいで、麦わらには信用が足らない。

「私たちだけじゃ舐められるって!!」

「紹介状チラつかせて、アイスバーグとガレーラの名を出せ。それで仕舞いや」

 渉外担当は仕事を放棄して、行ってしまった。残された一味は、なんか釈然としない。

「なんかやりたいことでもあるのかな?」

「わからねえ。知り合いでもいんのか?」

「転生者だぞ?」

 改めて考えると、転生者を受け入れている一味って。

 

 

 用なんか決まっている。

 情報源を探すのだ。海列車を含めて、この世界における最先端かつ最大の交通用具生産都市である。

 公安がいないわけがない。港湾だけに。

 それはそれとして、仕事もある。

 一味の船を、よりよいものに。

 装甲艦は造れない。そこは、きちんと規制されている。じゃあ、木材なら自由かと言えば、そうでもない。

 生産地が限られているので、輸入する実力そのものが規制になっている。 

 そして、実力を失った島は滅ぶ。外部の資源に頼った産業など、怖くて起こせない。

 よって、文明や文化がいつまでも平準化しない。広大なアメリカは、北と南、東と西で違っていてもアメリカだ。

 ヨーロッパは、言語が違ってもヨーロッパだ。そういう感じのことが、この世界では起こっていない。世界政府があっても、島ごとに文化や文明が違うとまで言われる。これはむしろ、分断の途中だ。

 四皇がその代表だろう。

 つまり、有用な技術や商品を手に入れるには、海を越えていく実力が必要なのだ。

 で、海を越えるには、船がいる。

 不自然だ。生産地と消費地が、異常な離れ方をしている。

 山で木を切って、川で流して、下流で造船が当然の産業構造だろう。なんで、船を造るために、その船が必要な交易をしているんだ。

 なぜならまず、川がない。あっても、サンドラ河ぐらい狂っている。

 この時点で、四大文明のようなものはないとわかる。川の氾濫によって造成される豊かな平野ではなく、山間の水源を中心とした、森の腐葉土とうんこに頼って、文明が発展したと推察される。

 となれば、木材の生産地において、木は文明を支える神聖なものと見做される。要は、シャンドラのような文明形態だ。

 木が有り余っていても、石材建築に走る。基礎が凄いことになって、木工技術が発展しない。

 当たり前だが、石と木では、木の方が簡単に加工出来る。用途も実に多彩だ。文明の最初は、食糧生産量こそが力だが、だんだんと技術が力になっていく。

 特に、金属加工へ移行すると、神聖なはずの森を切り尽くす羽目になる。

 自然と力関係は逆転するはずだが、なんと、この世界はエネルギーが枯渇している。そして、果物が悪魔の実とかいう、変な資源になる。

 よって、この島で海列車が発明されるまで、技術はそれなりに発展しながらも、内陸の権力が絶妙に維持されてしまったわけだ。

 文化人類学的に、なかなか面白い。

 それも、ついに終わりだ。海図どころか、ログにさえ頼ることなく、交通網が整備される。技術が食糧の生産力を補える時代へ移った。

 龍驤は時代を変えた街を歩いている。海列車の開発者の名は未来永劫、歴史に刻まれるだろう。

 誰か、よくわからないが。

 残ってねえのよ、例によって歴史が。

 辛うじて、ガレーラのトムさんらしいのだが、全然わからない。ロジャーより有名でいろよ。おかしいだろ。

 通行人が、龍驤を避けていく。実に不審物。

 文句を言っても始まらない。

 とにかく、技術を行使出来るだけの、高い実力を持った島へ立ち寄れたのだ。この機会を利用しない手はない。

 いい木材を手に入れるのだ。この島でしか、とまではいかなくても、この先の新世界に耐えられるだけの木材を。

 大丈夫。この世界はバイオ文明。なんか、とんでもないのがきっとある。リサーチはした。

 なんか、非加盟国からたまに流れてくる凄いのがあるらしい。

 バイオ文明の成果が、非加盟国にあんのかよ。だから、勝ったの機械文明だと思ったのにちくしょう。

 全然、予想が当たらない。不意打ちもされるし、いいところがなにもない。ここらで、役に立たなければ。

「いらっしゃい」

「しけた店にしては、ええ船具を置いとるやん」

「世辞はいい。小娘になにがわかる」

「わかるさ。ウチの人生は海そのものや」

 顔も上げない店主が、睨めつける。龍驤の立ち方、姿勢、足運びに視線の向け方。裏町の人間らしく、見た目からすべてを判断しようとする。出来なければ死ぬ。

 裏社会はそういう世界だ。ここがそうかは知らないけど。

「ガレーラだけがウォーターセブンじゃねえ」

「なんや? アンタの拵えか?」

「まあな」

 合格らしい。所作はロビンを真似た。無意識にでも軍人らしくすると、警戒される。彼らはすぐに見破る。人を見たら、泥棒だと思っているからだ。

 もっと物騒な想定だが。

 弱い人間が、自分を守る戦術だ。ウサギのような警戒心である。そして、ネズミのような団結もある。

 敵の存在はすぐさまコミュニティに共有され、排除に動く。なにも買えなくなったり、もっと強い存在に売られたり。

 弱いからとただ踏みつけるだけのバカは、悪党すら全う出来ない。

 信用され、頼られる人間でなければ、どこでだって生きていけない。

「フランキーってのに会いたいんやが」

 ちなみに龍驤も、歩きながら店構え、立地、人の流れやなんかから、この店を選んだ。

 当たりだったようだ。

「旅の人間だろう? どこで知った?」

「ココロって人」

「あのばあさんか」

 なんかマジで、いきなり凄い人と出会っちゃったんではなかろうか。地位とか立場とか、それ以上にコネって大事なのだ。

 信用だから。

 上はもちろん、こんな底辺にまでその信用が浸透してるって、どんだけだよ。顔が広すぎる。

「なんの用だ?」

 だからって、無条件に言うことを聞いてくれるわけではないが、きっかけになるだけでも、ずいぶんと楽だ。

 なにせ、相手は龍驤を泥棒だと思っている。

「ちょいと船をな。新しくしたいねん」

「解体屋だぞ?」

 それはそれとして、裏社会に馴染む小娘。艦娘である。

 龍驤はヤサグレている。

 

 

 黄金は三億になった。ルフィ、ウソップ、ナミは、そんな大金にワタワタと慣れない反応を見せた。

 麦わらの持っている資産からすると、端金である。

 超大国アラバスタと七武海サー・クロコダイルなんかとコネを持ってたら、当然そうなる。

 あと、カードがすっげぇ売れる。マリアンヌのイラストも人気だが、それを生かしたデザインをドロシーが。マーケティングをザラが担当して、ミキータが営業に回っている。

 ミキータはキャハハさんである。裏仕事より向いていたようだ。男連中は武力担当なので、ほぼニートである。3の人だけが、酷使されている。

 なんか、どこぞの有名なカジノが、ゲームに採用しようとしているらしい。

 喜びを隠せないクロコダイルは、多少、微笑ましかった。

 そもそも、手配書なんて意味があるかもわからないものが普及している世界だ。それに遊び心を足したら、流行るのも不思議ではないのかも知れない。

 知らん。想定外だ。

 というわけで、そんな事情は船長も知らない。龍驤が知らんという態度だから、どうしようもない。

 最初の頃にやってた事業や投資よりも膨れ上がった儲けから、目を逸らして逃げている。

 バロックワークス有能すぎる。ここにロビンいたん嫌だわ。

 怖い。

 しかし、ルフィは大金を怖がらない。怖がらないが、浮かれてはいるので、ナミとウソップが大変だ。二人は怖がりながら、船長の面倒も見なければならない。

「殴るわよ、アンタ!!」

 殴ってある。

「歯ァ折るぞ、テメェ!?」

 折ってある。

「すぴません」

 船長である。

 金も大事だが、尾行に気づいて欲しい。そこらのゴロツキだろうけど、完全に狙われている。もう少し、裏のやり方をだな。

 海賊って、実は表の職業だったりするのかも。

 三人はそんな感じだが、チョッパーとロビンは、デートと言うには微笑ましく裏町を歩いていた。

 トナカイ形態ではしゃぐチョッパーを、ロビンが穏やかになだめながら、並んで歩いている。

 龍驤がいたところよりも明るい通りだ。本当にただ、裏にあるだけの商店街である。

 目当ての看板を見つけた。

 本屋に突撃するチョッパーが、ロビンから離れた隙に、通り過ぎた仮面が呟いた。

「CP9です」

 振り返ったロビンは、その人物の肩に座る妖精さんと目が合った。

 どうしたらいいかわからず、冷や汗が出た。

「逃げてもいいかしら?」

 妖精さんに手招きされた。チョッパーも呼んでいる。

 どっちが正解だ。

 

 

 船番はゾロだと思っていると、メリーでは危険極まりない。

 ゾロなら斬られるだけですむが、妖精さんがいる。

 捕まるだけですむわけがない。

「チッ、うるせぇな」

「放せ!! いや、放して下さい!!」

「イヤーッ!? なんか目ン玉に潜り込んでく!?」

「なにしてんだ!? 今、俺はなにをされているんだ!?」

 要は、オモシロおかしいことになる。眠れない。

「もう懲りたろ? 出てけよ」

「出て行けねえんだよ!? 見てわからねえのか!?」

「あんまり、わかんねえな」

「やっぱり、どうなってんだ!? どうなっちゃってるんだ!?」

 説明は省こうと思う。妖精さんのすることを考察しても仕方がない。

「改造はダメだぞ」

 一応、注意はしておく。ゾロは寝っ転がる。

 もっと慈悲を。

 メリーを襲った恐れ知らずたちは、たまらず叫んだ。

「俺たちを、フランキー一家と知っての狼藉か!?」

「知らねえよ。狼藉はお前らじゃねえか」

「こんなことして!! ただですむと思うなよ!?」

「なにをされてるか、いまいちわからねえもんで」

 ちゃんとツッコみを返すだけ、優しいのかも知れない。やがて男たちは口まで塞がれて、妖精さんのオモチャになった。

 しばらくして。

「フランキーってあれか? ココロばあさんの言ってた」

 ゾロが寝返りを打った。イタズラが止まった。妖精さんが、口をきけるようにする。

「ココロばあさんを知ってんのか?」

「いや、あんまり」

 ゾロはもう一度、寝返った。再開した。

 フランキー一家は、この先生きのこれるか。

 

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