龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

118 / 129
コミュニケーションブレイクダウン

 フランキー一家のあばら家に来たが、入りにくい。真っ当に商売をしに来たはずなのに、なんか身代金交渉をしに行くみたいだ。

 お宅の手下、預かってます。

 どうしたもんか。本当にどうしたもんか。

 龍驤は悪くない。明らかに、フランキー一家が悪いので、助けられない。妖精さんのオモチャを取り上げられない。

 しかし、こんなところで迷っていても仕方がない。あばら家自体は、なんか秘密基地っぽくて素晴らしい。女は度胸と、中に入った。

「邪魔すんで」

「邪魔すんなら帰んな」

「ほな、酌でもしよか?」

 男が酒を飲んでいた。ヤサグレた雰囲気だ。雰囲気だけしかわからないのは、仮面を被っているからだ。

 どうやって飲んでんの。なんか、ローブも着ていて、中身が全然わからない。

「なんだ、テメェ?」

 傍らの女たちが二人、龍驤を威嚇している。情婦という感じではない。それなら、雰囲気でわかる。

 情婦ではないが、忠誠心は高い。大げさな仕草で男が止めると、女たちは控えた。軍人とは違うが、統制は取れている。

 噂に違わぬ男のようだ。

「ココロさんに聞いてな。裏に顔が利くんやって?」

「そりゃあ、裏町のスーパーな顔といや、俺のことだが?」

「なんで、そんなけったいなカッコしとんの?」

 いつまでも、雰囲気しかわからない。仮面から覗く目が、意外とパッチリなぐらいか。

 聞いていた話からすると、これでは交渉にならない。なにかの呼び水になればいいと思った。

 男は立ち上がると、リズムを刻み始めた。

 なにを呼んでしまった。

「え? なに?」

「買いたいものが、あるんだよ」

「三年前から狙ってた」

「必要経費が二億ベリー」

 リズムに合わせて、女たちも参加する。

「中途半端に稼いでは」

「ヤガラレースで、一文なし!!」

「賞金首を仕留めては」

「飲んで騒いで、一文なし!!」

「苦節三年経ったけど」

「今日も今日とて、一文なし!!」

「出掛ける準備はしたけれど」

「お金の当ては、まったくなし!!」

 実にファンキーなダンスとともに、龍驤へ向けて煽りを入れてくる。

「用があるなら、聞いてみな?」

「さあ!! アニキの名前を聞いてみな!!」

「恥ずかしがらずに聞いてみな!!」

「誰ぇ?」

 知ってるけど。

 オーディエンスまで巻き込んで、盛り上がりは最高潮だ。バッとローブを脱ぐ。ドコドコ、ドコドコ、床を叩く。

「うーん、フランキー!! スーパーだぜぇッ!!」

 決まった。フランキーポーズ。

「なんやこれ?」

 わからない価値観である。新撰組とか名乗りそう。好きなタイプのバカだ。

 とりあえず、気風はいい。金もないのに、組織を運営出来るのは、かなり人間力が高い。その点だけなら、白ひげだ。

 クロコダイルを見習え。

 よくわからないけれど、話をしてくれる気にはなったようだ。さっきまで、ヤサグレてたものね。

 今は怒りに満ちている。

「小娘がなんの用だ、アアン? 舐められたもんだぜ」

「船長は、ガレーラの方に行っとってな。申し訳ない」

「ガレーラぁ!? だから、なんの用だ、コラァ!? こちとら、泣く子も黙るフランキー一家だ!!」

 ダメだ、このおっさん。買い物出来なくて、いじけている。よっぽど欲しいものだったのだろう。

 なんで麦わらみたいな小さな船をわざわざ襲ったのかと思ったが、こういう親分の雰囲気を察してか。龍驤を知らないのは、親分が獲物と認識していないからだろう。たぶん。

 慕われているようだ。

 裏町で情報を集めた。

 チンピラで、ケンカっぱやく、騒ぎも起こす厄介者で嫌われ者だが、認められてもいた。

 必要悪と言えばよいのか。産業都市であるウォーターセブンは、華々しい都会である。よって、夢破れた若者たちが、故郷にも帰れず、屯する。

 これが治安を悪化させる。まともな就職をしないのだ。夢を諦めないから。

 で、食い詰めて悪さをする。それを集めて、飯を食わせてやっている。

 悪い、悪党とは言われるが、手配されるようなことはしていない。手下たちも、切羽詰まった状況で、よそ者を選んでいる。

 最低限、都市に迷惑をかけていない。

 道理を弁えた、大人の態度だ。向こう見ずなだけではない。

 なかなかいい男のようだ。枯れてもいない。

 二億、という金額は大きい。それで船が造れる。

 水に浮くビルを、一棟建てるのだ。決して、軽くはない。

 中小の企業で、純利益から人件費まで引いて一億を稼ぐなど、そうそう出来るものでもない。出来ないとは言わない。

 下手か、良心的な証なのだ。しかし、下手には見えない。バカに見える。

 バカやって事業が継続するなら、むしろ上手い。

 夢がある。なのに、何年か前にわざわざこの島へ来て、手下を率いても、海賊になることはない。

 稼ぐだけならこの手の男だ。いくらでも手段はあるはず。現代と違って、解体屋で糊口をしのぐには腕もいる。ゴミは金にならないからだ。

 では、土地柄を生かした賞金稼ぎはどうか。

 海賊の賞金額百万から数千万までは個人の賞金稼ぎ。億付近からは、中小、大手の企業体。十億辺りからは、国家規模での討伐を想定している。

 そもそも、懸賞金が強さの指標にも基準にもならないので、適当だ。懸賞金は、リスクヘッジである。

 手を組めば、もちろん制裁などもあるだろうが、命は惜しいものだ。この世界で、海賊は交易者。取引した方がいい。

 倒しても1700万にしかならないなら、クリークに降伏して一回分の利益を差し出した方が、船も無事だし合理的だ。

 それなのに、港や街を襲ったクリークは、懸賞金の額を上げてもらえなかった。

 裏切っても金にならない犯罪者と、誰が交渉する。海賊は常に、一般人に対して、懸賞金以上の価値を提示する義務が生じているのだ。

 一般人が海賊を忌避するのではない。海賊こそが、一般人を信じられなくなる。懸賞金はそのためにあり、そうやって人々を守っている。

 海賊の勢力拡大を防ぎ、戦争を抑制するのが目的で、誰かに首を取って欲しいわけではないのだ。

 要はまあ、賞金稼ぎは儲からない。ルフィに拾ってもらえてよかった。騙し討ちの機会なんて、そうそう転がっているものでもない。

 海賊のナワバリとやらに、龍驤単騎で殴り込みでもしないと、割に合わなかっただろう。とんでもねえことになったはずだ。

 そして、この街は海賊を客として扱う島だ。絶対に、賞金稼ぎなど成り立たない。

 なら、どうしてこいつはヤサグレているのか。

 稼げないやり方で街を守りつつ、解体業もやって腕を腐らせず、他人の面倒を見て、夢を取り逃す。

「さてはキミ、不器用やな?」

「いきなりなんだ、テメェ? ケンカ売ってんのか!?」

 いいな。なんか、いい男だ。変態だが。

 ローブの下、海パンだった。まさかの、けったいな格好こそが、常識的だった。お出掛け用って、そういう意味か。

 この島以外じゃ、すぐ逮捕だもんね。この島でもだけど。

 露出狂が露出してなくて、話になるわけがない。

 聞いてはいたが、ビジュアルの衝撃が凄い。おっさんのブーメランは見たくない。ただもう、いちいちツッコむのも面倒というか。

 ちゃんと収まってるならいいかって。

 龍驤はヤサグレている。

 最近、意味が違って来た気がする。乙女心は、まだ健在だろうか。

「売って来たのはキミらやろ? うちの船で、キミの手下を預かっとるで」

「なんだと!? どういうことだ!?」

「ザンバイたちが、先走ったんだわいな」

 フランキーが、龍驤を睨みつける。完全に、敵と見做した。

「テメェ、なにしに来やがった!? さっさと言いやがれ!!」

「その身体、見ていい?」

 時が止まった。フランキーは固まった。女二人も、目を白黒させた。なんと返せばいいか、大いに迷って、確かめた。

「この、スーパーなボディをか?」

「うん。隅から隅まで、じっくり見して欲しいんよ」

「なに、卑猥なこと言ってんだ?」

「見してくれたら、手下はすぐに放す」

 フランキーは迷った。とにかく、迷った。なんかこう、迷ったのだ。

 なんにも考えられないのに。

 なにを言っているんだろう。本当にわからない。

 でも、この身体で手下が助かるって。

「ちょっとだけだぞ?」

 言ってしまった。深く考えてなどいなかった。なんなら、自慢のボディだった。龍驤は子供だし、本当に卑猥な意味だなんて、思ってもいなかった。

 ちょっと嬉しかった。ポージングした。

「許可が出たで、妖精さん」

「なんだ、コリャ!?」

 それ以降について、詳しく語ることは出来ない。

「アーッ!! アーッ!?」

「アニキ!? アニキー!!」

「やめるんだわいな!! エッチなんだわいな!?」

「アァァーっっ!!」

 その日、フランキーハウスからは、豚のような悲鳴が鳴りやまなかった。

 

 

「ヒドい目にあったぜ」

「目の毒だったんだわいな」

 災難である。妖精さんは満足だ。実に、満足である。

「オモシロな身体しとるね」

「まあな。俺はサイボーグだ」

 うん。とんでも技術。

 でもね。海列車に比べれば、大したことないんだ。その程度。

 二人は本題に入らず、技術談義を延々としていた。

「あの巨大さで、あの喫水。線路で支えてんやろうけど、秘密は車輪やろ? どんな構造しとるん?」

「なかなか、お目が高いな。一応、車体は二重構造だが、あれは水面を進んでんじゃねえ。常に海中を登ってんだ」

「あー、なるほど。奇跡のような重量バランスやな。となると、機関車と客車では別か」

「そうだ。客車なら、そこいらのマヌケどもにも真似出来るが、機関車はウォーターセブンでしか作れねえ」

「いやいや、客車だけでも大層なもんやぞ? 真似出来るなら褒めてやらな」

「ケッ、下らねえ。その程度の腕なのさ」

 雨降って地固まるだろうか。仲良くなってる。まあ、裸の付き合いだ。一方的なものだけど。

「海列車に詳しいんやな」

「なにが言いてえ?」

「充分さ。その答えだけでな」

 超カード化したい。海列車最高。龍驤はウキウキしているが、フランキーは警戒する。

「テメェ、政府のまわし者じゃねえだろうな?」

「ココロさんにも言われたわ。やっぱ、そういうのあるん?」

 フランキーは少し考えて、重く口を開いた。

「ガレーラには、よく出入りしてる」

「応じる気配は?」

「アイスバーグはそんなんじゃねえよ!!」

 龍驤はびっくりした。

「あの、なんや。うん、わかったから」

「わかるんじゃねえよ」

 フランキーは落ち込んだ。

 モズとキウイには、わけがわからない。ただ、秘密の会話なのだろう。口は挟まなかった。

「で? 本当になにしに来たんだ?」

「いやあ、仕事を頼みたくってな」

「アアン? 安くねえぞ、うちは。金はあんだろな」

「現金ですぐなら、三億。それ以上となると、時間はかかるかな」

「なんなりとお申しつけ下さい」

「現金やな」

 二重の意味で。

「んな大金で、どうしようってんだ? いくら俺様がスーパーな裏の顔と言えど、解体屋兼賞金稼ぎに過ぎねえぞ?」

「アダムって知っとる?」

 フランキーは答えずに、時計の方を振り向いた。

「あとちょっとで、海列車が出るな」

「キミも、それ買うつもりやってん?」

「見るだけだ。見るだけ」

 なんの言い訳だろう。ちょっとよくわからないが、龍驤もたまにしか出ないと聞いている。ちょうどよく確保出来るなら、そうしたい。

 いちいち、偶然には驚かない。

「ほな、現金がすぐにいるな」

「本当にあんのか? 二億でいいんだぞ?」

「とりあえず、その辺は上手く、アーッ!?」

「なんだよ!?」

 龍驤はいそいそと立ち上がると、急に騒ぎ始めた。目に見えて、焦っているのがわかる。

「うちの船長がトラブル起こしとる」

「は!? なんでわかるんだ!?」

「しかも、ブレーキ役の狙撃手と航海士が船長の味方しとる!?」

「なんだ!? なんなんだ!? お前ら、ガレーラとこに話、持ってたんだろ!? どんだけ、血の気が多いんだ!?」

 ガレーラである。海賊相手でも怯まないどころか、適当に宥めて仕事を進めるのも慣れたものだ。

 海賊だって、生活の場にすらなる船に手を抜かれたくない。

 トラブルなどそうは起こさないはずだが、やってるらしい。

 どうやって知ったんだ。

「あー、ヤバい。これ、ヤバい。もしかして、ウチのせいかも」

 龍驤の顔が青ざめている。

 業界最大手とケンカなんてしたら、余所に話を持っていくのも難しい。

 船がない海賊なんて、海賊じゃない。

 それだけでなく、考えてた段取りが、全部崩れる。

「お前のせいってなんだ? なにがあったら、海賊が船大工とケンカすんだ? 金はあんだろうよ?」

 龍驤は絶望的な顔で告げた。

「ウチ、転生者やねん」

「なに言ってんだ、オメェさん?」

 わかる。でも、そうなんだもん。

 

 

 第一ドック前に、ルフィたちはいた。

 船長から現金を引き離すことで、輸送の手間はずいぶんと軽減された。

 本当に信用がない船長である。ほとんどがルフィのせいだが、龍驤のせいもある。

 海賊として手配されることを避けたため、名声や悪名がないのだ。

 名声はともかく、悪名なんてと思うだろうが、背景には武力がある。権力や経済力と同じく、なにかが出来る、ということがわかりやすい。

 ある意味で、有能だと言える。ならば、支払い能力もあるだろうで、取引も出来る。

 これが信用だ。泥棒や詐欺師は逃げてしまうかも知れないが、強盗なら武器ぐらい向けてくるだろう、ということだ。

 安全保障がそうであるように、武力を誇示することは、単なるコミュニケーションである。

 じゃあ、話も出来るよね。そんな現実がある。

 その上で騙すのが、イギリスだ。

「おじゃまします!!」

 シロップ村から、なんにも変わっちゃいねえ。旅の小僧のまんま、こんなところまで来てしまった。

「おっと、待つんじゃ。余所者じゃな?」

 今回は、ちゃんと止める人がいた。東の海の長閑さはない。

 しかし、人、だろうか。ウソップとシルエットが一緒だ。鼻に骨があるタイプの人類なんだろうか。

 船大工では、あるらしい。

 ココロさんの紹介状は効果抜群で、とりあえずメリーを見てもらえることになった。

「そうか。メリーをどうするかも考えねえと」

「まだ生きてんだもんな? ただ、置いてくってわけにもいかねえか」

「でも、売るって言ってもねえ」

 どっかの誰かが、奴隷の話なんかしたもんだから、かなり抵抗がある。

「ワハハ。その辺は、ゆっくり考えればいいわい。どんな船を造るのか、の参考にもなるしのう」

 職人から見れば、どんな航海をしてきたとか、操船の癖なんかもわからないではない。

 解体するのか、中古に回すのか。船なんて金のかけどころはいくらでもある。なんというか、メリーを直せるなら直したくもあった。

 ここが一味との別れでも、生きているなら、と。

 雑に扱っていたようで、毎日磨いて、掃除をしていた。ともに死線を潜ったし、そこで暮らした。

 船乗りが船へ向ける感情というのは、特別なものがある。大自然そのものの海にあって、寄って立つものは船しかあり得ない。

 海と空と、自分たちと船しか存在しない。そんな日々を過ごす。

 船が死に、沈むとき、何人の船乗りが運命をともにしたか。

 いよいよか、と思って、一味は少ししんみりした。

 ポツポツと、思い出話なんかをした。

 ドックの外ではあったが、職人たちはそんな若者たちを、目を細めて見守った。

 邪魔するべきではなかった。でもなんか、集まって来てた。

 すっかり時間が過ぎた。

「どうしたんじゃ、お前ら?」

「いや、なんか、懐かしいっつーか。ああいう道具に対する思い入れって、最初の頃はあったよな?」

「なんのことじゃ? え? アイスバーグさんも?」

「ご苦労さん。説明してやってくれ」

 おっさんどもが、若さへのノスタルジーを爆発させている。カクには、まだちょっとわからない。

 説明は、冷静には聞けなかった。

「ダメじゃな。あの船は死んでおる」

 だって、メリーが、ここまで連れて来てくれたメリーが、もう死体なんだと言われて、黙っているわけにはいかないじゃないか。

「取り消せよ!! 今の言葉!!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。