トラブルがなんとか収まって、じゃあ改めてきちんと方針を決めようか、とリビングに集まった。職人たちは帰ったが、アイスバーグさんは予定をすべてキャンセルしてまで、メリーに残った。
気になることがあったからだ。
しかし、妖精さんからの知らせで戻ってきたサンジとチョッパーは、顔色を変えて報告した。
「ロビンがいない!!」
「ああ、今、誘拐されとる。とりあえず安全やから、まずは」
「ちょっと待て!!」
本当に待って。だが、龍驤も負けない。
「全部、いっぺんに起こっとんのや!! 全部、同時に!! なんなら、この島の外でも色々!! お願いだから、まず聞いて?」
いっぱいいっぱいです。無理だから。全部に対応するのは。
なんか、思ったより大変なんだな、この一味って。アイスバーグさんはそう思った。
「ルフィ?」
龍驤に促されて、船長は考えた。
「この島の中だけでいいぞ」
「現在、うちら麦わらの一味は、大将青キジ主導によるなんらかの作戦目標となっとる。青キジは、別作戦をこの島で展開していたCP9へ介入。状況によって、バスターコールを含めた大規模軍事作戦。または、CPによる非正規戦が、この島で実施される恐れがある」
アイスバーグさんと残っていた秘書がなにか言おうとするが、ゾロが口を塞いだ。
「邪魔をするな」
アイスバーグさんも、口を挟むのは止めた。カリファに目配せして、大人しくするよう指示する。
こんなつもりで、残ったんではないのだが。
「ロビンを巻き込んだ以上、目的は古代兵器と思われる。が、ロビンは情報を持っとらん」
「なにィ!?」
いや、ここで口を出さないの無理だろう。注目されたので、これ以上は我慢した。よそのお家だし。
ただ、聞くしかない。なんだ、これ。
「船を手に入れないかんので、うちらの目標は、海軍および政府の目を、この島から逸らすことや。まとめて相手するで? 準備はええな?」
「おう」
男連中は打てば響くような返事だが、ナミは戸惑っている。説明を理解している者は、この場に一人もいない。
あまりにも頼もしい姿に三人は困惑しているが、実はわかっていないだけである。
「ちなみにそこの三人は、船を頼みに行って、ケンカして帰ってきたから。一応、手打ちはしたけど、今後こちらのアイスバーグさんと協力することもあると思うから、覚えといて」
龍驤が小指の落ちた手をヒラヒラさせながら、報告する。
「なにやってんだ、お前ら?」
「これに関しては、ウチが悪い。責めんでやってくれ」
異世界の常識に染めてしまった責任である。しかし、そもそも誰も常識を知らないので、どう責めていいかわからない。
「青キジの目標はうちら、もしくはロビンであるため、現状はむしろ都合がええものとする。問題はCPの目的や。これを明らかにして、どうにかせん限り、この島の安全を確保出来ん」
「いや、まずロビンちゃんの安全だろ?」
「向こうが安全を保障した。よって、ロビンには引き続き潜入してもらうが、ウチも色々探っとるとこや。鍵は途中で会ったココロさん。そんで裏町のフランキーってとこやな。チムニーを巻き込んどるとは思いたないが?」
アイスバーグさんは、ブンブン首を振る。それ以外にない。
「その、フランキーってのは?」
疑問点を明らかにしてくれるサンジは偉い。比較的、常識もある。チョッパー以外は、もはや頑張る気配すらない。
「新しい船のために、特別な木材を調達してもらっとる。今は、この島から出とるよ」
「あ、アイスバーグさん……」
そんな、縋るように見られても困る。内情を知られているだけならともかく、すでに対処が終わってるだと。
いや、内情どころか、アイスバーグさんのプライベートや過去が把握されている。島へ到着して、たった数時間で。
一体、どんな一味なのか。
実は、全部偶然ですとか、逆に納得出来ないだろうな。フランキーは、すぐに帰ってきます。
「CPがロビンを拘束、ではなく、引き入れた理由やが、騒ぎを起こすつもりらしい。うちらを巻き込んで。セオリー通りや。獲物を追い立てるなら、猟犬か火を使う」
「その目的ってやつは、まだ見つかってないってことか?」
「せやろな。歴史を知らん狗に、探しものなんぞ」
龍驤はバカにする。
川を遡り、海を渡る。官僚の基礎と言える。
前例を探すのだ。官僚こそ、歴史を重視し、歴史に従う。
それを奪われた官僚に、大した仕事は出来ない。
龍驤のことだ。
「火や猟犬って、ガレーラが襲われるんですか!?」
「間違いない」
「アイスバーグさん?」
「ああ、行け」
カリファは、職人たちへ知らせに行った。龍驤はタブレットを取り出した。
「はい、注目」
今、飛び出した秘書が映っていた。アイスバーグさんの目が死んだ。一味で、それを見た。
「なんか、空飛んでないか?」
「急に、身のこなしが」
「こ、ここは!?」
あっという間に、街中まで到達した。裏町の屋根を飛び回った。まだ営業前の酒場に入った。アイスバーグさん、行きつけの店だ。正確にはココロさんだが。
中には大柄なマスターと、ロビンがいた。
「よかった!! 無事みたいだぞ!?」
「おう、とりあえず安心だな」
龍驤は船長を見た。
「音声は?」
「そこまではいいよ」
「聞かせろよ!?」
アイスバーグさんは無視された。かわいそう。
「なんでわかったんだ?」
「勘」
アイスバーグさんへの忠誠をあれだけアピールしながら、この状況で一人、海賊船に残していくとか。
通行人を泥棒と思わないといけない世界なのに。
絶対に怪しいよね。言わないけど。
「まあ、今夜にでも、CPの顔は割れるやろ。というわけで、どうするか決めま〜す。どうしますか?」
「ぶっ飛ばす」
「斬り飛ばす」
「蹴り飛ばす」
「撃つ?」
「診る?」
「隠れる?」
どうするんだ。みんな、バラバラじゃないか。というか、方針じゃなくないか。
「ウチも、吹き飛ばす。ええな?」
不満そうだが、最近のこともある。実力で黙らせられない以上、仕方がない。事態の深刻さだけは、伝わっているようだ。
アイスバーグさんには、一味のやり方が独特過ぎて、なんにも理解出来ない。
「ところで、バスターコールとは。海軍の作戦で、中将を五人以上投入し、軍艦を十隻以上用いて行われる無差別攻撃のことである。つまり、ウチの出番やな」
「なるほど。それなら、うってつけだ」
アイスバーグさんは困惑した。バスターコールという絶望を前に、不敵に笑う一味も疑問だが、それ以上に気になることが。
「それを知らないで、話を聞いてたのか?」
一味はキョトンとした。
「うん」
「うんじゃねえよ!!」
「ところで、CP9とは」
「わかった!! わかった!!」
アイスバーグさんは止めた。こんなこと時間の無駄だ。確認だけはした。
「お前ら、バカなんだな?」
一味は顔をそらした。龍驤だけが、大きく頷いた。
「今どき、それぐらいのこと、知らない方がおかしいだろ?」
「思い出して。なんでケンカした?」
そうだった。こいつらに、常識なんてなかった。あるとすれば、異世界のものだった。
「よし。俺とお前で話そう。他は、聞きたければ聞いとけ」
なんで異世界人を名乗る不思議生物と。歯噛みする心すら、一味は踏みにじる。
「それがいいと思うけど、あんま作戦とか意味ないよ?」
「なんでだよ!?」
「バカやからや」
とてつもない説得力。
アイスバーグさんは悶絶した。まさか、若者が起こしたトラブルが、こんな事態に発展するとは。
「どうしたらいいんだよ……」
アイスバーグさんは絶望する。龍驤は微笑んだ。
「諦めたらええよ」
「フザケんな!!」
言ってから、後悔する。フザケてないから問題なんだ。でなければ、遊覧船で東の海からここまで来ない。
このバカどもは真剣に、この船とこれからの航海のために、政府と海軍を敵に回す。バカだからだ。グダグダ理屈を捏ねる時間が惜しい。
「バスターコールはウチが防ぐが、問題はとにかくCPや。こればっかりは、キミの協力がないとなんにもならん。正体はいずれ判明するにせよ、ぶっ飛ばして解決する問題やないからな」
無関係ではいられない。どころか、狙われている当事者だ。協力を拒むことなど、不可能だ。パウリーとか残しておけばよかった。もう信じられるのは、彼ぐらいしかいない。
「定番なんは死んだフリやが、キミの立場やと難しいやろ? 偽を掴ませてもいずれバレるし、情報そのものを始末するしかない」
それしてたはずが、バレてるけどね。
実はバレてないけど、アイスバーグさんからはそう見える。
混乱するアイスバーグさんに、龍驤はほくそ笑む。
とにかく、CPが出て来ているのだから、目的は情報だ。それがなんの、ということだが、ロビンが関連するなら、古代兵器だろう。
オハラの実情など、政府関係者こそ知らない。知っていようといまいと、どうせ消すのだから必要ない、という理由で。
実にバカ。それでは仕事が出来ない。
ロビンに、オハラに協力してもらえばよかったのだ。本当に歴史を隠したいのなら。
ところが、800年前に消したってことにしているので、根本的な解決策を選べない。クソみたいな官僚の特徴だ。
自分は絶対に間違えないという、間違った前提でしか仕事を進められない。たくさんのミスや、失敗があるのに。
間違った前提からは、間違った結果しか生まれない。
「ニコ・ロビンは、古代兵器をどうするつもりだ?」
アイスバーグさんは、それだけを確認しなければならなかった。しかし、その前提も間違っている。
「どうも出来んよ? 一応、在り処を知ってはおるけど、銃があったら撃てる? 弾は? 火薬は? 刃物があれば、人を斬れるか? 果物の皮も剥けんやろ?」
古代兵器と一言で言うが、それはシステムだ。
アイスバーグさんも職人だからわかる。ノコギリを引くにも、技術がいる。カンナもノミも、使いこなすには修行がいる。
確かに、素人に持たせれば危ない。
だが、それだけだ。仕事は果たせない。
「言うて、三大勢力のどこがトチ狂っても、恐らく世界は滅ぶで? でも、せえへんやん? 色々考えたら、途中で止まる。それが古代兵器でも変わらんわ」
エネルは空を滅ぼせるだけの実力があった。ありはしたが、住民に被害を与えることさえ、ほとんど出来なかった。
バリバリしていればいいわけではなく、チクチクしないと無理だった。
可能であることと、実務は違う。
懸賞金は世界政府だけでなく、世界市民にとっても脅威だ。国で対処せねばならない個人など、怪獣でしかない。
その怪獣が、楽園をうろついているだけで、海軍も政府も心配でたまらない。
怪獣が友達を増やすんじゃないかと。
怪獣は、人々と仲良くなれる。
なのに、どこにあってそれがなにかもわからない古代兵器のために、ロビンは世界を追われた。
海賊を歓迎する島があるのに、ロビンだけが。
「お前たちは知らない。古代兵器ってやつは、想像を越えるんだ」
「ほな、神か悪魔やな。たぶん、世界政府は確保しとるで?」
「なんの確証があって言ってんだ?」
「他に、あんなアホどもが君臨出来る理由ある?」
アイスバーグさんは答えられない。
「あったのは事実やん? 使われたのも、恐らくな。でも、生きとるやろ、キミ? なんにも滅びてへんで? しかも、古代兵器そのものが残っとるとか。役に立たなんだ証やんけ。なにを恐れる?」
「それでも犠牲は出る」
「犠牲は大前提や。キミ、なにも犠牲にせずに、その地位を得たんか? 気にするのは犠牲やなく、その大小や」
「大小って。お前になにが出来るんだ? 一体、お前はなにを知って?」
「海列車。あれ、メガフロートの副産物やろ?」
「メガフロート?」
「島、浮かすやつ」
アイスバーグさんは黙る。
ここで、二人の間に認識のズレが発生する。龍驤はあくまでも、人工島をイメージしている。
だが、アイスバーグさんが長年構想してきたのは、島ごと浮かせる技術である。
島は浮かない。いや、飛ぶけど。違うんだ。そんな、岩盤ごと浮かせる常識外れなアイデアではなくて。
メガフロートはそうじゃないんだ。
龍驤はドヤ顔をしているが、わかっていない。アイスバーグさんも驚愕しているが、勘違いである。
「古代兵器の脅威も、世界滅亡の危機も、すべて最初からこの世界にあるものや。なら、誰かが対処しとる。海列車もその一つやろ? カビ臭い知識に頼るまでもない」
プラズマに物理干渉出来る時点で、龍驤にとって覇気とは核反応を前提としたパンチやキックである。
恐らく、同じ覇気なら剣の方がマシ。当たらないで、斬れるから。ゾロは安全牌である。
ケンカが核戦争な世界で、古代兵器ごときの、なにを警戒すればいいのか、龍驤には本気でわからない。
なお繰り返すが、前提が間違ってたら、正しい結論は出ない。
しかし、歴史を失い、常識が歪められた世界だ。龍驤は違和感を、当然のものとして受け取る。
それぐらい普通だと。異世界はめちゃくちゃなんだと。
非常識に慣れすぎた。
龍驤はヤサグレている。
だが、アイスバーグさんは違和感を放置しなかった。
「どこで、俺の目的を知った?」
「話の流れから、推測」
アイスバーグさんは崩れ落ちる。それを眺めて、龍驤は考える。
ちなみに、どれのことだろう。隠しているものか、メガフロートか、ロビンに会いたかったことか、古代兵器への興味か、覚悟か、市長とか社長とかの立場か。
「それだけで?」
「ココロさんもフランキーも、政府への警戒心があった。オハラの同類かと思ったが、興味の対象は古代兵器。となれば、ポーネグリフは知らん。争いは避けるのに、海軍や政府と敵対することを受け入れ、うちらに寄った。迷いながらや。あとは為人」
「ハッタリだったのか」
何年、守り続けた秘密だと。こんなむちゃくちゃな会話の中で、明らかにされてしまうのか。
されていないが。
わかっているのは、アイスバーグさんが古代兵器関連の秘密があることと、ロビンに興味を持っていることだけである。
探していたのは、視線からすぐわかる。
他は全部、当てずっぽうだ。創作も含めて、異世界には前例が腐るほどあるのでね。
アイスバーグさんだって、一味の反応から色々と引き出そうとした。観察はした。
だが、一味はわかったフリをしてほとんどを聞き流していたので、探っているという態度そのものから、アイスバーグさんだけが一方的に探られた。
結果、古代兵器、ニコ・ロビンなどのキーワード。戦いを避ける性向などから、丸裸にされた。
されただけならまだしも、確証まで与えて、なんかニコ・ロビンや古代兵器が大した脅威ではないように、情報を操作されかけている。
いつの間にか、話がズレている。
「冷静に、よく考え。目の前の、異世界からの侵略者やぞ?」
「冷静になると気が狂いそうだ」
這いつくばった床の上で、妖精さんが楽しそうに踊っている。
この状況でこんな光景を見せられて、正気でいられる方がおかしい。
「そうか?」
船長は除く。
ルフィはカターン、カターンと椅子を揺らしながら、両手を頭で組んで、宙を睨んでいた。
龍驤は目を剥いた。船長が返事した。
珍しく、話を聞いてやがる。