ちょっと話し合っただけで、状況が動いた。
麦わらの一味に作戦の一部が漏れていることが、CP9にも漏れた。向こうは方針を変えてくる。
「予断は許さんが、ガレーラの安全は高まったな。情報の在り処を、アイスバーグさん、フランキー、うちらに絞ったはずや」
「おう、そうなのか。目出度いな」
まったく目出度くない。なんで、今日来たばっかりの麦わらが含まれるのか。
アイスバーグさんは、フランキーが明日帰ってくると知らされた。
「逃がしたんじゃねえのか!?」
「あの時点で、なにがわかるん?」
今の時点でおかしいんだから、あの時点がなんなのか。理不尽な文句が口から出そうになった。
理不尽だ。
自分がなにを漏らしたのか、ちっとも把握出来ない。おかげで、龍驤のハッタリがどこまでなのか、なんにも判断出来ない。
龍驤は今の態度から、やっと情報の持ち主を特定した。今までがハッタリだ。
情報の中身はまだわからない。これで古代兵器と関係なかったらどうしようとか、考えている。
いや、むしろフランキーは無関係であってくれと、未だに祈っている。
「大人しく、騙されていた方が身のためよ? 苦労するのは、こいつなんだから」
「絶対、巻き込んだるでな」
ナミと龍驤が睨み合う。
もはや、そんな段階ではないのだが、アイスバーグさんにはわからない。
自分はこの若者たちに、巻き込まれたのか、巻き込んだのか。
CP9は、カリファはいつから。
「いや、最初からか」
仲間だと思っていた。ずっと仲間だと思っていたのだ。
それなのに、自分たちが死んだ、終わった、見捨てろと告げたはずの船の上で、こんな裏切りを目の当たりにしようとは。
自分たちが見捨てられようとは。
「すまねえ。腹を立てて当然だ。配慮を欠いた。すまねえ」
「ど、どうしたの?」
「色々あり過ぎて、錯乱しとんのやろ。ウチもよくなる」
龍驤はケラケラ笑う。
ムカつく。けど、それ以上にかわいそうだ。たぶん、こいつ、今まさに錯乱している。
「噂の中にしか存在せん幽霊組織となんで?」
「暗殺組織か。コエーな」
「それに狙われた人と、島に入る前から?」
「ココロさん、飲み過ぎてないといいな」
「で、ウチが会いに行ったんが、本当のターゲットで?」
「襲ってきたやつらの棟梁かよ」
「実は両方とトラブル済みとか、なして?」
「俺が買い物してる間に、なにやってんだ。まったく」
「せやな。ルフィ、キミ、呪われとるやろ?」
それまで笑っていたのに、船長へだけ、座った眼差しで貫いた。
トラブルは残念だが、だからこそ、上陸数時間で島の最高権力者と、こうしてこんな。
こんな話をすることがあっていいのか。
「そんなはずは」
「そうじゃなきゃおかしいやろ? 艦隊規模の海軍に襲われるの、これで二度目やで? 四皇にだってそんなんせえへんやん」
「照れる」
「照れとらんと、海賊しよや!! 理不尽やん!? 懸賞金もついとらんのにこんな!?」
「でも、お前がやったよな?」
そうです。龍驤がやりました。レスバに負ける龍驤。テーブルへ撃沈する。
他のどんな思惑も全部壊してくるのに、これだけ崩れない。
「CP9もあれだが、お前らも、なんで大将なんかに?」
しかも、青キジ。だらけきった正義を掲げる昼行灯である。
「やはり、オハラの?」
「そうなのよ!! 前の島でもわざわざ会いに来て、ごちゃごちゃごちゃごちゃ。ロビンになんの恨みがあんのよ!?」
すでに接触済みかつ、生き残ってるのか。
ナミが憤懣遣る方ないという風に、鼻息を荒げる。しかし、男連中の注目が逸れる。
視線を追うと、龍驤が不自然にそっぽを向いている。察したナミは、ゆらりと立ち上がった。
「私の目を見ろ。吐け」
捕まえた。鷲掴みだ。逃がさない。
「チャリとか腹立ったので、雷撃一本、カマしました」
目は見れなかったけど、正直に言った。
折檻だ。激しく、折檻しなければならない。この柔らかいほっぺたを揉みくちゃにするのだ。あと、首。
「余計なことすなーッ!!」
つまり、オハラなのだろう。アイスバーグさんは理解した。
不器用な一味だ。仲のいいところを見せられると凹む。
アイスバーグさんは鬱。
「ご無事で!?」
『お迎えに上がりました、アイスバーグさん』
「カク。ルッチ」
メリーへ飛び込んで来た二人は、目の前の光景に絶句した。
美少女が美少女を締め上げている。泡を吹いている。
聞いてた状況と違い過ぎる。
「なんじゃ?」
それは隙だった。泡を吹いたまま、その美少女は腕を伸ばした。
「CP9や」
二人は砲撃を防ぎ、続くゾロとサンジの突撃も受け止めて見せた。壊れない船内を見て、アイスバーグさんは驚き方がわからない。
「ずいぶんと厚い皮だな? やっぱ職人は違うな」
「俺様の蹴りを相殺するたぁ。生意気なウソップだ」
「違うぞ!?」
とばっちりが一人。
「なぜバレたんじゃ?」
「それ」
龍驤が指差す先を見た。妖精さんが鳩を乗りこなしている。ギョッとした。マヌケだった。
プロらしく、互いの死角を補い合っていた二人は気付かなかったのだ。お互いだけは、見ていなかった。
妖精さんは観測手龍驤のスパイガジェットとして、思う存分に遊び倒している。
ローグタウンでは、資料を意図的に紛失させるぐらいしか出来なかったものが、ずいぶんとチートにも磨きがかかった。
あの頃と、混乱具合は変わらないが。
「情報戦、下手過ぎやろが!? この状況で強攻策!? キミら本当に、諜報なん!? 情報収集は!?」
チートを生かして、海軍と政府の間に疑心暗鬼を生じさせる謀略の意味もあったのに、これではロビンの安全がヤバい。
海賊に作戦の情報が漏れたのだ。海軍と協働した途端に。疑いは、大将へ直接向かうだろう。ざまあ。
ならば、漏洩先を探すために、一時撤収するのが常道だ。そこでロビンを救出すればいい。
ウォーターセブンは龍驤の監視下だし、脱出経路も海列車のおかげでわかりやすい。簡単な作業になる。
どうせ秘密作戦。上手くやれば、政府や海軍と敵対しても、表向きは手配もかからない。麦わらが船を建造する間の安全は確保出来る。
アイスバーグさんたちの状況は変わらないが、時間は稼げるのだから、色々とやれることはあるだろう。
なんなら、キーはフランキーだとわかったので、改めて外へ出せばいい。仲間に誘うのもあり。
ロビンとダブルで政府から睨まれるかも知れないが、表向きでない注目など、今の龍驤ならいくらでもかわせる。
物理的にかわせる。新しい船と、ナミがいる。
楽勝だ。そんな算段をしていた。
それなのにこれとは、漏洩先をロビンとでも考えている節がある。そんなの、お前らがマヌケなだけじゃん。
実際、正しいので龍驤もマヌケだが。
しかも、ロビンに聞いても確証を得られないから、こっちへ確かめに来た。恥の上塗りもほどほどにしろよ。
「なにしに来たん、キミら!?」
「バレるはずではなかったがのう」
「アイスバーグを確保して、闇に消えるはずだったが」
「略取誘拐は強攻策です!!」
常識が違う。違い過ぎる。どんだけ横暴なんだ、世界政府。
イギリスどころか、アメリカより酷い。
「なにしてきたん、貴様ら? どんだけ人を踏みにじってきたら、そんな考えになれるん?」
兵力を用意出来ない島国。歴史のない大陸。世界政府とは、それらのハイブリッドである。
弱者から成り上がった、外道鬼畜の類である。
強者を相手に、情報戦という名の謀略で勝ち上がってきた、ただのチート野郎だ。
だから、自分がやられたときの対処法を知らない。
「さあな。流した血の量など、覚えていない」
「データと教訓は残して学べ。だからアホのままやねん」
麦わらの一味は、龍驤の航海日誌を振り返る。リビングだから、安置してある。
あれを学ぶのかと思うと、どんよりする。
「勉強は嫌いだ」
「うん、仕方ねえ。仕方ねえよ」
「一緒にするな!!」
「一緒だわ、ボケ!!」
どちらにも失礼。ちなみに、口喧嘩しながら、ゾロとサンジとやりあっている。ルフィとウソップは、面倒くさい雰囲気を察して、サボっている。チョッパーとナミは、アイスバーグさんを護衛している。
「ルフィ、フランキーと友達になれるか?」
「さあな? でも、悪いやつじゃなかった」
「パンチの打ち方は知っとるな?」
「ああ。ピストルより強いんだ」
ガンと拳をぶつける。
「足止めしとけ!! アイスバーグさん!!」
「エアドア」
龍驤が近づいた途端、空気が開いた。長い手が二人に延びる。
「チッ」
龍驤がアイスバーグさんを蹴った。手の中には、龍驤だけが残った。視界に広がる光景へ、アイスバーグさんはたまらず叫んだ。
「酒場の……ッ!! ブルーノ、お前もか!?」
「カク!! 引くぞ!!」
「まったく、上手くいかんわい」
ルッチの姿が、巨大な豹人間に変わった。
「悪魔の実か!?」
「鉄塊、空木!!」
その姿で一時的にゾロとサンジの二人を止めると、なんらかのカウンターで吹き飛ばした。
三人の男が、狭い船内で宙を飛んだのだ。気がつけば、CP9はいなかった。龍驤もだ。
「どうする?」
「助けるのか?」
「ロビンちゃんの手がかりが!?」
みんなで船長を見ると、ルフィは歩き出した。
「どこ行くんだ?」
「フランキーってやつに会う」
「話、聞いてた?」
今、いないってば。
ロビンは大人しくしていた。妖精さんがいるので、寂しくはなかった。そこに龍驤が来た。
ロビンとは違って、海楼石の錠を掛けられていた。
妖精さんが消えた。言いたいことはあったが、黙っていた。
「邪魔をしてくれる……!!」
鼻の長い若者が、イライラとテーブルについた。龍驤はロビンの隣に連れられた。ロビンは見つめたが、龍驤は視線を合わさなかった。
「計画は変更だ。貴様も拘束させてもらう」
ロビンの前に、三人が立った。若者を、微妙に視界から隠している。いくつか手順を検討してみたが、無駄だと結論が出た。
「約束が違うようね?」
「諦めろ、ロビン。卑怯でもズルいんでもなく、こいつら実力が足らん」
龍驤が吹き飛んだ。動きが見えなかった。殴ったのは、パーマの男。リーダー格らしい。会うのは初めてだ。
龍驤は殴られたことなどなかったかのように、這いつくばって講釈を垂れる。
「実力のない、信用に値せんやつと交渉すればこうなる。よく覚えとき」
「ええ、そうするわ」
ロビンは笑った。どこか無邪気に。心のメモ帳へ、しっかりと出来事を刻みながら。
龍驤は掴み上げられ、再びロビンの隣に置かれた。
「残念だが正論だ。信頼はこれから、積み上げていくとしよう」
「暴力でかな? 高い、志やなあ」
「あなた、М?」
「そういうこと、聞かんでくれる?」
ルッチは笑わなかったが、カクが笑った。
「舐められとるのう。ま、それも道理か」
「こちらのお嬢さんは、拷問も意味ないでしょう。眉一つ動かさず、指を落としたわ。痛覚がないんじゃない?」
あります。
「わかっている。ニコ・ロビンを使えばいい。仲間の悲鳴を聞けば、知っていることを話すだろう」
「なに聞きたいん? まだ、事態を把握しきれとらんのやけど?」
少し、時間が止まった。アイスバーグさんからブルーノと呼ばれた大男が、呆れ果てていた。
「信用するしない以前に、どう理解していいのか」
計画がおじゃんになった。情報が漏れたからだ。正体が露見したのは、ついででしかない。もともと、その危険性はあった。
なのに、漏洩先が情報を知らないと言い出した。わかってもいないのに、混乱を引き起こしたと。バラしちゃったあとで、正体なんて知らなかったのだと。
言い訳にしても酷い。
実は簡単な仕掛けだ。間違った前提に、どいつもこいつも巻き込むだけ。妨害が目的なら、それこそが最適解。
偏向とレッテル貼りだ。無関係だったはずのロビンを巻き込んだせいで、CP9は一気に道を外された。
だが、この期に及んで、四人は間違いを認めない。
「ロビンに漏らした話は聞いた。妖精さん使って。青キジがちょっかい出したんやて? で、ここでなんかしとったんに組み込んだと?」
「その通りだ」
「ロビンちゃあ、古代兵器やが、どう関係するのか。あんまりよくわからんけど、キーマンはフランキーやな。アイスバーグさんの兄弟かなんか?」
どうしよう。聞こうとしたことを聞かれた。
「共通の友人が、ココロさんや。知っとるか? 身元は?」
ロビンが笑いをこらえている。必死に押し殺している。
殺せずに、龍驤へ顔を押しつけた。
CP9は、どうしていいかわからない。
「どうした? さっさと調べよ。裏を取れ。身を隠さないかんキミらは、ガレーラとフランキー一家、そんで麦わらの一味に、人手と機動力で敵わん。一手遅れるのは必定や。なら、先回りせな」
「なにが目的だ?」
龍驤は心底、バカにした表情で答えた。
「ウォーターセブンに来た海賊が、船以外のなにを目的にする? キミら邪魔なんや。はよ出てけるようにしたるから、協力させよ」
「終われば、貴様に用はない」
「本当に? 麦わらの一味については? 調べんでも大丈夫か? 妖精さんなんてもんをホンマに信用して、海軍から漏洩した可能性を無視する? オイオイ、素人かキミら?」
ルッチが舌打ちした。そのくせ、真面目くさって言った。
「脅しは通じないようだ」
「観光客に見えるかもわからんが、海賊ですから」
「どこまでもバカにして」
麦わらが海賊と知りながら、その情報を欠片も活用せずに、無駄な脅しを行う。
言い訳にしても酷い。二重に恥だ。ルッチは顔真っ赤。龍驤はすまし顔。皮の厚さが違う。
プライドの高い男だ。別に論破とかしてないんだが。
逆説的にだが、龍驤と対峙するには、話を聞かないバカでないと。
日本に勝てたのは、アメリカだけだ。イギリスですら敗北した。
つまり、どっちもバカだった。
「つーか、古代兵器に関わる情報を求めとるって前提は正しいん? 違うなら違うって、言ってもらわんと」
「言うわけないだろう」
「それよ。諜報員でありながら、敵とコミュニケーションを取らん。情報収集やなく、隠蔽や抹消を任務としてきた証拠や。なんでそんな素人が、潜入なんぞ?」
「心外だな?」
龍驤は話しかけておきながら、無視。
「となれば、メインの任務は暗殺や。内容のわかっとる情報の捜索なんぞついでか。古代兵器のウェイトは大きくないな」
普通の諜報員はドンパチなどしないが、なにかを探せと言われて、地の果てまで飛ばされるブラックな稼業だ。
内容などわからないし、誰を調べるのかから調べて、ゴミみたいな情報を拾う。
その意味で、CP9は軍人さんがやるような簡単な仕事をしている。もちろん、テロや冷戦を経た、龍驤の世界基準で。
世界大戦ならこっちでも800年前に経験しているはずだから、たぶん、互角だと思う。
無能なだけだ。龍驤のチートじゃない。
「世界が滅ぶ代物だぞ?」
「すでに滅んどるし、さらに滅ぼすつもりや。マリージョア以外な。つまり、暗殺のトリガーはアイスバーグさんとロビンの接触か。青キジは政府寄りの人物? なあ、これ、特殊任務?」
「だから、」
ブルーノが苛立たしげに否定しようとしたが、龍驤に止められた。
「結構。理解した。しかし、五老星か。大将とは、あまり縁がないように思えるが」
CP9は、互いに顔を見合わせた。
表情から意図を暴く術なら把握しているが。
「見聞色か? それにしては」
「これ以上、喋らせるな」
「空気読みは、我が民族の誇り」
そうでもないだろう。そうじゃないはずだ。頼むからドヤ顔をするな。ロビンが瀕死。
龍驤は、すでにいくつも前提を決めつけ、隠し、本質を誤魔化している。そうすることで情報を引き出し、分析し、操作している。
誰が、なにを、どのタイミングで知ったのか、詳細に時系列で追っていかないと、龍驤の矛盾や推測には気づけない。
そもそも、龍驤がなにも知らないという、どう考えても間違った前提に立たないと、正しくない。
もし、漏洩した情報を捜査しようとしたら、とてつもない手間になるだろう。知っているはずのないことを知っていることになって、龍驤もヤバいが青キジがヤバい。
めっちゃ冤罪がかかる。
そんな事情が、なんとなく察せられて来た。
当然、この場にいる人間にも疑いはかかる。海軍は青キジを守るために、全力で抵抗してくるだろう。
今の会話も、槍玉に上がるはずだ。ブルーノが青くなる。
「迂闊だったな」
「一番はキミやん。他人事の顔をするな」
「俺が、どんなミスをしたと言うんだ?」
全部がミスだと思うが、異世界人なんてものに関わった以上、仕方がないとも言える。
非常識な事態に非常識な手段で対抗出来るのは、本当に優秀な人間だけだ。普通ではない。
しかし、そうではないのだ。
「キミら、アイスバーグさんを尾行しとる?」
「尾行? 監視はしています」
カリファがドヤるが、龍驤はため息だ。
「関係性が失われとるから、俎上に上がらん。間違いなく、フランキーとアイスバーグさんは過去に接触して、関係性を再構築しとる」
「あっ」
「それさえ把握しときゃ、終わった仕事やん、これ」
「……四年前じゃな」
「素人が。ホンマにド素人が」
「ウッフフ。アハハハ!!」
CP9はなにも反論出来ずに、ロビンに笑われ続けた。