龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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インタビューウィズフリートガール

 CP9は途方に暮れていた。

 龍驤がいなくなると、自分たちがいかに不合理な行動をしていたかわかる。

 そもそも、麦わらの船を襲ったのは、ニコ・ロビンが裏切ったと思ったからだった。

 協力関係など崩れたはずだ。

 それなのに、不可思議な言動に惑わされ、言われた通りカティ・フラムの確保に走った。

 情報の真偽も確かめずにだ。

 実際、フランキーがカティ・フラムであることの証明は、CP9長官のスパンダムにしか出来ない。証拠がなく、龍驤の推測でしかないからだ。

 それを、わざわざ正体を表して犯罪者として連行しようなどと。

 どうしてそれが正しいと思ったのかわからない。

 とりあえず、身につけたあらゆる技術が役に立たない状況だ。使おうとすると、さらに状況が悪化するというか。

 なにより一番大事な、CP9という立場がなんともならない。

 別に、世界政府は理不尽な統治者ではないのだ。それがなんであれ、振りかざすのは常に正義である。

 ならばこの職人の島で、アイスバーグさん以上の正義はない。

「手伝う」

 パウリーがルッチへ話しかけた。三人は目を見開いた。

「海列車を起こすんだろ? 俺がロープをかける」

「なんのつもりだ?」

「なんのつもりもなにも」

 パウリーはどこから、という量のロープを繰り出し、準備を始める。

「さあな、自分でもわからねえ」

 目の前で妖精さんにいいようにされた友達とか。

 向き合い方がわからない。

「話が聞きたいんじゃったの?」

「言えねえことがあんのもわかる。答えるかは、好きにしろよ」

 パウリーのロープ捌きは、魔法のようだった。あっという間に、客車の一台を縛りあげる。

「ほら、さっさとしろ」

 紐の先端を差し出され、ルッチは黙っていた。受け取るまで、それほど時間はかからなかった。

「助かる」

 龍驤の小難しい話は、住民が敵になった事実を述べている。ガレーラ、フランキー一家、そして麦わらの一味。

 それらが住民と連携を取りながら、CP9を襲う。どうなるかは、わかりきっている。ルッチもカクもカリファも、この島に住んでいたのだ。居場所などなくなる。総出で邪魔される。

 麦わらの一味が、本来陥るべき状況だ。

 敵地を少人数で突破するとか、映画化待ったなしの大スペクタルになる。

 ワクワクするが、それをやらないために龍驤が頑張っている。

 CP9にしたところで、そんな龍驤を無視して無茶をする理由もない。

 とにかく、幽霊組織の面目を保つべく、ただのCPとしてこの島を出なければ。

「やめるのか?」

「そうだ」

「出てくんだな?」

「ああ」

「アイスバーグさんも、殺すつもりだったか?」

「必要なら」

「ッ!? そうか」

 車両を引っ張るのに、パウリーの力などいらなかった。カクとルッチだけで、簡単に客車は持ち上がった。

 パウリーは驚きながら、葉巻を噛み締めた。

「ずっと、騙してたんだな」

「仕事の手は抜いていない」

「テメェで喋れんじゃねえか!!」

 鳩が驚いて飛んだ。

 それについては、まあ。

 バカにしていたというより、ルッチさんは潜入が下手なんだろう。自然な表情や演技が出来ないので、腹話術のフィルターを通していたとか、そんなん。

 ルッチさんはこの状況でも、愛想よく出来ない。かと言って、こんなときも愛嬌を見せるカクは、人の心がない。

 ノウハウがないからだ。騙すか、消すことしかしてこなかったために、敵と味方の中間がわからない。

 それ、スパイって言うんだけど。

 結局、パウリーに見せていたキャラクターはそれぞれの地でしかなかった。任務には、仕事には冷酷になれたとて、自分をやめたりはしていない。

 可愛い。

 またたく間に、残るは機関車だけになった。

「浸水しとるんかのう? 点検だけでも手間じゃぞ、これ」

「波も越えていく船だ。よほどフレームに歪みがなければ、機関部に問題はないだろう」

「道具はあんのか?」

 パウリーに貸してもらった。艤装職人なだけに、機関車はパウリーが中心になった。

「頑丈な船だ」

「外輪はいくつか、交換が必要じゃのう」

「あとで届けるよ」

「いいのか?」

「いいも悪いも。一番ドックだの駅舎だのを崩壊させるようなやつらが、この島でドンパチやろうってんだろ?」

「まあ、そうなるな」

 フランキーの一撃で、タンカーサイズが連なって停泊する巨大なブルーステーションが、無惨な姿に変わっている。

「だから、俺たちは消える」

 パウリーを消してしまえればよかったが、妖精さんがカバディしている。待ち受けている。

 改めて、なにを約束させられたのか、微妙によくわからない。

 パウリーには、CP9を邪魔する理由がない。それでは感情に流され過ぎている。

 ただ、夢を一つ、諦めるだけでいい。

 世界最高峰の職人が三人もいた。海列車を造るために、腕を磨いてきた三人だった。手際よく、無言のうちに作業は進む。

「世界政府にとっちゃ、俺たちなんて羽虫みたいなもんかも知れないけどよ」

 これまではプライベートだ。船を扱う以上、それは仕事になる。社会人が顔を出す。

 だから、言うべきことを言う。

「羽虫にも意地がある」

 あちこちを打検し、緩みや歪みを見逃さない。向き合うのは内面ではなく、人ではなく、船になる。

「俺たちを敵に回すなよ」

 当然、ルッチたちは愚かではない。頷いた。互いに、顔も向けていないのに、それで通じた。

 最後の最後。人間としての名残りで、パウリーは言った。

「テメェら首だからな。後悔すんなよ」

「こんな島にゃ、情の一つもねえ」

 ルッチが吐き捨てる。

 不器用な男たちは、こうしてこの関係にケジメをつけた。

 龍驤がいれば嬉々として翻訳したが、ここにはいない。

「殺し屋は潰しがきかんというに」

 カクは笑っていた。ルッチは仏頂面だ。

 カリファはそれを眺めて、眼鏡をクイクイさせていた。

「こみ上げるこの感覚はなんでしょう?」

「ねえ、あれ。龍驤の言ってた、あなたたちの増援じゃない?」

 感傷に浸る暇もなく、次なる混乱が、綺麗なフォームで走ってくる。

 

 

「最悪、この島に青キジがおる」

「なにを言っとるんだ貴様は」

 残念なことに、龍驤の監視を任されたブルーノは、早速ネタバレという災厄に見舞われていた。

「バスターコールを止めるためや。ロビンを殺してな」

 そもそも大前提として、ロビンとCP9の交渉は成り立たない。

 当たり前だ。

 ロビンに協力させ、麦わらに罪を着せたとして、世界政府が差し出せるのは、バスターコールをするかしないかだけ。

 ロビンは捕まる。麦わらは手配されて、逃げ場もないまま、船を失う。なんの取り引きにもなっていない。

 どうして、これが通用すると思ったのだろう。クロコダイルですら、カジノで遊ばせてくれた。アーロンは茶も出さなかったが、果物は置いてくれた。

 なんか寄越せや。交渉のとっかかりすらないわ。

 政府に従うのが、当然だと思い込んでいるからだ。

 そんなん、逃げたらええやん。船はないけども。

 ロビンが逃げれば、任務は失敗だ。バスターコールが発動。全部、おしまい。

 なんにせよ、アイスバーグさんの手に設計図はないのだ。どれだけ頑張って職人の腕を磨いても、なにをしても無駄。徒労である。

 ざまあ。

「この状況はそもそも、ウチがロビンにお願いして作り出した」

 というか、青キジは失敗させるつもりなのだと思う。

 こんな任務どうだっていいから、ロビンを捕まえるつもりなのだ。

 クロを評価するのは、組織を引き継いだからだ。裏切らない部下に、運営を任せるというのは、まあスゴイ。

 CP9はそこに食い込んで、ガレーラを侵食した。

 クリークがスゴイのは、食い物は補給出来ないくせに、武器は用意していたことだ。略奪軍の典型である。

 ガレーラにダメージを与えて、古代兵器の設計図だけ手に入れて、どこでどうやって造る。造ったとして、一隻か。

 バカなんだ、この任務。

 だから、ルッチさん焦ってんだよね。それでもちゃんとやるの、本当に偉いと思う。

 ところが、事態はもっと深刻だ。

 以前までのロビンなら逃げた。そうでないと生き延びられない人生だった。

 ロビンがいなければ、バスターコールは脅しですむ可能性もある。罪のない麦わらは、ただの観光客だからだ。

 バスターコールの危険から一味を遠ざけ、船を手に入れる機会を残し、ロビンの身の安全を図るならそうする他ない。

 他にないということは、自由がないということだ。誘導されている。

 青キジはそこを狙う算段だったと思われる。CPという狗に追わせ、海列車という限られた逃げ道へロビンを追い詰める。

 選択肢を絞る手際は流石だと思うが、甘い。

「問題は、うちの一味に常識がないことや」

「当たり前じゃないか?」

 まあ、海賊ってそうだよね。でも、そんなレベルと違う。

「まるで、異世界やぞ。ウチは異世界人やけど」

 異世界人から異世界と呼ばれる非常識。異世界へ来たのに、出会ったやつが異世界に生きていた。転生したのは、一体誰なのか。龍驤の混乱は、常に極まっている。

 ロビンが逃げた海列車で待ち受けているのは、政府の追手と麦わらであることは間違いない。

 ブルーノは目眩がした。さっきのブルーステーションが、まだ大人しい。

 味方を囮にしてまで逃げる凶悪犯。その逃走経路を見抜く海賊と海兵。かち合う二つの勢力。

 地獄だ。

 逃げ場をなくして、ロビンを始末しようとしたら、ロビンがどうやっても逃げられなかった。

 バスターコールじゃなくて、麦わらから。

 なんでその場に、大将がいるの。しかも、たかが8000万の賞金首のために。そんなわけがないと思うじゃない。

 でも、いないのだ。どれだけ偵察しても、ロビンの逃げ道を塞ぐ、仕上げの戦力が。

 なんなら、捕まえたあとで、援軍送るとか言ってた。

 ニコ・ロビンですよ。

 クロコダイルのビジネスパートナーを務めた女だ。

 逆に大将ぐらいいないと舐め過ぎだが、本当に大将が来てどうする。

「部下が、おらんのやなかろうか?」

「大将が?」

「大将なのに」

 そんなことあるのだろうか。ボッチかよ、海軍大将。

 世界政府の極秘作戦に介入するし、あまりにも謎が過ぎる。指揮系統の違う、まったく別の組織ですよ。

 横紙破りとか、軍人だった龍驤は想像もしたくない。

 よほど大きな権力を行使したと思われる。まさか五老星の意図がって、疑うじゃない。

 むしろ、海兵を使えないんじゃないかとか、色々考えるわけだ。バスターコール本来の使い方である、人狩りとかさ。

 ロビンは美人だから。

「バスターコールの発動は、絶対にアカン。ウォーターセブンの壊滅は、造船能力の著しい低下、職人の喪失による長期化、海列車の空洞化、その他諸々を引き起こす。大将こそが、後詰めでおるべきとも言える」

 それぐらい慎重にやっていい。また、被害を抑えるならば、下手な人手は邪魔ですらある。最高戦力で圧倒する。

 個人である。非常識な。

「我々が任務をしくじることはない」

「アイスバーグさんも尾行出来んくせに、ニコ・ロビンを追えるやて? 笑える冗談や」

 現状を考えたら、いい度胸である。

 単純に、人手が足らないと思うんだよね。どんな超人も、身体が二つないと二重生活は送れない。

 せめて、潜入先が職長とか秘書でなかったら。ちなみに、中央街で職人御用達の酒場を、ワンオペで経営するブルーノは、メンバーで一番忙しい。

 舐めんなよ、工場勤務と飲食業界。

 本当に、バカしかいない。

 で、まあ、追いつめられたことは、ロビンも気づく。麦わらからすら、逃げられないことも。

 そして、青キジや海軍の意図はともかく、世界政府ならバスターコールをやりかねないと思うはずだ。

 麦わらを囮に、島一つを滅ぼして、それでもロビンはオハラを完遂するだろうか。

 しない。

 ロビンはとっくに絶望し、歴史を諦めている。その代替を、仲間に求めている。

 ロビンがなんか幼いのは、愛されるために慎ましいよい子を演じているからだ。言ってみれば、借りてきた猫の状態だ。

 これですら、散々甘やかしてやっとだった。空島で新しいポーネグリフも見つけて、これからだったのに、この野郎。

 ロビンはCP9に、身を任せかねない。

 本当に見事だ。見事であるだけに、非常識とは言っても、まだわかる範囲だ。人の心がないぐらいで。

「海賊を恐れず、世界政府や海軍が技術を頼るほどの島。物流、経済の中心。ウォーターセブンは重要やが、独立しとって厄介や。微妙に統制下にない。アイスバーグさんを始末すりゃ、ガレーラは分裂。都合よく、統治しやすくなる。海軍に頼るなら、海列車の喪失も許容範囲。ウチはこの陰謀、そこまで考えた」

 要は、暫定統治者に大将を据える。CP9が青キジの協力者ではなく、政府の協力者が青キジというパターンだ。それなら、横紙破りにはならない。

「古代兵器の設計図を抜きに、か」

「やはり、考えとらんわけやな?」

「長官の視野は狭い」

 ブルーノさん、辛辣。

 ルッチのように、暗殺者のロマンの中で生きていない。より、現実を見ている。

 政府の工作員なんて、命どころか、人生を犠牲にする職業なのだ。なのに、なんであのひと自己実現を目指してんだろ。

 船大工になれよ、じゃあ。パウリーだけが、ルッチを思っている。

 ただ、このままでは、それすら難しい。

 古代兵器に、ウォーターセブンと引き換えにするほどの価値などない。大事だと言うなら、赤ん坊だったエースぐらい真剣に探せよ、バカが。

 ウォーターセブンを影響下に置く算段もしないで、アイスバーグさんを始末するつもりだった。

「クロコダイルが、あの新聞報道を、なんで放置しとると思う?」

「我々の失策に便乗するつもりか!?」

「キミら関係なく、しまくっとるからな」

 はっきり言って、世界政府は世界全体の統治に失敗している。

 だから、つけ入る隙がある。クロコダイルでなくても、見逃すはずがない。加盟国やその周辺地域ほど、都合がいい。

 革命軍なんているけど、あれは非加盟国になる覚悟がいる。その点、七武海の傘下なら穏便に影響下から抜けられる。

 海軍も手を出せない。

 そういうことを考えないのか。バカめ。

「でな? 今、海軍本部周辺の通信量が激増しとる。ウチはこれを、白ひげ二番隊隊長のエース捕縛のためと考えとる」

「見つかったのか?」

「それ以外考えられん」

 つまり、そっちでもバスターコール級のなにかをやっているわけだ。ならば、こちらのバスターコールは。

「うちの船長、その弟でな。これまた、複雑なあれで」

「聞いていないぞ!?」

「だから、調べろ言うたやん」

 麦わら、というか龍驤は、赤犬にケンカを売った実績がある。

 このバスターコールは、それを踏まえた後方の安全確保が目的なのか。

「艦隊を!? なるほど。貴様らを始末するか、遠ざける考えか」

 白ひげと戦争するからこそ、知らんやつが横槍しないで欲しい。そんな作戦だ。

「いや、ちゃうっぽいねん」

 ただそれだと、ロビンじゃなくて、麦わらを丸ごと標的にすればいい。

 つーか、ロビンだけ狙うからおかしなことになる。麦わらを丸ごと始末するつもりでいてくれれば、ロングリングロングランドか、ウォーターセブンの次の島、いずれかの途中で戦えた。

 誰にも迷惑はかからなかった。今さら、なんでロビンだけ切り離して、しかも大将自ら、こんな都会で、一度見逃したあとに。

 そもそも、バスターコールなくても艦隊ぐらい動かせや、バカが。

 バカでないとしたら、恐ろしい結論になる。

「ロビンが絶望して、キミらの思惑通りになったとしよう。罪を着せられて、手配された麦わらは、どうするか? ロビンを追う」

「なにを言っている?」

 船がないので、出来ないのだが、龍驤は確信を持って言う。

「ルフィなら追う。むしろ、全員一致で追う。間違いない」

「バカな」

「せやよな? そう思うよな?」

 そんなバカな海賊などいないと、言ってしまえればよかった。

 だが、龍驤の知る本物の海賊は、それをやる。

「海賊がさあ、兄弟やからって、海軍や政府にケンカを売るか? いや、ガープの孫やし、あり得ると思うかもか」

「ガープ中将の孫!?」

「喋ったらアカンで? 消されてまう」

 なぜか消されないと思うが、ブルーノは目を白黒させる。それじゃ、四皇幹部が海軍中将の孫ということに。

 とんでもないスキャンダルだ。たぶん、本人以外に激震が走る。

 なんで、当事者の被害が一番少ないの。

「いや、ちょっとわからんなった。あのバカどもを他人がどう推測するか、本気で予測出来ん。青キジって、ガープの弟子よね?」

「ガープ中将を基準に?」

 ブルーノの顔が引きつる。龍驤はやっと仲間を見つけた思いがした。一気に、ブルーノの表情に深刻さが増した。

「そやよね?」

 わからない。青キジの策がまったく読めない。

 常識が迷子過ぎた。

 出会ってきた面子が、あまりにも悪かった。中でも、クロコダイルなんていう、本物中の本物に出会ったのがマズい。

 龍驤は、最悪、アレを想定して戦う必要がある。

 さて、青キジはバスターコールまで持ち出して、なにがしたいのか。

 本当に、ロビンの命だけか。麦わらのことは、なんとも思っていないのか。政府の思惑は、どれほど反映されているのか。政治や軍事面は。

 龍驤が考えた陰謀やなんかは、考慮しているのか。

 考えない、考えない。そんなとこまで、大将と言えど考慮して作戦なんか立てない。現代戦じゃないのだ。そんな参謀が何人も必要なことはしない。

 個人戦力最高みたいな世界で、陰謀渦巻く政治闘争なんてめんどくさいものはやらない。力ずくが便利だ。

 アメリカを見ろ。あんなんだ、この世界。

 ただ、同時におつるさんがいる。なんだかんだ、800年は天竜人をフォローしてきた五老星もいる。

 ロビンを含めた麦わらを分析し、理解すれば出来る。

 エニエスロビーへ麦わらを誘引しての包囲殲滅が。

 もちろん、エニエスロビーに誘引される海賊が、楽園にいるわけがない。

 麦わらを除いて。

「いや、あり得んやろ!? 非常識を織り込んで作戦立てられるやつがいんの!? 海軍に!? スキピオか、ボケ!!」

「誰だ?」

 やめて下さい。異世界人の名前出すの。

 スキピオは頑張って勉強をして、し過ぎて、軍事史を変えた非常識に勝利しちゃった偉人である。

 常識で常識を覆した、やはり非常識だ。

 ハンニバルの個人芸だった元祖包囲殲滅陣は、スキピオ以降、誰でも狙える戦術になる。

 簡単には出来ないけどね。

 されそうではある。麦わらが。

「味方はバカやと確信を持てるが、敵をバカやと決めつけられんやん!? でも、現実ってバカげとるもんやから、マジで!!」

 やめろ、非常識。現実を侵食するな。

 合理性とかいうものは、常識を下地にしている。その常識がわからなければ、なにが合理的かわからない。

 そして、合理性を見つけないと、客観的にそれを予測出来ない。

「クザン大将は、その、そこまでか?」

 ブルーノの疑問はもっともだ。異世界人の龍驤と違って、ブルーノには常識がある。

 ところが、龍驤には根拠がある。

 実際に、非常識と出会ってきたからだ。

「甘いな。海軍には、そういう古強者もおるやろ?」

 ロジャーとかね。金獅子もそうだし。白ひげを筆頭に、四皇はまさにそう。

 海軍はそいつらと戦ってきたのだし、これから戦おうとしている。実際にそんな海軍が、なにをしているか。

 非常識どもがナワバリに引きこもっているのは、本人たちのやる気もあろうが、そうさせた戦略家がいたからに他ならない。

 だって、楽園の勢力図を見ろよ。一体、誰が突破出来るんだ。

 入り口にクロコダイルで、出口にジンベエ。鷹の目がうろついて、クマさんが縦横無尽に派遣されて、海軍本部を中心に、蛇姫とトカゲが左右を塞ぐ。

 で、大将はもちろん、海軍も気楽にお散歩する。

 はっきり言えば、海なので、まったく通れないことはない。ただ、命を大事に逃げ隠れしてきたやつらの割合が増すだけだ。

 そこに本物の海賊はいない。

 そんなんを押しつけられて、四皇のみなさんかわいそう。グラサンピンクは、そのおこぼれを拾ってるだけだな。

 たまに、エースみたいなのもいるが、拾えないでやんの。

「海賊が腑抜けたのは、海軍と七武海が身命を削って来たからや。それもわからん大将か? キミらやないんやぞ?」

 理想主義だ。そうそう、先達の苦労など理解しない。

 後輩には後輩の苦労があるからだ。

 しかし、龍驤は納得しない。

 海軍大将までがそうだと思いたくない。それでいいと思える戦略家にはなれない。

「わからん。人間は慣れる生き物やし、バカなもんやけど、海賊へ仕掛けるには、あんまりにも愚策やぞ」

 常識的に考えたら、ニコ・ロビンを確実に捕殺するための、実に見事な作戦だ。

 だが、龍驤が信じる海賊に、常識は通じない。それは海軍の常識だと、龍驤は信じている。

 非常識に考えたら、造船拠点のウォーターセブンか、エニエスロビーを真っ平らにする覚悟で、麦わらを確実に殲滅する作戦かと思う。海軍が勝つか負けるか以前の問題で、そこまで思いきれるものなのか。

 手配もされていない麦わらに、そんな価値があるのか。

 船長がガープの孫で、ドラゴンの息子で、四皇幹部の兄と革命軍幹部の兄がいるだけなのに。

 どうすんだ、これ。

 存在がバカ。

「そんな危険なのか、麦わらは?」

「だから調べろ言うたやん、バカが」

 調べたからと、どうにもならない。

 そんな非常識な評価はしてないよ。海軍を舐めるな。

 おつるさんに黙って悪巧みするような、バカの極みだぞ。

 そもそもこの世界に、常識などない。歴史のない世界では、世代ごとに自らの経験だけで常識を築く。

 それは海軍でさえ、例外ではない。

 とにかく、バカでもスキピオでも、この島から脱出しなければ、ウォーターセブンが壊滅するのは変わらない。

 青キジとの対決を避けるなら、政府関係者と一緒がいい。

 じゃないと、海列車という逃げ場のない空間で、自転車に乗った大将に襲われる可能性がある。

 だから、なんでお前いるんだよ。いなきゃ、バスターコールを龍驤が始末して、上陸してきた基幹戦力はガレーラのドックを犠牲にする形で終われたのに。

 で、その政府関係者。実はスパイじゃなくて暗殺者な上に、変な上司に使われていて、うっかり政府方針に逆らいそう。

 どうでもいい古代兵器の情報に固執した挙げ句、張り切ってしている戦争準備に水をかけて、ワニに足元をすくわれるきっかけをつくるかも知れない。

 ブルーノは思う。そんなこと言われても。だって、命令だし。

 責任とは難しい。知らなかったですまないとはよく言われるが、理不尽だ。そんなん知らねえよ。

 これは福音だ。バカげてはいるが、誰にとっても無意味な古代兵器の情報一つで、この島からロビンは脱出出来る。

 CP9となら出来るのだ。なぜか、仲間とは無理だけど。

 龍驤は非常に、繊細な舵取りを強いられている。

 一つでも筋道を違えば、ウォーターセブンが破滅する。つーか、海列車経済圏が破綻する。

 クロコダイルが強くなって、海軍が弱体化して、白ひげが勝つ可能性が高まって、エースがワンピースへ到達する。

 で、綱渡りでたどり着いた先が、エニエスロビーという。色々目を瞑って、潰してもあんまり影響はないと思う。

 そうかなあ。ブルーノは頭が痛い。

 一味の非常識さと、それを理解しない役人と、忘れてしまったかも知れない大将のせいで、龍驤は大変な苦労だ。

 空回りとも言う。ルッチさんを笑えない。

 龍驤は、こうして家出した。

「なるほど。利害は一致していると言いたいわけだな」

「常識のないバカに付き合って、バスターコールなんぞ発動させたらアカン。発動させるにしても」

「この島以外で、ということだな? わかった。協力しよう」

 世界政府に睨まれたらどうなるか。ブルーノはよく理解している。上司の意向など無視するべきだ。というか、上司の責任にしちゃおう。この島では無理だが、エニエスロビーなら可能だ。

 命令だからなど、なんの言い訳にもならない。都合の悪いものを処理してきた、ブルーノはまさに最前線の人間だ。

 自分たちが、その瀬戸際にいる。事態の深刻さは把握した。

 龍驤とブルーノは握手を交わした。

「なあ」

 それに一言、物申した人間がいる。

「そんなん聞かされて、俺はどうしたらいいんだ?」

「どうにかして?」

 たまたま通りかかって合流させられたウソップは、なんか無茶振りされた。

 

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