CP9は途方に暮れていた。
龍驤がいなくなると、自分たちがいかに不合理な行動をしていたかわかる。
そもそも、麦わらの船を襲ったのは、ニコ・ロビンが裏切ったと思ったからだった。
協力関係など崩れたはずだ。
それなのに、不可思議な言動に惑わされ、言われた通りカティ・フラムの確保に走った。
情報の真偽も確かめずにだ。
実際、フランキーがカティ・フラムであることの証明は、CP9長官のスパンダムにしか出来ない。証拠がなく、龍驤の推測でしかないからだ。
それを、わざわざ正体を表して犯罪者として連行しようなどと。
どうしてそれが正しいと思ったのかわからない。
とりあえず、身につけたあらゆる技術が役に立たない状況だ。使おうとすると、さらに状況が悪化するというか。
なにより一番大事な、CP9という立場がなんともならない。
別に、世界政府は理不尽な統治者ではないのだ。それがなんであれ、振りかざすのは常に正義である。
ならばこの職人の島で、アイスバーグさん以上の正義はない。
「手伝う」
パウリーがルッチへ話しかけた。三人は目を見開いた。
「海列車を起こすんだろ? 俺がロープをかける」
「なんのつもりだ?」
「なんのつもりもなにも」
パウリーはどこから、という量のロープを繰り出し、準備を始める。
「さあな、自分でもわからねえ」
目の前で妖精さんにいいようにされた友達とか。
向き合い方がわからない。
「話が聞きたいんじゃったの?」
「言えねえことがあんのもわかる。答えるかは、好きにしろよ」
パウリーのロープ捌きは、魔法のようだった。あっという間に、客車の一台を縛りあげる。
「ほら、さっさとしろ」
紐の先端を差し出され、ルッチは黙っていた。受け取るまで、それほど時間はかからなかった。
「助かる」
龍驤の小難しい話は、住民が敵になった事実を述べている。ガレーラ、フランキー一家、そして麦わらの一味。
それらが住民と連携を取りながら、CP9を襲う。どうなるかは、わかりきっている。ルッチもカクもカリファも、この島に住んでいたのだ。居場所などなくなる。総出で邪魔される。
麦わらの一味が、本来陥るべき状況だ。
敵地を少人数で突破するとか、映画化待ったなしの大スペクタルになる。
ワクワクするが、それをやらないために龍驤が頑張っている。
CP9にしたところで、そんな龍驤を無視して無茶をする理由もない。
とにかく、幽霊組織の面目を保つべく、ただのCPとしてこの島を出なければ。
「やめるのか?」
「そうだ」
「出てくんだな?」
「ああ」
「アイスバーグさんも、殺すつもりだったか?」
「必要なら」
「ッ!? そうか」
車両を引っ張るのに、パウリーの力などいらなかった。カクとルッチだけで、簡単に客車は持ち上がった。
パウリーは驚きながら、葉巻を噛み締めた。
「ずっと、騙してたんだな」
「仕事の手は抜いていない」
「テメェで喋れんじゃねえか!!」
鳩が驚いて飛んだ。
それについては、まあ。
バカにしていたというより、ルッチさんは潜入が下手なんだろう。自然な表情や演技が出来ないので、腹話術のフィルターを通していたとか、そんなん。
ルッチさんはこの状況でも、愛想よく出来ない。かと言って、こんなときも愛嬌を見せるカクは、人の心がない。
ノウハウがないからだ。騙すか、消すことしかしてこなかったために、敵と味方の中間がわからない。
それ、スパイって言うんだけど。
結局、パウリーに見せていたキャラクターはそれぞれの地でしかなかった。任務には、仕事には冷酷になれたとて、自分をやめたりはしていない。
可愛い。
またたく間に、残るは機関車だけになった。
「浸水しとるんかのう? 点検だけでも手間じゃぞ、これ」
「波も越えていく船だ。よほどフレームに歪みがなければ、機関部に問題はないだろう」
「道具はあんのか?」
パウリーに貸してもらった。艤装職人なだけに、機関車はパウリーが中心になった。
「頑丈な船だ」
「外輪はいくつか、交換が必要じゃのう」
「あとで届けるよ」
「いいのか?」
「いいも悪いも。一番ドックだの駅舎だのを崩壊させるようなやつらが、この島でドンパチやろうってんだろ?」
「まあ、そうなるな」
フランキーの一撃で、タンカーサイズが連なって停泊する巨大なブルーステーションが、無惨な姿に変わっている。
「だから、俺たちは消える」
パウリーを消してしまえればよかったが、妖精さんがカバディしている。待ち受けている。
改めて、なにを約束させられたのか、微妙によくわからない。
パウリーには、CP9を邪魔する理由がない。それでは感情に流され過ぎている。
ただ、夢を一つ、諦めるだけでいい。
世界最高峰の職人が三人もいた。海列車を造るために、腕を磨いてきた三人だった。手際よく、無言のうちに作業は進む。
「世界政府にとっちゃ、俺たちなんて羽虫みたいなもんかも知れないけどよ」
これまではプライベートだ。船を扱う以上、それは仕事になる。社会人が顔を出す。
だから、言うべきことを言う。
「羽虫にも意地がある」
あちこちを打検し、緩みや歪みを見逃さない。向き合うのは内面ではなく、人ではなく、船になる。
「俺たちを敵に回すなよ」
当然、ルッチたちは愚かではない。頷いた。互いに、顔も向けていないのに、それで通じた。
最後の最後。人間としての名残りで、パウリーは言った。
「テメェら首だからな。後悔すんなよ」
「こんな島にゃ、情の一つもねえ」
ルッチが吐き捨てる。
不器用な男たちは、こうしてこの関係にケジメをつけた。
龍驤がいれば嬉々として翻訳したが、ここにはいない。
「殺し屋は潰しがきかんというに」
カクは笑っていた。ルッチは仏頂面だ。
カリファはそれを眺めて、眼鏡をクイクイさせていた。
「こみ上げるこの感覚はなんでしょう?」
「ねえ、あれ。龍驤の言ってた、あなたたちの増援じゃない?」
感傷に浸る暇もなく、次なる混乱が、綺麗なフォームで走ってくる。
「最悪、この島に青キジがおる」
「なにを言っとるんだ貴様は」
残念なことに、龍驤の監視を任されたブルーノは、早速ネタバレという災厄に見舞われていた。
「バスターコールを止めるためや。ロビンを殺してな」
そもそも大前提として、ロビンとCP9の交渉は成り立たない。
当たり前だ。
ロビンに協力させ、麦わらに罪を着せたとして、世界政府が差し出せるのは、バスターコールをするかしないかだけ。
ロビンは捕まる。麦わらは手配されて、逃げ場もないまま、船を失う。なんの取り引きにもなっていない。
どうして、これが通用すると思ったのだろう。クロコダイルですら、カジノで遊ばせてくれた。アーロンは茶も出さなかったが、果物は置いてくれた。
なんか寄越せや。交渉のとっかかりすらないわ。
政府に従うのが、当然だと思い込んでいるからだ。
そんなん、逃げたらええやん。船はないけども。
ロビンが逃げれば、任務は失敗だ。バスターコールが発動。全部、おしまい。
なんにせよ、アイスバーグさんの手に設計図はないのだ。どれだけ頑張って職人の腕を磨いても、なにをしても無駄。徒労である。
ざまあ。
「この状況はそもそも、ウチがロビンにお願いして作り出した」
というか、青キジは失敗させるつもりなのだと思う。
こんな任務どうだっていいから、ロビンを捕まえるつもりなのだ。
クロを評価するのは、組織を引き継いだからだ。裏切らない部下に、運営を任せるというのは、まあスゴイ。
CP9はそこに食い込んで、ガレーラを侵食した。
クリークがスゴイのは、食い物は補給出来ないくせに、武器は用意していたことだ。略奪軍の典型である。
ガレーラにダメージを与えて、古代兵器の設計図だけ手に入れて、どこでどうやって造る。造ったとして、一隻か。
バカなんだ、この任務。
だから、ルッチさん焦ってんだよね。それでもちゃんとやるの、本当に偉いと思う。
ところが、事態はもっと深刻だ。
以前までのロビンなら逃げた。そうでないと生き延びられない人生だった。
ロビンがいなければ、バスターコールは脅しですむ可能性もある。罪のない麦わらは、ただの観光客だからだ。
バスターコールの危険から一味を遠ざけ、船を手に入れる機会を残し、ロビンの身の安全を図るならそうする他ない。
他にないということは、自由がないということだ。誘導されている。
青キジはそこを狙う算段だったと思われる。CPという狗に追わせ、海列車という限られた逃げ道へロビンを追い詰める。
選択肢を絞る手際は流石だと思うが、甘い。
「問題は、うちの一味に常識がないことや」
「当たり前じゃないか?」
まあ、海賊ってそうだよね。でも、そんなレベルと違う。
「まるで、異世界やぞ。ウチは異世界人やけど」
異世界人から異世界と呼ばれる非常識。異世界へ来たのに、出会ったやつが異世界に生きていた。転生したのは、一体誰なのか。龍驤の混乱は、常に極まっている。
ロビンが逃げた海列車で待ち受けているのは、政府の追手と麦わらであることは間違いない。
ブルーノは目眩がした。さっきのブルーステーションが、まだ大人しい。
味方を囮にしてまで逃げる凶悪犯。その逃走経路を見抜く海賊と海兵。かち合う二つの勢力。
地獄だ。
逃げ場をなくして、ロビンを始末しようとしたら、ロビンがどうやっても逃げられなかった。
バスターコールじゃなくて、麦わらから。
なんでその場に、大将がいるの。しかも、たかが8000万の賞金首のために。そんなわけがないと思うじゃない。
でも、いないのだ。どれだけ偵察しても、ロビンの逃げ道を塞ぐ、仕上げの戦力が。
なんなら、捕まえたあとで、援軍送るとか言ってた。
ニコ・ロビンですよ。
クロコダイルのビジネスパートナーを務めた女だ。
逆に大将ぐらいいないと舐め過ぎだが、本当に大将が来てどうする。
「部下が、おらんのやなかろうか?」
「大将が?」
「大将なのに」
そんなことあるのだろうか。ボッチかよ、海軍大将。
世界政府の極秘作戦に介入するし、あまりにも謎が過ぎる。指揮系統の違う、まったく別の組織ですよ。
横紙破りとか、軍人だった龍驤は想像もしたくない。
よほど大きな権力を行使したと思われる。まさか五老星の意図がって、疑うじゃない。
むしろ、海兵を使えないんじゃないかとか、色々考えるわけだ。バスターコール本来の使い方である、人狩りとかさ。
ロビンは美人だから。
「バスターコールの発動は、絶対にアカン。ウォーターセブンの壊滅は、造船能力の著しい低下、職人の喪失による長期化、海列車の空洞化、その他諸々を引き起こす。大将こそが、後詰めでおるべきとも言える」
それぐらい慎重にやっていい。また、被害を抑えるならば、下手な人手は邪魔ですらある。最高戦力で圧倒する。
個人である。非常識な。
「我々が任務をしくじることはない」
「アイスバーグさんも尾行出来んくせに、ニコ・ロビンを追えるやて? 笑える冗談や」
現状を考えたら、いい度胸である。
単純に、人手が足らないと思うんだよね。どんな超人も、身体が二つないと二重生活は送れない。
せめて、潜入先が職長とか秘書でなかったら。ちなみに、中央街で職人御用達の酒場を、ワンオペで経営するブルーノは、メンバーで一番忙しい。
舐めんなよ、工場勤務と飲食業界。
本当に、バカしかいない。
で、まあ、追いつめられたことは、ロビンも気づく。麦わらからすら、逃げられないことも。
そして、青キジや海軍の意図はともかく、世界政府ならバスターコールをやりかねないと思うはずだ。
麦わらを囮に、島一つを滅ぼして、それでもロビンはオハラを完遂するだろうか。
しない。
ロビンはとっくに絶望し、歴史を諦めている。その代替を、仲間に求めている。
ロビンがなんか幼いのは、愛されるために慎ましいよい子を演じているからだ。言ってみれば、借りてきた猫の状態だ。
これですら、散々甘やかしてやっとだった。空島で新しいポーネグリフも見つけて、これからだったのに、この野郎。
ロビンはCP9に、身を任せかねない。
本当に見事だ。見事であるだけに、非常識とは言っても、まだわかる範囲だ。人の心がないぐらいで。
「海賊を恐れず、世界政府や海軍が技術を頼るほどの島。物流、経済の中心。ウォーターセブンは重要やが、独立しとって厄介や。微妙に統制下にない。アイスバーグさんを始末すりゃ、ガレーラは分裂。都合よく、統治しやすくなる。海軍に頼るなら、海列車の喪失も許容範囲。ウチはこの陰謀、そこまで考えた」
要は、暫定統治者に大将を据える。CP9が青キジの協力者ではなく、政府の協力者が青キジというパターンだ。それなら、横紙破りにはならない。
「古代兵器の設計図を抜きに、か」
「やはり、考えとらんわけやな?」
「長官の視野は狭い」
ブルーノさん、辛辣。
ルッチのように、暗殺者のロマンの中で生きていない。より、現実を見ている。
政府の工作員なんて、命どころか、人生を犠牲にする職業なのだ。なのに、なんであのひと自己実現を目指してんだろ。
船大工になれよ、じゃあ。パウリーだけが、ルッチを思っている。
ただ、このままでは、それすら難しい。
古代兵器に、ウォーターセブンと引き換えにするほどの価値などない。大事だと言うなら、赤ん坊だったエースぐらい真剣に探せよ、バカが。
ウォーターセブンを影響下に置く算段もしないで、アイスバーグさんを始末するつもりだった。
「クロコダイルが、あの新聞報道を、なんで放置しとると思う?」
「我々の失策に便乗するつもりか!?」
「キミら関係なく、しまくっとるからな」
はっきり言って、世界政府は世界全体の統治に失敗している。
だから、つけ入る隙がある。クロコダイルでなくても、見逃すはずがない。加盟国やその周辺地域ほど、都合がいい。
革命軍なんているけど、あれは非加盟国になる覚悟がいる。その点、七武海の傘下なら穏便に影響下から抜けられる。
海軍も手を出せない。
そういうことを考えないのか。バカめ。
「でな? 今、海軍本部周辺の通信量が激増しとる。ウチはこれを、白ひげ二番隊隊長のエース捕縛のためと考えとる」
「見つかったのか?」
「それ以外考えられん」
つまり、そっちでもバスターコール級のなにかをやっているわけだ。ならば、こちらのバスターコールは。
「うちの船長、その弟でな。これまた、複雑なあれで」
「聞いていないぞ!?」
「だから、調べろ言うたやん」
麦わら、というか龍驤は、赤犬にケンカを売った実績がある。
このバスターコールは、それを踏まえた後方の安全確保が目的なのか。
「艦隊を!? なるほど。貴様らを始末するか、遠ざける考えか」
白ひげと戦争するからこそ、知らんやつが横槍しないで欲しい。そんな作戦だ。
「いや、ちゃうっぽいねん」
ただそれだと、ロビンじゃなくて、麦わらを丸ごと標的にすればいい。
つーか、ロビンだけ狙うからおかしなことになる。麦わらを丸ごと始末するつもりでいてくれれば、ロングリングロングランドか、ウォーターセブンの次の島、いずれかの途中で戦えた。
誰にも迷惑はかからなかった。今さら、なんでロビンだけ切り離して、しかも大将自ら、こんな都会で、一度見逃したあとに。
そもそも、バスターコールなくても艦隊ぐらい動かせや、バカが。
バカでないとしたら、恐ろしい結論になる。
「ロビンが絶望して、キミらの思惑通りになったとしよう。罪を着せられて、手配された麦わらは、どうするか? ロビンを追う」
「なにを言っている?」
船がないので、出来ないのだが、龍驤は確信を持って言う。
「ルフィなら追う。むしろ、全員一致で追う。間違いない」
「バカな」
「せやよな? そう思うよな?」
そんなバカな海賊などいないと、言ってしまえればよかった。
だが、龍驤の知る本物の海賊は、それをやる。
「海賊がさあ、兄弟やからって、海軍や政府にケンカを売るか? いや、ガープの孫やし、あり得ると思うかもか」
「ガープ中将の孫!?」
「喋ったらアカンで? 消されてまう」
なぜか消されないと思うが、ブルーノは目を白黒させる。それじゃ、四皇幹部が海軍中将の孫ということに。
とんでもないスキャンダルだ。たぶん、本人以外に激震が走る。
なんで、当事者の被害が一番少ないの。
「いや、ちょっとわからんなった。あのバカどもを他人がどう推測するか、本気で予測出来ん。青キジって、ガープの弟子よね?」
「ガープ中将を基準に?」
ブルーノの顔が引きつる。龍驤はやっと仲間を見つけた思いがした。一気に、ブルーノの表情に深刻さが増した。
「そやよね?」
わからない。青キジの策がまったく読めない。
常識が迷子過ぎた。
出会ってきた面子が、あまりにも悪かった。中でも、クロコダイルなんていう、本物中の本物に出会ったのがマズい。
龍驤は、最悪、アレを想定して戦う必要がある。
さて、青キジはバスターコールまで持ち出して、なにがしたいのか。
本当に、ロビンの命だけか。麦わらのことは、なんとも思っていないのか。政府の思惑は、どれほど反映されているのか。政治や軍事面は。
龍驤が考えた陰謀やなんかは、考慮しているのか。
考えない、考えない。そんなとこまで、大将と言えど考慮して作戦なんか立てない。現代戦じゃないのだ。そんな参謀が何人も必要なことはしない。
個人戦力最高みたいな世界で、陰謀渦巻く政治闘争なんてめんどくさいものはやらない。力ずくが便利だ。
アメリカを見ろ。あんなんだ、この世界。
ただ、同時におつるさんがいる。なんだかんだ、800年は天竜人をフォローしてきた五老星もいる。
ロビンを含めた麦わらを分析し、理解すれば出来る。
エニエスロビーへ麦わらを誘引しての包囲殲滅が。
もちろん、エニエスロビーに誘引される海賊が、楽園にいるわけがない。
麦わらを除いて。
「いや、あり得んやろ!? 非常識を織り込んで作戦立てられるやつがいんの!? 海軍に!? スキピオか、ボケ!!」
「誰だ?」
やめて下さい。異世界人の名前出すの。
スキピオは頑張って勉強をして、し過ぎて、軍事史を変えた非常識に勝利しちゃった偉人である。
常識で常識を覆した、やはり非常識だ。
ハンニバルの個人芸だった元祖包囲殲滅陣は、スキピオ以降、誰でも狙える戦術になる。
簡単には出来ないけどね。
されそうではある。麦わらが。
「味方はバカやと確信を持てるが、敵をバカやと決めつけられんやん!? でも、現実ってバカげとるもんやから、マジで!!」
やめろ、非常識。現実を侵食するな。
合理性とかいうものは、常識を下地にしている。その常識がわからなければ、なにが合理的かわからない。
そして、合理性を見つけないと、客観的にそれを予測出来ない。
「クザン大将は、その、そこまでか?」
ブルーノの疑問はもっともだ。異世界人の龍驤と違って、ブルーノには常識がある。
ところが、龍驤には根拠がある。
実際に、非常識と出会ってきたからだ。
「甘いな。海軍には、そういう古強者もおるやろ?」
ロジャーとかね。金獅子もそうだし。白ひげを筆頭に、四皇はまさにそう。
海軍はそいつらと戦ってきたのだし、これから戦おうとしている。実際にそんな海軍が、なにをしているか。
非常識どもがナワバリに引きこもっているのは、本人たちのやる気もあろうが、そうさせた戦略家がいたからに他ならない。
だって、楽園の勢力図を見ろよ。一体、誰が突破出来るんだ。
入り口にクロコダイルで、出口にジンベエ。鷹の目がうろついて、クマさんが縦横無尽に派遣されて、海軍本部を中心に、蛇姫とトカゲが左右を塞ぐ。
で、大将はもちろん、海軍も気楽にお散歩する。
はっきり言えば、海なので、まったく通れないことはない。ただ、命を大事に逃げ隠れしてきたやつらの割合が増すだけだ。
そこに本物の海賊はいない。
そんなんを押しつけられて、四皇のみなさんかわいそう。グラサンピンクは、そのおこぼれを拾ってるだけだな。
たまに、エースみたいなのもいるが、拾えないでやんの。
「海賊が腑抜けたのは、海軍と七武海が身命を削って来たからや。それもわからん大将か? キミらやないんやぞ?」
理想主義だ。そうそう、先達の苦労など理解しない。
後輩には後輩の苦労があるからだ。
しかし、龍驤は納得しない。
海軍大将までがそうだと思いたくない。それでいいと思える戦略家にはなれない。
「わからん。人間は慣れる生き物やし、バカなもんやけど、海賊へ仕掛けるには、あんまりにも愚策やぞ」
常識的に考えたら、ニコ・ロビンを確実に捕殺するための、実に見事な作戦だ。
だが、龍驤が信じる海賊に、常識は通じない。それは海軍の常識だと、龍驤は信じている。
非常識に考えたら、造船拠点のウォーターセブンか、エニエスロビーを真っ平らにする覚悟で、麦わらを確実に殲滅する作戦かと思う。海軍が勝つか負けるか以前の問題で、そこまで思いきれるものなのか。
手配もされていない麦わらに、そんな価値があるのか。
船長がガープの孫で、ドラゴンの息子で、四皇幹部の兄と革命軍幹部の兄がいるだけなのに。
どうすんだ、これ。
存在がバカ。
「そんな危険なのか、麦わらは?」
「だから調べろ言うたやん、バカが」
調べたからと、どうにもならない。
そんな非常識な評価はしてないよ。海軍を舐めるな。
おつるさんに黙って悪巧みするような、バカの極みだぞ。
そもそもこの世界に、常識などない。歴史のない世界では、世代ごとに自らの経験だけで常識を築く。
それは海軍でさえ、例外ではない。
とにかく、バカでもスキピオでも、この島から脱出しなければ、ウォーターセブンが壊滅するのは変わらない。
青キジとの対決を避けるなら、政府関係者と一緒がいい。
じゃないと、海列車という逃げ場のない空間で、自転車に乗った大将に襲われる可能性がある。
だから、なんでお前いるんだよ。いなきゃ、バスターコールを龍驤が始末して、上陸してきた基幹戦力はガレーラのドックを犠牲にする形で終われたのに。
で、その政府関係者。実はスパイじゃなくて暗殺者な上に、変な上司に使われていて、うっかり政府方針に逆らいそう。
どうでもいい古代兵器の情報に固執した挙げ句、張り切ってしている戦争準備に水をかけて、ワニに足元をすくわれるきっかけをつくるかも知れない。
ブルーノは思う。そんなこと言われても。だって、命令だし。
責任とは難しい。知らなかったですまないとはよく言われるが、理不尽だ。そんなん知らねえよ。
これは福音だ。バカげてはいるが、誰にとっても無意味な古代兵器の情報一つで、この島からロビンは脱出出来る。
CP9となら出来るのだ。なぜか、仲間とは無理だけど。
龍驤は非常に、繊細な舵取りを強いられている。
一つでも筋道を違えば、ウォーターセブンが破滅する。つーか、海列車経済圏が破綻する。
クロコダイルが強くなって、海軍が弱体化して、白ひげが勝つ可能性が高まって、エースがワンピースへ到達する。
で、綱渡りでたどり着いた先が、エニエスロビーという。色々目を瞑って、潰してもあんまり影響はないと思う。
そうかなあ。ブルーノは頭が痛い。
一味の非常識さと、それを理解しない役人と、忘れてしまったかも知れない大将のせいで、龍驤は大変な苦労だ。
空回りとも言う。ルッチさんを笑えない。
龍驤は、こうして家出した。
「なるほど。利害は一致していると言いたいわけだな」
「常識のないバカに付き合って、バスターコールなんぞ発動させたらアカン。発動させるにしても」
「この島以外で、ということだな? わかった。協力しよう」
世界政府に睨まれたらどうなるか。ブルーノはよく理解している。上司の意向など無視するべきだ。というか、上司の責任にしちゃおう。この島では無理だが、エニエスロビーなら可能だ。
命令だからなど、なんの言い訳にもならない。都合の悪いものを処理してきた、ブルーノはまさに最前線の人間だ。
自分たちが、その瀬戸際にいる。事態の深刻さは把握した。
龍驤とブルーノは握手を交わした。
「なあ」
それに一言、物申した人間がいる。
「そんなん聞かされて、俺はどうしたらいいんだ?」
「どうにかして?」
たまたま通りかかって合流させられたウソップは、なんか無茶振りされた。