龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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龍驤にヤサグレる市長さん

 アイスバーグさんは見てしまった。

 話し合いでは埒が開かないので、麦わらのコックに勧められた。

 状況を理解し、小娘の思惑を図るのに最適なツール。

 龍驤の航海日誌。

 それはもはや、本ではなかった。山盛りだった。

 ただただ、紙の束が膨らんでいた。剣士ですら、なんか怖がっていた。一体、なにが書かれているのか。

 アイスバーグさんは、恐る恐る摘んだ。読んでみた。

 内容は多岐に渡る。自然科学、物理、異世界について、あらゆるデータと観察が綴られていた。もちろん、技術もあった。

 思わず手が止まったが、そんなことをしている場合ではない。

 苦労して探した。物理的に。覇気あるぞ。

 目当てのページは、意外にもすぐに見つかった。というか、付箋に思いっきり、ウォーターセブンって書いてあった。しかも、重要のタグが重ねてあった。

 最初の一文で、頭を抱えた。

『大将にバレた』

 しょうがないよね。ログポースを使う限り、行先は決定している。そして、海賊旗を掲げていながら、ここまで手配もされていない変な一味だが、一人だけ例外がいる。

 ニコ・ロビンだ。

 因縁までついている。

 龍驤は現状、一味では束になっても大将に敵わないと結論づけていた。

 よって、逃亡の算段を書き連ねていた。相手は自転車らしい。

 ちょっと、意味がわからない。

 列車を浮かせた職人が、大将の所業に疑問を投げかけている。

 とにかく、なんかメリーという船は、特別な足を持っているようだ。他の船では逃げ切れないと、絶望している。

 だから、ウォーターセブンにいる役人を人質にしようとしていた。

 ちょっとなにを考えているのかわからない。

 順を追っていこう。

 まず、大将青キジはヒエヒエの能力者なので、対抗手段に焼夷弾の使用が検討されていた。

 やめて下さい。

 ウォーターセブンは水の都だが、そのせいで建物が異常に密集している。

 火事など起こされたら、一体どれほどの被害が生まれるか。

 消防設備の充実は、アイスバーグさんが市長として進めた目玉政策である。入り組んだ街区を進む消防隊の到着を待つまでもなく、その場に居合わせた市民が力を合わせて、火事を消し止められるようにしてきた。

 それを、あの小娘。

 次に、それだけやっても、大将本人には効果がないと推測され、戦う選択肢を放棄していた。アイスバーグさんはほっとしたあと、その必要がないことに気がついて歯噛みした。

 龍驤は、ウォーターセブンという街と敵対する危険性も指摘している。

 船を造れない。

 海列車という破格の輸送手段を得た周辺の島々は、一つの経済圏を構成し、分業が進んでいる。

 サン・ファルドは観光業とともに、海列車経済圏の港湾機能を担う。経済圏の外から輸入される様々な資材や商品は、まずここに運ばれて、海列車で各島へ輸送される。

 グランドラインなのに、観光で人を集められるほど安全な島だ。海列車に頼らない物流拠点として、これほど適した島もない。

 プッチは食糧生産を担う。人口が増えれば増えるほど、農業や酪農で使う土地は広くなるが、人が増えると家も増える。島という環境では、そうやって畑と住宅がナワバリ争いをする。

 これが島を滅ぼしたり、荒らしたりする原因になるのだが、プッチのおかげで、他の島は限られた土地を有効活用出来る。

 で、街がごちゃごちゃする。

 セント・ポプラは金融業だ。貿易に必須の為替取引は、この街で行われる様々な商談が成り立たせている。

 また、近くから海兵も休暇に訪れ、情報が行き交い、政治が行われる島でもある。華やかな見た目の奥で、陰謀が渦巻く島だ。

 つまり、海列車で行ける範囲に、船を造れる島はウォーターセブンしかない。

 普通なら、どんな島でも多少の造船能力があるものだが、下手をすると遊んでいる船もない。

 海賊じゃあるまいし、娑婆の水夫は陸地で暮らしている。荷物と行き先が決まって、初めて召集されるのだ。

 水夫が休んでいる間、船長や船主は、運ぶ荷物を探して営業に歩く。

 主人に放って置かれて、目的もないまま停泊している船を、遊んでいると言う。

 そういうのがない。売り物の船は、目的があって停泊しているのだから、遊んでいるとは言わない。

 要は逃げる手段がない。

 目的地の決まった船は、ログポースに従って航海するしかない麦わらみたいなものだ。

 簡単に追われる。

 船を造れない。売ってもらえない。遊んでない。

 狙うのは、大将青キジ。

 詰みだ。

 麦わらの旅は終了となる。

 これを防ぐためには、最低でもガレーラと友好的な関係を築く必要がある。

 難しいこととは思えないが、なぜかトラブルは起こった。

 素っ気ない文章から滲み出る苦労に、アイスバーグさんは同情を禁じ得ない。

 ウォーターセブンを焼こうとしたバカだけど。

 さて、ガレーラと仲良くなっても、船を建造する間は常に危険だ。

 この問題をどう解決するか。

 島から離れて、観光する。とても平和的な解決策が示された。

 結果は、自転車で待ち伏せされて捕縛される未来である。

 さっきから登場するこの自転車は、本当になんだろう。

 この山盛りを遡ればわかるかも知れないが、時間がない。アイスバーグさんは、理不尽を飲み込んだ。

 戦うと燃えるので、ウォーターセブンから出るのは決定事項だ。

 どうやったらその道中に襲われないか。

 方法は二つ、示されていた。

 捕まってエニエスロビーまで行く。

 もしくは、政府役人を人質にする。

 アイスバーグさんは激怒した。

 並べるな、その選択肢。

 エニエスロビーへ連行されるのは、助かる手段じゃねえわ。

 でも、書いてある。

 アイスバーグさんは、二つ目の理不尽を飲み込んだ。

 流石の小娘も、わざと青キジ以外の政府役人に捕まるのは避けるべき手段と認識しているらしい。

 だから、人質を調達すると決めたんだと。

 人質は出来るだけ、価値の高い人物がいい。青キジが攻撃を躊躇うような。

 ウォーターセブンにおける最高位はアイスバーグさんだが、前述の理由により狙えない。

 でも、つもりはあったのね。CP9と変わらないじゃないか。今、そいつらが一緒にいると。

 アイスバーグさんは、三つ目を飲み込んだ。

 海軍の最高位はこの場合大将であり、これも避けるべき人物である。つまり、元帥かガープでも人質にしない限り、求める人材に達しない。駐在では足らない。

 よって、ウォーターセブンに潜伏するスパイを標的にするらしい。

 流石に、アイスバーグさんは飲み込めなかった。

「待て待て待て待て」

 知っていたのか。これ、いつ書いた。

 いや、港町にはいるもんだよねと、龍驤は軽く書いているが、どういうことだ。そこを詳しく書けよ。無駄に分厚くしないでさ。

 こんなもん、航海日誌じゃねえわ。

 肝心の情報がなにも書かれていない欠陥品に、アイスバーグさんは頭を抱える。

 それを眺めていた一味が心配を示したが、このときのアイスバーグさんに、反応を返す余裕はなかった。

 飲み込めないが、飲み込んだ。かなりの時間、葛藤して、アイスバーグさんは先を読む。

 世界政府と海軍の政治的な関係について、つらつらと推測が重ねられていた。

 読み飛ばした。どうでもいいんだ、そんなこと。

 要は、政府と海軍はバラバラで、お互いに天竜人や世界政府の権威を使って変なことをしているから、干渉は嫌うだろうということだった。

 つまり、綱渡りだ。エニエスロビーに連行されたい欲が見え隠れした。

 なんでだ、馬鹿野郎。どうして、海賊の身でエニエスロビーに行きたいんだ。

 そこがCPの本拠だかららしい。情報の宝庫だと、よだれを垂らしていた。

 なんか、そんな文章だった。

 アイスバーグさんは長く、長く葛藤して、これを飲み込んだ。

 大将に勝てないのに、なんで世界政府に勝つ気なんだ。

 未練たらしく、ロビンを一人にするか、ウォーターセブンで世界的犯罪でもするしかないので諦めると書いてあった。

 諦める前に、思いつくな。それが脳内であっても、何度ウォーターセブンを焼けば気がすむのか。

 諦めたはずなのに、エニエスロビーの襲撃作戦も複数、検討されていた。もう、焼きたいだけだ。

 これを読む身にもなって欲しい。

 なんにせよ、ウォーターセブンから逃げられないやつが、エニエスロビーから逃げられるつもりでいるのはなんでだ。

 わからないが、わかった。

 麦わらは、思った以上に危険な集団である。これを放し飼いにするなど、まったくもってあり得ない。そして、それが躊躇うトラブルを、進んで起こすのが船長だ。

 なんだか、腑に落ちた。

 アイスバーグさんは顔を上げた。多少、人相は悪いが、普通の若者たちが目に入った。

 彼らはなにも考えてないように見えて、本当になにも考えていない。致命的なまでに。なんの比喩でもなく。

 打算など欠片もない。戦うときに戦い、逃げるときに逃げる。ただそれだけの生き方をしている。

 とんでもなく危険だが、どこまでも自由だ。

 四皇にも勝る理不尽どもだ。

 追い出そう。アイスバーグさんは決意した。

 あとのことは知らん。とにかく、麦わらを追い出そう。

 そのためなら、どんな協力も惜しまない。

 すぐさま、本当に信頼出来る人材を脳内リストアップした。一人では無理だ。

 なお、争いを避けようとした龍驤がこうである以上、麦わらと連携するアイデアはない。

「俺は一旦、帰る。明日の早朝、駅へフランキーを迎えに行く。そのときに、いい感じでなんとかしよう」

「了解」

「送っていこうか?」

「いや、大丈夫だ」

 大丈夫じゃない。こんなんで了解するな。本当に、どうするつもりなんだ、このバカども。

 急がなければ。急がなければ、ウォーターセブンが燃える。アイスバーグさんは、鬼気迫る表情でガレーラへ戻った。限られた職人を集め、本当の意味で話し合った。

 そして、駅でああなった。

 フランキーは諦めた。諦めるしかなかった。みんなを避難させなければ、麦わらと政府の戦争が始まる。

 どっちが勝つかなど、巻き込まれる一般人には関係がない。本物の戦争を前に、ありもしない古代兵器など欠片も気にしない。

 ウォーターセブンは物流を海列車に依存している。人の移動もだ。

 船はあるが、ほとんど個人船の類だ。島の住人を収容するには足らない。ガレーラの企業船でも同じだ。

 そもそも、必要な食糧の備蓄がない。かき集めたところで、人と荷を同時に捌くほどの港がない。

 それでもやるしかない。

「一部、廃船島に回しましょう。危険ですが、あそこでなら船を着けられます」

「そうするか。職人を派遣する。少しでも、片付けさせろ」

「アイスバーグさん!!」

 駅の外に設置した簡易指揮所に、ガレーラの職人が走り込んで来た。

「どうした?」

「警報が出た!! アクア・ラグナが来る!!」

「クソがぁッ!!」

 追い出そうとしてるのに、閉じ込めるんじゃねえよ、自然現象。

 アイスバーグさんは机を殴りつけた。市役所の役人や職人たちが、珍しい姿に唖然とする。状況は畳み掛ける。

 誰かの叫びが聞こえた。

「オイ、見ろ!! フランキーが逃げ出した!!」

 やめろ。不詳の弟だが、アレの技術力は海王類を屠る。加えて、フランキー一家。

 第三勢力発動。

「アアアアァァっ!!」

 ドン引きだ。アイスバーグさんは発狂した。しかし、義務を忘れなかった。即座に復帰した。指揮所から飛び出した。

「追うな!! 絶対に追うんじゃないぞ!! 裏町は捨てる!! 住民の避難を優先しろ!! 市街地にすべて収容するんだ!!」

「出来ますが、裏町を捨てる?」

「本物の海賊が来たんだ。とにかく、指示通りにしろ。あくまでも、アクア・ラグナの対応ということで徹底するんだ」

 戦争が起こるなどと言えば、パニックが起こる。同じ結果が得られるなら、理由などなんでもいい。

「本物の、海賊? なんです、それは?」

 誰も、それがなんだか知らなかった。海賊を恐れる文化は、この島から失われている。アイスバーグさんは独白した。

「トムさんが手を貸した男たちだ。古い、そう、古い遺物さ」

 街を、人々を守らなければ。

 アイスバーグさんは、事態を収拾するべく頭を働かせ続けた。

 

 

 線路を走って来たのは、みんな大好きTボーン大佐。

 彼は伝えた。

「黄猿大将が、火拳の捕縛に?」

「弟だと?」

「青キジは、なにを考えてこんな作戦を?」

「私にはなんとも」

 最悪、兄弟がエニエスロビーで再会する。

 そんなわけあるか。

 君ら、海賊連れてエニエスロビーへ行く前提でいるけどね。そんな任務じゃなかったでしょ。

 青キジこそ驚いてるよ。

 ていうか、知らないよ。こんなめちゃくちゃなことになってるなんて。

 ロビンだけ連れて行けば、麦わらはこの島で無力感に打ちのめされているはずなんだ。

 もしくは死んでいる。

 CP9のロブ・ルッチがいる。麦わらの力量だって、直接測った。結果に、疑いなんぞない。

 そもそも、麦わらに罪を着せる作戦だった。

 ガレーラやこの島と対立して、脱出不能になるはずなんだ。

 それが常識だ。

 しかし、すべてはひっくり返る。

「増援はどうなった?」

「海列車を待たず、我ら船で参りましたが、武運拙く、沈没致しました。私は助けを求め、シフトステーションに走ったのですが、アクア・ラグナが来るということで」

「アクア・ラグナ!?」

「どうにか、彼らを救助して頂けないか?」

 CPは嫌な顔をした。この状況で、それをアイスバーグさんに頼まなきゃいけないのかよ。

「なぜ、沈没を?」

「恐らく、事故でしょう。突然、火柱が上がりまして」

「あのクソガキ!!」

 絶対あいつだ。あいつ以外にいない。どうやったかは知らないが、他に考えようもない。マジで、自由だったんだな。

 騙されていた。今も、騙されている。

 でも、どうしようもない。アクア・ラグナじゃ、バスターコールも発動しない。

「麦わらも捕縛するか?」

「そうなれば、約定を違えることになる。今や、捕まっているのは俺たちだ」

 周りに妖精さんがいる。ロビンは海楼石の枷を嵌めているが、守られている。まったく嫌味のない笑顔で、こちらを眺めている。

「たぶんだけど、その約定には青キジも含まれるわ」

「関係ないだろう」

「あるのよ。この島に潜伏しているから」

「この島におられると!?」

「おいおい、まさか。まさかじゃぞ?」

 嫌な予感がする。

 ロビンは首を傾げる。CPに話しかけるが、聞いているかどうか。

「勘違いしないでね? あなたたちに約束を守らせるのは、あくまでもあの子よ。妖精さんじゃないわ」

「気でも狂ったか?」

「信頼は積み上がった? 実力は見えた? 出し抜く隙はあるかしら?」

「大将を、人質に?」

 カリファが呆然とする。どうすればいい。なにが出来る。

「約束をどうするの? あの子は守ってくれると思う? あなたたちは騙されたのかしら? それとも、話を聞かなかっただけ?」

 ロビンはニッコリ笑う。

「龍驤のなにを知っているの? ねえ? 諜報員さん」

 

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