龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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何人目かもわからない

 その日より、龍驤の工作は始まった。バラティエへ来た客に、クリーク海賊団が来襲予定であることを触れ回ったのだ。

 普通ならそんな店に客は来ない。

 だが、巧みかつ説得力のある話しぶりで、如何にクリーク海賊団が卑劣で頭数だけの存在かを吹聴して回り、むしろ客を増やした。

 印象としては東の海の覇者だが、龍驤が提供した新しい視点と考えに従えば雑魚である。矛盾はむしろ、ギャップになって盛り上がる。

 バラティエの名声はうなぎ登り。ちゃっかり、用心棒として麦わら一味の名前まで広めている。

 地味に被害を受けたのはヨサクとジョニーだ。ダラダラと一緒にいたせいで、名が売れてしまった。

 聞きつけた木っ端海賊が名指しで来て、ゾロが撃退した。

 それを見世物にした龍驤は、ナミを巻き込んで大儲けした。コックたちは引いている。

「どや? この店でショーやって稼がん?」

「勘弁してくだせぇ、姉御」

「オイラたちには荷が重い」

「ま、仲間うちに宣伝してくれてもええよ。下手に探し回るより楽やろ」

 二人は真剣に考えたが、まだまだ腕を磨いてからだと断った。敵を選んで襲うのと、襲われるのを待つのではまったく違う。

 とはいえ、商売繁盛だ。

 客は増えたが質は変わらない。

 東の海といっても、船を出してこの店まで来るような客たちである。

 武力も金もそれなりにあり、情報には敏感だ。

 クリークに根拠地らしい根拠地がないことは、すぐ裏が取れた。それが海軍の働きによることも。

 つまり、客層が荒れていないのだ。従業員はともかく。

 龍驤は買い出しに付き合って陸に上がると、そうした荒れた客に困っている酒場を探した。まぁ、探すまでもない。

 ウマい話に警戒していたが、困っているのは本当だ。連れて行ったのも、サンジではない。海では荒くれコックも、夜の女たちにすれば手玉に取れそうな朴訥さに見えた。

 変に媚を売ることもなく、普通に愛想よく振る舞っていれば充分な接客として認められる。裏には、クリーク海賊団と抗争する荒くれコックたち。海上であることを踏まえても、割のいい仕事だ。

 バラティエにウェイトレスが増えた。

「大丈夫か?」

「女ってのは強かで、男はバカや。問題は起こるやろな」

「どうする?」

「信頼出来る女主人を置くか。人を選ぶか」

「俺の器量次第か」

 人手不足は解消したが、この体制を続けるかは要検討といったところだ。それより、副産物として買い出しだったり、休みだったりに寄れる、サービスのいい店を確保出来たことが喜ばれた。

 バラティエのコック御用達となれば、下手な因縁をつける客も減る。苦労が減って、女たちが感謝する。その感謝が、サービスに反映されるのだ。

 男たちは張り切った。

 それは広がっていき、夜の店だけでなく、買い出しに来ることさえ歓迎されるようになった。むしろ、料理長、副料理長総出で引き締めてやらねばならないぐらい、バラティエは影響力を持つに至った。

 もはや、周辺はバラティエの海だった。

「これが力の効用や」

 ドヤっている。ウソップ並みに鼻を伸ばしている。

 前世のやり方をそのまま適応しただけだが、思った以上に上手くいった。龍驤もびっくりしていたりする。

 単純に、周辺を縄張りにしている勢力の質が悪かっただけだが、運も実力のうちだ。あんまり上手く行き過ぎて、逆に問題が噴出しないかドキドキである。

 それはそれとして、龍驤に経営手腕があるのも事実だ。

 戦前の軍隊とは、このような苦労をしていたのだ。

 アレの手綱を握るのか、とルフィに視線が集まる。本人はわかっていない。鍛えたり、船を適当に動かしてみたり、バラティエで飯を食ったり、好きなように過ごしていた。

 目的はサンジの勧誘である。

「仲間になれ!!」

「断っただろうが!!」

「断る!!」

「はぁ!?」

 こうしたやり取りも名物になった。そんなに時間も経っていないが、本人たち以外は飽きてきた。

「まだなの?」

「おっせえな」

「待て、クリーク海賊団だよな? 来るの」

「だからなんだよ」

「毒されてないか?」

 龍驤を見ると、顔を逸らされた。龍驤が広めたことはウソではないが、クリーク海賊団が強いのも、数が多いのも、膨大な被害を出していることも事実なのだ。

「どうすりゃいいんだ?」

 龍驤に匹敵する未来が見えない。だが、ルフィはあっけらかんと言った。

「関係ねえよ。誰が相手でも」

「それはオカシイ」

 ゾロは笑った。その通りだ。お膳立てをしてくれるというのなら、拒否する理由などなかった。ウソップとナミは泣いていた。

「そうだな。俺は斬るだけだ」

 物事は予定以上に上手くいっていた。

 その時までは。

 

 

 龍驤は常に偵察機を複数展開している。なんなら、メリー号に基地航空隊すら置いている。

 龍驤の強みとは、艦載機だけに頼らない協同作戦にあるのだ。

 襲われることはわかっているのだから、警戒は厳にしていた。

 誰も気づかないうちから、巨大ガレオン船を感知していた龍驤は、いつ報告するかと呆けていた。

 自分がいてもいなくても、ルフィとゾロがいれば問題はない。加えてサンジとウソップがいる。

 この店に来た時は、本当に一味の邪魔だと思っていたから出番が欲しかったが、一味は龍驤がいたところで何の問題もないことを示した。ちゃんと龍驤の居場所になってくれたのだ。

 ならば別に、人を殺す機会などいらない。なんとなく、死なない気もしないではないのだが。

 試したくもないので、どうでもいい。龍驤はただ、誰かの手助けをしつつ、楽しく生きていければいいのだ。夢がなくたって希望は持てる。前世とは全然違う生物になったが、どうせ二度目の生である。ルフィに付き合うことが目的でも構わない。

 この世界で初めて会った人間なのだ。

 そんな感じでやる気のない龍驤だが、ヨサクたちの一件もあり、前世より高度を落として詳細な索敵を心がけていた。

 帆船なので、航跡が目立たない。そして、船そのものの戦力が低くても、乗っている人間が脅威である場合もある。

 泳いで帆船に追いつくぐらいは、ヨサクでもやるのだ。龍驤が危機感を持つほどの速度を出していた、メリー号にである。

 そうした人外じみた戦力は、龍驤が船を沈めても無力化出来ない。

 本当に厄介な世界だ。他の何を適当にしても、戦いだけは適当にさせてくれない。龍驤が本気で戦っても、楽しくなんかないのに。

 そんなわけで、怠ることなく警戒していた龍驤は、その船を見つけた。

 非常識な世界で、なお圧倒的なまでに非常識な小舟。優雅に腰掛ける男の、瀟洒なファッションと背中に背負った剣を見て、龍驤はどっと汗を流した。

 初対面のルフィとした会話でやったようなことは、これまでも、この店でも存分にやっている。支部とはいえ、海軍基地の内部資料までひっくり返して、頭に叩きこんだ。

 そうして集めた情報が、男の正体を告げている。何故の問いには、すぐ答えが出た。数が多いという厄介極まりない属性を持った海賊団など、入口で迎撃するに限る。それを一人で、と言われても、龍驤にだって出来るのだ。この世界の人間にも出来る。

 そして、トドメを刺す前に嵐か何かで見失い、片をつけに来た。

 三流なら最初から討ち漏らす。二流ならサボる。だが、一流なら絶対にそうする。この広い海で誰かを探すために、噂を辿る。

 情報を流した龍驤のせいだ。一味だけでなく、バラティエまで巻き込んだ。

 青ざめ、やらかしを自覚し、龍驤は覚悟を決めた。

 考えたのだ。

 ゼフとサンジの矜持を知りながら、誰も知られずにクリークの船を沈めるか。

 ゾロの目当てを素通りさせ、一味を守るのが正解なのか。

 何もなかったことにして、このままルフィの船に乗るのか。

 女を口説く副料理長を捕まえ、料理長の元に送る。

 そして、いつものようにランチを楽しむ一味の元へ。

 これから殺すことになる、船長の右腕の前に立つ。

「鷹の目って知っとるな」

「お前、どこでそれを」

 龍驤はゾロを送り出すと決めた。

 

 

 龍驤は土下座した。

「スマン、ウチのせいや」

 それは誠意でもあったが、なによりも時間が惜しかった。それをした龍驤を、誰も責めない。

 沈黙で飲み込み、ため息で吐き出すと、ゼフが言った。

「もともと、客に飯を食わせてやれればいいんだ。商売が上向いたことを感謝こそすれ、謝られる筋合いはねえさ」

「だが、厄介だぞ。クリークに加えて、鷹の目だと?」

「クリークなんぞどうとでもなる。なんなら、今すぐ始末してもええ。だが、腹を空かせてここまで来た奴らや。そして、それを追っとるんや」

 理解したサンジが、悪態をついた。サンジはもちろん、ゼフにだって追い返せない。そうなれば、このレストランに鷹の目が来る。来てしまえば、同じように逃げられない男がいる。

「まさかこんなに早く会えるとはな」

 怯えも見えた。運命を呪うような苦々しさも。

 だが、ゾロは笑って白鞘の剣を握りしめた。それを見る龍驤の方が、よほど死にそうだ。

「おい、迷惑なんだよ。余所でやりやがれ」

「やめろ、ボケナス」

「黙ってろ、クソジジイ。この店がなくなっちまうかも知んねえんだぞ!?」

「そんなことにはならん」

「まぁ、そやろな」

 鷹の目は昔から、歯応えのありそうな者を見つけては勝負を仕掛けるような、通り魔的存在だ。迷惑したのは海軍で、庶民ではない。基本的に。

 バラティエというレストランにはなんの興味も示さないだろう。ゾロが勝負を吹っかけても、クリークとの抗争を見世物にするよりよっぽど安全なはずだ。

「じゃあ、なんで」

「なんでもなにも、それがゾロの夢やから」

「死んだら元も子もないだろうが‼」

「いや、ウチ、一度死んどるけど」

 やりにくい。

「負けるにしてもな、負け方があんねん」

 海軍は解体された。ロシアなどに売られた艦。復員船として働いた艦。堤防になった艦もいる。

 そして、標的にされた艦。

 総大将ともいえたその艦は確かに意地を見せた。

 浮かんでいた。

 船としては凄いのだろう。

 だが、彼女は戦艦だった。

 龍驤は彼女に勝ったことを、今でも誇りに思う。

「戦わせてやってくれ」

「お前はどうしたいんだ?」

 ルフィが首を傾げていた。サンジが呆れている。

「今、その話を」

「黙ってろ、チビナス」

 ルフィの目を見て、龍驤は言った。

「ウチはキミらと旅がしたい」

「そっか」

 ルフィはニカリと笑う。

「龍驤は観測手だな」

「拝命した」

 真面目な返事に、ルフィの笑みはさらに深まる。

「なーに、勝てばいいんだ。な? ゾロ」

「おう」

「それはそれで、どうすんの?」

「いつかテメェを斬ってやるよ」

 ゼフも笑っている。サンジだけが、いい知れぬ苛立ちを抱えていた。

 

 

「で、どうや? キミが残る理由は潰せたか?」

「やっぱりか、テメェ」

「ウチはこの店にも、キミにも、悪いようにした覚えはない。新しい要素も増えた。キミの居場所がなくなったのとは違う」

「わかってるよ。そんなこと」

 バラティエはもう、オーナーのカリスマだけで成り立つ店ではなくなっている。

 人も雇えるし、影響力もある。サンジが頑張るとしたら、副料理長として経営に関わることだ。

 海賊に襲われるとか、そんな単純なことを心配する段階は過ぎたのだ。

 料理の腕は大前提として、店に残るなら真っ当な技術や知恵をつけていかなければならない。

 それが女を本当の意味であしらう、女衒のような方向性であっても。

 少なくとも、公にサンジが得意とする方面に、店は発展しようとしている。風変わりなだけのレストランになろうとしているのだ。

 ゼフは考えてはいても、それを悪いとは思っていない。サンジが守りたいのは、そんなゼフの店なのだ。

 それなのに、それは違うと心が叫ぶ。この店に居場所がなくなってしまうと、悲鳴をあげる。

 海賊船のようで、そうではなかったあの頃に戻りたいと、そう思ってしまう。

 ゼフの夢は違う。むしろ、海賊など二度とやらないと決めている。とっくに引退している。

 今の方が夢に近いのだ。ここは海上レストラン、バラティエ。訪れた客に、飯を、食わせてやる場所である。

 信念があって、それに従っていても、海賊のようにそれを掲げたりはしない。命もかけない。もし失うとしても、それは店と生活だ。

 だとしたら、場所を変えてやり直せる。

 そんな普通の世界で、副料理長をやる覚悟というのは、命をかけるのとは別のものだ。

「東の海はやがて平定される。いずれ、この環境は生まれた。海軍を中心にな。ウチはそれをほんの少し早めただけや。キミの苛立ちは、必然やよ」

「勝手なことを」

「世界なんか勝手に決まっとる。ウチは異世界転生までしとんのやぞ? あれやこれやと頑張って、ちょっと足りんかったからって鷹の目て。それでもまだマシや。前世じゃ世界と戦ったからな」

「どうなった?」

「負けたよ。あっちもこっちも焼け野原。国が残ったんは、お情けや」

「どうして戦った?」

「殺すか、殺されるかやっただけや」

「殺したのか?」

「バカな、自国民やぞ? 殺されたんや」

 龍驤の目が、サンジを貫いた。殺すことぐらい簡単だろとは、とても言えない。夢だから、実現不可能だからで諦めろとは言えなかった。あまりにも自然で、考えが読まれていることに気づいていない。リサーチは完璧である。

 サンジが目をそらした。龍驤は勝利を確信して、口角を吊り上げた。

「全部、手の平の上かよ」

「知らんよ。実力で抗え」

「実力ねえ」

「キミ、実はそんな女慣れしとらんやろ?」

「は?」

「だって口説かれ慣れてない」

「なに言ってんだ、テメェ?」

「多分、ウチの一味やと、船長はおろか、長鼻にも負けるで?」

「そんなわけ」

「わからんか。あのバカ三人の後ろに見え隠れする女の影が」

「ウソだろ?」

 0歳児、処女。エロコックへのマウント完了。

 

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