龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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やったことは帰ってくる

 クリーク襲来の報を受けて、流石に客たちは避難させた。しかし、自分たちの船に乗った彼らは海域を離れず、遠巻きにバラティエを包囲している。どころか、中には海軍の監視船まで混じっていて、それを見たコックたちが首を傾げていた。

「なんで海軍がいるんだ?」

「手柄を横取りするつもりか?」

「いや、ありゃそんな戦力を乗せてる船じゃねぇ。腐ってもクリーク海賊団だぞ?」

 海軍信用ないなと思いつつ、龍驤は電伝虫を取り出した。ルフィとウソップは物見遊山。賞金稼ぎコンビはそれに付き合っている。ゾロは精神を集中し、ナミはコソコソ。一味は誰も見ていない。

 ただし、立っている料理長と副料理長の目の前で、自分が主人であるかのような椅子にふんぞり返った態度で、海軍支部のナンバーを背負ったそれの受話器を掴む。

「なんだそりゃ?」

「大概だな、テメェ」

「もしもし、ウチや」

 黒幕ごっこを楽しむ龍驤に、その辺のボヤきは届かない。

『なんじゃ、久しぶりじゃな』

 ゼフの顔が強張った。サンジは珍しい表情に訝しむ。

「監視船の派遣、助かるわ」

『これぐらいは構わん。クリークを始末してくれるならな』

「賞金は貰えるんやろ?」

『まだ、海賊として登録はされとらん。じゃが、時間の問題じゃろう? そこまでは面倒見きれん』

「まぁ、上手くやるわ」

「いつ、連絡したんだよ?」

「バカ大尉を蹴った時」

 その時は手柄があったら早く戻れるかなぁぐらいの気持ちで手紙を仕込んだが、龍驤は全てが思惑通りのように演出した。そもそも、届くとも思わなかったし。サンジは騙された。

 あの時の混乱具合を知るゼフは呆れている。常識だのなんだの理屈を並べていたが、結局嫌われたくないの一点だけでこの騒ぎだ。それでもまだこんなことをやっているのだから、筋金入りだろう。

 やっぱり、箱入りはダメだ。

「ちなみに鷹の目とか止められる?」

『なんじゃ? そういえば、グランドライン進出を止めたのは奴か。諦めろ。海賊は所詮、海賊』

 海軍の言う事など聞かない。あくまで、要請の範囲だ。少なくとも、中将の立場では。

「しゃーない。ところで、これからが本番なんやけど」

『嫌な予感がするのう』

「コノミ諸島の管轄は誰や?」

 龍驤の声色が変わる。

『……あそこで問題は報告されとらん』

「わかっとる、わかっとる。ただなぁ、どうもウチの航海士をイジメとるようでなぁ」

『殺すなよ。後任がおらん』

「よっしゃ、よっしゃ。龍驤ちゃんに任せえ。万事上手くまとめたるさかい」

 どの口が、と思ったが、言葉にはしなかった。それは野暮だ。

 電伝虫を切ると、口から紙を吐き出し始めた。

「なんかバッチィから、ちゃんとこっちから出して?」

 それなりの値段で手に入れたファクス部品だが、出力の仕方は電伝虫次第である。嫌そうに紙を摘まれて、電伝虫がショックを受けている。

 そんなテーブルいっぱいの電伝虫を、龍驤は懐にしまった。

「待て。今、凄く不自然じゃなかったか?」

「細かいこと気にすんな」

「細かいか? 細かいことか?」

「そりゃ、海軍中将とホットラインがあるよりはな」

「今の海軍中将なのか!?」

「オメェ、意地張ってないで世間を見てこい」

「なんでそこに繋がるんだよ!?」

 ゼフの送り出したい理由が変わってしまった気がするが、些細なことである。

 死んでなければかすり傷。

 そんな精神でなければ耐えられない。

 ゾロが最強に挑戦する。

 

 

 まるで魚のヒレを広げるように足場が展開されていた。武装したコックが鈴なりに並び、民間船がいくつも見物している。待ち受けられていたクリークは考える。

 どうすれば、この場を切り抜けられるか。飢餓によって、統制には綻びが見える。ここで無理矢理にでも勝利しなければ、海賊艦隊は本当に消滅する。

 ここまでのし上がった誇りが、それを許さない。倫理も、常識も踏みにじってここまで来たのだ。なのに、理不尽そのものに踏みにじられた。

 それはクリークだけに許された特権のはずだ。中途半端で煮え切らない奴らを、徹底して身につけた武力で蹂躙する。

 それが出来るのは、このクリークだけなのだ。

「お前は、」

「ようこそ、グランドラインの落ち武者」

 中央に立つ赫足のゼフを見て、希望が湧いた。情報だ。情報さえあれば、誰よりも上手くやれるのだ。

 その男がグランドラインを一年も生き延び、あまつさえ無事に帰ってきたことは知られている。

 空腹と妄執に駆られて視野狭窄に陥ったクリークは、ゼフの足元にうずくまるウェイトレスなど気づきもしなかった。

「なんでぇ?」

 油断なく前を向きながらも、我慢出来ずにゼフが尋ねた。龍驤は狼狽えている。

「読める。アイツの心の内がわかる。ウチ、あんなんやったんや。超恥ずかしい」

 海賊になりながら常識を求めて、なりふり構わずその格好だ。側にいた男どもがニヤリと笑う。

「似合ってるぜ」

「可愛い、可愛い」

「よ、美少女ウェイトレス」

「色気は足らねえがな」

「サンジだけ減点」

「なんでだよ!?」

「女の扱い下手やなぁ」

 恥ずかしいのはゼフだ。こんな奴らの代表として話をしなければならない。ちょっと赤面しながら進み出る。

「ギンだったか? 食糧はある。まずは船員どもに食わせてやりな」

「ま、待て!」

「なにか問題が?」

「ドン?」

 物事というのは、順番を変えるだけでまったく違う結果を生むことがある。奇襲や騙し討ちというのは、その順番をちょこっと前後させるのが目的なのだ。

 本当に敵を打ち破るのは、正攻法だけ。

 それを忘れて雑に数や火力を備えても、正攻法というのはキチンとした下積みの上にしか成り立たない。

「何人ぐらい生き残ってる?」

「約百人だ」

「まぁ、充分だろ。届けてやりな」

「待て、待ってくれ‼ そんなことをしたら!!」

「大丈夫や。ギンと同じぐらい信頼が築けとるなら、誰もお前に逆らわんよ」

 恐怖が人を従わせるのではない。確実にこちらを害せるという信頼が、恐怖を生むだけだ。怖いだけなら、逃げ出すこともある。抵抗し、反撃することもある。

 怖いだけの男なら、反逆は必然だ。

 待ち受けられて、交渉の糸口にでもしようとしたのか。二人は金の袋を持参していた。それを拾って数えながら、龍驤は楽しそうに嬲る。

「お前みたいな悪党には、なんで人が暴力や外道に消極的かわからんのやろな」

「よ、弱いからだ!! だから躊躇し、足をすくませるんだ!! 事実、俺は勝ち続けてきた!!」

「強い弱いなんて関係あらへん。どんな人間も生き残ろうと必死や」

 ギンがボロボロのガレオン船に消えた。クリークには、海賊団の崩壊がわかる。

「勝った負けたがなんやねん。生きてりゃそれでええやろ?」

 生きることより、勝つことを優先してきたのなら、負ければ死ぬ。簡単なことだ。簡単なことだから悩む。

 ガレオン船から、生き延びた歓喜の雄叫びが上がる。

「生き延びや。出来たらな」

「うおぉぉぉ!!」

 龍驤がクリークを投げ飛ばした。大男が放物線を描いて、ガレオン船の甲板に消える。

「いや、何が常識なんだ?」

「あれで何を悩むんだ?」

「龍驤ってバカだなー」

「それで済ますのか?」

「慣れろ」

「仲間じゃねぇよ」

「往生際の悪い」

 ゾロとサンジが火花を散らす。

「さて、と。前菜は片付いたやろ」

「どうなるか、だな」

「もし間に合わなんでも、探さんで?」

「ここで出会うこと自体が僥倖だ。そこまでは求めねえよ」

 ガレオン船の中で何が起こっているのか、知る術はない。

 一味とレストランの一行はジリジリと待った。

 ガレオン船が斬られた。

「そうなるかぁ」

 龍驤はヤサグレた。

 

 

「何だ!?」

「何が起こったぁ!?」

「そんなバカなぁ!!」

 大混乱の中、龍驤は虚無である。

 世界一の大剣豪。話には聞いた。資料も見た。信じてはいなかったが、疑っていたわけでもない。

 巨大と言っても、龍驤の基準は前世だ。とんでもない船はもっとたくさん知っているが、それにしたってあんなことをするのは怪獣に決まっている。

 つまり、ゾロは怪獣と戦うのだ。日本において、最強と名高いあの種族と。

「なるほど。現代戦力とか意味ないな」

 強いと勘違いしていたが、認識を改めなければ。龍驤は弱い。

「大丈夫なん?」

「俺もテメェの考えが読めてきたぜ」

 龍驤より弱いゾロが、青筋を立てながら歩いていった。腕のバンダナを外し、頭に巻く。

 どうやらクリークは生き延びたようで、龍驤は舌打ちした。期待はしていなかったが、やはり腰抜け揃いである。

「あれもワンピース目指しとるようやが、ウチが貰うで」

「いいぞ」

 わあわあ錯乱しているが、船を斬った本人は静かだ。銃で撃たれても反撃すらしない。剣を差し出し、弾を払っただけだ。

 驚きは見せたが、どっしりと構えたゼフと、楽しげな周囲の悪ガキたちを見て、コックたちも落ち着きを取り戻しつつある。

「ところで、お前んとこの航海士。なんか予備の船で勝手に出てったけど、あれなんだ?」

「あー、メリー号、妖精さんおるし」

「泥棒出来なかったのか。じゃあ、なんで逃げるんだ?」

「え? ナミ、どっか行ったのか?」

 逃げてもしょうがない状況じゃないかと思いながら、ズレた答えに呆れるコック。龍驤は愛想を振りまいて礼を述べた。

「まあ、今はゾロや。後で追いかけよ」

「そうだな。どうせ、龍驤が首輪してんだろ」

「人聞きの悪い」

 実際、追っている。

「え? 大丈夫なのか? また、龍驤がなんか企んでんのか?」

「なんでわかってねぇんだ?」

「俺に隠し事か!?」

「謀略なら、堂々とキミの目の前でやっとるわ!! 隠すことなどない!!」

「それもどうなんだ?」

 ルフィは安心した。

「コイツらの関係がわからねえよ」

「同士だな」

「やめろ、仲間扱いすんな」

 キョトンと三人が三人とも、サンジの顔を見た。そして、わかったような顔で観戦に戻る。

「ツンデレか」

「違う!!」

 

 

 鷹の目がペンダントからナイフを抜いた時、キレたのはまず龍驤だった。ルフィとウソップは予想していたので、冷静に襟首を掴まえた。

「スかしとんちゃうぞ、ゴラァ!?」

「ちゃんと我慢しろ」

「わかったから、な? 大人しくしろ」

 ヨサクとジョニーはなんとも言えない顔でそれを眺めた。サンジを含めて、コックたちは距離を置いた。

 だが、その玩具でゾロの大技を止めた時、誰もが言葉を失い、ルフィやウソップさえ呆然と襟首から力を抜いた。

 龍驤だけが鼻で笑う。

「やりや、ゾロ」

 確かに、鷹の目に技は見切られた。だが、自分の剣で斬れない相手なら知っている。ゾロの選択はただ一つだ。

「押し通る!!」

「ぬ?」

 相手は玩具に、指三本。それでも、その腕を跳ね上げた。それがどれほどの快挙だったのか、その後の光景から知ることは出来なかった。ゾロは軽々とあしらわれた。

 あまりにも絶望的だった。誰の目にも明らかで、通夜のようにその時を待つしかないように思えた。

「折れ、折っちまえ」

「そうだ。折れ!!」

「お前なら出来んだろ!?」

 目的が変わっている。だが、勝負に玩具を持ち出したのは鷹の目だ。剣士である以上、握ったそれに誇りと命をかけるのは当然。実際がどうであれ、それだけで勝ちを宣言しても文句は言えない。

 剣士としての力の差など、とっくにわかっている。それでも嵐のように剣戟を浴びせるゾロは、もしかしたらと思わせた。

「なるほど。面白い」

「スかすな。降参やろ? 見誤ったんやろ? マジで折られる五秒前!!」

「ちょっと黙れ」

 ゾロ本人から苦情が入った。鷹の目は笑っている。

「その通り。遊びのつもりとは言え、負けるところだ」

「よっしゃッ!! 勝った!! 第三部完!」

「ルフィ、頼む」

「よっし、大人しくしろ」

「ちゃんと見せてやるから、な?」

 龍驤は猿ぐつわされた。鷹の目はツボっている。

「認めてもらったなら嬉しいね。で、どうするんだ?」

「我が最強の黒刀で沈めてやろう」

 世界一の剣豪が、本物を抜いた。ゾロは一度、口の刀を外して、息を吐く。

「貴様こそどうする? なんなら、ここで終わりにしてもいいぞ? 俺に勝ったと吹聴するがいい」

「それもいいな。人気者になれそうだ」

「わかっていよう。お前は負ける」

「あのうるせえ奴な。転生者なんだってよ」

 ついに鷹の目は爆笑した。

「そうか! 死を恐れるどころか、来世まで続けるか!!」

「まぁ、そこまで気が長い方じゃねぇ。ここで決めるさ」

「名は? 強き者よ」

「ロロノア・ゾロ」

「憶えておこう」

 ゾロの奥義は鷹の目も冷や汗をかいた。しかし、結果は完全かつ完璧な敗北だった。ゾロは鷹の目に、傷一つつけられなかった。両手の剣は砕け、口に咥えた剣だけが残った。

 そう、勝負はついた。だが、二人にとってはそうではない。

 ゾロは剣を納め、ふり返るのは鷹の目と同時だった。

「なんでや!?」

「背中の傷は、剣士の恥だ」

「見事!!」

「ゾロぉ!!」

 高く血飛沫が舞った。悲鳴を上げたのかどうか、覚えはない。

 ルフィが突っ込み、ヨサクとジョニーが助けに向かった。龍驤は艤装を展開した。

 この世界に来て、初めて、本気で。

「どけ、ルフィ」

 余裕綽々だった鷹の目が身構えた。腰のアームと、襟回しに備えられた、12門、24挺の砲が狙いをつける。

「死ね」

 慌てて飛びのいたルフィ。それが銃声か、砲声か、それとも別の化け物の咆哮なのか。そもそも、音がしたのかさえ確かではなかった。

 龍驤の目前にあった全ては、塵と化した。

「どんな悪魔の実だ?」

「異世界転生や言うたやろ」

「そうだったか?」

 異世界は言ってない。鷹の目は自分の船の上で楽しげにしていた。ゾロが引上げられた。ウソップが息のあることを確認した。龍驤はツバを吐いた。

「忘れるな。引き分けやぞ」

「慢心の対価だ。心しよう」

 龍驤は走った。

「酒や!! ぶっかけろ!! 湯も沸かせ!! あるなら、豚の内臓持って来い!!」

 それからの男たちのやり取りなど、龍驤は聞いていない。肋骨は割られ、心筋までほんの僅かなところまで斬り裂かれている。筋肉は当然。出血はもちろん、傷に海水が入り込んでいる。

 致命傷な上に感染の恐れさえあるのだ。なんなら、既に全身へ運ばれたかも知れない。大腸菌だろうと、それが脳に届けば終わりだ。

「抗生物質は!? ペニシリンは!? 鍋の青カビはぁ!! ウチが磨いたんやったわ、クッソタレがぁ!!」

 自分が転生した世界に向けて呪詛を吐きながら、龍驤は手を動かした。ウソップは圧倒されながら、よく手伝った。

 妖精さんたちが顔を見合わせながら、ヒソヒソと話し合っている。

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