「なんや、あのずんぐりむっくり」
小さな湾の中に停泊する船を見て、龍驤は頭痛を堪えるように呟いた。ちなみに、彼女もどちらかといえば、そう評価されている。
船というのは細長いものだが、どう見ても丸っこい。
長さと幅の比というのは、船足を決める重要な要素なのだが、なんかもうめちゃくちゃである。
掲げているものを見るに海賊船なのだろうが、あの様子で追いかけたり逃げたりするのは、だいぶ苦労しそうだ。
「竜骨? アレのせいでむしろ長さが確保できんのでは? あ、喫水線? そこで比率稼ぐの? つまり、めっちゃ浮いてる? え?」
「ヨシ、行くぞ!!」
「ちょい待ちや」
難しい呪文を唱えはじめた龍驤を無視して、とりあえず突撃しようとするルフィ。その首根っこを押さえる。
「何するつもりや?」
「食糧とか分けてもらって。あとは勧誘?」
「お前が目指すんは乞食か。奪わないんかい」
「頼めば大丈夫だろ?」
「キミならどうする? いや、そんな悲しい顔をすんな。イヤなんやな? でも、分けようと思うんやな?」
龍驤が嫌だ。なんでこんないいコが海賊目指しとんねん。
荒事が出来ないとも向かないとも思わないのだが、基本的に善人なのだ。ごく普通に略奪など出来そうにない。むしろ、親切にしそう。ただ、迷惑もスゴいかけそう。
ところで、龍驤は空母である。軽空母とか言われるが、一万トンクラスの戦艦だ。見た目は子供だが、力は強い。
「これ被り」
空になった樽をルフィに被せる。
「え?」
「ヨシ!!」
それをひっくり返して、ルフィが収まったら蓋をする。
「行って来い!!」
「何なんだ?!」
海賊船の向こうにある、倉庫のようなものに向けて蹴り出す。多分、届かないが、波が寄せてくれるだろう。
「なにが正解かわからん」
海賊などになってほしくはないが、それが夢だと言うなら叶えてほしい。略奪なら止めるが、ケンカなら仕方がないと思える。その結果、ちょっと物のやり取りがあっても許容範囲だろう。
とりあえず、正面からこんにちはするのは、恥ずかしくて付き合えない。判断を保留するためだけに、カナヅチを樽に詰めて海へ蹴り飛ばした。
ド外道である。
龍驤は混乱から立ち直っていなかった。
偉そうに言ったが、情報など自分のような不思議生物を許容出来る世界であることと、海軍ぐらいしか秩序を保つ勢力がなくて、海賊や山賊が跋扈し、経済的に限られた取り引きしか成立せず、統治能力が衰えて、地方軍閥が生まれているだろうぐらいである。
泣きたいぐらい末期だ。織田さん家があれば駆け込みたい。
ボートの上で三角座りしながら観察する海賊船の、航行における合理性と技術レベルは、一部近代に迫りながらも、下手したら中世という謎な様相。
あの帆の染色とか、化学はそれなりな気がするのに、見える大砲は後装式で、その割には冶金技術がしっかりしているのかキレイに輝いていて。
「ああ、もう!! わからん!!」
すっごいVの字に船体を作るというやり方は近代になってからだが、その代わり下部に船首バルブを付ける。これは浮力が重心で均衡するからで、全体の形としては寸胴でしかない。
つまり、幅は変わらないわけで、船首がどんな形でも関係ないのだ。そのハズだ。
「やっぱり、竜骨か? 竜骨が鍵なのかな?」
竜骨というのは本来、中国の技術であり、洋船では使わない。だが、見た目が洋船なのだから、製造過程で生まれた構造ではなく、実用が求めたのかも知れない。
なんか不思議素材ですっごく浮いて、頑丈な木材が船体を貫いていないと耐えられない海があるらしい。
速度を犠牲にして、幅を確保しないとならないような。
「もしかして、ウチ、役立たず?」
そんな地獄のような海で、飛べるのだろうか。というか、補給とかは。
真っ青になっていると、頬をツンツンされた。妖精さんが親指を立てている。
「あ、大丈夫なの?」
だからといって、安心は出来ない。前世でも飛べない天候はあったし、補給は大変だった。
「ウチこそ海賊やらないとダメかも」
船というだけで金食い虫の大食らいである。大きな組織の後ろ楯でも得られなければ、誰かから奪うしかない。
不安だらけである。ハマ生まれが顔を出すぐらいに。
どれだけ論理的思考を回そうとも、それを圧倒するファンタジーと現実がのしかかる。
「提督、艦長」
知らないはずの知り合いが何故か頭に浮かぶ。しかし、縋るものはそれしかない。
「加賀ぁ、赤城ぃ、鳳翔ぉ、みんなどこにいるの?」
この広すぎる海で一人だ。顔を伏せて、うずくまる。妖精さんが心配そうに寄り添った。
彼女はしばらくそうした。
「出れたぁー!!」
ルフィが到着した。龍驤は顔を上げ、海に降りる。
ウィンチを繰り出し、ボートと繋げると、海賊船に向けて走りだす。
倉庫があった方向とは逆に大きく迂回しながら、近づいていく。甲板に動きがあり、海賊船から人が降りていく。その船自体を影にしながら、おおよその人間が向かったのを確かめた。
巻き物を広げて偵察機を一機だけ向かわせる。ルフィが屋内にいることを感覚で把握して、辺りを観察する。
陸には小型のヨットがいくつかと、テントや掘っ立て小屋のような集積場がある。見た限り武器の類は少ない。置いてあるのは、酒や食糧ばかりのようだ。
民間船の積荷を捌くような力はないらしい。ここも一時的な休息地だろう。それでも、一月かそこらは根城にしているようだ。かまどらしきものがあり、複数の焚き火跡がある。
「資材にして」
曳いてきたボートを妖精さんに与える。今さら、手漕ぎボートなど許さない。
海賊船の錨に取り付き、登っていく。甲板には船番がいたが、気を抜いているようだ。船縁を伝い、隙を見て船内に入る。
「悪趣味」
ピンクなのにゴテゴテしていて、ハートがあっちこっちにあって、ケバいという印象しかない。こんな船に乗っていたら、気が狂いそうである。
外から見ていたので、おおよその構造はわかる。一番スペースが取りやすいということで、おそらく目当ては船尾だろう。
もう少し技術が進んだり、帆船でなくなると、舵や通信室の近くになるとか考えていたら、目の前に舵がある。
「室内なのに」
操舵手に波とか風とかを確認させる必要を、この世界は認めていないようだ。むしろ、雨風から保護しようという気概を感じる。確かに、舵を失うというのは恐ろしい。船の形状を見るに、横波に対する警戒が強いのだが、その上でこれとか、槍でも降るんじゃないかと思える。
「今はええ。情報や」
船長室に鍵はかかっていなかった。バカかと思ったが、なんだろう。豪華ではあるのに、金目のものがない不思議。本もないし、ケバいピンクの内装は、派手ではあるがただのペンキを塗った家具である。
普通、彫金が施されたようなものを使うだろう、船長なら。
思わず金庫を探したが、ない。
隠してもない。
海賊が貧乏でも驚かないが、この様子だと部下への金払いがいいのだろうか。実はホワイトな労働環境なのでは、と希望を持ちかけたときに見つけてしまった。
龍驤は深刻に眉根を揉む。
「新聞とファ・ッ・ショ・ン・雑・誌」
カラー写真付きである。
印刷技術の歴史は古い。判子もそうだし、カラー印刷の最先端だった浮世絵の国が出身である。
それでもだ。
「レンズの発展経緯ってどんなんやったかな」
やはり、化学の分野は進んでいそうである。様々な素材と加工についても、なんなら前世よりも高い技術があるのかも知れない。逆に言えば、航海技術関連だけ、未熟なのだ。
海賊なのに、海図の一つもない。大きな地図はあるが、周辺海域の大雑把な位置関係しかわからない。
「どうやって航海しとんのやろ?」
まさか、ルフィが普通だったとは。恐ろしい発見である。
もちろん、経験則というのもバカには出来ない。だが、この地図から見える海は、太平洋諸島地域に似た配置だ。
ランダムにある島は、列島のように巨大プレートのありかを示す規則性がなく、船出すれば即、外海だ。
磁石の偏差がないぐらいなら許容出来るが、縮尺がない時点で首を傾げざる得ない。
大雑把な方角しかわからない状態で、なんの指標もない海を、距離もわからず、風を頼りに進むのは、本当に危険だ。
これに渦潮が突然現れる海流と、船の形状から予測出来る波や風の動きを考えると、手漕ぎボートが最適解という。
技術がなくても、体力さえあれば大陸間移動も可能な方法ではあるのだ。
「いや、そもそも海に出るなと」
それもそうかも知れないが、そういう地域がどう扱われていたのかを誰よりも知っている。
あの時代の列強はそれを押さえ込むだけの力があったが、この世界は。
逆になんで航海術なんかをルフィが目にすることが出来たのか、非常に謎である。
「いや、違う。漏れとるから、こうなんや」
裏切り、反逆、反乱、堕落、腐敗、その他諸々。いわば、海軍が海賊なのだ。龍驤の世界でも、海賊といえば略奪ではなく、リクルートが主だったりもした。
そして、技術。
優れた文明はよいことに思えるが、便利を知った人間は後戻り出来ない。
なのに、人も、物も足りない。維持出来ないのだ。
そんな状態で移動手段を得たのなら、次に起こるのはエクソダスだ。または、ゲルマン人の大移動。さぞ、奴隷売買が盛んなことだろう。
異世界転生的な意味で身元不明な龍驤とか、危険である。
幸い、新聞や雑誌など、情報媒体さえある。これなら、なんらかの通信手段も存在するかも知れない。
龍驤は見落としがないか部屋を、見渡す。
そして、ゆらりとそれに近づいた。それは怯えて冷や汗を流す。
「当ててやろう。貴様の名前は、電伝虫や」
大正解であるが、目が死んでいる。人に慣れたどころではない生き物として、決して自分からは逃げないはずが、出来もしない後退を試みるぐらいに、龍驤はヤサグレていた。
ヤサグレてはいたが、優しく持ち上げて艤装にしまった。妖精さんが喜々として解析してくれるだろう。
「真面目に考えるな。ここはファンタジー。ファンタジーなんや」
でも、夢ではない。大陸がもう一つあれば、火を吹く蜥蜴ぐらい普通にいてもおかしくはない。狼やイルカやクジラだって、遠距離で交信する能力を持っている。
大丈夫。龍驤は正気。そう言い聞かせる。
気分を変えるために、ルフィの方に意識を向ける。通信手段なら一応、彼女にもあるのだ。人間には使えないが。
「何をやっとるんや?」
ルフィは樽といっしょに何故か吹き飛んでいて、それを何故か吹き飛ばしたらしい海賊が探している。
人間をホームラン出来るその身体能力も驚きだが、それでピンピンしているルフィはゴムだからで納得してしまうべきか。
というか、何故まだ樽から出ていない。どころか大笑いしているのは、まさか樽で飛んで転がって行くのが楽しかったのか。
会って数時間で印象はコロコロ変わったが、あんな楽しそうに笑う少年だったか。
「邪魔したかな?」
心を開かず、無茶をする人間の上を行く無茶でマウントを取った。主導権を握るためだ。
異世界で、何に頼るべきかもわからない。身動きすら取れない状況で、成り行きで助けた。恩に着せるつもりはないが、正直、不本意だった。
恩に着せるつもりがないのだから、こんな厄介なヤツとはさっさと別れてもよかったのだ。義理の果たし方は、いくらでもあるし、なにより海での出来事だ。
救難を見過ごしてはならない。それは鉄則だ。
親しげには振る舞ったが、こちらの警戒感は察していたようだ。それでもいつも通りの態度だったのだろうが、そうした駆け引きなど面白くはない。
面白くはないが、付きあってくれた。意識的ではないかも知れないが、逆にそれが自然に出来る心根の持ち主ということでもある。
「そういや、キミも寂しがりか」
同情か共感か。悪党を目指すようだが、悪童にしかなれない気がする。せっかくの船出を、そうした心遣いで台無しにしてしまったとしたら申し訳ない。
ああやって、何もかもを笑い飛ばして、凄惨なはずの殺し合いすら、楽しい祭にしてしまう。それが出来るなら、こんな世界で、そんなふうに生きられるなら。
龍驤は首を振って妄想を断ち切った。
笑うルフィに桃髪の少年が近づく。その髪色にちょっと表情が暗くなったが、些細なことだ。
他の海賊がまだ居場所を把握していないのに、まっすぐにルフィの元に駆けつけるとは、なかなか目がいい。
先程、ルフィ入りの樽を拾った少年だ。だとしたら、目の前でルフィが飛んだ方向をキチンと見定めて、そこから飛距離を計算したことになる。
身体はダルダルだし、仲間も連れていないので脅威ではないだろうが、無意識でもそれが出来るならなかなかのものだろう。
というか、本当にこの世界の住民は人間なのだろうか。殴り合いだと勝てる気がしないのだが。
そもそも物理法則は、と考えてやめた。この世界はファンタジー。自らSAN値を削る必要はない。
どうやら、若い青春の一幕を繰り広げているようだが、邪魔者が集まっている。どうしようかと思ったが、ルフィのケンカだ。蹴り出したのは自分でも。
仮にも王を目指すなら、この程度はどうにかするだろう。こういうチンピラの集まりは、一番強い奴をぶちのめせば終わる。
数を頼みにしたところで無意味なのだ。彼らにとって暴力は、自分たちの優位を見せつけるためのものだ。暴力そのものは嫌いなぐらいで、強い相手に見せつけられると引いてしまう。
そこでワクワクしたりはしないし、喜んだりもしない。
それもわからず、状況をコントロール出来ないなら、故郷に送り返すしかない。
だが、見届ける必要もないだろう。とりあえず、報酬の先取りというか、恐喝の共謀というか、ここにある物資を確認しに行こう。
ヨットはもちろんのこと、索具の予備とか、武器とか、当然、食糧に水もいる。
どうせ、ルフィにはそうした知恵もずる賢さもない。旅は道連れということで、親切にしてやろう。
龍驤ちゃん優しいとスキップしながら甲板に出ると、船番が目を丸くしていた。龍驤は美少女なので、にっこり笑って手を振ると、振り返してくれた。
そのまま、船を降りる。船番は混乱して、しきりに目を擦っている。
「あ、井戸ある〜」
一月ぐらいだと思っていたが、もっと長くいるのだろうか。その割には混沌が足りない気がするのだが。ゴキブリなんかと同じで、こういうのが住み着くと、それはもうヒドいことになるのだ。そうではないというだけで、この海賊団の評価が上がった。
適当な樽を見つけて、それに汲んでいく。海で釣った魚はやはり干物にもならない感じなので捨てた。あんな脂まみれの魚は無理だ。
干し肉と、少しの青菜や果物と穀物。あんまり火は使いたくないが、乾き物を口にすると水の消費量も増える。なら、精神衛生上も、ちょっとした調理が出来た方がいいだろう。
見ると、ちゃんとゴミがまとめてある。量から、別の場所に穴でも掘ってあるようだ。しかも、分別までされていて、廃材などの燃料、鉄くずなどの金属、その他になっている。
「海賊ってなに?」
そういえばヤクザ屋さん稼業も、これぐらいきっちりしていたか。思ったよりモラルハザードは進んでいないのだろうか。
自分の推測に自信はあるが、そのままその通りとも思っていない。ズレがあるならそれは前世と明確に違うということで、重要な情報になる。
鉄くずの中に、使えないフライパンがあった。鍋がよかったが、代用出来るだろう。
「もしかして、どっかに売る?」
それでもゴミはゴミだ。残りは資材として確保しておく。
「何してんだ、オメェ」
「あ、ルフィ。船もらった?」
「ああ、貰ったけどよ」
「じゃ、積み込み手伝ってな」
なんかぞろぞろ引き連れてやってきたが、そこであれこれ漁る少女を見つけて全員が戸惑った。代表してルフィが尋ねると、あっけらかんと略奪していく。
呆れている方が海賊だ。
「えっと、ルフィさん。こちらは?」
「龍驤だ。一応、仲間? なのか? 渦潮から助けてもらった」
「ええ?! 渦潮?!」
「いややわ。まだ口説かれてへんで」
「病気か?」
「本当に失礼なやっちゃな」
「ああ、大丈夫か」
「この程度のボケに対応出来んで、船長なんか出来るんか?」
「オレの知ってる船長じゃない」
「航海術も知らん奴が何を知っとんねん」
「それでもだ!!」
ルフィが強く反論すると、驚いた龍驤はニタリと笑み崩れた。
「あ、ムキになった? ムキになっちゃったんだ?」
ぶすっとルフィが黙り込む。
「まぁまぁ、初心者さんやからな。経験豊富なこの龍驤ちゃんが、ちゃーんと一から教えてあげる。安心し」
「いい、自分でなる」
「おお! 立派やでぇ。応援したるからなぁ」
「なんか、嫌いだ。お前」
龍驤はケラケラ笑った。そして、桃髪の少年に向き合う。
「ウチは龍驤。異世界の不思議生物や」
「い、異世界? 不思議? あ、ボクはコビーです。ルフィさんには助けてもらって、あの、海軍になろうかと」
「海軍!! そら立派やな!! ええでええで。ほな、船出のためにも手伝ってや。とりあえず、その辺に見繕ってあるから」
「え、あ、ハイ!!」
「何持ってくんだ?」
「干し肉と水。野菜に果物。ロープ一巻きにナイフに、フライパン。雨具やなんかの防水布と、毛布」
「コンパスはボク、持ってます」
「龍驤ちゃんは分度器も搭載しとるで」
「もしかして、六分儀ですか?! そんな高価な品を?!」
「なんや? 航海術に興味ある?」
「いえ、海に出るなら必須技能だと思うのですが」
ルフィを見るとニッカリ笑って、コビーを指差す。
「こいつおもしれぇんだ。釣り船と間違えて海賊船に乗って、二年も航海士やってたんだぜ?」
「そやの?」
「航海士ってほどでは。雑用係がメインです、ハイ」
つまり、この少年がドジをするまでナシで活動していたと。
「ボク、要領が悪くて、根性も」
「ルフィ。相手はのしたんか?」
「ああ、ぶっ飛ばした」
やはり殺していない。海賊には向かないと思うのだが。
「よぉ聞き。キミらもや」
後ろの方でビクビクしている構成員たちにも声をかける。
「ここの船長はなかなかの人物や。航海術も持たんと船を動かして、航海術を持ったら拠点を設けた。二年、ここに荒くれが住んで、この片付き様は高い統制の証や。普通、住めんなる。その上で逃げきっとる。頭も切れるんや」
縮こまる少年の肩を掴む。
「単なる賊やない。ちゃんと組織を回しとる。胸を張り。自慢は出来んかも知れんが、この船でやれたんなら海軍でも通用する。今は弱いかも知れん。バカかも知れん。だが、キミら根性はあるで」
「へー、スゴいんだな」
「掃除ってな、舐めたらあかんで。出来ん奴に仕事は任せられん。軍に入ったら最初に叩き込むんや」
これと身嗜みは常にチェックされる。高いモラルを持った組織は、実力を発揮しやすい。
「く、詳しいんですね」
なんか海賊たちが喜んでいる。どこかで倒れているだろう、船長を放っておいて付いてきた奴らだろうに、現金なことだ。
ちなみに、龍驤はルフィを見つめている。ルフィはそっぽを向いている。
龍驤はそんなルフィを覗き込んでいる。ルフィは身体ごとそらしている。
龍驤はやめない。ルフィは下手な口笛を吹いた。
龍驤は許さない。ルフィも負けない。
「あ、あの、その辺で」
「チッ、覚えとき」
「ハッハッハッ。助かった」
「お、早速人助けとはやるやないか」
「い、いえ」
「でな、もう一つどうしても聞きたいことがあんねん」
「なんだよ?」
ちょっと不貞腐れながらルフィが龍驤に向き直る。青筋が見えた。
「海軍志望の子を連れて来とるということは、次の目的地は海軍なんやな? そうなんやな?」
「い、いいじゃねぇかよ。なんか、面白い奴がいそうなんだ」
「あー、海軍にいて、仲間に出来そうで、あー、さっき見たな。賞金稼ぎやのに捕まった奴。二つ名が海賊狩り」
「そうなのか?」
「え? あ、ロロノア・ゾロですか? え? ゾロを仲間に?!」
「強い仲間がいるんだ。いい奴だったら誘おうと思って」
「どこまで考えとる?」
ルフィは首を傾げた。
「殴り込み?」
「ヨシ! 充分や。ウチも付き合ってええか?」
「構わねぇけど、怒ってたろ?」
「ウチには常識がある。それにキミが付き合う理由は?」
「ねぇな。俺は俺のやりたいようにやる」
龍驤はルフィを褒めるように笑う。
「なら、ウチが下手に出んとな。キミは船長なんやから」
「痛い」
ルフィをつねりながら言った。ヒドい言行不一致だ。
「どうせ言うことを聞かへんし。龍驤ちゃんは賢いんや」
「痛い痛い」
「しょうがないから、ウチがケツ拭いたげる」
「いらねぇよ!!」
「勝手をするキミが、ウチの勝手を止められるか? ほ〜れ、力ずくで振り払ってみぃ」
龍驤は少女である。華奢で、とても小さい。そして、ルフィは強さに自信があった。ものすごく気に入らないのだが、吹けば飛ぶような彼女に乱暴をするのは躊躇われた。
「どや? コビーもやるか? めちゃくちゃ伸びてオモロイで?」
「え、えっと」
「やめろ、コノヤロー!!」
それでも堪忍袋の緒が切れた。龍驤に合わせて屈んでいたのを、無理やり背を反らす。
「わぁ、怒ったぁ」
龍驤は素直に手を離し、逃げ出した。海岸から海にでて、カナヅチ故に追えないルフィを煽り倒す。
ルフィもさっきの躊躇いを捨て、殴るか捕まえるかとゴムの腕を伸ばす。龍驤はそれを軽々と避けた。ルフィはさらに頭に血が上る。
「よぉ、どれ積むんだ?」
「手伝うからさっさと出てけよ」
「あ、ハイ、すみません」
呆れた海賊とコビーの間に、ちょっとした友情が生まれた。
三人はスムーズに出航した。