龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

21 / 129
グランドライン突入!!
閑な話で休む題


 ナミが新聞に文句を付け、ウソップが妖精さんを連ならせて新しい兵器開発に勤しむ。

 メリー号に移植したミカン畑を巡って、コックと食いしん坊の攻防が繰り広げられた。

 この戦いが、長い航海を象徴する因縁の対決になるとは、誰も思っていないけど、多分そう。

 ゾロは寝た。

「ちょっち、上で悪巧みしてくるー」

「ウェーイ」

 龍驤はマストの上に陣取った。一味の許可も出たし、もう全然遠慮しない。

 風はまさに順風満帆。龍驤のツインテールも膨らませて、気持ちよく通り抜けていく。

 そんな風の中でも紙の巻物と形代が、宙に浮かびながら次々と発艦していった。

 妖精さんの乗る艦戦に変化して、空に吸い込まれるように上昇していくと、解けるようにメリー号の周囲に散っていく。

 それを見届けて龍驤がストンと腰を下ろすと、スッポリ隠れて見えなくなった。懐から取り出した電伝虫は眠っていたのか、目を瞬かせながら龍驤を見上げる。

「お食べ」

 野菜クズや、芽かきしたみかんの新芽なんかを与える。カタツムリにしては丈夫な歯で、それらを食べる電伝虫を、龍驤は笑顔で見守った。

「美味しい?」

 電伝虫は返事の代わりに、満足そうなゲップをする。龍驤はニッコリ、一撫で。受話器を取る。

 旗の登録なんて、単なる手続きだ。麦わらの一味は、血縁と暗躍で海軍と強固に紐付きである。

 遥か海軍本部へ、通話を繋ぐ。

 きっと宇宙には、巨大電伝虫の親玉がいるに違いない。

 

 

「センゴク!! 茶ぁッ」

「知るかッ、この自由人!!」

 恒例と言ってよいのか、東の海から帰還したガープが、数の少なくなった同期であるセンゴクの元に茶をしばきに行くのは、ほぼ毎回のことである。

 言ってはなんだが、それぞれもはや老齢の身。互いの地位や立場がどれほどのものであろうと、この会談に注目する人間などいない。

 むしろ、破天荒なガープと、それを友人として許すセンゴクの、人間的な愛嬌として歓迎されていた。

 海は四つ。グランドラインを別に考えれば五つある。三大将制も画期的ではあったが、人手の足らないこのご時世。ガープがどれだけ問題を起こしても、昇進の期待はなくならない。

 賢明なセンゴクならきっと考えているだろうと誰もが思うのと同時に、政府との折衝など難しいこともあるのだろうと、勝手に忖度して飲み込んでいる。

 その代わりが、こうした個人的な付き合いなのだろうと、増えに増えた中将たちは了解していた。ある意味でこれ以上がない地位にあって、認められる機会とは上司であるセンゴクの態度だけだ。

 海軍にも世界政府にも不満はあるが、その不満を晴らすガープを厚遇するセンゴクには、満足している。

 それが、世界最強勢力を纏めている原動力だった。

 盛大なため息や、渋々といった態度を崩さず、休憩という形で人を遠ざける。茶もちゃんと自分で入れた。

「早かったな」

 ソファに座るなり、センゴクは切り出した。拙速に見えるが、東の海は平和の象徴。動きがあるのなら、気にならないはずがない。

「ちょっと急がねばならんようだ」

「やり過ぎたか? 暇そうにしていたから鷹の目を当てたが、過剰だったか」

「それもそうといえば、そうじゃが。なんというかのぅ。孫が船出した」

「またか、お前!!」

「止められんじゃろう、そういうの。やっても歪む」

「ウソつけ!! どう考えたって真っ直ぐ過ぎただろうが、お前の息子!!」

「子育てって難しいのぅ」

 ガープは涼しい顔で茶をすすり、センゴクは荒々しく煎餅をかじった。

「それで?」

「活きのよいのを二人連れて来た」

「そこは好きにしろ」

「連れて来た経緯なんじゃが、カクカクシカジカでな」

「端折るな!!」

「報告書は出すわい」

「孫が関わったのか?」

「そうなんじゃ」

 詳しいことはわからないが、親友が言及してくるとなれば、厄介なのだろう。本当にこの一族は、と眉根を揉んでも頭痛がよくならない。

「で、まぁ、バギーに手を出して、ヤツのグランドライン入りを決意させたっぽい」

「あの小僧か」

「ホンモノの道化じゃからなぁ」

 こんな時代に踊られては、なにを巻き込むのかわかったものではない。

 眼鏡が重い。

「そんで、隠れとった百計を炙り出してぇ」

「は? 天然で剃を使うとかいうアレを? 生きていたのか?」

「クリークに完全にトドメを刺してぇ」

「はぁ? ヤツの壊滅のためにと、やっとのことで戦力を集めたんだぞ!?」

「大丈夫じゃ。懸念だったアーロンパークも落ちた」

「それはそれで、どうするんだ!? 東の海から平定していく流れだったろう!?」

「いや、こうなったらワシがちょっと散歩したらなんとかなるんじゃないか?」

「やった!! 戦力が浮いた!! ってなるかぁッ!!」

「ドンマイ」

「笑ってるんじゃないわぁ!!」

 血圧が心配である。茶を勧めて、一旦心を落ち着けさせる。空になった碗に注ぎ足し、バリボリしながら、センゴクが息を整えるのを待った。

「なにが起こっている? いや、お前の孫なんだ。全部、偶然だって驚かん。だが、こうして貴様が来た以上、なにかあるのだろう?」

「それなんじゃよ」

 そう言って電伝虫を机に置く。

「これは?」

「念のためじゃ。それよりも、コイツじゃ」

 地図である。流出してしまった東の海の全体図。図法としては、ある程度距離は正確であるが、方位のズレが著しい地図でもある。きちんと経験を積んだ者でないと意味がない地図だし、あまり一般的でもない。

 だがまぁ、一目見て頭痛がした。

 海軍というのは、それはもうシッチャカメッチャカである。

 そもそもとして、世界政府加盟国にはちゃんとした軍隊があり、レヴェリーに出席するぐらいの航海能力がなければならない。天上金の支払いがある。少なくとも、加盟には、マリージョアまでお伺いをたてに行けないと話にならない。

 だから、本来の海軍というのは、世界を股にかける割に小さな組織だった。現代のように士官学校を作るより、それぞれの支部や船の中で、徒弟制や従騎士制のような形で技術継承を行う方が、効率的なぐらいの規模だ。

 それがいつの間にやら、戦争だの反乱だの海賊だのでどんどん大きくなり、教育制度はもちろん、階級制度だってちゃんと整備も出来ずに今まで来た。

 おかげで、大将が三人しかいないのに、中将はめっちゃくっちゃ多い。当然その下の大佐とか中佐とかも、信じられないぐらい、たくさんいる。

 要は下士官を育てる前に、指揮官が死ぬほど生まれてしまったのだ。で、その指揮官というのはエリート士官じゃなくて、現場監督レベルの、親方とかお師匠様とか、そんななのだ。

 佐官でもう、社長とか会社役員レベルである。身分なんか、なんにも考慮されない。世界政府は天竜人で、各国の軍隊とは別なんだから、中立公正である。実力があればいいのだ。

 だから、大人気の就職先になって、人はどんどん入ってくる。

 すると、彼らを育成するために、どんどんベテラン兵が出世していく。

 悪循環だ。一度与えた地位を奪うのは、単なる理不尽である。

 しかも、大海賊時代という有事の最中。簡単には再編出来ないし、伝統とやらを打ち破る余裕もない。

 結果としてなんか歪な組織が出来上がったのだが、海軍が継承すべき技術とはなにか。

 重要ではあるが、操船技術も航海術も、なんなら砲術だって、船乗りなら持ってておかしくない技術だ。

 軍隊なのだから、当然、作戦とか戦術とか戦略といったものになる。

 そんなものは有事の際に、促成、促成でどんどん削られる分野だ。徒弟制みたいな、技術交流も共有も難しいやり方では、尚の事失われていく。

 失われちゃったのだ。

 センゴクの代にはまだ残っていたし、それはもう頑張ったのだが、教育を任せた中心人物が、なにかの陰謀に巻き込まれたみたいな不幸の連続にあって、頓挫してしまった。

 なんとか育てた三人も、ビジョンはあるが思想が強かったり、合理的だが気遣いが下手だったり、対処能力は抜群でも企画力がなかったりと、どうも物足りない。

 補佐出来る奴を育てようにも手が足りず、センゴクはとにかく勉強させることにした。

 普通、同格の軍人を集めると喧嘩しかしないのだが、会議と称して将官と佐官で溢れかえるような規模の説明会をしたり、訓練させたり、任務させたり。

 今回の件もブランニュー辺りにわかりやすく、簡単に説明させて、そこから戦術だったり、戦略だったり、あわよくば政治だったりを学んでくれたらいいなぁと思うのだが、この地図である。

 書き込みがいっぱいしてある。記号というか、整理の仕方はちょっと見慣れないが、多分、東の海で活動している海賊の活動範囲と、おそらく拠点としている島なり港街なりを絞り込んだ、ずっとあったらいいなと思っていた品だ。

 報告書はなんのためにあるかと言えば、情報をまとめるためである。

 敵である海賊が、こっちから来て、これぐらい活動して、あっちの方に逃げたという情報があれば、なるほど今、ここら辺にいるのかなと、推測するのが戦術眼というものである。

 もう、この報告書すらまともなものが上がって来なくなってしまった。特に地方支部なんか、日記じゃねぇんだぞと怒鳴りつけたいような代物で、これを精査して戦術なり戦略に組み込むとか、頭の痛くなるような作業量である。

 加盟国だけでも170あるし、グランドラインの単なる運じゃないかみたいなランダムエンカウントに、海賊なのか海王類なのか、他の不思議なのか、普通に沈んだのかも解明出来ないけど、上からアホみたいに言われて捜索しないといけない船があったり、海軍は忙しいのだ。

 そりゃもう、センゴクもおつるさんも、ガープだってクッタクタなのだ。

 年寄りなのに。

 それでも歯を食いしばって、やっとのことで東の海を平定出来る目処が付いたところで、ガープの孫が掻き乱して、挙げ句にこれだ。

 頭痛が痛いとかでは表現仕切れない、なんとも言い難い感覚だ。

「よし、わかった。こいつの信憑性なんか欠片もわからんが、使っちゃおう。集めた戦力で、この辺、適当に突撃しよう」

「落ち着け、センゴク」

「もう嫌だ‼ なんなんだこれは!? こんな芸術的なまでに詳細な戦況図、俺たちだけで検討するのか!? お前の孫関係ってことは、もう絶対、他に漏らせないだろう!?」

 道理である。

 参謀といえばドイツか日本かと言われるぐらい、悪名高いガチガチの官僚集団。アメリカ人に、逆に頭悪いんじゃねぇかと悪口言われるような悪魔を継いだ龍驤、渾身の親切である。

 シェルズタウンの金庫の中にあった。

 ガープは、これを見ただけでどれだけの情報が漏れたんだと途方に暮れた。支部にそんなあったかなと、それはそれでボガードさんが酷使されている。新人二人は、その余波を受けてボロカスになった。多分、いいことである。

 要はガープの直接指導だから。

 そのガープは英雄としてのイメージが強すぎて、士官とか軍人としての評価がない。

 もちろん、どう考えても普通とはまったく違う人種なのだが、そんなものは将官ともなれば、逆に普通である。

 常識で戦ったら、数だけで勝負が決まるのだ。どれだけ強い個人を用意したところで、社会から離れた人間は単なる獣である。

 キングギドラだって、みんなでリンチすれば勝てる。

 腹が減っては戦は出来ないし、泣く子と酔っ払いに勝てないのは、後先考えないからだ。

 泣く子と酔っ払いの功績が認められて出世したのだと思えば、将官って奴がどれだけとんでもないかわかるだろう。

 もしくは、そいつらを寝かしつける達人か。

 センゴクとガープとおつるさんが並ぶと、歳は同じぐらいなのに、一人だけ悪ガキに見える。

 ただ、悪ガキといえども軍人である。作戦とか戦術の基本である、移動がちゃんと出来ているから、まるで気軽にうろついているように見える。

 英雄と呼ばれたきっかけが防衛戦だから、身体を張った働きばかりが注目されるが、基本的に敵や海賊は沈めている。

 ガープの代名詞である拳骨は、その凄まじい愛ある拳ではなく、拳骨の如く浴びせられる、砲弾の雨あられなのだ。

 ぜひ真似してほしい。素手でやれなくても、軍艦には大砲ついてるから。値段のほとんど、そいつと装甲だから。

 ところが、真似するのは無作為に見えるパトロールだとか、高度な現場判断である事前命令の無視とか、海賊を生け捕りにする移乗攻撃だとかばかりである。

 マジで有能なだけに、本当に頭が痛い。

 そんなの全部、ガープだから出来るだけで真似したってなんにもいいことない。

 移動がちゃんと出来ないから、迷うし逃がすし、反撃されて沈んだり負けたり、損害だしたり。

 帆船って帆が動力源だから、真正面が弱点なのだ。つまり、真っ直ぐ追跡すると、常に弱点を晒してるのと同じなのだ。

 そこをウマいこと移動して、丁字有利とかに持っていくのが戦術であり、海軍の航海術だ。

 失われたけども。

 だから、どんなに功績を上げても、お前のやっていることはダメなんだと、人前で叱り続けるしかない。

 ガープだから許されるんであって、他の人間がやったら降格だよ、処分だよと脅し続けるしかない。

 そうすると逆にわけのわからん慎重さを発揮し始めたりして、世の中上手くいかないものである。

 しかも、それが通用するのはセンゴクのいる本部だけで、遠い支部であればあるほど、なんの効果もない。

 だって、変に慎重になる奴すらいない。

 勘弁してほしい。揃っているのは現場監督だけで、辺境で地域住民とか、周辺の国とか、行き来する商人たちなんかと円満に関係を維持しつつ、補給とか整備とか兵士の休暇とか、兵站を担える士官なんか、いないと言っているのだ。

 本部に行きたいと向上心を発揮すれば死ぬし、ここでいいやと腐れば、不正に手を染める。

 死んだ無能より、生きている犯罪者ということで目を瞑ってはいるが、頭だけじゃなく、胃も痛い。

 センゴクは、ガープとおつるさんが同期じゃなければ、絶対に元帥なんか引き受けなかった。

 大変過ぎる。

 そして、おめでとう。仕事だ。戦術とか戦略を失った海軍に、福音をもたらす特級呪物。龍驤の地図。

「泣くな、センゴク」

「どうすんのぉ、コレぇ」

 流石に茶化せない。マジでヤバい。

 こんな情報と分析力があると政府に知れたら、また誰か陰謀の如く不幸になってしまう。ガープならいいが。

「ヨシ、それとなく流すぞ」

「ええんか?」

「知らん、知らん。どうせ海賊なんだろ?」

「それが、賞金稼ぎとして登録の申請が」

「クソがぁッ!!」

 とっさに、茶と煎餅を救出する。センゴクも理性が残っていたのか、机を叩き割ったりはしなかった。

「なんなんだ、お前の孫?」

「孫じゃないんじゃよなぁ」

「なんだと?」

 遠い目をして煎餅を齧る戦友。それに倣って、なんにも考えずに茶をすする。

 ボリボリ、バリバリ、ズズっと、ジリリリン。

「ワシじゃ」

『あ、じいじ。久しぶり〜。元気だったぁ?』

「おう、おかげさまでな」

 可愛らしい声が聞こえた。じいじって言った。ガープがやに下がっている。センゴクは信じられないという顔でガープを見ている。

「誰だ?」

『あれ? お友達? こんにちは~。ウチ、龍驤っていうの』

「うむ、私はセンゴクだ」

 センゴクの眉が下がる。ガープは時間の問題だなと思った。

 二人のおじいちゃんと、少女の長閑なおしゃべりが始まった。

 平和だ。

 血が流れなければすなわち平和と考える三人が、電伝虫越しとはいえ、額を突き合わせて密談したのだから、間違いなく平和である。

 海軍元帥の一時の休憩に、相応しい時間が流れた。

 

 

 今日も元気にSAN値が削れた。

 ガープはわかっているだろうが、サービスである。

 センゴクだって理解していると思うのだが、自信はない。

 なんだ、孫の愛情に飢えてるって。

 龍驤にもちょっとわかんない感覚だ。

「島やで〜」

 下に声をかけると、新聞を持って騒いでいた。

「龍驤、見てみろ。俺」

「見ろよ、俺の後頭部」

 押し付けられた記事を見ると、写真付きで新鋭の賞金稼ぎとして紹介されていた。

 バギー撃退、クロ撃退、クリーク壊滅、アーロン撃破。第153支部の世直しにも関わったとされ、云々。

 ニゴリ、と龍驤が笑った。無邪気な能天気コンビがドン引きした。

「これもお前の仕掛けかよ」

「さぁなぁ。どう思う?」

「うん。もうちょっと普通に喜んでくれ。びっくりするから」

 船長の苦情に、前向きな返事だけする。

「で、寄るんやろ?」

「ああ、海賊王の死んだ場所」

「ロマンだぜ。卵も買いてぇ」

「はーい。じゃあ、お小遣い渡しまーす」

 一味が集合した。

「経費は別で出すから、サンジは後でな」

「ウェーイ」

「一番はナミさんです。役職手当てがたくさんです」

「やった!」

「ブーブー」

 なぜか船長と狙撃手のブーイング。みんなで生暖かく見守る。

「はい、お前ら。よっぽど欲しいもんでもなきゃ我慢やぞ」

「ヨッシャ!!」

「なに食おう!!」

「俺は剣が欲しい」

「あー、相場が難しいな。とりあえず、二百万渡すから、足りへんかったら前金にしとき。店の名前だけ控えとって」

「ウェーイ」

「はい、それじゃ船長。お願いします」

 ゴホンと咳払い。

「行くぞ、あの島!! 上陸だぁーッ!!」

「ローグタウンね」

 ツッコミもそこそこに、盛り上がっていく。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。