龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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王女様珍道中
お互いに慣れたらそんなもの


「磁場だけでなんもかも許されると思うなよ‼」

「いいから働け」

「一日休んでよかったわね」

「なんでウチだけなんや‼ おかしいやろ!?」

「まぁ、そうだけどな」

 龍驤のおかげで、非常識な天候や海流にも狼狽えることがない。狼狽えることがないだけで、死ぬほど忙しい。

 クロッカスさんは二人を近くのゴロツキ扱いしていた。

 ずいぶんと簡単に行き来が出来るような口調だった。

 全然近くない。こんなの海じゃない。

 三途の川である。

 ちょっとだけ、双子岬に海軍常駐したらとか思ったけど、絶対に無理だ。成功率50%以下の行程で補給が成立してたら、日本は負けてない。

 むしろ、灯台があるのも人が住んでいるのも謎過ぎる。統制されているのか、龍驤ですらこうした情報は得られなかった。間違いなく、世界政府と海軍の罠である。リヴァース・マウンテンもそうだが、知っててこの海域を突破しようなんて考えるのは、頭のおかしい人間だけだ。

 なんで捕鯨に来た。

「え? なに?」

 同じ賭けなら、普通はカームベルトを行く。この海域は避ける。潜水艦が跋扈する海へは漕ぎ出すが、台風や霧では取りやめるみたいに。

 スゴい常識人みたいな顔をしているが、ビビはルフィと同系統のなにかだ。それに付き合う⑨は、⑨だ。そんな二人と七武海が関わる事件に介入するとか、どんな大事件に発展してもおかしくはない。

 おかしくはないけど、なんでか船長がどこか興味ない感じなのはなんだろうか。世界とかそもそも興味もないだろうが、それにしたってちょっとは気にしてほしい。

 菊花紋を与えられた身として、賊に堕ちれば納得など期待は出来ないと覚悟したが、決してこんな意味じゃなかった。

 なんなら一番、賊らしいのが龍驤で、次点がナミ。男四人は単なる不良である。

 そこに仏様とそのお供が参加してきた形だ。

 どうしよう。偉そうに人間ヅラすんなとか言ったけど。ウソップすら勇気がないとダメだって状況を、人の甘さだけを頼りに王宮からこんな地獄に来て、全然、なんにも気にしてないんだけど。

 この場所を日常に出来る人間がお姫様やったら、絶対にダメ。

 ルフィが自分勝手なら、ビビは人想いの極致にいる。

 これで本当になにも殺せないほど甘ったれなら格好もついたが、賞金稼ぎだし、他人のペットを殺せるのだ。

 もちろん、ただ人を殺すよりハードルは低いが、こんな時代だとペットを含めた財産の価値というのは、まさに尊厳へ直結する。

 なくなったら、それまでの身分や立場がひっくり返ってしまうのだから当然だ。

 そして、尊厳とは人間らしさのことだから、人間らしい感情ともリンクする。怒りとか悲しみだ。

 それを人想いの極致がわからないはずもない。

 つまり、捕鯨したら双子岬に住む老人とか言う、明らかな化け物との敵対が確定するのである。

 それをちゃんとわかっているから、唇を噛んで見返してきやがるわけだが、それはいつもの、龍驤のやらかしに過ぎない。

 下手をすればペットが人間より価値のある世界で、島の名前を冠するクジラを、こんな海域を越えて、二人。

 成功したからって、どうするのだ。

 なんにも期待されてないのかと思えば口封じがいる。バカでなければ許可しない作戦だから、任務にかこつけて殺すつもりだったか。

 クロッカスさんに殺されるか、始末屋が手を下すか。

 どっちでも構わないということだろうか。

 その割に、なんか⑨が島に着けば助かると本気で信じてそうなのはなんなんだ。それも自分ではない。ビビを逃がす気でいる。

 どんな組織なのか、ちっともわからない。

 王女様に匹敵するお人好しが所属する、冷徹冷酷な秘密結社って、矛盾のお手本でも目指しているのか。

 考えられる可能性はなにか。

 ルフィの対極なら、島ごと影響下にあってもおかしくない。つまり、その島限定で組織が変質している。だから、⑨みたいになる。

 だが、お人好しがこんな危険な航海と任務、二人だけで送り出すだろうか。

 疎まれたとか、相手にされなくて二人かと思ったが、もしかして王女様、王宮だけじゃなく、島も飛び出してないか。

 お転婆とか無謀を飛び越えて、いや、国家転覆を謀る組織へ潜入する時点で手遅れだった。手遅れな人間なのだ。

 大砲をものともしない人類は、一京歩譲って存在してもいい。

 だが、三途の川を行き来するのはもう、紛れもない鬼か死神なのだ。

 お人好しで死神なら、それは異能生存体。

 流石の龍驤も、本物を後退りさせる自信はない。

 で、可能性としてはそれがいっぱいいる。

 なんか、会社を設立して、理想国家とか作るらしい。

 隊伍を組んだ、一千人のお人好し。

 怖い。

「余計なこと考えてないでキリキリ働け」

「ウチ、あそこで添い寝したい」

 ちょっとサンジが考えた。ゾロがいびきをかいている。多分、一生弱みを握れる。

「いいんじゃねぇか?」

「いいわけあるかぁ‼ ブレイスヤード、今度は左よ‼」

「舵を余所者が握っとるが」

「あの寝てるバカ以外ならなんでも使うわ‼」

「アレ、クジラか? もしかして、ラブーンの仲間じゃないか?」

「もう、アイツ目隠しして‼」

「航海士さん‼ 変な海流に捕まったわ‼ 舵が動かないッ」

「行って来い‼ 人外ども‼」

「了解、ナミさん‼ さぁ、ビビちゃん‼ 俺が来たからにはもう安心だ‼」

「ウソップ。メインはこれぐらいでええか?」

「オッケーだ‼ しばらく、保持出来るか!?」

「昼飯前や」

「腹減ったな」

 ゾロは最後まで起きなかった。

 

 

 ナミの航海術が一切通用しない宣言は、わかっていても衝撃だった。歴戦、熟練の龍驤を、勘だけで上回るような天才であり、能力なのだ。

 てか、あれだけなんか人を小馬鹿にするような態度だったエージェントコンビが、情けなく甲板に倒れ込んでいるのはなんだ。

 ちょっとマウントをとってみただけなのか、彼女らすら想定外の荒れ模様だったのか。

 慣れたら行けるんじゃないかという、甘い考えさえ捨てさせる。

 この海で海上輸送など、考えるだけ無駄だ。積載を確保された船ほど危ない。

 海上で船が転覆するというのは、船の大きさによって、ほとんどビルが倒壊するのと変わらない。波はアーロンみたいにそっと海面へ置いてくれないので、大変なことになる。

 だからもう、浮き輪と割り切って航海するなら、手漕ぎボートの方が安全だ。

 そんなバカなと思うが、そうとしか言えない。

 ここを巨大ガレオン船で進んだクリークはアホである。

 メリー号も遊覧船だが、まだ小さくてよかった。

 普通は波より大きく船を作ることで安全を確保するのだが、そんなのどうだっていい。

 なんでなんの前兆もなく、真下から波が発生するんだ。龍驤に墓はないが、慰霊碑はあるのだ。

「おう、龍驤。舵はいいのか?」

「起きたか、穀潰し」

 マストの天辺で見張りをする龍驤に、ゾロが声をかけた。妖精さんガードを発動しつつ、飛び降りる。

「島が見えるで」

「おい。だとよ」

 床にいる人間は無視することにした。ナミはその横にゾロを並べた。

「えげつい」

「教えたのお前じゃん」

 船長にすら突っ込まれた。ちなみに、実験台である。

 バルコニーに座っているが、舵当番だ。腕は伸びるし、余計なことしないし、船長も退屈しない三方善しの方策だ。

 あまりにも寄り道ばっかり提案するので、ここに安置された。

「お姫様を連れてるってことは、私たちも狙われる?」

「ま、なんとかなるだろ?」

「ルフィ。バロックワークスには、少なくともあと二人、ウチがおる」

「なに言ってんだ、お前?」

 ゾロもナミもわからなかったが、ルフィは理解した。頭の後ろで組んでいた手を解き、笑顔が消える。

「ホントか?」

「まず、クロコダイル本人。その、補佐。最悪、現場にも一人。

そいつがウチやなかったら、ゾロとサンジじゃ出し抜かれる」

「誰が出し抜かれるって?」

「ウチ相手は、勝てるやろさ。せやけど、知恵もないのにウチと同じことが出来るなら、それルフィかウソップやもん」

 なるほど、勝てる勝てないではない。なんかもう、予測不能。

 起きたサンジも嫌そうである。敵対なんかするものじゃない。

「お、おう。俺か? なんの話だ?」

「敵戦力の見積もり」

 ウソップが困惑している。自己評価が低すぎて、前提が共有出来ていない。流石に呆れて、みんな無視する。

 なんとなく、ルフィ以外にもわかってきた。

 嫌なことでも頑張って、わざわざ弱い仲間から殺しに来る。

 そういう奴が、敵にいるのだ。

 もしくは、死にものぐるいなだけで、最良の結果を引き寄せるバグ。

 それがルフィなら負けることもあるし、ウソップなら勝っても意味がない。だってバグだし。

 バグ以外なら勝てるってのも、もはやバグではある。

 プロの戦争屋として複雑ではあるが、これらを駒に出来る機会があるのかと思うと、どうしようもなく心が躍る。

 龍驤はいつもの愉快な雰囲気を捨てて、軍人の気分でルフィと対峙した。あらゆる困難、あらゆる理不尽を踏破し、命令に従う哀れな戦人形。艦娘にして、軽空母、龍驤。

「さぁ、どうする、ルフィ。ウチが考えてもええ。でも、お前が船長や。決断するのは、お前や。どうしたらお前は楽しい? さぁ、言うてみぃ」

 超楽しそう。

 珍しく真剣に悩むルフィの姿を見て、一味は本当に気の毒だと思った。

「なんか、良さげだな」

「は?」

「誰か仲間になんねぇかな」

「なるほど〜」

 確かに、龍驤の言うことが本当なら、クロコダイルの人事能力は高い。今の一味に匹敵する社員がいるのだ。リクルート出来たら、いいかも知れない。

「お前ら、本当に、なんなんだ?」

「そのノリ、ついてけないのよね」

「なんでや? めっちゃ、英雄っぽいやん」

「そうか? 悪役にしか見えないぞ?」

「ああ、プリンセス・ビビ‼ 怯えないで。俺があの悪魔から守って差し上げましょう」

「撃ってええか?」

「船が壊れるからやめろ」

 方針が決まった。

「じゃあ、サボテンに上陸だ‼」

「地獄八景亡者の戯れって落語があってな」

「ハイハイ、山に登るのは希望者だけね」

「山があったら登るだろ?」

「ウチはお弁当作って待ってる」

「持たせないのか」

「帰ってこんぞ?」

 どことなくソワソワし始めた男連中に、龍驤はナミと揃って距離を置いた。

 

 

 ウィスキーピークは真っ平らになりつつある。

 よって龍驤が妖精さんとの合わせ技でアンラッキーズを拘束し、双子岬の再現をしている。

「なにしてたんかな、キミら? もしかして、ウチの言ったことが理解出来へんかったのかな?」

 社長の言いつけで歓迎すると言いつつ、毒を盛ったせいで、キレた船長とコックが暴れ散らかした。

 あんまりにも酷いので、なぜかいた女子供がゾロの後ろに隠れている。一応、二重スパイだったということで伊賀乱波ッパさんは正座で許された。

 ビビがこう、お姫様らしい控えめさを発揮している間に、あっという間に宴になって、そうなった。

 龍驤とナミはニヤニヤしながら見守った。

 ちなみに、二人の怒りはまだ収まってないし、逃げられないので抵抗も続いている。Mr.9は向こうに参加している。

 なんでだろう。

 食の恨みは恐ろしいとも言うが、所詮はお仕置き。多分、この世界の住民なら死なない。それに、ミス・マンデーとMr.9の連携と気迫がスゴい。

 原因のお姫様、どうしていいかわからないみたいだけど。

 全然、話を聞いてもらえなくて、でも介入しようと頑張っている。ウソップが助けてやりたそうにウズウズしているが、狙うとなれば味方になるので迷っている。

 その後ろで、もしかして頼られるんじゃないかと待機しているゾロと、避難民。全員が空回ってて、ナミが笑い転げてる。一人だけ、酒飲んでる。久しぶりにツマミを作った。酒場だけは無事である。

「なんだ、これは」

「ウチに聞くな。バカのやることはようわからん」

 多分、この街の賞金稼ぎのうち何人かは、ビビを海賊だかなんだかわからない麦わらの一味から、助けようとしている。

 そして、麦わらの一味はなんだかんだ、ビビの味方をしようとしている。

 一部は社長とやらの命令に従ったけど諦めて、ゾロの後ろで身を寄せ合っている。中には、伊賀ラッポイさんと同じく事情を察して、安全な場所で見物している。

 必然だった気もするし、防げた気もする。

 初めから防ぐ気のなかった龍驤は、圧倒的な立場を利用して責任転嫁する。

「これが返事ってことでええか? なら、キミらの運命もわかるよな?」

 ラッコとハゲワシが抱き合って震えている。龍驤は笑顔で迫る。

「助かりたいなら、わかるよな?」

 ラッコがスケッチブックを取り出して、似顔絵や組織図をくれた。多分、龍驤というより、妖精さんに怯えている。

 それは正しい。

 妖精さんは、ビックリドッキリ変形メカに、二匹を改造したいと思っている。

「そろそろ最終段階やろうが、ここの奴に招集はないな?」

 頷く。

「ここに派遣されたのは?」

 ラッコがお手々を開く。

「5番か、能力は?」

 スッと爆弾を差し出す。

「あー、悪魔の実か。爆弾、ボムボムとか?」

 龍驤の手際に、

「ごめん、もっかい名前教えて貰える? ちょっとオモシロおかしく勝手に変形すんねん」

「変形? なんのことだか、わかりませんが。アラバスタ護衛隊長、イガラムです」

 イガラムが呆れ果てる。

 向こうでは勝負がついたようだ。お姫様がダッシュで手当に向かった。ウソップも手伝いに行った。ゾロはまだ、仁王立ちしている。

「オーイ、龍驤? なんか、変なの拾った」

 ルフィが5番とリア充を引きずってきた。

「捨ててき。バッチィから」

「わかった」

 現場の人間から絞れる情報など限られている。龍驤の手元には、連絡係兼仕置人がいる。お仕置きされてるが。

「よぉ、目をつけた。ここなら、この海域なら、バカを放し飼いにしても情報は漏れん。騙されてグランドラインに入るようなルーキーやもんな。なんの心配もいらん」

 三途の川のような海を越えて、ヘトヘトのうちに歓待されて、そうして金に変えられていった海賊がどれだけいるだろう。例え、逃がしたところで、そんな海賊になにがわかるだろう。

 まさに適材適所。人材活用の極みである。

「他の誰でも、ここは通らなんだ。通るとしたら、ルフィだけや。残念やな。実に残念や。そして、龍驤ちゃんがおるで」

 ナミもゾロもサンジも、ウソップさえも、船長の立場になれば考える。海王類をどうにかする算段を立てる。

 鍛えれば怪獣になれる世界で、天然の怪獣だけを恐れても仕方がない。あえて、鍛えてもどうにもならない危険にわざわざ立ち向かうのは、バカの所業だ。

 そうして、四方の海まで魔海となる。怪獣の巣窟になる。

 東の海が最弱とは笑わせる。弱くても、誰もまともに逃げ帰らなかったから、そうした裏口が裏口のままなのだ。あんなひっくり返ったような山が、いつまでも表玄関なのだ。みんな、ちゃんと命をかけて、ちゃんと死んだのだ。

 無謀。海賊王の生まれた海。

 そして、突破した。まだ、弱いとしても、小さいとしても、東の海の海賊が、グランドラインへ。

「お前とウチはおんなじや、クロコダイル。故に、ルフィには勝てん。ウソップにも、ゾロにも、サンジにも。ナミにさえな」

「ナミ、龍驤のネジ巻いとけ。壊れた」

「アンタがやんなさいよ。私はお酒を飲んでるの」

「よーし、よしよし。落ち着け。飴でも舐めるか?」

「サンジー、宴だぁー‼」

「オラ、起きろ、クソ野郎ども。一から、コックの基礎ってやつを叩き直してやる」

 ウソップに介護されながら、龍驤は高笑いを続けた。

 アンラッキーズ他、お姫様の救助活動は終わらない。

 




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無理
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