どんな物質も、密度を高めれば硬くはなる。
普通、その過程で発生する圧力や熱で変質するが。
ルフィの身体がゴムっぽくなるだけで、ゴムではないように、あれも蝋っぽいだけで、多分、蝋じゃないんだろう。
鉄の硬度だと自慢して、あっさり砕かれてた。
硬いだけじゃ、ダイヤモンドだって砕ける。粘りとかないと。
だから、粘っている。
3の人が辺りに蝋を撒き散らしつつ、硬さを操作して戦場を支配しようとしている。
柔らかければ、足をとられたり、攻撃が散らされたりする。
硬ければ防がれたり、邪魔になったりもする。
ワカメの人の援護で、飛び散ったり、燃えたり、蒸発したりした蝋も、一味の行動を阻害する。
火に炙られて生じた上昇気流に乗って、リア充が様々な情報を渡したり、真上から降ってきたりもする。
黄金週間がトラップを仕掛けて、ルフィが裏切ったり、和んだり、笑ったり、忙しい。
東の海だと伝説か与太話だった悪魔の実が、好き放題に使われている。
大量の蝋で溢れている。一人の人間から出てきたとは思えない量だ。
悪魔の実とは、そもそも質量保存の法則を取っ払う不思議なのだろう。
ならば、エネルギー保存の法則もめちゃくちゃになる。
ワカメの人の小さな鼻くそが、下手な砲弾を越える威力を発揮するように。
ウソップ、お前もなんだなと、裏切られた気がする。
それが悪魔の実の本質で、それ以外のゴムだったり、蝋だったりの形態みたいなものは、オマケに過ぎないのだろう。
ルフィがゴムを樹液だとか接着剤だとか色々知れば、もしかしたらあの3の人みたいなことも可能かも知れない。
アルコールで溶けたり、水で溶けたり、もっと弱点だって増えるかも知れない。
そんなことにならない、ある意味の都合のよさは、悪魔の実の性質を表している。
そのものになるのではなく、そんな感じになるのなら、本当の性質とは、そんな感じを実現することの方なのだ。
まさに、悪魔の力だろう。
ところで、質量とかエネルギーがなんなのか、実はよくわかっていない。物理学やらなにやら、相対性理論がどうたら言ったところで、なにについて論じているのかすら、人類はわからないままなのだ。
で、一応、質量というものは、どうやら空間を歪めるものらしい。歪めると重力が発生して、同じ質量同士を引っ張るらしい。
じゃあ、その引っ張る力となるエネルギーはどこから来たのか。質量が空間を歪めて、重力が発生するなら、質量保存の法則とエネルギー保存の法則はどうなるのだ。
重力を出し続けたら、エネルギーになって質量は無くなるのか。それとも、空間を歪めるとエネルギーが生まれるか、力に変換されたのか。
とにかくわけがわからないが、空間を歪めるのが質量なら、エネルギーは空間を歪めないなにかのことなのだろう。
エーテル理論。つまり、魔力とかなんかそんな感じのファンタジー。一回は滅びたけれど、ひもとか色々に形を変えただけで、量子力学の世界で生き残り続ける、一番よくわかんないやつ。
異世界とか関係ない。そもそも、物理学に常識が通用しない。科学的だから安心なんて、この世にはない。
宇宙怖い。
龍驤はドリーさんの上でヤサグレている。
「生きているのか?」
「気絶しとるだけや。傷もすぐ治る」
もう、どう見たって、真っ二つだった。繋がっているのが奇跡みたいに、バッサリしてた。
それでも、ゾロの例があると、龍驤は治療に走った。
そして、見た。
骨も折れてやがらなかった。
龍驤はキレた。
だって、あんな、戦士とはみたいな、情けは無用みたいな、本気の殺し合いなんだって空気だったじゃない。
実際、大地だって山だって吹き飛ばせそうじゃない。
なんで、真正面から斧を撃ち込んで、鎖骨すら折れないのだ。ハリセンかなにかで戦っていたのか。
龍驤は、全てを巨人のせいにして、現実を認めまいとしている。
傷が本当に、治りかけている。
だったら多分、龍驤が到着する間に、骨もくっついたのだ。それ以外に考えられない。
この戦闘力で、この回復力。本物の鬼である。
きっと、ブロギーさんは本気で闘って、本気で撃ち込んだ。ドリーさんは致命傷を負った。
で、その瞬間から、血が止まって、なんなら心臓まで塞がれて、内側からどんどん肉が盛り上がって、骨まで繋がって。
なんか表面だけ、うっすら斬られたみたいな状態になっている。きっと、こう、皮膚もすっごいから、そこだけちょっと時間がかかるんだろう、多分。
あれでマジで骨も折れなかった可能性は、もっと怖いので無視する。
悪魔の実のあるなしなんて、きっとちょっとした個性。
もう、どうでもいい。
心配して損した。
死んじゃったかも知れないって、死にそうな気持ちでいたのに。
もはや、グランドラインに入っていちいち気にしても仕方がないとは思うが、今回ばかりは堪えた。
三角座りして、麦わらの一味の猛攻に耐える3の人を応援する。社畜っぽくて、親近感が湧くのだ。
頑張れ、負けんな、力の限り生きてくれ。
その隣に、ブロギーさんも座り込んだ。怒りに任せて、さっきまでいっしょに3の人たちをイジメていたが、本当にイジメにしかならないので、怒りを鎮めたようだ。
いつもの愛嬌ある顔で、ドリーさんの呼吸を確かめる。
「世話になったようだ」
「なーんもしとらんよ。むしろ、お邪魔したなぁ」
「構わんさ。エルバフも、少し飽きたのだろう。貴様らを遣わした」
「そんな大層なものでもないて」
「愉快だぞ。酒も飲めた。だが、そうだった。ケンカとはこのようなものだ」
3の人は必死だ。それに従うワカメ以下も、懸命である。麦わらの一味も、屈辱を晴らそうとがむしゃらだ。
だが、どこか滑稽で、なんとなく微笑ましい。
「意地を張ったのだ。どちらも譲らなかった。きっかけがなにかは覚えていないが、そういうことなのだ。ならば、勝ちも負けも、生き死にさえも、我らの前では無意味だ。だから、戦った」
白黒はっきりしないことは、なにをやってもはっきりしない。
質量とエネルギーがなんなのかのように、ずっとずっと、向き合うしかない。そうやって百年を、共に過ごした。
物騒かも知れないが、ずっと友達のままでいるためだ。それに比べたら、生き死になんて。
下手なヤンデレが逃げ出す人間関係である。
ボロボロになった武器を眺めて、そこらに放る。ニコニコと、目の前の争いを眺める。
「こんな勝負では納得いかん。続けていたところで同じだったろう。仕切り直せてよかった」
「まだやんの?」
「後悔を引きずるには、人生は永すぎるのさ」
すんっと、目をそらした。わかっているけど、龍驤には出来ないことだ。戦っているようで、実際は鬼ごっこのような景色を、二人して眺める。
「まぁ、そやな。ドリーさん、鼻くそ入りの酒で負けたんよな」
ほじり過ぎて鼻血まで出して、弾切れになっちゃったワカメの人を指す。ブロギーさんは大爆笑だ。
「絶対に納得などせんぞ!! いやぁ、悔しがるだろうなぁ!!」
「やめて。本当に申し訳ない気持ちになる」
それに気づかずお土産としてお出しして、お腹を壊されたのだ。なかなかのやらかしである。ブロギーさんは苦しんでいる。
龍驤はドリーさんから飛び降りた。ドリーさんが起きた。
「俺は、気を失っていたのか」
「おお、ドリー!! よかった!! 気がついたかッ」
二人して抱き合って、笑いあって、叩き合い、額をぶつけ合う。
「なんだぁ!?」
「やるかぁ!?」
バカバカしい。放っておく。龍驤は二つの戦いを、ぼうっと眺めた。
楽しそうだけど、そこに交ざりたいとは思わない。
巨人がダブルノックダウンする頃には、一味の鬼ごっこも終わっていた。
「だからね? 困るのよ。捕虜の扱いがなってないんじゃないかしら」
「めっちゃ堪能しとるよな。もうええから、帰れ」
「嫌よ」
妖精さんを侍らせて、ナミとバカンスをしているニコ・ロビンに文句を言われた。
言われたが、言われる筋合いがない。自由にして困るとか、あまりにも贅沢だ。サンジが早速、さらなるサービスの準備にトルネードしていった。
「わ、私たちが苦労している間に」
あの人外魔境の中で、実はカルーと走り回っていたお姫様が、また崩れ落ちている。どうして頑張ってしまったのか。なんなら、向こうの黄金週間の方がサボっていた。
「いや、ホントに。なんか向こうさん、連絡すら上手いこといかんで、困っとるよ?」
捕まえたエージェントたちから話を聞いた結果、なんかもう、グダグダな内情が見て取れる。
社長の指示を具体化して、あれこれ手筈を整える参謀役がいなくて、部下と意思疎通が出来ていない。
おそらくだが、自分で作った状況に、自分で溺れている。
「てか、キミら水着とか、どこで用意した?」
「私は自分のよ」
船まで戻ったらしい。
「頼んだら、出してくれたわ」
ニコ・ロビンの手の平で妖精さんがはにかんでいる。龍驤はそれを、ピンと弾いた。ニコ・ロビンが慌てて、それを視線で追う。もう、能力を隠そうともしていない。
飛んだ妖精さんは、離れた場所で蓮のように受け止められた。
「ヒドいことするわ」
「知らんと勝手なこと言うな。そいつら、ウチの世界をめちゃめちゃにしとんのやぞ?」
「なにをしたの?」
「ウチらを造った」
なんとも言いようがない。一味もちょっと真顔である。
「ちなみに、ウチ、まともな方やから」
諸説ある。が、間違いとも言い切れない。相対的にそうかも知れない。
「ご利用は計画的に」
「気をつけるわ」
バロックワークスの面々は放置した。一番厄介だった黄金週間が、ただの人ということで龍驤の気が狂ったからだ。
艦娘じゃなければ致命傷だった。
初めて龍驤の能力を正面から無効化し、一味を不利に導いたのが、純粋なこの世界の才能だったのだ。
せめて、ファンタジーに負けたかった。別に超技術だっていい。絵の具による迷彩なんて、龍驤の世界でも再現可能だ。
今回は幻惑の灰とか言う技を中心に誤魔化されたようだが、灰色というのは実際に強い幻惑作用がある。
地上から見れば空は青いが、飛んでいる人間にとっては灰色に近い認識だ。結果、感覚を失って事故を起こすことがある。
また、野生動物が選択する色は灰色と茶色であることが多い。これも、迷彩を目的とした進化だ。
近代でも兵器を灰色とする国が多いのは、迷彩として、非常に汎用性が高いからだ。
それを極めたところでそうなるとは思えないが、色彩が感情や感覚を揺さぶるのは事実である。
であれば、身体能力や回復力と同じく、龍驤の世界より優れた感覚を持つルフィたちだから起こった現象とも取れる。
つまり、黄金週間に明確に対抗出来たのは、異世界人で感覚の鈍い、龍驤しかいなかったということだ。
実際、個人差はあってもそれなりに効果のあったカラーズトラップに、龍驤だけはピクリとも反応出来ない。
ルフィとサンジは別として、ゾロやビビでさえ、人形を本物と誤認している場面があった。
単純にバカだからかもだが、ニコ・ロビンとナミにもそうした傾向はあった。自覚がない時点で、完全に幻惑されているのだが、龍驤は気づかない。龍驤は、ビビを完全にルフィたちの仲間へカテゴライズしている。
「ま〜た余計なこと考えてやがるな」
「仕事をしくじった。いつもの勝手やない。ルフィに任されたのに」
サンジは龍驤の頭をぐちゃぐちゃにした。
「気にするな。そういう日もある」
襟首を掴んで運ぶ。
「手伝え。巨人との宴だぞ」
「なんでみんなブラブラ運ぶん?」
カラーというか、襟回しというか、そこに掴みやすい艤装があるからだ。通りすがりに、ゾロも龍驤の頭を叩いていった。
プリマの写真は、封印してやろうと思う。
日が沈もうとしている。
キャンプファイヤーの仮組みがすんだ。巨人サイズなので、もはやビルである。おもてなしの心だ。てか、生木である。一味が燻される。
「やれ」
「ヘイ」
そんなわけで、3の人の協力で、上手いこと燃やしている。ビビはいじけた。ボロカスではあるが、普通に敵が参加している。
グッダグダである。敵の見極めが出来ているとはなんだったのか。
「いや、そりゃキミの敵かもわからんけどな? ウチらの敵やないんよ」
「狙われてるのに?」
「一応、海賊やぞ?」
賞金稼ぎの皮を被せた本人が、事実を認めた。海賊である限り、そもそもお姫様の敵とも言える。
「ルフィが目指しとんのは、海賊王やからな。しかも、最短で向かっとる。どこぞの国を乗っ取ってからとか、悠長なことしとるのは敵やないねん」
先代曰く、この世の全てがそこにある。それを探すのが、海賊王の道なのだ。早い者勝ち。レースだ。賢く立ち回って遠回りをする人間を、わざわざ構う理由などない。だから、ルフィはどこかつまらなそうにしている。
冒険でもなんでもない。生きるか死ぬかなら、一人で旅立つときに決めた。クロコダイルと敵対しても、得られるのはそんなわかりきった結果しかない。
クロコダイルは、勝負の土俵にすらいないのだ。
「私はついでなのね」
「そや。ちょいと寄り道したろ、いうだけや」
なんか3の人と黄金週間のおかげで、豪華になりつつある宴会会場を見渡す。二頭分の恐竜を解体して、高速で下拵えをしていくハリケーンについて行くのは難しいが、調理台の下に引きこもる王女様を放っておくのも薄情だ。
「ルフィをバカにするんやないぞ。グランドラインは化け物どもの巣窟や。そんなのと競って、それでもキミのためにする寄り道や。感謝してくれんと、ウチが悲しい」
「あなたが?」
「気にせんからなぁ、ウチ以外のバカどもは」
ちょっとビビが顔を出した。まだ、準備に過ぎないはずが、敵も味方も大騒ぎで楽しそうである。
この光景からは想像も出来ないが、確かに、命がけの道行きであり、そこに至るためには全力を傾けても足らないだろう。
こんな小さな一味なのだ。
ひしめく数多の海賊たち。クロコダイルは、その一角に過ぎない。ビビとは、敵にしているものが違うのだ。
本当に世界と戦うつもりはないのだから、これでいいのだ。龍驤と、かつての日本と別の道を行く。
大航海時代、コロンブスもマゼランも、みな原住民とは比較的、友好な関係を築いた。
目的が航海、世界一周にあったからだ。
アレキサンダー大王みたいなやり方では、世界の果てになど辿り着けない。モンゴルにだって無理だった。トルコも、ローマも、みんな失敗した。
そうした冒険の後だ。世界帝国が出来るのは。
もし、イギリスになるなら、ナミを船長にする。オランダならウソップ。
スペインになるなら、龍驤が仕切る。
海賊王など、そもそも目指さない。
だが、船長はルフィだ。誰かがすでに思いついていても、誰もやったことのないことをする。コロンブスの卵だ。たくさんの人間が試して、失敗した。今は目的よりも手段だ。同じでは辿り着けない。だから、冒険をする。
ルフィは、ルフィという海賊王になる。誰の真似でも、再現でもない。
「いじけるな。ウチの船長が、進路を任せたんや。ちゃんと考えてくれ。キミはどうしたい? 本当にこの宴をぶっ壊して、最速、最短でアラバスタまで行きたいか?」
「そうなの?」
「重いぞ。進路を握る言うんは。キミのお父さんと、やっとることは同じや。それが船か、国かだけや」
ビビが完全に姿を見せた。どうしたいのかはわからないが、父と、国王と同じ重責を担っていたかと思うと、確かにいじけていていいとは思えない。
遠回りに見えても、心や国民を置いていかない、そんな政治をしていた。だからビビは、父が分けてくれたご飯でお腹いっぱいにした。贅沢の覚えはない。王族らしくはないが、誰かとなにかを分かち合う大切さも尊さも、ビビは知っている。
「必要な、ことなのよね?」
「あいつらにとってはな」
疑問だ。宴会芸まで芸術の域に達する3の人を見ると、あんまり確信が持てない。すでにメインはサンジが出したので、龍驤は細々とツマミを作り続けている。
ルフィよりも巨人二人の方が慎ましいの、なんとも言えない。
「ちなみに、護衛隊長生きとるよ。囮はむしろウチら。思惑通り、三番目の人材がこっちに来た。どう考えても、どん詰まりのこの島にや」
ビビが振り返った。龍驤はいつもの悪い顔。イガラムどころか、ウィスキーピーク総出で工作した。
「諦めんなら、キミこそが障害や。万が一、反乱を収める可能性がある。修正するなら、キミに賭けるしかない。だから、交渉、もしくは身柄の確保に走った。そやろ?」
「そうね。もはや、この状況では、お姫様が辿り着けないことの方が問題よ」
「焦ったやろ? なんにも知らんルーキーが、よりにもよってリトルガーデンやもん」
ニコ・ロビンが二人の背後にいた。いつからなのか、ビビにはわからない。
「殺すにしても、死体がなければ、人々は希望を持ち続けるわ。計画が成功しても、ずっと不安定要素として残る」
「だから、イガラムは、」
「生き残れと言われたか」
「どんなことがあっても。こういう意味だったのね」
当然、親心みたいなものはあっただろう。だが、玉座を一度奪われた程度で諦めては、国民など背負えない。自分だからという自負のない王族に、君臨する資格はない。
「キミにはあるか?」
龍驤がジャングルに話しかけた。
なにもない。
だが、風が吹き、この島にはなかったはずの砂が飛ぶ。
宴会が中断した。騒ぎが収まって、全員がそちらを見た。
「まずは謝罪しよう。部下が迷惑をかけた」
「クロコダイルっ!?」
「ルフィ、その鼻の割り箸外せ」
一味が慌てて身なりを整え、挨拶した。3の人は絶望で、崩れ落ちた。ビビは態度に困った。
笑っているニコ・ロビンを、クロコダイルが睨んでいる。
あのね、作者ゴジラ-1.0見たの
やっぱり、人類が怪獣になったらアカンよ