龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

34 / 129
メリクリ


みんなすきやという話

 麦わらの一味の出せる、最速の安全運転で、医者を探しに航行中。龍驤の言葉通り、ログとなんにも関係ない航海は平穏ではあった。

 ナミとビビのおかげで立て直したが、状況はなんにも変わっていない。ルフィがそうしようと言った。諦めなかった。

 それだけが龍驤の支えである。龍驤が知り、考える限りでは、ナミを救う手段はない。

「なんか、食ってほしいんだがな」

「後で、ミカンでも絞ってやり。直接、口に、ちょっとずつな。消化に体力を使わせたない」

 サンジに、点滴パックの交換方法を教える。クロッカスさんに分けて貰った器具だが、換えはあんまりない。食品衛生的な知識なら、龍驤にも優るサンジだが、改めて医療用のやり方を確認した。

「ここまで厳重なのか」

「胃は最強の免疫機能や。たいがいの侵入者はここで死ぬ。それを通さんと直接、血管に流し込むわけやからな」

 流し込まれて、ナミはこの有り様だ。

「なるほど。任せろ」

 ナミは正しい。共有だ。一味と、もっと色々なことを共有しないと。甘やかされるのに慣れて、好き勝手を許されて、慢心していた。

 ここは異世界で、龍驤の常識は通用しない。どれだけ学んでもダメだ。物理法則から違う。

 だが、龍驤の周りには、この異世界でも常識破りな人材が溢れている。ちゃんと頼れば、きっと乗り越えられる。

 そう信じるしかない。

 賢いというのも考えものだ。

「考えてんじゃねぇか」

「まーな」

 ルフィの髪の毛を使ったら、パチンコの威力が上がらないだろうか。そんな発想で、ルフィの毛を抜いたが、ただの毛になった。生えてるのを掴んでもゴムなのに。

 だからウソップは、手札を増やし続けている。必要なのは殺傷力ではない。サポート力。

 有り体に言って、手品のタネである。

「ウチらの装備は使わんの?」

「バカ言うな。威力が高すぎる。狙撃ってのは、絶対に味方を巻き込まないんだ」

 なるほどと思う。爆撃を主とする龍驤にはない発想だ。それに、射撃武器の特性を、よく掴んでいる。

 龍驤の世界なら、狙撃はむしろ絶対的な手札だ。確実に対象だけを殺すという目的で用いられる。

 しかし、この世界ではそんな確実性はない。

 銃が効かないのだ。

 だとするなら、中途半端に威力を考えるよりも、相手の行動阻害、感覚遮断など、援護能力を磨いた方がいい。

 なんならウソップの得意なホラと組み合わせて、黄金週間のように誤認させたりと、一味を有利にする方法はいくらでも考えられる。

「もしかして使えるのもあるかも知れん。妖精さんはイタズラ好きやが、最低限の分別はある。使っとるとこ見たら、またなんか思いつくかもな」

「へー。爆弾や砲弾だけじゃないのか」

「煙幕もあるよ。それこそ街の一画をまるごと煙に巻くようなやつとか、昼間みたいに照らせる照明弾とか」

「やっぱり、過剰じゃねぇか。でも、ヒントにはなるか。ちょっと気合入れて、開発ってやつをやってみるか」

「資材はそれなりにあるからな」

 どこから拾って来るのか、妖精さんがせっせと集めている。多分だけど、グランドラインには、アイアンボトムサウンドよりも沈んでいるからだろう。なにかが。

「それでな、相談があんねん」

「ん? 珍しいな。龍驤が俺を頼るなんて」

「いつも頼っとるよ。てか、頼る前に動くやん、キミ」

 言わなくても、ウソップは常に誰かのフォローに回っている。その意味で言えば、龍驤ほど頼っている仲間もいない。

「あのな、ナミが怒ったやん」

「ああ、気にすんなよ。熱でおかしくなってただろうしな」

「ちゃうねん。ウチは、ナミを戦いから遠ざけたかってん」

「まぁ、わからんでもない。むしろ、俺にもその気遣いを」

「そんでな?」

 龍驤は割り込む。

「ナミが戦いたいなら、ウチが邪魔したらアカンやろ? でも、心配やん。ナミ、弱いし」

「なんなら、俺の方が弱いぞ?」

「そんでな?」

 龍驤は無視する。

「武器を持たせてやりたいねん。ただの棒やなくてな? それなりに身を守れるようなの」

「俺に作れってか?」

「お願い出来ん? ナミも機転はきくから、手品のタネみたいなのでも、あったら違う思うんよ」

 ウソップは腕を組んで考えこんだ。ナミの武器は、龍驤の言うように、組み立て式の棒だ。剣よりも長いが、槍ほどではない。

 乳切木という、護身用の棒に近い。扱いやすく、素人でもケンカに用いることから、諍い果てての乳切木という慣用句もある。

 つまり、まぁ、怒らせた後のプレゼントとしては、どうだという話で。

 だって、ナミである。

 ウソップはため息をついた。

「確かに、俺たちも悪かったがよ。なにもかも背負うな。別にお前だけのせいじゃねぇよ」

「でも、気になるし」

「気にし過ぎだって。なんなら、俺たちの言うことなんて聞かなくたっていいんだ。お前、だいぶ遠慮してるだろ?」

 龍驤は俯く。

「異世界だの転生だのの前に、俺たちとお前じゃ、色々違うんだ。だからって、俺たちに合わせて我慢なんかしなくてもいい」

「ホント?」

「ただ、ちょっと、気を使ってほしいだけだ。こう、この世界はお前にとっても常識外れかもだが、お前だって俺たちの常識とはだな」

「ありがとう、ウソップ!! ウチ、やってみる!!」

「お、おう。わかればいいんだ」

「ほな、ナミの武器は頼むな。金に糸目はつけんから」

「おおう。景気がいいな」

「自腹切ったる。仲直りせな」

「うん、だからな」

「頼むで〜」

 龍驤は去った。ウソップは引き止めようとして、出来ずに色々泳いだ。

 残ったのは、ナミの機嫌を取る武器とかいう、超難問。

 妖精さんがワラワラ集まってきた。

 

 

 龍驤は電伝虫を取り出した。

「もしもーし?」

『……テメェ、どこでこの番号を』

「普通に、ニコ・ロビンから」

 受話器の向こうで、重い沈黙が流れる。

「いや、そりゃ、ウチらだって諜報ぐらいするで。自分らの船でぐらいは」

『そうじゃねぇ。あの女、コレ置いてどっか行きやがった』

「あー、悪いけど呼び戻せる? ウチのクルーが、病気になってん」

『病気?』

「感染症や。下手すりゃ、アラバスタでパンデミックになる」

 沈黙なのか唸り声なのかわからない間が空く。

『クッソ厄介事を持って来やがって』

「原因は、ジャングルで水着になってバカンスしたからです」

『なにをやってやがんだ?』

「ニコ・ロビンと一緒に」

 受話器の向こうで物音がして、遠くクロコダイルの怒鳴り声が聞こえる。ニコ・ロビンを呼びに行ったようだ。

 いなくなっても電伝虫が真似をし続けるので、めっちゃオモロい。

『大丈夫なの?』

「こっちのセリフやが」

 クロコダイルは多分、大丈夫じゃない。

「体調は良さそうでなによりや。身体に虫刺されの跡はないか? アザみたいになっとる」

『アザ?』

『ここで脱ぐんじゃねぇ!!』

『私は気にしないわ。それより、後ろを見て』

『ここは俺の部屋だ!!』

「仲いいな、キミら」

『ええ、上手くやってるわ』

 よく聞こえないが、ブツブツ言ってる。

「島が島や。下手すりゃ、普通の薬や治療法が通じん場合もある。というか、あの古代の環境で生きる虫が元や。そんなもん、ないかも知らん」

『大変ね。こちらでも資料を当たりましょうか?』

「ありがとう。でも、多分無駄や。保って数日。答えがわかってもどうしようもない」

 返事はなかった。ニコ・ロビンの代わりに、クロコダイルが問う。

『だったら、なんの用だ』

「これからドラムに向かう。もしかしたら、万が一、助かるかも知れん。薬か、治療法がわかるかも知れん」

『その情報を下さると?』

「あるなら、ウチのクルーが死んだとしても流す。条件として、最低でも三日、キミらと接触者を隔離してくれ」

『隔離ねぇ』

「おそらく、潜伏期間も短く、致死率も高い。キミらが死ぬだけで、アラバスタに蔓延はせんやろ」

『だったら、なんでわざわざ?』

「そうやって油断して、何百万人殺した病気が、ウチの世界にはある」

『世界?』

「ウチは、異世界転生しとる」

 鼻で笑われた。

『下らねぇ冗談だ』

「その冗談のために、仲間の命をかけとんねん」

 コツコツと、机を叩く音がする。

「治療法はともかく、薬だった場合、数がどれほど用意出来るかもわからん。患者は少ない方がええ。しかも、キミらは秘密結社。姿を隠すこと自体は、なんも不自然やない」

『損は、ないように聞こえるな』

「もちろん。だからこそ、ここからが謀略や」

『なんだと?』

「信用出来んのやろ? 他人を、欠片も。だから、損がなくても頷けん。でもなぁ、わかっとるやろぉ? 信用せな、組織のトップになんか立てんで?」

『テメェ』

「人を動かすのに、いちいち疑って、保険をかけて? ありとあらゆることに気を配って、全部自分で差配するんか? 無理やろぉ? 出来へんやろぉ? なあ、わかっとるやろ?」

『言いたいことはそれだけか?』

「裏切ったやつが悪いんや。裏切られたんは、被害者や。被害者にはなりたないなぁ?」

『テメェは必ず殺す』

「次会うまでに、その腰抜け、改めとき」

 受話器が叩きつけられた。龍驤は楽しそうに笑った。

「遠慮しなさ過ぎだろ」

 一部始終を聞かされたゾロが眉をしかめた。さっきまでルフィもいたが、飽きたのかどっか行った。

「ゾロの師匠って、一刀流やろ?」

「今度は俺かよ」

「一太刀に全てを乗せる。キミの剣はそういう性格や」

「本当にわかるのか?」

「でも、それは三刀流の剣の振り方やないで」

 ゾロはため息をついて、振っていた重りを下ろした。そして、嫌そうながら聞く態勢を取る。

「で?」

「刀は三本、身体は一つ。ほな、どうする? 一本だけに全てを込めて、他の二本は遊ばせとくか? それとも、身体を三つにわけるか?」

「分身でもすんのか」

「意を通せ。呼吸すら無意識ですんな」

 武術には、そうした技術が存在する。生まれた瞬間からしてきたことにケチをつけて、歩き方まで矯正する。

 全ては、思い通りに身体を動かすためだ。

「見したる」

 パンパカパーンとラッパの音がして、龍驤がポーズを取ると、そこに鉄兜と台が現れた。龍驤は真顔だ。

「なんだ、そりゃ」

「ノリと勢いで、妖精さんは動く」

 怖い。

「刀貸して」

 ゾロは迷って、龍驤に雪走を預けた。一番素直で、よい子だからだ。

「これで良業物? いや、確かに髭切とかよりは劣るけども」

 切れ味をどれだけ保てるかでも格を決めるため、見ただけではわからないが、龍驤の世界なら余裕で大業物に乗りそうである。

 試し斬りはしていないのだろう。結局、使い手の格みたいなものが理由に違いない。

 たまたま、有名な剣客が使ってて、死んだ後も残った。そんな幸運な剣たちであるに違いない。剣客の功績をもって、その剣に出来ることだと、無理矢理に序列を作ったのだ。

 本当はなんでも斬れるのに。

 やはり、武器は使ってなんぼ。壊してなんぼである。使える道具は失われる。だから、大事にする。

 鞘を置いて、高下駄も脱ぐ。艤装の加護がない龍驤は、今やただの女の子である。雪走の軽さにすらフラつきながら、蜻蛉に構える。全身で振り切ると、パァンと景気のよい音がして、鉄兜が割れた。

「実は斬ってへん。技やなくて、芸の類や。そんでも、キミの棍棒よりは、刀の仕事をしとる」

 ゾロにだって出来るが、非力な龍驤がやったことに意味がある。これで人が斬れるというものでもない。

 原理は薪割りと同じなので、兜よりも分厚いと、刃が食い込んで抜けなくなるのだ。よくあるやらかしである。

 しかし、龍驤とゾロの力の差を考えれば、龍驤の装甲でこれが出来なければおかしいのだ。

 逆に、なんでひしゃげてしまうのか。これがわからない。

「強さは力。間違っとらん。でも、斬るのは技や。工夫やよ」

 力で斬りたいなら、斧でも持てばいい。刀は技術がなければ、紙の一枚も斬れない剣である。

 逆に技術があって斬れないものは、この世にない。

「まずは師匠に倣って、一刀からやってみよか。ウチの世界にも、鉄を斬れる達人はおったんや。そんな重り振っとって、いつまでも足踏みしとるんやないで?」

 メリー号の積載を圧迫する、ゾロのトレーニング器具。下ろしても船長の食糧しか積まないが、まぁまぁ、特別扱いである。

 重さと空間という、限られたリソースの使い道こそが、船の権限を決める。

 龍驤が甘やかされているのとは、次元が違う。ゾロには麦わらの一味の中で地位があり、責任がある。少なくとも、そう自負しているし、認められているのだ。

 そこに気負いがあるのだと思う。それ以外で、ゾロが鉄ごときを斬れない理由が思い当たらない。

 龍驤の世界では、槍で俵を持ち上げただけで怪力と呼ばれる。ゾロはその何倍も強い。ゾロは、龍驤の信頼に応えていない。

 ゾロの頬が引きつる。

「ああ、痛み入るよ」

 ちょっとキレてる。龍驤は逃げ出した。多分、図星ついた。ナミとゾロだと、実はゾロが怖い。正論マンだから。

 正しいが効く海賊一味は、間違っている気がする。効かない一般人は、いっぱいいるけど。

 さて、同じく逃げた船長を捕まえよう。

 

 

 ルフィは食堂で、ナミを見ていた。看護のためでも、女の部屋に男を入れるのはどうだと、龍驤が大和撫子を発動した。

 というか、龍驤が絶対に目を離したくないからだ。でも、仕事はあるので、聖域から出した。ナミは妖精さんがイタズラするのを許さない。

 ヘソクリの額は謎である。

 それにキッチンはサンジの職場だ。サンジに任せれば、最適な室温だけでなく、湿度まで管理出来る。多少うるさいが、仕切りも作ったし、心配なのは急な発作だ。クロッカスさんに貰った強心剤を直接刺す役目を、龍驤は誰にも譲るつもりはない。

 麦わらの一味には無理。ビビはかわいそう。

「事情は聞かんよな?」

「聞いても関係ねぇよ」

 ある意味で、ルフィと龍驤が絶対に交わらないところである。あらゆる事情を鑑みて決断を下す龍驤と、事情など無視して、やりたいことをやると決断したルフィ。

 ルフィはもう、決めてしまっている。だから、龍驤は追いつけない。だから、ルフィについていく。

「ほな、結論だけ。ウチの勝手を、キミは止められるか?」

「船長は俺だ」

「なら、面倒みてな?」

「俺が、お前を仲間に入れたんだ」

 龍驤はニッコリ笑って、ルフィに抱きついた。

「ありがとうな。ウチを、一人にせんでくれて」

「必ず、追いつくぞ?」

「別に、逃げはせんよ」

 勝手をするだけだ。

「お前は俺の仲間だからな」

「アンタ、どっか行くつもり?」

 ナミが、熱にうなされながら聞いた。

「どっこも、行かへん。この船だけが、ウチの居場所やよ」

 ナミの頭を撫でて、龍驤は身を翻した。

 龍驤の髪色が明るくなり、ツインテールのボリュームが増した。特徴的な帽子の正面も大きくなる。

 水干とスカートは短くなり、サスペンダーが付く。子供から少女へと脱皮して、もっと平たく、細くなった。

 なによりも、武装である艤装が精練された。

 龍驤は改修を終えた。食堂の扉を開く。

「寒っぶ」

 龍驤は一瞬でサンタコスに変えた。

 タイツが温かい。

 心配して、扉周りでたむろしてた男たちは、なんとも言えない顔で、愉快な格好の龍驤を見下ろした。




次回、大晦日
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。