「メシーッ!!」
「四日ぶりのメシだ!!」
金魚に食べられそうになってから、感染症に航海士が倒れ、ログもなく、補給も出来ない日々だった。なんか勝手にギクシャクするやつを乗せ、なぜか味方の能力を駆使する敵と戦い、雪と寒さで物理的にも迷う。
麦わらの一味始まって以来最大の危機を越え、トップ2は錯乱している。あれだけ漂流と迷子を繰り返す二人を追い詰めるほどのなにがあったのか。
ドラムを出て四日という期間に、そうまで濃密な出来事があったのか。
そんなことはない。なんなら、女性陣はちゃんと食べている。チョッパーやカルーはお零れに与っている。天候も穏やかでトラブルらしいトラブルもない。
ただ、まぁ、こいつらは懲りずに何度でも銀蝿を狙うので、罰が積み上がっただけである。
食糧が少ないことは少ないのだ。それに多少の釣果もあって、それは勝手に食べたりもしている。言うほど空腹でもない。
あれはサンジの料理と酒に対する禁断症状だ。
「確実に仕留めろ!!」
追い詰められた顔のサンジの足元で、龍驤が死んでいる。
「なぜに、この船一番の稼ぎ頭が」
龍驤は一週間、食べてない。ナミが病気の間にやってたことを説明したら、そうなった。
妖精さんまで派遣して、ウソとかホントとか色々混ぜこぜにした情報を嫌というほど投げつけて分析作業に貼りつけ、疑心暗鬼にさせてボロボロにしているらしい。
海上のことなど本来、確かめる術もないのだが、なまじやれちゃう能力があるものだから、余計に嵌まる。
麦わらの一味は誰一人わからないが、本人だけがすごい楽しそうで、なんかノリで罰が決まった。
仕方がないことだと思う。
よって、修羅場な一味とそうでないクルーの温度差が激しい。
海獣は怖いが、船内がカオス過ぎて態度を決められないチョッパーが棒立ちしている。足元の龍驤をどうしようか迷っている。
妖精さんに集られて、好き勝手されている。
ルフィ、ゾロ、龍驤という、三大消費者を抑えることで、麦わらの一味は寄り道の危機を乗り越えた。龍驤は腐っても空母である。いっぱい食べる。
腹一杯食べさせられなくて、サンジが一番憔悴している。
「進路よし。島は近いわね」
「回頭して砲撃するか?」
「勝手にヤルでしょ」
ウソップは罰も受けつつ、要領よく飯にありついている。釣りも上手い。
あまりに差があり過ぎる。これでなぜに一味として同舟出来るのかわからない。多分、船長が率先垂範で罰を受けているからだろう。
今もバックしろという無茶振りに反応するのは優しいサンジとチョッパーだけで、船尾と船首では吹く風さえ違う。
龍驤は背負った業に従えず、呻いている。その格差社会に怯むことなく踏み込む影があった。
「ダメ!!」
海獣ですら引く武闘派一味をインターセプトしたのはビビだ。ウィスキーピークでオロオロしていたお姫様が、たくましくなったものである。金棒持ってる。
「なんでだよ!?」
「アラバスタで海ねこは、神聖な生き物なんだから」
「どう神聖なんや」
「ひぃッ」
妖精さんのオモチャにされて、ボロボロの龍驤が足にすがりつく。無駄にホラーだ。
「どう神聖なんや。言ってみぃ」
「えっと、実りをもたらすとか、裕福の象徴というか」
捕食者がいれば、被捕食者もいる。追うものと追われるものがいる。その当たり前に、伝統が裏書きした。古かろうが常識こそ信じるもの。
「釣り糸を垂らせ!! 魚群が近くにおる!! この機会を逃すな!? 腹一杯食うチャンスやぞ!!」
龍驤が立ち上がる。その声に、一味がテキパキと配置についた。釣り針には虚無。もう、餌すら渡してもらえない。
「ウチは出撃する!! 待っとれ。山ほど獲ってきたるさかい」
龍驤は格好よく海へ飛び出した。落書きだらけの頭に、花が咲いている。
三人は敬礼した。チョッパーも付き合ってあげた。
「ナノハナに上陸するでぇ」
全員がツヤツヤでパンパンである。久しぶりに腕を振るったサンジは、ルンルンである。話を聞いているのは、女性陣と動物組だけである。他は膨らんで転がっている。
「そのつもりだったけど、なにかあるの?」
「クロコダイルに転んどるから、王国へ引き戻す」
つまようじを使いながら、龍驤が言う。落書きはされたままだ。食卓はもはや殺人現場である。散らかっている。
「は、初耳なんだけど」
「そやろなぁ。でも、ま、そういうこっちゃ」
ルフィたちが龍驤の顔を指して笑い、砲撃で吹き飛んだ。龍驤と妖精さんは物を壊さないコツを掴んだ。チョッパーは自分だけ残されて、わからされている。
「反乱軍はカトレア。生きたオアシスやな。水の出どころっちゅう話やが、んなわけあるかい。海を渡る商売人が、商機を見逃すもんか」
そう言って、皿洗いするサンジの背中に指を向ける。
「淡水化設備……!!」
「売っとるやろな。ほとんどタダや。そらもう、儲かる。そしてそれを、国にはバレたない」
「そんな、そんな!!」
欲のために、苦しむ国民に高値でタダ同然の水を売っていたというのか。そのために殺し合う国民をよそに、金稼ぎに精を出していたと。
「責めるなよ。商いは人助けと違う。キミの、国の仕事や」
水が足らない内陸部の対応で、国はいっぱいいっぱいだ。しかし、海は海賊で溢れている。港町としても、水不足とは別の理由で国から見捨てられたような気分になっただろう。
そこにクロコダイルが付け込んだ。英雄として入り込んだ。厳しい言い方をすれば、国が晒した隙である。
もちろん、それはクロコダイルが作った不和だ。互いに憎み合うように、きちんと考えられている。
ビビは恥じ入る。商人も国民だ。日々の糧を得る、人々の仕事を邪魔してどうするのか。反省した。
「じゃあ、奪うのね?」
台無しだ。発想が怖い。龍驤は首を振る。
「商売人は逃げるだけや。あんまり上手くはないな」
「でも、買い取るお金なんて」
「あるやないか。税金が」
「だから、その」
「逆や。減税したらええねん。具体的には港湾の使用料を、水で出さす」
「水で?」
「一部でええねん。売る分も残したる。で、それを配る。ビビが差配せぇ。手伝ったる」
水が足らないせいで、アラバスタ国内で水は高騰している。だが、淡水化設備を持っているような船であれば、水の用意は大した負担ではない。
今まではその差額で儲けていたが、一部を国が取り上げる。と言っても、港湾使用料の一部なので、あくまでも上前だけだ。
水で商売は続けられるし、水の利益には劣るが、確かに使用料は減額になる。その分を取り戻したければ、さらに水を用意するか、別の商品を運ぶ。
次来るときは港湾使用料の一部が、タダ同然の水でよくなるのだ。悪いことではない。
そしてある程度水が出回れば、高騰した値段も落ち着く。商売が回れば、高くても買う余裕だって生まれる。
なるほど。三方善しの方策だ。それを黙認し、国から隠していた港湾関係者以外は。
「船は出港すんのや。誰がアラバスタの奥で水を捌く? 当然、港であるナノハナとオアシスのカトレアや。反乱軍は利用されとんのやろ」
割安の陸上輸送手段として。
黒幕がクロコダイルなのは、ニコ・ロビンを追跡することでわかっていた。逆に言えば、そうでなければわからなかった。
今まで国が調べても定かにはならなかった内乱の内訳を、上陸前から。
「悪意の年季が違うよ。年季がな」
0歳児が鼻高々である。ありがとう、ヨーロッパ。君たちのあくどいやり方が、今、異世界で輝く。
日本は敗北者じゃけえ。
「そしたらな、ドラムと貿易したらええねん。雪は死ぬほど余っとるし、ビールもある」
ドラムはドラムで、復興途中である。優れた先進国であるアラバスタから買いたい物もあるだろう。
アラバスタは広いので、ただ水を運ぶだけだと腐るかも知れない。高温だからだ。
その点、酒は腐りにくい。しかも、熱処理をしたラガーは品質が安定する。雪と一緒に運べばなおさらだ。
雪は空気を含むので、氷よりも気持ち長持ちする。
「ちょいと港湾関係者脅して、金出させて、交易が安定したら文句も言わんやろ。どや? ラガー美味ない?」
「美味しいけど」
「毛皮とか獣毛とか、加工してフェルトにしたり絨毯にしたり、得意やろ? アラバスタの発展に寄与しそうやろォ?」
「急に胡散臭いな」
全部、自分の商売に持っていった。反乱と干魃の対応の話だと思っていたのに。
ちなみに、落書きされた顔なので、ずっと胡散臭い。
「いい加減、顔を拭け」
「台拭きやないか!?」
龍驤はサンジにグリグリされた。顔はスッキリしたが、雑巾臭い。頭の花は折れた。
「雑過ぎへん? ウチ、女の子やで?」
一味全員が鼻を鳴らす。チョッパーはこの空気に慣れていかなければならない。サンジが助言する。
「大変だが慣れる」
「自信がないぞ?」
「まずは、船長とアレを踏みつけるところからだ」
雑なのは、船長もだった。龍驤と扱いが同じと聞いて、ルフィが衝撃を受けている。ゾロは笑っているが、実はそれほど違いはない。
不可思議な一味である。
なにせ、水が足りないだけで人々がすれ違い、国が乱れている。
食い物が足りなくて、どいつもこいつも好き勝手して、挙げ句に狭い船でいっしょに旅が出来るというのは、驚きを越えて奇跡である。
龍驤はもちろんのこと、ルフィもゾロも日常では害悪と言っていいレベルだ。船長は好奇心で暴走するし食うし、剣士は呑むし起きないし。
その三人が結成メンバーだ。みんな、一応は部下の身の上なのだ。なにが悲しくて、上司であるそいつらを縛って言うことを聞かせるルールや罰則を運用しなければならないのか。
明らかに立場が逆転している。
航海に反乱は付きものとはいえ、もはや常態化している。
これでちゃんと船長で、化け物一味唯一の戦闘員で、千里を見通す観測手をやれているのだから、むしろクルーたちの器が大き過ぎる疑惑がある。
もしかすると、三人の度量なのかも知れないが。
度量。
ゴムと筋肉と装甲で、チョッパーに無駄過ぎる圧をかけているが。新人に全力でパワハラしているが。
「さぁ、踏みつけてみい? その前足で砕けるか!? 簡単にヤラれはせんぞぉ!?」
あっさり鎮圧された。ナミとサンジに説教されている。海賊ってダメなやつらなんだなと、チョッパーが正しい知識を身につけている。
「クロコダイルさえおらなこんなもんや。荒っぽいからケンカはするが、反乱なんて続かん」
龍驤が正座して真面目な顔をする。麦わらの一味を例にしてよいかは疑問である。隣にはルフィとゾロも並んでいる。
納得いっていない顔だ。龍驤の後ろで強そうなポーズを決めただけである。あと、実はあんまり罰になっていない。
「ウチが手を出して一時的に無力化はしたが、こんなもんすぐに対応してくる。マジで姿を眩ませられたら厄介や。ナミは地理を確認せえ。こいつらをレインベースまで引っ張ってもらわなアカン」
「あとでルートを教えるわ」
「お願いね、ビビ」
「サンジはわかっとるやろうが、自然系は基本、触れん。そんで射程は見えるとこ全部、水平線までと思え。砂漠はクロコダイルの体内みたいなもんや。ウチの艦載機は飛べん。なんとかしろ」
「おう」
「なんとかって」
「ビビるな。的が大きいだけだ」
本当にそうなら、巨人なんて怖くない。その巨人よりも大規模で有害そのものだから恐ろしいのだ。
もちろん、野暮なことは言わない。正座も続ける。
「イガラムさんとも合流するし、ウチは文字通り後ろに下がる。敵は強大、島は広く、問題は山積みで、キミらは弱い」
全員が黙る。
「せやけど、単なる通り道。王下七武海? 上等や。お望み通りの大冒険。楽しんでこい」
麦わらの一味が笑み崩れて、声を合わせる。チョッパーも今度こそ、武者震いに任せた。ビビも怖いとは思っている。
龍驤は続ける。
「でな、実は障害はクロコダイルだけやなくてやな」
「は?」
「なんか、海軍が追っとる」
「え? 俺たちなんかしたか?」
ルフィは心外そうだ。海賊の自覚がなさ過ぎる。龍驤が賞金稼ぎの皮を被せていることさえ、忘れてそう。
しかしながら、実際になにもしていないのである。海軍に追われることが不思議に思える海賊は、海賊なのだろうか。
「龍驤のウソがバレたか」
「なんかウソある?」
聞かれても困る。
「いや、まぁ、相手は一応、七武海なわけだし」
「海軍が敵に回るってこと?」
「そんな!?」
ビビは驚く。加盟国なのに。
海軍も世界政府も信用ないなと、龍驤は思っている。
「でな」
「まだあんのかよ」
「もう驚かねえぞ」
ナイスフラグと、龍驤は思っている。
「なんか白ひげさんとこの隊長さんらしきお人が、ナノハナでぶらついとる」
「はぁッ!?」
「白ひげ!?」
「隊長!?」
「なんでよ!?」
「誰だ?」
一人だけピンときていない。龍驤はとても残念な顔になる。
「海賊王のケンカ友達」
「へー」
「その説明でいいのか?」
「間違っちゃいないが」
「間違いだろ。友達と殺し合わないだろ」
「リトルガーデン」
ウソップは黙った。巨人は万能である。いろんな例えに使える。
「そっとしときゃいいだろ?」
「だな。暴れるつもりなら、とっくにナノハナなんて街はなくなってる」
「困るんだけど」
「いや、そうか。下手すりゃ、クロコダイルが出てくんのか」
「そういや。アラバスタじゃ英雄だったな」
「うん」
龍驤が肯定した。観測手が、肯定した。
「来てんのかぁ!?」
「どうすんだ!? いきなり決戦か!?」
「だから、ナノハナは大事な港なのよ!?」
「知るかよ!?」
大混乱である。ルフィが首を傾げる。
「面倒がなくていいじゃねぇか」
そんなわけはないが、でも隠れられたら厄介なのも事実で、正論なだけに余計、割り切れない。龍驤は不満だ。ナミがはっとする。
「まさか、海軍と!?」
「かち合うんでない?」
龍驤は嬉しい。
船が一気にバタバタし始めた。
「急げ!! 反乱とか関係なしにアラバスタが滅ぶぞ!?」
「ホント、海軍って迷惑なんだから!!」
「私も初めてそう思った!!」
龍驤は満足である。ルフィが珍しく人間に好奇心を発揮した。白ひげすら知らない男である。
「なあなあ。隊長って誰だ?」
「コイツ」
龍驤は手配書を差し出す。
「白ひげ海賊団、二番隊隊長、火拳のエース」
「おお!! エースか!! 懐かしいな!! 俺の兄ちゃんだ」
鼻水出た。