聖杯問答よりやってほしい
みんなやれ
がらんとした食堂に、どうにも気まずい集団が残り、龍驤はスルリとゾロから降りた。
「先に始めとれ。金を連れてくる」
「お、オイ!!」
あんなでもいないと困る。こんなときこそ仕切ってほしい。ルフィはエースの隣に座って、いっしょに飯を食べ始めている。
海兵と王女様と麦わらの一味という、実はよい子の集まりは、そんな家族の語らいを邪魔出来ない。互いに見合いながら、とりあえず、誰ともなく、思い思いの席につく。
「ちょっと待って。連れてくるって言った?」
「うん。龍驤はそう言ってた」
嫌な予感がする。それはスモーカーでさえ共有出来た。
でも逃げ出せない。麦わらの一味は船長が居座っているし、スモーカーは目の前に海賊がいる。
「待たせたな」
「捨てて来い!!」
「どこで拾ってきたのよ!!」
「そこ」
クロコダイルがぐるぐる巻にされてきた。振りほどけるだろうに大人しくしている理由は、すぐにわかった。妖精さんがまとわりついている。
あと、すっごくヤサグレている。
スモーカーが葉巻を落とした。
「なに、をやって? んだ?」
「ローグタウンの番犬か。お前こそなにしに来た? いや、面倒だ。こいつらなにをやった?」
クロコダイルは龍驤に連れられたまま、今にも飛びかかりそうな表情で言った。あまりにも切実で、スモーカーは正直に言った。
「死刑台で死ぬ直前に、笑いやがった。生きてんのは、そいつが雷を呼んだからだ」
「ガハァっ!!」
龍驤が死んだ。血を吐いた。自由になったクロコダイルは椅子に座って、店主を呼ぶ。
「酒だ」
「どうか許して下さい」
店主は土下座して、店を放棄しようとした。なんとかとどめて、給仕はサンジが請負った。もう厨房に引きこもる。
龍驤は店の隅に転がされた。医者であるチョッパーが、一応、診察している。
「心の病気は、流石に手が出ねえ」
「ちゃうもん。あれは噴水を吹き飛ばしたバギーが悪いんやもん。あれが広場の避雷針代わりやったのに」
ブツブツと言い訳を重ねる。ガープを知っているスモーカーはなんとなく察したが、黙っていた。
「覇気が使えたのか?」
「なんだ? 覇気って?」
ゾロの答えに、スモーカーが鼻白む。クロコダイルが忌々しそうに吐き捨てた。
「この小人どもだ。人をマヌケにするためなら、なんだってやる。気をつけろ」
クロコダイルが人を心配している。よっぽど苦労したらしい。一味の同情に対して、同士の雰囲気を醸し出すぐらいに。
スモーカーもクロコダイルより、妖精さんの方を警戒し始めた。
「本当に気をつけてな。簡単に世界が滅ぶから」
「いつ戻った」
龍驤が席についている。店の隅でチョッパーがキョロキョロしている。龍驤はテーブルの妖精さんを小突く。
「コツはフザけることや。とことんフザけて、これオモロそうやなってことには手を貸してくれる。真剣にそういうこと考えとると、これはって確信することがあるやん?」
「ねぇよ」
唱和された。龍驤は悲しい。
「ウソップはあるよな? 当たるって確信する瞬間」
「え? 狙撃の話?」
「そう。疑いようもない瞬間が、戦いの中にはある。普通、それを裏切られることはない。そうなったら死んどるやろし」
「お笑いの話だったよな?」
「芸事さ。なにも変わらん。人を殺すに、技術も拘りもいらんのや。自分と相手がおりゃそれですむ」
ここにいるのは力の信奉者だ。強くあることで目的を達成しようとしている。その意味ではビビも例外ではない。
龍驤の割り切りに頷く人間はいない。
ただ、価値観ではなく、物理法則の話なのだ。
「ウチはなぁ、裏切られたことがあんねん。この世界でな」
アーロンを吹き飛ばすつもりだった。絶対に、疑いようもなく、それは出来た。今でも確信は揺るがない。
しかし、吹き飛ばされたのは龍驤だった。あの至近距離で、砲弾が発射され、当たるところまで見た。なのになにも起こらなかった。
「妖精さんは死の概念を理解せん。よって戦争も殺し合いもスポーツや。これでもちゃんとルールは守るんでな。物理法則に反した現象なんて、戦いの中では起こさんのや」
麦わらの一味の視線が、龍驤の腰の辺りに延びる。どう考えても、その艤装とか言うのは物理法則に反している。
「ああ、大きさとかの認識がウチらと違うんや。妖精さんにとっては、エネルギーが全て。質量に変換して理解はしてくれんよ」
「なにが言いたいんだよ?」
ゾロが痺れを切らす。龍驤は身を乗り出した。
「覇気ってなんや?」
再び、龍驤から鎖が漏れ出した。漏れたとしか言いようのない量だった。なんかスライムみたいに押し寄せた。妖精さんがデラ踊っている。
みんな鎖といっしょにまとわりつかれながら、これがオモロいのかと諦め顔である。スモーカーが抵抗して、ヒドいことになっている。無駄なのに。
「覇気ってなんやねんな。なにが出来るんや。どういうもんなんや。なんなんや、ホント。なんで妖精さんと同じことすんねん、貴様らぁッ!!」
「すまん」
スモーカーから鼻水垂れた。クロコダイルが謝っている。妖精さんと同じもの扱いされた麦わらの一味が複雑そうな顔をする。
「よ、妖精さんってそんなに怖いのか?」
「怖くはないのよ。怖くは」
「理不尽なのよ」
チョッパーが蹄で踊ってる妖精さんを掲げながら聞いた。こんなに可愛いのにと言いたげである。むしろ、可愛いからチョッパーだけ捕らわれていない。ナミとビビは困っている。
龍驤は怒りのままに泣いている。
「この異世界へ来てからこっち。もう、見るもの触るもの全部そうなんやもん。わかるか、ウチの気持ちが? わからんよなぁ? それを生みの親に持った不思議生物の気持ちなんて!!」
「悪かった、悪かったから」
なに、この一体感。妖精さんと馴染みの薄いスモーカーにはわからない。この状況にクロコダイルまで参加してるの。
そして気づいた。気づいてしまった。妖精さんが喜んでいるのは、この、気の狂った光景そのものだと。
何人かの妖精さんが、スモーカーを振り返った。戦慄し、青ざめるスモーカーの様子を眺めて、悦に浸っている。他は踊ってる。
スンと龍驤が落ち着いた。
「思ったより、ウチが異世界転生者と理解してくれとって助かるわ。あの子いい仕事してくれたみたいやね」
「アレにもプライドはある。学問体系と発想の違いを考えれば、信じる信じないではなく、そう考えた方が早いとさ」
「信頼についても理解が進んだようやな」
もう、麦わらの一味はついて行くのをやめた。それぞれ食事や酒を頼む。なんでか、クロコダイルと龍驤はわかり合っていた。
物理法則を歪めるような技術である。知っている知らない、使える使えないで世界はまったく違うものとなる。
そんな理不尽を妖精さんと覇気を共通項に理解しあえたとするなら、逆に妖精さんが別の解を導くのだと理解していなくてはならない。
覇気と妖精さんが同じものなら、妖精さんは悪魔の実をはじめとした、龍驤の能力という理解しか出来ないからだ。
自分の能力に振り回されるのであれば、単なるマヌケだ。同情の余地など、どこにあるだろう。むしろ、妖精さんが理不尽であればあるだけ、怒りは龍驤に向かう。
別の世界の共通するなにか。そうであったときだけ、二人は互いを理解出来る。
つまり、クロコダイルは妖精さんだけでなく、覇気にも痛い目を見てる。
「どういうこった?」
「言っただろう? ルールが違うんだよ。まともに勝負なんざやってらんねえのさ」
「手強い敵は大好きやで」
クロコダイルは負けた。というより、計画は頓挫した。今さらなにをやっても、自分が求める状況は手に入らない。
クロコダイルは国でも古代兵器でもなく、状況や環境がほしかったのだ。
七武海は政府の監視が厳しい。簡単には勢力を拡大出来ない。
勢力とは、手下の数や味方の強さではない。ぶっちゃけ支配地域だ。現在の平和とは、互いに均衡して勢力を広げないという暗黙の了解で成り立っている。
わかってないっぽいのはいるが、そこらはなんとかみんなでわからせているところである。
クロコダイルは、そのわかってないやつらが羨ましくてもどかしい。自分ならもっと上手くやれると思っている。逆にわからせてやれるはずだと考えている。
だが、言うだけならタダだ。そんなでも積み重ねた年月がある。簡単には並び立てない。だから、準備をした。
その準備を台無しにされたのだ。
負けたわけではないが、勝つ意味がない。かと言って、逃げても時間を無駄にするだけである。
つまり、クロコダイルは辿り着いたのだ。圧倒的な航空優勢に対する唯一解。野戦軍と支配地域の放棄に。
ゲリラ戦して、我慢比べしたら勝つよねっていう。
ベトナムもアフガンもそうやって勝った。戦後、もっともうんこだった戦いである。
麦わらの一味は最速でのグランドライン一周を企図しているので必ず勝てるわけだが、本当に意味がない。
クロコダイルは圧倒的な軍事力がほしかったのに、それを捨てなきゃならないからだ。
それでもアラバスタをここまで追い詰めた。麦わらの一味さえ早期に排除出来れば、ワンチャンあった。というか、今なら出来た。
白ひげの二番隊隊長がここにいなければ。
ルフィと兄弟でなければ。
ガープと白ひげと、謎な事情を裏に抱えていなければ。
なんなんだ、本当に。
龍驤がクロコダイルに情報戦を挑んだのは、到着のタイミングを隠すためだった。上陸直前、直後に自然系の能力全開で襲われたら、奇跡でもない限り負けていた。
海と砂漠に挟まれて勝てるほど、麦わらの一味はまだ人類をやめていない。
いいようにされたようで、クロコダイルはその瞬間を探り続けていたし、龍驤は誤魔化すべく全力を尽くした。
はっきり言って、泥沼の勝負である。本当に頑張った。
で、二人とも負けなかったけど、なんか全員集合した。もしやと思ったらやっぱりクロコダイルはいて、彼はヤサグレきった龍驤に抵抗を諦めたのだ。
クロコダイルも戦略家だ。起きているだろう理不尽に気づいて、精神が飛んだ。出会った瞬間、これまでの攻防も苦闘も台無しになったのだとわかってしまった。
だって、上陸のタイミングで白ひげと海軍いたら勝ち確じゃん。なんでそっちが敗北者の顔して襲ってくるんだ。
しかも、「兄弟や」の一言付きで。
振り回してきたやつが、実は振り回されてるだけだったのだから、徒労感がものすごい。
もう終わりだ。
なぜか東の海が急速に安定し始めている。それを切り取るなりなんなりするには、またアラバスタにしたのと同じだけの労力がいる。
もうちょっと時間をかけてくれれば、クロコダイルの経済力が席巻出来たのだが、そうも言っていられない。むしろ、立場的にアラバスタなんか手に入れたら、クロコダイルこそ乗っ取りを恐れなくてはならない。
七武海なんか所詮、称号に過ぎないのだ。いつでも取り上げられてしまう。
アラバスタに固執する状況ではない。龍驤以上に対応が必要な戦略的状況が発生したのだ。
クロコダイルは、海軍と戦わなければならない
「俺が作り出したのはシステムだ。人手はまた集まる。いくらでもな」
「ただし、基幹要員を温存出来れば、やろ?」
挑発的な笑みを交わしているように見えて、二人とも頬が引き攣っている。ヤサグレている。
泣けよ、ほら、と互いに押しつけあっている。なんなら、龍驤の方が泣いている。
こんなに頑張ったのに、一週間、飯抜きだったのだ。
隠さない、隠せない船長のせいで、隠してた、黙ってたことが麦わらの一味では罪になってしまう。
それが許されるのは過去の事情だけだ。つまり、終わったことならよかったのに、ちゃんと途中報告したからダメだったとかいう。
どないせいっちゅうねん。
龍驤は今度こそ全部自分で片付けるつもりだし、クロコダイルはそれを察してやってみろよと威嚇する。
同族嫌悪。ガキのケンカが勃発していた。誰も巻き込まれたくはない。
「覇気ってなんやねん」
「教えると思うのか?」
二人に任せると埒が明かないので、スモーカーは麦わらの一味に声をかける。
「なぁ、誰か説明してくれねぇか?」
「嫌だ!!」
「俺たちは無関係だ」
「ごめんなさい。私もなにがなんだか」
「幾ら払う?」
「お前ホントにわかってるのかよ?」
「頭のいいバカが二人ってとこだ」
たしぎ、早く来ないかなと、スモーカーは思った。
ついに海兵まで思考を放棄した。覇気もそうだが、わからないことが多過ぎる。
お互いがお互いになんでここにいるのか、なんにもわからない。ローグタウン駐在がなんでと問えば、アラバスタの王女がなぜとなり、それを説明しようとすると竜虎相討つみたいな痴話喧嘩に飛び込まないといけない。
右も左も誰も彼も、みんな詰んでいた。
「覇気について知りたいのか?」
「もうええの?」
「大した用事じゃないさ。互いに海に出たんだ」
その割にクロコダイルにまでどうも、どうもと頭を下げる様子は、龍驤にとって懐かしい。完全に日本人である。
つまり、非常に身内意識が強い。ルフィも嬉しそうである。めっちゃ懐いている。その証拠に、ルフィがエースの後ろにいて、行く先々についてまわっている。
待てと言っても次の瞬間、最前線にいるような男が先頭を譲っている。
「ナミ〜、これ縫い付けてくれ」
「龍驤に頼みなさいよ」
言いながら、ソーイングセットを出している。
龍驤は思った。自分ってなにかしら借金に結びつけるナミより、頼み事しにくいって思われているんだと。
「教えてくれんの?」
「まぁ、触りだけな。使えるようになるには、時間がかかるからよ」
ルフィの兄貴はコミュニケーション能力、気遣い、その他もろもろが船長よりも高かった。詰んだ状況で、全員が助かったと思った。
「つっても、俺もあんまり得意じゃないんだよな。自然系だから」
「そうなん?」
自然系二人に確かめる。クロコダイルは無視。スモーカーは迷ったが、話を進めないとどうしようもない。
「覇気ってのは肉体を強化する技だ。肉体そのものを変化させるロギアとは相性が悪いと言われている」
「キミ、炎やっけ? 強くならんの?」
「規模の大きさがウリだからな。覇気を使うと、どうしても人間の形に収まっちまうんだよ」
「あー、なるほど。圧縮、または硬化。いや、保護と言った方がええんか」
「なんでそれだけで理解を進めてやがる」
クロコダイルがドン引きしている。麦わらの一味も同意している。
「そりゃ、推測は重ねとるもん。不完全やけど、うちのも出来るしな」
年長組がギョッとした。龍驤はドヤり、一味は照れている。関係ないのもいるが、一味じゃなければ全員だと勘違いする。
「自然なんちゅうもんを、自分の身体と同じに扱えんと意味がないわけや。そら難しいな。悪魔の実なんて、後天的なもんやし」
クロコダイルがちょっと視線を動かしたので、そうとも言い切れない事例があることはわかった。どっちかと言えば、完全に下を向いたスモーカーの方がわかりやすいが。
「要は気合みたいなもんなんだが、慣れると見聞色と武装色ってわけられるようになってな。やっぱ、自分自身が邪魔っていうか、苦手なんだよな」
エースはダレた。白ひげという、前時代からの猛者たちの中にいるのだ。ルフィにとっては兄貴でも、組織に帰れば下っ端なのだろう。下手すれば職人集団なので、隊長だからって偉そうに出来るわけでもない。現場ではガキ扱いされながら、管理職を頑張っているのだろう。
新任少尉とかにありがちな苦労である。龍驤は共感した。
「炎やったら、人の形でも強いと思うで。焚き火より窯の方が熱いやん。炎って閉じ込めたり、押さえつけたりした方が火力は上がるんよ」
「マジか!?」
「ぶっちゃけ、炎て色のついた空気やから、単体やと雑魚極まりないんよな。あくまで、自然現象としてはやけど」
「そんなことはねぇだろ」
「人が扱えるんやで? 自然と消えるんやで? 技術と知恵の象徴ですらある。そら弱いから制御出来るんや。逆に言や、自然に任すより制御した方が強いねん」
「へー、そんな発想はなかったな」
「料理に火は必須や。この皿は土や砂を火で固めた。金属は溶かして、ナイフやフォークにもする。人の手を経てこそ、炎は真価を発揮する」
テーブルを指して例を出す。みんな、それぞれ手にとってみた。
クロコダイルが舌打ちをする。自身が砂だからだ。スモーカーは自分も聞きたいなと思っている。
「俺は太陽みたいにでっかくなれば、火力が上がるもんだと思ってたぜ」
「質量はエネルギーやから、まぁ、間違いではないけど。どう説明したもんか。炎をプラズマ化するなら、小さく小さくまとめた方がええで」
なにを炎と呼ぶかは厳密ではないが、太陽はあの大きさにまで圧縮されて燃えている。ただ大きくするのでは、太陽からむしろかけ離れてしまう。
「なんでお前が説明してんだ」
ハッとした。麦わらの一味は呆れている。違和感をなくしてたバカは炙り出された。炎だけに。
「まあええわ、だいたいわかった」
「わかるわけねぇだろ」
「見を極めてパンと当てたらええんやろ? 自然系が覇気苦手なんもそこや。強固な自己は、後付けの能力では構築しにくい。自己と他者の境を明確にして、現象そのものを観測結果に反映させる。因果すら観測に左右されるんやとすれば、これまでのことはだいたいは説明出来る」
「いや、出来てないから」
「シュレーディンガーの猫とか、ウチかてまともに説明出来んて。死体を見なけりゃ死んでないが、感傷でも疑問でもなく、状態なんやぞ?」
「わかんねぇから!!」
「つべこべ言わんとやれ」
そうだった。使えるようにならないといけなかった。麦わらの一味もヤサグレた。
「だから、ウソップとサンジが手本やて。よー見て当てる。食材を知って調理する。同じようにしたらええねん。拳一つ、剣の一振り、一切疑問を許すな。信じるなんて甘えを残さんことや」
悲鳴を上げていたのに、例に出されて本人が困惑している。一味は互いを見合って、彼らなりに整理した。
なんか全身全霊かつ魂をかけた一撃を、通常攻撃にしないといけないらしい。
要は会心発動率を100%にするスキルを取得すればいい。重ねがけ無効。取得はレベルでランダム。なのにツリー。当然、必須。必要経験値はレベル比例。レベル差で取得経験値減少。
クソゲーである。間違いなく、進行不能になる。
なにせ防御にも会心は発動する。不完全なスキルでまぐれなど期待していられない。で、会心に関わらず物理耐性でダメージは発生しない。発生するかもだが、カスダメである。
こんなんがゲームじゃなく、現実。
銃や大砲が効かないだけでなく、自然系とかいう不思議の存在する世界である。雲か霞かというものをどうこうするのは、もはや武術ではなく仙術とかのオカルトだ。
オカルトならまだなんとかなったかもだが、ちゃんと物理法則の範囲なので、龍驤は心眼に目覚めて霞斬りを使わないといけない。
忍者じゃなくて、光の巨人の方。対怪獣だから。
ビームすら、ビームすら越えて来た。原点にして頂点の超絶体技である。せめて、光線を使ってほしい。ネタにならない技がいい。
ちなみに、持ち味を生かすなら手刀ではなく、8門の砲と28挺の機銃、43機の艦載機、メリー号の基地航空隊を合わせたら200機以上で実現する必要がある。
「あ、ウチも苦手やわ」
握手、握手と三人の手を握る。精神が逝ってしまっている。
「それがないと強くなれねぇのか?」
ルフィの疑問に、兄貴分たちが考え込む。常に全身全霊で戦うのだ。そんな簡単でもないし、持久力だって保たない。
示現流だって、よく知られているあれは必殺技の思想である。通常攻撃にするのは頭がおかしい。
「能力で戦った方が効率的だ。俺たちロギアなら規模で消耗を押し付けられる」
「同じロギアだったら?」
「勝負はつかねぇな」
「そんなことはねえさ。研ぎ澄まし、能力で上回ればいい。相性もあるが、力さえあれば圧倒出来る」
白ひげとかそのものである。ロギアではないが、覇気以前に能力のゴリ押しで、たいてい世界が滅ぶ。
「え? キミ、本気でなにしに来たの? キミのオヤジさんが動くの怖いんやけど」
「なんか、仇討ちだってよ」
「落とし前をつけに来たんだ」
「いや、白ひげんところから逃げ出せたんなら放っといたりや。落とし前は逃がしたやつがつけぇよ」
「俺だよ」
「じゃあ、背中のドクロ下ろせ!!」
唱和した。切実だった。組織から離れて落とし前をつけてるやつが代紋を背負ったらいけない。
要は信頼を失っているわけだから、外で代表しちゃうと色々と問題がある。
その問題は、発展すると世界が滅ぶ。
「落とし前をつけるまでは名乗らんのが流儀やろ!?」
「フザけんなよ、テメェ。お前自身の問題に、よくドクロを背負って来れたな」
「白ひげに泥塗ったキミが、白ひげの看板掲げてどうすんねん。泥を拭って初めてもう一度やろ?」
なんか連携している。確かにうんこの投げ合いだったが、お互いに初めてこの世界で互角にした勝負である。
偶然でふいにされた上、それが理不尽な理由なら怒る。
エースは戸惑いながら反論した。
「こいつは俺の誇りだ」
龍驤とクロコダイルがのたうち回る。まさか、覇気より説明が難しいとか。
「白ひげのおらんとこでは、そのドクロが白ひげやねん。今はキミ自身や。なのに、キミは白ひげを代弁しとらんのか? キミの誇り?」
「実は反対されて」
大きいのと小さいのが揃って爆発した。
「甘やかしてんちゃうぞ!!」
「あんのクソジジィ、なんにも変わっちゃいねぇ!!」
「そうなんか!! 昔からか!! どいつもこいつもあの世代!!」
「世の中引っ掻き回さずにいられねえのか!?」
白ひげ、オーナーゼフ、ガープ、ドクトリーヌに、なんならロジャー。実に立派な子供たちだ。とても慕われている。
もはや愚痴である。超気が合ってる。エースはなんか申し訳ない気持ちになる。
「ダメだったのか?」
「いや、わからねえ」
「海賊旗を下ろすときは、船を降りるときだ」
「世代間格差ぁッ!!」
龍驤はテーブルに両手を叩きつけた。みな冷静にお皿なんかを避難させる。
0歳の異世界転生者がおかしなことを。
「今の若いやつらはみんなこうなのか?」
「そうだな。トラブルが増えて困ってるよ」
海賊旗というのは脅しの道具である。脅しである以上、脅さないときには下ろさなければいけない。
しかし、海賊が当たり前になってアウトローヒーローみたいな昨今、海賊旗を誇りのために掲げる若者が急増した。
脅しじゃない。自慢なのだ。でも、どう考えたって脅しなのである。
「ドクロは相手の命を脅かすもんでな? 自分の命をかけるのとはちょっち違うねん」
「当たり前に航海してるからわからねえかも知れねえが、本来、海賊ってのは逃げ隠れするもんなんだぞ?」
「ビビ王女には叱られたが、こっちだってそうそう見逃せるもんじゃない。それこそ海軍の誇りがかかってる」
「ボク海賊ですって、表歩いたらアカンねん。少なくとも、自分とこのナワバリ以外は」
「海賊に脅しは効かねえ。海軍だって脅しに怯んじゃいられねえ。なら、ドクロはケンカ売ってるってことだろが?」
「いちいちいちいち、通行人にガンつけて回ったら迷惑だろ? 航路を守る立場として、そういうバカを取り締まらないわけにはいかねぇんだ」
「そうだったのか」
若い連中が目から鱗な顔をしている。説教を素直に聞けちゃうの、いい子過ぎる。
「締まらねえ」
「調子が狂うな」
「どうなっとんねん。この世界」
海賊が普通であり過ぎた。普通過ぎて、みんな海賊の自覚がなかった。白ひげの二番隊隊長にすら。
「うちもそやけど。海賊すらまともなの少ないよな」
「まともな海賊ってのもおかしな話だが、商売してると多少厄介なだけで客でしかねえ」
「最近の取り締まりは略奪じゃねえんだ。なんにも奪わねえで、下らねえケンカばっかりだ。それも能力込みで大規模なのだ。海でやってくれよ。無人島でもいい」
「ロジャーとシキって、最低限、常識あったんやな」
「あれを基準にすんのか?」
「今や、冗談じゃなくなってる」
三人はため息をついた。
なんか、いたたまれない。
ワンピース最大の謎を語るに、一話では足りない
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