龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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海賊もなんやねんてぇ(下)

「カナヅチが弱点って考えは古いのか?」

「一億ばかで拡散されとるんや。むしろ、謀略を疑うが」

「そんなことはねぇよ。インペルダウンへの収監は、それを防ぐためだ」

「そうか? 航海技術も造船技術も上がっとる。なのに、流通しとる砲は前装式のままや」

「最新の戦艦は砲塔があるな。あれは俺も手にいれられねえ」

「そりゃ、一定の規制はあるさ。謀略とは関係ねえ」

 なんか、三人で集まって仲良く喋ってる。麦わらの一味一同は、それを見物している。

「なんか難しい話してるな」

「よく聞いておけ。もはや、なにしに来たのかすらもわからないが、多分、貴重な話だ」

「海軍、七武海、異世界転生者。なんだこれ?」

「お前の仲間、おもしれーな」

「だろ?」

「で、あいつらなんの話をしてんの?」

 誰もわからない。白ひげの隊長は第三者ぶるな。一応、意味はある。

 旗は信号である。コミュニケーション手段であり、なにかを伝えるためのものだ。助け合いや、お互い様の精神である。

 旗は航海の安全を高めるためにある。

 それが自己主張そのものの海賊旗にとって代わられた。

 もう、それを見たら逃げるか戦うしかないはずのものが、アートと化した。

 あらゆる意味で、航海は危険となった。

 大海賊時代。そう言えば聞こえはいいが、素人が海に出ただけである。ルフィやゾロほどとは言わなくても。

 素人なので、実はみんな海賊出来ない。航路も知らないので待ち伏せ出来ないし、追えないし、捕まえられない。

 なんなら逃げられない。

 東の海の実力者と言われたクリークが、艦隊でグランドライン入りするぐらいである。

 リヴァース・マウンテンの非常識さを置いても、運河に50隻で殺到するなという話だ。大渋滞必至である。そんなとこ狙われたら、相手が鷹の目でなくとも負ける。

 こんな素人が、提督と呼ばれるのだ。二年も航路上で海賊してた、金棒のアルビダを差し置いて。

 必要なのは、もっと基礎的な航海術である。

 海賊として海に出たけど、まともに海を行けない。つまり、大海賊時代には海戦が発生しない。陸で戦う。しかも素人なので、人里から離れられない。

 無人島とか近づけない。岩礁とか避けられないし、砂浜とかないので下手な場所で停泊出来ず、港のある入江とか普通に来る。それ以外だと、上陸も無理。

 加えて、能力者の増加である。一億ははした金だ。株式会社を誕生させたのは、船による貿易である。胡椒が同量の金と同価値だと言われたりもした。

 船を一隻動かせば、とんでもない大金が動くのだ。略奪なんかしなくても、一億ぐらい誰でも稼げる。

 まとめると。

 信号がない、または無視し、なのに交通の多い場所にわざわざ来て集まり、操船も下手か荒く、脅しの道具を自慢げに掲げる若者の集団。

 田舎の暴走族じゃん。船は車やバイクよりも止まれないし、曲がれない。

 事故る。絶対に事故が起こる。

 船一隻で大金が動くってば。一隻沈むだけで富豪が一文なしになるから、株式が出来たのだ。船も水も食糧も積荷も、全部株主様が出資して揃えて下さったのである。

 なぜに自力で揃えて海に出るか。保険なしで。

 主要な海賊の被害とは、多分、略奪じゃなくて、損害の踏み倒し。

 頭が痛いが、グランドライン仕様の船が一般的になったということだ。メリー号のような近海用の遊覧船ですらそうなのだ。四方の海なら、素人でもどこかに流れつく。

 近海用の船ならお安く買える。グランドライン対応の外洋船技術を使ってるけど、形とか大きさはそう。まず、メリー号のあの舵でわかる。あんな細かい操作の難しい舵で、この世界の波を越えて行けって。

 で、その船は、すごい浮く木で出来た竜骨に、魚人が転がしても形を保つ接着剤で出来ている。ついでに浄水器もある。

 なるほど。宇宙船に乗ってたら、そりゃ素人でも安心だ。所詮は海なので、漂流はしても沈まない。やっぱり、手漕ぎボートはおかしい。そして、仲間は海に出て探すものではない。

 あとは目的地にさえ行ければいいが、グランドラインなら方位や緯度や経度がわからなくても、ログポースあればそっちに向かうだけだ。迷いようもない。

 なにが最弱の海か。東の海以外で生まれた海賊は、グランドライン以外を航行出来ないだけなんじゃないか。

 海上の出来事なんて、本人たちしかわからない。名を上げようもない。船というのは人知れず沈む。だから、妖精さんまで派遣して、クロコダイルへ情報戦をだな。

 どうしたものだろう。

 海賊だからじゃなくて、海賊旗を掲げてるからで捕まえないと、ただの不良がバイト程度の荷運びで悪魔の実を手に入れて、人の住んでいる場所で大喧嘩する。

 鷹の目と赤髪みたいなのは、もうどうしようもないから諦めもしよう。悪魔の実ガチャで大当たり引いたみたいなノリで同じことをされたら、絶望もしよう。

 ただし、中身は暴走族同士の喧嘩。グレてるだけで、普通の若者たち。賊なら逃げもしようが、ツッパリって無駄に気合入ってるから。

 どんな海賊が本物の海賊なのか。ルフィのイメージか、龍驤の認識か。バカなのか、クズなのか。

 大海賊時代、実は凶悪化と反対の方向に突っ走っていた。若い海賊はみんないい子である。

 海賊の善良化と言っていいのかわからないが、同時に戦場が未開の地とかから、人里へと近づいてしまった。とんでもなく被害も増えたが、陸が近いのでかつてのようにカナヅチがデメリットとは考えられなくなった。

 それに対応して能力者で固めた組織を作ったのがクロコダイルだ。ログポースに頼るからこそ、航路ではなく島で待てる。

 だが、そんなことは誰でも気づいている。悪魔の実を集める勢力は多い。

 一歩進んだクロコダイルは、古代兵器を探しているように、海軍戦力も重要だと考えているし、それこそ現状を打破するアイデアの一つだと思っていた。

 どれだけ個人が強かろうとも、能力に頼る限り船さえ沈めればいいのだ。

 千々に乱れる世界で、アラバスタのような強力な国の支配を目論んだのは、海軍を整備するためだ。表でも裏でも金を稼ぐのは、単に銀を調達するためだけではない。

 しかし、自分がやられたように海上で圧倒的に上回られると、陸に籠もって逃げ隠れしながら戦われる。そうなると、やはりカナヅチは別に弱点でもない。能力の厄介さだけが際立つ。

 戦略の見直しが必要かと思ったが、龍驤は否定する。決戦など必要ないのだ。

 海路の封鎖は、ものすごい効く。やられたからわかる。

 よく兵站を軽視したと言われる帝国軍だが、逆である。兵站を軽視するなら、燃料取引の停止で戦争なんかしない。

 物を運ぶ動力である燃料がなくなったら、補給とか無理なのだ。広さは関係ない。人間にとって、山一つでも荷を担いで越えるのは苦役なのである。最強の上杉、武田がどうやっても天下統一出来ない理由である。

 田舎にはご飯があったから、学童疎開は行われた。空襲はついでに避けた。物はあったのだ。なんなら闇市なんて戦中でもあった。燃料さえあれば、少なくとも国内だけは補給を満たせた。

 あのクッソ広い大東亜共栄圏がなければ、日本は本土の大都市に、配給すらまともに届けられないのだ。

 つまり、アラバスタである。

 限られた輸送手段と、遠い供給拠点。

 若者は足りない物を奪い合って、殺し合う。弱い老人、女子供は死んでいく。届ける手段さえあれば、被害は少なく出来るのに。

 嫌なら戦争、日本である。若者が戦う。殺される。外国で飢え死にする。結局、本土でも足らなくなる。

 どちらがマシだろう。どちらも地獄には変わりない。

 日本が投げつけられたうんこは、特大である。

 日本には海軍力があった。アラバスタにはない。戦争も海賊も、選択肢にない。

 クロコダイルはそこで自分を売り込んだ。そしてコントロールした。

 龍驤はそこを空母としてこじ開けた。クロコダイルのコントロールは失ったが、反乱以外の選択肢が生まれた。これ以上、勝負する必要があるかどうか。それを二人は探っている。

 スモーカーを巻き込んで。

 均衡とか平和とかお題目だけで、兵力や訓練ではなく、実は技術開発に勤しんでいるんじゃないの、と絡んでいる。

 本来、海戦なんて海軍の十八番なのだ。それをしないのは不自然でもある。

 大砲の射程が水平線の向こうになったら、覇気使いも能力者もなにも出来ない。もちろん、龍驤のような観測手は必要だが、なにげに海軍は下位互換出来る。

 六式武術だ。

 一般兵が飛ぶのだ。少なくとも、尉官クラスが。将校は余っている。

 つまり、海軍以外に陸の近くで戦わせるようなドクトリンを仕込んで、あとからひっくり返すつもりじゃないかと疑っている。

 悪魔の実の獲得競争に政府が介入したら、もっと高額になるのは目に見えているのだ。

 センゴクがクロコダイルと似たような戦略を練っている可能性はある。

 スモーカーは大変である。つい最近まで辺境の佐官だった。そんなレベルの話は、否定しなきゃいけないのに完全に否定しちゃいけなくて、知っていることは話せないし、知らないこともたくさんあって、どちらだとも言えない。塩梅が難しい。

 まさかまさか、そんな。海軍もそうだなんて。

 大砲が自慢で逃げ足早くて、名前も残しつつ、船も街も港まで襲うバギーがお手本のような海賊だなんて。

 胃がキリキリ痛むような探り合いである。絶対に向いてない。

 そして、こいつらわかっててやってる。失言とかミスとか、沈黙まで待ってる。肉体が痛めつけられていないだけの拷問である。淀みなく、一貫性を失わず、慎重に、しかし、瞬発力も発揮しながら、言葉を交わさないといけない。

 外交官の仕事だ。軍人はたまに、そういうのをやらないといけない。業務の範囲内なのだ。

 冒頭、たった二言ぐらいの説明にこんだけ費やさせる面倒くさい二人を相手に。

 ローグタウンへ帰りたい。なんでこんなことに巻き込まれてしまったのか。スモーカーはせめて、高い酒を注文する。

「会計は誰が持つんだ?」

「頼むで、お金持ち」

「フザけんなよ。ワリカンだ、ワリカン」

「ケチ臭いこと言いなや。王下七武海の一角が」

「ダチか、テメェら」

 次の瞬間、殺し合いを始めるような関係をそういうなら。

 この世界、割とよくある仲だ。

「前半の海だぜ? 大した稼ぎなんざねえよ」

「丁度ええ。監査したれ。絶対、所得を隠しとるで」

「残念だが、許可がないと叱られたばっかりだ」

「覇気の話はいいのか?」

 龍驤は突っ伏した。船長は本質を逃さない。

「テメェ、なにを。いや、なにに気づいた?」

 クロコダイルもわかった。龍驤は誤魔化している。なぜだか、麦わらの一味は背筋が寒くなった。龍驤はそのままの姿勢で言った。

「妖精さんのやること、オモロい?」

「わかった。黙れ」

 理不尽が確定したので止める。全力だ。なんなら、船長も羽交い締めである。クロコダイルも、スモーカーさえ協力した。

「え? なんだよ? 俺も興味がある」

 兄弟がいた。油断していた。龍驤はゆらりと身を起こす。

「ウチはな。ちょっち思っただけなんや。覇気って、悪魔の実って、ボケとツッコミちゃうかって」

 真っ白に黄昏れたクロコダイルが、砂になって消えていく。それを殴りつけて止めるのが、覇気である。

 肉を見つけたルフィが、あらゆる障害を吹き飛ばしてそれを手に入れる。吹き飛ばされるピンボールは、ドリーさんかも知れないし、ブロギーさんかも知れないし、あるいは四皇や七武海や、ロギアの能力者かも知れない。

 これが覇気だ。またはゴム。

 止めるのはナミだろう。

 ゾロが刀を口に咥える。なぜか邪魔にならないし、喋れるし、威力は上がり、隙は消える。

 覇気だと思う。もはや、覇気であってほしい。

 ボケならば、どんな理不尽も通る。それを終わらせるツッコミは、さらなる理不尽に彩られる。

 フザければフザけるほど強いのだ。常識を捨て、こうなりたいを押し付けるとそうなるのだ。

 抵抗するならば、正論を叩きつけたらいい。逆に理不尽なぐらいに、正しさを押し付けたらいい。

 それが覇気と妖精さんが共通項だった場合の、この世界の物理法則である。

 彼らが対峙する現実の名前を、ギャグ時空という。

「荒唐無稽の代名詞を、ウチの世界では漫画と呼んだりするんや」

 異世界転生で漫画の中に、はあるあるだ。しかし、漫画という概念が物理法則化した世界は、もはやどうなんだ。

 ボケてツッコんでを、本気の殺し合いでやるのか。

 それで誰が笑うのだ。

 ギャグという理不尽を押し付けられることで、巻き込まれるモブは一体どんな人生を送るのだ。

 三刀流がどれだけめちゃくちゃだと言っても、あのバカそれで最強に上り詰めてくんだけど。普通に刀使ってたら負けるんだけど。

 剣は両手で振った方が強いみたいな、ただの正論じゃわからせらんないんだけど。

 覇気、妖精さん、漫画の力とは、戦艦を少女に変える力である。わかりやすくギャグ描写を例にしているが、妖精さんと人間の価値観、笑いどころは違う。でも、漫画としてオモロいかどうかというなら、描かれているかどうかが基準になる。

 難しい物理法則の話を横に置くと、描写されるに足るなにかをすることが、技術なのだ。見開きなのか、捨てゴマなのかは知らないが、より意味のある行動が優位となる。

 意味とは情報であり、観測結果であるべきだが、その結果を観測が左右してしまったらどうしたらいいのだ。

 そもそも情報は見えない。物理的な現象として観測されたときに、初めて明らかになる。このときの観測者は、別に人間である必要はない。物理は相対的なものだから、それぞれの相互作用によって、結果は人間が観測しなくても決まるのだ。

 逆に言えば、人間がなにをしようと物理法則の範囲内の結果しか観測出来ない。

 そうではない、というのがこの世界である。

 確かに描写されないモブの人生は過酷だろうが、中には描写が少ないだけでとんでもないことをする黒幕とかもいる。

 ボケ倒すと、妖精さんと合体事故を起こしてなにが起こるかわからない。

 龍驤は浜生まれなのに、関西弁を話す艦娘である。

 では、龍驤にとってより意味のある行動とはなにか。

「ウチ、この世界で、ツッコミとして生きんとダメなん?」

 一生ヤサグレろと。

 観測手という役割や、麦わらの一味っていう仲間たち。色々考え合わせると、そういうことになる。

 ボケに対して、オチとなるようなツッコミを、生涯続けないといけない。

 主人公ぶったやつとか、四天王とかラスボスとか裏ボスとかの企みを暴いて、なんでやねんしなければいけない。

 描写されないとツッコめないから。

 後出しで生きる人生。

 マウントは出来るかもだが、主人公では絶対にない。便利キャラだ。強いかもだが、なんかカマセだ。ストーリーに流され、描写はされないけど、リアリティを失わないためにあるアレコレの対処を一行で丸投げされて、読者に過労とかかわいそうとか言われる人だ。

 もしくは、なにやってるかわかんないけど、なんか偉そうってアンチされる人。

 悲しい。転生者なのに。

 なろうとしなくても、自然とそうなるってわかるの悔しい。

 現実なの厳しい。

 兄弟がクッソ笑っている。間違いなく、主人公気質のやつらが、龍驤を指さして笑っている。

 龍驤は二人を二次元にした。畳んだ。そして、スモーカーとクロコダイルを見た。

「そりゃ苦手やろうな」

「殺すぞ?」

 スモーカーはちょっと納得している。

 どうせ大人しく便利キャラになんてならないくせにと、麦わらの一味はヤサグレている。




例えです
てか、無理ぃ
作用点が任意で反作用はどないやねん
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