龍驤が出て行ったあと、なぜか酒場に新たな客が来た。
「ペル!! チャカ!!」
「ビビ様!? どういうことです!?」
何度出た疑問だろう。みんな本当に面倒くさい。自分たちだってわからないのだ。
スモーカーは飲んだくれている。なんで王宮から来たビビ王女の部下が来て、同じ街にいる彼の部下は来ないのだ。
白ひげのマークをつけた男と海軍がトラブルを起こしていたのだ。長く行方不明だったビビ王女の姿も確認された。
王宮に知らせがいくのは必然だが、なぜに先に来る。それを言うと、クロコダイルが一番だったぽくてきな臭いので、スモーカーは不満を飲み下し、店の外を見た。いた。
店を包囲していた。そうだった。そんな命令してた。アラバスタ兵とともに、彼女らも来た。来たら来たで、やはり説明を求められてうんざりした。
実は忘れてたスモーカー。いや、一人ぐらい様子を見に来いよ。援軍を寄越せ。
混乱の中でビビの手元に資料が届けられ、アラバスタ組でなんか喧々諤々し始めた。口頭での説明を諦めた龍驤が、妖精さんに泣きついたのだ。
「帰っていいか?」
「アンタの交渉相手、龍驤よ?」
なんで七武海が大人しく座るんだろう。クロコダイルもどこぞに連絡を始めて、なんかまた増えた。美人だ。見覚えがあり過ぎる。
「これ、看過していいんですか!?」
「やめろ、俺たちは無力だ。それとも巻き込まれたいか?」
政治なんか大嫌いである。これまで何度も、上層部に向かってクソ食らえと言ってきた。
自分が食べるのは嫌である。部下にだって食べさせたくない。
仕事だけはちゃんとするから許してほしい。
警察権は、海軍よりも国家優先である。つまり、なにもしない。
「帰ったで〜」
「エース!?」
ベチャっと成人男性が床に転がった。白目をむいている。海水に浸かっている。
なにが起こったのか、想像もしたくない。あんな爽やかに去っていったのに。
能力者とはいえ、無力化された四皇幹部とかそれだけで大事件な気がする。
とにかく、メンツが不条理過ぎだ。
「俺は、どうして? ルフィ?」
「エース!! よかった!! サボが!! 生きてたんだ!! 革命軍ってところに!!」
「な、なにィ!?」
「本当に放っておいていいんですか!?」
「どうしろっつうんだよ?」
情報というのは時間がかかっても、小出しに、順番に教えてくれないと困る。こんなんじゃ、俺たちの戦いはこれからなのかどうかすら、もうわからない。
というか、どう戦うのだ。麦わらはガープの関係者で、ドラゴンもそうで、その部下と白ひげのところに兄弟がいて、多分、それだけじゃない。
そこに七武海のクロコダイルと加盟国でも有数の大国であるアラバスタが絡んで、王女までいる。
そして、大元の麦わらが海賊であるかどうかすら、曖昧だ。
誰を敵にして、誰の味方をすればいいんだ。わからない。もう、本当になにもわからないのだ。
「黙って話を聞いてろ。判断はそれからだ」
それっぽいことを言って、誤魔化す。スモーカー自身、もはや迷うという段階にすら進めていない。
改めて世界の仕組みを説明されると、正義がなにかすらわからない。わかっていたはずのことがわからない。ああ、わからない。
スモーカーは混乱している。部下の手前、涼しい顔をするので精一杯だ。
「えー、お集まりのみなさん。さぞかし、なにがなんだかわからないと思っていることでしょう。ざまあみろ、バーカ」
ここぞとばかりに、龍驤が日頃の恨みを晴らしている。そこに麦わらの両翼とクロコダイルが飛びかかった。龍驤は抵抗したが、多勢に無勢である。
「イヤや!! なんでこんなややこしい家族関係と政治に首を突っこまなアカンねん!! あまつさえ説明しろ!? お察しの通りやて、このどアホが!!」
「いいからヤレ!! 役目だろ!?」
「知らん!! 知らん!! 知らん!!」
「テメェが一番、情報を持ってんだよ。全部、吐け」
「ウチのやもん!! ウチが手に入れたんやもん!!」
「ホレ見ろ、知ってんだろが!?」
「ウチは女やて!? なんで蹴るの!?」
サンジは衝撃を受けた。確かに、サンジにとって龍驤は人間どころか、女ではない。そう見える。
脳みそがどのように情報を処理するかは、個々人で違う。神経はその人の人生によってネットワークを形成するし、言語や常識も、国や家庭で違う。
結果、脳みそによって処理されて認識される現実は、必ずしも同じではない。
顔や文字を認識出来ない人もいるように、艦娘を女性だとか人間だと認識出来なくとも、おかしくはない。
サンジは人造の生き物を、まともな人間だと思えない。
それを利用した。龍驤はニタァと笑う。
「まさか、」
「その通りや。キミはもう、ウチに操作されとる」
まぁ、この世界、女性だからって弱いとは限らない。ナミやビビのように、あまり争いを好まない傾向にあるだけで、例外なんていくらでもある。というか、どうせ例外としか出会わない。
手を出すのは別の意味でためらわないくせに、女性へ足を出せないというのは困る。
サンジは料理をする手を傷つけないよう、蹴りで戦うからだ。
じゃあ、相手が女性だと防御も出来ない。ビーム撃ってくるのに。
龍驤は搭乗員の訓練を長く担当してきた。その成果は狂っている。
急降下爆撃の命中率が、八割である。
実戦での数字ではないが、どう考えてもおかしい。普通で四割だ。現代の誘導爆撃だって、誤爆はある。船なんて大きくても、命中と言えるのは百メートル四方の範囲である。とんでもない精度だ。
その秘密は単純だ。一瞬でも遅れたら死ぬ機首上げを、瞬きの間だけ遅らせるのだ。
百メートルだけ、余計に落下する。多分、落下中だと、一秒もかからない。残りは三秒もない。バカである。色々と麻痺してたんだと思う。誰もそれをすることに疑問を持たなかったんだから。
龍驤は人間のブレーキをぶっ壊す術を知っている上に、ブレーキがない。
「なんでそんなこと」
「だってゾロが、鉄ってより、ウチを斬れんようになってん。サンジはついで」
「ついでて」
ゾロは龍驤を含めて、クルーを守るべき者として認識している。それが、戦闘を専属とするゾロの矜持だ。
だからこそ、自分より前に出て戦おうとする龍驤やサンジが気に入らない。
気に入らないが、龍驤よりも弱いという気にもなっていた。斬れないからだ。
全然、そんなことない。仲間だとか見た目で、無意識に手加減していただけである。女子供に優しい不良である。
龍驤が強いのは射程がこの世界ではあり得ないぐらい長いことが根拠で、そうでない場面ではウソップにも勝てるかどうか怪しい。
そのウソップも、龍驤との輪ゴム銃合戦で、CQCモドキを身に着けつつある。
みんなちゃんと強くなっていたのだ。
ゾロのスランプは勘違いである。
その勘違いを修正する過程で、サンジの精神障壁も下げた。サンジの気分次第ではあるが、前よりも女性に向けて蹴りを放つことにためらいはなくなっているだろう。
「お前、なんてことを」
「ぶっちゃけ、すまん。せやけど、実力で抗え言うたやろ? ちゅーか、ウチもそこまでとは」
防御してほしかったのだ。別に女を蹴るクズに変えたつもりはない。
ただ、何度も言うが、龍驤にブレーキはない。あるつもりでいるのが信じられないぐらい、龍驤はおかしい。
絶望するサンジに、龍驤はトドメの一言を放った。
「チョロ」
「うわぁぁぁ!!」
サンジが崩れ落ちる。龍驤を追い詰めていた、クロコダイルとゾロはドン引きした。本当にこいつとは敵対したくない。
サンジにとって、女を蹴らないというのはゼフとの約束なのだ。戦いに使ったわけではない。本気でもなく、戯れや拳骨など、制裁の代わりに、龍驤へだけ用いていただけのことだが、失態の極みである。身を裂かれるような苦しみだ。
両手を床に叩きつけ、サンジは涙した。
「俺は!! チョロい!!」
認めた。本人にとっては大事なんだろうが、なんとも言えない。もはや、龍驤に襲いかかる勇気のある者はいなかった。うずくまるサンジを睥睨しながら、龍驤は言った。
「これがファザコンの末路や」
エースが複雑な顔をしている。勝てない気がする。
「いや、あの、本当にごめん」
思ったよりも落ち込んでいる。龍驤にしてみれば、自分など要は女性型の人形のようなものなので、むしろルフィやウソップなんかと同じ扱いで嬉しいぐらいなのだが。
変に大事になってしまった。
「いい加減、さっさと終わらそうぜ」
ゾロがまとめた。龍驤はビビを振り返る。臣下のチャカとペルが、とても困っている。
視界の隅では、スモーカーが飲んだくれて、たしぎに説教されてる。
「ああ、うん。そやね」
男泣きの嗚咽は、長くアラバスタの空へ吸い込まれていった。
クロコダイルとの交渉は上手くいった。一度船に戻り、龍驤は日誌を書いている。
実は、ここには全部書いてある。付箋やら資料やらを大量に貼り付けて、十倍以上に膨らんでいる。クルーがもしも、これを読んだなら、一応はなんでもわかるようになっている。
龍驤が手に入れた情報。クルーたちの様子。強化方針。それらを考え合わせて、構想した数々の策謀。これからの見通し。結果として行った策の内容。航路や、様々な推測。仮説。
誰も読まないと思いきや、たまにルフィが眺めてる。ウソップも虚無っている。サンジとゾロは目を反らし、ナミは自分のを書く。チョッパーはまだ知らない。
今回、書くことが多すぎる。
まず、船長の家族関係。推測は多岐にわたり、物騒なものだ。これに母系の血筋とかまでなんかあったら、海軍本部のガープを襲う。真っ平らだ。シキなんか絶対超えてやる。
白ひげという、世界の中心人物の様子。衰えは決定的で、もはや正しいことも我を通すことも出来ない。自分で作った掟さえ守れないような状況だ。この情報は拡散する。
世界政府と同じになった。法を行使出来ず、反逆者をそのままにするなら、治安を守るという白ひげの名前は無意味になる。
乱す側の人間がヒャッハーするのは当然だろう。
やがて海賊たちは白ひげのナワバリに殺到し、奪い合い、消耗し、互いに削れていく。
キングギドラも、リンチすれば勝てる。リンチするのに、力を合わせる必要はない。競争だ。味方同士で。
白ひげと海軍が戦争になってもならなくても、そうやって四皇たち海賊は弱体化する。グランドラインという、狭い範囲でイキっているが、海軍は全世界加盟170ヶ国を背景にした組織だ。
リアルに、井の中の蛙である。誰かが白ひげのナワバリを切り取って、勢力を増した気になっても、海賊という枠の中での争いだ。フラスコの中。
別の勢力のつもりでいるが、海賊は一括り。内紛と変わりない。革命軍のように加盟国を切り取らなければ、世界政府の力は衰えず、海賊は力を増さない。
バカにはわからないだろうが、弱くなった身で、自信満々に海軍へ襲いかかり、返り討ちにあうだろう。
問題は衰えてはいても、勢力そのものはまだ無事である、現在の白ひげだけだ。
それでも弱った白ひげなら、グランドラインにある戦力だけで対応は可能だ。二十年の月日が、海軍を拡大させた。
センゴクとガープが夢見る平和な世界の実現は見えた。多少の混乱を経て、勝負はつく。
なにが起こるかまではわからないが、経過がどうあれ、結果はそうなる。
もちろん、数年は先だ。何十年かも知れない。二人は引退している。それでも、海賊ごときが抗えるとは思えない。
麦わらの一味もだ。
なんの生産力もない、海賊という敗残兵たちがなにをするかは、目に見えている。みんな巻き込み、片っ端から襲うか、仲間にしようとする。
せっかくワンピースだけに特化したなんの価値もない海賊団を装っていたのに、逃げられなくなった。自由だと言うだけで、リンチされてしまう。
計画を、足を早めるかどうか。
ゴール・D・ロジャー。ゴールド・ロジャーに名前さえ変えられた、反逆者。なにに逆らったというのか。
革命軍が放置される世界だ。
天竜人にも政府にも敵対的だったとは聞いているが、それだけだろうか。空白の百年について、龍驤は重要視していなかった。
本当に失われたのなら、そこでなにが起こっていても歴史的な価値しかない。争いがあり、誰かが死んで、誰かが勝った。混乱の中で、記録が失われた。
それだけのことである。なんなら、天竜人の歴史として、下界から取り上げただけなのかも知れない。
世界政府の中心である天竜人たちの下界への興味は、驚くほど希薄だ。歴史すら共有しないのだと言われれば、納得するしかない。あるいは、自分たちのトロフィーにしたか。
アラバスタの歴史がアラバスタでしかわからないように、マリージョアでしかわからないのが、空白の百年の正体かも知れない。
問題はむしろ、その前の時代。リヴァース・マウンテンを作り出した先史文明こそが、肝であると思う。
そうだと思っていた。しかし、エースと出会って考え直した。
兄弟のルフィがああでありながら、エースには自信がない。明るさも朗らかさも、すべて虚勢だ。あれは弟という、自分を無条件で慕う存在がいて、初めて安定している。
他人に対して、受け入れられるということを欠片も前提にしていない。なんなら、クロコダイルよりも人を信用しない。だから、自分も信じない。
なにも考えずに、家族だの父親だのと懐いた男たちを、地獄へ落としている。戦争の引き金になっている。
隊長に、白ひげに相応しい人間であることを、なによりも優先してしまっている。自分のことだけ。
唯一、救える人間だというのに。
他人を頼り、依存するだけで、ルフィのような自負もないから、後継者だとも思っていない。結局、自分を含めた組織や社会を考えられていない。
それでいて、ルフィが無条件で慕い、白ひげが総出で可愛がるような人間でもある。
愛嬌があるのだ。恨みがない。拗ねたり、ましてヤサグレていない。
はっきり言って、素直に笑えているだけで奇跡だ。アーロンに、深海棲艦のようになっていないことを、心から称賛したい。
それが限界。エースの根底には怒りしかない。
あのガープが甘やかしきれていない。どころか、反骨心でしか、エースを生かしてやれなかったとすれば、ロジャーを否定する風潮というのは、どれほど徹底されたのだ。
確証なんてないが、エースがロジャーの息子であることについて、疑うつもりはない。普通に骨格から判断出来た。
顎や口元、目の大きさと配置。似ているだけかも知れないが、はっきり言って違う可能性など考えても仕方がないと思っている。
ガープならやる。
その前提で、ロジャーの罪を考えてみるが、よくわからない。個人的な怨恨に近いものを感じる。
大人しくしているとはいえ、クロッカスさんが無事なのだ。
ロジャー個人には粘着質なのに、船員にも大海賊時代にも革命軍にもそっけないのが、政治とはまた別の理屈に思える。
根拠を見つけられない。言われている、海賊や反逆者が理由ではないのだ。
そもそも、世界一周のなにが罪だ。なんなら、国や政府で推奨してコントロールしろよ。しないから、海賊になる。
空白の百年もそう。歴史家にこそ、適当な嘘を語らせればいいのだ。
なんにもしていない。しようともしない。海兵を地上基地に縛りつけるような窮状で、なんとか人々を守っている。軍政、つまり政府がなにもしていない証拠である。
空白のまま、めちゃくちゃ目立たせている。
なのに、ロジャーに関してはエースがあんなふうになってしまうほど、弾圧した。そこまで加盟国に干渉出来るなら、もっと他にやることがあるように思える。
白ひげは加盟国を避けて、非加盟国でナワバリを広げたし、ロジャーもシキも捕まった。
逃がすなどの失態はあったかも知れないが、海軍も世界政府も、基本的に負けたことはないのだ。
弱いのは加盟国であり、主権国家である。なんで国際機関とその下部組織が責任を持たねばならないのか。
持たないからこうなっているんじゃないのか。
それでなぜ、白ひげや四皇が強いみたいな風潮になっているのか。
ロジャー以後、パッタリと、動きがなくなるからだろう。
反逆者も海賊も、いなくなるどころか、増えている。ロジャーと違うのは、ワンピース。そして、それに関わるポーネグリフ。
だとしたら、やはり空白の百年にはなにかあるのだろう。
空白にしている時点で、隠す気などない。過去など、いくらでも捏造出来る。死人に口なしだ。
ポーネグリフにしたところで、世界政府に見つけられないわけがない。
もう、八百年である。アラバスタなんてわかりやすい場所にあって、どうして放置しているのだ。壊れないとしても、石一つ、回収は出来る。
政府に逆らうバカを集める誘蛾灯だとしても、無造作だ。というよりも、それ以外では強権を振るえないのではないかとすら思える。それしか許されていない不自由さ、庭師の悲哀を感じる。
独裁者。主人。王とは別の、なんの責務も負わない、誰かの気配がする。なにか、なにか誰かの感情を逆撫でする要素がある。
八百年前なのに。
不思議だ。
そのアラバスタに到着して、一番正確な地図を手に入れた。
実に不自然で不条理な島である。
なんだ、サンドラ河って。
まず、まっすぐなのがおかしい。川の水は流れていくごとに集まって水量を増して行くものだ。だとするなら、島の高低差に合わせて流れていかないといけない。
削れていくのはそれからだ。
最初はせせらぎからはじまるからだ。
ところがまるで、最初からそれだけの水量があるかのように、海へまっすぐ駆け下りている。しかも、アラバスタ国民がまともに取水出来ないほど、川べりが削られて深い谷になっている。
アルバーナ近辺ですら、50キロメートルの川幅があるのにだ。しかも、サンドラマレナマズのような、巨大生物が生息出来るほどに深い。
グランドキャニオンもびっくりである。どんな急流と水量なら実現出来るのだ。というか、横に広がらずにそんな削っていくって、どんな水圧だ。まっすぐってことは、河口まで衰えてないのだけど。
そして、それだけの水量が湧き出るだけの降水量って、どんなもんだ。それで洪水になるどころか、干魃。
わけがわからない。
地球にあるどんな川よりも巨大でありながら、まっすぐで非常に狭い流域を鑑みるに、水源には海でもひっくり返すような雨がいる。
アラバスタがそんなバカみたいな気候でないことは明らかだが、海をひっくり返す現象になら、心当たりがある。
リヴァース・マウンテンだ。
あれも流入量と流出量がアンバランスだ。謎ではあった。まさか、こんなところに答えらしきものがあるとは。
巡り合いたくはなかった。
誰も疑問に思わないのか。
いや、島嶼世界だから、治水で技術が発展しなかったのだ。それこそ淡水化設備のような、利水に振った世界なのだ。
よって、地球ほど博物学が進んでいない。少なくとも、同様の過程は経ていない。そういうことだと思う。
ポーネグリフ、リヴァース・マウンテンと二つの先史文明が関連してきた。これを偶然と片付けることを、龍驤はしない。
偶然だけなら、とっくにめちゃくちゃ重なってる。どれかになんか意味はある。じゃなきゃ殺す。
なんとしても調査する。
そのためには、ニコ・ロビンの協力がいる。
そして、肝心のクロコダイルとの合意内容だが、反乱の教唆までは認めなかった。
当然だ。それでは七武海を辞めさせられてしまう。クロコダイルは白ひげと戦いたいのだ。ヤツの計算では、エースをきっかけとして海軍と戦争が始まる。その舞台になんとしても立つつもりだ。
それが出来るなら、アラバスタを巡って争う必要はない。どうせ、七武海などいずれは廃止される。やりたいことをやって、生き残りを図るなら、七武海として得た力などむしろ足枷にしかならない。
クロコダイルは暗躍し、別の立場を手に入れようと画策するだろう。
となれば、クロコダイルにとってもニコ・ロビンは邪魔だ。リクルートは可能である公算は高い。
反乱教唆を認めない上で、アラバスタへの不利な言動については認め、今後は協力関係を築くことで合意した。
バロックワークスについては白を切り、あくまで表の収益に見合った金を払う。かなりの額だが、所詮は一企業レベルである。
本来のクロコダイルは、国家を乗っ取った上で問題なく運営出来るだけの経済力も、当然のようにある。
大国アラバスタ、十億ベリーを払えない。そこで戦力を整えようと言うなら、初期投資費用ぐらいは稼いでいる。
クロコダイルは、金ではなんにも困らない。提示された条件は、誤魔化しでしかない。
それでは気が収まらないので、同格のジンベエに頭を下げさせ、移民を促す。
オアシスもあるが、せっかくサンドラ河なんて非常識があるのだ。水の扱いなら魚人だろうということで、枯れた街エルマルを開放する。
首都アルバーナから見て、サンドラ河の対岸にある地方は、砂漠も大きく古く、発展が遅れている地域である。エルマルを港に、中継地ユバと、レインベース。サンディ島西岸にはまだ開拓の余地がある。
魚人ならば、エルマル周辺に生息する猛獣、クンフージュゴンともやっていける。コーストガードの代わりになる。
河口周辺には砂地があるはずで、太陽の届く海底で暮らすことも不可能ではないかも知れない。
魚人にとっても、悪い話ではない。友好国が周辺にないことが、なによりも魚人島を苦しめているからだ。
海底なのはもちろん、海上にあるのは、海軍か、世界政府。どっちも加盟国にあんまり干渉しない組織である。なんなら、関わりたくないというか。
しかも、通行に必須であるシャボンディは、実は島ですらない無法地帯。他には九蛇とか。
かわいそうである。
加盟国同士、本当に横へ繋がりがない。
勢力間で頭を下げるクロコダイルは、とりあえず格を下げる。大陸国家思想とはそういうものだ。ジンベエ以外なら、絶対に了承は得られなかっただろう。尻の毛まで抜かれる。
他に頼めそうなの、ピンク鳥しかいないし。
想像すると楽しい。掘られてしまえ。
誰にでも頭を下げるルフィやエースがどれだけ特異か。ヤサグレても、クロコダイルは頭を下げる相手も場所も選んでいた。世界が白ひげ個人を認めているように、まったく頭を下げないわけでもないが、選ばないとマズい。
その白ひげが罪人を一人逃がしただけで、大変なことになるのも、この世界である。
失態の代償は大きい。
そうして溜飲を下げつつ、ジンベエをクロコダイルへの当て馬とする。クロコダイルが裏切れば、せっかく手に入れた魚人の利益が侵されるからだ。きっと見張ってくれる。
海軍がやれればいいのだが、バロックワークスの構成員を多数捕縛したスモーカーでさえ、クロコダイルとの繋がりは証明出来なかった。
マジで頼りにならない。なら、同格の七武海がいい。特にジンベエは善良だ。
ついでに、クロコダイルの基幹要員もアラバスタへ引き抜く。移民として、認めちゃうのだ。何人が白ひげとの戦争などという酔狂に付き合うのか、見物である。
嫌がらせではあるが、効果は期待出来ない。オフィサーエージェントと言えど、クロコダイルとの直接の関わりはなかったのだ。バロックワークスの運営には関わっていない。誰が脱落しても、大した影響はない。
つまり実質、クロコダイルはニコ・ロビンとの二人三脚で、世界を股にかけるネットワークを築いた。
頭良すぎて、バカである。
やめてほしい。敵は常識的で無能が一番だ。
合意はしたが、クロコダイルはまだ敵のままだ。ビビが国を救うのと、海賊のケンカは違う。間接的ではあるが、船長の関係者と戦争するつもりだし、龍驤はまったく彼を侮っていない。
人を信頼出来ないとかいう、単なる裏切り者。もしくはメンヘラ。こちらから信用することはない。機会があれば潰す。
それが今でないだけだ。
ただ、残りそうな人材にギャルディーノとベンサムがいる。
片方は生粋のクズで、真っ当な人生など送れない。もう一人は義理堅く、度胸もある武人気質。
平和に生きるような人間ではない。アラバスタに取り込めない。
どちらも油断出来ない人材だ。ケンポーもわけわからんが、マネマネとかこの世界レベルだと国家を転覆させうるし、ギャルディーノは純粋にスキルが凄い。
リトルガーデンで、彼は誰からも気づかれなかった。
龍驤の哨戒とルフィの勘。もちろん、ウソップの観察や、サンジの洞察、ゾロの嗅覚からも逃れている。
それだけなら未熟も加味して、してやられたと思えたが、見聞色なんてものがあるらしい。
つまり、あの3の人。この海で最強格の巨人の不意をつけるような隠蔽術、もしくは隠密能力を持っている。テレパシーかレーダーのある個人を相手に、ステルス出来るのだ。
黄金週間いなくても。
怖い。
要はガープやセンゴク、白ひげなんかの隣にいても気づかれないってことだ。あの顔と髪型で。なんなら、ニコ・ロビンよりも逃げ隠れは上手いんじゃなかろうか。
どちらもそれなりに頭がまわるので、なんとかニコ・ロビンの穴を埋めそうな気もする。
というか、変に隠れず、普通に社長やったら、ニコ・ロビンはいらない気もする。
そのまま商売でもしててくれ。
うんざりである。
さて、そのニコ・ロビンの引き抜きだが、どうするか。
というか、ワンピースはまだ目指すのだろうか。
龍驤が集めた情報によれば、ロジャーの扇動はもはや効果を失い、人々は実利に走りつつある。
夢ではなく、野望を追っているのだ。
夢にはロマンがあるが、野望には具体的で現実的で即物的な力が付随する。
出世や、成り上がりなど、金や権力や暴力が目的である。富、名声、力から、名声が抜けた感じだ。認められるのではなく、わからせる、という方向に舵を切った。
ただ、そうであるだけで世界が認めた男は、この世界に二人しかいない。二十年が過ぎて、自分が白ひげにもロジャーにもなれないと、みんな気づいたのだろう。
例外がルフィ。そして、ある意味、クロコダイルだ。
だからこそ龍驤は、誰にも邪魔されずに駆け抜けられるという算段があった。だからこそ、まだクロコダイルに油断出来ない。
白ひげのおかげで、大海賊時代なのに、いつの間にかワンピースが見向きもされなくなっていたからだ。
クロコダイルも含めて、みんな白ひげか世界政府が標的なので、邪魔も競争もないはずである。
ただ、実質、今の海賊王って白ひげなので、ルフィの自己紹介とかトラブルの元なのだが、それはそれだ。
海なのだから、実力を示せばいい。龍驤も手伝うし、ダメならいっしょに死んでやる。それぐらいの義理はある。
だが、計算が狂い始めた。
ワンピースを目指した場合、政府の動きが読めないのだ。気にしないと思っていたが、逆に凄い注目されるかも知れない。世界でどんな大事件が起ころうと構わず、こっちを優先してくる可能性まである。
しかも、エースがいた。どうしたもんかと思う。
エースが勝つことはない。白ひげですら、リンチされれば負けると言っているのだ。ルフィがなにを信じていようと、一人でナワバリを出た時点で、逃げ帰る以外の選択肢はない。
選ばなければ、寄って集ってボコボコにされるだけである。敵が黒ひげだけだと思っている時点で、なんにもわかっていない。
そして、逃げ帰った場合、衰えた白ひげが逆転する目は、ワンピースにしかない。
それがなんなのかは知らないが、なんにしろ、手に入れればエースは認められるだろう。
そうやってちゃんと白ひげやロジャーの後継者になれば、そうそうリンチはされない。
それに対抗出来るか。
そもそも、ルフィに兄貴と対抗する気があるのかどうか。
自由であればいいのなら、ワンピースなど目指さなくてもいいのかも知れないが、世界は秩序を取り戻すのだ。
秩序の下に、ルフィが求めるような自由はない。法だとか権威だとかが、常に制約する。それが秩序である。
言ってみれば、龍驤のように生きるのだ。過去とか常識の代わりに、国や王様が縛りつけてくる。
絶対に嫌そう。
そうなると、ルフィは旅をやめて妥協するのか。それとも、やはり死ぬのか、海賊として逃げ続けるのか。
決断を聞かなければならないが、ルフィって現状がわかっているのだろうか。
わかってなければ、説明するのか。
龍驤が。
面倒以前に、なんかそれは、ルフィと龍驤の関係を壊しそうである。
船長が示した大雑把な方針の中で、龍驤が好き勝手する。ヤサグレたり、文句を言われたりしながら、そうやって今までやってきた。
龍驤の示した現実に、ルフィが従うのはどこかおかしい。現実なんか、それぞれの認識でしかないのに。
龍驤は観測手。目である。現実を作り出す脳みそではない。脳みそは船長だ。白を黒と言うのが、役割である。
龍驤がやるのか。ルフィがそれを、任せるのか。
夢じゃなく、現実なんて不確かなものを、ルフィが見るようになってしまうのか。
そんなルフィに、ついて行きたくはない。ワガママで常識外れで、振り回してくれなければ仕え甲斐がない。
ルフィは龍驤の憧れなのだ。
龍驤は筆を置く。筆だ。羽根ペンは使わない。
まだ覇気のこともあるが、マジで際限がない。今日はやめておく。
ふーと吹いて、インクを乾かす。
「終わったか?」
「なんや、寝とらんのか?」
「寝れるわけないだろ?」
クルーが勢揃いだ。エースもいた。流石になんか、別れ際を見失った。メリー号に泊まっている。
「久々に、ウチが作るか」
まだサンジの目が赤い。下瞼が腫れてる。龍驤にも罪悪感はある。
そんな厳密に、人間扱いしなくてもいいのにと思う。化け物として、もっと雑に、踏みつけてもらって構わないのだ。
しかし、一味はそれをしない。だったら、謝るのではなく、礼を言うべきなのかも。
龍驤は気合いを入れて、袖をまくった。赤城と加賀のおかげで、夜食は得意である。あいつらにも、鳳翔に遠慮する理性はある。
夜更けに、一味が集まった。メリー号のダイニングに、全員が座った。とりあえず、日誌を読んでもらって、いろんな説明は省きたい。
グランドライン、四つ目の島。
航海日誌は、百科事典の厚みである。
原作のこの章、濃すぎんねん