龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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ご機嫌な一日

 どうもサンジにも隠し事があるらしい。

 それ自体はなんの問題もないのだが、スーパー悪ガキ軍団に、妖精さんが加勢した。

 サンジはヒドいことになった。

「俺は絶対に口を割らねえ!!」

「別にええよ。北出身のガキが東の海に来とるんや。そこに裏事情があるとわかりゃ、候補は限られとる」

 龍驤は離れた場所で、別の妖精さんと事務仕事だ。気もそぞろなビビに色々提示している。

 サンジからストンと表情が抜け落ちた。深い絶望と悲しみで、色を失っている。悪ガキどもも、悪ノリし過ぎたと反省した。本当に無駄でいらないことをした。仲間を苦しめるだけだった。

 くすぐっていた足に靴を履かせ、縛りつけていた椅子から解放する。そして謝った。

「お前は立派だよ」

 ゾロすら褒めた。なんでこんなに不憫な目にあっているのか、欠片もわからない。

 金のことを除けば、一味のために一番働いている男である。

 悪ガキどもに尋問ごっこを教えた張本人は、自分は大人ですみたいな顔して、書類を整えている。

「さーて、今日は忙しいで。ビビはウチとな。他は好きにしたれ。お小遣いいる?」

「この状況で?」

「もうええやろ」

 龍驤はつまらなそうだ。有り体に言って機嫌が悪い。なんか理不尽だ。怒るべきはサンジのはずだ。

 龍驤はルフィを見た。みんなも見た。ルフィは首を傾げた。

「なんだ?」

「ワンピース目指すん?」

 どこかいつもと違う龍驤に、ルフィは少し困惑しながら、変わりない返事をした。

「当たり前だろ。俺は海賊王になる男だ」

「なってどうすんねん」

「言ってなかったか?」

「聞いてへんけど、そうか。そやったな。キミは最初から、そう言っとったもんな」

「ん?」

「気にすんな。エースはどないする?」

 振られて首を傾げる。

「噂を追うのも、限界だと思ってたところだ。どっかの海軍支部にでも潜入しようかと」

「やめたれ」

 龍驤が頭を抱える。ナワバリから一人で出て、自分から海軍にちょっかい出すとか、なにを考えているのか。逃げ隠れも出来ないくせに。

 四皇と言えど、内部事情を探るのは難しい。

 大人しかった白ひげが幹部使っていきなり前半の海で諜報活動とか、目的がわからな過ぎて元帥が死ぬ。

 幸い、事情ならスモーカーが知っているんだから、いっそ調べて貰えばいい。

 海賊同士のケンカなのだから、被害を抑えるために教えてくれるかも知れない。

 それで勝つにせよ負けるにせよ、終わったらガープの拳骨でも浴びたらいい。

「それはやだな」

「ウエェ」

 未来の海賊王候補二人が、渋い顔をしてる。うろたえている。海軍中将を怖がっている。なんか平和になりそうな予感がプンプンする。

 ぜひ、上り詰めてもらいたい。

 負ける負けるとこれだけ言って、なおも進むつもりなら余計に。

 それでこそ、ルフィの兄貴だ。仲間ではないが、信じることにする。龍驤が立てた予測など、いくらでも修正するべきものだ。

「二、三日待ってくれたら、調べる」

「ありがてえ」

「お金は? タダで請け負うつもり?」

 ナミが口を出したが、エースは財布を逆さに振る。チャリンとした。

「ない」

「どいつもこいつも、貧乏人が」

「あんた、四皇幹部よね?」

 ビビも苦い顔をしている。エースは笑っているが、弟の財務状況を知って驚愕している。

「悪党の資格ないねん、お人好しどもが」

 そんなことはないと思うが、ないものはないのだ。夢も希望もない現実だ。

 勢力のトップ層にいて金もないのは、他に回しているからだろう。ナワバリは非加盟国。ほんの二十年前まで、海賊を名乗る世界中が、食い物にしていた地域である。

 例外は世界政府だけ。

 堂々とやった。

 イギリスより上が存在することに戦慄が走る。

「ルフィ、キミの兄貴は七武海候補やった男や。揉んでもらえ。エース、悪いけど男どもの世話したって」

「おう、それならお安い御用だ。で、ついでなんだけどよ」

「サボな。そっちも探っとく」

「ん?」

 龍驤の機嫌が直っている。今のやり取りになにがあったのか、女性陣にもわからない。

「さーて、お仕事お仕事」

 

 

 海賊旗掲げた王女の座乗艦とかいう意味不明の物体が、謎の超局所的雷雲を伴って入港した。

 夜の間、沖で停泊されてなにも出来なかった港湾関係者と船主たちが、隈を作って待ち受けている。

「それではあまりにも相場と違い過ぎる!!」

「は? 水の標準相場やが? どうもアラバスタ内陸の話をしとるように聞こえるが、船長さん方。どんなツテで?」

「そ、それは」

「ちなみに、次は反乱軍を標榜する暴徒のとこあいさつに行こうかと」

「き、危険です」

「危険? 誰に物を言っとる?」

 ナノハナは堕ちた。ビビと並んで座る龍驤の後ろには、クリマ・タクト構えたナミと、なぜかニコ・ロビン。

 美人の圧が凄い。おじさんでは敵わない。

「どうしてかしら?」

「ハイハイ、移動するよー」

 ビビが頭を抱えている。

「こんな、脅しみたいな方法」

「商売は原則、二者間でナシ付ける。国は国家、国民の利害を、国益として提示する。目先、損する人間には、武力や権力も手段や。最大多数の幸せで黙らせろ」

 善良なのかあくどいのかわからない。だが、言いたいことはわかる。ニコ・ロビンは受け入れられていて、疑問なのは本人だけ。

「全員は無理って言いたいのね?」

「アホは救えんが、不満なんか気にするな。事実、これでアラバスタは正常化する。自分らだけやなくなるだけで、国益の前に損する人間なんておらん」

 みんな幸せが国益だ。自分だけは利権だ。儲けがちょっと減ったぐらいで、人は不幸にはならない。成功や失敗は、個人の人生だ。人生に国が介入したり、これが幸せですと押しつけたりはしない。そんなものを国家が目指すべきではない。

 働く人間がいて、利益があれば、どうにかこうにか行き渡るものだ。

 国は滞っている部分を手直しすればいい。道を作って渋滞をなくすとかでいい。

「大した仕事やない。難しいのは目を配ることや。せやから、人を使え。自分で飛び出すな」

「うっ」

 ビビは黙る。龍驤は笑う。

 ビビは正しい。アラバスタの間違いは、混乱に際して王宮に閉じこもったことだ。

 唯一、豊富な水があることで、指揮系統を集中してしまった。そこで差配すればいいと、思い込んだ。

 王宮から飛び出して、水の足らない最前線に王の代理を置いたら、様々な齟齬は大きく解消したはずだ。

 ビビを使えばよかったのに、大事に押し込めた。甘やかした。

 だから、こうなった。

 バロックワークスと、飛び出す場所は違ったが、むしろ最善の結果になっている。

 ただ最前線に行くだけでは、クロコダイルにビビを暗殺されて、もうどうしようもなくなっていただろう。なんか、五年も身を隠すついでに潜入してたとか、ちょっと意味がわからないけど、凄い意味のあることをしている。

 つまり、多少娘に甘いだけで、国王も正しかった。時間はかかったが、安全を確保した上で、最適の人材が配置された。

 龍驤ではクロコダイルに負けた。

 ビビが王宮を飛び出して、麦わらの一味と出会ったことで、全ては変わった。戦略が覆った。とんでもない。

 しかしながら、ビビは次代の国王でもあるので、叱っておかないと、臣下の方々がいらん苦労をすることになる。

 なにかあると飛び出していく女王様とか、バイタルエリアが隈なく病気。頭は痛いし、胃は捻じれるし、心臓は締めつけられて、呼吸がヤバい。手足だって痺れそう。

 ビビをルフィやエースみたいにしてはならない。本当にお願い。

 龍驤はご機嫌だ。

「なんなのアンタ? なにがあったわけ?」

「ナイショ。さぁさぁ、次は幼馴染との再会やでえ」

「やめてよ!!」

「張り切って行こう!!」

 

 

「火拳!!」

「ウギャー!!」

「ドワァー!!」

 ウソッチョペアが、悲鳴をあげている。なんかもう、海王類みたいな大きさの炎に炙られて、逃げ回っている。ウソップが黒煙を吐いている。

「なんだかんだ、当たんねえ」

「いやいや、焼けてんだろ」

「まだまだ、生焼けさ」

 エースはニッカリ笑う。ルフィもゾロもサンジも、髪型がアフロに変わってた。悔しそうにしている。三人どころか、五人がかりで、一撃も入れられない。

「ズリいぞ、エース!!」

「ズルくねえよ。そういう能力だ」

 とは言いながら、それほど余裕があるわけではない。当たりさえすれば触れられるだけの覇気はある。どこを攻撃してくるかわかるから、スルリと変化して避けられるだけだ。

 なんか、覇気の仕組みを説明されてわかってきた。覇気で固めるより、弱くても受け流す方が効率がいい。ゾオン系のくせに、エースよりも炎っぽい避け方をするマルコがなにをしていたか、わかった気がする。

 見聞色は、読むのではない。よく見聞きするのだ。予測なんかしなくても、見てからだって対応出来る。

「しかし、楽しいなぁ。お前ら、やっぱ強えよ」

「嫌味か、コラァ!!」

 サンジが蹴りで飛んでくる。エースの鼻先に触れた瞬間、ボワッと炎が膨らんで、サンジを包む。

「アッチッチ、熱い!!」

「斬る」

「おっと」

 切っ先を避けながら、陽炎のように身体を変化させて巻きつけていく。炎のリボンが踊って、ゾロが梱包されていく。それでも意地で進むが、耐えきれずにゾロは逃げ出した。

「あっつい、熱い!!」

 刀のなかごまで熱が伝わったのか、手のひらをフーフーしている。

「ちゃんと刀身まで覇気が及んでないのさ。握り手ばっかりに力を込めてもしょうがない」

「忠告、感謝する」

 殺すと書いてそうな顔で、再び斬りかかりながら礼を言ってくる。生意気だ。笑顔が溢れてしまう。

「オリャアア!!」

 それに合わせてルフィも飛んできた。砂漠の平原では上手く飛び回れないようだが、隙とみれば無理でもやって来る。

「ハッハッハ!! それじゃダメだぞう、ルフィ!!」

 腕だけをゴリラみたいにして、二人まとめて吹き飛ばす。

 本当に楽しい。

「必殺、水々星!!」

「おっとぉ!?」

 さっきから、これが怖い。それ自体はともかく、この三人を相手にしていると、この狙撃一つで崩されそうな気がする。一度舐めてたら、マジで斬られそうになった。

「んー。先にあっちを仕留めたいんだがな」

「させねえ!!」

 ルフィが飛ばされた反動そのままに、また飛び込んできた。腕で払われても、無理矢理押し通るつもりなのはわかったが、残念だ。

「足もある。油断したな」

 ルフィは空高く打ち上げられた。

「ルフィ!!」

 サンジがそれに気を取られ、エースは踏み込んだ。炎を噴射して、ウソッチョの前に出る。

「ウワァ、回り込まれた!!」

「逃げろ、チョッパー!!」

 乗っていたウソップが、チョッパーを蹴り飛ばしながらこちらを狙う。いい根性だ。今度はきっちり焼いて、チョッパーを抱き上げる。

「ほーら、捕まえた」

「離せ!! やめろ!!」

「可愛いな、お前」

 エースは上機嫌だ。ここ最近で一番楽しい。

 白ひげの仲間たちは強いが、それより上手いと言った方がいい。ベテランでもあるし、手札が豊富だ。

 猪の自覚があるエースだと、それはもう散々にあしらわれてしまう。家族ではあるが、正直、そういうことするみんなが嫌いである。つまんないのだ。

 真っ向勝負してくれる、ジョズとオヤジが大好きだ。オーズは親友。たまに付き合ってくれるマルコも好きだ。たまにだし、凄い渋られるけど。

 尤も、兄貴分たちとて意地がある。エースはジョズと真っ向勝負が出来るのだ。魚人武術の達人であるジンベエとだって殴り合える。

 力比べなんかしたらとても勝てないが、弟分に負けるわけにもいかない。手の内を知るアドバンテージを最大限に利用して、一生懸命面目を保っている。

 内心、ゼーハーしながら、涼しい顔して兄貴面しているのだ。

 男は悲しい生き物である。互いにそれを呆れて見てる。

 そんな鬱屈の溜まる環境で、腕を磨いてきた。白ひげと言えど、本当の意味でエースの手本になれるような兄貴分は、限られていた。

 そんな仲間たちに比べれば、麦わらの一味の素直なことといったらない。

 存分に、真正面から叩き潰せる。力を奮える。はしゃぎながら催促する。負けを認めたつもりはないので望むところだが、なんか戸惑う。

「もう一回だ!! もう一回!!」

「ちょっと待て!! おい、ウソップ!? 大丈夫か!?」

「ウェ〜ルダン。ゲホっ」

「ウソップが炭になった!!」

「レアだ、レア。キレイにローストされてやがる」

「タフだな、お前」

 エースは嬉しい。エースは本気でやっている。楽しんではいるが、手加減はしていない。

 なのに、みんな死なない。エースは、火拳と呼ばれた、白ひげ海賊団二番隊隊長である。メラメラの実の自然系能力者だ。

 敵は焼き尽くしてきた。焼けない相手には負けてきたのだ。

「強いからだと思ってた。事実、そうさ。お前ら、この楽園じゃ敵なんていないぐらいに強ええ」

「だから、嫌味かよ」

「嫌味なんかじゃねえさ。わかったんだ。俺は弱い」

「は?」

「弱いから、お前らルーキーだって倒せねえんだ。みんなに勝てなかったのもそうだ。俺は、強くなんなきゃいけなかったんだ」

 エースはなにか掴んだのだろう。誰にも伝わらないことを、言い聞かせるように呟いている。エースの集中が高まっていくのがわかる。

 単なる手合わせ、稽古のはずが、もはや遊びではなくなった。殺し合いではないかも知れないが、海賊同士の競い合いだ。そこに、意地と矜持が乗った。

 男である以上、どんなときでも負けることはありえない。

 麦わらの一味は死を覚悟した。同時に、殺しても構わないと舌なめずりをする。楽しくなってきた。

「さぁ、付き合ってくれ!! 俺は強くなる!!」

「ふざけんなよ、エース。俺たちだって、弱いままじゃいられねえんだ」

「本当か、ルフィ!? まだ、泣き虫のまんまじゃないのか!?」

「俺は海賊王になる!! エースを超えるッ!! 昔のまんまじゃねえェ!!」

「させねえさッ、ルフィぃ!!」

 兄弟がぶつかり合い、爆炎が立ち上がった。さっきまでどんな攻撃も当たる気がしなかったのに、今は炎を吹き出しながら互いに殴り合っている。

 エースがそうしたのか。ルフィが届かせたのか。ロギアとかゴムとか関係なく、肉を打つ音が轟く。

 そう、轟く。アラバスタの空に鳴り響く。砂漠を渡っていく。ルフィはそろそろ、技の名前からピストルの看板を下ろすべきだ。

 拳のぶつかる音ではなかった。

「こっちに飛んできたら交代だ。そもそも、全員で囲うべきじゃなかった」

「でも、龍驤が言ってたやり方なんだろ?」

 ゾロがチョッパーを撫でながら、笑みを浮かべた。

「通用するのは、三大勢力以外だ。ルフィの兄貴は、四皇の後継者だぜ」

「アレ? そんなこと言ってたか?」

 ウソップが顎に手を当てる。なにげに復活している。だが、ゾロもサンジも頬を吊り上げていく。

「そうなるさ」

 砂埃の中から、ルフィが飛んできた。

「チクショウ!!」

「お相手願う!!」

「来いッ」

 間髪入れず、ゾロが走り出す。

「あ、おい!! 行っちまいやがった」

「俺たちもやるのか?」

「ロギア相手に!?」

 ウソップとチョッパーが縋りつく。

「ビビってんじゃねえよ。だが、そうだな。お前らは二人で行ってもいいんじゃねえか?」

 二人は顔を見合わせる。

「よーし、チョッパー!! 援護は任せろ!!」

「ああ!! 足止めは任せろって、出来るわけないだろ!?」

「俺の方が輪をかけて無理だわ!!」

「そうだ!! ウソップが足止めしてる間に、俺が弱点を探すから」

「一秒も保たねえって!!」

 二人以外にも、なんだか騒がしい。

 ここはナノハナの郊外。派手な爆炎と音、戦闘の気配に、人が集まり始めていた。なんか解説したり、実況したりする訳知り顔のおじさんとかいて、屋台まで来ている。

 逃げない辺りに、住民の逞しさを感じる。

「あ、ビビちゅわーん!! ナミさーん!! ロビンちゃんまで!!」

「龍驤を入れないとまた繰り返すぞ」

「知るか。見ててねー!! 俺が四皇幹部を倒すとこ!!」

「クソがッ」

 早速、ゾロが飛んでくる。

「やってみな、色男。火を貸してやるよ」

「へっ。炎がコックに逆らうな!!」

 その騒ぎは、隣町であるカトレア。ひいては反乱軍にまで届いた。

 砂漠の王と海兵が、別の場所で、遠く葉巻をくゆらせていた。

 在りし日の二人は再会した。

 

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