龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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憂いもないので趣味に走る

「な、んだ。これは」

 ナノハナで騒ぎが起こっている。それだけなら、まだよかった。

 行方不明のビビが現れたと噂が立った。しかも、白ひげの幹部とトラブルを起こしたと。そこにクロコダイルと、海軍まで居合わせたのだと。

 反乱軍は戦闘態勢に入った。いつでも動けるように、夜を徹して続報を待った。

 日が沈み、夜が更けて、再び太陽が昇った。もう、半分ぐらいは寝てた。太陽は中天まで進む。

 反乱軍のリーダー、コーザのまぶたは、重力に負けようとしていた。

「リーダー!! 始まった!! ナノハナの郊外だ!!」

 コーザは飛び出した。指示を出すのなんか忘れた。ナノハナに向かった。ずっとそうしたかった。

 遠目でも、その爆炎は確認出来た。音もだ。王国軍とやり合った経験から言っても、その激しさは想像も出来なかった。

 ナノハナは、反乱軍に水や食糧、そして武器を提供してくれている。失うわけにはいかない。

 そして、見た。

 お祭り会場になってた。

「さぁ、雪国ドラムで取れたフワッフワッの新雪を使ったかき氷!! 暑い日差しに照らされて、火照った身体を冷やしながら、恐るべきグランドラインの脅威を見物していかないか!? あれに見えるは、白ひげ二番隊隊長!! 火拳のエース!! 七武海候補にもなった義侠の男!! かの英雄、サー・クロコダイルに並ぼうという若者だ!!」

「いかがですかー」

「なにやってやがんだ、ビビ」

「あ、コーザ!!」

 幼馴染が売り子してた。五年ぐらい、失踪していた。十年ぶりでもすぐにわかったけれども、状況が意味不明過ぎて逆に自然と声をかけられた。飛び込んできた彼女を、当たり前に抱きとめた。

 色々と間違っている気がする。

「よかった!! 会いたかったの!!」

「ああ、まあ、それはよかった? のか? 俺も会いたかった」

 コーザは混乱している。かき氷を売っていた龍驤が、妖精さんと協力して二人を迅速に隔離し、商売へ戻った。

 ナミとニコ・ロビンは、賭けの胴元をしている。

 ビビは畳みかけるように、経緯を説明した。

「つまり、全部クロコダイルの陰謀だったの!!」

「ああ、待て待て。本当に待ってくれ。え? なに?」

 かき氷を持たされ、なんかすんごい戦いを見せられている。椅子に座らされて、ビビと並んでいる。

 なにも理解出来ない。国の英雄がどうしたと。

 この光景は現実なのだろうか。なんかもう、砂漠が燃えてて、その炎の中で何人かが殴り合ったりしてて、トナカイに乗った長鼻が悲鳴をあげながら逃げ回っているのだが。

「アレは、なんだ?」

「え? 兄弟ゲンカ? 腕比べですって」

 わからない。どっちだ。

 なんでコーザの、反乱軍リーダーの隣に、王女がいる。

「ずっと国を守りたかった。どうしたらいいか、探ってたの」

「ああ、そうだな。お前はそういうやつだ。無茶してやがったんだな」

「無茶だなんて。リーダーだって、反乱なんて」

「やりたかったわけじゃない。誰かが、どうにかしなきゃいけなかったんだ」

「ええ、そうね。だから私もね、頑張ったの!!」

「そうか」

 わからない。わからないが、眠い。日々を戦い、水を掘り、届け、反乱軍を管理し、武器を揃え、人を助け、人を殺した。 

 太陽が憎かった。この国を枯らして、暑く照らし続ける太陽が。

「もう、戦わなくていいの。雨はまだだけど、水は手に入れたわ。手伝ってリーダー。国民に届けるの」

「ああ、まあ、そうだな。水は、届けなくちゃな」

「あのね? ユバもね? これから復興させるの。砂嵐に負けないように、設備を整えてね? 青写真もあるのよ? トトさんは元気? リーダーの意見が聞きたい」

「落ち着け。全部、一辺に言うな」

 それも、こんな状況で。

 目の前で爆炎があがる。伸びた腕や足が、轟音をあげる。吹き上がる砂煙を、剣戟が切り裂き、人影が疾走る。悲鳴があとを引く。トナカイが泣いている。

 頭が痛い。本当に疲れた。砂で汚れたコートは、様々なものをこびりつかせて、鎖のように重い。

 コーザは目を覆った。太陽のように笑う幼馴染が、眩し過ぎる。必死なのだ。

 明るく振る舞っているだけで、恐怖と焦りで冷や汗を流している。王女様は、拒否されたらどうしようと思っている。戦うことを嫌っている。戦わなきゃいけない現実を知っている。

 それでも、この王女は笑うのだ。口から出るのは、希望に溢れた未来だけだ。

 やめろと言ったのに、ずっとまくし立てている。

 泣きそうになっている。

「お願い、戦いをやめて」

「わからねえ、わからねえよ。頭が働かねえ」

「大丈夫? どうしたの? ねえ、リーダー!?」

「疲れた。話は後だ」

「コーザ!?」

「もう、戦わなくていいのか?」

「そうよ!!」

 ビビの胸に、男は倒れ込んだ。あまりの超現実に、徹夜の脳みそが反乱を起こした。気絶した。

 ビビは慌てふためいたが、呼吸が穏やかなことを知って、安堵の笑みを浮かべ、男を抱きしめた。

「ウワァぁぁ!!」

 そこにルフィが飛んできた。龍驤が打ち返した。

「誰や、出歯亀すんのは? 空気も読めんか、ボケどもがぁ!!」

 何年ぶりだろう。王では手の届かない場所へ手を伸ばし続けた男は、優しい女の手の内で熟睡した。

 昼から始まった海賊たちの戦いは、馬に蹴られて収束した。

 白目をむいたリーダーはビクンとした。

 

 

 砂漠の片隅に建てられたテント。日はもう、落ちようとしている。暑さは遠のいて、涼しくなり始めた。

 麦わらの一味が揃っている。

 楽しげに笑う龍驤とナミが、ベリーを数えている。積み上げている。ニコ・ロビンがそれを微笑ましく見守っている。

 一味の治療をしながら、チョッパーはそれを眺めている。

 今日はいっぱい怖いことがあったが、なんかもうどうでもいい。

 チョッパーの恐怖体験は、あのお金に変えられてしまったのだ。男たちの満身創痍は、あのキラキラした笑顔を生み出すために利用されたのだ。

 かき氷美味しい。

 あれだけ暴れて、地形も変わった。でも、みんなかすり傷。そりゃもう、満身で創痍だけど、大したことはない。すぐに治る。

 医者として言いたいことがある。

「ねぇ、リーダーは大丈夫?」

「寝てるだけだぞ。凄い疲れてたんだな」

 ビビの顔が、心配に歪む。身体のことではないのだ。遠くで、龍驤のあくどい笑みが、さらに深くなる。

「なんなのよ」

「甘酸っぱいねん」

「なにを、どう企んだの?」

「え? 聞きたい?」

 チョッパーは耳を塞いだ。

「どうしたの?」

「情報って毒だ」

 間違いない。ビビは首を傾げている。そのままがいいと、チョッパーは思った。言いたいことは飲み込んだ。

 日々是好日。生きているのだ。なにも問題ない。

 チョッパーは禅に目覚めた。

 ペカーと光りだしたトナカイを、一味は生暖かく見守った。

「大丈夫かしら?」

「心配し過ぎだ、ビビちゃん。俺たちのことは、俺たちで解決する」

「今は国のことだけ考えな」

「どうしてもって言うなら」

 龍驤の日誌を指差す。今もなんか書いてる。

「ごめんなさい」

 ビビは深々と頭を下げた。男たちは残念そうにしている。チョッパーが解脱しかけている。ウソップが止めた。

「キミら腹減ったやろ。昨日のおじさんの店に行きや。食い放題の飲み放題や」

「マジィ!?」

 ルフィが舌を出して飛び出した。

「待て!! ルフィ!!」

 その後ろを兄貴が追いかける。男たちも、笑いながらそれに続いた。

「そろそろ、反乱軍の人、入れていい? お邪魔じゃない?」

 ビビは、コーザを膝枕している。

「なんで待たせてたの!?」

 ビビはコーザの頭に手を置いたまま、妖精さんに声をかけた。警備してた。懐かしい面々が雪崩込んでくる。

「みんな!!」

 ビビはそれを、両手を広げて出迎えた。立ち上がりはしなかった。砂砂団は、あーうんとその光景を飲み込んだ。

 龍驤は本当に楽しい。

 

 

「そう。水」

「そや。この国の川も、オアシスも、不自然過ぎる」

「盲点だった。そうよね。人がいるから文明があるんじゃない。人の暮らせる環境があって初めて、発展があるんだわ」

「その通りや。なのに、どうもウチにとっての常識が、この世界にはない。統治者が、まるで人なんて自然に湧くかのように扱う」

 このアラバスタでもそうだ。水は足りない。確かに。

 だが、アルバーナも、レインベースも、カトレアもある。港がある。

 人ではなく、水を運ぼうとしている。生活圏を捨てない。自ら動き、移動する者たちが、反乱軍になってしまう。

 ひいては、海賊になる。

 国とは人ではない。人の暮らす環境全てだ。

「難民が、水のある都市に集まるでもない。水のない場所で、国を、国王を信じて死んでいく。助かろうとせん。助けてもらえるもんやと疑わんし、助けようとするんや。ここの王族は」

 環境が用意出来なければ、人は簡単に死ぬのだ。国はその環境を守り、維持し、広げていく義務がある。

 あるはずだが、ビビの生まれたこの国にさえ、そんな責務が自覚的に運用されていない。冷徹なシステムではなく、王の賢さや慈悲の類でしかない。

 この世界は人の生きる環境というのが、前提であるかのようなところがある。矛盾した言い方だが、人工の自然というものがない。

 例えばの話、日本に原生林は、屋久島などの一部を除いて、一切合切存在していない。

「なぜ? どうしてこんな思い込みを?」

「クズしかおらんと思っとった。でも、ビビがおった。そんなことはなかった。だとしたら、歴史に答えがある」

 ニコ・ロビンは目を細める。

「空白の百年」

「ちゃう」

「あなたのそれは、クセなの?」

 なんというか、意気込んだところを外される。ニコ・ロビンは、それで散々な目にあっている。

「そうなんか知らんけど、そもそもや。どこで人類は生まれた?」

「どういうこと?」

「島で、文化も文明も違う。ならなんで、歴史だけが共通やねん」

 ニコ・ロビンが青ざめた。

「なあ。隠されとるのは、本当にその百年か?」

 龍驤はもう、本当に楽しい。

 ニコ・ロビンは考え込んでいる。

 

 

 数時間寝たコーザからは、ナノハナに来た直後の険が消えていた。凛々しい顔に、傷があっても、どこか優しさが見えた。

 龍驤がナノハナに寄港した船から巻き上げた水を土産に、反乱軍のキャンプへ、ビビと戻っていった。麦わらの一味は遠慮した。どうせ、海賊なのだ。

 ビビのそばには、砂砂団がいる。

 あと、宴は大事だ。なんかもう、関係ないのまで店から溢れて、外まで大騒ぎだ。

 人々は察していた。

 反乱は終わる。アラバスタ王家が、ついに動き出したのだから。

「最初から、こうすればよかったんじゃないか?」

「戦場は霧。戦いは賭けや。余所といっしょにするんやない。この国で反乱なんて、あり得へん」

「そんなもんか?」

「歴史がある。それだけで国をひっくり返すのは難しなる。単純な話や。先祖代々やってきた自己紹介、明日から変えられる? 海軍やめて、白猟やめて、別の誰かにいきなりなれるか?」

「国がアイデンティティってことか」

「常識は強い。人がそこから外れんかった実績こそが正体や。なら、非常識ってやつには理由がある」

「王は、クロコダイルに気づいてたってのか?」

「疑いのある段階で命を賭けるんはバカや。どんな分のええ賭けでも、疑いの余地があるならやめたらええ。遊びやない。運でもない。それは、決断やからや」

「決断」

「キミは、どんな決断をする?」

 楽しい宴だけど、片隅で空母と海兵が密談してるせいで、なんかこう、没頭出来ない。凄い不穏な空気がしてる。

 なんと言っても、あの龍驤が終始、楽しんでいる。

 

 

「そろそろ、どうにかするべきじゃないか?」

 反乱軍のキャンプに、王が来たらしい。頭を下げたとか、むしろ反乱軍を許したとか、色々噂はあるが、麦わらの一味は関知していない。どうでもいいのだ。ビビが笑っている。

 それが全てだ。なんか甘いけど。

「どうにかって、どうすんだ?」

「どうにかはどうにかだよ」

 ウソップの疑問に、サンジが強弁した。一味は考える。一理あると納得する。

 龍驤が笑っている。

「ウッヒッヒッ」

「キメェ」

 それが全てだ。マジでキショい。どうしたんだ、あの空母。

 麦わらの一味はナノハナを出て、エルマルへ向かうビビの護衛をしている。やって来る魚人を出迎え、一部は王宮へ。一部は現地でビビと実務協議を行う。王宮から派遣される官僚を待つより、現地で合流した方が早い。よって、船を出した。

 というか、クロコダイルとジンベエの動きが早い。移民第一陣とかでもなく、使者の派遣であるようだ。もうちょっと時間がかかるものと思ったが、知らせを聞いて飛び出したかのような早さである。

 エースは上機嫌で、同行している。

「えーと、話を聞いてみる?」

「実際、この計画の発案者なんだろ? 詳しく聞きたくはある」

 ビビの隣には、コーザがいる。なんかもう、すっごいスムーズに反乱軍は解散されて、砂砂団はチャカとペルの指揮下に入ったし、集まった若者たちは復興のためにそれぞれの街へ戻ったし、コーザはなんかビビの補佐みたいな形でユバまで行くらしい。

 しょうがないのだ。足りない水がある程度用意されて、武器を国外から仕入れていたナノハナが堕ちて、ビビと王様が姿を見せて、直接指揮を始めたら反乱なんて無理なのだ。

 ビビと王様自身に手を取られて、水を渡されて、頼むとかお願いって言われたら、そりゃみんな故郷に帰る。戦うなんてしない。

 その必要がないのだ。

 で、その情報をクロコダイルが拡散しているわけだから、もう本当にどうしょうもない。国中が喜びに溢れている。

 後は、国民の手に水が届くのを待つだけだ。

 コーザはビビの腰に、手を置いている。

「チクショウ!! なんなんだ、あの男!?」

「ビビの幼馴染だよ」

「やめろよ。絶対に敵に回すなよ」

 幸せそうな二人の後ろに、なんか青い炎をまとって赤く目を光らせてる妖精さんたちが浮かんでいる。守護っている。サンジと対峙している。

 深海棲艦がなにかわからない麦わらの一味でも、あれが怨霊の類だとわかる。

「どうしたの?」

 ビビとコーザが振り返る。そこには、いつもの妖精さん。欠片も不審な点はない。麦わらの一味は言葉もない。

「話、聞くの?」

 ナミの言葉で迷いが生まれた。ルフィでさえ、なんか微妙な表情でものを言わない。放って置きたいと顔に書いてある。

「別にいいだろ。被害はコックだけだ」

 それも、ジェラシーをコーザに直接ぶつけられないだけ。

「それが問題なんだろが!?」

「いつものお前と、なんか変わりあるか?」

 言われて比較してみた。今の龍驤と、女性を前にしたサンジ。

「あんなもんだな」

「そうね。だらしない顔よね」

 サンジが衝撃を受けた。他のみんなは頷いた。

 納得しかけたところで、ルフィが歩き出した。足元をチョッパーがテクテク付いて行く。

「なにするつもりなんだ、龍驤?」

「楽しそうだなー。俺も混ぜてくれ!」

 悦に浸っていた龍驤が、現世に帰還した。スッと視線を上げると、マストの天辺でエースがエルマルを探している。

 ジンベエが来る予定なのだ。今の彼はウキウキワクワクである。

「なにするつもりって、キミを海賊王にするつもりや。チョッパーも手伝うんやで」

「いつもと変わんねえだろ?」

「なにすんだ!? なにすればいい?」

「世界を滅ぼす」

 どうにかするべきだ。

 ルフィが一味を振り返って、龍驤を指差した。チョッパーのアゴが外れている。

 麦わらの一味は困ってしまった。

 どうすればいいんだろう。

 




艦これ11周年らしい
奇しくも、ビビとコーザが会わなかった時期と同じ
ええ、ええ、あんなチビがずいぶんと立派になって
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