龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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落とし前の落とし先

「この跳ねっ返りがぁ!! オヤジさんの船を飛び出して、こんなところでなにをやっておるかぁ!!」

「ちょ、ま、ジンベエ!?」

「鬼瓦正拳!!」

 エルマルに到着して早速、エースが消し飛んだ。

「いや、すまん。どうしても許せんでな」

「あ、ああ、いえ、どうも」

「お初にお目にかかる。七武海、魚人海賊団船長のジンベエじゃ。クロコダイルの仲介で、魚人族の代表として話を聞きに参った」

 鼻息荒く、ビビに向き直る侠客。途端にニッコリされた。デカい、太い、傷、怖い、笑顔、常識人の三三七拍子である。怯えるべきか、ちょっとわからない。笑顔が素敵で、いい人そうだ。

 正拳で突っ込んで来たが。技の通り、鬼瓦だった。

 エースは下半身だけになって、少しずつ再生はしている。チョッパーとウソップが、震えるというより抱き合って痙攣しながらそれを見守っている。

 半日も殴り合ったので、心配はしていないけど衝撃的だ。

 龍驤が近づいた。

「なんじゃ?」

 ポヨンと、お腹をつついている。凄い目をキラキラさせている。止めるべきだろうか。

「お相撲さんや!!」

「おやおや、なんなんじゃ?」

 抱きつかれたジンベエが戸惑っている。麦わらの一味もだ。なんだ、こいつ。

「柔らか硬い!! 大っきい!! お相撲さんがおる!!」

「その、お相撲さんというのはわしか?」

「ウチの世界の憧れなんや!! 超強いんやで!?」

「そ、そうかそうか」

 とりあえず、抱き上げる。こんな小さいのがぶら下がっていては動けない。もう、龍驤は首ったけだ。見た目的にも。

「す、すみません、ジンベエさん」

「構わんよ。子供の扱いは慣れとる」

 チラッとエースに視線が行く辺り、まあ、そういうことだろう。なんか、すでに一体感が生まれた。

「俺も俺も!!」

「よしよし」

 エースの有り様を見ても、すぐ好奇心へ身を任せられるようになったチョッパーは、順調に一味へ染まっている。

 左右の肩に小さなガキ二人を乗せたジンベエに、もはや怖さはない。ただし、なんか威厳はある。お父さん的な。

 微笑ましい。

 なんだ、これは。

「先日、反乱が終わったばかりで廃墟なんは申し訳ないけど、しばらくしたら人手も来る。全部、魚人に丸投げちゅうことはせん。問題はやっぱり水でな。せっかく、サンドラ河なんてもんがあるのに、地盤が硬くて取水地が限られとるんや」

「ほうほう」

 それを魚人の腕力と水の把握能力でゴリ押す計画だ。サンドラ河を使えるとなれば、多少の水不足など怖くなくなる。

 龍驤はシレっと説明を始めている。なんならビビの役割を奪っている。ホステス役になっている。

「工事の予定地はとりあえず、こっちで見繕ってあるさかい、視察したってや。その上で王宮で話し合いと行こか」

「承知した。案内を願う」

「それから、エルマルだけやなく、対岸の中洲も移住候補や。けど、あんま農地には向かんで?」

「わしらはあまり、農業というのはしないんじゃ。陸で暮らせんわけでもないが、海が近い方が嬉しいのでのぅ」

「ほな、その辺あたりも詰めようか」

 なんか、勝手に話が進んでいく。ジンベエがノッシノッシと歩き出し、ビビが慌てて続いた。

「すいません。お出迎えになにも準備が出来なくて」

「いや、構わん。こちらの都合で急いでいたものでな」

「エースさんですか?」

「そうなんじゃ。まったく、無鉄砲でいかんわい」

 やっと、エースが真っ青になって復活した。

「こ、殺す気か!?」

「ああ、死ね」

 エースはヒュウっと息を飲んだ。直前までの楽しげで高いテンションは失われた。ジンベエは本当に怒っているようだ。

 麦わらの一味が本気で怯えてた。みんなでエースを盾にして、謝れと押し立てた。

 麦わらの一味はお父さんいない率九割である。こういうのに慣れていない。超怖い。

 あんな、龍驤やチョッパーに優しくて温かい対応をした後に、今みたいな完全に見放された態度を取られたら泣く。

 もちろん、エースは謝らない。間違ったことをしたとは思っていないし、意地もある。不貞腐れて、涙目になって、なんならここでお別れだみたいな話になったときに気づいた。

 龍驤が、ジンベエの肩からこっちを見てる。ほくそ笑んでいる。

「お前の差し金かぁ!!」

 なにがどう、そうなのかはわからないが、一同で突撃した。ジンベエの周りで、ワチャワチャしだした。

 ジンベエの怒鳴り声が響くが、誰も言うことを聞かない。手が出て、ケンカが始まって、苦笑いしていたビビが引きつり始めて、ついに爆発した。

「いい加減にしなさい!! エルマルが瓦礫になっちゃうでしょ!!」

「ハイ」

 とりあえず、食事である。笑っているコーザは凄い。

 

 

「本当になにをしとるんじゃ、エースさん。今が大事な時期だと、あんたならわかりそうなもんじゃ」

「後継者問題?」

 ジンベエが眉を上げた。じっとエースを見つめるが、頬袋いっぱいの悪ガキは首を傾げる。

 龍驤とジンベエのため息が、深く唱和する。

 一同は良さげな廃墟を利用して、サンジのお弁当と簡単なキャンプ飯を楽しんでいる。すかさずラガーを勧めたり以外は、和やかな雰囲気で過ごせていた。

 このときまでは。

「逆にないんかい」

「いや、まあ、うん」

 白ひげのナワバリ、東の海より平和なんじゃなかろうか。

 ジンベエは諦めた。自己紹介によれば、一味の船長はエースの兄弟である。それでなくとも、色々探られる立場ではある。

「詳しいのぅ」

「なんにも知らんよ」

 ちなみに本当に知らない。龍驤のほとんどはハッタリで出来ている。盗み聞きなんかで、そうそう世界情勢などわからない。

 あと、この世界、各方面に謎が多すぎる。物理法則すら違うともう、小学生知識すら役に立たない。実に冒険のしがいがある。

「ほな、あと魚人さんが気にすることと言えば治安か。武器でも流れたか」

 あと、物騒すぎる。なにも知らないで、龍驤が推測だけは出来るの、戦争に向かっているからだ。

 龍驤ではアラバスタがした争いを避ける選択を、甘いとしか評価出来ない。しかし、その選択が反乱の素早い収束を可能にした。

 戦わないという決断を最善と認識出来ない龍驤では、アラバスタの動きを理解出来ないのだ。

 それはよく似たクロコダイルの動きを見ればわかる。龍驤からしてみればえげつないぐらいに追い込んでいるのに、クロコダイルはトドメを刺す必要を認めていた。

 戦いというのは、人を殺すのだ。誰も後戻りなんか出来ない。状況は転がるように進む。

 ならば、反乱軍が結成された段階で、王家の打倒は避けられない未来だ。反乱軍を殲滅でもすれば別だが、飢えて弾もなく、病気がちの日本軍を殲滅するために、アメリカさんがどれだけ苦労したか。

 日本はともかくとして、アフガンやベトナムはどうだったか。

 そうした泥沼を嫌ったにしても、国王軍の半分が寝返っている。後は待っていればいい。どうせ反乱軍になど、国の運営は出来ない。国が乱れた原因は、王家ではなく水不足なんだから、王家を排除しても、問題が解決するわけがないのだ。

 もしそれを解決するためにダンスパウダーなんか使ったら、クロコダイルの思う壺だ。世界政府の名の下に、反乱軍も潰して国を掌握すればいい。

 国を救うために、反乱軍ならそうしたはずだ。大した工作もいらない。

 クロコダイルが手を出す理由は、最後の最後までない。

 ところが、国王軍と反乱軍が直接ぶつからないのである。

 コーザは武器が整うまで待つつもりだったようだが、ないわけがない。軍隊の半分が寝返ってるし、クロコダイルがナノハナをそそのかして、せっせと供給している。

 本格的な戦争でもないのだ。ただ、アルバーナを落とせばいい。アラバスタは砂漠で、途中に戦略拠点もない。反乱軍と違って、兵力を王都にだけ集中出来るわけでもない。

 龍驤の世界ならともかく、この世界の人間はカトレアから飛び出して、そのままドカンで大丈夫だ。補給だってそんなに気にしないでいい。

 この瞬間も、国は枯れている。王家の打倒だけを目指すなら、急ぐ理由はあっても、待つ理由は見つからない。

 兵力で上回り、それでもなおコーザが万全を目指したのは、国王軍の降伏を促すためだ。単純な打倒ではなかったのだ。

 クロコダイルは困っただろう。互いの軍のリーダーが、殺し合いを望んでいないのだ。

 おかげで、アルバーナが陥落目前のこの状況で、反乱が止まるという心配をしなければならなかった。

 無血開城は実現しても、維新は止まらないし、薩摩は帰らない。それが当たり前だ。

 転がり出したら止まらないはずのものが、ちっとも転がらない。よって、せっかく世界に広げたネットワークを、このアラバスタへ集中するハメになった。全力で工作する必要が出来た。隙も出来た。

 その隙をドンピシャで麦わらの一味が抉った。

 気の毒にもほどがある。外道だってもう少し報われていい。外道に徹してていい。

 龍驤とビビを除いて、みんなのクロコダイルへの印象は、話のわかるツンデレ海賊だ。そんなわけがない。そんなのクロちゃん憤死する。

 龍驤はその方向へ全力で進むつもりである。

 クロコダイルは反乱軍を王家の打倒にまで導けないが、麦わらの一味はクロコダイルをツンデレに出来るのだ。

 アラバスタの反乱以上に無理筋に思えるが、よっぽど不可能ではない。

 こうした誘導が成功するか否か。それは利害をキチンと理解しているかどうかである。つまり、ツンデレになることは、クロコダイルの利益でもある。

 人が利に走るまでは真であるが、じゃあなにが利であるかは、価値観によるのだ。

 港で卸す水の相場と、アラバスタ内陸で卸す水の相場が違うように、立場や場所で物の値段が違うのは当たり前だ。

 クロコダイルはどこまで行っても海賊なので、目的のために命を費やすことへの疑問はない。ルフィとまったく同じ価値観だ。

 しかし、一般人には通用しない。

 命がなによりも大事だ。傷ついた身体も心もプライドも、いずれは癒える。恨みつらみすら忘れて、日々を生きていける。落とし前なんて面倒なことをしなくても、問題そのものをなかったことに出来る。

 それが民衆の強さだ。クロコダイルはそれを理解出来ていない。だから、これだけのことが出来ても、アラバスタを完全には操れないのだ。

 どうもクロコダイルは、人を信用し過ぎるようである。死を恐れないとか、死が障害にならないとか、そんな海賊は上澄みも上澄みだ。素人だらけの大海賊時代において、本物と呼ばれる存在なのだ。

 なのに、なんか、それが最低条件みたいな価値観をしている。戦場に立つなら普通、みたいな感覚をしている。

 みんな白ひげみたいに立派だと思っている。そうじゃないことにいじけている。命を大事にする、ギャルディーノみたいな人材を、無意識に軽視する傾向にある。

 それでもNo.3だから頑張ってはいるが。

 彼も被害者なのだろう。麦わらの一味と同じということは、ガープとかロジャーとか白ひげ辺りの世代に、脳みそを焼かれている可能性がある。そういう風に育てられている。

 洗脳されている。

 となると、新たな疑問が湧く。エース、ルフィ、サンジ、チョッパーはいい。まさにその世代に育てられた。チョッパーはさらに前かも知れないので外しても、ナミとウソップは少し価値観が違う。そこまで死に対して無防備ではない。

 一般人と同じではないが、なにがあろうと立ち向かうなんてことはしない。逃げることをためらわない強かさと柔軟性がある。

 では、ゾロは。なんでルフィと価値観がいっしょなんだ。東の海の小さな村の生まれのはずなんだが。

 要はウソップと同じ。ウソップにはウソップで生い立ちがあるのは把握しているが、育てられてはいない。育てられていなければ、血縁がどうとかそこまで気にしない。

 エースはどう考えたっていい子だもの。ロジャーは悪いやつだ。

 考えれば考えるほど、謎である。どうしてあんな常識知らずになってしまったのか。

 四皇、七武海レベルのメンタルを持つに至ってしまったのか。

 頭エルバフなのか。

 サンジの生い立ちなんて、どうでもよくなる。オーナーゼフになんか育てられちゃった人間の過去なんて、本当に些細なことだ。だって、ゼフだもの。サンジに、命がけのポリシーを植えつけた男だもの。

 ゾロ、誰が育てたのよ。

 怖い。

 本当に怖い。

 あの世代の、まだ知らない誰かが、この一味の関係者に名前を連ねてしまう。追加される。そんな可能性がある。

 どんな偶然だ。っていうか、東の海ってなんだ。

 火種しか落ちてないのかよ。全部拾ってんじゃねえよ。

 龍驤はヤサグレている。

「だ、大丈夫か?」

「気にしねえでくれ。持病だ」

「魂はもう、医者の出番じゃねえ」

 チョッパーにすら見捨てられた。龍驤のお先は真っ暗である。

「白ひげは平和ボケ。政府は日和見。そこに武器か。そうかそうか」

「わしはなんにも言ってないんじゃが」

「気にするな。こいつには、なにを言わなくても無駄だ」

 そんなことあってたまるか。言っても無駄な人間で溢れた世界で、言わなくてもダメだなんて。

「そりゃそうだよな?」

 ウソップが首を傾げる。よく考えると普通だ。言ってダメなら、言わなければもっとダメだ。麦わらの一味は混乱している。

 やっぱり、殴るしかない。暴力は全てを解決する。

「オヤジが危ないのか?」

 ジンベエは微妙な表情をする。そうだなんて言えないし、そういうことでもないのだ。

「商売が回っとるんや。キミんとこと違って」

 バカにされたと思ったのか、貧乏な四皇は胸を張る。

「問題ねえさ。腹いっぱい食えるし、酒だって飲める」

 そして、落ち込んだ。白ひげの料理長はもういない。思い出話をする時間はたくさんあった。麦わらの一味はエースの味方である。

「レシピとか残ってねえのか?」

「残ってるよ。四番隊はそのままだし。でも、そういうことじゃないんだ」

 つまり、サンジが殺されたのと同じなのだ。それはちょっと、確かにそのままにしておけない。

 この世に美味い飯はたくさんあるが、明日をも知れない生き方をしている人間が求めるのはいつものご飯。家庭の味なのだ。

 一味との一体感が増した。サンジだけは背を向けている。

 ジンベエは本当に諦めた。

「戻るつもりはないか」

「ああ。必ず、落とし前はつける」

 ジンベエはため息をついた。龍驤やクロコダイルのような危惧は持っていないが、心配ではあるようだ。

「助太刀したら?」

「わしがか? あまり、オヤジさんとの関係は明らかにしたくないんじゃが」

「バレバレなんちゃうの? ナワバリなんやろ?」

「俺とジンベエは戦ったこともあるからな。世間の評判じゃ、宿敵みたいなんじゃなかったか?」

「そのように誘導しとる。魚人島の立場を曖昧にするためじゃ」

 知らなかった。紙一重だ。評判通りなら、本当にエルマルが終わるところだった。

「明確にした方がええで。魚人島やなくて、ジンベエさんのや。こんなんうろついとったらもう、しゃあないやん。七武海やもん。下手したら討伐命令が下るで? そしたらどうする?」

 指を差されて、エースがはにかむ。褒めてない。

「しかし」

「魚人島やもん。新世界へ戻るなら必ず通る場所や。そんな命令が下るとしたら、エースも政府も切羽詰まっとる状況や。ほな、あらかじめ明らかにした方が、主導権を握れるっちゅうこともある。少なくとも、そのときにはもう迷わん」

「うーん」

 ジンベエは腕を組んだ。食事の手が止まった。ゴムが伸びてきて、サンジとビビに撃ち落とされた。

「おかわりやるから、客の皿に手を出すな!!」

「やめなさい!! みっともない!!」

「いいじゃねぇかよー」

「よくねえよ、バカ!! このバカ!!」

「七武海だぞ!?」

 じゃあ、クロコダイルになにをやったか思い返したらいい。

「落とし前つけるのは反対なん?」

「そうではないが」

 それよりも、内部事情がだだ漏れなのが気になる。しかし、エースを伺うと、なぜか麦わらの一味が全員で首を横に振る。

 諦めろということだ。諦めたのに。

 ジンベエの常識が通じない。海賊の内輪話に巻き込まれた王女たちへ、謝罪の一瞥を入れる。

「サッチさんはわしにとっても友人じゃ。仇が取れるものなら取りたい。しかし、そう魚人島を留守にも出来ん」

 白ひげのナワバリからさえ姿を消した男だ。この広い海を探して回るには、立場が重い。

「ああ、居場所なら龍驤が探してくれるって」

 振り返ると、龍驤が横ピースしてた。舌を出している。麦わらの一味はやっぱり、首を振っている。

 どんな顔をしたらいいんだ。ジンベエだから仁義を持って対応しているが、ここにいるのはルーキーである。

「あ、落とし前と言えば」

「龍驤、いいから」

 ナミが止めたが、間に合わない。

「ウチら、アーロンを仕留めたんよね」

 空気が一気に微妙になった。

 




ワンピースの二次でなにやりたいかって
そりゃジンベエに抱きつくことよ
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