だから、今回から金曜夕方で
ユバには既に、復興第一陣が到着していた。早すぎるというより、反乱がなければこんなものだ。足りない状況でさらにリソースを無駄にすれば、あらゆるものが悪化する。
今回、無駄だけでなく、水の輸入などによって足りないリソースが回復している。行政が有能でさえあれば、人はすぐに集まる。国民には反乱を起こすほどの熱意もある。
島津ならもっと早い。
また、各地で雨も観測されたようである。国には希望が広がっている。
到着すると、コーザの父であるトトさんが大歓迎してくれた。反乱の終わりを知って、敬愛する王様の娘が直接来て、感極まっている。
痩せこけた知人の姿にビビはショックを受けたようだが、彼は元気にドラ息子へ躍りかかり、殴り飛ばした。見事なストレートだった。あんまりにも元気なので、道中、大変な目にあった麦わらの一味は傍観することしか出来なかった。
ルフィは静岡スタイルを龍驤から継承して、潰れている。そこから人々が、容赦なく荷下ろししていく。
龍驤はどこから出したかわからないホワイトボードで、オアシスの開発計画を説明していた。
「ユバのオアシスは不圧帯からの取水や。手軽やが、枯れやすいし、埋まりやすい。せやけど、その下には必ず豊かな被圧地下水があるはずや。途中、岩盤やらなんやら大変やとは思う。せやけど二度とユバを枯らせんために、今、気張るで。ウチらがここに、千年の歴史を刻むんや」
「元気ねえ」
人々から雄叫びが上がる。煽りは龍驤の得意である。トトさんが息子とじゃれ合っている間に、指揮権を奪い取る。
龍驤を先頭に、彼らはオアシス跡へぞろぞろと進軍した。で、あっという間に大穴を開けた。
「さあ、ヤレ!!」
「なんでだよ?」
「なんなんだよ?」
「なんだぁ?」
結果、分厚い岩盤が顔を出した。よって化け物三人組をけしかける。渋々、技を放つが、びくともしない。アラバスタはこうした岩盤に覆われている。これを削りきるサンドラ河。
「ダメだな、硬え」
「少しずつ削ってくしかないだろ」
「腹減った」
「情けな。岩も砕けんか。ウチがやったらよかったな」
三人組の額に、青筋が走った。三人が穴から飛び上がる。ゾロが切り刻み、サンジが砕き、ルフィが広げた。
それでもダメだ。なにせ普通、乾燥地では雨季の氾濫を利用して農業を行う。肥沃な土が、川の流域に堆積するのだ。
川というのは単純に大地を侵食していくわけではない。むしろ、堆積させる役割も大きい。
堆積。
していたら、サンドラ河が真っすぐなわけない。侵食しか起こしていない。全部、文字通り、真っすぐ海まで流している。島ごとだ。なにも残らない。硬い岩盤以外は。
逆に言えば、サンドラ河にも耐える岩盤に支えられているのが、アラバスタのあるサンディ島なのだ。
「負けるかァ!!」
「砕けろォ!!」
「オラァ!!」
少しずつ刻まれていく溝や穴に、妖精さんが突撃していく。手に手に、発破を持っている。頭に血が昇った三人は気づかない。なんでか当たらない。
仕掛け終わった妖精さんは親指を立てた。退避はまだである。
「着火!!」
別の妖精さんが嬉しそうに、T字のハンドルを押し込んだ。
岩盤内部で起きた爆発は、遂に亀裂を生じさせた。そこへ三人組が突っ込んだ。とどめの爆炎は盛大であった。龍驤は敬礼した。
「ご苦労」
「使われてるわね」
岩盤が割れた。その下には、圧力をかけられた水がある。
水が吹き出して、空に虹がかかった。三人も妖精さんも消し飛んだ。人々はそれを見上げ、達成感に酔いしれた。一日で終わった。信じられない。
水は、どんどん溢れてくる。
「待て待て!!」
「沈む!! ユバが沈む!!」
「出過ぎだ!! 一旦止めろ!!」
「いや、止めらんねえよ!?」
急いで、オアシスを掘り広げた。畑の方に水路を伸ばして、余った水は砂に吸わせた。暫定的に大岩で蓋をして、噴出量を制限もした。炭化した三人組はもちろん、ウソップもチョッパーも大活躍した。
なんとか安定した頃には、死屍累々の有り様になっていた。
「飯やで〜」
煽った本人は、のんびりとカレーを混ぜていた。
さっきまで枕投げをしていた悪ガキたちも、旅と仕事の疲れで静かになった。
大人の時間ということで、トトさんを囲んで酒を用意した。準備をした龍驤が最後に座って、ため息をつく。
どっしりと重力が増したような疲労が襲いかかった。煽ったのは龍驤だが、ノリだけで深井戸が出来た。一味だけじゃなく、やっぱりこの世界おかしい。
ヤサグレているだけだが、アラバスタに到着してこっち、ずっと歴史の岐路、の手前みたいな状況に遭遇して、龍驤はアンニュイだ。無駄に整った顔面が仕事をした。みんな誤解する。
「お疲れ様」
「なあに? どうしたの?」
優しい。ちょっと感動した。
「ふむ。なにか、訳ありのようですな」
トトさんの言葉に、全員が黙り込んだ。そういえばそうだった。どう説明したらいいのか。事態は複雑だ。
「国王の意図は、わかっとるよな?」
「国王様の? なんの話かな?」
「キミが、ユバに派遣された理由」
複雑だと言っているのだが。なんでこの小娘はこの期に及んで、新しいのをお出しするんだ。どう説明するか悩んでいたら、説明の必要な事情が説明しようとした人から出てきた。
「もちろん、開拓の中心となることだ」
「反乱の黒幕は、クロコダイルや」
「だからね?」
迷っていたのだ。なんでそんなあっさり。コーザが頭を抱えて、ナミが呆れて首を振る。ビビは苦笑いだ。
しかし、トトさんは違ったようだ。痩せこけても人の良さげな恵比寿顔を、鋭くする。
「なるほど。それは、そうか」
考えこんでいる。コーザは疑問を浮かべる。
「オヤジ?」
「国はサンドラ河で二分されとる。対岸のこっち側は、どうしても王都の影響力っちゅうのが及ばんこともある。そん時、中心になるのはユバやったはずや」
しかし、中心になったのはクロコダイルのいるレインベースだった。おかげで反乱は広がり、追い詰められて、カトレアへ本拠を移した。
近くのナノハナはクロコダイルに転んでいた。反乱は、クロコダイルに制御されていた。
リーダーがコーザだったからよかったが、ユバからも切り離された反乱軍が、本当に反乱へひた走っていた可能性もある。軍同士の正面衝突が、始まっていたかも知れない。
逆に言えば、それまで反乱軍を引き止めていたのは、トトさんだったのだ。完全に制御されることを防いだ。
追いつめられるまで、反乱軍を枯れたユバにとどまらせ、近くのレインベースではなく、対岸のカトレアへ動かした。
様々な理由はあろうが、英雄が表向き、反乱に一切関わっていないのは不自然だ。自分を神輿にしてしまえば、もっと楽に反乱軍を制御出来た。それをしなかったのは、出来なかったからだ。
頭に血が昇っていたコーザには無理な判断だろう。間違いなく、トトさんの影響だ。
「情けないことです。私はその役目を果たせませんでした」
頑固じじいとしか思ってなかった息子と、気のいいおじさんという認識しかなかったビビが驚いている。
人柄を含めた信頼性と卓越した能力がなければ、フロンティアへ送る人材なんて棄民にしかならない。
地獄のような開拓事業の果てに、作り出した中央の影響少ない自治領域。自分を王と勘違いして、それこそ反乱の芽ともなる。
辺境伯、節度使など、国が滅ぶ火種になった例はいくらでもある。本来なら、反乱の中心になるはずだったのだ。
ところが、そうはならなかった。
クロコダイルに利用されなかったというだけで、トトさんはとんでもなく有能な行政官だ。あまつさえ、排除されかけた。しかし、まったく折れたりしなかった。
ユバにトトさんがいて、王様を疑っていない。これだけで、多くの人々が踏みとどまった。あんまりユバにしがみつくもんだから、多分、ワニちゃん意地になっている。トトさんの抱いた信頼を踏みにじりたくて仕方がなくなっている。暗殺すりゃいいのに。
本人は自分の不甲斐なさを悔いているようだが。
「言っとる場合ちゃうねん」
反省は必要だろうが、クロコダイルの暗躍は、王家でも完全には把握していなかった。王都で対応出来ないものが、開発途中のユバで対処出来るはずもない。
だが、クロコダイルに野心がある以上、今度こそアラバスタ西岸の中心地となってもらわなければならない。
雨が降らない程度で枯れてもらっては困るのだ。
「水さえあれば、エルマルに近く、貴重なサンドラ河の渡河点とのアクセスもあるユバに、レインベースごときが敵う道理がない」
カジノの集客力は凄いが、だからこそ、そこへ物資や人を運ぶ交通路は価値を高める。クロコダイルは足らない水を独占することでユバを抑えたが、独占が崩れれば脆い。ユバの水は公共物だ。
「なるほど、それで」
だからと言って、一日はやはりやり過ぎだ。龍驤だってそう思う。
でも仕方がない。ノリだったのだ。龍驤もおかしくなっていた。染まったとも言う。本当にノリに乗ってたら、ルフィ一人で充分だったことは秘密だ。
「まあ、これであれやと、人質なんやがなぁ」
コーザを見つめる。彼は、中央で登用される予定である。跡取りを取られるのは、痛手でしかない。
「こやつが役に立つなら、どうぞ使い潰して下さい。バカな息子ですが、国を思う気持ちは本物です」
でも、そんな意図は欠片もない。ビビと仲がいいし。
わからない。なんでこの世界滅ぶんだ。この半分でも龍驤の世界に思いやりがあれば、大戦なんて起こらなかったはずだ。
龍驤はヤサグレながら、復興より先の、アラバスタの未来について話し合いを進めた。
途中、アクロバティック寝相に邪魔された。
「なんで俺たち外で寝てたんだ?」
「寒? 暑かった」
ルフィが寝心地について混乱している。もっと別に混乱すべきことがあるように思うが、いつ寝たのかの記憶すらないルフィにとっては今さらである。
まさか、仲間に蹴り出されたとは思わない。
「寝相やろ」
その通りだが、そうではない。共犯のナミはラクダの上で、澄まし顔をしている。そこに不自然さはまったくないが、察せられるものがある。
後ろ髪を大いに引かれたようだが、コーザも同道していた。
「ウチらが出来ることはこれくらいやろ。後は、観光して、遊び倒して、ビビを王様んところまで送り届けて」
「やっとか」
「結局、戦いとかなかったな」
ゾロが不満そうだが、龍驤はまだ足りないのかとうんざりである。四皇幹部とマッチングしたんだが。
「小遣いは多めに渡すし、カジノもある。楽しんでええけど、気をつけてな。今、あそこ、海軍がうろついとるから」
次の目的地はレインベースである。ビビは遠回りでも街道を行こうと言ったのだが、船長に却下された。
砂漠をまっすぐ突っ切る。
それはまあ、いいのだが、海軍がいるとわかっている街で、海賊が観光するのか。
「七武海が居座っとんねん。今さらやわ」
そうかも知れないが。
「目的はなんだよ?」
「また悪巧みか?」
信用がなさ過ぎるというか、むしろ信頼があるというか。龍驤は一味の期待に応えて、下卑た笑顔を見せる。
「ご禁制品のダンスパウダー。証拠さえあれば、王家なんか潰せたになぁ。調べたらよかったんになぁ」
国を巻き込んでの反乱など、必要だったのだろうか。衰えさせなければ国を手に入れられないほど、クロコダイルは無力な男だろうか。
その程度の工作も出来ないで、疑惑のまま放置するような、ヌルい海賊だろうか。
「なんでやろなぁ? なんか、都合悪かったんかなぁ? 探られて困るんかなぁ、流・通・経・路」
ねっちょりとしている。楽しそうだ。
ダンスパウダーはご禁制品であるからこそ、製造方法も含め、入手には政府へのツテが不可欠だ。
アラバスタに容疑者は二人。王様を信じるなら一人。傍観するだろうか。ただ、信じるだけで満足するだろうか。
そんなはずはないが、では、トトさんはなにをしたのか。
わからない。王家になにか知らせて、それがビビを動かしたのかも知れない。それはまったくの暗闘だっただろう。
トトさん自身、なんの確信もなかったはずだ。この国に諜報機関などないのだ。ノウハウもなく、世界政府からも隠しおおせた秘密結社など、手の出しようもない。
きっと、勝てなかった。でも、負けなかった。
アラバスタは踊らされたが、思い通りにはならなかった。
反乱は終わり、ついに最悪の事態だけは避けられた。人知れず戦った二組の親子には、汚名すら残るかも知れない。
それでも、アラバスタの勝利だ。ユバは蘇った。もう二度と、枯れることはない。
「今だけ、海軍は味方や。荒らせ。思いのままに」
麦わらの一味きっての悪人は、宣言する。そして、声を揃える。
「手に入れるで」
「10億ベリー」
がっしりと、二人は手を組んだ。男連中は変形合体ロボを見た女性陣のように、シラっとした。
アラバスタの空に不気味な笑い声と、ハナクソが人数分、吸い込まれていった。