龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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ここに海賊旗を立てよう

 龍驤は湖面で、通信に耳を澄ませていた。適当に砲撃を加えてルフィを援護しながら、一味の位置も探す。

 龍驤は負けたので、とりあえずやることはそれぐらいである。クロコダイルは龍驤の外交だとか政治に付き合ってはくれなかった。そうした戦いなら、アラバスタの人々でも出来る。麦わらの一味の出番ではない。龍驤の世界がそうであるように、いつまでも解決しないが、それらに耽溺する限り平和ではあり続ける。

 しかし船長の出番が来て、やっぱり助走をつけて殴るという結果に落ち着いた。

 およそ、想定内である。みんな、うんこは投げない。汚物にまみれて進まない。意地や誇りを掲げて戦う。

 だから、龍驤の出番はない。寂しいとも言えるし、嬉しくもある。戦いは避けられなかったが、戦争にはならなかった。

 怪獣大戦争かも知れないが、それはそれだ。みんな、楽しそうでよかったと思う。

 クロコダイルもルフィも、一味もバロックワークスも精悍な顔をしている。悲壮感など欠片もない。一部、泣きわめいているが。

 なんで能力者相手に無傷なんだ、あのピノッキオ。

 想定外があるとすれば、バロックワークスの上層部が全員、参加したことか。思ったより人徳のある男だ。あと、なんか情報より強くなってるし。

 鉄を斬れるゾロが、ダズを斬れないでいる。装甲すらひしゃぐサンジと、オカマが伍している。

 チャンピオンがチョッパーと組み合い、ワカメとウソップが撃ち合った。コーザの援護で、ビビが陽キャと戦っているが、リア充は蝋の鎧を着て、なんか空を飛びながらどこかと通信している。

 おそらく、郊外にいたおデブペアだろう。でっかいモグラ跡が、戦場へ向かっている。

 どうしたもんかな、と龍驤は考える。

 目の前には沈みつつあるレインディナーズ。それと湖岸を繋いでいた橋の先で、龍驤はミス・ゴールデンウィークとお茶をしている。

 ザラとか言う、女王様っぽいのは、ナミを足止めに行った。ナミは雷を耐えられて驚いていたが、二撃目はないだろう。このまま一味が合流すれば、大枠の勝負はつく。

 やはり、龍驤が手を出す場面はない。戦場を挟んだ街中と郊外で対峙しながら、このままニコ・ロビンを牽制し続ければいい。

 混乱を起こしそうなのは、さっき首根っこを掴んで、こうして拉致したし。

「満足? この街は滅ぶわ」

「ユバは一日で復活した」

 なんか責められたっぽいが、残念である。この世界で常識は通用しない。ブードルさんやトトさんがそうだったように、滅びても立ち上がるのだ。

 海賊や犯罪組織なんかと同じにしては困る。

「国が欲しいか?」

 マリアンヌは答えない。

「人のもんなんぞに手を出さんと、自分とこ帰ってこの国の人たちと同じことをせえ。出来な、どうせ変わらん。戦争だけやない。神や自然ってもんの悪意は、人間にまさるとも劣らん」

 災害に限らず、自然の気まぐれは人々の生活を翻弄する。むしろ、戦争はそうして翻弄された結果として起こる。

 クロコダイルは止められたが、では自然を相手にそれが出来るか。出来なければ、殺し合うのか。

 そんなことをしていたら、本当に滅びてしまう。

 水は汲めばいい。壊れたら直せばいい。疲れたら休めばいいが、死んだら生き返らない。そして、戦えば死ぬ。

 生き返るとすれば、龍驤みたいになる。

 キメポーズをしてみたが、マリアンヌは感銘を受けなかったようだ。冷たくすらない平坦な顔で見られた。

「本当に転生者なの?」

「キミの身体も、何日か前に食った生き物で出来とる」

 万物は流転する。生態系とは、つまりリサイクルである。今日魚だったものが、明日人間の身体になる。そうやって、物質は様々なものに形を変えていく。それを転生と言うなら、そうなのだろう。

「異世界?」

「一枚の絵は、一枚の紙とは別や。紙には表と裏があるが、裏の絵は表とは別のもんになる。一枚の紙に、二つの絵。なんも不思議やない」

 絵は一つの世界である。切り取られたのだとしても、画家にしてみればそう表現したものはそうなのだ。そしてそれは、ひっくり返すだけでまったく別の世界になり得る。二次元で表される情報は、三次元で簡単に閲覧出来る。

 ただ、漫画のキャラクターがコマもページも飛び出して表裏を行き来したらびっくりする。

 びっくりするが、龍驤には妖精さんがついている。妖精さんを手の甲に乗せて、あざとくポーズしてみたが、やっぱりマリアンヌは平坦な顔をする。

「変なの」

「それですまされると、忸怩たるものがあるな」

 変であることは間違いないが、それを言うならバロックワークスだって変である。マリアンヌは筆頭と言っていい。

 この戦いに介入しないと決めた龍驤が、こうして確保するぐらいには。

 この人材収集能力は、脅威である。現在、海に出る人材は四皇と海軍に根こそぎ吸収されている。

「ザラが負けた」

「回収して来ていい?」

「もう少し待て。クリスマスおばさんが、道を作っとる」

 マリアンヌは、やはり顔色も変えずに龍驤を凝視する。

「なにを考えてるの?」

「航空戦艦の可能性」

 レインディナーズ・カジノは、正方形の岩盤に乗っていた。ならば、重心は対角線上の中心である。

 つまり龍驤たちが集まった、あのガラス張りの広間が、岩盤を支えるメインの柱なのだ。

 水中に飛び出て、龍驤は精神を遥か彼方に手放した。

 その柱の根本が、水槽だった。基礎が、ガラスの、瓶だった。柱はガラスの外壁で構成され、中身が空だったのだ。

 もしかしたら、ガラスはとても頑丈なのかも知れない。実際に頑丈だとは思う。カーテンに隠れて見えなかったが、あの広間からは、やはりガラスの筒が湖岸に伸びていて、脱出路になっていた。筒だけで、今いる橋のように、柱で支えてはいなかった。

 構造として強いのだ。

 水圧に耐え、建物の構造を支えることが出来るガラス。そんなもの、現代にも存在しない。

 思い出すのは、往年のSF作品に出てきた宇宙コロニー。鏡による反射によって弱められた日光を、窓という形で取り込むタイプのあれである。つまりこの世界、かの有名な文明を測るカルダシェフ・スケールによると、レベル1を越えている。未来過ぎる。

 だって、そうじゃん。そんなガラス、それ以外の用途で必要ないじゃん。

 もちろん、こんな海ばっかりの世界だから、宇宙じゃなくて深海に用があったのかも知れない。けれど、最貧国と呼ばれる国でさえ、宇宙進出は可能なのだ。翻って、深海探査を可能にしている国は、先進国しかいない。海底は資源の宝庫だと言うのに。

 深海へ行くより、宇宙の方が楽に行ける。

 誰がどう考えても、文明の発展によって最初に目指すフロンティアは、深海ではなく宇宙である。

 よってこの世界が宇宙進出していることは確定した。違うと言うなら、クロコダイルの湖底基地について、詳しく説明しやがれ下さい。

 さて、このカルダシェフ・スケール。エネルギー消費量によって発展具合を測る。消費量が大きいということは、生産量も高い。つまり、スッゴいエンジンを作れる。

 現代世界では、ジェットエンジンで生み出した速度を空力に変換して空を飛んでいるわけだが、スッゴいエンジンがあれば空力は必要ないということになる。翼がいらない。

 翼がいらないとどうなるかと言えば、大気圏の内外差がなくなる。

 もちろん、空気という流体の影響を完全に無視出来るはずもないが、利用は考えなくてもよくなるのだ。むしろ、影響を少なくする方向へ発展する。

 つまり、船みたいな形になる。木馬や大天使じゃなくて、先駆者の母みたいな。

 ドラムで語った夢は、単なる世迷い言だったのだが、なんか実現しそうである。航空戦艦って、龍驤の時代だとそう言う意味じゃなかったんだけど。いや、自身の立ち回りとか重要だけど。

 ただ、ガラスがそんな頑丈だなんて夢物語である。いくらなんでも、ガラスは鉄筋コンクリートの代わりにはならない。岩盤を支えられない。橋にしたらダメ。

 これが真実である。だって、支えてたなら、龍驤が砲撃で穴を開けた時点で崩れないと。そんなことは起こらなかった。だけど見た目上、支えてはいた。

 となれば、支えていたのは浮力である。宇宙ステーションと同じく、あのホテルと隠れ家全部が、湖に浮いていたのだとすればなんの矛盾もない。

 岩が浮くのは矛盾以前の問題だが。ちなみに、ガラスはそういう風に固まった岩。ガラスという構造である。浮いているのだから、宇宙コロニーを否定する材料にもならない。無重力と同じ条件下で、内圧のみならず、水圧にも耐えているのだ。

 なぜ、そこを矛盾しない。

 龍驤が現実から逃げ出したのは、なにも一味を殺しかけたからではない。そんなんでやつらが死ぬなんて、欠片も思っていない。

 やり過ぎたと、一応、反省はした。それだけであり、それよりヒドいことがあったのだ。

 浮力を操作、または利用して岩盤を浮かせられる技術の正体とは、重力制御だ。

 ざっくり言えば、浮力は重力と均衡する水圧の力である。穴を開けたら浸水したのだから、圧力は操作されていない。

 ならば、残りは重力ということになる。重力の大きさは質量に依存するため、生産量としては小さいが、質量の消費量がもっと小さいため、非常に効率がよい。要は位置エネルギーの利用である。ポテンシャル、潜在的だとか将来性と呼ばれるエネルギーを引き出すのだ。無から有を生み出すに等しい。そんな感じの技術が使われて、あの秘密基地は浮いている。浮いているから、ガラスを基礎にしても成り立っている。そう考えるしかない。

 だって重力と万有引力は違うものなんだから。

 わからない。全然、わからない。

 頑張って理解しようとしてきたが、龍驤の扱う物理学とは基本的に弾道計算の応用である。光速の向こう側の相対性理論とか、微小質量である量子力学とか、畑違いだ。

 もはやそんな言い訳も通らない。この世界、ニュートン力学すら通用しない。

 物理学においては、同じ宇宙であっても法則が異なっているという事実が確認されている。速度が違うと観測結果が違うし、質量が小さいと観測するまでわからない。

 なぜなら、面倒だからだ。リンゴが下に落ちた、という現象を相対性理論で考えた場合、惑星の自転、公転、太陽系の公転、銀河系の動き、宇宙の膨張などなどを考え合わせないとならない。

 つまり、下に落ちてない。ニュートン力学で定式化された万有引力は、そうした実際の運動を無視して、目に見える現象だけを説明している。そして量子は見えない。

 で、目に見える現象がバグり散らかした。浮かないものが水に浮いた。まるで、宇宙空間にあるような挙動をした。

 相対的な速度や、小さ過ぎる質量を調整してやりさえすれば、光速だろうと素粒子だろうとニュートン力学は成り立つとされてきた。計算結果があるだけで、実は物理法則なんてなかった。

 それが覆された。誤魔化しがきかない。

 じゃあもうダメじゃん。どうしょうもないじゃん。考えてもムダじゃん。

 龍驤はヤサグレている。ヤケになって、宇宙戦艦の建造計画を真剣に検討している。粒子砲か波動砲を搭載する気でいる。

 なんで、こんな世界で人生を過ごそうなんて思ったのか。

 水上に手をついて塞ぎ込む龍驤を、マリアンヌはやっぱり平坦に眺める。お前こそ、なぜ浮いている。

 聞きたいのは、そういうことじゃない。

「なにがしたいの?」

「なんにも。戦いたないし、勝ちたくもない。逃げたきゃ逃げろ。手伝ったる」

「なにがしたいのよ?」

「ケンカ売ったんはキミらやんけ。忘れたとは言わさんで」

 マリアンヌの顔色は平坦だが、それに輪をかけて龍驤は冷静だ。興味がないのである。

 なんか、あのザラとか言うお姉ちゃんには複雑な葛藤みたいなものがあったようだが、知ったことではない。

「クロコダイルはバロックワークスへの関与を否定した。ところが、こうしてキミらとおる。もう、ウチらがなにをする必要があんねん。終わったことや」

 構成員の情報は手に入れている。特にオフィサーエージェントに関しては、似顔絵から個人情報まで調査済みである。

 ウィスキーピークの時点でだ。

 それらはスモーカーへ売却した。異名持ちや懸賞首もいた。いい値段がついた。繋がりがはっきりした以上、クロコダイルは七武海から追放される。始末は、海軍がつける。

「隠さんかったな。一体、なにがしたかったのか」

 マリアンヌは答えられない。クロコダイルは犯罪者である彼女によくしてくれた。それだけが真実で、わかることだ。

 もはや事実上、七武海でもない男は、アラバスタを敵に回し、海軍に包囲され、あそこでルーキーと殴り合っている。

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