龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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厄介者なら見捨てちまえばいいと誰かが

 理想郷の建設計画。アラバスタの乗っ取りは最終局面に入っていた。バロックワークスの集結は始まっていた。最終作戦を滞りなく進めるために、王女を確保するはずだった。しかし、麦わらの一味と関わってから状況が変わった。

 マリアンヌは、悪戦苦闘するクロコダイルをギャルディーノとともにずっと見ていた。闇に隠れ、あらゆる場所に手を伸ばしていた秘密結社の社長が、空を飛ぶ妖精さんたちを捕まえられない。

 そして、麦わらの上陸の日。勝負と言ってよかったが、その場に白ひげの二番隊隊長が居合わせた。あの日、ナノハナを包囲していたバロックワークスは、待ちぼうけを食らった。勝負はお預けとなった。

 帰ってきたクロコダイルは、見るからにヤサグレていた。バンチの車内は地獄だった。

 計画が延期になることにイラついているのだろうと思っていたが、次の日の新聞に載るとそうも言ってられない。どういうわけか、火拳訪問の情報が漏れた。クロコダイルはキレて飛び出していった。で、またヤサグレた。

 ナノハナで派手なケンカをしていたらしい。見物人で大盛況だったようだ。しかも同時に、行方不明だった王女らしき人物が確認されたり、世界で大流行している反乱、革命騒ぎが珍しく収まりを見せたり、王様が市井に降りて演説したりと、これでもかとニュースソースが並ぶ。

 世界中の耳目が集まった。そんな状態で、クロコダイルは同じ七武海であるジンベエに頭を下げなければならなかった。

 電伝虫越しではあったが、こいつらは顔真似をするのだ。形だけどころか、その形を誤魔化せない。

 頭を下げるクロコダイルを見た。

 大国、アラバスタが災害復興と開拓事業のため、魚人へ力を求めたのだ。七武海の仲介で。

 魚人島と国交を結ぶ国家が現れたなど、大ニュースである。しかも、具体的な人材交流事業まで用意されている。

 当然のことながら、いつから準備していたのだとなる。その場で適当に決めることではないからだ。酒場に未成年たちが集まってあーだこーだじゃないのだ。

 再び注目されるのは、直前にアラバスタを訪れたエース。書くのは世界経済新聞。

 そりゃあもう、好き勝手に推測を重ねる。想像の翼を忙しく羽ばたかせる。

 ただ、読み物としては本当に面白い。実は、とか、スクープの文言で、日を追うごとにどんでん返しが起こる。

 毎回、ウソぉってなる。冷静に考えると、ウソなんだが。

 なぜ誰も疑問に思わないのか不思議だった。

「それが情報なら疑うが、新聞なんて娯楽やろ」

 なるほど。どこぞのアホウドリは、紙面が飛ぶように売れてウハウハだろう。

 マリアンヌは、乾燥気味な職場にお茶を配りながら、そうした紙面の分析を担当した。それをギャルディーノに伝えると、ビクビクしながらボスへ報告に行くのだ。

 クロコダイルの機嫌は悪かったが、ギャルディーノが怒鳴られたり、暴力を振るわれることはなかった。ただ、本当に不機嫌だった。なぜか、ミス・オールサンデーが嬉しそうにからかった。

 雰囲気の悪さのあまり、みんながその理由をギャルディーノへ聞きに行った。

 広間は大きかったが、仕切りがない。内緒話のつもりが、バレバレである。結局、クロコダイル本人が説明してくれた。よほど溜まっていたのだろう。

 全部、この小娘の企みらしい。

「いや、なんもしとらんから。新聞社にコネもないし」

 そんな言い訳を信用してはいけないとも教わった。

 白ひげと加盟国と七武海が揃うのだ。ただでさえバロックワークスの働きで、周辺海域は比較的安全になっている。近所のドラムには復興の兆しがあり、手付かずだったリバースマウンテン近くの島々にも、人が住み始めた。世界経済新聞以外も注目したことで、本当に有用な情報も広まった。

 商機だ。人が集まる。情報を求めて、記者連中もやってくる。

 彼らは船で来て、港に泊まるのだ。当然、水を支払う。むしろ、水でいい。お得だ。さらに噂を呼ぶ。

 人が集まってくる。水も入る。水の分、余った金で商品を買い込み、別に売る。交易が盛んになる。海賊は、なぜか沖で沈む。

「なんか不思議か? 常識的やろ? わかりきったことやんな?」

 常識だから、みんながそうしたのだ。龍驤のせいではない。

 マリアンヌはコメントを避けた。一部、不可解な点が。

 さて、争いの原因は水。なんなら、雨である。それは神の領分であって、国は関係がない。権力の奪い合いではないのだ。

 国は対応に問題があったし、反乱軍は待てなかった。争いは水を手に入れるための手段である。国家の打倒はついで。

 ついでて。国家の打倒は大事である。

 大事であるなら、普通は目的と手段が入れ替わったりするのだが、アラバスタでは両軍の一兵卒に至るまで、一切それが起こらなかった。

 だから、水が手に入った途端に反乱が終わった。そこにわだかまりはあっても、混乱はない。

 龍驤が小細工しなくても、ダンスパウダーをクロコダイルが破棄した時点でいつか雨が降り、それでアラバスタは平和になっただろう。

 やはり、龍驤のせいではない。だが、ちょっと待って欲しい。全然、常識的じゃない。

 一般論から国ごと逸脱するな。

 国に逆らい、王家の打倒を掲げながら、それを目的としない武装集団とか、ちょっと意味がわからない。アメリカ合衆国憲法修正第2条みたいな話だろうか。王制やってるくせに、だいぶ自由である。

 これはとんでもないことだ。

 国民が国に逆らい、横暴に抗する権利などと言うものが、世界政府発足当時から存在する、歴史あるアラバスタに根付いている。

 アメリカみたいな法はない。体制も違う。人々の意識にだけある。常識になっている。戦前、戦後を越えて、現代と同じ価値観を人々が持っている。

 そんなん、天竜人どうなるのさ。

 マズい。アラバスタ、マズい。どうしていいかわからない。

 多分これ、空白の百年で隠したものの一つだ。

 かつて、世界は自由の国だったのだ。800年経っても人々の常識から薄れないレベルの。

 なんで空白をウソで埋めないのかと思っていたが、違う。現在の世界政府は、中国における征服王朝だ。支配者層が少数民族だから、数で圧倒する先住民族の文化や思想まで滅ぼせないのだ。

 むしろ、混乱を避けるために、時間をかけて教化していくような政策なのだ。

 まあ、出来ないのだが。

 絶対に出来ないのだが。

「おかしいのはこの国やろ? ウチのせいちゃうやん」

 マリアンヌは答えられない。割と普通だと思ってたことが、実は違うらしい。

 この世界における常識を、転生者が書き換えた瞬間である。

 アラバスタは普通の国。

 マリアンヌは誤魔化すように、せんべいを食べた。

 普通は、普通で困る。アラバスタと田舎極まりない東の海の住民で、そう違いがあるように思えない。世界共通の価値観だとしたら、今起こっている革命騒ぎは、予定調和に過ぎない可能性がある。

 天竜人と関わるのは、各加盟国の王族だ。つまり、教化の対象である。それらと国民との間で、常識が通じなくなっている。

 だから、無邪気に絶対王政な統治をして、ふざけるなと自由民の間で革命が起きる。

 絶対王政だって立派な政治制度だ。ちゃんとしていれば文句はない。むしろ、政治に関わらないで経済に専念出来る分、庶民は気楽かも知れない。800年近い歴史があって、今さら急にちゃんとできなくなるわけがない。そんなバカは同時多発しない。ワポルを見ると量産体制が整ったように見えるが、それはそれで嫌だし、決定的な要素ではない。

 ちゃんと出来ないのは、天上金があるからだ。

 つまり、天上金を支払い続ける限り、どんな政治体制でも失敗するように出来ている。アラバスタと同じだ。お金か水かの違いだけで、足りないものは誰がどうしようと足りない。

 天上金を払わないとなれば、非加盟国になる。非加盟国が独立を守るには、海軍が必要だ。少なくとも、白ひげのような強い海賊勢力が。

 船というのは、水上に家やビルを建てることだ。それに武装、装甲などの鉄量を加えて、軍と成す。

 鉄は文明の象徴だが、山を削って木を切って、文明が存続不可能な砂漠化ももたらす。

 イギリスなら大英帝国。日本なら大東亜共栄圏。

 この広さがないと、島嶼国家が海軍を整備など出来ない。

 広いので、もっと海軍がいる。だから、もっと広い地域が。そういう地獄である。アメリカさえものたうち回る。

 大陸国家もこの争いに参加した。故の、二度の大戦だ。

 この世界に大陸は一つしかない。勝ったイギリスも、負けた日本も焼け野原になった。ドイツはともかく、フランスの方がマシなぐらいである。で、戦場になったアジアはどうなったか。

 なんでか比較的無事だが、それは戦った日本兵がジャングルに籠もったからだ。民間人と軍人をわけることは、酷く難しいということを、龍驤は知っている。そして、諦めたアメリカがなにをしたかも。

 全部がマニラになるはずだったが、日本兵の矜持が、それを許さなかった。この世界に日本兵はいない。

 世界を滅ぼしたいのだと結論づけるしかない。

 だって、空白の百年は世界大戦の歴史。二十人も王様が参加しているのだからそうだ。それを知るのは、天竜人だけ。知っていて天上金なんぞやって、知らせずに好き勝手させて、挙げ句に統治者を教化する。

 混乱を起こしたいのだとしか思えない。やってることが、クロコダイルと似ている。

 やっぱり、アラバスタおかしい。ビビはなんでビビなのか。

 どう考えても先代も歴代のドラム王も名君なのに、ワポルはバカだった。どこにも先代以前の影響を感じない。

 かつての国家は足りないものがあれば、冒険者や私掠船を外に向けていたはずだ。海は世界の外かも知れないが、外があることは認識していたのだ。

 それを、資源も土地も人口も限られた島内への圧政で解決しようとは。本当に世界が島だけで終わっている。

 常識や基本知識が奪われているかなんかしている。

 やはり失われたのは、歴史ではなく、800年前でもない。空白で目立たせているのは、むしろこうした動きを隠すためだ。

 大海賊時代を境に、海賊を敵とすることもその一環だ。交易の担い手を敵にしたのだ。実に壮大だ。800年越しの計画である。気が長い。

 世界政府は天上金や海賊、奴隷売買によって加盟国、非加盟国の区別なく下界から富を収奪し、交易を妨げている。

 技術を適当にばら撒いて文明を与え、便利を覚えさせて人を教化し、その技術によって文明そのものを滅ぼす道へ誘っている。

 気づいた人間に空白の百年というわかりやすい答えを提示して、それに釣られた人間を始末している。

 しかし、空白の百年に答えはない。答えは誰もが疑問を持たない、常識の中にこそある。

 アラバスタにある。

「クロコダイルが常識的に動いてくれたら、一大対抗勢力が出来たになぁ」

 バロックワークスを隠して、七武海の座に座っていてさえくれたら、アラバスタとその周辺国、または地域。及び、魚人島を含めた経済圏に加え、クロコダイルのネットワーク、海軍がまだ進出していない地域の開拓などが望めた。

 うまくいけば、海軍とも連携が出来たかも知れない。隣接する経済圏は、マリンフォードなどを含み、新技術である海列車で連結されつつある地域だ。あと、平和な東の海。

 連携が出来なければ、海軍は四皇勢力と挟まれるだけ。なんにしろ、大騒ぎになる。

 つまり、そこが世界の中心になるわけで、新世界に進出する予定の麦わらの一味にとっては都合がいい。騒ぎを尻目に、ワンピースを目指す。

 だが、そうはならなかった。

「どないしよか」

「知らないわ」

 龍驤は形代を取り出す。

 重力制御の可能性は、新たな道を彼女に示す。

 

 

 クロコダイルは能力を研ぎ澄ませている。だから、悪魔の実の効力がわかる。

 悪魔の実が与えるのは一つの能力ではない。いわば、概念のようなものを付与し、それに沿って能力が発現する。

 例えば、ドルドルの実。蝋を生み出して、操ることが出来る。蝋なのに鉄の硬度を持つのは、それらを併用するからだ。蝋なのは温めると溶けて、気化すると燃えるところまでだ。そうであるなら、鉄より硬くてもなんでも蝋という概念であるらしい。それを使った造形を武器や鎧はもちろん、本物そっくりの美術品にまで昇華している。

 はっきり言えば、研ぎ澄ませたはずのクロコダイルよりも上手い。クロコダイルは渇きの力と砂に変化する力を上手く併用出来なかった。

 だから、水が弱点なのだ。水を吸う間、クロコダイルは人間のままでいる。砂になれないので、ロギアの力で攻撃を受け流せない。だから、殴られる。

 必ず、そこを突いてくると思った。だが、気がつけばクロコダイルは周囲の環境を乾燥させていた。右手に掴む必要がなくなっていた。

 怒りが、能力を研ぎ澄ませたのだ。さらに想定外だったのは、その環境に抗うため、バロックワークスの面々が覇気を身につけ始めたことだ。

 覇気は技術である。女ヶ島のように幼少期から鍛錬を積んでいるならともかく、今の世界で覇気使いは貴重である。

 もったいないなと思った。

 毎年、シャボンディ諸島を通過するルーキーが話題になるが、それは誰が、どの四皇の配下になるか。または潰されるかに期待が集まるからだ。

 人材は四皇に吸収されるか、海軍が集めていく。でなければ、天竜人が奴隷として奪う。野心や能力のある人間は、楽園にも四方の海にも残らない。大変なのだ。

 懸賞金が無効になるからと、七武海の門を叩く海賊はいない。なにせ、彼らは海賊旗を自慢に思っている。その価値を示す懸賞金は、むしろ誇りなのだ。取り消したいなんて思わない。

 むしろ、忌避されてしまう。それでなくとも、犯罪者は弱者をいたぶることで生計を立てている。

 強者と戦い、奪う七武海を目指すぐらいなら、四皇の傘下に降るだろう。

 人材は自分で探すしかない。そして、探し出した人材は、クロコダイルよりも能力を上手く操る奴らで、覇気まで使えるようになった。

 というか、マリアンヌがわからない。これは覇気なのか、能力なのか。二つ名は自由の旗手。十六歳で懸賞金は2900万。ギャルディーノよりも高い。絵を描くだけで得られるものではないが、微妙に情報がない。

 二つ名があってそれだと、敵に生き残りがいないんじゃ。

 実はとんでもない拾い物ではないかと、クロコダイルをして戦々恐々としている。彼女は本気を出しているのだろうか。

 小娘と対決してわかった。

 まず、軍事力などすぐには整備出来ない。手っ取り早く古代兵器を手に入れようとしたが、ニコ・ロビンの態度を見るに、あまり期待は出来ない。

 話を聞いてみれば、ポーネグリフには種類があるらしい。歴史を示す石と、その在処を示す石。

 アラバスタにあるのが、古代兵器の在処を示す石ならば、古代兵器自体は別の場所にあるということだ。

 それではアラバスタを手に入れる意味がない。石は世界に散らばっているのだ。そうじゃないかと思ってはいたが、本当にそうだと知るとうんざりする。

 大型船の建造には、年単位の時間がいる。建造するためのドックを造るのにも時間がいる。集める資材は膨大で、金は目眩がするほどかかり、必要な人材は貴重だ。

 その問題が、いつの間にか解決していた。人材は自前のがあるし、資材や金を集める環境は、なんだか整ってきている。

 なんだろう。クロコダイルがアラバスタの王になる可能性は尽く潰されているのに、軍事力は手に入れられそうな状況が着々と生み出されている。

 腹が立った。人生をかけた計画だった。二十年居座って、何年かごとに修正もしてきた。

 それを、たまたま居合わせただけの弱小海賊が、他人を利用するだけであっと言う間に、別の手段で、クロコダイルよりも巧みに。

 これに乗れば、クロコダイルはとんでもない力を得られるだろう。その代わり、アラバスタなどの国は残る。

 クロコダイルは政治をしなければならない。

 めんどくさい。

 それがすべてだった。

「本当に気に入らねえ」

「ワガママだな」

「テメェにゃ言われたくないんだよ!!」

 砂に変化することで大きくした腕を叩きつける。覇気も込めた。麦わらは間抜けな悲鳴を上げて潰れる。

「痛ってぇ〜」

「ふざけてやがるぜ」

 クロコダイルは冷静だ。悪魔の実については、それなりに研究してきた自負がある。

 ゴムは反則である。

 ロギアでさえ、不意をつけば殴られる。どこかにぶつけることもあるし、指先を針で刺すこともある。クロコダイルのように、弱点を突いて、能力を使えない状態にすれば、覇気だって必要はない。

 能力は無敵ではないのだ。

 だが、ゴムは。

 海でさえ、能力を奪うことは出来ない。覇気ならば当然だ。

 だから覇気を使われても、能力で受け流すことが出来る。出来なかったときに、ロギアはダメージを負う。

 能力とは、自分の意志で発動させるものなのだ。使いこなすことが重要なのもそのせいだ。

「テメェ、人間に戻れるか?」

「? 俺は人間だぞ?」

「ゴムじゃねえか」

「ゴムだけど」

 ロギアであれ、なんであれ、元は人間だと言うのが大前提だ。覇気も同じ。使うのはどこまで行っても人間。

 使えなければ、どんなに強くても、ただの人間なのだ。刃物の一刺し、ピストルの一発、拳一つでダウンする。そういうのが、この海における戦いなのだ。

 だが、ゴムなら。

「やってらんねえ」

「どした?」

「やる気が失せた」

「なんなんだよ?」

 麦わらに怪我はある。乾かして割れた肉体はそのままだ。ただ、ゴムの収縮なのか、傷は閉じていて出血は止まっている。

 毒針を刺したが、なんでか元気だ。ちょっとふらついているが、それだけとか舐めている。

 岩をも溶かす溶解毒だ。そんなものを用意したのは、麦わらみたいなのがこの海に溢れているからだが、納得がいかない。

 この毒針にいくらかけたと。

 仕方ないので、ナイフも出した。やっぱり、切られた端から塞がっている。切れないわけではないが、出血がゴムで押さえられては意味がない。よほど切り刻むか、切断まですれば別だろうが、クロコダイルは剣士ではないのだ。

 めんどくさい。

 それ以外の傷は、擦り傷ぐらいである。打ち身も多少はあるかも知れない。

 だが、クロコダイルと戦っているのである。能力だって駆使した。覇気も使った。

 どうして、この小僧はそこらで転んだ程度ですんでいるのか。

 子供の遊びじゃない。

「理由がねえんだよ」

「いいじゃねえか。やろうぜ? お前強いから、絶対勝つんだ」

「もうちょっと強くなってから来い」

 クロコダイルはルフィを吹き飛ばした。ルフィはなにも出来ず、廃墟へ突っ込んで行く。そのままミイラにしようと思ったが、近くの湖面が弾けて水が降り注ぐ。

 クロコダイルはため息をついた。

「不毛だ。なんでこんな小僧どもに」

 ご愁傷様である。

 

 

 龍驤はバロックワークスの通信に割り込んだ。

「うちの船長とクロコダイルの勝負が終わった。引き分けや。バロックワークス各位は撤退しろ。地下トンネルを抜けて、海軍の包囲を抜けよ。各員の位置は信号によって知らせる」

 街のあちこちから、煙を引いた花火のようなものが打ち上がる。龍驤自身も、信号弾を打ち上げた。

「本当にいいの?」

「キミら捕まえても、懸賞金は出んよ。七武海やし。むしろ、面倒事に巻き込まれるだけやな」

「海軍は味方じゃないの?」

「拒否された。頭下げたら、考えたる」

 とっても傲慢である。スモーカーはいい面の皮だ。

 ぜひ厚くして、厳しい世間の風に立ち向かって欲しい。

「潰そうとしたんでしょ? 海軍や政府を使って」

「バカなんやからいくらでも誤魔化せたやろ。それでクロコダイルは信用を得た。表向きな。それで充分。あとは知らん」

 ところが、バロックワークスとの繋がりを見せつけられた。

 想定外である。

「誤魔化すだけで、別に切り捨てよってわけでもないに。へそを曲げよって」

 こいつにかかると、クロコダイルすらワガママな子供である。

 マリアンヌは聞いた。ずっと側にいた自分より、龍驤の方がクロコダイルを理解している気がして。

「要は政府なんかより、キミらの信頼が欲しかったんやろ」

 龍驤はブツブツ言っている。そんなに王様になりたかったのかと。別に七武海のまま、地域の海軍総督でいいじゃんとか。

「ありがとう」

「礼を言われる筋合いはない」

「それでもよ」

 ピクニックセットをしまって、マリアンヌは走り出した。筆を一振りすると、姿が消える。足音すら聞こえない。

 龍驤は目を擦った。

「コワ」

 湖面に浮いていると、仲間たちが集まってくる。

「勝ったぁ?」

「勝ったぜ」

「まぁ、楽勝だ」

 の割にボロボロである。ゾロは切り刻まれているし、サンジは歩きにくそうだ。骨が折れているのだろう。

 その二人を、走ってきたナミが蹴り飛ばした。

「私を守りなさいよ!! 使えないわね!!」

 その必要がどこまであるのか。見るからに二人より強い。ほとんど無傷なくせに、ボロ雑巾のような男たちをガミガミしている。安静にしているならいいかと、龍驤は視線を外す。

 この程度の八つ当たりで恐怖が誤魔化せるなら、甘えさせてやるべきだ。バロックワークスは精鋭だった。

 チョッパーがウソップを引きずってきた。ビビとコーザもいる。

「勝っ、生きとる?」

 さっきまで無傷だったろう。なにがあった。

「うん。かろうじて」

 3と4、5ペア相手に戦っていたのだ。なんで勝つかな、この長鼻。

 チョッパーたちが役立たずだったわけではないが、狙撃手が一番重傷っておかしいだろう。一体、なにをしたんだ。

「漢やな」

「ウソップは俺のヒーローだ」

 トナカイから少年姿になって、手当てを始める。凄惨な光景だが、チョッパーの機嫌はよい。この不定形な鼻は一体、なにをされたんだ。

 船長が毒で死にかけているのだが、邪魔してよいものか。

「ルフィは?」

「実質、負けやな。まあ、七武海の壁は厚い」

「生きてんならいいさ」

 サンジは気にしていないようだが、ゾロの顔は苦い。

「勝負は引き分けやよ。キミとおんなじ」

「うるせぇ」

 笑うしかない。

「じゃあ、後始末やな」

 龍驤は巻き物を展開。形代を眼前に浮かばせた。

 チョッパーが目を輝かせる。

「嫌な予感がする」

 ナミが一味を代表した。

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