龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

76 / 129
月が導く異世界常識
ダンスパウダーの禁止理由に係る運命力


「攻撃!! ゴムゴムのピストル!!」

「行け!!」

 ウソップの宣言。

「800のダメージ!! 効果発動!! ウソップは戦闘で破壊されない!! ウソップのカウンタースキル!! 必殺腐った卵星!! この効果で、攻撃態勢のゾロは強制的に防御態勢へ!!」

「ウソップ、スゲー!! ゾロが!!」

 龍驤の戦闘処理。ウソップは悔しげにターンエンド。

「ウチのターン!! ドロー!! 速攻スキル!! ナミの怒り!! 相手のバトルフィールドにある“麦わらの一味”カードを、すべて破壊する!!」

「なにィ!?」

「俺も死んだ!! 怖い!!」

 とても楽しそう。ジャッジはチョッパーだが、実はあんまりルールをわかっていない。なので、麦わらの一味デッキに贔屓の引き倒しである。

 結果、なぜかどっちも似たカードプールで戦うことに。

 それを眺めて、一味は微妙な顔である。ルフィも遊びたいので、サンジとナミが二人がかりだが、難しいようだ。とりあえず、デッキを脳筋純粋ビートダウンで構成しようとする。それで成立するようなレアカードはまだ揃っていない。

 よって、お小遣いが減っていく。妖精さんの合法コピーパックを、際限なく剥いている。絶対にぼったくられてる。

 ちなみに、ゾロもである。隠れているつもりで、さっきから一人でカードを並べている。なにか目当てがあるのか。

 新発売、海賊王カードパック、砂漠の玉座編。

 製造と監修はバロックワークス。協賛に麦わらの一味とアラバスタ。そして、海軍。サポートバイ、世界経済新聞。

 とんでもないことを始めている。

 コメントのしようがない。

 龍驤はガラ空きのウソップへ攻撃宣言をし、サンジの二回攻撃でライフを削り取る。ウソップは敗北した。チョッパーが龍驤の腕を掲げて、勝利を祝う。

「どういう意図があるの?」

 遊んでいるだけだと思い込みたかったが、船長の次ぐらいに好奇心の塊が聞いた。加入して間もなく、一味はこのはっちゃけお姉さんへの警戒を新たにしている。思ったより、妖精さん寄り。

 龍驤はちょっと首を傾げて。

「ゲームそのものより、カードがメインやな。トレーディングやコレクションの他、荷物にもならんからお土産にしやすい。キャラクターにかこつけた、情報の拡散。世界は思うより世界を知らんから、プロフィールもステータスも新たな視点になる。特にカードステータスは、懸賞金と階級以外にも評価があると気づかせる目的がある。ゲームは戦術の教導を目指しとる。どんな強いカードも搦め手で攻略出来るとなりゃ、色々と試しはじめる。カードも欲しなるやろな。そうして普及すれば、世界は共通の文化を持つ。対話はしやすくなるはずや。各国、各勢力パクり始めたらこっちのもん。ルールや仕様、常識まで、あまねく広がる。なにより、や」

 龍驤の早口に、ロビン以外、誰もついていけない。わかっていたことなので、龍驤は一番大事な部分だけ、もったいぶる。

「カードとはいえ、白ひげを所有出来るっちゅう誘惑に、アホどもが耐えられると思うか?」

「誰だよ?」

「天竜人」

 とんでもないことをしでかしている。本当にマズいことをしている。もう、なんて言ったらいいかわからない。

 あれが、デュエリストになる。

「素敵ね」

「どこがよ!!」

「怖えよ!!」

 うっとりと返す美女の裏にある真っ黒ななにかを察知して、一応は突っ込んでおいた。

 たぶん、無駄だろう。戦いでは諦めの悪さが持ち味の一味も、人間関係では諦めが肝心と学習した。

「つまり、どういうことだ?」

 頭から煙を噴いている船長が、責任感からか尋ねた。龍驤は調子よく答える。

「お金いっぱい、腹いっぱいや!!」

「最高だな!?」

 船長が許可してしまった。油断した。まあ、大したことではない。あんまり興味もない。

 一味が勢ぞろいしているところからわかるように、暇なのだ。

 珍しく、気持ちのよい天気である。海流にもおかしなところはない。逆に不安になりそうだが、麦わらの一味は度胸が据わっている。

 ここがグランドラインだと忘れていないだろうか。いくらメリーが遊覧船だからと言って、本当に遊覧する海賊はおかしい。

 とりあえず、舵も帆も放りだして進むのやめろ。

 おやつタイムである。

 サンジの腕が鳴る。歌も歌う。踊りだす。

 そして女性陣にだけ、素晴らしく盛り付けた皿を出す。男たちは見た目より量なので、キッチンに積み上げる。

「なんでウチ、こっちなん?」

「文句あんのか?」

「言ってみただけ」

 甲板では美女たちが優雅なティータイムだが、キッチンは戦場だ。気を抜いた者におやつはない。

「少しは味わって食えよ!!」

「美味いぞ!! サンジ!!」

 やはり、チョロい男である。なにも言わないのは、情けである。

 そして、食休み。まったく優雅な一日だ。実践しながら、ルフィやチョッパーにカードゲームを教え込む。

 やってみせ、させてやったら覚えはいいのだ。頑張って説明していた二人が複雑な表情をしている。なんか、思ったより巧みにゲームしている。

 よい天気だ。綿雲がぽつぽつとあって、空が透き通っている。次の島は秋島のようだが、もう島の気候海域に入ったのかも知れない。

 早すぎる。アラバスタを出て、そんなに経っていないのですが。

「なんかいるのか?」

「この辺りは交通量が多い。進路が重なるようなら言う」

 戦闘員の会話をよそに、航海は和やかに進む。

 雨が降ってきた。

「いや、あられか?」

「木片?」

 龍驤が振り仰ぐ。

「直上!! ガレオン船!!」

「はぁッ!?」

 誰も対応出来なかった。いきなり、視界にそれは現れた。全長だけでメリーの五倍はあるような、巨大な船だった。それがすぐ傍らに墜落した。

 水しぶきを浴びて、再起動した。天使でも見たようなやつと、隕石に見舞われたようなやつがいた。ファンタジーとSFがごっちゃになっているが、どっちもフィクションである。

 現実を受け入れるのは厳しく、逃がしてもくれない。

「どっから来た!?」

「空だろ?」

「空だな」

「ちょっと!! 離れないと!!」

「この波で舵が効くかよ!!」

「あら? 人骨」

「死者ァ!? 医者ァ!!」

「いらん、いらん」

「言ってねえで船を守れ!! まだ降ってくるぞ!!」

「横波がッ」

「メリーを信じろ!! 勝手に回る!! 今は頭上に集中せえ!!」

 龍驤はナミを庇い、サンジが飛び上がる。右往左往するチョッパーをロビンが抱きとめ、とにかくみんな働いた。

 とにかく働いたが、なにがなんだかわからない。波も落下物も落ち着いたから、目の前の現実と対峙しなければならない。

 ところが、現実であるかどうかすら曖昧だ。空からガレオン船が降って来たのである。確かに残骸がそこに浮いてはいるが、それがこの青空由来であることが信じられない。

 龍驤がのけ反った。

「どんな偵察したらこれわかる!?」

 キレ散らかす。頭頂でブリッジしている。錯乱してる。

 観測手、また不意討ちを食らう。

 海軍相手にチート全開で空爆してイキってたら、ガレオン船に直上攻撃された。因果応報ではある。

「パンツ見えてんぞ?」

「うん。そうだな。まずは、メリーのチェックだ」 

 みんな前向きになれた。龍驤はスタイリッシュ後ろ向きだ。ロビンがその腹にチョッパーを置いた。チョッパーは困っている。

 甲板が木くずや人骨で散らかっている。一味は龍驤をそっとしておくことにした。

 龍驤は考えている。

「ウソぉっ!? ログポース壊れちゃった!!」

 ナミが叫んだ。一味はチラっとだけ見て、片付けを再開する。ロビンが呆れている。

 航海士への信頼は常識を寄せ付けない。一応、意見しておいた。ナミがかわいそうなので。

「いいえ。空島にログを奪われたのよ」

「空島!?」

「島が浮いてるのか!?」

「正確には海ね」

「海が浮いてんのか!?」

 ルソッチョがはしゃぐ。クルーは距離を取る。

「上に舵をとれ!!」

「上舵いっぱい!!」

「おう、頑張れ」

 誰も船長の言うことを聞かない。三人は舵へ向かって走り出した。たぶん、なんとかするだろう。ウソップがいる。

 気がついたら浮いているかも知れない。

「ログあるってことは、島はあんのやろ? なに? ラピュタ? 古代兵器ちゃうの? 人工物にログ? いや、噂はあるけど、海? ああ、海楼石。液体が石になって、蒸気が液体になんのね、なるほど。死ね」

 龍驤がこの世界を罵り始めた。あまりの口汚さに、ドン引きする。

「つまり、可能性そのものはあるのね」

 常識を疑うのが当たり前になっているというか、クルーがみんな常識外れなので慣れたというか。

 龍驤のせいで一味が狼狽えないのに、龍驤は発狂しているのがなんとも言えない。

「どうする? 空に向かう方法なんて」

「上舵するか?」

 ルソッチョが帰ってきた。

「ダメだ。上舵出来ねえ」

「ちょっと材料が足らねえな」

「材料あったら飛べるん? いや、黙れ。喋るな。仲間と言えど、殺しかねん」

「そこまでか?」

「落ち着けよ、お前」

 海が空に浮いてても落ち着かなきゃいけないらしい。龍驤はヤサグレに磨きをかけた。

 材料集めの傍ら、墜落船を探検する。

「海洋世界で、スペースオペラなことしよる」

 船が墜落するとすれば、普通そうだろう。フィクションだが。

「ファンタジーでもあるでしょ?」

「興味深いテーマね」

 スペースオペラで通じるみたいだ。楽しい会話である。そう思い込む。平和だ。

 会話の傍ら、人骨を復元している。男連中の無邪気さに比べて、なんだろうかこの落差。

 女性は怖い。それにメロリンするコックはもっと怖い。溺れるルフィを置いて、戦利品を山と並べる妖精さんは褒めておく。

 怖い。

「穿頭術の跡ね」

「メインウェポンは槍、弓矢。なるほど。投石みたいなゲンコツが、古代でも降っとったんやな」

「脳腫瘍じゃないのか?」

「脳浮腫かな? 同じに見えて、文化が違うと用途も違うんや。見てみ。頭蓋以外にも、骨折跡がある。文化的に高度であれば病気が敵やが、そうでなければ外傷治療がメインになる」

「病気は正体がわからないから怪しい治療になるけど、外傷はわかりやすいから実践的なんだ」

「キミが習ったんのとは、別体系の医療やな」

「興味深いわ」

 船乗りが脳腫瘍のような専門医療を受けられたとは思えない。ヨーロッパではなく、インカのなにかだろう。美味しそう。

 実は頭のいい麦わらの一味。なんやかんやで、船名まで明らかにした。

「セントブリス。宗教国家か?」

「いいえ、建国の聖人ね」

 空白の百年に関わる、王権の交代。様々な混乱が、余計に過去をわかりにくくしている。

 今だと、名前に聖が付く身分は非常に限られる。歴史の流れを感じる。

「しっかりしろ!! ルフィ!!」

「ぶぼわッ」

 その間、ずっと溺れてた船長。危機感を持て。

 ここはグランドラインだ。

「じゃーん!! 見ろ。空島の地図」

 その船長が一番気にしない。

「お手柄や」

 言いながら、龍驤の目が死んでいく。やっぱり、島ある。

 地図から情報を得るのは龍驤に任せて、今後の方針を話し合う。なんかブツブツ言ってて怖いし。というか、海図とかないので、ログポースが役立たずだとどうにもならないのだが。

「島が近いんじゃないのか?」

「近くないわよ、なに言ってんの?」

 島の気候海域にもいないのに、さっきまでダラダラしてたのか。それが問題であることは龍驤の態度からわかるのだが、それが本当に問題であるかは、龍驤なのでわからない。

「なんか俺たちの常識も崩れてるな」

「いいえ。常識を身につけ始めてるのよ」

 ロビンの太鼓判が押された。彼らは順調に大人への階段を登っている。異世界人が一番の常識人をやってる船。

 常識がない順に、地位が高い。

「は? それだとわたし、下っ端じゃない?」

「いや、お前は文句なくNo.3だよ」

「3の人!!」

 肩を組みに来たツートップを含めて、殴っておいた。常識に囚われまいと頑張るロビンは傍観する。サンジは男の意地と人間の尊厳について考えを巡らせている。

 チョッパーは素直に余計なこと言うのやめよう。

「とりあえず、わかった。さて、どうするか決まった?」

 下っ端が偉そうに参加した。ルフィが命じる。

「メリーを妖精さんで引っ張れ」

「無理、却下」

 船長は落ち込んだ。 

 空を飛ぶことを安易に考えてはいけない。人間は安易に飛んでいるからである。

 たぶんそうだろうという曖昧な理解で、飛行機は空を飛んでいる。気圧の差だけで発生する揚力を利用するわけだが、気圧というのはもう、全部違う。上と下でも、右と左でも風が吹くたび、太陽が当たるたびに変わる。

 気圧が変わると、水の沸点だって変わるのだ。いわば、物理法則が揺らいでしまう。それでは技術を安定的に発揮出来ない。

 人間も気圧の変化で体調を崩す。それがエンジンだとか、飛行機の主翼だとかで起こったら大変だ。しかも、飛行機の速度と重量で、空中に浮いているときに起こるのだ。

 大変だが、人間はそれを無視してとりあえず飛んでみることにした。飛行機はとても怖い乗り物なのである。

 よく事故率の低さが誇らしげに語られるが、不断の努力、その結晶だ。そこには歴史がある。

 グレムリンが妖精さんだと言うのは冤罪だ。

 爆弾ならともかく、メリーや一味を乗せるものではない。

 それでも飛んでみたい船長。ゴムとウソップの組み合わせは、とても危険な香りがする。

 というか、廃材を利用して見る間になにかが形作られていく。ルフィがドレスアップしていく。

 だんだん飛びそうな気がしてきた。ここまで来たら、どうやって止めたらいいか迷う。

 人間の想像と発想は、常識を越える。

 目の前で越えられちゃったら、ちょっとどうしていいかわからない。

 そして、都合よくそれは現れた。

「お客様やで〜」

 一味でそちらを見た。

 笛とシンバルが鳴る。歌も聞こえる。楽しげである。船が近づいている。おそらくだが、海賊船。

 海賊船だろうか。

 旗というか、シンボルまで含めてサルとバナナでしかないのだが。どうアレンジすればクロスボーンがバナナクロスに。

 生えているのは、ヤシだろうか。本当にバナナなのだろうか。

 バナナの木は実が成ると枯れて根元から生え直すのだが、成長に二年ぐらいかかる。

 本物なのか、デコレーションなのか。

 本物だとしたら、どうして船で育てようと思ったのか。

 ミカンを植えている身で恐縮だが、戸惑いが大きい。

 脅迫の象徴を掲げて航海するのもあれだが、登場音楽付きでやってこられてもどうしていいかわからない。

「あれは、なんだ?」

 敵と見なしてよいのだろうか。凄く躊躇われる。

 暇なときはとことん暇なくせに、忙しいときはひっきりなしだ。

 グランドラインなのだから、わからないことだらけなのは仕方ないにしても、あまりに統一性がないのではなかろうか。

 とりあえず、船長たちが大歓迎しててもう、一味は流れに身を任すことに決めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。