ダンスパウダーの禁止理由に係る運命力
「攻撃!! ゴムゴムのピストル!!」
「行け!!」
ウソップの宣言。
「800のダメージ!! 効果発動!! ウソップは戦闘で破壊されない!! ウソップのカウンタースキル!! 必殺腐った卵星!! この効果で、攻撃態勢のゾロは強制的に防御態勢へ!!」
「ウソップ、スゲー!! ゾロが!!」
龍驤の戦闘処理。ウソップは悔しげにターンエンド。
「ウチのターン!! ドロー!! 速攻スキル!! ナミの怒り!! 相手のバトルフィールドにある“麦わらの一味”カードを、すべて破壊する!!」
「なにィ!?」
「俺も死んだ!! 怖い!!」
とても楽しそう。ジャッジはチョッパーだが、実はあんまりルールをわかっていない。なので、麦わらの一味デッキに贔屓の引き倒しである。
結果、なぜかどっちも似たカードプールで戦うことに。
それを眺めて、一味は微妙な顔である。ルフィも遊びたいので、サンジとナミが二人がかりだが、難しいようだ。とりあえず、デッキを脳筋純粋ビートダウンで構成しようとする。それで成立するようなレアカードはまだ揃っていない。
よって、お小遣いが減っていく。妖精さんの合法コピーパックを、際限なく剥いている。絶対にぼったくられてる。
ちなみに、ゾロもである。隠れているつもりで、さっきから一人でカードを並べている。なにか目当てがあるのか。
新発売、海賊王カードパック、砂漠の玉座編。
製造と監修はバロックワークス。協賛に麦わらの一味とアラバスタ。そして、海軍。サポートバイ、世界経済新聞。
とんでもないことを始めている。
コメントのしようがない。
龍驤はガラ空きのウソップへ攻撃宣言をし、サンジの二回攻撃でライフを削り取る。ウソップは敗北した。チョッパーが龍驤の腕を掲げて、勝利を祝う。
「どういう意図があるの?」
遊んでいるだけだと思い込みたかったが、船長の次ぐらいに好奇心の塊が聞いた。加入して間もなく、一味はこのはっちゃけお姉さんへの警戒を新たにしている。思ったより、妖精さん寄り。
龍驤はちょっと首を傾げて。
「ゲームそのものより、カードがメインやな。トレーディングやコレクションの他、荷物にもならんからお土産にしやすい。キャラクターにかこつけた、情報の拡散。世界は思うより世界を知らんから、プロフィールもステータスも新たな視点になる。特にカードステータスは、懸賞金と階級以外にも評価があると気づかせる目的がある。ゲームは戦術の教導を目指しとる。どんな強いカードも搦め手で攻略出来るとなりゃ、色々と試しはじめる。カードも欲しなるやろな。そうして普及すれば、世界は共通の文化を持つ。対話はしやすくなるはずや。各国、各勢力パクり始めたらこっちのもん。ルールや仕様、常識まで、あまねく広がる。なにより、や」
龍驤の早口に、ロビン以外、誰もついていけない。わかっていたことなので、龍驤は一番大事な部分だけ、もったいぶる。
「カードとはいえ、白ひげを所有出来るっちゅう誘惑に、アホどもが耐えられると思うか?」
「誰だよ?」
「天竜人」
とんでもないことをしでかしている。本当にマズいことをしている。もう、なんて言ったらいいかわからない。
あれが、デュエリストになる。
「素敵ね」
「どこがよ!!」
「怖えよ!!」
うっとりと返す美女の裏にある真っ黒ななにかを察知して、一応は突っ込んでおいた。
たぶん、無駄だろう。戦いでは諦めの悪さが持ち味の一味も、人間関係では諦めが肝心と学習した。
「つまり、どういうことだ?」
頭から煙を噴いている船長が、責任感からか尋ねた。龍驤は調子よく答える。
「お金いっぱい、腹いっぱいや!!」
「最高だな!?」
船長が許可してしまった。油断した。まあ、大したことではない。あんまり興味もない。
一味が勢ぞろいしているところからわかるように、暇なのだ。
珍しく、気持ちのよい天気である。海流にもおかしなところはない。逆に不安になりそうだが、麦わらの一味は度胸が据わっている。
ここがグランドラインだと忘れていないだろうか。いくらメリーが遊覧船だからと言って、本当に遊覧する海賊はおかしい。
とりあえず、舵も帆も放りだして進むのやめろ。
おやつタイムである。
サンジの腕が鳴る。歌も歌う。踊りだす。
そして女性陣にだけ、素晴らしく盛り付けた皿を出す。男たちは見た目より量なので、キッチンに積み上げる。
「なんでウチ、こっちなん?」
「文句あんのか?」
「言ってみただけ」
甲板では美女たちが優雅なティータイムだが、キッチンは戦場だ。気を抜いた者におやつはない。
「少しは味わって食えよ!!」
「美味いぞ!! サンジ!!」
やはり、チョロい男である。なにも言わないのは、情けである。
そして、食休み。まったく優雅な一日だ。実践しながら、ルフィやチョッパーにカードゲームを教え込む。
やってみせ、させてやったら覚えはいいのだ。頑張って説明していた二人が複雑な表情をしている。なんか、思ったより巧みにゲームしている。
よい天気だ。綿雲がぽつぽつとあって、空が透き通っている。次の島は秋島のようだが、もう島の気候海域に入ったのかも知れない。
早すぎる。アラバスタを出て、そんなに経っていないのですが。
「なんかいるのか?」
「この辺りは交通量が多い。進路が重なるようなら言う」
戦闘員の会話をよそに、航海は和やかに進む。
雨が降ってきた。
「いや、あられか?」
「木片?」
龍驤が振り仰ぐ。
「直上!! ガレオン船!!」
「はぁッ!?」
誰も対応出来なかった。いきなり、視界にそれは現れた。全長だけでメリーの五倍はあるような、巨大な船だった。それがすぐ傍らに墜落した。
水しぶきを浴びて、再起動した。天使でも見たようなやつと、隕石に見舞われたようなやつがいた。ファンタジーとSFがごっちゃになっているが、どっちもフィクションである。
現実を受け入れるのは厳しく、逃がしてもくれない。
「どっから来た!?」
「空だろ?」
「空だな」
「ちょっと!! 離れないと!!」
「この波で舵が効くかよ!!」
「あら? 人骨」
「死者ァ!? 医者ァ!!」
「いらん、いらん」
「言ってねえで船を守れ!! まだ降ってくるぞ!!」
「横波がッ」
「メリーを信じろ!! 勝手に回る!! 今は頭上に集中せえ!!」
龍驤はナミを庇い、サンジが飛び上がる。右往左往するチョッパーをロビンが抱きとめ、とにかくみんな働いた。
とにかく働いたが、なにがなんだかわからない。波も落下物も落ち着いたから、目の前の現実と対峙しなければならない。
ところが、現実であるかどうかすら曖昧だ。空からガレオン船が降って来たのである。確かに残骸がそこに浮いてはいるが、それがこの青空由来であることが信じられない。
龍驤がのけ反った。
「どんな偵察したらこれわかる!?」
キレ散らかす。頭頂でブリッジしている。錯乱してる。
観測手、また不意討ちを食らう。
海軍相手にチート全開で空爆してイキってたら、ガレオン船に直上攻撃された。因果応報ではある。
「パンツ見えてんぞ?」
「うん。そうだな。まずは、メリーのチェックだ」
みんな前向きになれた。龍驤はスタイリッシュ後ろ向きだ。ロビンがその腹にチョッパーを置いた。チョッパーは困っている。
甲板が木くずや人骨で散らかっている。一味は龍驤をそっとしておくことにした。
龍驤は考えている。
「ウソぉっ!? ログポース壊れちゃった!!」
ナミが叫んだ。一味はチラっとだけ見て、片付けを再開する。ロビンが呆れている。
航海士への信頼は常識を寄せ付けない。一応、意見しておいた。ナミがかわいそうなので。
「いいえ。空島にログを奪われたのよ」
「空島!?」
「島が浮いてるのか!?」
「正確には海ね」
「海が浮いてんのか!?」
ルソッチョがはしゃぐ。クルーは距離を取る。
「上に舵をとれ!!」
「上舵いっぱい!!」
「おう、頑張れ」
誰も船長の言うことを聞かない。三人は舵へ向かって走り出した。たぶん、なんとかするだろう。ウソップがいる。
気がついたら浮いているかも知れない。
「ログあるってことは、島はあんのやろ? なに? ラピュタ? 古代兵器ちゃうの? 人工物にログ? いや、噂はあるけど、海? ああ、海楼石。液体が石になって、蒸気が液体になんのね、なるほど。死ね」
龍驤がこの世界を罵り始めた。あまりの口汚さに、ドン引きする。
「つまり、可能性そのものはあるのね」
常識を疑うのが当たり前になっているというか、クルーがみんな常識外れなので慣れたというか。
龍驤のせいで一味が狼狽えないのに、龍驤は発狂しているのがなんとも言えない。
「どうする? 空に向かう方法なんて」
「上舵するか?」
ルソッチョが帰ってきた。
「ダメだ。上舵出来ねえ」
「ちょっと材料が足らねえな」
「材料あったら飛べるん? いや、黙れ。喋るな。仲間と言えど、殺しかねん」
「そこまでか?」
「落ち着けよ、お前」
海が空に浮いてても落ち着かなきゃいけないらしい。龍驤はヤサグレに磨きをかけた。
材料集めの傍ら、墜落船を探検する。
「海洋世界で、スペースオペラなことしよる」
船が墜落するとすれば、普通そうだろう。フィクションだが。
「ファンタジーでもあるでしょ?」
「興味深いテーマね」
スペースオペラで通じるみたいだ。楽しい会話である。そう思い込む。平和だ。
会話の傍ら、人骨を復元している。男連中の無邪気さに比べて、なんだろうかこの落差。
女性は怖い。それにメロリンするコックはもっと怖い。溺れるルフィを置いて、戦利品を山と並べる妖精さんは褒めておく。
怖い。
「穿頭術の跡ね」
「メインウェポンは槍、弓矢。なるほど。投石みたいなゲンコツが、古代でも降っとったんやな」
「脳腫瘍じゃないのか?」
「脳浮腫かな? 同じに見えて、文化が違うと用途も違うんや。見てみ。頭蓋以外にも、骨折跡がある。文化的に高度であれば病気が敵やが、そうでなければ外傷治療がメインになる」
「病気は正体がわからないから怪しい治療になるけど、外傷はわかりやすいから実践的なんだ」
「キミが習ったんのとは、別体系の医療やな」
「興味深いわ」
船乗りが脳腫瘍のような専門医療を受けられたとは思えない。ヨーロッパではなく、インカのなにかだろう。美味しそう。
実は頭のいい麦わらの一味。なんやかんやで、船名まで明らかにした。
「セントブリス。宗教国家か?」
「いいえ、建国の聖人ね」
空白の百年に関わる、王権の交代。様々な混乱が、余計に過去をわかりにくくしている。
今だと、名前に聖が付く身分は非常に限られる。歴史の流れを感じる。
「しっかりしろ!! ルフィ!!」
「ぶぼわッ」
その間、ずっと溺れてた船長。危機感を持て。
ここはグランドラインだ。
「じゃーん!! 見ろ。空島の地図」
その船長が一番気にしない。
「お手柄や」
言いながら、龍驤の目が死んでいく。やっぱり、島ある。
地図から情報を得るのは龍驤に任せて、今後の方針を話し合う。なんかブツブツ言ってて怖いし。というか、海図とかないので、ログポースが役立たずだとどうにもならないのだが。
「島が近いんじゃないのか?」
「近くないわよ、なに言ってんの?」
島の気候海域にもいないのに、さっきまでダラダラしてたのか。それが問題であることは龍驤の態度からわかるのだが、それが本当に問題であるかは、龍驤なのでわからない。
「なんか俺たちの常識も崩れてるな」
「いいえ。常識を身につけ始めてるのよ」
ロビンの太鼓判が押された。彼らは順調に大人への階段を登っている。異世界人が一番の常識人をやってる船。
常識がない順に、地位が高い。
「は? それだとわたし、下っ端じゃない?」
「いや、お前は文句なくNo.3だよ」
「3の人!!」
肩を組みに来たツートップを含めて、殴っておいた。常識に囚われまいと頑張るロビンは傍観する。サンジは男の意地と人間の尊厳について考えを巡らせている。
チョッパーは素直に余計なこと言うのやめよう。
「とりあえず、わかった。さて、どうするか決まった?」
下っ端が偉そうに参加した。ルフィが命じる。
「メリーを妖精さんで引っ張れ」
「無理、却下」
船長は落ち込んだ。
空を飛ぶことを安易に考えてはいけない。人間は安易に飛んでいるからである。
たぶんそうだろうという曖昧な理解で、飛行機は空を飛んでいる。気圧の差だけで発生する揚力を利用するわけだが、気圧というのはもう、全部違う。上と下でも、右と左でも風が吹くたび、太陽が当たるたびに変わる。
気圧が変わると、水の沸点だって変わるのだ。いわば、物理法則が揺らいでしまう。それでは技術を安定的に発揮出来ない。
人間も気圧の変化で体調を崩す。それがエンジンだとか、飛行機の主翼だとかで起こったら大変だ。しかも、飛行機の速度と重量で、空中に浮いているときに起こるのだ。
大変だが、人間はそれを無視してとりあえず飛んでみることにした。飛行機はとても怖い乗り物なのである。
よく事故率の低さが誇らしげに語られるが、不断の努力、その結晶だ。そこには歴史がある。
グレムリンが妖精さんだと言うのは冤罪だ。
爆弾ならともかく、メリーや一味を乗せるものではない。
それでも飛んでみたい船長。ゴムとウソップの組み合わせは、とても危険な香りがする。
というか、廃材を利用して見る間になにかが形作られていく。ルフィがドレスアップしていく。
だんだん飛びそうな気がしてきた。ここまで来たら、どうやって止めたらいいか迷う。
人間の想像と発想は、常識を越える。
目の前で越えられちゃったら、ちょっとどうしていいかわからない。
そして、都合よくそれは現れた。
「お客様やで〜」
一味でそちらを見た。
笛とシンバルが鳴る。歌も聞こえる。楽しげである。船が近づいている。おそらくだが、海賊船。
海賊船だろうか。
旗というか、シンボルまで含めてサルとバナナでしかないのだが。どうアレンジすればクロスボーンがバナナクロスに。
生えているのは、ヤシだろうか。本当にバナナなのだろうか。
バナナの木は実が成ると枯れて根元から生え直すのだが、成長に二年ぐらいかかる。
本物なのか、デコレーションなのか。
本物だとしたら、どうして船で育てようと思ったのか。
ミカンを植えている身で恐縮だが、戸惑いが大きい。
脅迫の象徴を掲げて航海するのもあれだが、登場音楽付きでやってこられてもどうしていいかわからない。
「あれは、なんだ?」
敵と見なしてよいのだろうか。凄く躊躇われる。
暇なときはとことん暇なくせに、忙しいときはひっきりなしだ。
グランドラインなのだから、わからないことだらけなのは仕方ないにしても、あまりに統一性がないのではなかろうか。
とりあえず、船長たちが大歓迎しててもう、一味は流れに身を任すことに決めた。