ビーチに停泊したメリーの上。その場で一番高い場所に、その男はいた。背中に光背ではなく、なぜか太鼓を背負っている。
龍驤は看破した。こいつ、バカだ。
「え、エネル!?」
「頭が高いぞ。我は神なり」
高いところにわざわざいながら、頭が高いとは実に難癖だ。せめて、そう述べるに相応しい格好をしてもらいたい。
権威は衣の上にまとうものと言うが、その衣を着ていやがらないのだ。ワイパーと同じ半裸である。神の地位にあって、権威が嫌いなのだ。むしろ、バカにしている。その上で利用し、他人に押しつける。神の名を使う。
おそらく、皮肉のつもりなのだろう。
学者か、エンジニアか。スカイピアの統治を見て、立てた推測が正しいのかどうか。
それを確かめようと、龍驤は目を合わせた。
だらしなく蹲踞の姿勢でいる男は、誰も見てはいなかった。
「ほう? この俺を理解する者がいるか」
「出来るわけあるか、この鵺が」
今の言葉は、自分の口から出たのか。わからない。龍驤は混乱している。
「我は神だと、言ったはずだがな?」
「なにが神よ。痛いやつね」
状況がわからない。なぜ、ナミが龍驤の前にいるんだ。ここはどこだ。なにが、どうなって、今なにが起こっている。
「おい、降りろよ」
なにを言っているんだ。龍驤はさらに混乱する。言っていることの意味がわからない。今のは、ルフィが言ったのか。そんなはずはないのに、でも目と耳が龍驤を裏切る。
ルフィは初っ端からキレていた。帆柱に立つ男は不穏な空気を漂わせ、不機嫌に眉を寄せた。わからない。
龍驤はちゃんと立てているのか。
「不敬なり。青海の海賊ごときが。一度、難を逃れた程度で自惚れたか?」
「自惚れてんのはお前だろ?」
エネルはニンマリと笑った。当然だと言いたげでもあり、ルフィを褒めるようでもあった。思い出した。
息を吸わなければ。
ゾロが刀の柄に手をかけているが、様子見をしている。ロビンがメリーの陰に隠れている。
なんでだ。
どうしてみんな、そんな間違ったことを。
そう思うのに、じゃあどうすれば正しいのかが、どこからも出てこない。思い浮かばない。龍驤は混乱している。
龍驤は、自分がどこにいるかわからない。
「なにをしに来た?」
ガン・フォールさんが睨みつける。エネルはちょっと考えた。
「さあな。興味が湧いたのだ。しかし、当然と言えば当然だろう?」
視線が龍驤に向かう。そうか。電装系が死んで、艤装が出ないのか。それよりも、だ。
なんで誰もこいつを殺さない。
こいつ、悪だぞ。
「いいから、降りろ!! メリーは俺たちの船だ!!」
「うるさいな。このボロ船がなんなの、だ?」
エネルが首を傾げた。耳クソをほじりながらよく見たら、なんか妖精さんたちと目が合った。
「なんだ、これは?」
それに関しては、うん。説明が難しい。ルフィも、本気でなんて言ったらいいか悩んでいる。空島の人たちはもちろんのこと。
エネルと妖精さんは、互いに見合っている。妖精さんは猫を掴んでいる。
その顔が愉悦に染まった。
「そうか。なるほど。よほど大事にしているのだな」
「当たり前だ!!」
「気づいていないのか? まあいい。ますます、興味が湧いた」
なんでこの後に及んで動かない。喚くだけの悪ガキじゃないだろう。海賊だろう。
全力で回復に励みながら、龍驤はもどかしさに焦りを募らせる。原因を探る。
しかし、改めて見るまでもなく、メリーはボロボロだ。
猿山連合に世話をしてもらったが、グランドラインを通ってきた傷みはなくならない。特に、メインマスト。
誰かさんが折った。
「お前たちに、逃げろと言っているぞ?」
「誰がだよ?」
笑みが深くなる。嫌な予感しかしない。龍驤が焦る。艤装が辛うじて繋がる。一基だけ狙いを定める。
「指一本、動かすな!!」
「ヤハハ、いいぞ。その悲鳴」
ゾロも動いた。足元にいたロビンが隙を伺うのをやめた。ルフィが飛び出し、龍驤の砲弾は空をきった。
「天罰」
「クソがぁ!!」
「カリ」
エネルは甲板に落ちた。その最中で電熱へとその身を変えた。急激な温度上昇が気圧を変化させ、真空にまで至る。ピシャァンと衝撃波と音が発生した。メリーの中心でだ。
固体となった空気が、斧のように振り下ろされた。
メリーがどうなったかなど、確かめるまでもない。龍驤は吹き飛んだロビンを追って、海雲へ飛び込んだ。
「ちっ、逃げられたか」
「テメェ、覚悟は出来てんだろうな?」
「不遜」
ゾロが、バリっと弾かれた。ルフィはそこにいなかった。メリーの前にいた。半分に折れ、火を吹き、マストをなくしてしまった、麦わらの船の。
仁王立ちしていた。誰もその表情を確かめられなかった。
エネルは嘲笑った。
「ヤハハ!! 気に入ってくれたかな? 私の招待状」
「招待?」
ルフィは振り返らない。
「そうだ。お前たち、黄金を求めて青海からはるばる来たのだろう? ならば、試練を受けることだ」
「なんのことだ?」
「む? 違うのか? まあいい。ここでの用もすんだ。我は旅立つ。その前に、盛大な催し物をと思ってな」
神の疑問は、一味の疑問でもあった。たぶん、ルフィの中で黄金と鐘が一致していない。よくあることである。
「用がすんだだと? 貴様、吾輩の部下たちはどうした!? 生きているのか!?」
言いながら、ガン・フォールさんがホワイトベレー隊を促す。彼らはおっかなびっくり、雲を発生させてメリーの火を消してくれる。
「ああ、ありがとう」
「生きているぞ。この六年、実に役に立ってくれた。そうだ、彼らも参加者としよう。働きの褒美だ」
「なにが褒美……ッ」
「さて、シャンディアの連中はどうするか。いずれにせよ、生き残った者を我が連れて行こう。遥かなる理想郷へ!!」
「どうでもいいよ」
ルフィが振り向いた。どこにも表情がなかった。あのルフィに、なんの感情も浮かんでいなかった。
「む? 貴様、声が」
楽しげに演説していた男から、視線を奪う。
どうせ、神気取りの独善だ。この男への敬意など欠片もない。それでも力は本物だ。相手がロギアだというのは、雰囲気でわかった。スモーカー、エース、クロコダイル。こんなにロギアと戦闘経験のあるルーキーなど、滅多に存在しない。
空島の住民ならなおさらだ。無視など出来ようはずもない。
だが、ルフィはそれを奪ったのだ。
「お前!! 今!! なにをしたぁッ!!」
ビリビリと空気が震えた。一味以外が、一気に呑まれた。ゾロは迷いを捨てた。チョッパーが奮い立つ。ナミは避難ずみ。
「ヤハハ、気持ちのよい遠吠えだ」
なぜか楽しそう。むしろ、名残り惜しそうな顔をした。ルフィとゾロの一撃は空振りに終わった。
パリっとして、エネルは遠くの木の上にいた。逃がすまいと、二人が走った。
「追ってくるがいい。求めるものがあるならな。祈るがいい。神が、叶えてくれるかも知れんぞ?」
その木が消し飛んだ。しかし、逃げられた。雷速には追いつけない。ルフィが視線だけで、エネルの行き先を追った。
ルフィはうめき声をあげ、その場に膝をついた。
「チクショウ!!」
島雲が揺れたかと思うほど、強く拳を叩きつけた。背後には、破壊されたメリーが佇んでいる。
「メリーは生きとる」
ヒドい電気火傷を負い、溺れたロビンをチョッパーに預ける。そして最初に言葉にしたのは、なによりもその一言だった。
「道具を生かすのは人間や。捨てずに大事にしたら、化けへんもんや。諦めるなよ」
「当たり前だ」
「ロビンちゃんは!?」
「今、診察してるから黙れ!!」
「見りゃわかんだろが!! 早くしろよ!!」
サンジとチョッパーが怒鳴り合う。
ウソップがゾロの胸ぐらを掴んだ。
「なにしてたんだ!? なんでお前らがいて!! メリーがこんなんなんだ!?」
「ワリィ」
一方的だった。責めなきゃいけないウソップも苦しそうだ。
「一発ぐらいかましたんやろな?」
「逃げられた」
龍驤がルフィにかました。一味がびっくりした。
「ビビっとんちゃうぞ!? メリーは仲間やないんかい!?」
「仲間に決まってんだろが!!」
「ほな、こうなるのも決まっとったやろが!!」
船首がもげて、竜骨が割れている。あっちこっち焼け焦げて、甲板も手すりもボロボロで、帆は半分ぐらい燃え尽きている。
旗も、シンボルも、全部ぐちゃぐちゃだ。
航海なんか無理に思える。
でも、死んでいないのだ。妖精さんもいる。修理が不可能なわけではない。
なのに、一味がバラバラだ。
「強くなれ言うたやろが!! 傷つくのが嫌なら、キミが守るしかないやろが!! 船長は誰や!?」
「おい、言い過ぎだ」
止めようとしたゾロを、龍驤は睨みつけた。
「キミもや。いつから、ウチに戦いを任せるようになった? やり方、気に入らんのやろうが」
あの場面でどう判断し、どう行動するかは難しかった。明確にロギアの能力者なのだ。スモーカーに手も足も出なかったように、エースと戦うために郊外へ出たように、クロコダイルを前にナミが干からびたように。
数で囲むことも無意味なら、タイマンの状況を作ることも困難だ。
メリーを実質、人質にされ、どう動くべきかなどわからない。
そして、龍驤は動けなかった。故障してたので。
「ウチは悪くない!!」
男連中の額に、青筋が走った。
「そういうこっちゃねえだろ?」
「じゃあ、どういうこっちゃ? 今、キミら、なにをしようとしとった?」
誰かを責めようとしていた。いや、責めていた。それは自分かも知れないし、ルフィやゾロかも知れない。ここにはもう、神はいない。
とにかく、難しかったのだ。難しい状況をどうするのか。正解はない。ならば、やるべきことは限られている。
ごり押しだ。政治の基本である。多数決なぞ、つまり力技に相違ない。神だの王様だのの決断は絶対だ。正解のないことには、そうやって対処してきたのだ。
つまり、初対面で悪党とわかったのなら、その瞬間に殴り飛ばさないと。
「理不尽じゃないか?」
「そうね。でも、常識に囚われてはいけないのよ」
「ロビン!!」
目覚めた途端に、そんな場面と遭遇したロビンは遠い目をしている。なんだろう。
一人ではなくなったけど、なおも道は険しいようである。
「とにかく、しゃーないしゃーない。切り替えてくで」
「え? 今から?」
なんかそんな空気でもない。しかし、さっきまでの険悪な空気でもない。
「しゃーないって、メリーがこんなんなんだぞ!?」
「うん。ウチ、もっとヒドい目にあった船っちゅうか。な?」
「な、じゃねえよ」
メリーは真っ二つで、竜骨も折れてはいるが、繋がってないわけでもない。
燃えているが、燃え尽きたわけもなく、ボロボロだが、粉々でもない。
「ウチは一応、戦争を経験しとるんやぞ?」
「あー、あ?」
ショックだった。いきなり仲間が傷ついた。それも、ゾロや龍驤のような、なんならナミほどの覚悟もないような、遊覧船であるメリーを守れなかった。
サンジとウソップ以外の一味が揃っていた目の前でだ。
メリーの姿は、悲惨の一言である。
一味の中に、後悔が生まれようとしていた。
ちゃんちゃらおかしい。
こんな程度で後悔などしていたら、龍驤はどうすればいい。
しかも、取り返しがつかないわけではない。まだ、生きているのだ。メリーも一味も。
じゃあ、殴りに行けばいい。ここでゴタゴタ抜かさずに、行動したらいい。海賊らしく、こっちが死に絶えて、向こうが降参するまで、やっちまったらいいのだ。
「メリーのことよりやな。キミらが日和ったのが気に入らん」
一味全員を危険に晒して空まで来たくせに、今さら仲間が傷ついたぐらいで怒るとか。龍驤の心はずっと傷ついてるのに。
「ええ?」
不満というよりも、それ気にしてたんだという戸惑いがある。不幸も娯楽じゃなかったか。
「いいんじゃねえか? 復讐ってのは好みじゃねえ」
「そうか? そうだな」
よくわからないが、龍驤が論点を誤魔化そうとしている。それに、ゾロとルフィは乗った。責任も失敗も、行動で取り返せばいい。話をする必要も、聞く必要もない。
どう言っていいのか、サンジはわからない。メリーは大事だが、ただの船でもある。一端の職人として、道具の寿命に立ち会うことには慣れているし、そこまで拘りもない。元の持ち主には会いたいが。
心情としては船長よりだが、その反対側を見る。
「チョッパー、メリーの仇は俺たちで討つぞ。あいつらまるで役に立たねえ」
「ガッテンだ!!」
あっちがメリーにかける情も、わからないではない。
どっちに同意したらいいのか。変な役割だなと思う。しかし、なにをするまでもなく、バラバラな一味がなんだかまとまった。どうしてそうなったのかわからない。緊張感もなければ、緊迫感もない。真剣味はあるのに、どこか間が抜けている。いつもの空気である。
猿よりバカなのが麦わらの一味だ。上手い立ち回りなど、最初から無理だ。立ち止まらないのが良さだ。
「バカが考えるな。それは賢い龍驤ちゃんの仕事や」
「十分バカだ、アホゥ」
わからないではない気もするが、しっくりこないものを感じる。とりあえず、みんな自分だけは違うと思っている。が、自分以外について異論はない。チョッパーが気づいた。
「もしかして、機嫌がいいのか?」
空島に関わってから、とにかくヤサグレるか不機嫌だった印象しかない龍驤である。それがどことなく、ウキウキして見える。
「なんで?」
「やっと仕事の機会やからや」
重症の味方がいるけど、関係ない。龍驤はバケツじゃなきゃダメなところまで逝った。みんな気にしてなかった。平等だ。
冒険をするにあたって、龍驤の偵察能力と分析力は邪魔だ。地球という、実はとんでもなく物騒な世界で蓄積した前例を参照すれば、実は比較的平和なこの異世界で起こる出来事など、チートやカンニングの類にしかならない。
ただ、西暦は二千年あるけど、大海賊時代は二十年しかないだけだ。
そして敵と戦うとき、龍驤の射程は一味と全然マッチしない。
龍驤が水平線の彼方で島を見つけても、誰一人島が見えたぞ、出来ない。
喜び勇んで上陸しても、ノルマンディーにすらならない。龍驤が空爆で舗装してしまうからだ。
住民と仲良くなることもない。クロコダイルすら隠れることを考えたのだ。一味の前に誰も姿は現さない。
よって龍驤は観測手だ。見ているのが仕事である。手を出してはならない。ネタバレをしない。ただヤサグレて、見守るだけである。
ずっと我慢してきたのだ。
「この数日、どんだけウチが気を揉んだか」
それは、ガレオン船が降ってくる前。ゾロが龍驤になにかあるのか尋ねたときから、ずっとそうだった。
ジャヤを舞台に引き起こされた事件。エースの決闘と、ジンベエの裏切り。どうして見捨てられ、放置され、海賊の溜まり場になっている海域での出来事がニュースになっているのか。
そんなもの、龍驤が事前に色々リークしたからに決まっている。海軍本部がアラバスタへ対処する傍ら、色んなのが総出でエースを追ったのだ。
だって、龍驤はそうなるってエースに言ったもん。ルフィにも一味にも説明したもん。エース潰さないと、ルフィが負けるんだもん。
結果、派手に知られた。白ひげの幹部が楽園に現れた。島が半分、焼失した。で、逃げた。蜂の巣をひっくり返したような騒ぎになった。
だから、ジャヤの周辺には海軍がたくさんうろついていた。ジャヤの海賊たちは仕方なく、夜に仕事を回した。
大変なことだが仕方がない。大将にケンカを売っちゃったのだ。さすがにいつまでも誤魔化せるとは思っていない。麦わらは七武海とは違うんだから、証拠なんかいらない。海賊旗だけで充分だ。
あんな世間から隔離された海域にいたら、サクッと囲まれて始末されてしまう。
しかし、希望はあった。
麦わらへの目を逸らし、エースたちに注目を集めれば、ナミの航海術と龍驤の偵察力で、スルリと抜け出せるはずだった。
こちとら異世界転生者と、魔王少女のコンビである。インチキ全開で逃げ切ってやるつもりだった。
ところがあの直上攻撃と、ログの奪取である。海軍の捜索範囲のど真ん中で、一味は足止めを余儀なくされたのだ。
たぶん、スモーカーも一味を追っているはずだから、あのときの龍驤はかなりピリついていた。
どこでなにを話すべきか、どうするべきか、ずっと迷っていたのだ。
でも、空を飛んでしまった。誰もが、渋滞のど真ん中で妄想するような掟破りをした。マッハゴーゴーした。
呆れる他ない。麦わらの一味は、それに一切気づくことなく、窮地を脱して見せた。
こんなん、誰が予想出来る。あまつさえ、どうやって対処する。スモーカーがかわいそうだろうが。
前門の大災害。後門の大艦隊。完全に退路を断たれた状況で、連日の宴に、虫取りに、フライングメリー号だと。
褒めろよ。余計なことを言わず、与えられた職務を忠実に果たした龍驤ちゃんを。そんなことしている場合じゃなかったんだって。
なのに、船長は冒険にウッキウキで龍驤なんか見向きもしない。龍驤だって混ざりたかったのに。
つーか、エースの心配なんかしてらんないんだって。一味の旅が終わるところだったんだから。
終わらねえわ、空に行くわ、で、空は複雑だわ。
どうするんだ。この中東みたいな居住権争い。
あそこはイギリスのせいだけど、こっちは自然災害で、ここは誰の土地なのか戦争をしてるんだぞ。
遡れば紀元前から争ってて、まったく解決しないんだからね。島津なんか目じゃないんだから。ガン・フォールさんみたいに、みんなで使えばよくないなんて、ちっとも通じないんだから。
鐘だけ鳴らして帰りたいんだよ。イギリスをやる根性なんか持ち合わせてないんだから。
「なんやねん、ネタバレはダメってぇ。ウチはちゃんと仕事しとるもん。なのに、キミらに言えんことばっかり抱えてぇ」
「悪かった。悪かったから、な?」
みんなが優しい。龍驤はエグエグ泣いている。泣きマネではあるが、細かいことは黙っている。
龍驤はこの後に及んでも、一味になにも説明はしていない。だから、イギリスがなんなのかまったくわからない。
とにかく、なんかずっと紙一重だったらしい。
今も、なんか紙一重らしい。
「それも終わりや。戦争やで?」
止めようか迷った。でも、メリーがやられちゃったのだ。
常に正しい判断が出来るわけもない。後からならいくらでも最善を探せるが、戦場や立ち合いでは一寸の間合いを探り合うのだ。そのとき、その瞬間。そこに立っていたから出来たことや、出来なかったことがある。それこそ、紙一重で結果が変わることがある。
ならば、意に沿わない結果になることもある。龍驤のように、理想的な結果になっているのに、まったく納得出来ないこともある。
「おかしいやろ?」
「その通りよ」
一味はバーベキューを始めている。焼け焦げたメリーの前で、海老に舌鼓を打っている。
おかしい。
「腹が減っては戦は出来んやろ?」
「それ、文字通り使うやつ初めて見たわ」
実際、何十万人も餓死した戦争の経験者だ。説得力が違う。
重い。
「ほれ、キミらも食べな。これから忙しくなるで」
ガン・フォールさんと、パガヤ親子と、ホワイトベレーのみなさんが、串を持たされて困っている。
一味と空島の住民は、微妙な空気の中で、身を寄せ合って食事を楽しんだ。一味だけに関して言えば、完全に切り替えて、好きなことをしている。
なんかさっき、ドヤ顔で一味を招待したり、催し物のお知らせをしてくれた道化がいた気がする。
静電気がパリパリしている。誰とは言わないが、たぶん、不機嫌なんだろう。いいことを思いついたという顔で、龍驤が波打ち際へ走る。
「焼いて?」
今度の天罰は雷鳴が轟いた。避雷針にした串を見ると、生焼けで萎えた。龍驤はまた燃えている。妖精さんが消火活動に走っている。電装系なんか、とっくにバイパスしている。
空島の面々は、対応に困っている。
「なんや、雑魚が」
龍驤の口から、なんのてらいもない侮蔑の言葉が漏れた。エースならきっちり焼いている。スモーカーは美味しく燻している。クロコダイルはジャーキーにする。
ロギアってそういうものだろうか。
大将なら龍驤ごと消し飛ばしている。
再び、天罰が落ちようとしていた。気合いが入っているのか、上空でバリバリした。タメを作っている。
「うっさいわね!! 食事中よ!!」
ナミが振り上げたクリマタクトに従って、帰還雷撃が空へと打ち上がった。雷撃が雷撃を貫いた。
静電気は止んだ。
ガン・フォールさんたちは、距離や立場を越えて、空という括りで一つの心境を共有した。
青海って怖い。