龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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ルールとか運命とか使命とか定めってやつ

「今晩はみんなでキャンプしてー、明日は宝探しやから、手伝うのは日暮れまでな」

「ホントか!?」

 チョッパーが喜んでいる。仲間の下に戻れると知って安堵している。

 怖い人たちに囲まれて、武器を突きつけられていたのだから仕方がない。もっと、もっとこの小さな医者を気遣ってやるべきだ。

 一応、肩車してルフィやアイサと同じ扱いをしている。雲の海を、シャンディアと共に進軍する。みんな気合いがみなぎっているのか、飛んだり跳ねたりとウェイバーの腕を競う。

 だが、艦娘の龍驤が負けるはずはない。ドヤ顔の龍驤。チョッパーは楽しんでいる。

「ふざけてるな」

「本気でやって欲しい?」

 ワイパーは後悔した。誘い受けという概念など知らないが、詐欺の手口であることは理解した。

 言葉はいかに武器たり得るかを学習した。

 今、龍驤はやっと万全である。

 飛行機の改修を優先したが、艤装の改修も終わった。なにを再現し、どう実現するのか、ルールは定まった。妖精さん由来の技術である。仕組みなどわからないが、こんなもの撃って当たればいいのだ。今さらこの世界の物理法則に合わせて、スペックを弄る必要などない。

 そもそも、提督や問題を起こす艦娘へ、艤装を用いて制裁することもあるのだ。不思議生物であることは、異世界だろうとなに一つ変わらない。龍驤は変わらない。

 ならば、覇気にだって対応してみせる。

「アイサ。敵の位置は?」

『わかんないよ!! だいたい、この辺!?』

『岸壁からかなり奥まった位置だ。およそ、4~500メートルと言ったところか』

『左右いっぱいに広がってる!!』

「ラジャー」

 アッパーヤードのジャングルがデカ過ぎて、上空からはなんにも見えなかったり。とことん、仕事のし難い環境だ。

 かつて、砲兵は神と呼ばれた。現代においてその仕事が航空機に移行されつつあっても、なお信仰は廃れない。

 しかし、制空権が戦略を左右しても、砲で左右出来るのは戦場だけである。空母が残り、戦艦が姿を消したように、砲単体ではなかなか勝利を決定するところまではいけない。

 なぜなら、上から落ちてくる砲弾や爆弾というのは、実は点でしか攻撃出来ないからだ。面制圧とか嘘です。

 核ですら小さければ、戦術と呼ばれてしまう。ヨーロッパ東部をあれだけ耕して泥沼に変えても異常なし。戦線は一歩も動かない。

 当たらないからだ。塹壕を掘って、地面に伏せて、それで制圧だと満足するしかないからだ。

 砲の役割とは、敵にストレスを与えることである。航空機を投入しても、嫌がらせにしかならない。

 これを一変させる方法がある。偵察だ。砲兵はスナイパーより熱心に的を狙うし、龍驤ほどでなくとも、航空隊は日々をそのために費やす。

 敵の居場所さえわかれば、ピンポイントで撃ち込んでやると、彼らは手ぐすねを引いて待っているのだ。

 でも、ジャングルで見えない。下手したら、遺跡を傷つける。

 困っていたところにアイサという生体レーダーを見つけた。龍驤にも運が向いてきた。

 ガン・フォールさんと合わせて得た、優秀な航空観測員だ。こんな便利なものを今まで活用してなかったなんて信じられない。

「アイサは子供だよ」

「ウチが子供に見えんとでも?」

 小さいことは不便だが、使えないこともない。いくらでも利用する。実際、0歳児だし嘘ではない。

 アイサならガン・フォールさんやピエールの邪魔にはならない。特にピエールはゾオン系。普通の馬や鳥より、ずっと強い。

 三人乗っても大丈夫だったのを、龍驤は見逃していない。

「初撃は貰う。以降は好きにせい。負傷者はアイサたちが回収し、ウチとチョッパーのところまで届ける。作戦はそれだけ。質問は?」

「それで神が落ちるのか?」

「落ちんよ?」

 ワイパー以下、みなさんの額に血管が走る。

「いい加減にッ!!」

「400年前、シャンディアを救ったのは?」

 まだ龍驤に抗おうなどとはおこがましい。もう弱みは握っているのだ。ワイパーは黙る。龍驤は停止する。

「歴史は繰り返す。見とれ。うちの船医も大したもんやぞ?」

「任せろー」

 バリバリと静電気が鳴る。かわいい。エネルも手を出しかねているようだ。本当にバカだ。誰にケンカを売ったのか、もう忘れている。お前が見るべきはこっちではない。

 仕切り直しは終わったのだ。早く準備しないと、英雄の戦術がそのふてぶてしい顔に突き刺さるぞ。

「艤装展開。諸元入力。観測射撃開始」

 腰の艤装が火を吹く。出撃したばかりだ。音からして大砲であることはわかったが、アッパーヤードは遠い。常識が崩れていく。

「弾着、今」

『ちょっと手前!!』

「修正射開始。発射」

 再び、一発の大砲。ジャングルの木々に遮られたか、着弾は見えない。というか、届いているとは信じられない。

 だが、木の一本から鳥の群れが飛び立つ。得体の知れない恐怖が込み上げる。

『いいよ!! ど真ん中!!』

「アイサ、怖いで。耳を塞げ。効力射開始」

『塞いだってダメなんだよ……』

「ガン・フォールさん」

『了解。一度下がる』

「発射」

 一発でも重い発射音。高角砲4基八門の一斉砲撃は、場を圧して余りある。だが、それほどの砲撃でも、弾が見えない。

 小さいからではない。ピストルの弾すら見切るのがこの世界だ。だから、銃口にフラッシュを付ける。

「バカな」

「弾着、今」

 大量の鳥が飛び立った。ここからでも地響きが聞こえた。だが、着弾の痕跡は欠片も見えない。

「まさか、貫いてるってのか? アッパーヤードの樹冠を!?」

 巨大過ぎる木が、森が、ジャングルが砲撃を防いでしまう。ダイアル資源が乏しいがために銃やバズーカを使用しても、シャンディアが射程で優位を得にくかった事情がそこにはある。

 それをねじ伏せた。いや、ねじ伏せ続ける。いくらか修正を続けながら、舐めるように着弾点を移動させる。

「まだまだ、未熟やな。トドメまでは刺せん」

 時間にして、一分も経っただろうか。龍驤は砲撃をやめた。なにが起こったのかもわからないし、どうなったのかもわからない。

 それでも、なにか常軌を逸した出来事があったのだと、理解は出来た。

「お前は、なんなんだ?」

「龍驤。異世界生まれの海賊や」

「うちの観測手だぞ!!」

 観測手の定義が崩れる。龍驤は進む。

「ラキさんやっけ? アイサのフォロー行ったって。その後は任せるが、出来りゃそのまま負傷者の護衛に回って欲しい」

「あ、ああ。わかったよ」

 戸惑いながら、シャンディアは続く。いつの間にか、先頭は龍驤になっていた。チョッパーは提督気分である。

「さあ、行け、蛮族ども。理性も知恵も、今はいらん。ノーランドに出会う前のように狂え」

「言われるまでもない」

 ワイパーが意地を見せた。龍驤を追い抜き、加速する。置いていく。

 当然、シャンディアの戦士が従うのは、我らが英雄の子孫だ。

 余所者などに仕切らせてたまるものか。ヴァースが誰のものか。神でなく、スカイピアでもない。シャンディアを取り戻すのは、シャンドラの末裔である自分たちだ。

 それでも。

「ブラハム!!」

「オウ!!」

「カマキリ!!」

「ん~~ッ!!」

「ゲンボウ!!」

「ウィィ!!」

「ラキ!!」

「ああ!!」

「無事、帰れ!!」

 ワイパーが優先するのはそれなのだ。だから、この男についていくのだ。

「了解!!」

「ここで別れる!! 大戦士カルガラと、大恩あるノーランドに誓い!!」

 バズーカのソケットを交換する。もはや、出し惜しみはしない。必ず、勝利を我が手に。

「シャンドラの灯をともせェッ!!」

 すべてを焼き尽くす焼却の炎が横薙ぎにされる。可燃性ガスの噴出による、青白い閃光。これを空で集めることの意味と執念が、一体どれほどのものか。

 苦し紛れに水際で食い止めようとした神兵が、熱と光の中に消える。

 火蓋は落ちた。あとは燃えて、弾けて、飛び出すだけだ。

 飛び出した弾の行方は、敵の心臓。決して戻らぬその定め。

「いやいや、キミも帰るんやで、ワイパー。なぁ?」

「大丈夫だ!! 死んでなきゃ何度でも連れ戻すぞ!! 俺は医者だからな!!」

 楽しそうに宣言するチョッパー。順調に染まっているようで、なによりである。

 天国に一番近い島は、しかしどこよりも遠く、遥かなる地獄。ならばその道は行きも帰りも親切に、善意で舗装されるべきだ。

 それまでこれは彼らの戦いだ。任せておけばいいだろう。

 龍驤は試練に挑む仲間たちに目を向けた。ちょうど、ジャングルの切れ目。ドクロの飾られた平原に差し掛かったところだ。

 ガン・フォールさん曰く、神官のナワバリ。アッパーヤードにおける、正規の防衛拠点。

 誰もいない。暇そうに通り過ぎる仲間たち。

「ええ?」

 想定外だ。

 なにやってんだ、神。

 

 

「なにをされた!?」

 攻撃されて、浮かぶ疑問だろうか。脳みそより深刻なものを揺さぶられて、神兵長ヤマは冷静さを失った。

「情けない。これしきの砲撃で」

「言っている場合か!? この有り様でシャンディアをどう防ぐのだ!? これでは、下手に引きずり込んでも支えられぬ!!」

 上陸直後の神兵は囮だ。一当てで下がるように伝えてある。

 それを吸収すると同時に、本隊と神官が強襲をかける。

 勢いに乗ったシャンディアは、隊列を崩しているはずだ。そこを襲って消耗を強いる算段だったのだが、先に本隊を潰された。

 前線が予定通り引いて来ても、勢いを止める部隊は存在しない。となれば、シャンディアは勢いのまま内陸へ向かうはずだ。

 内陸はジャングルに加えて、入り組んだミルキーロードであちこちが分断されている。

 乱戦になれば、数の優位を生かせず、むしろ各個撃破されてしまう。引きずり込めとは言われたが、このままではマズい状況だ。

 待ち構えるというのは不利なのだ。準備万端、カウンターを仕掛けられると思うだろうが、相手は質量、重力加速度、慣性という、宇宙で最も強い力を味方につけている。

 矛盾の答えは、矛である。今からでは、運動戦に切り替えられない。

「ならば、指を咥えて見ていろ」

「ゴッドの許可は得ているのだ」

「我らが求道」

「巻き込まれても、命の保証はしない」

「ンンンっ!!」

 うっかり。

 こんな感じで、神の陣営は連携が取れていない。ヤマは屈辱に歯噛みする。

「仕方ない。無事な者の半分は、神官どもの援護だ。半分は負傷者を集めよ。一旦、後方へ下がる」

「メェ~」

 ヤマも下がる。当然だ。

「やっと、やっと私の天下なのだ」

 ここで失態を演じるわけにはいかない。もう少し。あと一歩のところまで来たのだ。

「過去になにがあろうとも、私の輝かしい未来のために」

 死ね。なにもかも。そのためなら、神をも利用する。

 

 

 わかってはいたことだが、改めてこの目にするのでは感慨が違う。真っ二つに割れた民家。一万メートルも下の地上で見た、どこか滑稽だったはずの風景。

「本当にあったんだ」

「階段は外付けなのね。これは文化的なものかしら? それともこの建物の役割?」

 ロビンはさっそく、調査を始めている。楽しそうだ。

 よほど欠陥住宅でない限り、生活の場の移動はシームレスに行われるよう設計される。仮にも400年を耐えた建築に、技術的な問題があったとは思えない。

 二階というものになにか意味があったのか。もしくは、一階と二階で役割が違ったのか。

「四方に空いた窓。大きめのバルコニーに、小さな部屋。見張り小屋かしら? だとしたら、集落の外れにあるのも頷ける」

 集落の中心へ向けた階段は、増援が安全に高所を確保するためだろう。しかし、だとしたらバルコニーの中心にある部屋は余計な気がする。身を隠すにしても、その位置では取りつかれたら無力だ。戦士の一族が、不合理な防衛設備など作るだろうか。

「なんか、灯台の先っぽみたい」

「なるほど」

 言われて見れば、二階の高さはジャヤの樹冠の高さよりも低い。木々の上に頭を出しても見えないのはわかるが、より中途半端な印象が強い。石材建築が出来るなら、低くても防壁の方が手間もなく、効果も高い。ただ、ジャングルの特徴として、鬱蒼と茂る木の葉の下は、思いがけないほどスカスカだ。

 ジャングルで迷う誰かを、集落へ導くための灯りだったのかも知れない。そのために毎夜火を灯す、ある種幻想的な施設なのかも知れない。

「不思議ね。排除を叫ぶ民族の文化に、こんな優しい光があるなんて」

「これは、シャンディアの方々の遺跡なのですか?」

 コニスが不思議そうに見上げる。これと同じものが地上にあると言われても、実感がわかない。

 だが、歴史は教えている。彼らがそこから来たということを。

「そうよ。深い歴史があるの」

「知っています。知ってはいたのに」

 シャンディアの主張はわかっているのに、ヴァースは自分たちのものだという感覚がある。コニスはそのような自分の心を初めて意識した。同時に、シャンディアの主張が真実であることも目の当たりにしてしまった。

 突然現れたはずの彼らは、確かにずっとここに住んでいた。

「私たちは、どうすればいいんでしょう」

「ま、神とやらを追い出してから考えたらいいんじゃない?」

「でも、それは恐れ多いことです」

「あら? 歴史や事実から目を背けることはそうじゃないの?」

 なんだろう。優しそうな笑顔なのに、ちょっと怖い。

「まあ、信じることは楽よね」

 ナミは鼻息荒く歩み出す。なにせ、この奥には黄金がある。見たこともないような巨大なジャングルで、優しい巨人の代わりにいけ好かない神のいる島だが、大丈夫だ。

「仲間や友達ってそういうもんでしょ?」

 その屈託のない笑顔が羨ましいと思った。船が壊れてしまったことはいたたまれない。ケンカは怖かった。

 だが、あんなめちゃくちゃなわがままや感情を気兼ねなくぶつけ合える誰かといたら、きっと楽しいと思う。

 彼女らと友達になりたいが、彼らは青海の人間だ。これからなにもかも上手くいっても、みんな雲の下へ帰ってしまう。ほんの数日の出会いだ。

 それでも勇気を出して言ってみた。

「私にも出来るでしょうか? あ、あなたたちだけじゃなく、アイサさんや、そのシャンディアの方々と」

「さあ? とりあえず、時間はあるわ」

 こんなよい子なのに。

 ナミとロビンはなにも聞かず、この空で一人ぼっちの女の子と、ガールズトークを楽しんだ。

 心の中で、神とやらに蹴りをいれながら。

 

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