バカ話ばかりではなく、情報共有も、ネタバレにならない範囲でやっていく。情報の取捨選択は、もはや習い性である。軍人として、当たり前のことだ。
言うほど負担でもない。ほとんど愚痴だし。
「まったく。この世界、一度や二度やない滅んどるやろ」
「そうね。まずはどうしてそう思ったのか。順序立てて教えてくれないかしら?」
だが、そんなことを愚痴感覚で言われても困るのだ。ロビンはニッコリと聞いた。圧がある。
超古代文明という考え方は、龍驤の前世にもある。オーパーツと呼ばれる出土品が見つかるたび、考古学者はロマンに浸る。
実際は、ただただ職人の変態的技術と執拗な拘りの結果なのだが、否定しても否定してもロマンを諦めない。
遺伝子が恐竜的進化を遂げるように、技術もまた、ときに暴走して場違いな適応を示すのだ。変態よりも超文明。確かに、と思わないでもない。
我々の夢とロマンを否定する根拠は、単純なものである。
文明の発展には資源が必要だ。とりわけ、エネルギー。
鉄を手に入れた人類が森を切り拓いて砂漠を生み出したように、内燃機関を手に入れた人類は化石燃料をいつか掘り尽くす。
何十年も前から言われていることだ。もはや、聞き飽きた警鐘だろうが、実際に石油も石炭も枯れている。
石油なんて、掘らなくてもそのへんから湧き出ていたものだ。石炭と石ころに、区別なんてなかった。軍艦島は閉鎖した。
空を目指す少年少女のお話は、寂れた炭鉱から始まるのだ。
もう化石燃料は、かつてのように簡単に手に入るものではなくなっている。
仕方がないので、より深く、精製に手間のかかる、品質の悪いものへと、どんどん移行しているに過ぎない。
もしもかつてに現代を超える文明があったなら、エネルギーが残っているはずがないのだ。彼らが我々のように掘り尽くしているはずだから。
大戦の原因にもならない。どれだけ探しても、植民地を増やしても、そもそもの文明を発達させなければ、その文明を発展させるエネルギーが手に入らないのだ。
この世界のように。
「技術はある。塗料も、セロハンも、ビニールも」
石油由来の化学製品だが、石油はどこだ。樹脂などで代替しているようだが、それは異世界だからなのか、古代人の知恵や工夫なのか。
「フライングメリーを見りゃ、飛行機だって作れる。エースの船には、ジェットエンジンのノズル。実の能力や流動性を利用した、タービン。なんで人力やねん。どこ行ったエンジン」
「海列車は?」
「ウチに言わせりゃ、すごいのは車体やなく、線路なんやがな。キミらの常識やと違うわけやん?」
「そう、ね。そうかも知れないわ」
なんで海に浮く軌道を張れて、走れるんだか。すごーいですませていいことじゃない。
もちろん、すごくないわけではないのだが、資源不足に悩むウォーターセブンを救ったのは、その牽引力と高いエネルギー効率である。
この世界で、初めて蒸気機関を実用化させた。線路はおまけ。
龍驤に言わせれば蒸気機関こそ出来て当然だが、この世界における内燃機関のハードルは、思いのほか高い。
技術的に実現することと、実用化の間には大きな隔たりがある。電池の発明は紀元前のイラクだが、実用化は明治日本だ。原型をヨーロッパに求めても、二十年弱の年月を経ている。
ガソリン車を作れても、燃料が足りなくて、ハイブリッド車でなければ実用に耐えないとなれば不便だろう。開発も難航するに違いない。普及なんか、もちろんしない。
この高効率機関の開発によって、世にパドルシップが生まれた。人力なら、猿でもやっていることである。
「どう思う?」
「監視は、されて当然でしょうね」
海列車のおかげで、あの海域のどの島に辿り着いても、問題なくウォーターセブンを目指せる。ログを辿る麦わらにとってはありがたい。
造船の盛んな島。メリーの新造のため、あらかじめ目を付けている島だ。
だが、政府のお膝元過ぎてどうかとも思う。割りに政府との関係が浅くて、狙い目でもある。
船の建造なんか、目立たないわけがないのだ。そこを上手いことして、海賊に便宜を図ってくれる職人は貴重である。多少の地理的不利があっても、他に候補があるわけでもない。
龍驤に、経験がないわけでもない。
だがまあ、絶対になんかややこしいと思う。
色々画策はしたが、どこまで有効か。追いかけられるにしろ、待ち受けられるにしろ、一時的に足がなくなるのは確実なのだ。
「覚悟しとき。いよいよ世界の敵やわ」
「これでも、悪魔の子よ?」
「呼ばれるんと、成るんでは違うよ。だから、覚悟しとき」
世間の好き勝手に晒され、翻弄されるのではない。自分で名乗って、そのように生きて、それを成すのだ。
もう言い訳は出来ない。自分の意志なのだから。
「今さらだわ。二十年、一人だったのよ」
「だからやって。もうちゃうねんから」
「あら? あなたこそ、ちゃんと人を頼れるの?」
「甘えるんは得意」
お互いに、心構えが必要なようである。
「それで?」
「技術体系が二つある気がする。なんちゅうか、同じことをやろうとしとんのに、まったく別の手段を使っとる」
エネルギーを枯渇させた機械文明。これは馴染み深い。龍驤でもわかる。多少、SFに首を突っ込んでも、なんとかなる。
枯渇したのだから、滅んだのだろう。
枯渇したエネルギーや資源を、生物によって代替した、バイオ文明。多様で便利で、下手したら過剰な、樹脂や木材。不思議生物。鉄や石油の便利さを知っている匂いがする。独自性や奇抜さがない。
どうも、ダイアルとか電伝虫とか、頑張って機械を再現したような気配がある。実際、これらは機械や家具などに組み込んで、電源と入出力装置を兼ねる。単体でお前らどう生きるんだって思う。
カタツムリ風情がなにをそう、世界を股にかけたコミュニケーションなどせねばならないのか。雲の浅瀬で、どこから熱や炎や風を受け取って、誰に向けるのか。
貝殻などの構造が、偶然そうなっているとでも言いたいのか。
龍驤にはわからないが、妖精さんを生み出したのもこの宇宙だと言われると、なんとも反論のしようがない。
でも、この都合の良さは疑ってもいいと思う。
「問題は、や。空白の百年で勝ったの、たぶん、機械文明やねん」
でなければこれだけ、あるだけ無駄、な技術が、世界のあっちこっちに転がっているはずがない。なんで、無駄なのに人力で解決するのか。実用化するのか。
大変だっつったろうが。
逆に、便利な動植物を生み出す方法が、どこにも転がっていない。巨木だの悪魔の実だの、利用方法すら微妙にわからない。
例えばルフィのあれって、本当にゴムなのか。最初に出会ったの能力者がバギーだったので気づくのが遅れたが、能力による変化は、基本的に可逆的なものだ。
ずっとゴムとか、本人も知らないうちにバラバラになるとか、能力としておかしい。
だってあの時点のルフィどころか、ナミにさえ殴られた男だ。流動性のない身体で、ゾロの斬撃をクロコダイルよろしく、能力を駆使して避けられるのか。しかも、手応え付きで。
いくらゾロが間抜けでも、避けられて空振った感覚があれば、見た目がバラバラだって油断はしない。
あの子、実は結構好奇心強くて、ちょっとオモシロいものを見つけると、戦場でも目移りしちゃうクセがある。で、傷を増やす。
だからこそ、そうした不審感をおざなりにしない。ゾロが人を斬った感覚を間違えるわけがない。
じゃあ、あいつ斬れないんだわ。本人の意志に関わらず。
こうした、悪魔の実による不可逆で意図的でない変化で似たような例は、チョッパーと、アラバスタで見た犬銃ラッシーだ。
要はゾオン系である。元はトナカイなくせに、実は頭脳系集団である麦わらの一味において、チョッパーはトップクラスの頭脳を持っている。龍驤は人の弱みを握るのは得意だが、物理的、構造的弱点を見破る能力では、チョッパーに一歩譲るところがある。
戦術とか叩き込んだら陥陣営とか言われそうで、ちょっとドキドキしている。もはやチョッパーは、知恵を捨てて獣に戻ることは出来ない。
で、ラッシーは銃なのに、もはや犬なんだよね。銃にもなれるし、銃なんだけど、犬なんだよ。
とても、不思議ではあった。
親衛隊のチャカとペルも、ぱっと見、そういうところはなかったが、そういうものだでそうなった。
意味がわからなくて、クロコダイルがキレてた。おかげで龍驤はヤサグレずにすんだ。指さして笑った。
「なんで? エネルギーどっから?」
「悪魔の実じゃないの?」
ゾオンへの疑問は置いといて、エネルギーを失ったはずの機械文明がどうして復権したのか。
ロビンの推測は筋として妥当なものだが、龍驤はしっくりこない。政府が悪魔の実を収集しているという感覚がない。
天竜人が道楽をしているのは知っているが、かつてこの世界の大戦を決定付けたものへの態度ではない。
龍驤の経験だと、それはみなで奪い合うべき代物なのだ。
「そもそも当事者は誰で、なにを隠したいんや?」
はっきり言って、龍驤にはヒントが多すぎて隠したいものがちっともわからない。常識なんてところに答えがあるせいか、異世界人としては常時、ネタバレをされている感覚である。
だったら龍驤でなくたって、つまり異世界の知識や常識がなくたって、一世代もあれば空白の百年の謎ぐらい簡単に解ける。
ロビンならもっと早いだろう。今でさえ、時系列だとか細かいことはわからなくても、こんなもんかなという仮説はいくらでも立てられる。よって、航海日誌が無限に厚くなる。
なんでアメリカにケンカを売ったんだとか、やった本人でさえミステリーなのだ。よくわからないまま事態が動いていくというのは、歴史の必然である。
「世界政府自体が、なにも把握していない?」
「誰が自分のやっとることに確信なんか持てんねん。神にでもなったつもりか」
過去と未来は、実は等価である。未来がわからないように、過去もわからない。資料だとか遺跡だとか、なんならカメラ映像でもいい。
証拠を元にした、蓋然性の高い推測。これが歴史の正体である。違いがあるとすれば、過去の映像を記録する技術はあるが、未来を映す技術はまだ実用化していないというだけだ。
未来日記はなんの根拠もない妄想だけど、夏休みの日記だって真面目に毎日書いていない。重要なのは、日にちと天気の整合性である。
で、だ。海賊には懸賞金をかけるのに、ポーネグリフにはかけない。どうせ読めないんだからいいじゃないか。なにが問題だ。回収しちゃえば、二度と人目に触れることもあるまい。
歴史問題は終結だ。なぜか、しない。
他にもアラバスタの遺跡とか文献とかも放置するし、シャンドラの灯って遺跡すらこうして残っている。
灯りって目立つことが役割なのだ。そう名乗る限りは、パリぐらいに有名だったはずなのだ。モンブラン一族がわからないのはまだしも、歴史を知っているなら真っ先に潰せよ。
なぜ潰さない。潰せないのか。潰したくないのか。潰す能力もないのか。
なかったら、なんで世界政府として君臨出来るんだ。
つまり、知らないかどうでもいい。
龍驤のドヤ顔は、ロビンですらイラッとした。大人の仮面を剥がされかけた。
「捕まったオハラが吐かされたのは、仲間の居場所やって? 遺跡の在り処じゃなく?」
「吐いてないわよ」
それはそれとして。
なんでオハラは潰した。そんなもん、第二、第三の学者が出るぞ。それは自然現象だ。
島津は300年耐えたし、中国は何度騎馬民族に侵略されても、漢を取り戻した。地動説は生き残って正しさを証明し、社会主義はしぶとい。
口伝でしかないケルト。異端とされたゾロアスターに、ギリシャに、メソポタミア。スペインに滅ぼされたインカもアステカも。
みんな、なんか知らないけど極東で女体化している。
好奇心など滅びない。過去を記録し、未来へ進む生命のアルゴリズムを、誰も止められない。
「結論として、失ったんは空白の百年でも、キミらでもない。世界政府の方が、エネルギー源か、それを生み出す技術、もしくは悪魔の実を失っとる」
古代兵器だの、空軍だの、あるのかないのかわからない。なら、その状態が正しいのだ。世界政府は、世界を支配する力が、あるようでない。
だから800年君臨して、今、大海賊時代という形で混乱している。空白の百年は、それを取り戻し、また独占するための努力だ。
自分たちだけが知りたい。それがなんなのかわからないけども。
このわがままのせいで、なんかよくわからない、一貫性も合理性もない行動になる。
おそらく、明日のエネルが参考になるだろう。神を名乗る実験体として、大いに活躍して欲しい。へけっ。
「潰したいんは、人や。反逆者、というよりなんやろな。たぶん、キミとかルフィとか、ロジャーみたいなやつなんやろけど」
でも、白ひげじゃない。他の四皇や七武海でもない。いまいち、実像がわからない。
「“D”」
龍驤は首を傾げたが、海軍の英雄が関わってきそうな気配を感じて、スルーした。
怖い。
「そんなわけで、クロコダイルと魚人島巻き込んで、クリケットさんたちにロマンを追ってもらおうと思う」
「ああ。あなたって、本当に」
バカじゃなかろうか。バカなんだろうな。
表向き、考古学とはなんの関係もない、遺跡発掘調査隊。
遺跡とはシャンドラやアラバスタのように、守護者が存在するものではない。
カウボーイハットを被って秘密結社と陰謀を巡らし、罠や謎かけに挑むものではない。
地図や資料をいじくり回して推測を重ね、川を越え、木々をかき分け、地面を掘り返して見つけ出すものだ。
遺跡は埋もれている。土に、灰に、ジャングルに、あるいは水底に。
文明なんぞに、自然を予測出来るわけがない。遺跡なんぞ、自然に飲み込まれて、覆い隠されて当然だ。どれだけ進歩しても、神になれるわけではない。
そんな常識を、考古学者のロビンが知らない。
「七武海。大いに利用してやろうやないか」
せっかく、海賊を哲学にしたのにねえ。
オハラのような探究者たちを。クロコダイルのような交易者たちを。バロックワークスのような開拓者たちを。
ルフィのような冒険家を。ゾロのような求道家を。ナミのような航海士を。ウソップのような発明家を。コックも医者も、なにもかもを。
まとめて全部海賊ってことにして、人類の進歩を止めるか、独占したかったのにねえ。
ずうっと、俺の時代だをしたかったんだろうけども、バカで中途半端なんだから。
残念。新時代だ。もう、限界だ。足音どころか、姿まで見えた。
オハラをテロリストに。モンブラン・ノーランドをうそつきにした。常識を書き換えた。でも、無駄だ。
「思い知らせてやるわ」
「あ、そういうのはちょっと」
龍驤はしょんぼりした。