龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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ノー覚醒者、プリーズ解説者

 状況は地獄だった。前日は龍驤の砲撃によって戦場がズレて、自慢の試練を披露する機会がなかった。

 自分たちの被害を尻目に、シャンディアなど大したことはないと悦に浸っていた。今度こそ慎重に侵攻ルートをマントラにて見極め、神の手を煩わせることなく根絶やしにしてくれると。

 爆撃は、朝から始まった。まだ寝ぼけ眼で、昨日から夜通し痛みに呻く神兵など、起きられるはずもなかった。

 なにもかも、綺麗に吹き飛んだ。積帝雲は熱に弱い。蒸気としてではなく、液体として水がゲル内に存在している証拠に、沸点を越えると崩壊する。

 ジャングルを突き抜けて弾ける炎に炙られて、試練もミルキーロードも姿を消してしまった。

 味方も。

 原因が空であることはわかった。だから、シュラが飛び出した。木の葉の向こうへ姿を消し、いくらもしないうちに戻ってきた。相棒のフザとともに。

 穴だらけになって。

 恐慌を起こした神兵が、神に助けを求めて社へ走った。木々の切れ間、ジャイアントジャックの麓で、彼らは空へ手を伸ばしながら死んだ。

 シュラと同じく穴だらけになって。

 その結果に、いかなる情動も起こる暇がなかった。空から落ちていたものは、彼らの野営地に直接、豪雨のように降り注いだ。

 もはや、なにもわからず走るしかない。みんな散り散りになった。木々が守ってくれることを願って、その根元にうずくまるしかなかった。

 それもすぐに終わった。シャンディアが攻めてきたのだ。

 彼らは訝しく思っただろうが、容赦はなかった。命乞いも悲鳴も無視して、囲んで始末した。

 笛が鳴るたび、ジャングルのどこかでそれが木霊した。乱れたマントラでは、もはやなにもわからない。爆撃の雨は止んだのか。シャンディアはどこまで侵攻したのか。神は、どうしているのか。

 ふと気づくと、息を荒げて、大木に縋っていた。逃げていたのだ。これまで聖地に誘い込み、試練を越えられなかった衆生のように。

 爆撃で揺れない地面が心強い。大地に身体を投げ出して、空を見上げた。

「因果なものだ」

 負けた。完全に負けた。戦いにすらならなかった。降り注ぐなにかに蹴散らされて、なにも出来ずに逃げ出した。

 故郷を。ビルカを思い出す。まさに、この通りだった。あのときは神に仕えて、それを眺める立場だったが、今はこうして追い立てられている。

 この六年、繰り返してきたことを、自身で体験した。絶望だった。だが、なぜ逃げた。

「戦いもせず朽ちるのか?」

 自分はなんと説いて、なんと答えたか。求道とは、試練とは。

 自分が何者で、使命がなんだったのか。

 彼は思い出した。ジャングルの中、大地に立つ。未だ腰に下がる、剣の柄を握る。

「未熟なり。取り乱した」

 タンっと、サングラスを上げる。マントラを練る。積んできた修行がある。スカイピアでした殺戮ではない。ビルカで研鑽した、真の摂理を求める、その道を。

「俺が救おう。この空のすべてを」

 今なら出来る気がする。凪ぐような精神で操るマントラと、双璧をなす剛体術。押し寄せる波を跳ね返す、大地の如き肉体操作。

「生くる術なし、悲しみの求道。ついに完成した」

 煤けた身体が盛り上がる。擦り切れた服がはち切れる。ささくれた皮膚が、塞がっていく。

「因果晒し」

 たぶん、転生者特効。

 

 

 いつも段取りをする龍驤が愚痴にかまけていたため、本日の方針は船長の希望通り、全員で冒険となった。

 一味全員が、蛇に乗ってジャングルを移動していた。それでも迷子になりかけたゾロは、蛇に咥えられている。頭の上で、サウスバードがバカにしている。

 だが自分で歩きたいと、しばらくしてルフィが降りた。木の根や土の下など、遺跡を見逃したくないロビンが賛成した。ゾロと龍驤は、互いに迷子扱いされて不満だ。スネを蹴り合っている。サンジがナミをエスコートしている。チョッパーは蛇と喋っていて、気づくのが遅れた。

「なんだ!? その良さげな棒!?」

 握りやすい太さ。馴染みやすい持ち手。先っぽは適度にしなり、ペチペチと快い反動を伝える。だが、振り回しても邪魔にならない長さと、手応えも感じられる重さ。まさに、理想の棒だった。

 ルフィは自慢げに鼻を鳴らす。

「やらねえぞ。自分で見つけろ」

「棒!! 棒!?」

 チョッパーが慌てて見渡すと、ウソップが皮を剥いだ木の枝に、水筒を括りつけていた。

「出来た。仙人の杖」

「なんだ、それ!? カッコいい!!」

 皮を剥いだことで滑らかになった触り心地。杖として適度な丈夫さと、握っても疲れない太さ。先端に重りを着けたことで、杖を手繰る動きが推進力を補助するように工夫した。口元に島雲を蓄えれば、もはや完璧である。

「俺も!! 俺も棒!!」

「こんなもんやな」

 チョッパーは驚愕した。

 捻れた本体は、太い蔓が絡んだものだ。その先端にあるコブが、まるで人の顔のようである。歪な重心だ。あまり、丈夫にも思えない。持ちにくいし、振り回せない。だが、デコボコと悪魔のような見た目は、それだけで得体の知れない力を放っているかのようである。龍驤はどこからか取り出した書生用の短い外套を羽織り、チョッパーへドヤ顔を披露する。

「俺も持ちたい!!」

 唯一、龍驤だけが拳骨を食らった。

 チョッパーはしなりの少ない、ルフィとウソップの中間タイプの棒を見つけた。木や地面に当たると、しっかりとした反動と硬い音が跳ね返ってくる。蹄から飛び出していきそうな感触が気持ちいい。

 楽しそうだ。

 龍驤は蔓を捨てた。三刀流を試してみた。どれも邪魔でしかなかった。

 やがて、一行は雲の池のほとりに来た。中に遺跡の像が傾いている。ロビンは迷わず、足を踏み入れた。ルフィとチョッパーが続いて飛び込み、腰まで浸かってヘタリ込んだ。チョッパーは溺れた。

 ゾロが手を突っ込んで、掴み上げる。

「都市、そのものの慰霊碑」

「一回なくなって、また作った?」

 なんというか、嫌な連想が働く。住んでいた人間でなく、都市の名前で慰霊する。例えばポンペイのように、一夜で灰に沈んだのなら、住んでいた人々の名前を連ねることすら不可能だろう。

 遺体や遺品の一部すらもなく、行政文書のような記録も失われて、墓も作れなかった。

 親類縁者が軒並み亡くなって、弔う人間がいなかった。

 もしくは、歴史的な悲劇であり、決して忘れまいとした。

 そうしたときに、こういう合同慰霊碑は建てられる。

 全部、心当たりがあって、龍驤は気まずい。

 しかしまあ、綺麗な遺跡だ。ゴミ一つない。

 ロビンが手帳と慰霊碑を照合し、新たに書き加える。

「ノーランドの資料と合致するわ」

「棚一個、全部やったからな。二日あってよかったのか」

 いつ追手が来るか、海軍に包囲されるかとやきもきしていたが、手を抜かなくてよかった。ノーランドさんは龍驤ほど無節操な書き方をしていないが、かなり几帳面で膨大な資料を遺していた。それだって、ジャヤに関する一部だけだろう。彼らの故郷には、名前を伏せられたまま、様々な功績が残されているはずだ。

 ただ、植物学、昆虫学、博物学的な内容がほとんどで、遺跡に関する記述は少なかった。

 ロビンだけでは、すべてを調べきれなかったはずだ。

 いや、あのおっさん、絶対ジャヤ探しに海へ出たろ。ロマン大好きっ子めが。

 だいたい、ヘラクレスだのミヤマだのを好きになるのは、目を輝かせてそういう図鑑を読んだ記憶のある者だけだ。猿山連合が丸ごとそうだったということは、つまりそういうことだ。

 ノーランドさんの書いた本を、めっちゃ読んだのだ。ノーランドさんは植物学者。冒険家の側面である日誌だけ読んでいては、カブトムシまで好きにならない。

 彼らの教養は、そうやって築かれた。

 みんなで囲んで、あの半分しかない家にひしめいて、あれやこれやと語りながら、夜通し文字や絵を追ったのだろう。

 龍驤の買い物リストに、図鑑が並んだ瞬間である。

「素材はモルタル? 石?」

 滑らかな質感は、コンクリートにはないものだ。石にしては、色の混じりがない。モルタルだと思うが、かなりの硬度がある。

 となると、なにを混ぜているのか。石が硬いのは、重力による圧力で押し固められたことが大きい。それを接着剤で再現するのは無理だ。石より強靭には出来るが、原子レベルで揃えられた質感とは程遠くなる。どうしても粗い。

 そもそも、空まで飛んだとなれば、震度なんかでは表せないぐらいの衝撃だったはずだ。よくもまあ、原型が残っていたと言うべきである。

「早く行こうぜ。鐘を見つけねえと」

 ルフィが二人に話かけた。飽きてきたらしい。

「え? のんびりしとるから、ワイパーに譲ったんやと」

 だが、龍驤は思いがけないことを聞いたというふうに応えた。

「んなわけねえじゃん。競争だ」

「ウチも混ざるん? 今すぐ決めたろか?」

 こちとらチートなのである。気を遣ってるだけで、勝つだけならいくらでも反則をする用意がある。そうした反則合戦の果てに、なにもさせない一の太刀という奥義がある。

 だから、一味みんなでやるなら出番など欠片も譲らない。敵にも味方にもだ。

 攻めて来る敵は、水平線の向こうから龍驤の爆撃と砲撃をくぐり抜けて、近接防御射撃まで跳ね返す怪獣でもなきゃ、一味の前になど立たせない。

 立ったとして、アーロンのときとは違う。ウソップのおかげで、龍驤では開発出来ない装備も揃っている。大発とか、龍驤に載らないだけで、やろうと思えばメリーからいくらでも発進させられる。

 艦娘らしく、ボスは囲んでボコす。

 妖精さんは、大戦時の装備を使いたいがために、艦娘を海の底から蘇らせたのだ。使ったらどうなるかも考えず、理解もしない。自分のルールで物理法則まで曲げて、戦争ごっこに世界を付き合わせた。

 この世界でも、当然、同じことがしたいのだ。となれば、龍驤の世界と同じく、艦娘以外の兵器の一切が陳腐化する。

 そこまではしないように、龍驤一人ですむように言い聞かせているが、逆に一人で出来ることならかなり協力してくれる。

 その結果がどんなものか、船長が手綱を手放せと言うならやって見せるけども。

「ろくなことにならんぞ?」

「え? じゃあ、負けんじゃん」

 負けらしい。その感覚は、龍驤にもわかる。なりふり構わない戦争がしたいなら、海賊になんてならない。

 誇りを掲げるのではなく、勝利を求めるなら、旗なんかなんだっていい。国体なんてものに拘らず、三百万人も死体を積み上げなかった。アメリカが望むように、極東のウザったい安全保障環境に放り込んで、責任を全部押しつけてやっただろう。

 まあ、出来ないのはわかりきってたので、早いか遅いかだけだろうけども。

 アメリカって、ちょっとバカなんですよ。

「じゃあ、急がんと。たぶん、エネルはそのうち空飛ぶし、ワイパーはもう到着すんで?」

 かなり静電気をバリバリさせてたので、妨害もなんのその、エネルは龍驤の思考を十分に読み取っている。他になにをさせるつもりもないが、鐘の争奪戦は船長の領域だ。手は出さないつもりだったが、まさかまさかである。

 もう、制空権は掌握している。

「なんで早く言わねえんだ!!」

「ネタバレ、ダメ言うからやろうが!!」

「大事なことは言えよ!!」

「聞けや、ボケ!!」

 海軍がうろちょろしてて、兄貴が追われてても大事じゃないのに、なにが大事だ。

 醜いケンカである。止めるのもバカらしい。

「じゃ、ロビン。行きましょうか?」

「とりあえず、南ね」

「護衛はお任せを。お嬢様方」

 遺跡が目当ての二人が歩き出し、サンジが従った。

「鐘、鐘ね。どくろの右目だったか」

 ゾロは右へ行った。見送るウソップとチョッパーを、頭に乗ったサウスバードが延々と見つめている。

「どうする?」

「シャンディアが心配だ。無茶してないかな?」

「じゃあ、様子でも見に行くか」

 メリーの仇はどうした。手を繋いで、なんなら一番平和である。蛇もついてった。

「船長として言うけどな!! お前、ちょっと抱え込み過ぎだぞ!! 自分だけ楽しみやがって!!」

「こっちのセリフじゃ、アホ!! 自分だけ遊び倒しよって!!」

 一味は散り散りになったが、二人は団子になった。

 お互いに頬を引っ張り合っている。ゴムなのにルフィの頬が赤いのは、覇気を使っているからだ。

 手加減のわからない龍驤である。

 

 

 恐怖は情動。

 与え続けなければ忘れ、薄れていくもの。思い出の中にあったとしても、日常にはない。思い出も鮮度を失っていく。

 支配は感情。または、状態。

 別の刺激がなければ、基本は変わらない。意識せずとも、行動に表れる。やがて溶けていくにしろ、枯れていくにしろ、それは年月に支配される万象に共通するものだ。命と同じ、新陳代謝に過ぎない。

 神はそんなものであったのか。頑として存在するものではなく、やがてうつろうようなものであったのか。

 それが世界の真実か。

 エネルは沈思黙考していた。穴倉の奥。マクシムの玉座で、神の姿について考えていた。

 それだけがアイデンティティだ。感情のないサイコパスは、定まった心の状態がない。

 非合理の塊である情動に振り回され、なんの一貫性もない、その場しのぎの嘘と建前だけで生きていかねばならない。

 なにか芯になるものを見つけなければ。

 サイコパスのほとんどが、チンケな詐欺師だ。バカで先の見えない犯罪者だ。

 エネルもそうだろうか。エネルには雷の力がある。

 だが、自然に存在する雷雲が持つ電圧は、十億ボルトである。その一部である落雷ですら、一億を越える。空と大地の間にある膨大な絶縁体、空気を突破するには、それだけの圧力が必要だ。

 エネルにそれがあるだろうか。今、アッパーヤードには鳥やエネル以外に空を飛ぶものがあるが、まったく届かない。雷も、マントラも。

 そもそも電圧など、流れる電流の勢いでしかない。川や海、雲の流れのように、量がなければ人の足をすくうことも出来ない。

 電圧が高いだけではなんの自慢にもならないのだ。

 逆に言えば、電圧さえなんとかすれば、マクシムはもっと簡単に動く代物である。エネルには基礎知識がなかった。

 天才であるがゆえに、失われた技術をこうして再現したが、細かな不具合を解決するには至らなかった。マクシムの内部機構が大型化し、六名しか乗せられないのも、そうした知識の欠落が原因だ。

 機械の運転に、適切な電圧や電流があるなんて知らなかった。超全力でぶん回してた。

 そもそも、電気は導線を流れるものだ。能力にかまけて意識していなかったが、雷とは飛ぶもので、いわば圧力によるゴリ押しでしかない。狙った場所へ飛ぶように思えたのは、ロギアのもう一つの能力。

 エネルならば、電荷を与える力だ。

 電気は電子の運動である。電子は原子核を囲む流動体みたいなものである。原子核は相互作用というすごい強い力でくっついているが、電子は電磁気力という力で結びついていて、ドーム球場のスタンド辺りをうろちょろしている。

 電子が珍しいのは、自然数というように、たいがいのものが片一方の性質しか持てないのに対して、正負があることだ。

 これが電荷である。

 相対的に言えば、みんな前にしか進めないものを、電子だけは後ろ向きにも進めるわけだ。

 だから電子は自由だし、流動的である。

 と言っても、原子核と結びついてはいるのだ。原子の一部として逃げられない。

 ところが、電子よりも自由な中性子というやつが、間男のように核へ入り込んできたりする。こいつのせいで電荷が変わると、電子は前を向いているのに、後ろへ進まなきゃいけなくなったりする。

 電子くんはたいへんだが、原子は一方の性質しかないので、電子くんがいなくても変わんないかも、みたいな状態になる。

 となると、電子くんは拗ねて家出をする。この勢いが電圧や電流である。

 まあ、実際のところはよくわかっていない。小さくて見えないし、ここまで軽いと重力なんて関係ないので捕まらないし。

 影だけ見つけて、たぶんこうだろうと、学者たちは茶飲み話に議論する。のんびりほのぼのだが、目は狂気に満ちている。

 怖い。

 十五分しか寿命のない中性子が、どこから来たのかみんな知らない。電子くんは、家出はしてもそうした根無し草になるのが嫌なので、別の家、原子核を見つける。

 このとき、反対の電荷を持っている原子が近くにあればスムーズだ。そこへ流れて行けばいい。電線の中身である。

 じゃあ、雷はどうか。

 空気は絶縁体。つまり、中性子の浮気を許さない。電荷を持たない。電子くんの入り込む隙間はない。

 だが、もともと同じ原子の中でも、原子核とは外野席ぐらい離れて暮らしていたのだ。

 勢いさえあれば、それが惑星規模の距離でも飛び越える。だって、重力関係ないし。慣性も位置エネルギーも相対的に小さいから、場合によっては10kmぐらい飛ぶ。

 電子くんの大きさ的に、1兆倍ぐらいすれば、その旅路の果てしなさがわかるかも知れない。

 放電という現象は、電子くんの癇癪だ。家出したくても出来ない電子くんが、間男の中性子を始末して、電位差をなくす最終手段である。

 中性子の崩壊。雷って、もしかしなくても核反応。いや、でも間男だし。それが本当なのかどうなのかも。

 わからない。

 つまり、流れてないので、まったく制御出来ない。電子くんにもわからないのだ。たまに立ち止まって、ジグザグと方向を変えるぐらいに。

 電子くんは迷子である。これをお迎えするのも、電荷である。

 高いところに雷が落ちるという、あれだ。避雷針の原理。

 つまりエネルは、圧力に任せて迷子の電子くんを追い出し、与えた電荷で、向こうからお迎えに来てもらっていたのである。

 ゴロゴロの実には、オートエイムが付いていた。

 嘲笑が木霊する。

 それで神だって。超恥ずかしい。チートを使って自分の実力と勘違いして、壮絶にイキってたんだと。

 この世界はゲームじゃない。法則はあっても、ルールはない。空、積帝雲という箱庭の中では最強だったかも知れないが、世界へ目を向けたら雑魚である。

 実を含めた、幸運や才能に胡座をかくニートである。なんか豪華なプラモデルを作って悦に浸っているかも知れないが、生きている価値など親ぐらいしか認めてくれないだろう。

 ゴミだ、ゴミ。社会のゴミ。還幸というなら、早くゴミ箱へ帰れ。回収してくれる業者に感謝しながら。

 と、こういうイメージなりなんなりが、もうずっとエネルを悩ませている。他人への共感などないエネルだから、他人の頭が覗けたり聞こえたりしても気にしなかった。利用してきた。

 生まれて初めて、このマントラという力を不快に思った。

 まさか、聞かれるのを承知でこちらを煽って来るとは思わなかった。雷の原理と、艦娘という存在を知ると、今までの適当な天罰では効果がないようであるし、どうにも手詰まりだ。

 だから、ずっと考えてきた。

 あの小娘を殺す方法を。

 あの澄ました顔を絶望に染める方法を。

 涙と慟哭を、臓腑の底から吐き出させる方法を。

 神とはどうしたものなのか。

 マクシムには頼れない。これはエネルの希望だ。小娘に壊されるわけにはいかない。

 引きずり出されるのも嫌なので、出すには出すが、使わない。

 エネルは考える。

 あの、空を支配する小娘さえ倒せば、再びエネルの天下なのだ。

 煮え滾る腹の底とは別に、穏やかな表情で、エネルは玉座にて沈思黙考する。

 だから気づかない。小さな影に。

 レインコートを着た、珍しい妖精さん。

 彼女はじっと、エネルを見ている。

 

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