龍驤がヤサグレるワンピース   作:HIRANOKORO

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内外自在の競争者

 ミルキーロードで縦横にデコレーションされたアッパーヤード。川というより、島内に引き入れた海であるそこは、淡水や海水の別なく、様々な生物が生息している。それらが、徒歩による交通を妨げている。

 もちろん、肉食生物も怖い。

 だが、ノックアップストリーム以外の旅程は0:100ではなく、50:50になるという空の特性から、未知の病原菌、特に寄生虫を警戒した龍驤とチョッパーは、それを調査した。

 とりあえず、大丈夫そうである。

 海底のない海。熱に弱い島雲。まともな駆虫対策が取れず、寄生サイクルが浅瀬に集中するとなれば、媒介者は貝や甲殻類などだ。

 こうした媒介者の必要な感染症が、ある地域限定で猛威を振るうというのはよくあることだ。あまり広がらないが、予防も根絶も難しい。ダイアルとかあるし。

 空の旅を阻む要因として、条件が近い。

 見た目に騙されてはいけない。この空は政治から人間、環境に至るまで、なにもかもが地獄である。ここに積み上がっているのは死体の山だ。

 それらは、土にもならずに消えてしまう。ふわふわの雲の隙間から、青海へ降り注ぐ。

 ぞっとするような場所だ。大地がなければ人は生きられないと言うが、暮らしの中で育くまれる土壌もあるのだ。

 それがない。挙げ句、文化も歴史もすべて無為に帰そうとする化け物を生んだ。

 面白いと思う。運命の皮肉か、いたずらか。こうした悲惨で陰湿な裏事情を知るのは、大きな石をひっくり返すような感動がある。

 ルフィは怒るが、こうしたことは楽しめないと思うのだ。いや、石をひっくり返し始めたら一日中だって楽しみそうだけど、そういうことじゃない。

 だから龍驤は結局、船長になにも言わない。知りたければ、日誌を読めと。

 興味もないことに、覚悟もなく首を突っ込んではいけない。ウジャってなってるのを見ると、ウッてなるから。

 あの日誌の圧力に躊躇わないの、明石か夕張か、大淀だけなので、龍驤は安心だ。伊勢や日向に見つかったら焼かれそうだけど。どうせ、この世界にいない。

 貴重なのだ。龍驤を単純に悪ガキとして扱う艦娘というのは。性能も実績も、艦種までアンバランスだ。つーか、懐くな爆乳ども。

 航空戦艦と言えば、だ。

 つまり、アッパーヤードにはジャングルがあって、ミルキーロードって運河がその木々の間を走っているわけだ。

 そこに艦娘の龍驤と、ゴムのルフィが合わされば、機動力は桁違いである。ミルキーロードを駆け巡り、枝を伝って飛んで行く。

「ア〜アア〜」

「ウチは航空戦艦」

 楽しそう。

 本当に楽しそう。

 お互いに顔はパンパンだが。

 ルフィと龍驤は、手長足長スタイルで、アッパーヤードを駆け抜けている。足長と言う割に、土台はちっこいが、それはそれだ。

 龍驤はある意味、夢を叶えた。どっかで本物が、瑞雲片手に腕組みしてそうだ。

 一番乗りは確実である。眼下にナミやロビンを認めて、龍驤は確信する。

 このレース。龍驤の勝ちだ。

 

 

 ゾロは生贄の祭壇にいた。

「はは〜ん。似た場所か」

「ジョー」

 動物の言葉はわからないが、笑われているのはわかった。龍驤に世話をされたこいつは、だんだんと飼い主に似てきている。煽り性能が高い。

 その笑い声、らしきものに誘われた者たちがいた。アッパーヤードのサウスバードだ。

「なんだ? 俺はてめえらのメシなんか持ってねえぞ?」

 昨日、餌付けされて、今日もゴミなりなんなりが落ちてないか、見に来た個体がいたのだ。

 片付けはきちんとされていて、成果はなかったのだが、顔馴染みを見つけた。

 ジャヤのサウスバードは説明する。

「ジョー?」

「ジョー!!」

「ジョー……」

「同情すんじゃねえよ!! お前らなに話してんだ!?」

 わからないけど、わかってしまう。生態的に、あんまり目が合うことはないのだが、それだけによけい腹が立つ。

「まあいい。戻って来たんなら、簡単だ。もう一回、右に行きゃいいんだ」

「ジョー……」

「だから、なんだよ!? 言いたいことがありゃ言いやがれ!!」

 鳥に無茶を。

 だが、鳥は賢い生き物だ。猿ばかり研究していた昔とは違う。道具を使い、言葉を理解し、遊びや趣味といった、文化が確認された生き物は増えた。特にカラスは人との関わりが深い割に、家畜化もされず共存する生き物である。

 日本猿の中でも、一部にしか見られない温泉に入る習慣。驚きをもって世界が受け入れた、人類以外の明らかな文化。遺伝子に頼らずに構築された、知恵と教訓。そして、継承。

 日本猿だけと思われたそれを、カラスが覆すかも知れない。人類が、ではなく、生き物が、どのように文化を育むのか。それを教えてくれる可能性がある。

 サウスバードはカラスほど広く分布してはいないが、人里近くに住み、森の主にすらなる生き物だ。シャンドラの象徴とも言える。

 しかも、絶対に迷子にならない習性付き。

 サウスバードたちの態度には明らかな憐憫と、ゾロを下に見る侮蔑の感情があった。

「ぶっ殺すぞ!?」

 ゾロは思わず、リュックを投げた。さすがに剣は抜かない。ジャヤのサウスバードは呟いた。

「ジョー」

「ジョ!?」

「ジョー!!」

「待てコラァ!!」

 迷子が空を飛んだ。サウスバードの目当ては、リュックの中のお弁当。ゾロが自分で捨てたのだから、もう拾った彼らのものだ。理屈と倫理と所有権を知っている。彼らは編隊を組んで、南へ向かった。ゾロとリュックをぶら下げて。

「ちくしょう。どうすりゃいいんだ?」

 大人しくしてて下さい。

 

 

「は!? ゾロに抜かれた!?」

「なにしてんだ、龍驤!?」

「ウチやない!! ゾロが空飛んでんねん!!」

「飛ぶのは神じゃなかったのかよ!?」

「知らんわ!! ゾロも神なんやろ!?」

「迷子に負けるとかあり得ねえぞ!?」

「たまに辛辣やね、キミ」

 

 

「ジェットパンチ!!」

 唯一残った神官が、シャンディアの行く手を阻む。

「既存のミルキーロードは通るな!! 沼にハマるぞ!!」

 見た目はただの雲だ。ミルキーロードに紛れてもわからない。なのに、ウェイバーやシューターを使っても浮いていられない。厄介な雲だ。

 だが、それ以外の場所を通っても、シュラの置き土産が絡みつく。とにかく、絡みつく。というか、もう目に見える。

「どんだけ仕掛けたんだ!?」

「ありったけだ!!」

 うっかり。

 なんか、わけのわからない先制攻撃で迎撃態勢が崩れてしまったので、慌ててやってしまったのだ。うっかり寝過ごしたとも言う。付き従う神兵も宙吊りになっている。

「傷ついた者は後ろに下げろ!! ここで生き残らなければ、六年前の二の舞いだぞ!!」

 勇敢で誇り高く戦ったゆえに、まだ未熟な、若い者しか残せなかった。そんなことを繰り返して、アイサのような子供まで本当に戦場へ投げ出して、どうやって部族を維持するのだ。

 もう神は、アッパーヤードに用などないのだ。すべてを無に帰すつもりでいる。

 本当か嘘か。出来るのか出来ないかを論じる段階ではない。信じた以上は、従うだけだ。なんたって前例がある。

 狡猾なサイコパスの犯罪を見破るには、最初の一例を見つけることだ。どれだけ高尚なフリをしても、我慢が出来ない獣でしかない。衝動に任せた最初のそれに、準備も計画もない。

 必ず、手がかりを残している。

 そして、神気取りのバカは隠してすらいない。杜撰にも生き残りを許し、スカイピアへ詳細を届けている。

 その意味で言えば、龍驤の推測は最初と全然違うのだが、いいのだ。ネタバレは、ほら、つまんないし。

「どけ!! ゲダツ!!」

「ンンンッ!!」

「唇を噛むな!!」

 うっかりのおかげで、カウンターを入れられた。なんかもう、なにもかも腹が立つ。

「遊びでやってんじゃねえんだぞ!?」

 無言で見つめてくる。誰か翻訳しろ。

「ワイパー!! 俺たちに任せろ。お前は先に行け」

 ブラハムがそう言うが、さっきから試してはいるのだ。しかし、ウェイバーとは違うミルキーダイアルでの移動が、それを阻む。吹き出しているのは沼雲らしいが、ただの空気とは反動が違う。

 巡航は出来ないが、瞬間的な加速ではブレスダイアルにも優るため、機動力で敵わない。特に、ジャングルと試練で空間を制限された場所では。

「厄介だな」

「もはや、俺しかいないのだ。ゴッドに仕える神官は」

 ゲダツが構える。

「うっかりで通すわけにンンンッ!!」

「早速か!!」

 でも、飛んでくる。絶滅種を使ったパンチは早いが、隙も大きい。仲間たちのおかげで、間合いも読めている。待ち受けていたら、途中で止まった。

「お前が引っかかるのか!?」

 紐雲だ。空中で静止しやがった。

「俺には効かん」

 肘から噴射煙が見えたと思ったら、すでに拳は眼前にあった。

「ワイパー!?」

「全員、伏せろ!!」

 カマキリのかけ声。ブラハムはミルキーロードを飛び降りざま、ゲダツへ銃口を向けて連射した。フラッシュダイアルが、ゲダツの目を眩ませる。

「やれ!!」

「バーンブレイド!!」

 縦横に青い炎が走った。家の一軒や二軒分はありそうな木が切り倒され、紐雲が蒸発する。

 無傷のゲダツが、その切り株に真っすぐと立つ。

「無駄だ。マントラは無敵。ゴッドの威光の前にひれ伏すがいい」

「今、言うのはズリぃんじゃねえか!?」

 簡単に言えば火炎放射器だが、空気が指向性を持つほどの勢いで発射されているのだ。勢いそのものが吸気機能を果たして、周辺から酸素を取り込む。燃焼すれば、それはさらに加速する。

 要は、勢いだけでガスと空気を固体燃料に変えて燃やしているのだ。本当の固体ではないので、逆に燃焼効率がいい。厳選したブレスダイアルによるシャンディアの切り札で、ワイパーとカマキリしか持っていない。

 危ないから、みんな必死に伏せてた。それを見下ろされた。ゲダツが避けたのはすごいが、もう本当に腹が立つ。腕組みぐらい、まともにしろ。ここまで来たら、カッコはつけろよ。

 ジェットダイアルの加速で、脳血管障害でも起こしているのかも知れない。平衡感覚や、皮膚感覚の消失や鈍化。言語機能の低下。顔面の歪みや、白目を剥くなど、非常に心当たりがある。

 代表例は脳卒中。

 それがネジ一本外れただけみたいに神官でいるの、本当の化け物で怖い。

 きっとこれも覇気のせいである。

 クリケットさんもそうだが、病気にはなるくせに、冒険に関するところとか、戦いに関するところのリスクだけ踏み倒している。実に都合がいい。

 削られるのは命だけだ。

「とりあえず、シュラの置き土産はこれで始末したか?」

「どうなってるんだ、アッパーヤードは? 神官があいつしかいない?」

 どっかの誰かの思惑が崩壊したせいで、中途半端にサバイバルである。

「どうする、ワイパー? 逃げに徹すればゲダツは追いつけない。誰か囮にして、神を狙うべきじゃないか?」

「いや、丁度いい」

 龍驤が情報をあちこちと接触しながら入手したように、ワイパーたちも情報は得ている。

 目的たる神の居場所の候補は、神の社と、その地下。そして、そこから飛び出るビックリドッキリメカ。

「メカ?」

「飛ぶらしいんだよ」

 みんなハテナだ。いや、彼らも空中戦はするけども。

「信じるのか?」

「信じるもなにも。あいつもなんか飛ばしてたろ?」

 目を逸らしてた。理解出来なくて。

 もうちょっと、こう、言動がまともなら受け入れられなくもないのだが、あまりに規格外で。

 あれらを受け入れられるワイパーが不思議である。あの海賊とどんな関係があるのだろう。シャンディアのみなさんは、ワイパーを見つめた。

「なんだよ?」

「いや、で?」

「ゲダツの装備なら空を飛べる」

 ワイパーもおかしくなっちゃった。カマキリがワイパーの額に手を当てた。

「熱はねえな」

「俺は正気だ」

「その右手、なに仕込んでんだ?」

 ブラハムが口を挟むと、ワイパーは黙った。

「気づいてねえと思ったか? お前だけにやらせるかよ」

「俺たちも戦士だ。覚悟なら出来てる」

「お前ら、」

 ゲンボウも頷く。カマキリはキョロキョロしている。

「なんのことだ? おい、ワイパー!! お前また、なにかしやがったのか!?」

「さっさとやっちまおう」

「必ず届けるぞ。神の元へ」

 縁起の悪い。

 カマキリは無視された。歯ぎしりしながらも、ワイパーを先頭に武器を構える。

「神兵は?」

「逃げた。もう、戦意もあるまい」

 障害は神官だけだ。あと一人。ここまで来た。

「ハッ!? そこにいたか!!」

 マジでウザい。あんなんでもマントラがあるから、隙にならないのだ。

 六年間、ずっとそれに苦しめられてきた。

「邪魔なんだよ、お前ら!!」

「ここは俺たちの故郷だ!!」

「どけ、ゲダツ!!」

 ブラハムが目を眩ませ、ゲンボウが鉄の弾を撃つ。そこを左右から、ワイパーとカマキリが襲う。

「ンンンッ!!」

「やめろ、それ!!」

 本当に締まらない。

 

 

「ワイパーが飛ぶつもりや」

「仮面のやつか?」

「なんでどいつもこいつも、ポンポン飛ぶねん!? 命がけで観光に来たウチらの気持ちとか、考えたことある!? ウチの立場は!?」

「ねえんじゃねえか?」

「キミは考えろ!! ウチの気持ちを!!」

「えー? メンドイ」

「な・か・ま!! 仲間!!」

「落ち着け。で、急げ」

「ああッ、もうッ!! なんでコレが船長やねん!!」

「ナッハッハッハ。面舵〜」

 暇な両手が、ツインテールを掴む。

「グホッオっ!!」

 龍驤の頸が昇天した。

 

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