蒼銀の蛮族、筋肉にて運命を破る   作:飴玉鉛

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第3話

 

 

 

 

 

 二人に勝てはしなかったが負けもしなかった。

 

 例によって例の如く、毎年恒例の勝負は引き分け試合だと負けという結果になったのだ。

 あれ以降シグルドとその女に俺は一発も当てられず、二人の攻撃も俺を痛がらせるだけで傷は負わせられなかった。ただ二人とも一人で戦った時より攻撃が重く、鍛え直す前の俺だったら筋肉達磨から血達磨に強制クラス変更されていたかもしれない。愛と勇気の超パワーって現実にあるもんなんだなァ。なら俺も、とは思えないのが辛い。人間は裏切る、そんな奴と愛なんか築けん。

 俺は俺と俺の筋肉だけを愛する。俺の矜持と美意識だけが俺を服従させる。むしろ愛と勇気の超パワーがファンタジー世界にはあるのだと知れたのは僥倖というヤツだろう。そうした王道を俺の筋肉でねじ伏せられたら、もうそれだけで絶頂してしまうに違いない。

 

 とはいえ今のままだと毎年恒例の千日手で終わるのが見え透いていた。

 

 シグルドとその女は、今後もコンビで俺に向かってくるかもしれん。シグルド一人だけでも殴るのが難しいってのに、コンビで来られるとますます手こずるだろう。ではどうするか?

 決まってる、筋肉だ! 俺の筋肉がまだ足りないというだけのこと。もっと鍛えよう、俺の筋肉はまだまだ限界に達していない。俺の筋肉は大地を割ったが天はまだだ。天ってなんだ? 神ってことにしとくか。見たことねぇが神も殴ってみたい。

 筋トレをしよう。ご老人に貰った不思議な指輪を嵌めて負荷を掛ける。これだけでも充分だが、俺の筋肉は言っていた。まだイケる、と。この指輪だけでも鍛えられるが、もっともっと強くてキツい負荷が欲しい、と。これには流石の俺も困った。ワガママな筋肉だ。

 だがしかし、筋肉の可愛いワガママの一つや二つは叶えてやりたい。どうしようかと足りない知恵を絞りながら筋トレに励む毎日だ。

 

 次、あの二人と戦うのが楽しみだ。一人ずつヤるならシグルドからがいい。俺はメインディッシュは最初に喰う派だから。好みの問題でもある。あの女も犯し甲斐がありそうだが、シグルドは俺に対抗できたはじめての男。美女なら何人と犯し殺してきた俺だ、貴重な男の戦士を優先したくなるのが戦士魂という奴だろう。蛮族な俺にもレア度を優先する現金な部分はあったわけだ。

 夢想する。俺の筋肉であの二人を打倒し、シグルドの目の前であの女を犯してやる様を。あの女の目の前でシグルドを殺してやる様を。ニィ、と笑顔が溢れるのを止められない。

 

 宴会に招かれた。

 

 国王が贅の限りを尽くした宴を開いた。そうした場合、いや大勢の前に出る時は、いつもコイツは俺を傍に置く。俺を信頼してるらしいが、裏切ったらお前でも殺す。というか国土の拡大に満足したらコイツは俺を不要と感じて、いつかは裏切るだろうと思ってる。

 まあ恩を返すまでは従ってやるさ。それまで裏切らないでほしいもんだが、どうなるかね。最近のコイツは疑心暗鬼を拗らせて、俺に何人も手下を殺させてたからな。恨みを買ってるからそのうち反乱でも起きるんじゃないか。どうでもいいがな。

 と、そう思っていたのがフラグになったのか、はたまた当然の帰結なのか。国王は盃に口をつけて酒を飲み、暫くすると苦しみ出した。ん、と思って目を向けると、国王が目と鼻と口から血を噴いて倒れてしまう。場は騒然と――しない。おいおいおいおい。なんだぁ?

 

 俺に酌をしていた女を腕を払って退かし、立ち上がって国王の傍に寄る。助け起こすと国王にはまだ息があった。掠れた目で俺を見ている。力を失くした手で俺の腕を掴んだ。

 ああ……すまん。毒殺は警戒してなかった。お前もだろ? 腐っても戦士の国になってたもんな。殺しに来るなら直接来ると思い込んでた。もうお前は死ぬが、安心しろ。お前に対する恩はまだ返し切れてねぇ、ってか返し切る前にどんどん恩を売られてたからな。お前を殺した奴も、すぐお前の所に送ってやる。恨みは晴らしてやるし仇も討ってやるから目ぇ閉じて楽になれ。

 長年の付き合いがあるからか。親兄弟よりずっと身近にいたせいか。国王は俺の目を見て、安心したように目を閉じた。そして最期に何かを呟く。……やはり、言葉は要らんらしい。コイツが何を言ったのか、なんとなく分かった。コイツは最期に言ったんだ。

 

 よかった。お前が裏切ったんじゃなくて。

 

「………」

 

 舌打ちする。なぜだか、無性に何もかもを殺してやりたくなった。

 立ち上がって周りを見渡すと、全員が唖然として俺を見ていた。死んだ国王じゃなくてだ。

 なんでだ。

 ここには15になった俺のガキもいる。この異世界だと成人だ。他にも七人のガキもいる。全員10を超えてる。他には国王の手下だ。なぜ俺を見ているのか分からなかったが、空気で察した。

 ああ、俺の酒か飯にも毒が入ってたのか? 鼻で笑った。

 生憎だったな、俺はゲテモノも残さず食う主義でな。今生の俺の内臓や脳味噌は筋肉で出来てるってお前ら知ってたか? 俺の筋肉は俺を裏切らん。毒如きで俺を殺れると思うなよ。

 

 俺に毒が効いてないのが分かったのか、冷や汗を浮かべる奴ら。俺の長子が顔を引き攣らせながら笑いつつ、俺の傍に寄ってくる。他のガキ共もだ。ガキ共は国王の手下共に何かを語り掛け、歓呼の声を上げた。歓声だ。それで、理解する。ああ……ここにいる奴らが、全員裏切りモンなんだな。俺の長子が首謀者なのか? そうっぽいな。俺と国王を殺して後釜になろうってか。

 くだらねぇ。白けちまった。恩を返すまで国王に従い、ついでに国のために働いてやる気でいた自分に気づいて、らしくなさを嗤う。何もかもが――筋肉以外――どうでも良くなる。

 このあと、どうなる? 俺のガキが国王になんのか。だがなぜ裏切った? 民の暮らしの為? んなわけないな。コイツらも贅沢を楽しんでやがった。俺のガキもだ。ならなんでだ? ならどうして……どうでもいいか。大方、どっかの敵国の奴らに唆されたんだろ。何を交換条件にしてたかは知らんし、どういう取り引きが交わされてたのかも知らん。どうでもいい。ああ、どうでも。

 

 俺を煽て、囃し立てるガキの頭を掴む。生まれてはじめて撫でられたとでも思ったのか、長子は困惑しながらも微かに嬉しそうにした。構わず、一気に首を引っこ抜いた。脊髄も綺麗に抜けた。血が溢れ、ガキの面は笑顔のまま。悲鳴が宴の場に響き渡った。

 俺のガキ共や、手下共が騒然とする。立ち上がって身構える手下共だが、見事に腰が引けていた。俺の筋肉の強さを知っているからだろう。顔を真っ青にして、媚びるように俺を見ている。残りのガキ共は訳が分からないまま泣いたり、呆然としたり、腰を抜かしたり、長子を殺した俺に対して激昂し怒鳴りつけてくる奴もいた。全員殺した。

 

 強く地面を踏みつける。それだけでこの館が崩れ去り、俺の足踏みで生じた衝撃波で死んだ奴らが瓦礫の下に消えたのだ。

 

 俺は瓦礫を退かしながら廃墟から出た。汚れを払う。外には兵隊共がいた。全員俺を見て腰を抜かしている。いや、今の衝撃波で立てなくなっているだけか。コイツらは下っ端だ、無視する。

 無言で自分の館に向かうと、その途中で戦士達が現れて槍や剣を向けてきたが、一睨みすると全員が怯えて道をあけた。チッ……挑む気がないなら最初から邪魔をするな。

 

 館に入る。そして愛用の大斧を持ち出すと、厩に行きバイコーンに跨る。

 何人もが俺を引き止めようとするが、知らねぇよ。国王は死んだ。俺に恩を与えていた奴は死んだんだ。ならこんな国に用はない。なにより裏切りモンのいる国なんざ反吐が出る。

 邪魔をするなら殺すという意思を込めて睨むと、邪魔する奴は消えた。腰抜け共め。

 俺は飼いならしたバイコーンを走らせる。俺を乗せて走るようになってからコイツも鍛えられた。なんせ俺は重い。重い俺を乗せている内にコイツも成長したわけだ。成長してなかったら潰して食ってやる気でいたから、コイツも必死だったのかもしらないな。

 

 ともかく、この国を出よう。後のことは後で考える。

 

 バイコーンを走らせていると、上空に気配を感じる。見上げると三人娘がいた。光り輝く翼を羽ばたかせ、俺に随行してくる。なんだ、お前らは俺に付いてくるのか? 物好きな奴ら……。

 まあいい。俺は死んだ国王の離宮に向かい、止めようとする奴らの首を大斧で刎ね、バイコーンに乗ったまま奥に入った。そこには種が弱かったらしい国王の唯一の子、溺愛していた娘がいた。

 美女に産ませたからか面はいい。性格は知らん。

 俺の長子の婚約者かなんかだったかもしれん。それも知らんが、ありそうな話ではある。戸惑いながら見上げてくるこの国の姫を担ぎ、攫った。どうせこの国にいても幸せにはなれまい。死んだ国王への恩は、アイツが溺愛していたコイツに返すことにしよう。

 

 三人娘を一瞥し、戸惑ったままの姫を指差す。三人娘も困惑していたが、死んだ国王のいた所と姫を交互に指差すことを繰り返すと、やっと意図を察してくれたのか姫に話し掛けてくれる。

 事情を説明しろとせっついたのだ。やがて姫も事情を知ったのか、口元を手で覆い、大粒の涙を流しだした。めんどくせぇ……。慰めてやるのが面倒なので放置する。もう一度俺の館に帰り、忘れ物を身に着けた。国王がくれた白い衣装と青いマントだ。特に金糸で狼を象った青いマントは高そうだし、形見としてコイツにくれてやろう。

 バイコーンの背中で泣いたままでいる姫の頭へマントを掛け、バイコーンに跨った俺は今度こそこの国から出奔した。後は野となれ山となれ、だ。国がどうなろうと知ったことじゃない。

 

 在野に出ると、俺はあてもなく姫を連れたまま旅をした。いつしか泣き止んだ姫は、しきりに俺に話しかけてくるようになったが会話は通じない。言葉を知らんし知る気もない。無視する俺に、俺がそういう奴なんだと知った姫はまた泣いた。なんでだ? 分からん……。

 一月ほど旅をすると、訳の分からん森に来ていた。どこの森だ? 今生の俺は方向音痴だったらしい。どこに行くのも国王の指示通りにして思考停止していたからか、本来あるべき土地勘がまるで養われていなかったようだ。困って三人娘を見るも、コイツらは俺に付いてきてるだけだから目的地なんかない。俺にもない。姫は呆れ果てていて、お腹を撫でていた。腹が減ったのか。

 

 仕方ないので森に入り、獲物を探す。見つからねぇ……俺が森に入った瞬間に、全ての生き物が気配を消したのだ。なんでだ……?

 

 やむなく木の実とかを拾う。山菜も集める。キノコも。いやキノコは毒があるかもしれん。俺には効かんが姫には効くからな、キノコは俺専用にするしかないか。

 姫の所に戻り、ハッ! と掌で挟んだ枯葉や藁に摩擦を掛け火を熾す。焚き火だ。唖然とする姫を無視して、とりあえず全部に火を通したりした。不味そうに食う姫。不味くて顔を顰める俺。

 そんなこんなで旅をしていると、姫は俺には任せられんと言わんばかりに怒り出した。不味い飯に耐えかねたらしく、料理を自主的にやりだしたのだ。だが姫の料理も不味い。気まずかった。

 

 あてもなく彷徨っていると、ようやく人里を見つける。姫は両手を上げて喜んだ。此処に来るまでに肉が食いたくて堪らなくなった俺はバイコーンを絞め殺し、その肉を姫と食っていた。姫はバイコーンに愛着を持っていたらしく、ソイツを殺して食った俺に泣いて怒っていたが、肉になったのなら仕方ないと姫も食っていた。二年ぐらい一緒に旅をしたが、随分逞しくなったもんだ。

 というか野生の獣は俺の存在を察知した瞬間に息を潜めて隠れるので、本当に肉を食える機会が少なかったのが悪い。時々見掛けるモンスターや空飛ぶトカゲ、雑魚のドラゴンもどきを食えはしたが、俺は毎日でも肉を食いたいのである。耐えられなかったからバイコーンを食った、それだけだ。俺は悪くないぞ。バイコーンは鍛えられてたから筋張っていたが、意外と美味かった。

 

 見つけた人里――集落に入ろうとすると、村人に止められた。誰だと誰何してきているらしい。姫が応対しなんとか集落に入れるように交渉していた。面倒だな、殺してほしいもの奪えばいいだろうに。そう思っていると、それを察知した姫に厳しく叱責された。

 何を言ってるのかは分からんが、仕方ないので略奪はやめる。

 俺は村人に先導される姫の後について歩いた。久しぶりの人里だ、あちこちを見渡して倉の位置を把握する。長年の癖だ。ついつい奪えるものを探してしまう。性欲はここ二年我慢していたから、目が肥えているはずの俺でも芋臭い村女にも情欲を覚える。二年も周りに手を出せない女を置いていたせいでもあるだろう。犯そうとすると、やはり姫に止められた。

 

 おいおい。姫の前で女を犯したことはないだろ。なんで分かるんだ? また禁欲かよ。堪らんな。

 

 仕方ないので筋トレする。

 旅の間で気づいたが、三人娘は俺が持つのと同じ指輪を持っているのだし、それを使えば更に負荷を掛けられるはずだ。その予想は当たっていて、指輪を要求すると背中や肩に乗ってこられた。

 いや指輪を寄越せよと思うが、邪険にできない。三人娘を乗せたまま筋トレをする毎日をこの一年は送っていた。それはもはや日課になっていて、俺は今日も三人娘を乗せて筋トレした。

 

 そういえば、この女達の名前を知ったんだった。

 

 金髪がスルーズ。赤髪がヒルド。黒髪がオルトリンデというらしい。ヒルドが何度も耳元で名前を言うもんだから覚えてしまった。が、呼ぶ気はない。

 コイツら指輪だけ置いて帰ってくんねぇかなとずっと思っているのだ。抱けない女を傍に置く趣味はないのである。だが帰ってくれない……そろそろ我慢の限界だぞ、ご老人よ。この女どもが関係者なら早く連れて帰ってくれ。性欲の我慢は体に毒なんだぞ。

 

 そんなこんなで筋トレだけして一年がまた過ぎた。姫はこの集落に定住する気らしい。姫も肝が逞しくなったもんで、集落で一人の男を気に入り婿にしていた。ん、婿? 嫁に行くんじゃなく?

 なんと姫は、この一年で集落を乗っ取っていた。村長の座についたらしく、全員が姫に従っている。俺の存在を利用したんじゃないのに凄いな。捕まえた男とも恋愛の末に結ばれたらしく、愛し合っているのが分かる。シグルドとその女を見たことがあるから分かった。

 ふーん。ま、姫が幸せならそれでいいさ。恩は返せたな、よし!

 結婚式っぽいことをしてる姫を見守る。姫は笑顔で、婿も照れくさそうにしている。二人は最後に俺の所に来て、なんか言っていた。婿は姫を幸せにしますとでも言ってるのか? 分からんが頷いておいた。姫も笑顔で俺に抱き着いてきた。

 

「………」

 

 姫が、びっくりしている。

 細心の注意を払って、姫の頭を優しく撫でたのだ。そして、微笑んだ。

 どちらも今生だとはじめてのことで、我ながら似合わんことをしたと思う。

 だが姫は喜んでくれた。なら、いい。俺は婿の目を見た。幸せにしろよ。裏切ったら殺す。

 婿はブルリと震えたが、逃げなかった。よろしい。いい男だ。裏切りフラグは少ないと見てやる。

 

 その日は飲めや歌えやの大騒ぎ。姫も酒を飲んで上機嫌で、婿にしなだれかかり眠ってしまった。

 それを見届け、俺は集落を後にする。

 

「………」

 

 チッ。スルーズ達を置き去りにするつもりが、すぐついて来やがった。

 三年か。二年を姫と旅をして、三年目は姫が結婚するまでを見届けている。我ながら穏やかな時間を過ごしてしまったものだ。俺も丸くなったかな? と四年目にして隣国に辿り着き、ちょっとした規模の町で略奪しながら思った。

 奪った酒を飲み、肉を食い、町で一番の女を犯す。邪魔する奴は皆殺した。甘くなったな。昔の俺なら火をつけて火に呑まれる町の光景を楽しんでいたというのに。姫の穏やかさに当てられたか。

 

 久しぶりに女を楽しんだ。町一番の美女は十発目で死んだから、二番目の美女まで犯し殺してしまった。久々にスッキリして筋トレに集中できる。

 気ままに旅をしていると、時々国の戦士や荒くれ者っぽい奴らに狙われた。俺を明らかに狙っていたから、悪さをする俺を懲らしめに来たのかもしれん。相手にならんが。

 しかし、女でスッキリしたせいで思い出してしまった。

 

「シグルド」

 

 そういえば決着をつけていない。どちらかが死ぬまで戦いたい。俺は最後に戦った時よりもまたまたさらに強くなったぞ。今なら勝てる気がする。

 俺は次の町で攫った女を犯しながら訊いた。

 

「シグルド」

 

 と。アイツは絶対有名人だからな、聞けば分かるだろう。

 そう思っていたが、女は泣いている。いや鳴いている。仕方ないので情事が終わってから訊くと、女は泣きながらも戸惑っていた。

 何度でも訊く。シグルド、と。シグルドの居る国に案内しろと身振りで急かした。女は戸惑いつつ何かを言ってきたが理解できん。執拗に繰り返す俺に根負けしたのか、女は俺を案内した。

 

 半年掛けて女を連れ回すと、見たことのある景色の所に来た。ああ……懐かしいな。以前国王に連れられて侵攻した時に見たシグルドのいた国だ。

 女を解放してやる。気分が良くなったからだ。

 俺は堂々とこの町のお偉いさんがいるところへ向かう。すると何人もの戦士が俺の行く手を阻み、全員を殺した。

 

「シグルドォ!」

 

 吼えた。

 俺が来たぞ。此処に来て俺を止めないとこの国をグチャグチャにするぞ!

 殺気を込めてシグルドの名を叫ぶ。

 するとまた戦士達が来て――隊長らしき奴が、俺を見て顔を青くした。

 俺を知っているようだ。

 

「へ、ヘルモーズ……!?」

 

 ニヤリと嗤う。俺を知ってるなら都合がいい。結婚式の日に姫に突っ返された青いマントを翻し、白銀の大斧を携え、銀の艶を帯びた白髪を後ろに撫でつけながら歩み寄る。ズシン、ズシン、と足音を響かせた。俺の筋肉密度は我ながらえげつないぞ。身長に変化はないし体型も変わっているようには見えないが、体重はおそらく300キログラムは超えている。凄いね人体(きんにく)

 

「シグルド!」

 

 シグルドを出せ!

 大斧を突きつけて要求する。

 俺の戦意を見て、俺がシグルドと戦いに来たのだと悟ったらしい。

 なぜか――その戦士は絶望した顔になった。

 

 なんだ……?

 

 戦士は部下に何かを命じ、部下は走ってどこかに消えた。増援でも頼むつもりか? それともシグルドを呼びに行ったか。どちらでもいい、どうあれ殺すだけだ。

 特別に待っていてやると、青い顔の戦士が青い顔のお偉いさんを連れてやって来た。

 は? と顔を顰める俺に、お偉いさんは青褪めながらも毅然と何かを言い、俺に背中を見せた。

 ほう。俺について来いと? いいだろう。

 大人しくついていってやった。待っているのは罠か? なんでもいい。さあどこにでも連れていけ。シグルドがいるならなんの不満もないぞ。

 

 そうして連れてこられたのは、霊廟だった。墓だった。

 

「………?」

 

 なんだ? 何がしたい。俺は墓参りなんかする趣味はないぞ。

 

「シグルド」

 

 身なりのいいお偉いさんが、墓を指差して名を言う。

 

「は……?」

 

 声が漏れた。

 何を言われたのか脳が理解を拒んだ。

 

 何度もお偉いさんと墓を見比べる。

 

 これは……誰の墓だ?

 

「シグルド」

 

 嘘だ。アイツは強い。俺の筋肉の次ぐらいには。

 そんなわけがない。死んでるわけがない。死……? いやいやそんなアホなことがあるか。

 シグルドの傍にはあの女もいたはずだぞ。あの女はどうした?

 お偉いさんの頭を裏拳で消し飛ばす。さあ殺したぞ。戦いだぞ、シグルド。

 お前以外の誰が俺と戦える? あの女と二人でかかってきていい。さっさと来い。ここで待っていてやるから。

 

 だが、来ない。戦士達が様子を見に来て、お偉いさんが死んでるのを見て気色ばみ、殺気立つのを無視してシグルドを待った。

 しかし、どれほど待ってもシグルドは来ない。

 仕方ないから虐殺してみた。周辺に居る全てを殺した。

 来ない。

 シグルドが、来ない。

 墓に戻り、墓を暴く。中には――魔剣があった。翡翠の大剣だけが唯一残った遺品のように。

 

「…………」

 

 まさか。

 

 まさか、本当に……?

 

「し、シグルド……」

 

 俺は茫然と、その場に立ち尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヘルモーズのいた国
 ヘルモーズの死を待つまでもなかった(抑止力)

名無しの戦士
 四年間行方不明で、死んだと言われていたヘルモーズがいきなり現れ。
 その四年間であった国のゴタゴタした陰謀でシグルドが死んでいた時の心境を答えよ。

シグルドの国
 ヘルモーズのいた国に策を仕掛け、まんまと国王を暗殺成功。
 ヘルモーズも死んだと報告されていた。

シグルド
 終幕。

ブリュンヒルデ
 終幕。


 ヘルモーズに関わって明白に幸せになった数少ない人。勝ち組のままフェードアウト。

ヘルモーズ
 シグルドが主人公の『ヴォルスンガ・サガ』における最大最強の敵。
 結局倒せなかったから策略で謀殺したはずの敵役で、シグルドの死後に彼の国を訪れてくる。
 好敵手シグルドの死を知ったヘルモーズは茫然自失とし、シグルドのいた国に居座ることに。
 何もかも(筋トレ以外)に萎えて気力が失くなっている。
 気力が回復するまで大人しくなる模様。たぶん存命者の中で一番シグルドの死を悲しんでる。
 俺が殺したかったのに! と。

 なお女は普通に犯す。原作キャラとかお構いなし。コイツに負けた女は生きてたらヤられる。なんせ美人しかいないので。子供でも関係ない。
 FGOだとマスターが女の子だったらやっぱりヤられる。マシュも危ない。ダ・ヴィンチちゃんもヤバい。敵も味方も全員ヤバい。なので強制退去待ったなしになるかもしれないが、マスターがパーフェクトコミュニケーションをしたらなんとかなる可能性も無きにしも非ず。その場合被害はマスターだけに。
 女の子が呼ぶべきじゃない奴ナンバーワン。マスターが男の子だったら女サーヴァントにタゲが移る。男マスターがマシュを庇えばマシュだけセーフ。

 ちなみに令呪は効かない。筋肉は自由だ。

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