夢を見た。
シグルドが知らん女に横恋慕され、忘却薬を知らずの内に飲まされてあの女――ブリュンヒルデというらしい――のことを忘れ去り、政略結婚として横恋慕してきた女と結婚した。
ブリュンヒルデはシグルドに捨てられた、裏切られたと思って絶望した。そんな中で知らん男に横恋慕され、求婚されるも拒絶し、試練を乗り越えないとダメだと告げる。殺す気で無理難題を出すも男はシグルドに頼んで、シグルドはその男に変装して試練を突破。男はブリュンヒルデを娶るも、あの女は狂乱してその男と横恋慕女を関係者含めて皆殺しにした。
そして、シグルドは義務感でブリュンヒルデと戦おうとして――ブリュンヒルデになぜか魔剣を向けられないまま、忘れてしまった愛した女に殺された。そうして虚無の中にいたブリュンヒルデは火葬されるシグルドのいる火の中に身を投じて自殺したのだ。
夢から覚める。
見れば、隣にいつもより更に機械的に無表情だった、スルーズやヒルド、オルトリンデがいた。
俺が目覚めたのを見ると、顔に血が通ったように緩まる。だがスルーズ達の顔は悲しげで、目の端に涙を浮かべていた。――どこかブリュンヒルデに似ている気がしていたが、もしかしたらコイツらは姉妹なのかもしれん……ハッ、そんなもん今更どうでもいいがな。
今の夢は、魔術か。はじめて食らったな。今まで魔術の類いは筋肉で弾いてきたし。いや、俺がコイツらに気を許していたから通したのかもしれん。俺は無意識の内に、いつの間にかコイツらに気を許していた。コイツらの機械的な様子が気に入っていたのだと自覚する。
機械も人を裏切らないからだろう。裏切ったように見えた時は単なるヒューマンエラーが原因だ。
となると、今のがシグルドの死の真相というわけか。
――くだらねぇ。どっちも裏切られて死んでんじゃねぇよ。
得体の知れない怒り、失望、呆れ、諦め。ぐるぐると胸の中で、前世の最期に覚えた絶望に似た感情が渦を巻いている。シグルドは薬のせいとはいえ愛する女を裏切り、周りは恩義ある英雄シグルドを裏切り、ブリュンヒルデはシグルドの愛が失われた元凶を知らないままシグルドを殺したから裏切っているようなもんだ。薬で忘れたなら、何かの薬か魔術で思い出させることも出来るだろうと俺でも想像がつくぞ。短慮過ぎるし、自殺した流れもシグルドを裏切っている。アイツなら自分の死後も幸せに生きて欲しいと願うんじゃねぇかよ。馬鹿が、馬鹿共が。人間はやはり裏切る。他人を信じるからそうなるんだ。俺に殺されてた方がまだ戦士らしくて良かったんじゃねぇか?
むしゃくしゃする。腹が立って仕方ない。だが、何もする気になれん。俺はシグルドの墓のある廃墟の町から立ち去った。シグルドの魔剣を盗んで。
別に俺が使うつもりはない。ただこのまま墓に置いていても、いずれ墓荒らしかなんかがシグルドの魔剣を盗むだろうと確信し、そうなるぐらいなら俺が持っていた方がマシだと思っただけだ。
どこに行こう。悩みながらテキトーにほっつき歩いていると、スルーズ達が俺の周りを飛び、先導しようとするかのようにどこかに向かっていった。なんだ? いや……目的もねぇし、たまには連れて行かれてやるか。そう気まぐれを起こした俺の肩にヒルドが乗る。
泣いていた。声はないし、涙も流してないが、そんな気がする。先導するスルーズも、隣にいるオルトリンデも。チッ……辛気臭いったらねぇな。機械っぽさを気に入ってたのに、急に人間っぽくなりやがって。そんなにブリュンヒルデが死んだのがショックだったか。
目障りだ、と思えないのは……悲しむ三姉妹が、国王が死んだ時の俺を思い出させたからだ。ますます不愉快になる。苛立つ。結局何もしないまま、俺はスルーズに導かれるまま別の城に来た。
そこにいた男を指差される。俺に何をさせたい? まあいい。男に歩み寄ると、ソイツは俺のことを知っていたらしく恐怖で震えたが、俺が魔剣を持っているのを見て顔色を変えた。なぜか決死の表情で剣を持ち斬りかかってきたが普通に顔面を掴んで握り潰してやる。
雑魚だな。だが、嫌いじゃない雑魚だ。俺を誰か知った上で挑んできた奴は雑魚でもいい戦士だと認めはする。俺が雑魚を殺すと、オルトリンデが一つの竪琴を抱えてきた。鬱陶しい。俺は楽器なんか弾かねぇよ。煩わしくて裏拳を振るうと竪琴が破壊された。
すると、中から一人の女のガキが出てきた。
あ? なんだ……コイツ。女のガキは目を白黒させて俺を見上げている。
誰かに似ていた。いや、はっきり言ってブリュンヒルデに似ている。これは血の繋がりを感じた。まさかシグルドとブリュンヒルデの娘か?
「シグルド。ブリュンヒルデ」
名前を言うと、メスガキは目の色を変えた。何事かをまくし立てる。この反応からして、本当にあの二人の娘であるような気がした。
スルーズを見る。頷かれた。
ヒルドを見る。微笑まれた。
オルトリンデを見る。懇願するような目だ。
舌打ちする。ああ、そういうことかよ。ブリュンヒルデの娘が、こんな竪琴の中に身を置かれているのが哀れで仕方ねぇってか? ハッ、だからって俺みたいな奴に預けるとか頭沸いてるだろ。
ま、いいさ。俺は喋り疲れて肩で息をするガキに言った。
「シグルド」
翡翠の大剣をガキに押し付ける。すると虚を突かれたような顔をして、ガキは目ん玉が零れそうなほど目を見開き、すぐにその魔剣がなんなのかを悟ると大事そうに魔剣を抱き締めた。
じゃあな。竪琴から出してやったし、遺品も確かに渡した。これでいいだろう。そう思って立ち去ると、なぜかガキはついてきた。……あぁ? 見ると、ヒルドがガキの背中を押して、俺に付いていくように促しているようだった。何してんだコイツは……。
「ヘルモーズ」
覚悟を決めたように切りかかられる。は? いや効かんが。お前より遥かに強い父母より強いんだぞ俺はよ。そんな俺にシグルドの魔剣を使っても傷なんか付けられるわけねぇだろうが。
だが傷が付かないと見て、ガキは変な喜び方をした。本物の有名人に会ったミーハーな女みたいに。なんだこのガキ。訳が分からん。分からんが一回だけ切りかかってきたことを許してやる。殺気がなかったからな……なんかを試して確認したかったのか?
なぁんかやる気出ねぇし許す。ヤる気になったらヤるが。そろそろ萎えていた心も復活しそうではあるから、付いてくるならそのうちヤるぞ。いいのか? いや言葉は通じねぇけど。
ガキは付いてくる。スルーズ達が世話を焼いていた。そして俺のことを話している。犯していない女がガキ含めて四人も居るのは、姫と旅していた時以来だ。なんだか複雑な気分である。
「アスラウグ! アスラウグ!」
ガキが名前を連呼する。分かった分かった、耳元で叫ぶな。アスラウグな、覚えたよ。
なんで付いてくるんだ。俺といてもつまらんだろうに。
俺はシグルドのいた国の首都に来た。誰も彼もが止めようとしてくるのを振り払う。邪魔するなら殺すだけだ。殺気を放つと腰抜け共は退いたが、何割かは挑んでくる。勇敢な奴は全員殺した。すると後に残るのは腰抜けばかり。誰も俺の行く手を遮らない。
首都に行きテキトーな家屋を選んで住みこむ。住人は追い出した。腹が減ったらお偉いさんのところに行き飯を奪い、酒を奪う。邪魔した奴は殺した。筋トレする。奪う。休む。寝る。筋トレして奪い休み寝た。これを毎日繰り返していると、アスラウグが魔剣を持って何かを要求してきた。なんだ? 誘われるまま広い所に行くと、今からいくぞと身振りで示された後切りかかられる。
は?
デコピンしてふっ飛ばしたら気絶していた。よっわ……雑魚が挑むんじゃねえよ。時間の無駄だ。
また同じような日々を過ごす。またアスラウグが挑んでくる。今度はビンタしてブッ飛ばした。
筋トレで筋肉を高める毎日。懲りずにアスラウグが挑んでくる。
気に入った。いつも正面から来るのが特に。
気に入ったから顔面を
そうだ。そういえばアスラウグはあの二人の娘だったな。筋も悪くない。ならいずれあの二人並みに、もしくはあの二人以上に強くなる可能性はある。いいなぁ、それ。実にいい。
俺はいつでも来いと、アスラウグの頭を掴んだ。撫でられたと思ったらしいが、違う。頭を揺らして脳震盪を起こさせ寝させたのだ。今は筋トレ中なので邪魔だったのである。
翌日からスルーズがアスラウグに魔術を教え、ヒルドが魔剣の扱い方をシグルドの名前を出しながら教えて、オルトリンデはアスラウグの訓練相手になっていた。そしてアスラウグが俺に挑む時はまるでセコンドみたいにバックについて助言や指示を飛ばしている。
なんだか愉快になってきた。むくむくと股間がいきり勃つ。アスラウグが俺に負けたらまずはお前だぞスルーズ。ヤる気がもりもり湧いてきたのだ。気づいたスルーズが固まっているが知らん。
アスラウグを返り討ちにして気絶させている最中、スルーズを引きずって褥に入る。本当に久しぶりの女である。ご老人には悪いが五年以上我慢したんだから許してくれ。俺がこういう奴なんだと知ってるはずだからな、スルーズ達も含めて。
スッキリはしないし物足りないが、スルーズを壊す気はない。ガクガクと脚を震えさせ、内股になったスルーズは熱を入れてアスラウグに指導をしはじめてガキを困惑させていた。
次はヒルドだ。返り討ちになったアスラウグが目を回している内に褥に連れ込むも、スルーズと違い意外と乗り気だ。この分だと普段から誘えば抱けたなコイツ……損をしていた気分になった。
次はオルトリンデ。コイツも逆らったり抵抗したりはしない。締まりがいいな。耐えている顔が特にいい。単純に可愛らしい。俺の筋肉の次に。
以降はスルーズ、ヒルド、オルトリンデと、ローテーションを組んで順繰りに抱いた。たまに三人纏めて犯し倒し気絶させたがまだ物足りん。我慢できないほどじゃないが、40近いオッサンになったのに性欲が若い頃より激しくなっている気がする。筋肉が躍動するからか? 分からん。
そうした平穏で肉欲に塗れた毎日を送って数年が経った。俺は50手前だ。だがまだまだ元気である。筋肉は衰えていない。むしろ進化している。
いつしかこの国は俺がいるのを受け入れていて――諦めたとも言う――俺が略奪に出る前に色んな物が自主的に提供されるようになった。中には毒もあったりしたが効かんので無視してやった。魔術師の霊薬やらなんやらで殺したり操ったりしようとしていたらしいと、オルトリンデ達に夢を見せられて知ったが放置する。んなもんが俺の筋肉に効くわけねぇだろう。
ある時のことだ。
代替わりしたお偉いさんが俺の所に来て頭を下げた。金銀財宝を捧げてきている。俺は黙っていたがアスラウグが応対し、なんでか快く引き受けたみたいな空気になっていた。
なんなんだ。意味が分からず黙っていると、その日の夜にまた夢を見せられる。俺に話を理解させるために夢を見せる流れはそろそろやめろ。どうでもいいんだよ、他人の話なんざ。
だが見ちまったもんは仕方ない。どうやらこの首都の外に悪竜現象で邪竜になった奴が出たそうだ。ソイツを俺に退治してほしいらしい。悪竜現象……? なんだそりゃ。分からんが、竜が出たという理解でいいのか? だったら最高だな。俺が覚えている竜ってのは、昔の俺が1000発殴ってやっと殺せた奴である。いいねぇ、やる気が出てきたぞ。
ウキウキしていると、ヒルドが夢の中で言った。コイツは抑止力だね、と。ヘルモーズを殺そうとしてるんだ――とか言っていた。ははぁ。つまり俺が此処にいるから邪竜も此処に現れたってことなのか。周りの奴らは巻き込まれて可哀想である。引っ越しはしないがな。
で……抑止力ってなんだ? なんでもいいか。俺を殺そうとする敵だということだけ分かればいい。殺せるもんなら殺してみろ。俺は筋肉で受けて立つ。
城の外に出て暫く歩くと、俺のことを待ち構えていたらしい邪竜が湖の畔にいた。
あぁ……コイツは強そうだ。昔1000発殴って殺した奴よりもずっと。だが、いいのか? たった一匹で来てよ。今の俺は昔の俺より百倍強い。筋肉がそう言っているから間違いない。
咆哮する邪竜の大きさは城サイズ。ハッハ、こいつはご機嫌だな。吼えただけで湖の水が弾け飛んで辺りに雨として降り注いでいる。あんまりにもデカい声量で雑魚どもなら肉体が破裂していただろうよ。俺の筋肉には効かんが、久しぶりに血湧き肉踊る。
歓喜の雄叫びで応えてやった。流石に声量では劣ったが俺の周りに降る局地的な雨は蒸発する。なんか付いてきていたアスラウグが耳をふさいでいた。魔法文字で防護しはじめている。
ハッ、殺る気で来たらしいが、今回は大人しく見てろ。今日は俺の本気を見せてやるぞ。
いきなりよく分からん青い炎の息を吐き出されたのを大斧を投げつけて相殺しながら突っ込む。炎の余波が熱い。服が燃えた。やべぇ、俺の一張羅が! 怒りの鉄拳を顔面に叩き込むと邪竜の首が跳ね上がり、巨体が宙に浮いた。すげぇな、死なねぇのかよ! 牙も折れてねえなんて最高のサンドバッグだ!
辛うじて無事だったマントを外してアスラウグに投げ渡し、全裸にさせられたまま躍り懸かる。反撃の尻尾の薙ぎ払いをまともに受けて吹き飛んだ。痛ぇ……シグルドの必殺技並だ! いいねいいね、期待通りだ。なかなかいい筋肉してるぞ、俺の次になぁ!
嗤いながら叫ぶ。来い! 大斧が飛来してくるのを掴み取り、雄叫びを上げながら突撃した。強靭な腕で殴られ、爪で掻き毟られ、尻尾で突かれたり薙ぎ飛ばされる。痛ぇ痛ぇ! 顔面に頭突きとかその図体でよくもやるもんだ。鼻血が出たのも久しぶりだ、ブリュンヒルデの槍並に痛いぞ! テメェの炎でほんのり火傷もしてる! 俺の筋肉にダメージを通すたぁやるじゃねぇかよ!
だがなぁ、それだけしてこの程度か? 所詮は蜥蜴頭だ、俺に力で挑むたぁ馬鹿にしてくれる。力は俺の土俵だぞ。力でこの俺に勝てるわけがない。力でだけは誰にも負けない。俺は狂喜しながら蜥蜴頭を殴りつけ、薙がれる尻尾を掴み振り回して大気圏の向こうまで投げ飛ばしてやった。宇宙から帰ってこれるか? 普通に帰ってきやがった! 摩擦熱で炎を纏い隕石みてぇになって俺に突撃して――直撃された。音より早く光に迫る速さは躱せなかった。はじめて血反吐を吐く。ああ、なるほど、お前が天だったか。大地は割れる、なら次は天を殺してやるよ。
――炎の海に呑まれ灰燼と帰していく一帯の中、大気を振動させる雄叫びと咆哮が二重に轟く。大地が超人の足撃により揺れ大地震が起き、邪竜の超質量の突貫で北欧世界が悲鳴を上げた。
人々は恐れた。ついにラグナロクが始まったのかと。神々が最終戦争に赴いたのかと。
だが違う。これは一体の邪竜と一人の人間による死闘の余波。見守る戦乙女達と大英雄の娘の前で。恐れ知らずの吟遊詩人の目の前で、たった二体の怪物による世界大戦が繰り広げられた。
「ギャァァァッハハハハハハハ――――!!」
蛮人。否、蛮神の哄笑が響き渡る。全身から血を流す様はまさに狂気の神。人とは思えぬ戦の暗黒面としか映らない。だが対する邪竜の強大さ、巨大さが巨人の如き巨漢の勇姿を光に魅せる。
大英雄亡き後、大英雄最大最強の宿敵だった反英雄は、この時まさに北欧世界に冠たる英雄だった。邪竜の首に組み付いた悪の光は大斧の柄を使い首を締め付ける。苦しげに暴れる邪竜だが、悪の光と化した暴虐の化身を振り払えない。苦し紛れに邪竜が炎を溢れさせる。口からではない、全身の鱗の隙間からだ。さながら地上の太陽の如き有様に、蛮神から絶叫が迸る。
僅かな力の緩みを感じて邪竜が暴れる。振り払われた蛮神が地面を転がり、一度距離が空いた。
蛮神は満身創痍だった。一度も躱さず、全ての攻撃を受けていたのだから当然だろう。だが相対する邪竜の方が弱っていた。首の骨が砕けかけている、尻尾は半ばから千切られている、片翼は根本から切断され、片目は拳で潰され刳り出されていた。
「ハハハハ」
地上に残る最強の勇士は嗤う。今まで経験したことのないダメージを負っているのに怯みもしない。ただただ愉快げに笑い、暴虐の気配を衰えさせない。
頑丈な大斧は半壊していた。両刃が片刃になり、それも罅が入っている。だが激戦を繰り広げたせいか、それとも生ける超越者の戦意が乗り移っているのか、半壊した戦斧の威容は異常だった。
邪竜は竜の誇りにかけて怯えない。逃げ去らない。最強の生命体である竜種としての意地が人間からの逃走を赦さない。嬉しそうに超人は犬歯を剥く。だが、反英雄ヘルモーズは言った。
――テメェよりシグルドの方が強ぇな。
シグルドの剣撃、拳撃、蹴撃、必殺技。その悉くを受け止めてもほとんど流血したことはない。対して邪竜との死闘の中で猛攻を受け、満身創痍となっているのに宿敵の方が強いと彼は思う。
美化された思い出補正か? いいや違う、断じて違う。
なぜならシグルドと戦っていた時の方が手こずった。勝てるビジョンがなかなか見えなかった。勝利とはすなわち殺害であり、殺害の能わなかった場合は負けであると彼は個人的に考えている。
故にシグルドの方が邪竜より強い。なんせ、蛮神は最初からこの邪竜を
決着の時だ。悪の光ヘルモーズが跳躍する。邪竜は魔力炉心を全力稼働させ迎撃した。迸るのは血の混じったドラゴンブレス。喉から血を溢れさせ、自傷の激痛に耐えながらの決死の攻撃だ。
それをヘルモーズは避けない。避けないことが美学なのではない、防がないのが誇りなのではない、単に防いだり避けたりする必要性を感じていないだけだ。今までで最大の火力を叩き出した邪竜の魔力息の只中を突っ切った蛮神は黒焦げになっている。だが動く。ぎょろりとした白目から血涙が溢れ、渾身の力で皹が入っていた邪竜の頭蓋を戦斧が叩き割った。
食い込んだ刃が邪竜の血を吸う。白銀の光を放つ大斧は獲物の血に歓喜しているかのようだ。よろめいた邪竜の顎を掴み、無理矢理こじ開けたヘルモーズが口内に侵入した。黒焦げている体皮は暗黒の如し。死力を尽くして再び炎が吐き出されるのに構わず体内に侵入した反英雄が、邪竜の腹の中に落ちて中身をグチャグチャにかき回す。
断末魔が轟いた。生きたまま内臓を破られ、心臓に辿り着かれた邪竜はのたうち回る。魔人としか言えない悪逆の英雄は心臓を貪り、骨を引き抜き、血を啜り、哄笑を迸らせながら逆流して邪竜の脳まで泳いでいく。桁外れの生命力のせいでまだ生きていた邪竜は地獄の苦しみの中にいたが、脳を食われた末にやっと絶命することが出来た。
巨体が倒れ、軽い地響きを起こす。遺骸から這い出た全裸のヘルモーズは、類稀な邪竜の生命を吸い取ったように全快していた。
しかし流石に疲れたのだろう。駆け寄る戦乙女たちを見て、フッと意識を失い倒れ伏す。
斯くして人竜死戦は決着した。世界の遣わした強大極まる竜が、一度ならず二度までも、たった一人の人間に敗れ去ったのだ。
意識を失ったヘルモーズを、戦乙女達は家へ連れ帰る。人間たちは生きて帰った反英雄を、意識がない内に殺してしまおうと試みたが、彼を守護する戦乙女に撃退された。
尤も……仮に守られずとも、誰も眠るヘルモーズに傷を付けることはできなかっただろうが。
翌日、なんてことのないように目を覚ましたヘルモーズは、久方ぶりに本気で暴れられて機嫌を良くしていたらしい。以後はこの国の周辺に蔓延る魔獣の類いを、誰に頼まれることなく積極的に狩り殺していく。自然と安全になった首都周りは栄えていくことになり、当時の王は家臣ともども酷く困惑させられることになるのだった。
そうして、更に十年が過ぎた。
この時、ヘルモーズは60歳だったという。しかし十年前から老いず、衰えない。意気軒昂、精力絶倫にして無双の戦士は、穏やかで肉欲に塗れた毎日を過ごしていたという。
だが、彼の物語はまだ終わっていなかったと詩人は詠った。
何も情勢を知らぬ大英雄の許に、国の王から遣いが訪れたのだ。
遥か遠方から襲来し、ローマをも破った蛮族の王が来たというのである。何を言われているか理解しないまま、しかし何者かの気配を感じて興味を抱いた蛮人は招待に応じて出向いていった。
果たしてヘルモーズは二度目の――否、戦乙女達や宿敵の娘を含めたら三度目の運命の出会いを果たす。
かつてシグルドのいたこの国に、
蛮族と歴史的大蛮族が、同じ時代、同じ地域で出会ってしまった。
スルーズ・ヒルド・オルトリンデ
遂にヤられる。
むしろ戦乙女的に誘ってたから「やっとか」感が強いという。
ラグナロクが近い。
アスラウグ
なんか拾われた。ついていった。敬愛する父の魔剣を貰えて嬉しい。
諸事情で親を知らないせいか、親のようにヘルモーズを見ている。
が、十年経って大人になると、上三人が盛ってるのを知りモヤる。
養父兼師だが、戦乙女の血のせいで養父が一番の男に見えている。
実は一番倒錯した感情を持て余していたり。
アッティラ(アルテラ)
来ちゃった。
世界的大蛮族の長。王。実は何気に同じ時代の人物。
長生きしてたら出会っちゃうのだ。
ヘルモーズ
シグルドの死の真相を知り激萎え。暫く大人しくなっていた。
が、色々あって、邪竜とか殺した辺りで完全復活。
しかし対応マニュアルが作られたから結果的に被害は最小限に。
女も戦乙女三人で満足(してない)
だが飢えてる訳でもないのでそそる相手がいない限り手は出さない。
そそる相手が来た。