蒼銀の蛮族、筋肉にて運命を破る   作:飴玉鉛

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今回は短い。


第6話

 

 

 

 

 

 

 国を出ることで惜しむものはなかった。

 

 大斧と青いマント、白い装束。いつもの格好でアッティラに付いていく。

 

 なんで誘われるまま付いていくのか。餌を貰った犬猫じゃあるまいし。

 

 些細な疑問は、上機嫌なガキ――アッティラを見ると氷解した。

 

 まあ、そうだろうな。コイツは一所に定住するような奴じゃない。

 

 本人が望んでるわけじゃあなさそうだが、フン族の王って立場の義務に律儀に従っている。

 

 コイツは放っておいたら俺の前から消える。俺との決着を付ける前に。

 

 ソイツは赦せない。もう二度と、俺は獲物を逃さないと決めている。

 

 俺はコイツを殺す。倒して犯して殺す。そう決めていた。

 

 だが。

 

 

 

 ――ヘルモーズ様。

 

 ――あー……ごめんね。あたし達はちょっとついて行けないかなぁ。

 

 ――ごめんなさい。スルーズも、ヒルドも、私も、行けません。

 

 ――私は行く。

 

 

 

 スルーズ達が申し訳なさそうに眉を落とし、謝罪して去って行こうとしたのには虚を突かれた。

 

 頼んでもないのにコイツらはいつも俺の傍にいた。当たり前に感じていた。

 

 二十年以上一緒にいた。なんで来ない。機嫌が悪くなる。

 

 

 

 ――私達はワルキューレです。勇士に傅き、仕え、ヴァルハラに導く役目があります。

 

 ――でも、ね。まあ小難しい話を抜きにして言うと。

 

 ――私達は、この北欧(セカイ)から出られません。出てはいけない。

 

 ――アッティラみたいな奴が一緒じゃないと貴方も出られないはず。私は半分人間で、ワルキューレの使命もないからついて行くけど。

 

 ――ちょっとアスラウグ? 自己主張強くない?

 

 

 

 何を言っているのか分からん。分からんでいい。だが俺に随行するのは無理だというのは解った。

 

 うるせぇ。ゴチャゴチャ喋ってんじゃねぇよ。雄弁な奴は嫌いだ。

 

 勝手にしろと思うが、はたと思う。俺も勝手だ。俺は自由だ。誰の指図も聞かん。

 

 

 

 ――あっ、ヘルモーズ様!?

 

 

 

 コイツらは三人で一人だ。一人捕まえるだけで充分。スルーズの腕を掴み無理矢理連れて行く。

 

 アッティラがいたらこの国から出ていけるってのはなんとなく分かる。ならコイツらも出させる。

 

 理屈だとか使命だとか知ったことか。今更お前らがいなくなってみろ、誰が俺に付き合う。

 

 女が壊れないか気にしながら抱くのは今更無理……じゃないが、面倒で抱き殺しちまう。

 

 

 

 ――ど、どうしよっか?

 

 ――どうしようも何も、スルーズが連れて行かれたら私達も……。

 

 ――待って。何か来る。

 

 

 

 あ? ()()()()()()()

 

 咄嗟に空を見上げて睨むと、二つの天が降りてきた。

 

 いつか見た隻眼の老人と、ハンマーを持った巨躯の男。

 

 

 

 ――お、オーディン様、トール様!?

 

 

 

 スルーズ達が慌てて跪く。だが俺は立ったまま。むしろ、苛立ちから殺気が漏れた。

 

 おい……誰だか知らねぇし興味もねぇが……誰を睨んでやがる?

 

 俺と同じぐらいデカい男は初めて見るしいい筋肉だが……スルーズ達を連れて行くのは許さんだと。

 

 目は雄弁だ。明確に俺を咎めてやがる。瞬時に殴り殺してやりたくなったがご老人が邪魔だ。

 

 

 

 ――久しいなヘルモーズ。

 

 

 

 チッ……なんのつもりだ。俺の邪魔をするのか?

 

 お前には指輪を貰った恩があるが……邪魔をするなら殺す。

 

 大斧を握りしめる。力が大斧に宿る。巨漢が前に出た。あぁ、お前が死ぬつもりか。なら。

 

 大斧で殴り殺すべく無造作に振るおうとした。

 

 瞬間、一瞬で迫った巨漢のハンマーが俺の横っ面を殴打する。

 

 

 

 ――ヘルモーズ様!?

 

 ――ヘルモーズ!

 

 

 

 吹っ飛んだ。意識が一瞬途切れ、城壁に激突して止まる。

 

 崩れ落ちた城壁を蹴散らしながら飛び出た。

 

 血だ……右の眼球が破裂した。奥歯も砕けている。頭蓋骨も陥没した。

 

 治る。便利な体になっちまったもんだ。

 

 ハッハ……だが効いたぞ。今までで一番。たった一撃、しかも軽く殴ってこれか。

 

 だがなぁ……お前、愉快じゃねぇ。殺すぞ、天。

 

 

 

「どうしたヘルモーズ」

 

 

 

 待ちかねた様子のアッティラが来た。

 

 なんでもねぇ。待ってろ。すぐコイツを殺して行く。

 

 

 

「ああ、ソレが邪魔なのか。手を貸そう」

 

 

 

 要らねぇ。黙ってろ……とは言えねぇな。

 

 なんてーか、あぁ、癪だが認める。今はまだ、コイツの方がいい筋肉だ。

 

 格上の筋肉なんざガキの頃以来見てなかったがな……殺せるならなんでもいい。手ぇ貸せ。

 

 

 

「良くわからないが、私の妹とヘルモーズを引き離すのは悪い文明だ。破壊する」

 

 

 

 ――待て。

 

 

 

 ご老人が何かを言う。なんだ?

 

 

 

 ――おまえ達と事を構えるのは本意ではない。

 

 

 

 分からねぇ。何言ってんのかさっぱりだ。やっぱアッティラの時みてぇには分からん。

 

 

 

 ――ワルキューレを連れて行かせるわけにはいかない。他所との間に摩擦が出る。ひいては人理に正しようのない歪が生まれ、特異点と化すだろう。人間であるお前とは訳が違う。どうしても連れて行くというのなら仕方ない、そのワルキューレの姉妹達に自壊命令を出さざるを得なくなる。

 

 

 

 分からん。分からんが、不快だ。何を上から目線で言っている。

 

 ああ、だが、そうだな。脅されてるのは……解った。

 

 恩がある。恩があるが……チャラだ。脅してくるなら、敵だ。

 

 頭ぁ良さそうだなぁ、ジジイ。バカな俺には分からんことをできるんだろ。

 

 だが俺は頭の良い奴の頭を叩き割るのが大好きでな。

 

 ……ああ、賢いお前の脳を地面の染みにしてやる。

 

 今じゃない。今じゃないが、いずれ必ずだ。

 

 その前に。

 

 俺は地面に大斧を突き刺し、筋肉に歩み寄る。両手でゆっくり掴み掛かり、男は応じた。

 

 手と手で取っ組み合う。力を込める。握力を、足腰を、背筋を、筋肉を、全力で。

 

 

 

「グゥぅうううう!!」

 

 

 

 屈さない。俺の力を受けて苦痛に顔面を歪め膝を地につき握り潰されねぇ。

 

 強い。いい、筋肉だ。奴も力を出している。痛ぇ。しかも余力がある。

 

 屈辱。ああ、屈辱だ。俺より上の筋肉だと? まだ鍛えようが足りねぇってか?

 

 よりにもよって、今? 今俺より強い筋肉が現れる? ……ふざけるな。

 

 殺す。絶対に殺す。認めない。俺は俺より力で上回る奴を認めねぇ!

 

 限界を超えようと全身が呼応する。だが男は俺を投げ飛ばした。

 

 

 

 ――よせ。お前は殺すなとオーディンに頼まれている。

 

 

 

 あぁ? ……あぁ!? お前、手加減しやがったな。この俺に。

 

 グ、ググ……ッ。く、屈辱なんてもんじゃない。手加減……された。だと。

 

 ジジイが囀る。

 

 

 

 ――ラグナロクは起こる。だが予言が変わった。終焉が、予言が早まった。有りえない事だ。故にお前が永遠に流離うのは見逃せない。この娘達を取り戻したくば必ず戻れ。そして取り返せ。

 

 ――ヘルモーズ様……。オーディン様……。

 

 ――言葉が通じないふりはいい。だが理解するのだ。戻らねば、この娘達もラグナロクで永遠の死を迎える。抗うのなら戦え。戦って栄光を掴め。戦士であるならば。人界一の勇士として。

 

 

 

 言って……スルーズが、ヒルドが、オルトリンデが、ジジイとハンマー男と消えていく。

 

 待て! そう叫んだ。雄叫びだった。

 

 だが待てと言われて待つわけがない。消えた。三人とも。

 

 ……奪われたのか? 俺が? 今まで、誰にも、何にも、奪われたことのない俺が?

 

 奪われた。負けて奪われた。

 

 

 

「グ、ググ、グゥゥゥ……!」

 

 

 

 呻く。歯を噛み締め、唸る。今に気が狂うほどの怒り。

 

 大斧を引き抜く。天に投げつける。だが何にも当たらないで落ちてくる。

 

 吼えた。吠え猛った。

 

 ……いいだろう。俺は奪われたもんを奪われたままにはしない。取り戻す。殺す。

 

 まずはあの男からだ。その次にジジイだ。殺す。絶対に殺す。

 

 だが……その為には、強くならねぇとな。

 

 あの男よりも、もっと、もっと、もっとだ。もっと力を……!

 

 

 

「ヘルモーズ。強くなろうとしているのか」

 

 

 

 そうだ。

 

 

 

 ――私も付き合おう。大神と最強の神に挑む勇士などお前だけだ。私も付き合う。

 

「なら、今は去ろう。行くぞヘルモーズ」

 

 

 

 頷いた。

 

 待っていろ。筋肉を鍛え、必ず取り戻す。

 

 

 

「――オーディン」

 

 北欧最強の神格、武勇高らかなる偉丈夫は得物を肩に担いで大神に言った。

 自らの掌を見る。震えはない。しかし、感じたのだ。力を。分不相応の強大な力を。

 無愛想で無骨、男らしい男神が、珍しく笑みを浮かべていた。

 

「あれがヘルモーズか。()()()人間か。……なんの冗談だ?」

 

 笑わずにおれない。崇めるのではなく、殺す気で挑まれたのはいつ以来だ。それも人間相手に。

 最強。大神を、主神たるオーディンを差し置いて、最強の神の名を冠する神は苦く笑う。

 もしこの身が人間なら、あるいはアレが神ならば……己はアレより優越していたか。

 ありえぬし、くだらぬ夢想だ。だが正しく、アレは無双の勇士だ。人間世界(ミズガルズ)最強だと断じられる。

 

「断言しよう。オレやお前以外では……フレイ以外は後れを取りかねん。それほどだ」

 

 嬉しそうだなと言われ、雷神トールは失笑した。

 好敵手に恵まれぬ最強は、同じ出生なら好敵手たりえたかもしれないと夢想した、とは。口が割けても決して言えぬ妄想であると自覚していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 




スルーズ・ヒルド・オルトリンデ
 囚われのお姫様(戦乙女)
 実家に連れ帰らされた。

オーディン
 貸しを作っていたのを台無しに。
 強くなってもらわないと困るので別に困らない。

トール
 人間に生まれたかったのではない。
 神に生まれたかったのでもない。
 対等に戦える友がほしかった。
 叶わぬ願いである。

アスラウグ
 半分人間のお蔭でセーフ判定。敬愛する父に感謝。

アッティラ
 まだアッティラ呼ばわりを許容。名乗りもする。
 でもヘルモーズにアッティラと呼ばれるとモニョる(無自覚)
 遠距離恋愛と恋人同士を引き裂くのは悪い文明、破壊する。
 が、妹を人質を取られたので剣を引いた。

ヘルモーズ
 実は60歳。まだまだ元気だし全盛期。全盛期は更新されるもの。
 目標が出来た。最強の神を超える。
 人間には不可能である。
 でも蛮族だから無理とか分からないので挑むし手を伸ばす。
 世界一お姫様を助けるムーブが似合わない男。
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