リコリコの世界にモブキャラとして転生したら、全てのモビルスーツシリーズが造れる件   作:野薔薇ファン

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Episode 9 First work

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〜東京、とあるハローワークにて〜

 

 

 

 

「ありませんね。」

 

「…………え?」

 

 

 現在、ハローワークのカウンターの就職先相談所の前に座っている女性の言葉を聞いて、思わず疑問の声を上げる蒼夜。

 

「今の所、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。失礼ですが、暁月さんご自身の性格が原因かと思います。おそらくなんらかの前科者に疑われてしまう可能性もありますし.........なので、その性格を治してから、後日改めて来てくださいね暁月さん。」

 

「ーーーーーーはい……あ、ありが……とう……ご……ざいま……した……」

 

 と、言葉は相変わらず少ない彼は、ため息を吐き、そのまま建物の外に出た。今度こそ、ちゃんとした職に就こうと勇気を出してハローワークへ向かったが、結局答えはいつもと同じどころか、この先どこへ行っても仕事が見つからない可能性があると絶望を与えられてしまった。つまり、今の暗い性格ではどこも雇ってくれなさそうであった。

 

 

 

 

「ーーーはぁ.........くそったれ.........」

 

 

 ーーと、ため息の後、小さな暴言を思わず吐き捨ててしまった蒼夜。相談所で行った会話を思い出し、特に彼にとって一番傷ついたのは.........

 

『あの.....失礼ですが.....前科って持っていますでしょうか?』

 

 ーーなど、何故かいきなり前科持ち扱いされたのが精神的に傷を負ってしまった。

 

 そして疲れたのだろうか、急に体から疲れを感じてきた。疲れた体を癒すために、目先に見つけた夕暮れ時の太陽に照らされた公園のベンチに座る。

 

「(………ハアァァ………結局、ハローワークもダメかよ……)」

 

『ーーーそれでは、次のニュースです。』

 

「………ん?」

 

 と何か聞こえた蒼夜は、振り向く。目に入ってきたのは、高層ビルの上に取り付けられた大きなスクリーン映像。そこに映っているのは、とあるテレビニュース番組では、新人らしい若手のニュースキャスターがそんな事を伝えていた。

 

『先日の10式戦車改暴走事件で突如東京の街に出現した謎の巨大ロボット。これにより、政府は何も知らないと答えたのですがーーー』

 

「(あぁ………そういえば、まだやってたんだな。)」

 

 謎の巨大ロボについて語るニュース番組を観る蒼夜。スクリーンに映っているのは、10式改と戦うνガンダムと人命救助を行うジェガン達。あの事件が終えても、いまだにその話題が続いている。当然分かってはいたが。

 

「(あぁ〜〜何となく分かっていたけど……やっぱ目立つよね〜)」

 

 

『また、この巨大ロボ何ですか、専門の方によればーーー』

 

 

 ニュースキャスターが話している途中、画面が代わり、νガンダムが使うビームライフルやビームサーベルが映っていた。その映像を街の街中の人々が観ていた。彼らの反応は当然の如く様々だ。

 

 マジかよ、と疑う者。

 

 自分達が襲われるのではないかと不安がる者。

 

 現れた巨人に注目する者。

 

 宇宙人なのか、と想像する者。

 

 刺激を与えてくれる存在を喜ぶ者。

 

 ただ、この時点ではνガンダムやジェガン達を注目している人々は、多くいるだろうということは間違いない。また、日本だけでなく、世界中にも注目が回っているだろう。

 

 

『ーーーではここで、専門の方々に詳しいお話を聞きましょう。この巨大ロボについて、どうお考えでしょうか?』

 

『そりゃもちろん危険でしょ。しかも突然東京の街に突然現れ、しかもいきなり光線銃を使ったのですよ?明らかに不法入国と銃刀法違反でしょ。』

 

『ちょっと待てください!この巨大ロボは、街の人々を助けたんですよ!それにこの緑の巨人達も人命救助をしたと、現場に遭った人達からも聞きました。』

 

『それは違いますよ。そもそも、自衛隊の出動を待つべきですよ。』

 

『だったらどうして基地から10式改が脱走し、暴走し始めたのですか?そもそも、今回の事件について管理責任である自衛隊に問題があると私は思いますが!?』

 

『それはーーー』

 

 

 などなど……多数の考えを持つ専門の方々が語る。また、その対処法について多く上げられたのは、捕獲である。と言うより、日本政府が持つ考えだ。

 

「(捕獲か……ま、そりゃそうだよね……)」

 

 なんとなく分かっていた蒼夜。あれだけの迫力を世界中が見れば、そりゃ誰だって手にしたいと思うだろう。そう思った蒼夜は、今後も気をつけようと決めた所……

 

 

『ーーーではここで、事故に遭った人々について……』

 

「(............ん?)」

 

 ーーーふと、いつの間にか街中の取材をしているシーンへと切り替わる。映っているのは、先日の事件で会ってしまった人々達がいた。

 

 

《信じられませんよ……正直、今にでも夢だと疑うくらい。》

 

《私達を助けてくれた巨大ロボットは、きっと良いロボットなんですよ!》

 

《あのロボットがもっと早く出してくれば、被害が少なくなるんじゃねーのか?……えっ!?自衛隊のじゃないのかい!?》

 

《あのロボット……カッコイイ!!》

 

《緑の巨大ロボット達のおかげで、犠牲者が出ませんでした。本当に感謝しかありません。》

 

《あれは守護神様じゃ……本当に...本当にありがとうございます……》

 

 

 現実だといまだに信じらてない者。

 

 感謝する者。

 

 守護神だと勘違いする者。

 

 などなど……リポーターのマイクにそれぞれの人が答える言葉を聞いていると…

 

「(………よかった.......あの後無事だったんだな.......あの人達……)」

 

 結構目立ってしまったが、それでも多くの人々を救う事ができたなと喜ぶが、今の彼はそんな気持ちをしている暇などはない。

 

「(はぁ………でも仕事……どうしよう……)」

 

 どうやってこの世界で仕事を見つける事ができるのか……と、色々なことを思案している蒼夜の視界の端に、ふと街を探索しているときも度々目にした花のように朽ち果ている塔……“旧電波塔“が目に映った。

 

「………そういえば..…なんであんなの放置してあるんだろう……」

 

 

 

 

 

「それはね〜、今はあれ平和の象徴とか呼ばれてんだよ~全く平和とはかけ離れた見た目なのにね〜」

 

 

 

 

 

ひゃうぁっ!?

 

 

 

 

 

 

 っとその時、突如後ろから聞き覚えのある声に吃驚して、思わず何かの奇声の様な声を上げてしまった蒼夜は声の方向に首を向けてみると、そこに立っていたのは金のように見える白髪のショートカットの後ろに束ねられた髪をまとめるリボンと同じ色をした奇麗な赤い瞳の少女……錦木千束がいた。

 

「ヤッホ〜蒼夜君!また会いましたね〜」

 

「………」

 

「……あれ?お〜い、蒼夜く〜ん?」

 

「……はっ!?ち、千束さ、さん……」

 

「あ〜〜また()()()()!どうせほぼ同い年なんだし、そんな気遣わなくていいじゃ~ん。」

 

 いつも通り少ない言葉で返す蒼夜に、頬を膨らませて怒ってますよーぷんぷん、といった感じのアピールをする千束。

 

 ただ、千束を見た瞬間に、若干の緊張を覚える。何故なら、あの事件……廃工場の出来事以来、彼女とたきなのことを少し避けていた。

 

 正確に言うと、そもそも彼女達と同じ制服を着ている二人の少女達と、恐らくあの店の従業員全員含め、そういう店だったのか……と、考えていたら、少し怖くなってきた。

 

 まさか、あの時の彼女達が……()()()()()()()()()()()()()……

 

 

「(いや待て待て待て!落ち着け自分!まだそうとは決まってない!……きっと.....多分……絶対!)」

 

 自信満々には言えてないが、きっと何か別の理由があるのではないかと....そう信じるしかない蒼夜。

 

 喫茶店リコリコが()()()()()()()()とはいえ、まだ確証がない。それに、もしも自分の勘違いであれば、それはそれで本当に申し訳ないなと罪悪感を感じる蒼夜。

 

 だが……まさかこんな場所で千束と再び会うなんて、予想外だった。正直、今も緊張してビクビクしているのだが、ここで変に何にも喋る事なく帰ろうとすれば、絶対に不審がられるだろう。そう考えた蒼夜は恐る恐る話をする。

 

「あ……あの……どうして……ぼ、僕に……話しかけ……たの…ですか…」

 

 相変わらずコミュ障で言葉が少ない蒼夜。そんな彼を千束は……

 

「う〜ん...何となくかな?特に理由はこれと言ってないよ〜」

 

「………………え?」

 

 そう答えた千束。まさかそれだけなのか、と思い蒼夜は少し視線を逸らすと…

 

「ねぇ〜おかぁさん!今日のご飯は何〜?」

 

「ふふっ...今日はね、カレーだよ。」

 

「本当!?やったーーー!!」

 

 その前に、手をつないでいる母と一緒に家へと帰っていく子供の姿が彼の視界に入った。

 

 

「………」

 

「ねえ。ああいうの、どう思う?」

 

「え………な………何が……で……す?」

 

 と突然さっきの親子に指をさし、突然意味不明な問いを投げかけてくる千束。

 

「蒼夜君さ、あの親子見た時、すっごいホッとしたような顔してたよ?気づいてないの?」

 

 体を折り曲げ、蒼夜の顔を覗き込んでくる千束。そう言われてみると、確か蒼夜の表情は口角が少しだけ上がっており、どこか嬉しそうにも見える。だがあの親子を見て何を具体的に感じたのかは、気付いていない彼自身にも分からない。なぜなら……

 

「………分からない………僕……親も……家族も……いないから……」

 

「っ!ーーーーーーーー」

 

 その言葉に、少女がバツが悪そうな顔をする。流石に踏み込んでしまってはいけない領域に入ってしまって、申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

 

「ご、ごめん……デリカシーなくって………」

 

「い、いいえ………それに………帰っても………一人だし……」

 

「え?………どゆこと?」

 

「………その………僕………今、一人暮らし………です……」

 

 目を開いて口に手を当て、え…と小さな声を発して驚きを現す少女。

 

「し、親戚は?例えば……おじいちゃんおばあちゃんとか?」

 

「……し………親族も……いない……それに……そ、祖父母も……いない……」

 

「………嘘でしょ」

 

 祖父母どころか親戚もおらず、自分と同じくらいの年齢の少年が一人暮らし……というのはそれほどまでに千束にとって衝撃的な事であったのだ。ちなみに千束も一人暮らしだが、蒼夜と違って頼れる人もいるので、寂しくなる心配はないのだが……

 

「蒼夜君、もしかしてだけど……仕事を探している理由て……」

 

「……そ……祖父母が残した……遺産………無くなった………から……し、仕事を……探している……」

 

 簡単に説明すれば、蒼夜は自分を育ててくれた祖父母が亡くなってしまい、彼らが残した遺産で生活をしているが、流石にそれだけでは生活が厳しく、生活費を稼ぐため、今も仕事を探している。

 

「(まぁ……()だけどね…)」

 

 ーーと言うのも、実際彼は、能力のおかげでそんなにお金には困っていない。本当の理由はただ無職(ニート)から卒業する(抜ける)為だけである。まぁ、まだ彼は一つも仕事を見つけてはいないのだが……

 

「………な、慣れてる……から………だ、大丈……夫………です」

 

「慣れてるって……君ねぇ……」

 

 言葉は少ないが、大体何となく理解ができる。そんな彼を見て、これはただ事ではないと千束は感じた。何かできる事が何のか、と考えた瞬間、千束はとある一つの事を実行する事を決めた。

 

「ーーーよっし!」

 

 その一言と共に突然ベンチから立ち上がり数歩歩いたところでくるっと反転する。夕日に背を向けてできた影のせいなのか、彼女の笑みと言葉には少しの寂しさが浮かんでいるようも見えた気がする。

 

「蒼夜君!私についてきなさい!」

 

「(………ん?)」

 

 一瞬何を言っているのか理解出来なかった蒼夜。そんな彼の前に立ち、細く白い美しい手を差し伸べる。

 

「君、仕事を探しているんだよね!だったら私にいい考えがある!」

 

「ーーーーーあ、あの……「ほ〜ら!行くよ〜!」……えっ!?」

 

 戸惑う蒼夜を無視したのか、彼の手を無理矢理取り、どこかへ連れて行こうとする。

 

「あ……あの……どこへ…(ヤベエェェェェェ!!!また女の子の手を触っているよぉ!?)」

 

「大丈夫!この錦木千束様にお任せなさい!!」

 

「ーーーー(え、本当にどこへ連れて行くの!?ってか、手えぇぇぇ!!!)」

 

 ついさっきまで別の事を考えていただったが、やはりただでさえ千人いたら千人が振り向くような、とんでもないレベルの美少女に緊張してしまう。前世の世界で、あまり女の子……というより学校でも友達がいないため、同い年の人と関わってきた経験自体、正直少ない。しかも、女の子の手を触るのがこれで二度目である。

 

 そんな彼を(無理矢理)引っ張られ、連れて行かれた場所は……

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数分後〜

 

 

「よっし!着いた〜」

 

「(あれ……ここって……)」

 

 千束が彼の手を取った後、蒼夜はそのまま引っ張られとあるお店の前に彼女と共に立っていた。

 

「(リコリコじゃ……)」

 

 そう……連れて行かれた場所は、彼女の仕事場である、喫茶『リコリコ』。地域の皆様方に愛されながら細々と営業をしている、小さな喫茶店である。

 

「さぁさぁ入って入って!」

 

「え、ちょ……」

 

 着いてすぐに千束は蒼夜の後ろに回り込み背中を押してきたため、店の中に半ば無理やり入らされた。

 

「たっだいまー!」

 

「おかえりなさい、千束………と、蒼夜さん?」

 

 大きな声で店内に自分が帰宅したことを知らせながら突撃する千束に、レジ打ちをしているたきなが返り、蒼夜の事も気づく。もちろん、ミカ、ミズキ、そしてクルミの三人も彼の存在に気づき、目線を向ける。 

 

「ん?その子って……千束を助けた王子様じゃん?」

 

 そう言って酒を一度カウンターに置いて、ミズキが尋ねる。この喫茶リコリコは普通の喫茶店とは少し違うところがあり、時たま常連さんとの交流を深める為に店の営業時間終了後にボードゲーム大会をすることがある。しかし、そういったイベントの予定は無いし、一体この少年はどういう用件でこの店に入ってきたのだろうか。四人の思っていることはそれで一致していた。

 

「それはね〜〜あ!そうだ蒼夜君!もう知っていると一応名前教えるね!私は錦木千束!んで、こっちのかわいー女の子がたきな!飲んだくれのロクデナシがミズキでー、ちっこいのがクルミ!そして先生……ミカって言うの!」

 

「お〜い千束!誰がロクデナシだ!」

 

 千束の紹介にギャーギャーと文句を言う女、ミズキを無視して会話を続ける千束たちに黒髪の少女、たきなが怪訝な目線を向けている。以前、店へ訪れた客、暁月蒼夜の事は既に知っている。だが、なぜ彼がここに来たのか何の説明にもなっていない。彼がどういう人物なのかという説明をして欲しいたきなは、千束へと質問を投げる。

 

「あの………どういう用で蒼夜さんが来たんですか?」

 

「それはね〜〜私が連れてきたんだ〜!」

 

「千束が?何のために?」

 

「それはね〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 

 

 

 

 

 

「(………………え)」

 

 突然、千束の言葉に内心で疑問の声を上げる蒼夜。

 

「…………え」

 

 もちろん彼だけでなく、たきなも疑問の声を上げる。そんな彼女の表情筋が停止すると同時に、ミズキが驚きのためか口に含んでいたお酒を勢いよく吹き出したり、クルミは正に唖然と言ったような表情を浮かべていた。

 

「(え……どう言うこと……もしかして、ついに無職から卒業……じゃなくて!ま、まさか、ここで働かしてくれるの!?)……あ、あの……どういう……事…?」

 

「あれ、言ってなかったけ?まあまあ、蒼夜君もお仕事欲しいでしょ?だったら一緒に働こうよ!楽しいからさ!」

 

「(………マジか……)」

 

 ついさっきまで、仕事について迷っている状態の蒼夜からすれば、まさかここで働かせてくれるという最高の好条件である千束の誘いを断る理由はない。だが、正直迷いもある………そんな時…

 

「ちょ、ちょっと千束!ちょっとこっちに来なさい!」コソコソ

 

 と、勝手に話を進めている千束をゲホゲホと少々せき込んだでいるミズキが手招きをして、彼女を近くに引き寄せ、耳元でぼそぼそと呟き始める。

 

『は、働かせるってアンタね!できるわけないでしょうが!銃とかいじってるの見られたりしたらどうすんのよ!しかも彼、一般人なのよ!』

 

『そうですよ!それに、DAの事やリコリスの事が部外者に漏れるようなことがあれば、本部に何言われるのか分かりませんよ!』

 

『うーん、そうなんだけどさ〜』

 

 いつの間にか、ミズキの隣に来ていたたきなも、ミズキの意見を後押しするように千束を説得し出す。だが、千束はその二人の意見に不満そうな顔をして反対をする。

 

『そうなんだけどさ〜じゃないっつーの!とにかく、とっとと出てってもらいなさいよ!』

 

『それはできませ〜ん!ぜーったい彼をお店で働かせます〜!』

 

『なんでそんなに頑固なんですか!?いくら人助けだからって、こればかりは認めませんよ!いいから早く追い出してください!』

 

『いーやーだー!』

 

 彼女たちが蒼夜を追い返そうとするのも無理はない。なぜなら、この喫茶リコリコには決して知られてはならない裏の顔があるからだ。

 

 それはこの場所が『Direct Attack』通称『DA』と呼ばれる、国直属の秘密組織の精鋭部隊『リコリス』の活動拠点の一つとして使用されているためである。もちろんDAの存在は完全に秘匿され、一般の人々はその名すら聞くことはないし、世間一般に公表することなど、できるわけがないからだ。

 

 つまり、部外者を雇うのは、このリコリコの従業員である彼らの組織内での立場が危うくなるという事だ。そのためたきなとミズキは蒼夜を店の店員として迎え入れるのを断固として拒否しているのだ。

 

「(………何話してんだろ?)」

 

 そんな会話の中心の人物は自分のせいであんなにも二人が慌てていることなどを知らず、彼女達の返事を待つ蒼夜。

 

「千束……君がそこまで言うという事は、何か事情があるんだろう。それを教えてくれ。」

 

 と、ここで三人の言い合いが多少激しさを増してきたところで、褐色の男、ミカが口を開いた。千束はついさっきまでのおちゃらけた態度を一変させ、凛とした表情で男の方に向き直る。

 

「蒼夜君はね………多分、孤児なの。」

 

 大きく表情を変えはしないが、ミカの顔からは驚きがしっかりと読み取れる。他の二人、そしてクルミも唖然とした表情で蒼夜の事を見ていた。

 

「(..................え、何この空気?)」

 

「親がいなくて、ずっと一人で生活してるらしくて……なので.....ほっとけなかったの……」

 

 手をぎゅっと力強く握って言葉を並べていく千束の気持ちが、ミカに伝わったのか、杖をつきながら蒼夜の元まで歩いてゆく。

 

「..................」

 

「..................(え、なんかスゲー見られてんだけど.........僕なんかやらかしたの!?)」

 

 眼鏡の奥の瞳が、蒼夜の事をまじまじと見つめるミカ。そんな彼の瞳を見て、内心少し怖じける蒼夜。ほんの数秒の思案をしたのちに、ミカが出した答えはーーー

 

「……分かった」

 

「(..................え?)」

 

「ホント!?」

 

 千束の意見を肯定するものであった。

 

「いぃぃ〜やったー!」

 

 と言いながら蒼夜の手と自分の手を繋いでとても嬉しそうに小躍りし始めた。普通の男であればとても可愛い女子と手を繋ぐなど、中々に羨ましい事であるが、蒼夜はそんな表情を浮かべていなかった。しかし内心は……

 

「(手、手をに握られたぁ〜!しかも三度目〜!?)」

 

 再び手を握られる蒼夜は、結構緊張していた。

 

「ちょ…ちょっと待てい!いいの?」

 

「僕もそれについてはあんまり賛成はできんぞ。」

 

 が、喜びを全身で表現する千束とは違い、ミズキは慌てた表情でミカに聞き返しそれにクルミも続くように言葉を重ねる。

 

「流石にそれを聞いて放っておくほど、私は鬼じゃない。暁月君、千束と仲良くしてやってくれ。」

 

「は、はい……」

 

 その緊張感を持った蒼夜の返事にとても優しい笑みで返すミカを見て、クルミももう何も言うまいと思ったのか静かにと二人を見ており、ミズキも観念したかのような顔をして頭をポリポリとかいて、分かったよ〜、と呟いた。

 

 一方で、まだ納得できていないたきなは難しい表情をしていた。だが彼女もここに置いてもらっている身であるため、ミカの意見に反対できないのか、最後には彼女もため息をついて……

 

「店長がそういうのでしたら私も従います」

 

 と、蒼夜の就職をしぶしぶではあるもののたきなも認めたのだった。

 

「んじゃー、明日から早速働いてもらうってことで!よろしく、蒼夜君!」

 

 気を遣ったように伝えてくれる、優しい声色。今、蒼夜は自分なんかが踏み入って良いのだろうかと躊躇はするけれど、それでも一緒に働かせてあげたいと思ってくれる人がいるなんて……

 

 ────人生の中で、初めてだった…

 

「……よ、よろ……よろしく……お……お願い致します……」

 

「いや固いのよ」

 

 深くお辞儀をする蒼夜の背を手刀で突っ込む千束。苦笑しながら顔を上げれば、ミカさんが俺の肩に手を置いて微笑んでくれた。

 

「こちらこそ、よろしく頼むよ」

 

「っ……ありがとう………ございます」

 

 ────そう言って肩に置いたミカの手は、なんだかとてもあたたかく感じた…

 

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

 

 就活が決まった蒼夜は、開店準備中のリコリコへと来ていた。

 

 

「はいこれ。蒼夜君の制服!」

 

 千束の手によって更衣室から取り出されたのは、その真下に、黒い浴衣染みた和服が一着。制服を受け取り、ミカのように帯の締め方を見様見真似で行い、上から羽織る。

 

 鏡を見て格好を再確認し、これで良いのかと思案しつつミカさんの元へ行く…

 

「き……着替えました……」

 

「あぁ……フッ、似合ってるじゃないか」

 

「どれどれ〜〜お!いいじゃん〜似合ってるじゃん〜!ねぇ〜たきな!」

 

「……えぇ……そうですね……」

 

「え……あ、ありがと……ございま……す……(似合ってる……そ、そうなのか…?)」

 

 

 彼女達から似合っていると、言われて少し自惚れている蒼夜。実は彼、こう見えて和服を着るのが初めてであるため、似合っていないのだろうかと正直自信はなかった。そんな時、皆がいそいそと開店の準備をしている所であった。

 

 自分は何をすればいいのか分からず、蒼夜が立ち尽くしているとミズキに蒼夜〜、と名前を呼ばれた。

 

 

「よーし、今日から早速働いてもらうが……。君、飲食業の経験はあるか?」

 

「な……ないです……」

 

「………調理に自信は〜」

 

「い、家で……なら……少し……」

 

「まぁ〜そりゃそうか。うーん、まぁとりあえず私が客役やるから、君、オーダー取ってみろ。私に呼ばれたらまずは、お伺いします。んで商品名言われたらこの紙にそれを書く。注文を言い終わったと判断したら、以上でよろしいでしょうか。って言って紙に書いた商品名を読み上げてこれを厨房まで届ける。分かったかな?」

 

「は、はい……」

 

 緊張する蒼夜が頷くと、ほいっとミズキから注文用紙とボールペンを手渡される。ここに私が言った奴書くんだぞ。と伝えて、彼女がバーカウンターに腰を下ろす。

 

「君にゃちょっと難しい所もあるかもしれんが、まぁすぐ慣れるだろ〜。じゃ始めるぞー。注文お願いしま〜す」

 

 とりあえず、練習がてら彼の接客の対応を見てみようとミズキが客役になる。最初は上手くないだろうと思った彼女だが……

 

 

 

ご、ごご……ごしゅ……ご注文……を!お、おおおお願い……し、しま……す……

 

 

 

 

 

「…………ひ、ヒデーな…」

 

 一応蒼夜について千束から話聞いたが、どうやら彼は人と話すのが大の苦手らしい。だが、まさかここまで酷いとは、流石のミズキも驚愕している。

 

「お、オッホン!えーとじゃあ、このどら焼きバーガーと団子三兄弟、コーヒーと前茶をお願い〜」

 

ど、どどら…やき。だ、だんご、さ、さん、きょ……だい!こここ、こーひー、ぜんちゃ……

 

 初心な彼にゆっくりと注文をするミズキ。彼女のオーダーに何とか追いついて商品名を注文用紙に連ねていく。書き終わったのか、蒼夜が書く手を止めミズキが確認のために注文表を見に行く。

 

「お、おう………()()()()()()()()()……」

 

 注文の一部は全て載ってあるし、字もそれなりに綺麗に書けてある。だがこれで一つだけ問題点が分かった。それは、彼のコミュ障による言葉である。正直、散々なものであった。

 

「(うぅ……やっぱり……人と喋るのが超苦手……)」

 

 と、内心で自身の喋りが役に立たない事を自覚し、ここで本当にやっていけるのかと心配する蒼夜。

 

「うーん……この調子じゃあオーダー取るのは無理そうだな……」

 

「まぁ〜まぁ〜ミズキ、最初は誰だって緊張するって!」

 

「いや、流石にあの喋りは異常だと思うけど……うっし!じゃあ次教えるから、教えてやるからついてこい!」

 

 一応注文を取ることができた(?)蒼夜は、その後皿の位置だったりコーヒーメーカーの使い方だったりゴミ捨て場の場所など諸々の説明を受け、リコリコ内でのポジションを大体覚えることができた。

 

 そして、喫茶リコリコの開店時間となり、蒼夜にとって、ここでの初仕事が始まったのだった。

 

 結論から言うとまったくもって予想外な事ではあるが、蒼夜は何の問題無く、仕事をこなし続けていた。客を千束が席へと案内した後、無言だが、素早く水とおしぼりを置いていき、“これ持って行ってくれ“と言われればすぐさまそれを各自のテーブルへと配膳していったりなど、問題なく業務をこなしていった。

 

 そして、たきなや千束が合間合間にやっていた雑用業務はほぼ全て蒼夜が終わらせていたため、喫茶リコリコの回転率はかなりいいものとなっていた。

 

 そんな、彼の働きぶりを見てこれで自分の仕事が減る、と不純な動機で喜んでいるミズキもいたが……

 

「よし、いったん昼休憩にしようか」

 

 ピークのお昼時を超え、店内から客がいなくなった店内を見てミカがそう告げる。

 

「(や、やっと休憩か……)」

 

 緊張感が晴れ、息が上りかけていた蒼夜は一度着替え、畳に腰かけてリラックスしている。仕事や作業に関しては、彼にとって楽しく、疲れた感じはしなかった。だが、店の周りに人が多すぎるか、人と会話するのが大の苦手である彼にとって困難であった。

 

 そんな時、同じく着替えを終えた千束とたきなが更衣室から出てきた。

 

「初仕事どうだった、蒼夜君?」

 

「な、なんと………できま……す……」

 

「ホント〜!そりゃ〜良かった良かった!」

 

 彼をここへと連れてきた千束は、蒼夜にこの仕事が合わなかったらどうしよう。などと考えていたが蒼夜のその言葉を聞いてとりあえずその心配はなさそうでほっとした。

 

「蒼夜君、一緒にお昼いかない?私が奢るから!」

 

「え……い、いい……です……か?」

 

「いいよ、いいよ!どこへ行きたい〜?」

 

「……ど、どこでも……だ……大丈夫……です…」

 

「じゃファミレス行こうか!ほらほら支度して〜たきなも早く〜」

 

「待てください千束!」

 

 そして、ファミレスへ向かう三人は、一緒になって店を出ていく。

 

 

「あぁ、青春が眩しい……くっ!やっぱり若さなのか!!」

 

 などと言いながら目を覆って現実から逃げているミズキ。そんな彼女をミカが呆れたような目で彼女を見ていると、奥の和室の扉がガラッと開いた。

 

「おー、ようやく出てってくれたか。全く、おちおち話もできないな。」

 

「んな事言ってるけど、どーせ合法的に仕事サボれて嬉しがってんでしょアンタ」

 

「ソ、ソンナコトナイゾ〜」

 

 とでもいうように口笛を吹いてミズキから送られてくる視線をかわそうとしているクルミ。嘘つけとミズキが呟いたところでミカも店の奥から出現し、クルミに昨晩頼んでおいた仕事について尋ねた。

 

「クルミ、暁月君について何かわかったか?」

 

 彼女に頼んでいたのは、蒼夜に関しての情報である。念の為、彼はどこか怪しいのではないかと調べさせてもらった。

 

「一応で調べてはみたんだがな、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 やれやれ、と手をあげて首を振る仕草をするクルミの言葉を聞いて、ミズキの表情が少し驚いたものになる。

 

「へぇ〜天下のウォールナット様からそんな言葉が出るとはね〜」

 

「まぁ、とりあえず来てくれ。」

 

 先ほどクルミが出てきた部屋の押し入れへと二人を案内する。案内したクルミはそのシートに座り、慣れた手つきでキーボートを物凄い速さで叩きだした。そこに映し出されたのは、街中に設置されている大量の監視カメラの映像であった。

 

「ここらへん一体の監視カメラの()()1()0()()()()()の映像を漁ってみたんだが、もちろんアイツの姿はバッチリ映っている。だが、特に怪しい所は映ってないな。」

 

 エンターキーをクルミが軽く押すと同時に、ディスプレイに表示されていた10年分の無数の映像が映し出された。その一つ一つには、仕事を探し回っている蒼夜。その次は買い物へ向かう蒼夜。さらにさらに次の場面に変わると、昨日ベンチに座っている蒼夜と千束がいた。そしてそこで映像は止まって終了した。

 

「……本当にこれだけなのか?」

 

「あぁ……一応、お前の方でも調べたんだろ?ミカ」

 

「……ああ、彼の経歴に怪しいところは無かった。」

 

「つまり、本当に()()()()()()…て事だな。」

 

 スナック菓子を摘みながら鼻で笑うクルミだった。何度か調べ直したが、特にそんな怪しい点もなく、蒼夜が嘘をついている様子も無かった。

 

 しかし、ミカはとある問題について、内心で頭を抱えていた。彼をここに置いておこうと昨日時点では決まっていたんだが、彼をどうしたものか、と悩んでいた。なぜなら……

 

「本当にアイツが一般人なら、ここで働かせるのは少し無理があると思うぞ。何だってここは、普通の喫茶店に見えて、()()()()()()からな。」

 

 クルミの言う通り、彼女の部屋の押し入れには、とある秘密が布団の代わりにたくさん詰まっている。それだけでなく、ここには大量の武器弾薬庫や射撃場まである。そんなものを蒼夜に見られたら、千束達は正体を隠すことなど、到底不可能になってしまうだろう。

 

 もちろん彼を辞めさせればいいの話だが、それはそれで本当に胸糞悪い気分になるだろう。それに…彼はリコリコとは客であって、ほんの少しの間ではあるが、それでも確かに関係を築いてしまった。

 

 だが最悪の場合、もしも蒼夜の存在がDA本部にバレてしまったら、隠蔽の為、他のリコリスたちの手によって射殺されてしまうだろう。

 

 そうなってくると、千束が精神的にダメージを負う可能性も十分にある。かと言って彼女が対処に行けば、引き金を引けなくなってしまう危険にもつながる可能性だってある。

 

 とりあえず今分かったことは、蒼夜にDAの存在を知らせない事と、DAにも蒼夜の事をバラさない事。クルミの件もあり更に仕事が増えたが、リコリコの座敷で会議をする3人の意見は合致していた。

 

「……まぁ……きっとそれが最善だと思うぞ……」

 

「はぁ……これまた面倒な子が来たわね〜」

 

 この判断が吉と出るか凶と出るか。それは今は分からない。

 

 

 

 

ーーーだがこの時、彼らは知らなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 その一般人(モブキャラ)こそが、巨大ロボを操縦した正体である事を気付かず……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ、へくしょん!

 

「大丈夫ですか蒼夜さん?」

 

「どーせミズキが三日月の事どーたらこーたら言ってるだけだって〜」

 

「あ……あの………注文……は……」

 

「うん!じゃん、じゃん頼んでいいよ!もちろん遠慮しな〜い!」

 

「(……暁月蒼夜さん………本当に言葉少ないんですね……)」

 

 

 リコリコで険しい表情する三人と違って、ファミレスで楽しく食事をする一人の少年と二人の少女だった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜蒼夜がリコリコで働く事になってから二日後〜

 

 

 

 

 

 出版したとある日本の記事にはこう書かれてあった……

 

 

 

 

 

 

『日本に新たな巨大ロボが出現!しかも今度は、()()()()()()!?』

 

 

 

 

 

 

 

 






 速報 : モブキャラ君、やっと就職先見つけました!

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