仮面ライダーブリランテ   作:マフ30

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PATCWORK El DORADO
第一節 弾は再び放たれた


 

 サンライズシティ。

 合衆国のとある州に存在するありふれた地方都市。

 大都会というわけではないけれど、それなりに栄えてそれなりに煌びやかな我が愛しの故郷。

 一人の人間が一生の住処として暮らしていくには十分過ぎるほどに娯楽にも、商店にも恵まれた上等な箱庭だ。新天地を望む必要もないと考えれば一級の鳥籠とも言えるのかな?

 とにかく皮肉抜きに親愛なる我が故郷も今日ばかりは何もかもが腹立たしく思えてしまう。

 どうしてかって?

 それは――。

 

『GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!』

 

 叫び。

 空を砕かんばかりの叫び。

 まるで世界が怒っているよう。

 

「逃げろォオオオ!」

「走れ! そいつはあきらめろ! 走れ! いいから走、れぇあがあああ!?」

「いやぁああああああああああ」

 

 何の展哲もない土曜日の正午前は文句なしの快晴でまるでワタシをあざ笑うように太陽がまぶしく輝いている。大通りを行き交う名前も知らないその他大勢の楽しそうな笑顔がすごく羨ましい。

 ここまで言ってもう察してくれていると思うがワタシことコーデリア・オニールの土曜日は絶賛最低最悪を現在進行形で更新中だった。

 

「はぁ! はぁ! やだ……もう! ホント! 最悪……ッ」

 

 まず、今日は本当ならば付き合って一カ月の彼氏とデートのはずだったのだが送られてきた一通のメールが全てを狂わせた。なんと彼氏(あのクソ)はワタシ宛てに全く違う女の名前を添えて連絡を寄こしてきた。問い詰めたところ二股をあっさりと白状。さようならワタシの短い恋物語というわけだ。

 

『GARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR――!!!!』

 

 雄叫び。

 見慣れた街が、建物が、崩れていく。

 壊されていく。

 名前も知らない人たちが宙を舞う。

 同じ街に暮らして、同じ空を見て育ってきた人が飛び散る瓦礫と一緒に宙を舞う。

 

「警察や掃除屋はまだか!」

「こんなの掃除屋だって無理だろ!? 軍だ……誰でも良い軍を呼んでくれ!!」

「余裕がある奴は怪我人を連れて逃げてやってくれ!」

「そんな余裕のあるかよ! 他人に構ってたら死んじまうよ!」

「お母さーん! どこ!? どこにいるの! パメラはここだよ! うぅ……うわあああ」

 

「嘘。うそ、うそ、うそ……こんなの嘘よ!」

 

 その次に憂さ晴らしに当初のデートプランを変更して一人カラオケで思いっきり歌って気分転換しようとしたのだが予約していたマイクは壊れている。部屋は芳香剤がキツ過ぎる。使い込まれたソファーは座り心地がかなり悪いという三重苦のハズレ部屋だったということ。

 

 そして三つ目なのだが――。

 

「ハア! ハア……ハァ! ヤバい! ヤバいヤバいヤバい!」

 

 自慢のブロンドヘアが埃や煤で汚れてしまうのもお構いなしにコーデリアは無我夢中で車も人間もごった返した大通りを走っていた。

 周囲は悲鳴と怒声のフルオーケストラ。

 特に後ろからは何か硬くて重たいものがいくつも、いくつも倒れたり壊れたりする大きな物音と愛しきペットのコーギーの数百倍は五月蠅い獣の鳴き声が絶えず鳴り響く。

 コーデリアは何度も頭を振って、数分前に見た光景を忘れようとしながら懸命に逃げた。

 数分前――結局数曲歌っても気は晴れず、ならば行きつけのファーストフード店でやけ食いでもしてやろうとカラオケ店を出た途端に巨大な何かが振り回した太い腕でさっきまで自分がいたビルが破壊された。

 見るつもりはなくても飛び込んできた人間や車が玩具のように空中高く放られて、ぐしゃりと落ちていく地獄絵図。

 

「なんで! なんでこんな日に……こんな時に出てこなくたっていいじゃない!!」

 

『GRAAAAAAAAAAAA――――!!!!』

 

 彼女のすぐ後ろで悪魔が雄叫びを上げた。

 悪魔。

 空想上の悪しき存在。

 時に人間を騙し、惑わし、害する架空の善くないもの。

 けれど、この世界には現実に出現して災いを振り撒く脅威。

 悪魔(デモン)

 

『GRRRRRRRRRRRRRR!!!!』

 

 大型トレーラー四台分はあろう赤黒い巨体。六本足のサイの背からゴリラのような野太い腕が二本にょきりと生えたこの世の摂理に反したおぞましい異形。

 上級悪魔と同じく出現する頻度は極めて低いとされる希少種・大型悪魔(ギガデモン)がよりにもよってこの日、この街で白昼堂々と出現してしまったのだ。

 

『GRAAAAAAAAAAAA――!!』

「あ……」

 

 コーデリアのすぐ背後で聞こえる怪物の叫び声。

 不快感のある生温かな呼気や振り上げた音の風圧から死が自らを射程範囲に捉えたことを知覚する。

 こんなに逃げたのに。

 あんなに走ったのに。

 コンパス(歩幅)が違いすぎるのだから逃げ切るなんて無理な話だ。とあきらめられることではない。

 

「いやぁあああああああああああああああああ!!」

 

 今まさに振り下ろされようとしている巨腕の存在を肌で感じながら、彼女は走る足を止めなかった。

 生きたくて、生きたくて、肺が裂けそうなほどに叫んだ。

 それがどんなに無意味な行為だとしても。

 けれど――。

 

「ボクの手をしっかり掴め!」

 

 絶望の大騒音の中を切り裂いて彼女の耳に届いた凛とした声。

 次の瞬間にコーデリアは青い機械仕掛けの馬に跨る赤い外套を着た人物に間一髪で助け出されていた。

 

「あ……ああ! わたし、ワタシ……ッ!」

「やあ、災難だったねお嬢さん(シンデレラ)。かぼちゃの馬車の到着があんまりにも遅いから、シナリオを書き換えて迎えにきちゃったよ」

 

 少し力を入れながら、それでも慣れた手つきでコーデリアを自分の前に跨らせた赤い外套と帽子の人物はおどけた口ぶりで彼女を落ち着かせながらなおも暴れ狂う大型悪魔ライノスギガデモンからの逃走を図る。

 

「今日は土曜日だってのに仕事熱心なやつだなぁ。さてはワーカーホリックかぁ?」

「あなた……掃除屋さん?」

「まあね。キッドだ。知り合いはみんなそう呼ぶ」

 

 どう見ても自分と同世代の、ともすれば歳下にしか見えない白馬の王子様が深紅の大型拳銃を右太腿に巻きつけたホルスターから抜いたことでコーデリアは目を丸くして驚いた。

 

「ちょっとうるさくなるけどご容赦を!」

 

 片手でギャロップモードのクイックワンダーの手綱を操りながら、キッドは大通りを我が物顔で闊歩するライノスギガデモンの目を狙って数発の牽制射撃を行う。

 冴える彼女の銃技は右往左往の大混乱の真っ最中なサンライズシティの只中にあって、迷いのない軌道を描いてギガデモンの右目に直撃した。

 

『GRAAA!?』

 

 まるで山が動くような迫力で移動する異形が僅かに怯む。けれど相手のサイズが桁違いなこともあって大したダメージにはならない。そればかりか自分に対して攻撃をしてきたキッドをギガデモンは敵意ある個と認識したようで彼女が跨るクイックワンダーに狙いをつけて襲い掛かってくる始末だ。

 

「やっぱり浅いか……よし、逃げよう!」

「ええっ!?」

「大丈夫。君は死なないよ。助けたのがボクだからね」

「……っ」

 

 都市全体を本能のままに暴れていた怪物が明確に自分たちだけを狙って追いかけてきている恐怖に真っ青な顔のコーデリアを馬上でそっと抱き寄せてキッドは得意げな笑みで囁いてみせる。

 中性的な整った顔立ちの若き掃除屋に助けられ、素人でも分かる卓越した銃の腕を見ていたところにそんなことをされてしまった彼女は不謹慎ながらも熱情に胸を焦がさずにはいられなかった。

 

「いいかい? このまま人気の少ない通りを走って悪魔から逃げながら、まずは君をこの先にある掃除屋組合の詰め所に送り届ける。君……ずっと君やお嬢さんじゃ不便だな。名前は?」

「コ、コーデリア! コーデリア・オニールです!」

 

 力強く舗装された路上を駆け抜けるクイックワンダーから振り落とされないようにその上半身にしがみつきながら彼女は自分の名を名乗った。

 不可抗力でしばしキッドの胸板に顔を埋めるような姿勢になるとまるで聞こえないぐらい静かな心臓の鼓動にコーデリアはキッドが本物のプロなのだろうなと一人で勝手に得心する。

 

「へー良い名前だ。さて、続きだコーデリア。君は組合に駆けこんで保護を要請してくれ。荒っぽくて下品な言葉飛び交ってるかもだけど警察に駆け込むよりは百倍安全だからね」

「は、はい! あの、キッドさんは?」

「ボクはもちろんあのお昼寝に邪魔なデカい悪魔を黙らせてくるよ」

 

 涼しい顔でハッキリと言うキッドにコーデリアはなんて返事を返すべきか分からず言い淀んでしまった。

 いくら掃除屋といえ、ただの人間があんな巨大な悪魔を退治できるなんて彼女には到底思えなかった。

 一緒に逃げて欲しい。

 キッドに死んでほしくない。

 感情がごった返してコーデリアが上手く言葉を紡げずにいると二人を乗せたクイックワンダーはあっという間にサンライズシティの掃除屋組合の詰め所がある建物の前に到着してしまった。

 

「あ……」

「さあ降りてコーデリア。ボクがさっき教えたこと一人でちゃんと出来るよね?」

 

 優しい声色で促すキッドと外からでも中の喧騒が漏れ出ている建物の入り口を慌ただしく交互に見返して、コーデリアは震える足先で機械の馬から降りた。

 (キッド)なら出来る。彼の言葉なら信じられると思ったのだ。

 

「災難だったね。せめて平和な日曜日をこれからこの街と君に取り戻してやるさ」

「あ、あの! 他にワタシに何か出来ることはありませんか!?」

「うーん……そうだな。うん!」

 

 汗ばみ震えが止まらない両手を胸の前でぎゅっと握りしめてコーデリアは叫んだ。

 それが彼女にできる精一杯だ。

 いまにも涙が零れ落ちそうな潤んだコーデリアの瞳にしっかりと映るようにキッドはニッとほくそ笑むと赤い外套から取り出した風車に見立てて組み合わさった大小の歯車と右側に回転式拳銃リボルバーのシリンダーのようなパーツが施されたベルト・ハーツドライバーを腰に巻きつける。そして外側に振り出したシリンダーに黄金の弾丸(ブリランテバレット)を装填する。

 

【Start up! Heart's Cry!】

 

『それじゃあコーデリア。一つ、お願いだ』

 

 謎の眩い光に何が何だか困惑するしかない彼女を硬く冷たい鎧で包まれたキッドの指先が優しく撫でる。

 

「キッド? え、ええ、ええ~ッ!?」

『ボクがちゃんと勝てるようにここで祈ってて♪』

「は……ひゃい!」

『フフン。じゃあねぇー!』

 

 輝ける銃士はまるで女王に傅くように洒脱なこなしでコーデリアの手の甲にそっと口づけを落とすと意気揚々とバイクモードに変形したクイックワンダーに跨って意気揚々と戦場へと舞い戻って行った。

 掃除屋キッド/仮面ライダーブリランテは今日も今日とて気ままな風のように己が使命を果たしていく。

 

 

 

 

 キッドがコーデリアを無事に安全圏へと送り届けている頃、ある程度人口密集地域から遠ざけられたライノスギガデモンは連絡を受けて駆けつけた掃除屋たちと交戦中であった。

 

『GRRRAAAAAAAAAA!!』

「撃て撃て撃てえ!!」

「化け物があああああああ!!」

 

 ビルを殴り倒し、自動車を蹴散らして暴れ回る巨体を相手に生身で銃撃戦を仕掛ける命知らずの屈強な男たちの姿があった。元グリーン・ベレー隊員だった少佐ことシェイファーをリーダーとしたエリオット、クーパー、ソール、リックで編成された一団アーノルドだ。

 

「どうした兄弟! もっと景気良くチェーンガンをぶっ放せよ!」

「もうやってるよ! チクショウめ、今月は赤字だぜ! HAHAHA!!」

「他の連中はなにやってる! どいつもこいつも尻尾巻いて逃げたタマ無しかぁ!?」

「このデカブツ相手に対応できる装備を日頃から持ち歩いてるバカ共が俺たち以外にそういるかよ! 少佐どうします!?」

 

 一瞬の判断を誤れば大型悪魔の攻撃か降り注ぐ瓦礫の下敷きになってグロテスクなミートソースになってしまう極限の戦場で彼らは一糸乱れぬ連携と軍からの放出品である強力な銃火器によって繰り出す攻撃を何度も浴びせていた。だが伊達に希少種と目されているだけあってギガデモンの暴虐にはいまだに陰りが見られない。

 

「俺たちが退けば被害が拡大する! なにがなんでもこれ以上進ませるな! 狙いを一点に集中して機動力を潰す!!」

「…………来る」

 

 五人の荒くれ者たちは軽口を叩きながらも掃除屋の誇りに懸けてギガデモンの侵攻からサンライズシティを守るために徹底抗戦を続けていた。そんな激戦の最中、ナイフ使いの寡黙なメンバーが遠方より駆けてくる援軍の気配を察知した。

 

『お待たせ騎兵隊のお通りだー!』

「白い銃士……キッドか!」

『遅れてすまない少佐。だけど、流石の手腕だね、ボクの想定よりも遥かに被害が少ないよ』

「当然だ。俺たちは殺戮集団じゃない。最優先事項は対悪魔からの人間のレスキューだ」

 

 全速力で疾走するクイックワンダーからしなやかに飛び降りざまに専用の大型拳銃ラッキーライラックによる連続射撃を敢行してシェイファー率いるアーノルドに合流する。

 

「よおキッド! 元気そうじゃねえか! 今夜はヒマだよな? 今度こそブラックジャックで素寒貧にしてやるよ」 

『元気そうだねエリオット。よろしい! 今宵も君をパンツ一丁にひん剥いてあげよう!』

「おいおいおい。俺たちは知的生命体だぜ? もっと品性のある会話をしようぜお二人さん」

「HAHAHA! ミルク缶にショットシェルを山盛り詰め込んで背負ってるやつに言われたかないぜ」

「フッ……違いない」 

 

 ブリランテの参戦にエリオット、クーパー、リック、ソールの面々が陽気な態度で陣形を再編しながら攻勢を上げていく。

 荒っぽいが隊長であるシェイファーの人格の影響が強いのか粗野ではあるが下卑ではないアーノルドの面々はキッドとも親しい間柄だった。

 

『さてと、楽しいお喋りは少し控えてプロらしく迅速な対処といこうか』

「キッド。俺たちが牽制して注意を逸らしている間にお前のカスタムライフルであいつの脳天を撃ち抜けるか?」

『生憎とカネヒキリはオーバーホール中でね、今日は持ってきてないんだ。ごめんね少佐』

「なに? だったらどうする気だ。お前の携行ガトリングでもアイツはハチの巣にはしきれないだろう」

『フフン! 今日は特別、もっと良いものを用意してるのさ。さっき呼び出したからそろそろなんだけど』

 

 そわそわと落ち着かない様子で彼方の空を何度も見返すブリランテ。

 すると掃除屋たちによる文字通りの豆鉄砲での応戦に苛立ったのかギガデモンは背中から伸びた右腕でスクラップになったワゴン車を拾い上げると彼女たちに投げつけた。

 

「いかん! 散開しろ!!」

「クソが! ちょっとデカイからっていい気になりやがって!」

「その大きさが脅威なんだ! 冷静に考えてみろ。ハムスターとゾウが殺し合いをしたらどっちが勝つと思う!」

『GRAAAAAAA!!』

 

 リックの指摘は最もだった。

 大型悪魔は知能だけに限れば下級悪魔と同等、あるいは低くまさに大きいだけの獣と変わりはない。

 しかし、その地上に生息する生物を遥かに超えた巨体がそのまま恐るべき能力となって人間社会に災厄を振りまいているのが現状だ。

 

『GRUUUUUUU!!』

『危ないな。キャッチボールのやり方も知らないのかい? お返しだ!』

 

 アーノルドの面々が体勢を立て直すまで囮役を引き受けてラッキーライラックでの射撃を継続していたブリランテは瓦礫の山が散乱する周囲を見渡すと何かを閃いた。

 咄嗟に腰部後ろに携行していた中折れ式の散弾銃・ヴィクトワールピサを抜くとグレネード弾を装填してなにを思ったのかギガデモンとは明後日の方向の街灯を撃ち抜いた。

 

『GRAAAAAAA!?』

 

 榴弾の直撃で根元から折れた街灯は音を立てて地面に倒れる。

 ブリランテの意図が判明したのはここからだ。

 倒れた街灯の先端は偶然にもシーソーのような形で重なって崩れ落ちていた自動車と鉄製の看板の上に落ちる。するとテコの原理で飛び上がった反対側の看板が引っ掛かっていた瓦礫の塊が投石機から放たれたようにギガデモンの顔面に直撃したのだ。

 

『的が大きくて撃てば当たるなお前はガンマンとしてはモチベーションが上がらないけど、掃除屋としていつだって創意工夫の精神は磨いておかないとね』

『GAAAAAAAAAAA!!』

『お! 来た来た!』

 

 思わぬ反撃を食らって悶えるギガデモン相手にブリランテは口笛を吹いて澄ました声色で挑発を飛ばす。そして、絶好のタイミングで彼女が呼んでいた援軍が空を翔けてやって来た。

 

「なんだありゃあ! 戦闘機!?」

「いや、大きさからすると無人機の類だろう。しかし、あの玩具のような見た目は一体何だ?」

「まるで竜だ」

 

 あちこちから溢れる悲鳴と黒煙で満ちたサンライズシティの空を疾駆して戦場へと飛び込んできたのは黄色と青のカラーリングを施された飛竜を模した無人航空機であった。

 無人機はギガデモンとすれ違い様に小型ミサイルを数発発射して相手を怯ませつつ、その意識をブリランテやアーノルドの面々から引き離す。

 

『待ってたよソングオブウインド! 君の力を見せてみろ! テイクオフだ!!』

 

 ブリランテが呼び出した未知の兵装であるソングオブウインドに困惑の表情を浮かべるアーノルドのメンバーたちを余所に彼女は意気揚々とジャンプして機体の背に飛び移ると一気にギガデモンの上空まで急上昇した。そして小型支援戦闘機ソングオブウインドの真の力を呼び覚ます。

 

『ブラストフォーメーション! コール・ソングオブウインド!!』

 

 鉄の翼を持つ竜の背から飛び降りたブリランテの叫びに呼応してソングオブウインドは主人を追尾しながら各部パーツが分離展開を開始。強化アーマーとしてブリランテの胸部や四肢に装着されていく。

 そして――!!

 

『アームド・アップ! ブリランテ・ストレンジャー!!』

 

 背中の飛行ユニットをご機嫌に噴かせて青空を浮遊するのは新たなる力を得たブリランテ。

 鮮やかな黄色と青の装甲を纏い、竜の角に見立てた二本のアンテナホーンを有した赤い双眸の黒仮面へと変化したブリランテはまるで竜人だ。

 特に目を引くのは両手に装備した竜の爪を思わせる大きな四連装のショックカノン。

 脚部を覆うブースター付きの装甲も同じく鋭利な三本の爪が足先に取りつけられた竜の足を想起させる。

 また胸部を守る堅牢な鎧は竜の顔を模し、双肩には折り畳み式のキャノン砲が二門も備えられていた。

 

『準備はOK? お片付けの時間だよ!』

 

 勝つために必要な要素を全て整えたブリランテは意気揚々と指鉄砲の代わりに迫力満点のショックカノンの銃口をライノスギガデモンへ突きつけて本腰を入れて掃除(たたかい)を開始した。

 

「キッド! 痛いのをぶっ食らわせてやれえええ!!」

『応とも! 大掃除の始まりだあああ!!』

 

 地上から届くシェイファーたちの激励を背に受けてブリランテ・ストレンジャーは気合十分に急降下。ターゲットへの正面突撃を敢行する。そんなブリランテに激しい怒りを露わにしてギガデモンも両腕を振り回して暴れ始める。鬱陶しい小バエを叩き落とそうと言うのだ。

 

『当たらないよ。風の唄……全身で聴いていけ!!』

 

 しかし、ブリランテはくるくると柔軟で素早い飛行で敵の攻撃を回避していく。

 一振りごとに突風を巻き起こす赤黒い巨腕を縫うように掻い潜るとお返しとばかりに左右のショックカノンを構えた。間髪置かずに撃ち出される砲撃。四門×四門の合わせて八つの砲門から次々に撃ち出されるエネルギー弾がドラムロールのような轟音で空を震わせて炸裂する。

 

『GRA――――!?!?』

『ハハッ! 耽美なクラシックでも期待していたのかい? 残念だけどボクのビートは近所迷惑なぐらい激しいぞ!!』

 

 いままで我が物顔で暴れ回りサンライズシティを破壊していたギガデモンが身を捩じらせて絶叫する。六足の足で地団駄を踏み、焼け焦げた両腕を振り回してブリランテを叩き潰そうと悪足掻きを行うが無駄な抵抗だ。戦いの風向きは完全にブリランテへと変わっていた。

 ギガデモンの周囲を旋回しながら両のショックカノンを乱れ撃ち、一気に相手の勢いを削ぎにかかる。

 

『GARUUUUUUUU――!!』

『こいつ!? うおおおおおおおおお!!』

 

 だがギガデモンもただではやられない。

 背の高いビルに自ら突っ込み倒壊を引き起こすと瓦礫の雪崩にブリランテを巻き込もうと目論んだ。

 けれどその意図を瞬時に読んだブリランテは敢えて崩れてくるビルへと飛翔。まだ壊れていない上層階の窓ガラスを突き破って脱出すると二丁のショックカノンに加えて竜面の胸部装甲の双眼部分から発射する二条のレーザー砲を駆使して可能な限り地上へと落下していくビルを粉微塵に撃ち砕いていく。

 

『お前……その足掻きはちょっと許せないな。一気に地獄へ送り返させてもらうぞ』

 

 夥しい粉塵がサンライズシティの一区画を覆い隠す。

 その中心で悔しがるように唸るギガデモン。一歩間違えば大量の犠牲者を出していただろう悪質な暴れ方にブリランテは軽蔑するように呟く。静かにけれど激しい怒りを胸の裡で燃やし、ブリランテは放たれた矢のように悪魔目掛けて突っ込んだ。

 

『シザーネイル! セット! せえええい!!』

 

 脚部の竜の足爪が淡い光を放ち、熱を帯びる。

 急降下から繰り出されたヒールキックに組み込まれた爪撃がギガデモンの左目を裂く。

 

『GRAAAAAAAAAA!?!?』

『まだだぞ……ツインスピアランチャー! セット……シュートオオォ!!』

 

 片目を潰されて苦しむギガデモンの真正面に力強く着地したブリランテは双肩のキャノン砲を構える。

 撃ち出された砲撃はただの砲弾やエネルギー弾ではなかった。

 飛び出した槍のような長さの杭型の徹甲榴弾がギガデモンの両腕にそれぞれ突き刺さると一拍の間を置き起爆。絶叫を上げて身悶えるギガデモンの左右の腕を内側から吹き飛ばした。

 

『ああ、そうだ。もっと悲鳴()け。悲鳴き続けろ……とびきりの良い声でねえ!!』

 

 両腕を喪失した激痛にビリビリと大気を震わせて鳴き叫ぶギガデモンにブリランテが幕を下ろす準備に入る。ドライバーのシリンダーを振り出して銀色の弾丸を装填する。

 

【Boost up! Just a Way!】

 

 電子音声が鳴り響き、ドライバーの歯車の動きが激しさを増すと膨大なエネルギーがブリランテの全身に満ち溢れていく。

 

『ボクという弾丸から逃げれるものなら逃げてみな?

 

 再び大空へと飛翔したブリランテのちょうど鳩尾部分に相当する胸部の竜面アーマーの口が開き黒光りする大口径の砲門がせり出すと光が収束されていく。

 

『――ファイア!!!!』

 

 ブリランテの叫びを引き金にギリギリ限界までチャージされた膨大なエネルギーが砲門から解き放たれる。黄金色の膨大なエネルギーが螺旋を描いてライノスギガデモンの眉間を撃ち抜く。

 

『GRAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?!?』

『うらああああああああッ!!』

 

 まるで巨大なドリルが岩山を貫いていくようにライノスギガデモンをブリランテ・ストレンジャーの必殺技スパイラルバスターエンドが真っ向から射抜き特大の風穴を作ってみせた。

 やがてギガデモンは風穴を起点に全身がひび割れて粉々に爆散して果てた。

 白昼の大破壊はかくしてブリランテやサンライズシティに居合わせた掃除屋たちの尽力で最低限の被害で解決することが出来たという。

 

 

 

 

 真っ暗な闇の中をキッドは独りで歩いていた。

 相棒(クイックワンダー)も何故か無い。本当に独りぼっちの道を無心で歩いているとやがて寂れた廃墟へ辿りつく。

 キッドにはそこが何か解っていた。

 ここに何が在ったのか解っていた。

 

「なんでボクはここに……まだここには帰らないって決めていたのに」

 

 この廃墟は間違いなくキッドが拾われて短くも幸福に暮らしていた孤児院――その跡地だった。沈痛とした表情で立ち尽くしていたキッドであったが不意に体のバランスを崩してその場で転んでしまう。

 

「痛た……た? は? え……」

 

 立ち眩みを起こしたわけでもないのに転倒した自分を不思議がるキッドだったがいつの間にかあるはずの感触が無くなっていることに頭が真っ白になった。

 恐る恐る視線を足元に下げるとそこには――自分の右足がすっぽりと無くなっていた。

 

「は? なんで!? どうして……デ、デモンの仕業か!? は」

 

 痛みはない。

 出血もない。

 だが同時に片足もない。

 亡き友達から移植された宝物でもある大切な右足がなくなってしまった。

 キッドはいつになく声を震わせうろたえながら咄嗟に銃に手をかけて敵襲に応じようとする。

 

 ガシャンと銃が落ちる音が鳴る。

 パサリと小さく袖がはためき落ちる衣音が鳴る。

 

「うあ……わああああああ!?」

 

 今度は右手が忽然と消失していた。

 続けて体を支えていた左腕も何の予兆も無く消えてしまう。

 手の支えを失い再び地面に上半身を打ちつける。

 痛みは混乱で上書きされて感じる暇もなかった。

 自分の手足が再び失われていく。

 

「やめろ! 誰だ!? 誰だっ!? 返せ! 返してくれ! ボクの……手を、足をとらないでよ! それはみんなのものだ! みんなとの思い出なんだ!! うわあああああああああああああああ」

 

 家族同然だった亡き友達から与えられた宝物がまた奪われてしまう。

 そんな中で何も出来ない自分がいる。

 慌てふためき叫ぶ中でいつの間にか左足も無くなっていた。

 四肢を失いダルマのようなみすぼらしい姿になったキッドは半狂乱で泣き喚きながら無我夢中で体をバタつかせる。

 道を進むための足もなく。

 武器を取るための手もないというのに。

 

「かえし、て……他のものならなんでもいい。なんだって奪ってくれてもかまわない。だから……だから、うぅ……ぁぁぁ。ボクの宝物(手足)だけはもうとらないでくれ」

 

 涙が頬を伝って地面を濡らす。

 もがいても、もがいても1メートルも進めずに汗ばみ、汚れ疲れ果てるばかりのキッドの視界にふと自分を囲むように誰かが四人立っているのが見えた。

 

「……みんな?」

 

 その人物たちの顔をキッドは見渡して確かめることが出来なかった。

 しかし、誰が自分を囲んでいるのか分かってしまった。

 

「なんで」

「フランだけが」

「いきているの」

「ずるいよ」

 

 四色の声がキッドの頭の中で響く。響き続ける。

 感情がぐちゃぐちゃになって、今のいままでとめどなく流れ続けていた涙があっけなく止った。

 

「なんで」

「フランだけが」

「たくさん楽しいことをしているの」

「ずるいよ」

 

「違う! ボクは……みんなの分まで! 先生の分まで思いっきり生きなくちゃって! ただ……それだけで!」

 

「返せ」

「返せ」

「返せ」

「返せ」

 

「みんなの手足を返せ。みんなのものを返せ」

 

 見知った懐かしい顔をした四体の死体が一斉にキッドに群がった。

 

 

 

 

 とある建物内に設けられた一室にて無機質な機械の起動音が規則正しく鳴っていた。

 一般には出回っていない最先端の機材がひしめくその部屋はいわゆる検査室だ。

 白衣を着た数名の研究員らしき人間が淡々とPCの画面とにらめっこを続けている。

 部屋の中央には不思議な液体がいっぱいに満たされた巨大な水槽かカプセルのようなガラス容器を有する機材が鎮座する。その中には一糸纏わぬ姿で少女が一人入れられていた。

 黒い髪と中性的な顔立ち。

 控えめな胸部ではあるがすらりとして鍛えられた肢体。

 何よりも目を引くのは手足のあちこちに痛々しい縫合傷を走らせて、右脇腹からへそにかけてまるで一度引き裂かれたような傷痕があった。

 

「……」

 

 怖い夢を見ていた。

 目を覚まして、そう認識するまでにさほど時間は掛からなかった。

 らしくない悲鳴を上げることも、寝汗をかいてもない。

 正確に言えばそうすることが出来ない状態にあった。

 

(よかった……ちゃんとある。ちゃんと動く)

 

 薬液が満たされたメディカルプールの中に入れられているキッドは自分の意思で自分の指先が動くことを確かめて安堵する。口元に取り付けられた酸素マスクがいまは唯一彼女の命を繋いでいる。

 

 サンライズシティ。

 何の変哲もないこの地方都市には一つだけ裏の顔があった。

 それがキッドも所属する結社が有する大きな研究施設が秘密裏に運営されているということ。

 彼女がこの日、偶然にもこの街にいたのも本来は特殊な肉体を持つキッドが今度も万全に活動するためのメンテナンスを受けるためだった。

 

(なんでいまになってあんな夢を……後ろめたさなんて、とっくの昔に吹っ切ったのに)

 

 緑色の生暖かい薬液の中を生まれたままの姿でたゆたいながら釈然としない面持ちで先程の夢についてぼんやりと考える。やがてメンテナンスの時間が終わり液体越しに揺らぐ視界の向こうで研究員たちが慌ただしく動き始めるのが見えた。結局、夢についての納得のいく憶測は見いだせないままだった。

 

「気分はどうだいブリランテ」

 

 自力でメディカルプールから出て、用意されていたタオルでキッドが髪を拭いていると彼女がまだ裸だというのに馴れ馴れしい口調で近づいてくる白衣の男が一人。

 顔立ちは整ってはいるが坊主頭に整形でもしたのかエルフのように尖った耳をした奇抜でふてぶてし雰囲気の青年だ。

 

「百年はぐっすり寝ていた気分だよ」

「効率的なメンタルで羨ましいぜ。お前さんをプールにぶち込んでからまだ二時間ちょっとしか経っちゃいない」

「ん? おいシラクラ、コーヒーは? いつも助手のお姉さんがくれるだろ?」

「悪いが切らしてる。欲しけりゃラウンジまで行って淹れてもらってきな」

 

 キッドの裸体を見ても別段無反応に会話をするこの男の名はシラクラ。

 結社の技術局が誇る凄腕のエンジニアであり、この世界でのライダーシステムの生みの親の一人でもある鬼才だった。キッドとはそれなりに気心の知れた相手なのか彼女の方も男にもろ肌を見られているというのに恥ずかしがる様子もなく、壁際に備えられたベンチに腰掛けて呑気にリラックスしている。

 

「ちぇ。白衣のお姉さんからもらえるコーヒーだからインスタントでも美味しいのに……それなら街の良さげなカフェ行ってお茶するよ」

「そうしろ。仕事とはいえ、デモンを迅速に片付けてくれてありがとうよブリランテ。この街を代表して礼を言っておくぜ、一応な」

「一応ってのは口にしなくていいけど……気にするな。やりたくてやってるんだ。それに今回は頼れる新メンバーが頑張ってくれたしね。ソングオブウインド、気に入ったよ」

「だろうよ! 俺の最新版の自信作の一つだからな。ところでキッド、メンテナンス終盤で少しバイタルに乱れがあったが何か不調でもあったのか?」

 

 投げかけられた言葉にキッドの表情が僅かに陰る。

 

「別に。ただちょっと怖い夢を見ただけだよ」

「はあん、分かったぞ。過去の夢か、お前さんのいた孤児院のお友達関連の夢だな。なるほど興味深い。心理学は素人だが今度の俺の研究や作品作りのいい糧になる! おい、詳しく話して見ろ。楽しかった思い出か? それともお互いに成長したあり得たかもしれないIFの光景でも夢見たか! 幻肢痛の兆候は見られなかったがやはりお前さんがバラバラになってお仲間も全員ぶっ殺された日を夢でも見てたか? なあなあなあ!」

 

 この男にデリカシーという概念は存在するのだろうか。

 知的好奇心に駆り立てられるまま爛々とした眼差しで捲し立ててくるシラクラに腕の縫合傷を撫でていたキッドは無言でベンチ下の籠に突っ込んでいた服や私物の中からラッキーライラックを手に取ると躊躇いなく二発撃ち込んだ。

 乾いた銃声が響きシラクラの顔の隣の壁と足元に銃痕が出来上がる。

 

「おわ!? 酷いヤツだな……虫も殺せないひ弱なエンジニアにいきなり発砲するだなんてよ。友だち甲斐のないやつめ」

「バカ。お前とボクとの友情に感謝しろ。シラクラじゃなかったら金玉(ボール)を潰してた」

 

 こいつはこういう人間だと知っているキッドは長々と窘めることもなくシャワーを浴びるために籠を抱えてメンテナンスルームを後にしようとする。

 

「待て待て! 大事なことを伝え忘れていた。それだけは聞いていけ上からの直接の命令だ」

「なんだって?」

 

 両手を合わせてわざとらしい謝罪のポーズをしながら自分の前に立ち塞がるシラクラを雑に蹴り倒してシャワー室に向かおうとしていたキッドだったが最期の言葉に寸前で足を止める。

 

「ブリランテ、結社は君に合衆国西部にある禁足区域(・・・・)の調査を命じている」

「……詳しく聞かせろ」

 

 禁足区域。

 その単語を耳にしてキッドも真面目な面持ちでシラクラに続きを促す。

 禁足区域――そうカテゴライズされてしまった地域とは悪魔の出現率の高さなど様々な要因から現人類の手での治安維持が困難と見なされて、そこにありながら存在を抹消されてしまった土地の総称である。

 

「禁足区域に一般社会で暮らしていけなくなった人たちが流れ着くことはお前さんも知っているだろう?」

「もちろんね。規模や荒廃具合の差はまちまちだろうけどアレはホームレスや落伍者たちの格好の楽園だ」

「その禁足区域の一つに近年異常なほどの人間が集まっている。集まるだけなら結社も見逃したんだろうが驚くことにこの禁足区域は少しずつながら復興を経て発展を開始していることが空からの偵察で判明した」

「悪魔が裏で彼らを操っていると?」

 

 長話になると見たキッドは流石に肌寒くなったのか外套だけを羽織ってベンチに腰掛け直す。彼女の言葉にシラクラは無言で頷いた。

 

「お前さんがブルーヘイブンで解決に導いた事件のように人間側が悪魔に魅入られて何かしらの企てを立てている可能性もある。そう判断して先に現地に調査員を派遣したんだが……そいつと連絡が取れなくなった」

「ご愁傷様だね。つまりボクはその哀れな調査員の尻拭いをすればいいわけだ。相変わらず辛気臭い仕事ばかり回してくれる良い上司なことだ」

「早合点するな。派遣したのはマードッグだ。死んじゃいねえだろう。結社としてはあいつを探し出して早急に件の禁足区域に不穏な点がないか調べろとのことだ。可能な限り悪魔共を処理してな」

「人材ミスにも程がある」

 

 シラクラの口から出た名前にキッドは特大のため息を一つ零すと憮然とした様子で立ち上がり、部屋の入口へと向かいだす。

 

「資料があるなら用意をしておいてくれシラクラ。明日には件の場所へと出発する」

「ほお、不服そうだが受けてくれるわけか? お前さんも随分と仕事熱心じゃあないか」

「勘違いするな。結社のためじゃない、ボクはボクの信条に肩入れするだけだ」

 

 振り返ることはなく、キッドは答えた。

 その声には普段の陽気さはなく、先ほど見た夢のこともあって冷たく剣呑だ。

 

「まあ何でもいい。社交辞令ではあるが気を付けて行ってこい。可能な限りのサポートは尽力させてもらおう。一風呂浴びたら仕事に必要なワガママをたっぷりと聞こうじゃないか?」

「最初にお前を経由して結社に言っておくけど、ボクとマードッグが組むんだ。その禁足区域が更地になっても知らないからな」

「心得た。でだ……あのじゃじゃ馬からの唯一の報告で分かっている情報を前もってお前さんにも伝えておく」

「どういった情報だい?」

「禁足区域で拡大を続けている街の名はフリーエルドラドと呼ばれているそうだ」

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 熱いシャワーを浴び終えて、バスローブに着替えたキッドは真っ白なシーツのベッドへとダイブするように体を預けた。雑居ビルに偽装された結社の拠点にある一室を借りて今宵一晩は泊ることにしたのだ。

 残念ながらサンライズシティの流行のカフェでの一服や食べ歩きも今回はお預けだ。もちろんアーノルドの愉快な連中たちとの楽しいギャンブル大会もおじゃんだ。

 

「知ってるさ、こんな人生はただの自己満足で誰の願いも託されていないことなんて」

 

 気落ちした顔でぽつりと呟く。

 普段なら過去にまつわる夢を見たところですぐに笑い飛ばせるはずなのに、今回はどうにも調子がすぐに戻らない。不貞腐れたようにキッドはゴロゴロと乱暴に何度か寝返りを打つ。

 

「だけど……なにもやらないわけにはいかない。やらなきゃいけないんだ」

 

 胸元にそっと手を置いて、キッドは噛み締めるように自分に言い聞かす。

 ここで折れたら自分が自分でなくなってしまう。

 そうだろう掃除屋キッド。と綻びかけていた決意と信念を引き締め直すとむくりと起き上がり、出立に際しての装備の再確認を行っていく。

 

「市街戦が中心になるなら小回りが利く道具を持って行こうか。気が進まないけどシラクラのもう一つの自信作も……」

 

 ふと視線を部屋の隅に移すとそこには布に包まれた一丁の銃が置かれていた。

 ソングオブウインドと同じく、いやそれ以上の傑作とシラクラは鼻息を荒くして語っていたがコンセプトや動力がキッドとしては些か気に入らずに出来るなら使用したくないと思っている一品でもあった。

 

「格好も……外套はいいとして学生服はやめておこうか」

 

 気持ちを切り替えて、行動を起こす。

 フランチェスカ・ヴィクターに戻って過去を偲ぶ日はまだ先だ。

 いまは掃除屋キッドとして在るだけでいい。

 そうしてキッドは熱心に此度の任務を完遂するための準備を黙々と進めていく。

 輝ける銃士の新たな旅たちの刻が迫る。

 

 

 

 

 合衆国西部。

 隣国との国境にほど近い場所にその土地はあった。

 かつては農業が盛んな小さな町であったそこは数年前から異常出現する下級悪魔による被害に歯止めがかからずに三年前から禁足区域の烙印を押されてしまった地だった。

 国の援助によってかつて住んでいた元の住人たちは全員が避難して無尽の廃墟となったはずのそこに、一人……また一人とさまざまな理由で表社会で真っ当に生きていけなくなった者たちが集まってくるのにそう時間は掛からなかったという。

 

 やがて、集まった人々は各々の経歴を活かした技術や知識を活かして荒れ放題の廃墟を少しずつ復興させて、可能な限り暮らしやすいように改良していったのだとされる。

 吹き溜まりの理想郷。

 その名をフリーエルドラド。

 

 流離いの弾丸の冒険が再び始まる。

 

 





皆さま、お久しぶりです。
いつもお世話になっております。
当初の予定よりかなり遅くなってしまいましたが本日よりブリランテ新章がスタートとなります。他の作品との掛け持ちの都合もあり更新頻度は不定期かつ遅くなる可能性が高くなると思いますがコツコツと頑張りますのでご了承ください。


皆さまのご意見、ご感想を頂けますと執筆の励みになりますのでよろしくお願いします。
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