仮面ライダーブリランテ   作:マフ30

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 お久しぶりです。
 一年以上も更新を滞らせて本当にすみませんでした。
 どうしても当初のプロットやキャラクターに納得がいかず何度も推敲を重ねて、やっと満足いくものが纏まったので相変わらずの亀更新になるかもですが続きを再開させる所存です。
 お恥ずかしい限りですがまたお付き合いしていただければ幸いです。



第二節 嵐の愚女(ストーム・フール)

 

 

 この世界に悪魔という異界からの災厄が現れるようになってから市町村としての機能を維持できなくなり記録から消え去った土地は少なくない。

 合衆国西部の乾いた大地と果てしなく続く路上の先にポツンと姿を見せるサンズビルと呼ばれた小さな町の跡地もそんな人類に破棄された大地の一つだ。

 

 何の変哲もない田舎の町に初めて悪魔が出現したのを境にその頻度は異常なほどの速度で加速していき、治安を保てなくなった結果いまから五年前にはサンズビルで暮らしていた住人たちはいなくなった。そして三年前に政府は町の復興は絶望的と判断して禁足区域、現人類の手の届かない土地であるという認定を下した。

 それらは全て表向き、あるいは書類上での話だ。

 では、現実はどうなのだろう?

 一つ、言えることは人間とは往々にして存外に生きしぶとい生き物だ。

 

 

 

 

『ギギィ! ギイイイッ!』

 

 廃材やガラクタで組み上げたバリケードで周りを囲んだフリーエルドラド(かつてのサンズビル)の空を飛び交うのはカラスやハゲタカではない。

 蝙蝠を思わせる漆黒の翼を広げた下級悪魔(レッサーデモン)たちだ。

 

『ギャルルラァアアア!』

 

 死肉に群がるコバエのようにフリーエルドラドのバリケード付近を飛び交うレッサーデモンたちへ見張り番の男が急いで発砲するが散弾銃の銃撃はろくに当たらない

 それも当然だ。

 男は訓練された警察官でも軍人でもない。

 職を失い、家族に逃げられ、途方に暮れ、風の噂を頼りに落伍者たちの安寧の土地であるとされるフリーエルドラドに流れ着いた凡人なのだ。

 そう、この土地はいまや彼のような様々な事情や傷を抱えて表社会から零れ落ちてしまった流れ者たちが寄り集まって築き上げた有り得ざる町なのだ。

 

『イヒャヒャヒャ!』

「うひい゛ぃっ!?」

 

 急降下して自分へと迫る黒翼にへっぴり腰の見張りは死を覚悟する。

 しかし、研がれたナイフのように鋭い悪魔の爪が彼を引き裂くよりも早く別方向から発射された弾丸が敵の頭部を撃ち抜いた。

 

「怪我はないか!? 無いなら立て!」

「は、はい……ありがとうございますエルザさん」

「立ったら撃つ! 突っ立っているだけじゃあ死にますよ!」

 

 間一髪で見張りの男を助けたのはライフルを構えた灰銀色の髪を肩ほどまで伸ばした保安官姿の若い女だった。

 エルザと呼ばれた凛々しい風貌の女は町の住人たちで結成した自警団を率いて現場に駆け付けるとすぐさまレッサーデモンたちの迎撃を開始する。

 

「慌てなくていい! 落ち着て確実に撃ち落とすんだ!」

「この悪魔共が! 朝も晩もお構いなく出てきやがって!」

「がんばれ! すぐに彼女が来ます! それまで意地でも町の中に入らせるな!」

 

 自警団は各団員の実力も装備もバラバラで格差があった。

 しかし、エルザが指揮を執る効果によるものか連携や士気はなかなかのもので相変わらず無駄弾は目立つが着実に湧き出た悪魔の数を減らしていった。

 

『ギィ……シシ!』

「あ! エルザさんこっちの二体がアンタの方へ行ったぞ!」

「くっ!」

 

 今回出現した悪魔たちは知恵が回る輩だったのだろう。

 誰を真っ先に殺せば効率がいいかに気付くとそれまで各々好き放題に暴れていたレッサーデモンたちの一部がエルザに標的を絞って一斉に襲い掛かる。

 

「舐めるな! バケモノたちめ!」

 

 ライフルだけを頼りにしていては間に合わないとエルザは咄嗟に腰に装備していた拳銃を抜いて合わせて発砲するが慣れない二丁流に体の方が付いてこず悪魔の一体を仕留め損ねてしまった。

 

『キシャァアアア!』

「あぐぅ!? ゴホッゴホッ……うぅ」

「エルザさん!」

 

 レッサーデモンは低空を滑空しながらエルザの腹に強烈な体当たりを決めて悶絶する彼女をそのまま押し倒した。

 鈍痛に苦しみ満足に体を動かせず悪魔に組み伏せられた彼女に待っているものは凄惨な死だ。

 腕や胸部に暴漢の比ではない強烈な力を押し当てられて、服越しに黒ずんだ異形の爪がゆっくりと食い込む感覚に彼女は堪らず全身の血の気が引いた。

 エルザは今日、これから間もなく死ぬ。惨殺される。

 その場にいた誰もがその残酷な現実を察した。

 

「オレちゃんのお気に入りによぉ」 

 

 しかし、嵐が吹く。

 運命を蹴散らす嵐が来た。

 

「なぁにやってんだよ!」

『ギ――』

 

 その声が聞こえるよりも早く、まるで白昼に煌めく三日月と見間違えるような巨大な刃がレッサーデモンを横一文字に両断した。

 雷雲のようなエンジン音を轟かせて戦場に乗り込んできたシュモクザメを模した四連のヘッドライトを装備したフロントカウルを持つ黒い大型カスタムバイクに跨る人物がそれを成した。

 

「待たせたなぁ兄弟! オレちゃんが来たからには熊にマスタードだぜ!」

 

 意味が分からないがご機嫌なテンションで専用バイク・シャークネイダーから颯爽と降りたのは身の丈ほどの巨大刀を背負った傷面(スカーフェイス)の女性だった。

 女の身なりは一言でいえば右袖が千切れた漆黒のフロックコートを纏った海賊であった。

 だがコートの下はなんと派手な星条旗ビキニと黒のショートパンツという薄着で豊満な胸を揺らしながらも引き締まった小麦色の肌と肢体を惜しげもなく晒す煽情的で奇抜な格好だ。

 長い金髪をピンクのリボンでポニーテールに束ね、鼻筋を通る一文字傷が否が応でも目に入る勝気そうだが不思議な愛嬌を合わせる顔立ちの女は黒の長手袋をした右手で握った大剣を軽々と振るって肩に担ぐ。

 

「助かりましたマレーネさん!」

 

 窮地を救われて身を起こしたエルザは到着した頼みの綱である最近流れ着いた掃除屋の女に声をかける。

 マレーネ。

 マレーネ・マードッグ。

 彼女こそ結社に所属するキッドの仕事仲間その一人だ。

 

「おう! おめえらは下がって露払いでもやってな……片っ端からぶった斬りだぜええ!」

 

 柄に丸みを帯びた金色の護拳があしらわれたマレーネ専用の大剣型対悪魔専用兵装シーサーペントライザーを構え直すと彼女は腹をすかせた鮫のように口角を吊り上げて下級悪魔の群れに斬り込んでいく。

 

「ヒャッハー! 宝の山だぜブラァァァボオォッ!」

『ギャバッ!?』

 

 前振りなくなく投擲された大剣が浮遊していたレッサーデモンの一体に深々と突き刺さる。先制攻撃に成功したマレーネは嬉々として飛び上がり愛刀を引き抜くとそのまま消滅途中の悪魔の死体を踏み台にして周囲の敵を撫で切りにしていく。

 レッサーデモンたちは困惑しただろう。

 奴らの知識にある人間とは非力で矮小であくせくと知恵を絞って道具を駆使して生き足掻く弱い生き物だ。

 

「ウワッハハハハハハ! 誰が一番ご立派なデモンハートを持ってるかオレちゃんが見てやるよ! 恥ずかしがらずに出してみなぁ!」

『イギャ!?』

「まあ、結局全部オレちゃんのモンにしちゃうんだけどね! アレだ! 一番おっきなやつはじっくりザクザク斬ってやんよ!!」

 

 しかし、目の前で暴れ散らすこの人間の女は違う。

 悪魔以上に本能の赴くままに理性を放棄したような乱痴気な言動で刃を振り回して自分たちを蹂躙しようとしている。理解不能の恐怖を感じずにはいられなかった。

 

「おんどらぁあああ! 逃げてんじゃねえええ! 黙ってオレちゃんに狩られるんだよお宝どもがあああっ!」

 

 下級悪魔たちは驚くことに退却を始め出した。

 目の前のこの人間は自分たちのことを恐ろしい災禍ではなく、ただの高値になる換金物としか見ていない。

 戦意を失い逃げ出したレッサーデモンたちを凄まじい剣幕で追いかけるマレーネの目の前の地面に不意にタール液のようなどす黒い水溜りのような物が現れる。

 新たな悪魔が出現するということにマレーネの後方で町の防衛に集中していたエルザたちは顔をひきつらせた。

 

『喧しい雌猿だ』

「んあ?」

『こんな下劣な生物に怯える同族たちにも反吐が出るわい!』

 

 泡立つ黒い水溜りが広がり第二陣のレッサーデモンたちが次々に飛び出す。

 そして、最後に場に響いた聞き覚えのない人語。

 すなわち上級悪魔(アークデモン)が出現するという現実にエルザたち常人は凍り付いた。悪魔が頻繁に出現する禁足区域とは言え上級悪魔が姿を見せる例は極めて少ない。

 

『卑しい下等生物めが! 腑抜けた同族諸共噛み砕いてワシの腹の足しにしてくれん!』

 

 黒い水溜りからぬるりと力強く白い異形の腕と思わしきものが飛び出して、上澄みの悪魔が這い出てくる。

 漂白されたような不気味な体色を持つ六本腕のずんぐりとしたワニのような悪魔。アリゲーターデモンは鼻息荒くマレーネたちを見下すと短剣が生え揃っているのかと思うぐらい鋭く大きな牙を持つ大顎を開いて威嚇する。

 

「おうおう。図体がデカけりゃ叩く口もデカいときた。これで肝心のデモンハートだけお粗末ってのはご勘弁だぜぇ?」

『ほざくな下郎めが!』

 

 わざとらしい拍手をして軽口を叩くマレーネにアリゲーターデモンの咆哮が浴びせられる。生温かく不快な臭いを孕む異形の雄叫びは突風のように後ろの自警団たちにも届いた。

 

「ひいいいっ!?」

「無理だ……こんなの退治出来っこない」

「し、死にたくねえよ…‥」

「マレーネさん……マレーネ・マードッグ!」

 

 自警団の面々は圧倒的な存在感を放って死を意識させるアリゲーターデモンにすっかり気圧されていた。そんな中で一人、まだ毅然とした心を保っているエルザは神妙な面持ちでマレーネの名を叫ぶ。

 

「どうかしたかー? お! さては昼飯になに食べるかのご提案かぁ!?」

「あの悪魔に勝ってくれるんですよね? 貴女を信じていいんですよね」

「オレちゃん、いい顔したヤツといい身体したヤツからの期待は裏切らない主義♪」

 

 拳を握り締めて切羽詰まった表情で問うエルザにマレーネは気取った態度で彼女に投げキッスを送ると一瞬で剃刀のような怜悧な顔に切り替わりアリゲーターデモンに対峙する。

 

「よぉ! 美白にミスったワニちゃん……そーゆーこったから、狩られるのはテメエの方な?」

 

SSライザー(シーサーペント)を地面に突き刺したマレーネはフロックコートの内側から操舵輪を象ったバックルを持つベルト・ロマンチックドライバーを腰に当てて装着する。

 

「オレちゃんの異名を教えてやるよ。破嵐の剣(ワイルドソーダ―)だってよぉ」

 

 【Start up! Dream Journey!】

 

 マレーネはベルトの操舵輪に三カ所ある持ち手が欠けたようなスロットの一つに真紅の短剣スカードダガーを挿し込む。瞬間、ロマンチックドライバーからは電子音が鳴り響く。船出の時を報せるように。

 

「傷だらけにご用心だぜ! 変身!!」

 

 マレーネが勢いよくベルトの操舵輪を回せば眩い光が溢れ出し、彼女は悪魔を蹂躙する仮面の海賊へと姿を変えていく。

 

 

 

 

 光が霧散するとそこには獰猛な海賊が一人、乾いた荒れ地の海原に立つ。

 黒いアンダースーツに上半身を深紅の装甲で固め、両肩は上部に三つ並びのパイプのようなものが取り付けられた帆船の舳先を思わせる鎧を纏う。右腕は手首にダイヤルのような腕輪を嵌めた白銀の機械仕掛けのようだった。

 海賊帽を思わせる装飾を取り付けられた黒い仮面は一際異質だ。

 なにせ右半分は骸骨を模した白いおどろおどろしいもので左半分は赤い複眼を持つ命知らずな賊徒の面だ。左右で違う顔を持つその仮面は幽霊船の主であるかのような凄味があった。

 

『オレちゃんの名前を憶えて逝きな……仮面ライダースカード! 嵐の愚女(ストーム・フール)のお通りだ!』

 

 それが姿を変えた彼女の名前。

 荒れ狂う暴風雨の如く悪魔を切り刻む狂騒たる海賊だ。

 

『ヒャッホゥー! 蹂躙劇の大盤振る舞いだああ!』

 

 名乗りを上げたスカードはSSライザーを掴むと意気揚々とアリゲーターデモンに斬りかかっていく。

 彼女が動いたのに応じて眷属であるレッサーデモンの数体が迎撃に出るがスカードはこれを苦も無く切り捨てると振り上げた愛刀でアリゲーターデモンに袈裟切りを浴びせる。

 

『お? おお!?』

『効かんわ! 生意気な下等生物めが捻りつぶしてくれる!』

 

 SSライザーの鋭い刃は確かに白い異形に直撃した。

 しかし相手の鰐皮は分厚く頑強でスカードの斬撃を阻んでいたのだ。アリゲーターデモンは自慢の肉体にほくそ笑みながら丸太のように太い六本の腕でスカードに襲い掛かる。

 

『ちょいとは楽しめそうじゃねえか! 歯応えがなきゃ小遣い稼いだ気にならねえかんな!』

『戯言ばかりよく出る安い口であるな! 死に晒せえ!』

 

 けれどスカードも簡単にはやられない。

 冷静にバックステップで間合いを調節しながら巧みな剣捌きで矢継ぎ早に飛び出してくる六本腕を切り弾く。

 取り巻きのレッサーデモンたちの相手もしながら攻防を繰り広げているとアリゲーターデモンは自らの攻勢は終わらぬと大顎を広げて噛みつき攻撃を繰り出す。

 

『ぬおおっと!?』

 

 咄嗟にSSライザーを構え直して防御姿勢を取りスカードは間一髪で自分の体の代わりに愛刀を噛ませることで白鰐の顎とから逃れる。

 しかしアリゲーターデモンの噛力は凄まじく火花が散り、敵の大牙と愛刀がひしめき合う耳障りな金属音が鳴り続ける。

 

『こんななまくら刀噛み砕いてやるわい!』

『認めたかねえけどワニちゃんなら出来そうだなぁ』

『ガッハハハ! 馬鹿な奴めその次は貴様の骨肉を蹂躙すると分かっているのか!』

『テメエこそ敏感な場所を丸出しにしてるって……わかってるぅ?』

 

 SSライザーに噛みついたまま巨体を活かしてズンズンと力を掛けてスカードを消耗させていくアリゲーターデモン。しかし劣勢に立たされているはずの彼女は煽り口調で意味深な言葉を繰りにすると渾身の力をSSライザーに込めてアリゲーターデモンの口を無理やり抉じ開けた。

 

『くわっ!?』

『痛いのをぶっ食らわせてやんよ!!』

 

 反撃の糸口を見出したスカードの両肩に変化が起きた。

 装甲の上部に取り付けられた三連のパイプが45度旋回してアリゲーターデモンの方へ向くといきなり轟音を鳴らして赤い光の砲撃を開始したのだ。

『おぼああああああ!?』

『見たかオレちゃんのスカードノヴァ! まだまだいくぜ!』

 

 双肩それぞれに三門。合わせて六門によるショックカノンによる激しい砲火がアリゲーターデモンの口内に叩きつけられる。

 どんなに外皮は堅牢であろうと体の内側はそうとはいかない理は上級悪魔も同じだったようでアリゲーターデモンは口から黒煙を上げて激痛に悶絶する。

 

『キィヒィィイイイイイ!』

『キジャアアアア!』

「危ない! 後ろ!」

 

 スカードがアリゲーターデモンへの攻撃に夢中になっている隙をついて生き残っていたレッサーデモンたちが背後から襲い掛かる。

 細長い悪魔の腕が彼女の背中を突こうと迫るがエルザの声に呼応するようにスカードの左右の砲門が一門ずつ180度向きを変えて照準を合わせた。

 

『ギィ!?』

『横にしか動かないと思ったのかぁ~? 縦にも動くんだよなこれがさぁ!』

 

 スカードの背後で轟く砲音。

 レッサーデモンは断末魔を上げることも出来ずに赤い閃光に撃ち抜かれて消し飛んだ。

 

『お、おのれ……だが! お前が我の肉体を斬れぬのには変わらぬぞ! 根競べなら負けはせぬわ!!』

 

 情け容赦のない砲撃の嵐に晒されて黒焦げになりながら激怒するアリゲーターデモン。だが実際にその異形の表面は煤塗れになっているだけで防御力そのものが落ちているわけではないようだ。

 ならばとアリゲーターデモンは六本腕による怒涛の攻撃や長い尻尾による打撃を延々と続けてスカードを力尽きさせれば良いと持久戦を仕掛けてきたのだ。

 

『残念だったなぁ! オレちゃんはたったいま……妙案を閃いちゃったんだぜ!』

 

 しかし、相手が悪かった。

 理性が蒸発したような女であるスカードが素直に相手のやり方に乗るわけもなく。

 

『宣言してやる! お前を必ずぶった斬って倒してやるってよぉ!』

『ほざいたな! この愚かな匹夫めがあああ!!』

『いくぜぇ!』

 

 威勢よく啖呵を切ったスカードはロマンチックドライバーの空いているスロットに今度は黄色い短剣を挿し込んで操舵輪を回す。

 

【Boost up! Fenomeno!】

 

 電子音声が鳴り響き、仮面の右半分である髑髏面のぽっかりと空いていた眼部に蒼い鬼火が宿る。その火眼の勢いが激しくなるのに同調するように膨大なエネルギーがスカードの全身に、そしてSSライザーにまで満ち溢れていく。

 

『真っ直ぐ来い! 生きるか死ぬかのデスゲームだぜ!』

『望むところだ! 今度こそ見る影もなく嚙み潰してくれるわ!』

 

 雌雄を決するチャンスというなのエサをチラつかされて、知らずにスカードの思惑に乗せられてしまったアリゲーターデモンは鰐そのものの八足歩行に切り替えて猛然と突進してくる。その迫力はあらゆる障壁を破壊する重戦車のようだ。

 

『フッ……GO! スカアアァァァド!』

 

 短く息を吐き、有り余る闘争心に一気に火をつけたスカードはSSライザーを逆手に持って構えるとアリゲーターデモンを迎え撃たんと駆け出した。

 

『噛み殺す! ガアアアアアッ!!』

『ああ、いいぜぇ……そこ(・・)が斬りたかったんだ』

 

 大きく開かれたアリゲーターデモンの大顎はまるで地獄へ続く冥府の門のような恐ろしさだ。だがスカードに怯む気配は微塵もない。むしろ、再び相手に大きく口を開かせることこそが彼女の目論見だった。

 

『いくぜ! ストームザンバァァァァァッ!!』

『あ、が・・・・・・イギャアアアアアアアア!?』

 

 刀身に真紅のオーラを帯びて強化されたSSライザーがアリゲーターデモンをその口の端から切り裂いていく。

 切り口さえ見出せれば両断は可能だ。

 他ならぬ自分と愛刀ならばと賭けに出たスカードは見事に勝機を手繰り寄せたのだ。

 

『ウラァアアアアア!!』

『こんな……ふざけたことが! あってたまる、かぁぁぁ……!?』

 

 裂帛の気合と共に力の限りSSライザーを握る左腕を振り抜いてスカードは見事にアリゲーターデモンを一刀両断してみせた。

 二枚におろされた悪魔は途切れ途切れの断末魔をどうにか吐き出すと二つの火柱となって爆発四散した。

 

 

 

 

「すげえ……デモンハートがこんなに!」

「これでしばらくはどの区画も動力の心配もないぞ」

「外で売って物資に変えられる余裕だってありそうだ」

 

 戦いが終わったバリケード前には大小無数の赤い宝玉が転がっていた。

 自警団や見張りの男は目を輝かせてそれらを回収していく。驚くべきことにマレーネが仕留めたデモンハートはあれだけ滅茶苦茶に暴れ回っていたのにも関わらず殆どが綺麗な形を保っていた。

 

「ひゅー♪ 我ながら営業成績ナンバーワンって感じかぁオレちゃん」

「ありがとうございましたマレーネさん。まさか上級悪魔が現れるだなんて……貴女がいてくれて本当に良かった」

「おうおう♪ もっと褒めてくれていいぞぉ」

 

 自分の働きぶりに酔いしれているマレーネのもとに仲間に事後処理を任せたエルザがやって来て深く頭を下げた。一般的な掃除屋相当の実力があるエルザには今回の悪魔の襲撃がどれだけ危機的な物だったのか誰よりも分かっていた。

 

「堅苦しい礼はよせって言ってんだろうエルザ」

「あぅ……っ」

 

 真摯に一礼して感謝を示すエルザにマレーネは少し面白くなさそうな顔をする。すると何を思ったのか右手の二本の指をエルザの顎下に添えて彼女の頭を強引に上げさせる。

 

「オレちゃんへのサンキューってのはキスとかハグだってぇ」

「いえ、そういうのはちょっと風紀に差し障りがありますので……ご勘弁を」

 

 強さは規格外だが人間としての素行はお世辞にも良いとは言えない振舞いのマレーネの誘いをその手の話題は苦手なのかエルザはたじたじになりながらも断りを入れて窘める。

 

 

「しょうがねえな。なら腹減ったし飯食いに行くぞー」

「それなら喜んでお付き合いします。行きましょう」

「へえ……言ったなぁ」

「はい? わっ! ちょっと!?」

 

 言質は取ったとばかりに悪そうに目を輝かせるとマレーネは突然エルザを肩に担いでそのまま町の奥へと歩き出してしまう。その光景は襲った船から戦利品として美女を略奪する海賊そのものだ。

 

「ここは最高だが酒はレアだ。それに一応オレちゃんの立場でガバガバ呑むのは気が引けるだろぉ」

「お、降ろしてくださいマレーネさん」

「だったら飯食った後に酒の代わりに他のもの(・・・・)で酔いたいだろぉ?」

 

 他の者たちが困惑した視線を向けることなどお構いなしで歩いていくマレーネは懇願するエルザに愉快げに耳打ちすると肩に担いで自分の顔のすぐ隣にある彼女の臀部を愛撫するように二度叩いた。

 

「くっ、うぅ…………お戯れを」

 

 エルザは真っ赤になった顔を誰にも見られぬように頑なに伏したまま消えそうな声で呟いた。そういう行為を彼女とするのは初めてではない。

 マレーネが一週間前にフリーエルドラドに流れ着てから彼女と言う人間が本能と欲望に正直な無法者寄りの人間だということは嫌と言うほど知っている。

 同時に掃除屋としての圧倒的な実力とどんな境遇でも我を押し通せる強靭さも。

 

「それによぉ……クソ野郎に押し倒された時のとっておきの返し技も教えてやろうと思ってんだぜぇ? さっき成す術なかっただろうお前」

「…………そっちを先に教えてください。酔っていただくのはその後で、これが条件です」

「心得た! 安心しろよ。オレちゃん、美人との約束は女も男も関係なくちゃんと守る主義からよぉ! まあ、酔うのもそうだがねえ」

 

 短くない葛藤の末にエルザはマレーネとの取引に合意して女としての自分を売りに出した。いまフリーエルドラドでマレーネほどの戦力を失ったり、機嫌損ねて出て行かれるわけにはいかない。現に彼女が流れ着いたおかげで限りある人員の中で色々とやりくりしていたのに少しだが余裕が生まれて、多めの護衛をつけて外の正常に機能している近隣の町に物資の調達に仲間を向かわせることも出来たのだ。

 

「ハハン! まあそんな葬式みたいな顔すんなってぇ! とりあえず飯喰えば気持ちも変わってエルザもオレちゃんで酔いたくなるかもよぉ?」

「なりませんよ……そんなはしたない」

 

 エルザの覚悟に。

 そして、腕っぷしや容姿の美しさだけでなくこういった駆け引きもできる度量含めて彼女がお気に入りなマレーネはご機嫌な様子で町の奥へと消えていった。

 

「こんな場所に残ってるやつが真面目ぶるなよぉ。好きなことやりたいこと自由に気ままにやっちまえって! オレちゃんはやるぜぇ……いまにオレちゃんのオレちゃんによる楽園(ハーレム)を作ってやるんだ! ヒャッハー!!」

 

 結社から帯びた任務はどうしたのか?

 本能むき出し、煩悩たれ流しな破天荒な嵐の愚女はその胸中を誰にも明かすことなく、今日も思うがまま享楽に耽る。

 

 

 ここはフリーエルドラド。

 見捨てられた大地、破棄された町。

 故に光射す表舞台から零れ落ちた者たちが一握りの希望と夢を求めて集う場所。

 好きなことをしろ。

 やりたいことを成せ。

 誰もそれを咎めない。何もそれを否定しない。

 ただ……ちょっとした代価があるだけだ。

 

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