陰実廻戦   作:水絆創膏教教祖

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コメントの返信は基本しませんが、投稿のエネルギーになってるので毎回読んでます。ありがとうございます。


加茂憲倫復活!?

そろそろ一カ月が経つのだろうか。

 

僕は肉塊をゲットしたあの日を思い出しながら、実験室代わりのボロ部屋で溜息をついていた。

 

肉塊実験は途中までとても順調だった。

自分の体じゃ無いからとガンガン呪力を流し込み、ああでも無いこうでも無いと試行錯誤する日々。

 

楽しかった。

 

日に日に呪力と魂の真髄に近づき、同時に陰の実力者として力を付けていくのを感じていた。

己の実力が高まっていくのは、僕にとって何よりの喜びだ。

もっと緻密に、もっと繊細に、もっと力強く、もっともっともっともっと………。

 

呪力制御は極限まで高まり、そしてついに魂への完全な干渉と改造術を身につけたその瞬間。

 

目の前に金髪の女の子が現れた。

 

いや呪力制御と魂の改造に気を取られていたせいで、その瞬間まで肉塊が金髪の少女だと気づけなかったのだ。すごいね。あんな状態でも元に戻れるんだ。

君はもう自由だからお家にお帰り、そんな感じで爽やかに送り出そうとしたのに、帰る家はもう無い、助けてもらった恩は返すとか言い出しやがった。いや助けてないからね。偶然の産物だから。

 

面倒なので逃げるか殺すか考えてたけど、悪人でも無いしほっといても行き倒れてしまうだろうからと断念。

結局、彼女には陰の実力者の配下Aをやってもらう事にした。

なんか頭良さそうだし、無駄に有能そうな雰囲気あるし。年は僕と同じで中3なのにね。

聞けば有名なお嬢様学校に通っていたようだ。セレブは違うね。

 

「てなわけで、君は今日からアルファだ」

 

A、アルファ、どっちでもいいか。

 

「わかったわ」

 

彼女は頷いた。金髪、色白、青目、美人。

うん、めっちゃ目立つ。

陰の実力者の配下としては申し分ないんだけど、モブとして活動している時に近づかれたら目立ってしまう。

彼女に何か頼むときは認識阻害の呪具も渡しておこうかな。

 

「一つ聞いてもいいかしら」

「なに?」

 

彼女が不安げに尋ねてきた。

 

「私をあんなふうにしたアイツは何者なの?」

「え。あ、うーんと……」

 

多分呪物を食わせたのはスカーさんだろう。

だがハッキリ言って、スカーさんが何者かなんて全く知らない。主婦だろうか?

うーん、さっぱり分からん。誤魔化すか。

 

「…言えば君にも危険が及ぶ」

「構わないわ。私はアイツに全てを奪われたんだもの」

 

はい失敗。どうしたものか。

あ、良いこと思いついた。

 

「奴は無数の名を語り、悠久の時を生きる魔人だ」

「…魔人?」

 

いい食いつき方をしてくれる。これは魅せるしかない。

 

「ああ。奴が操っていたあの身体も、利用されただけの存在でしか無い。

奴が過去最も表舞台で活動したのは、呪術御三家当主としてだ。その名は加茂憲倫。史上最悪の呪術師だ」

「加茂…憲倫。そいつがお父さんとお母さんを…」

「…そうだ。全部加茂憲倫が悪い」

 

名付けて、『アルファが憎い奴を黒幕に据えて、陰の実力者プレイもしてしまおう作戦』。

 

さて、僕の練りに練った設定お披露目といこう。

僕的にはスカーさん人造人間説を推してる。真偽はどうあれそっちのがカッコいいし。

そして人造人間にはそれを作るマッドサイエンティストが不可欠。

 

そして過去を遡れば、そんなやばい奴が確かにいたのだ。加茂憲倫、明治あたりに好き勝手していた呪術師だ。

 

好奇心の為に悪逆非道の限りを尽くした大悪党。史上最悪の呪術師という名もカッコいい。

そんな呪術師が無数の人造人間を作成し、現代になっても死なずに世で暗躍していたら?

倒すべきラスボス。黒幕と言っても差し支えないほど、肩書き負けしない素晴らしい存在だ。

 

まぁどうせとっくの昔に死んでるんだし、良いよね。好きに名前を使っても。

 

「奴の目的はこの国を使った、類を見ないほど大規模な儀式。これを許せば世界は滅亡するだろう。僕はそれを陰ながら阻止する事を目的に動いている」

 

やっぱ黒幕はこれくらい規模デカくないとね。

 

「この国を使った?……ッ!なら、私みたいに苦しんでいる人達が他にもいるの?」

「無論だ。憎いのか?」

 

彼女は僕の言葉を咀嚼して、汚物を吐き出すかのような口調で返す。

 

「憎いに決まってる。アイツのせいでお父さんもお母さんも死んだんだから。叶うのなら、私がアイツを殺したいくらい」

 

僕は鷹揚に頷く。

 

「だが奴が表舞台に出てくる事は決して無いだろう。奴は無数の体を使い、現代社会や呪術界にも深く根を張っている。

だから僕らも陰に潜むんだ。陰に潜み、陰を狩る」

「それほどの存在なのね…。真っ向からでは逃しかねない」

 

ここで僕は呪肉(スライム)スーツを身に纏い、声色をさらに低くカッコよくする。

 

「困難な道のりだろう。だが、我らが成し遂げなければならない。協力してくれるか?」

「貴方がそれを望むのなら、私はこの身この命をかけましょう。そして咎人には、死の制裁を」

 

アルファは青い目で僕を見据え、不敵に笑った。

もはやその目に怯えや不安はなく、覚悟と決意に満ちている。

 

僕は心の中でガッツポーズをした。

 

「(おっしゃ、この女チョロいわ!)」

 

当然だが、加茂憲倫なんてとっくに死んでいる。だから当然見つかるはずもない。

だけどスカーさんは実在する。結構強かったし、逃げも得意。もし仮にさらに高スペックな人造人間がいたら、幾ら伸び代があるとはいえアルファだけなら勝てないだろうし、いなくても逃げられてしまうだろう。

 

だがそこに僕が参加すれば、次こそ確実に拘束できるだろうし、僕自身もそれなりにリアリティのある設定で陰の実力者プレイを行える。

 

アルファの目的を叶えつつ、僕の目的も同時に遂げる。それがこの作戦の真価だ。

 

スカーさんを探しながら、その辺の呪霊や呪詛師を加茂憲倫の手先として狩って「この世界は崩壊の危機に…」とか、主人公っぽい人の戦いに介入して「奴の計画はまだ終わってない……」みたいな思わせぶりな言葉を残して去るのだ。

他にも最強と呼ばれる存在と戦って「さらばだ“最強”よ。我を知らなかっただけの凡夫…」みたいな決め台詞と共に必殺技を繰り出したり………あぁ、夢が広がりんぐ。

 

そうだ。もう1人じゃないんだし、組織名も必要だな。

 

「我等はシャドウガーデン……陰に潜み、陰を狩るものだ」

「シャドウガーデン。いい名ね」

 

だろう。ネーミングセンスは昔からよく褒められるのだ。その度皆んな普段より優しい目になるのは未だに謎だが。

 

今この瞬間、シャドウガーデンが設立され、世界の敵として加茂憲倫が蘇った。

僕は陰の実力者の道程を、また一歩踏んだのである。

 

「ま、取り敢えず呪術の座学をしますか。君殆ど知らないみたいだし。その後は戦闘訓練ね。メイン戦闘は僕がやるけど、君には雑魚敵を狩って貰うからそれなりに強くなってね」

「分かってる。敵は強大、戦力の底上げは急務ね」

「そうそう、そんな感じ」

「加茂憲倫によって被害に遭った人達を助ける必要もあるわね」

「え、あ、まぁ…ほどほどにね?」

 

陰の実力者プレイは複数人でやった方が組織的っぽくて設定に深みが出るから良いんだけど、ぶっちゃけそんなに多くなくても問題ない。

なんなら2人で充分だし。

 

「ま、ひとまずは強くなるのが優先ね」

 

僕は呪力を表出しながら手本を見せつつ、つい先日まで非術師だったとは思えないほどのセンスで呪力練りかけてるアルファを観察する。

 

知識はこれから補えるし、センスも充分。

呪物を内に沈めた事で、これから術式も刻まれるだろう。

戦闘能力もこの調子ならすぐ向上しそうだ。

 

月の光がボロ小屋の窓から差し込む中、僕はそんな事を考えた。

 

 




ミノル「体を操る」→遠隔ラジコン操作的な意味合い
実際「体を操る」→パイロット的な意味合い
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