両親は殺され、日常は薄氷のように割れ、私は絶望の淵に叩き落とされた。
もはや肉体を奪われるという、死よりも恐ろしい現象を受け入れるしかないのかと諦めかけていた。
そんな時、あの青紫の光が私を救い上げてくれた。
私に道を示してくれた。
私に力を与えてくれた。
役に立てるって、そう思わせてくれた。
だから、私はこの人の為に全部使おうって、そう決めた。
この人の為なら復讐も、命も、日常も捨てて良い。
だからお願い。私をーー
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アルファとの出会いからの時間は、これまで以上に濃いものだった。
アルファの修行を兼ねて呪霊を殺したり、呪術御三家に忍び込んで大事そうな巻物を掻っ払って脱出するみたいなスパイっぽい事もした。
お陰でメキメキと実力を伸ばしていってくれたのだが、ある程度放任していた結果なのだろうか。
「この短期間でどこからそんなに拾ってきたの?」ってくらい、アルファは死にかけの子を拾いまくってきたのだ。
どの子も術師の呪力に侵されたり、受肉間際みたいな子達ばかりなので、普通の医者や呪術師では手の施しようがない子ばかり。
漏れなく皆んな死にかけというか、死にたくても死ねないような地獄みたいな状態だった。
仕方がないので全員治した。今ではシャドウガーデンの仲間である。
数ヶ月僕と一緒にいたのだから、アルファも僕の作戦というか思惑に気づいただろう。
だからと言ってそれを口にする事もなく、僕の設定に付き合って話を合わせてくれる。
僕も一応スカーさんを探しているし、見つけたら首以外消滅させて口内から脳の僅かな隙間まで確かめて逃走手段を徹底的に奪う心構えもある。
そんな持ちつ持たれつな関係を、僕はなかなか気に入っていた。
これまで、僕の陰の実力者プレイに付き合ってくれる人はいなかった。
仮にお願いしても頭おかしいんじゃないか?としか返されない事も理解していたから、わざわざ募る事もなかった。
それに1人で充分楽しめていたからというのもある。
だが、こうしてシャドウガーデンの仲間が増えていき、より深みのある設定でのロールプレイが可能となった。
こういうのも悪くない。最近は大好物に味変をするくらいの良さを感じている。
好きなものは好きなままだが、こういう楽しみ方もあるのだと知れたのは僥倖だった。
そして何より、アルファやベータといった頭のいい子が仲間になったお陰で、どんどん設定が練り込まれていってるのが楽しい。
特にアルファは演技派な上に作家の才能もあるのか、盛り上がる新設定を放り込んでくれるのだ。
「アルファ、僕は君に多くを教えた。今の君なら辿り着けるはずだ。まだ僕が明かしていない真実に。ーー我に力を示してみせよ」
こんな感じで「新しい設定期待してるよ」と話振ったら、なかなか緊張した面持ちで頷いてくれた。
いいね、アカデミー級の演技だ。
彼女が自由を選択していたら、世界に轟く名女優になっていたのかもしれない。
最近では新設定として、ラスボスの新たな名前と交友関係を追加してくれた。
ラスボス改名については、加茂憲倫と全く読みが同じ子を最近見かけたからだろう。
こういうのがイジメに繋がるというのを、彼女は知っているのだ。
ラスボス名は羂索に変更。画数多くて結構カッコいい。
そして面白いのは、羂索は両面宿儺と交流があったという設定だ。
あの史上最強と呼ばれる呪術師と繋がりがあるという設定は、結構斬新で好きだ。
伝え聞く数々の逸話から想像するに、とても友達を作れるような人では無かったが。
まあそういう細かいところは良いのだ。
本人曰く、加茂家の倉の中に隠された文献から辿り着いた推測らしい。
「貴方の助言のお陰よ…。自力ではここまで辿り着けなかったわ」と言っていたが、僕があのミミズみたいな字を読める訳ない。
彼女もそれを知っているはずだから、設定を活かした彼女なりの計らいだろう。
という訳で、羂索という名のスカーさんを探すスタイルで今日から登校していこう。
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「行ってきます」
誰もいない家に向かって僕はそう告げ、高校に向けて歩きだした。
そう、高校だ。今日から僕は高校一年生である。
向かう足取りは幾分か軽い。
その理由は、新たな楽しみに期待しているからかもしれない。
中学までの僕は核への対抗手段の確立に全神経を注いでいた。
何故なら、僕の目指す陰の実力者は核にも負けないからだ。
あの頃の僕はとにかく余裕が無かった。
魔力を見つけるという柔軟な発想に至るまでは、右ストレートで核を弾き返すという構想を真面目に練っていたくらいだ。
紆余曲折あり呪力を得て、核にも負けない力を手に入れた現在の僕は、新たなステップに踏み出す段階に来たのだと悟った。
つまりは主人公の発掘。
中学生まではネームドの記憶はしていても、先の見えない修行に多くのリソースを割いていた。
その為主人公を探すという事をしなかった。
だが今の僕なら、原石を発掘し磨き上げるという事まで可能だ。
そういう意味では、このタイミングで高校入学というのは運が良かった。
多くの作品の場合、主人公の年齢は高校生くらいだと相場が決まっている。
つまり僕の求める王道系主人公もきっと高校の中にいるはずなのだ。
必要なら、呪物を飲み込ませて魂を改造手術する事も厭わない。
呪術高専という呪術師の育成学校に行く案も考えたのだが、案外主人公はこうしたザ・平凡な高校にいるパターンもある。
ある程度探して見込みが無かったら、適当な呪術師の前で呪霊に腰を抜かして「な、何だあの化け物はぁ!?」ってすれば4級術師か補助役員にスカウトしてくれるだろう。
この世界は常に人手不足らしいし。
それに高専には六眼という伝説級の特異体質と、それを最大限活かす無下限呪術を持った神童がいるらしい。
まさにチート系主人公だ。
力に溺れてるっぽければ陰の実力者として王道に向かわせるルートで参戦できるし、普通に精神性も良いなら力を見せてみよって感じで登場できる。
あー、夢が広がりんぐ。
と、そんなことを考えていると高校に着いていた。
周囲を見ればどこにでもいる高校生ばかり。
ふふふ、相手にとって不足なし。
彼等もまた本職のモブである。だが、これまで磨き上げた全スキルをモブっぽさに使う僕に勝てるモブなどいないと信じている。
僕は不敵な笑みを心に浮かべたまま、新しい学校に不安気なモブとして門に踏み出した。
そして数日後に「主人公っぽさってなんだろう?」となるのだった。