――そして、
気づけば僕は真っ暗な闇の中を漂っていた。
360°、一切が暗黒に支配された世界。
足場は無く、重力もなく、光もない。
しかしそんな事はどうでも良かった。
僕はとうとう、魔力を見つけた!
気がついたら周りの景色が変わり魔力で満たされていたのだ。
ついさっき見つけた魔力とは違う気もするが、まぁ些細な問題だ。
あぁそれと更に些細なことだが、どうやらどこかに転移しているらしい。きっと魔力を見つけた事で次元の扉でも開いたのだろう。どうでもいい。
先程から見える光景はどう見ても現実世界じゃないから、宇宙の果てか、はたまた異世界にでも転移したのかもしれない。
まぁ、結局魔力を手に入れたという事実が全てである。過程やおまけに興味はない。
意識が覚醒してすぐ、魔力を感じることができた。ふわふわと青く光る粒子の姿は、かつて精霊を探しに全裸でお花畑を駆け回ったあの時の僕そっくりだ。
やはりあの修行の日々は無駄では無かったのだろう。
その証拠に僕は魔力を知覚し、僅かな時間で手足のように操ることが出来ている。
魔力の粒子同士を衝突させ。
螺旋状に結合させ。
圧縮させ。
限界まで広げた。
魔力とは、かくも美しい。こちらの操作一つで無限の可能性を魅せてくれる。
特に先程の変化は劇的だった。
魔力を掛け合わせるとでも言うのだろうか。
二つの魔力を結合させ、反転させる。その瞬間、明らかに今までとは別種のエネルギーへと変わったのだ。
操作中に起きた偶然の反応だった為一瞬、しかもほんの僅かな魔力しか使用していなかった。
果たして、これを更なる量の魔力で行ったらどうなるのか…?
期待と興奮が心中を支配するなか、僕は魔力を操作する。
瞬間、赫い光が僕の意識を覆った。
「――カハッ!?ゲホッげほっッッ!!」
なんだ…?何が起きた?
「キャハハハハハ!…キャハ?キヒハハ?」
甲高い、ガラスを引っ掻いたように不快な笑い声が響く。うるさい。
肺が、心臓が、手足が、頭が、体中が酷く痛む。
制服なんてボロボロだ。しかも謎の液体で汚れている。顔に着いているドロッとしたソレを拭った。
これは…血か。
場所もいつの間にか道路にいる。
突然変わった状況に混乱するが、何より優先すべき事項はーー
「魔力は…ッ!?」
腹部から体中に駆け巡る未知のエネルギー。
温かいのに寒気を感じるこの感覚。
「ふっ、フフッ。……ハハハハハハハハハッ!!!!!」
魔力は夢じゃ無かった!
ああ、それさえ確かならその他全てはどうでも良い!
「ふはははははははははははは!!!魔力が手に入った!漸くだ!僕は!陰の実力者にn――ッッ!」
叫ぶ僕に、トラックが突っ込んできた。
反射で横に飛ぶ。
「あっぶないなぁ!」
通り過ぎたトラックが、その場で生き物の様に180度回転しコッチに向き直る。
「凄い運転技術だな……ん?」
運転席に座る人間。夜中ながらハッキリと知覚できたその人物は、どうやら死んでいるらしい。
死因はーーなるほど。心臓麻痺のようだ。
普通ならそんな事すら分からないが、魔力を放出し反射させる事で中の様子を窺う事ができる。
エコーのように使えばこの通り、遠くからの診察も可能だ。
ああ、魔力は素晴らしい。この万能感はかつて全裸で十字架に磔にされた時と同じだ。
トラックの正面には赤いシミがベットリ付いていた。
「…もしかして僕、アレに轢かれた?」
トラックのライトから、二つの魔力を感じる。
あれっ。
これ、あの時僕が追いかけたやつじゃね?
ライトから染み出すように、肉の塊が零れ落ちた。
羽虫のように飛ぶソレは、風船の様な体に目や口を不均一に付けた異形。
「キャハッ!キャハキャハ!キャキャキャキャキャ」
恐怖を煽るように、二体の異形は不気味に、不快に、醜悪に笑う。
――なんて幸運なんだろうか。
「今日は吉日だね。魔力が手に入っただけじゃなくて、お試し用のサンドバッグまで向こうから来てくれるなんて」
僕は
◇○○○○○○○
溢れた肉塊が再び車のライトに戻る。
血だらけの少年ーー影野ミノルはその様子を見て再び口角を異常なほど吊り上げた。
「ははっ、凄い!物体と同化してるのか!」
ミノルは自身の体から溢れる魔力で視力を強化しつつ、薄く広げてその様子を隅々まで観察する。
「なるほど、勉強になる。僕にもできるかな」
ミノルは近くの木に魔力の放射を向けた。
ミノルが気を失い、仮称異世界で魔力を知覚しそれを操るまでで使用した時間は現実ではわずか数分。
ミノルの体感時間でも精々が2、3時間程度だ。
その程度の時間でこれほどの操作性を身につけたのは才能か、或いは日々の狂気的なまでのイメージトレーニングの成果か。
何にせよその存在そのものが異常であった。
ミノルは不満げな様子で木に向けていた魔力を解く。
上手くいかなかったらしい。
「できないか…。何というか、根本的に何かが違う気がするな。ここら辺は要検討か」
そこではたと気づく。
ミノルの視界いっぱいにひしめく自動車の大群に。
思考に没頭している間に、何処からか集まってきたらしい。
先程のトラックと同程度のものから軽自動車、果てはバイクなど。道路に収まりきらない其れ等は何故か宙を舞い、そのどれもに血液や凹みが存在している。
魚のように宙を泳ぐそれらは正面をミノルに向け、先程と同じようにキャハキャハと不快な甲高い嘲笑を響かせてきた。
「よし。手本も見たし、そろそろ実践してみるか」
ミノルは腹の底から溢れ出る魔力を纏う。
直後、霞のようにその姿が掻き消えた。
「キーーーーッッ!?!?」
一番近い位置にいたトラック。
先程ミノルを轢いたその大型車にミノルのミドルキックが炸裂する。
運転席が潰れ、サッカーボールの如く崖に転がり落ちていくトラック。
10トンはあるだろうトラックが蹴り一つで吹き飛ぶ様子を前に、ミノルは達成感と感動に打ち震えた。
だがそんな事などお構いなしに上空から数台の車が降りかかる。
見るまでもなく薄く広げた魔力の揺らぎで状況を把握。
地面を軽く蹴る。
先程の一撃で自身の身体能力の上がり具合を確認したミノルは一番近くまで落ちてきた車の側面に飛び移った。
重力の存在など無いかのような軽快な動きで側面を足場にし、車に拳を打ち込む。
「ーーふむ。これが核か」
引き抜いた手の中には福笑いのようについた目と口を持つ肉塊があった。
一瞥したあと、それを握りつぶす。
再びミノルが跳ぶ。
風のような速度で、
舞う木の葉の様に軽やかに、
獣のように鋭く、
自らが鍛え上げた武術や競技の数々の技を、今の体に慣らしながら無数に泳ぐ車両を同様に狩り続ける。
そしてーー。
「キ、キキキィ」
気づけば残りの車は一台のみ。
あれ程合った車はただの残骸となり、道路や崖に落ちていた。中には燃えていたり、爆発した物もある。
夜を照らす赤い火と骸の如き車。
その中から現れたのは、影野ミノルだ。
地獄の様なその世界で彼は今、微笑んでいた。
「ありがとう」
血だらけの制服を破きながら脱ぎ捨てる。
その上半身には中学生とは思えないほどに鍛え込まれた筋肉と、数々の傷跡が残されていた。
「君のおかげで僕は今、数分前より更に魔力を知る事ができている」
「キ…キ、キキキャキャーーキャハハ!」
残された一台のトラックの化け物
ーー否。
「キャハハはははははハハはハは!!!!!」
崖を登り、ミノルの後ろを取った二台目のトラックがミノルを轢き殺さんと迫る。
「だから、ね」
ーー新技を一番最初に見せてあげるよ。
影が揺らぐ。
常人の目には、何が起こったかすら分からない。
同じ力を持った人間でも、上澄みのほんの一部の者にしか理解はできない。
等しく分かるのは結果だけ。
ミノルの正面と真後ろにいた二台のトラックが、一切の痕跡も無く消えたという事実だけ。
「オーバードライブ」
ついでに名前だけだった。