陰実廻戦   作:水絆創膏教教祖

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日常

大体半年くらい経った。

 

僕が力に目覚めたあの日から、随分陰の実力者に近づいた実感がある。

 

僕が発現した力の名は、呪力というものらしい。魔力では無かった。

 

まぁ些細な問題だ。結果として核にも負けない可能性を秘めた力が手に入ったわけだし。

 

どうやら感情がトリガーになるらしく、最初の頃は随分扱いに苦労した。

負の感情を種火の様に使う訳なのだが、最低限にしなければ呪力を練りすぎてしまい、大きなロスとなるのだ。

 

お陰で感覚を掴むのに随分時間をかけてしまった。

とはいえ今では呪力操作をほぼほぼ完璧にマスターできている。

半年経った現在では、もはや呼吸と同義だ。

原子単位まで意識を巡らせられている。

 

色々試してみたが、呪力というエネルギーはすごい。

 

まずシンプルに身体強化ができる。

ちょっと動きが良くなるとかの類では無い。

生物としての動きそのものが一次元上になるような感覚だ。

 

車以上の速度で走れるし、岩は投げられるし、ジャンプで家を飛び越えられる。

パンチキックは砲弾超えの威力と言ってもいい。

 

なんなら砲弾みたいなビームだって出せる。

呪力をそのまま体外に勢いよく出せばお手軽ビーム砲の完成だ。

ま、これに関しては非効率的だと分かってからやってないけど。

 

だが何より凄いのが、この呪力を消費して全く別の効果を生み出す生得術式の存在だ。

ざっと調べてみたが、分身、降霊、血液操作、生物の操作と実に多様だ。

 

呪力というエネルギーの可能性を感じる。

 

僕にも術式は一応あった訳だが、「呪力の操作」という極めて単純かつ基礎的なものだった。

 

発覚時に術式を起動してみたが、呪力操作が少しスムーズになった程度の変化しかその時は感じられなかった。

 

まぁ最近の修行と研究でこの術式の可能性も見出せた。

上手くいけば核を超える力が手に入るだろう。

これからもどんどん研究と修行を効率化して進めていく予定だ。

 

あ、そうそう。この呪力だが、どうやら僕以外にも使える存在がいるらしい。

 

呪術師というらしく、世界の裏側で暗躍して呪霊という化け物を討伐する人たちの様だ。

 

人知れず不可視の怪物を殺し、世界の均衡を保つ存在……良い。

 

というかぶっちゃけ羨ましい。

僕が必死に未知なる力を求めている裏側で、そんな楽しそうな事をやっていたなんて。

僕が悪の実力者を目指していたなら根絶やしにしていたかもしれない。

 

おっと話が逸れた。とにかく、呪術師という陰の実力者プレイのストーリーに欠かせなさそうな存在を見つけたのだ。

きっとこの中に主人公的な存在がいるはず。

呪霊や闇堕ち呪術師から弱者を救わんとする王道主人公が理想だ。

ストーリー的にダークファンタジー的な方向性になりそうかな。

 

なので僕の目指す陰の実力者は更に深淵に立つことにした。

表の世界からは勿論、裏の世界の呪術師にすら全容がわからない第三勢力。

 

主人公が特級呪霊(仮)に後一歩でやられそうなタイミングで颯爽と登場。

 

「貴様の力はそんなものか?」

 

さっきまで圧倒的だと思っていた特級呪霊(仮)が赤子の如くあしらわれ、瞬く間に細切れに。

 

「理想に手を伸ばす愚者よ。覚醒の時だ。貴様の真髄を魅せてみよ」

 

そして意味深なセリフと共に姿を消す陰の実力者。

グフフ、完璧なストーリー。

当面はこの方針でいくとしよう。

 

 

********

 

さて、そんな感じで今後の方針を固めつつも、日中の僕にはさほど時間はない。

 

何故なら日中は両親の目線とモブとしての活動で忙しいからだ。

 

いくら実力をつけようと、普段のモブとしての生き方に手を抜く様じゃ陰の実力者とは言えない。

妥協や手抜きで形作った理想に、果たして胸を張れるだろうか?少なくとも僕にはできない。

 

だから僕の修行は必然、夜になる。

今日は久しぶりの実戦だ。最近辿った残穢(呪力の残り香みたいなもの)で見つけたのだが、いつもの修行場所から10キロほど先の山を呪詛師が縄張りにしているらしい。

 

呪詛師はいい。呪霊と違って殺しても物を残すし、悪人ばっかりだ。

僕は呪詛師を殺して修行ができてスッキリ。

他の人たちも悪い奴が減ってスッキリ。

一石二鳥というやつだ。

 

さて、今日は記念すべき新兵器を実践投入する日である。

名付けて、呪肉(スライム)ボディスーツ。

 

説明しよう。

呪肉ボディスーツとは、呪力の通りと器の強度を追求した至高の呪具である。

 

僕や多くの呪術師は、練った呪力を身体に纏ったり、武器に込めたりして戦う。

 

しかし呪力を使う時、多くの課題が生まれてくる。

呪力のロス、器が受け止められる呪力量、呪力を通す速度。

ざっと上げるだけでかなりある。

 

呪力ロスについては、僕個人の技量で何とかなるのでパス。

 

なので今回は呪いを受け止める器と呪力を通す速度に焦点を当てた。

 

武器に大量の呪力を込めた時、多くの場合器が保たずに崩壊する。

かといって器が壊れないようゆっくりゆっくり呪力を注いでいても、その隙に殺されてしまう。

こうした難点から、呪術師の上位層ほどシンプルな体術を主軸に戦術を組む者が多い。

 

勿論体術は大事だし、僕自身もそこを怠るつもりはない。

ーーが、僕は武器術に関しても妥協したくない。

 

強度と速度。

 

この二つを叶える為に僕が目をつけたのが、呪霊だ。

 

呪霊は見ての通り、呪力で構成されている。

呪力を流すのにこれほど適した存在もいないだろう。

 

だが作成段階で問題が生じた。

この世界の呪霊って殺すと消滅しちゃうんだよね。

 

なので加工が必要だ。

まず、核を潰さずに呪力を流して呪霊の全身を支配下におく。

その状態で呪霊に僕の血肉を混ぜ、ギリギリ受肉している状態にする。

 

こうすると大枠では肉体を持っているが、組成の多くは呪力なので変幻自在、僕の肉体と同程度の呪力を受け止める器が完成する。

呪力を通す速度も問題ない。

反転術式を通しても、組成はギリ人なので通常の呪霊の様に消滅する心配もない。

 

これを開発する為に大量の呪霊の屍を積み上げたものだ。軽く千は超えてる。

一時は近くの呪霊が不足して遠征までしたのだ。

彼等が絶滅すると陰の実力者プレイをする機会が減るのでどうしたものかと考えていたのだが、どうやら人間の負の感情がある限り延々と生まれてくるらしい。

 

素晴らしい。SDGsな良い世界だ。これからもどんどん生まれて欲しい。

研究材料にも、修行にも使える。ドロップアイテムが無い以外は本当に優秀だ。

 

 

*********

 

そんな訳で呪詛師が潜んでる山に到着した。

 

小屋の様な建物で偽装されているが、どうやら地下があるらしい。

 

気づかれない様に、一瞬だけ呪力のセンサーを広げ内部を確認。

ざっと13人。これほど呪詛師が集まっているなんて運がいい。

 

小屋の中で見張りをする人間が二人。

白い軍服の様なものを身に纏っている。

センスは嫌いじゃ無いが、TPOが分かってない。こんな暗闇に全身白は、全然カッコよくない。

断然黒一択だろう。

 

「おい、あの噂聞いたか?」

「ん?なんの話だ?」

 

テーブルを囲んでお話し中らしい。

 

「最近この県と周辺の呪霊が異様なスピードで祓われてるらしい。巷じゃ新たな呪詛師グループが立ち上がったってもっぱらの噂だ」

「俺たちQみたいなのが生まれたのか?にしてもなんで呪霊なんか狩ってるんだ?高専術師でもあるまいし」

「さぁな。案外、総監部すら知らない正義の呪術師集団だったりするかもだぜ?」

「だっはっは!」

 

盗み聞きにも飽きたし飛び込むか。

 

僕はテンションマックスで屋根を蹴り破る。

 

「ヒャッッッッハァァァァァァ!金目のもん出しやがれえッ!」

「なっ!?なんだコイツ!」

「おい、コークンさん呼べ!侵入者だ!」

「ガベッ!?」

 

勢いそのままに下っ端っぽい奴の顔面を蹴る。

ただの蹴りじゃ無い。呪肉ボディスーツから伸ばした呪肉ソード付きだ。

顔面にトンネルを開通されながら吹き飛んでいった。

 

呆けた顔をするもう一人の首を振り返り様に切り飛ばす。

 

「さて、残りはこの中かな。せめて10秒は持って欲しいんだけど」

 

床を踏み込みでぶち破る。

重力に逆らわずにそのまま落下に身を任せた。

 

*************

 

「ヒャッッッハァァァア!!!跪け!命乞いをしろ!金目の物を全部だせぇえええ!」

 

剣を生やした拳で顔面にジャブを打つ。

 

「なんだきさブヘェッッッッ!」

 

伸ばした刃で首を斬り飛ばす。

 

「バイエごふぉっっっ!」

 

頭から縦に一閃。

 

「たすゲパッッッ」

 

うーん、全然手応えがない。

おかしいな、呪術を使えるんだからもう少し打ち合えても良いはずなんだけど。

 

もう残すところあと一人しかいない。

 

「………お前が同志達を殺したのか?」

「うん。君はボス的な感じかな?残念ながら君が生き残る可能性はゼロだけど、全力で頑張れば2分はもつかな。頑張って」

「クソガキがッ」

 

ボスAからナイフの群れが放たれる。

不規則な軌道で僕めがけて迫るナイフを、棒立ちで受けてみた。

 

「舐めてるから…なにッ!?」

「刺さってなーい…ってね」

 

刃の部分が砕けたナイフがポロポロと落ちる。

防御面についても問題なし。

ボスA程度の攻撃なら、あと百倍威力が上がっても避ける必要が無さそうだ。

 

「なめるなッ!呪刃操術!」

 

さっきより更に呪力が込められたナイフが放たれる。

…が、全然余裕。構えるまでもなくボディワークとステップワークで全部避けていく。

 

「クソっ何故当たらない!」

「呪力の起こりが丸わかりだからだね」

 

ボスAに気づかれずに背後に回り込みながら教えてあげる。

 

「ッッッ!?」

 

驚愕の表情を見せながらこちらにナイフを放つ。

しかし放たれたナイフは僕の目の前で静止し、力が抜けた様に地に落ちた。

 

「…は?」

「君の術式って念動力みたいなものでしょ。予め呪力を込めているナイフ限定の縛りで速度と射程を上げた感じかな」

 

シンプル故に扱い易くていい術式だ。

だからこそ対応も楽だ。

 

人差し指を立てて複数の三角形で構成された結界を出現させる。

 

「中和結界って仮称してるんだけど、なんか味気ないな。…シャドウシールドなんてどうだろ?」

 

構成はシンプル。呪いが結界に干渉した瞬間に構成を調べ、構成要素の核を変質させた呪力で中和し崩壊させる。

後は呪力を纏っていない物理攻撃を結界で弾くだけ。

使用する呪力は中和用の変質呪力と結界だけなので、呪力効率は通常の呪力防御より断然高い。

本来はこっちが防御の主体だ。

 

「ば……化け物」

「2分もたなかったね」

 

左手に出現させた呪肉ソードで四肢を切断する。

 

「ぐぁっ…」

 

芋虫の様に這いつくばるボスAに歩み寄る。

 

「さて、今日の実験は君でやるとしよう」

 

そうしてボスAに呪力を流し込みながら、今日も呪力の研究を始めた。

 

 

 

 

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