陰実廻戦   作:水絆創膏教教祖

6 / 12
アルファ③

僕は今、感動していた。

 

「そんなものか?」

 

漆黒の刀から放たれる一文字の斬撃。

それをどこからか取り出したトンファーを駆使し、両腕で受ける壮年の女性。

当然、両腕はトンファーごと斬り裂かれる。

 

勢いは止まらず刀は首筋に向かうが、ギリギリ首を反らした事で片耳が飛ぶだけにとどまった。

 

「術式反転 反重力機構(アンチグラビティシステム)ッ!」

 

それら全てが想定内だと言わんばかりに、素早く術式名を叫ぶ。

呪力の起こりを感じ、即座に僕の全身にシャドウシールドを張る。

一瞬の拮抗の後、僕の周囲にかかっていた超重力は効力を失い崩壊した。

 

返す刀で袈裟斬りを放つ。

が、既にそこには彼女はいない。

先ほどの超重力は、彼女自身を地面に伏せさせる為のものだったのだ。

 

左腕のみを高速で治癒し、僕の眼前に何かを投げた。

 

……ッ閃光弾だった。

 

古典的な手に引っかかってしまった。

既に彼女は距離をとっている。

 

互いの呼吸がピタリと嵌るようなこの感覚は久しぶりだった。

 

呪力の揺れ、起こり、視線、足の向き、意識の向き、重心、その他様々な変化には全て理由がある。

 

闘いとは会話だ。

互いの変化に対して、適切な答えを返すのが戦闘の本質だと、僕は思っている。

 

相手の意図を読み取る力。

 

変化に対してよりよい回答を返す力。

 

より驚きのある答えを生み出す力。

 

それらの総括が、強さと言っても過言では無い。

 

だからこそ、闘いとは会話なのだ。

 

彼女はそれが抜群に上手い。

つい最近まで呪力なしでチンピラや軍人をボコっていた僕とは違い、呪術を使った本気の殺し合いを相当数経験していたのだろう。

 

たかだか半年と少しの呪術と殺し合いの経験値では、彼女を殺し切るのは未だ難しかった。

 

「名を聞いておこうか」

 

だからこそ彼女には敬意を払いたい。殺す前に。

僕は言葉で問いかけた。

 

「…さて、名前か。私を表すものなんて無数にあるからね。どれを名乗るべきなのかなんて、私自身にも分からないよ。

だけど君は、私がどういう存在なのかは分かってるんでしょ?せっかくだ。好きに呼びなよ」

 

え、どういう存在なんだろ?

いやいや、なんか知ってる前提で話してるのに、知らないですは陰の実力者っぽくないぞ。

 

全力で脳みそをフル回転させる。

目立つものといえば頭の縫い傷……人造人間的な感じなのかな。

だとしたらマッドサイエンティストが生み出した悲劇のボスって感じか。

かなり強いし、きっとかなりすごい呪術師だよね。

 

……あ、最近聞いたいろんな呪術遺産生み出した人いたよな。たしか……

 

「加茂憲倫」

「ちッ。キッショ、そこまで知ってるのかよ」

 

ついつい思い出した単語を口から漏らしてしまったのだが、何か怒らせてしまったらしい。

外しちゃったのかな?

……うん、まぁここで殺せば関係ないか。 

 

適当で良いって言ってたし、親愛を込めて傷の女(スカー)さんと呼ぼう。

 

「さらばだ。呪いに呑まれた者よ」

 

もう彼女を殺す情報は全て手に入った。

彼女もそれに気づいていたから、打開策を探すために会話に乗ったのだろう。

 

呪力を足の裏で圧縮し、爆発させる。

 

僅かな量だが、全力で圧縮すると呪力はより膨大なエネルギーとなって解放される。

そして、呪力の起こりは使う量が少ないほど分かりづらい。

 

無拍子で彼女まで間合いを詰める。

 

「ッ!?」

 

一瞬で距離が詰まって事で、スカーさんの顔が驚きに染まる。

さっきみたいな超重力は、この間合いでは使えない。

発動より僕が刀を振る速度の方が速い。

それに気づいたからか、回避行動に移ったが、遅い。

 

カァァァァァンッッ。

 

漆黒の刀が、スカーさんの首を刎ねた。

刃の軌跡は止まらず、滑らかに両腕と両足を切り落とす。

両足の支えを無くし、宙に残る胴体に指を向ける。

呪肉(スライム)の一部を切り離し、呪力と共に圧縮し、形状を弾丸に変化させる。

 

そして僕は、腹部に向かって呪肉弾を放った。

貫通ではなく面としての破壊を意識した為、着弾した弾は腹部を消し飛ばし、上半身と股関節は抉れるように分かれて吹き飛んだ。

 

血肉が落ちる音が夜闇に響く。

今更のように、現在時刻が深夜だと思い出した。

 

…いやに固い首だったな。きっと全力の呪力防御だったんだろう。

 

良い経験をさせてもらったという事で、彼女に合掌………あれ。

 

魂が消えない。

正確には、無生物の魂に変化していない。

 

死体となった後でも、僕が定義する魂は一応ある。

だがその魂は、明確に生物だった頃のものとは違っている。

 

首を切断し、四肢を斬り飛ばし、胴体に風穴を開けた。

どう考えても死んでる筈なんだけど、それでもまだ彼女は生物としてこの世に留まっている。

 

刎ねた首を覗き込む。

 

「……………」

 

死ぬ間際の驚愕の表情から、温かみのない物のような顔に変わっている。

どこにも向いていない虚な瞳、力が抜けた表情筋、冷たくなっていく体温。

 

全てが彼女が死んでいると物語っている。

それでもーー

 

「起きろ。貴様が死んでいない事には気づいている」

 

ーー彼女の魂がそれを否定する。

 

反応が返ってこないな。ま、いいか。

脳みそに呪力を注ぎ込んで彼女の知識を全部吐き出させよう。

 

呪力は頭だけでは練れない。僕の今の実力では、五体満足なら逃げ切られる恐れがあった。

だが今の状態ならその恐れもない。

安心して彼女から情報を引き出せる。楽しみだ。

 

僕はワクワクしながら呪力を注ぎ込もうとして。

 

寸前で彼女の目がギョロリとこちらに向いたのに気づいた。あ、死んだふりやめたのね。

 

「キッショ。何で分かるんだよ」

 

ベロっと、スカーさんは口を開き舌を出す。

 

舌の上にのっていたのは、不気味な呪力を放つ薔薇の意匠が施された指輪。

 

頭上で異質な呪力が爆ぜる気配を、その時ようやく感じた。

 

 

ーー突然だが、僕には二つの探索能力がある。

呪力探知と呪力で周囲を探るセンサーだ。

 

僕の呪力探知の限界はギリギリ本州丸ごと包むくらいの広さ。呪力を発すれば、範囲内ならすぐ見つけることができる。

 

だが呪力によるセンサーはそれほどまでの規模はない。

これはHUNTER×HUNTERの円のようなもので、呪力を使って僕を中心に周囲を包んでいる。

水面に石を落とせば波紋が生まれるように、僕の呪力の中で存在しているだけで、呪力の有無に関わらず僕は気付くことができる。

 

全力を出して、せいぜい半径1.3キロ。

通常時ならさらに短い。無駄だからだ。

瞬間的な周囲の探査や、僕を上回る実力を持つ者の不意打ちにも対応する為に用意した技術だ。

常時1.3キロなんて呪力と脳内リソースの無駄でしかない。

 

つまり、そういった言い訳を重ねた上での結論だが。

薔薇のように上空が変化するという大きな事象に、呪力が爆ぜるまで気づくことが出来なかったのだ。

 

うん、誰だって実力以上の成果は中々出せない。

今回目に見えて空が変わっていた訳だけど、うち一つの探索能力の及ばないところで起こっていたんだから仕方ないよね。

 

僕は取り敢えず自分を慰めた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。