陰実廻戦   作:水絆創膏教教祖

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誤字報告、コメントありがとうございます。
投稿するか迷いましたが、もう割り切ってやっちゃいます。


アルファ④

“それ”を見つけたのは、笑えるほど本当に偶然だった。

 

私が当時探していたものは、獄門疆と呼ばれる特級の呪物。

千年を費やしても成就しない計画。

その最大の要因である、六眼呪術師への対抗策として辿り着いた最後のピースだ。

 

その時期には国内を探し尽くし、日本国内にはもうないと結論づけ、海外まで捜索の幅を広げていた。

 

そうして幾つかの国を巡り、しかしそのいずれも目立った収穫はなかった。

 

この時滞在していた国もその一つ。

呪物の噂を聞き訪れてはみたものの、蓋を開けてみれば非術師の手品でしかなかった。

 

その後も国中を探してみたが、結局獄門疆の気配は感じられず。

私は、彼等の手品を楽しむ以上のものは得られなかった。

 

明日国を出る。そう決めて私は珍しくあても無く通りを歩いていた。

周囲には焼けた肌が特徴的な現地人が、露店で買い物をしたり昼間から酒を煽っている。

 

どうでもいい景色を視界に流しながら歩みを進めている、その時だった。

 

「ーー?」

 

一瞬だが今まで感じたことも無いような異質かつ莫大な呪力と、世界が軋むような衝撃を確かに感じた。

だが周りにいる非術師達は気づいていない。

 

呪物の暴走?術式を行使した術師や呪霊?

まさか天変地異?

私の脳内では様々な憶測が飛び交い、ゾクゾクするような“知りたい”という欲が駆け巡る。

 

場所はそう遠くない。

 

私は好奇心の赴くまま、気づけばその場所に向かっていた。

 

そこは、発展途上国の寂れた集落がある場所だった。

 

子どもから大人まで低賃金で働き、日々飢えと癒す術のない病で苦しむ者が絶えない、この世の歪みの一つ。

 

特に何の変哲もない、この国にいくらでもある集落だ。

獄門疆を探していたとき、ついでとばかりに覗いた以外に思い入れはない。

 

海外故に呪霊も術師もおらず、可能性を感じないどうでもいい所。それが正直に抱いた感想だ。

 

だが集落があり、人がいて、生活する基盤が最低限ある場所として、確かにそこに実在していた。

 

 

私がそこに辿り着いた時、集落は大地ごと消えていた。

 

地面は底が見えないほど抉れ、深い深い巨大な穴が一つあるだけ。

家も人も木々も消え去り、生物の気配は毛ほども感じられない。

 

地殻変動や大規模な爆発が真っ先に思い浮かぶ。

 

だが穴の底から噴煙の様に立ち上る呪力が、尋常の科学では説明できないナニカの可能性を示唆していた。

 

ーーだから私は、躊躇わず穴に飛び降りた。

 

面白そうだからね。

 

底に向かうほど立ち上る呪力は濃くなっていく。

何かあるのは間違いないようだ。

 

 

*************

 

落下から大体10分ほど経った時のことだ。

境界を跨いだかの様に、視界が突如明るくなる。

 

とはいえ、一寸先も見えない様な底のない闇が続いていく先程の景色から、曇天の地表を想起させる程度の明るさになっただけなのだが。

 

「やっとかい?随分勿体ぶった登場だね」

 

それはたった一つの光源が生み出した明かりであった。

 

穴の深さも相当だが、横の広さも集落一つ呑み込んで余りある。

その深さ広さの全てをたった一つの光源が一定の深さだけ照らし、目を灼かれない矛盾。

 

そして落下の長さや肌感から考えて、この穴は半分異界化している。

 

呪術を使えば全て可能だが、ただの人間が用意するには必要な呪力が膨大すぎる。

 

仮に全てを実現可能にする様な準備をしたとして、寂れた集落一つを潰すには過剰戦力すぎた。

 

おそらく予期せぬ事故か災害だろうが、呪術的な事象でここまでの規模は聞いたこともない。

全くの未知だ。

 

そしてその原因は光源にあると、目の前の景色が存分に主張していた。

 

「(罠やフェイクの可能性もあるから一応全体は見るけど、行くならまず光源(あそこ)か)」

 

光源の正体は未だ分からず。

しかし近づくにつれて、それが紅く光る球状であることは分かった。

 

そうして観察に夢中になっていたが、穴の底の地面が近づいている事に気づく。

私は術式を起動した。

 

フワッと身体にかかった重力が消え去り、柔らかく地面に着地する。

着地した場所は僅かに光源から離れた場所だ。

 

そのまま光源に向かい、歩を進めていく。

 

光球の目の前まで近づき、改めてその様相を確かめる。

血の様に紅く光る、大体半径2メートルほどの半球だ。

指先を少しだけ光に突っ込む。

変化はない。

 

異質だが、呪力で構成された結界に近かった。

内からも外からも侵入脱出を阻まず、ただ光るだけの結界…の様なもの。

 

どちらかと言うと、歪んだ空間が偶然結界の体を成しただけのようであった。

そして、中に何かあることも確信した。

 

若干の眩しさを我慢し、光の境界に踏み込む。

中には小さな物体が二つ。

 

光のベールに包まれたそれは、小さな指輪と一本の小指であった。

 

 

 

*************

 

「(できるなら使いたくなかったんだけど、そうも言ってられないかな)」

 

異界に接続する呪物。それがこの指輪の正体だ。

回収し実験と解析をした結果、指輪には莫大な量の呪力が込められている事がわかった。

具体的に言うならば、両面宿儺の指20本に相当する。

 

そして刻まれた術式は、“この世界ではない何処かの世界”をランダムに設定し、時空を超えてその世界から物体生体問わず招き入れるというものであった。

 

あまりにも異質な術式だ。

 

だが何より興味深いのは、この指輪を通して断片的に観測した異世界の数々。

 

地の果てまで氷の世界。

 

生物が住めない毒で満ちた世界。

 

燃え盛る炎の世界。

 

光も色も何もない虚無の世界。

 

そして、強大な呪力を操る怪物が蔓延る世界。

 

これらの世界の存在を知った時、私は雷に打たれたような衝撃をうけた。

そして知識欲は身に余すほど溢れかえり、一つの夢を持つに至ってしまう。

 

星ではなく世界。外の世界。異世界。考えたことも無い。

どんな環境なのだろうか?

どんな生態系があるのだろうか?

生物の肉体はどうなっている?

世界の成り立ちは?文明は?

話せる生き物はいるのだろうか?

呪力がある世界の数々はどう発展しているのだろうか?或いは衰退していったのだろうか?

この世界より呪術が発展した世界は?

人類以上の知的生命体は?

かつてこの世界にも干渉したのだろうか?

 

濁流のように生まれる好奇心と新たな価値観は、私の思考の幅を広げていく。

 

呪力の可能性は、人間や呪霊にとどまらないのかもしれない。

その終着点は、呪霊を一段階進化させた程度では収まらない、私では及びもつかないような概念なのではないか。

一つの世界の中で狭めてしまった私の思考では辿り着けない様な、そんな全く未知のナニカに至る種子なのでは?

 

私は、まだ見ぬ映画に心を躍らせる幼子の様な心持ちになっていた。

異世界に行ってみたい。もっと多くを知りたい。

 

しかしこの呪物を解放する訳にはいかない。

それではたった一つの世界しか行けないのだ。

 

それは嫌だ。どうせならば、全部見たいし知りたい。

 

だが呪力が足りない。加えて世界を繋ぐこの呪物でも、何度も使えば保たないだろう。

世界を繋ぐというのは、それほどの負荷を生じさせる。

 

だから決めたのだ。

全部の世界を繋げてしまえる器と呪力を用意しようと。

 

恒久的に接続を続けるには、それだけの呪力と術式媒体の強度が必要だ。

 

当てはある。超重複同化した天元と人類だ。

 

呪霊をもう一段階進化させた、新たな呪力の形。

それにこの指輪を飲ませて、術式を刻み馴染ませる。

 

そして混沌と化した無数の世界を回り、私が考えもしなかったような枝分かれした呪力の可能性を、その先にある終着地を見てみたい。

 

どんな姿形なのか、どんな存在になるのか。楽しみで仕方なかった。

 

 

*************

 

「黒き薔薇…か。なるほど、鍵を手に入れてたか」

 

うわー。でっかい薔薇だ。初めてみた。

 

僕は突然様変わりした空模様を見ながら、意味深なセリフをはいてみた。

 

めっちゃ凄い呪力だ。僕の呪力を大きく超える。

ざっと三倍以上かな。

 

それが空の一点に収束していく。

まるで世界そのものに穴を開けるように。

 

「ーー来る」

 

僕はメッセージを感じ取り、そう呟いた。

 

直後、視界を覆いつくさんばかりの大量の狼が空から降ってきた。

 

「へ?」

 

降り注ぐ狼たちによって木々は薙ぎ倒され、巨大な衝突音が起こる。

 

「ガァァァァァァッッッ!!!」

 

宛ら隕石。一体一体が僕の背丈を超えるほどある。

それが最低でも百匹以上。

 

歩法と呪力サーチを使い全て避ける。

左手にはスカーさんもちゃんと持っている。

 

森はまるで狼パニックだ。

そこで僕ははたと思い出す。

 

あ、やばい。呪物と融合しかかってた肉塊が狼に食われるかもしれない。

 

流石にあんなグロいのを…とも思うが、野生動物は何食うか分かんないし。

何より研究材料としてめっちゃ気になる。見捨てるものか。

 

僕は先ほどの森の奥まで猛ダッシュする。

 

すると案の定、落ちた狼のうち1匹が肉塊を食べようと口を開いていた。というか、既に若干牙の先が刺さってる。

刀は伸ばしても届かない。

呪力砲…いや肉塊ごと消し飛ぶ。

スライム弾…延長線上に肉塊がいるからパス。

だがギリギリシャドウシールドの有効範囲。

全リソースをシャドウシールドに注ぐ。

 

狼の背中越しにだが、肉塊全体にシールドを張ることに成功。

 

「じゃあね、シャドウ」

 

だがその瞬間だけ左手の警戒を緩めてしまう。

次の瞬間、スカーさんの首が紅く光り、グニャリと歪む。

そして溶けるように手の中から消えた。

 

「…やられたな」

 

万一に備えて左手には結界を張っていたのだが、あの一瞬だけ緩まってしまった。

反省しながら狼に追いつき背中を切り裂く。

空いた左手で肉塊を掴んだ。

 

あー、マジか。どうしよ、折角の呪詛師だったのに。

完全に出し抜かれてしまった形だ。

呪力サーチを広げるが狼ばかりで首っぽいものが全然見つからない。

呪力探知は周りが狼の呪力で満たされているせいか全然見つけられない。

 

「ガルラォラァッ!」

 

おっと。

後ろにいた狼が僕を喰らおうと噛みついてきた。

それを紙一重で避けながらすり抜け、狼の頭に立つ。

 

「ッ!?ゥゥッ!………???」

 

うん、仕方ない。切り替えていこう。

せっかくの呪詛師を逃してしまった訳だけど、逆に言えば陰の実力者が逃した黒幕役として今後の因縁が生まれたとも考えられる。

まぁ黒幕なんていない訳だけど、せっかくだし彼女にやってもらおう。

頭も良さそうだし、きっとピッタリだ。

 

それでも自身の未熟に心底腹が立つ。

だけど次会う時に確殺すれば、それはもう失敗ではなく成長だ。

という訳で、この狼達でストレス発散しよう。

 

僕が立っている狼はキョロキョロと辺りを見回し僕を探している。

流石獣、知能はあまり無いらしい。

 

だがこの場に狼は百匹以上。そいつ以外の狼が僕を見つけて飛びかかる。

 

またまた紙一重ですり抜けながら、立っていたのと飛びかかってきた狼の首を斬り落とす。

 

そして別の狼の首に乗り、また切るのを繰り返していく。

そのうち狼は頭上を気にするようになってきた。見ていくうちに学習したのだろう。

しかしそうなると今度は下からの攻撃が通りやすくなる。

 

上を気にする狼は下から、下を気にする狼は上から。

たったこれだけでもう彼等は何が起こっているのか分からなくなる。獣だからね。

ここまできたらもはや作業だ。

 

強さは大した事無いのだが、ここで衝撃の事実が発覚する。

コイツら呪霊じゃないらしい。

 

殺しても消失反応を起こさず、死体が残り続けている。

なるほど、これはアレだな。新たな魔王の復活だな。

これまで封印されてた魔王が復活し、それに呼応するように太古の魔獣が生まれてきたのだろう。

 

ちょっと弱いが、雑兵としてなら中々いい方だ。

知能はないが、俊敏性と硬さは評価できる。

ただの拳銃なら通らないんじゃないか?この毛皮。

何より、コイツら普通に呪力で身体強化してる。脳みそのない術師みたいな存在だ。

 

そんな狼達の中の数体が、森を出て街に降りようとしている。

 

それはちょっと駄目。

陰の実力者ならコイツら全員華麗に殺して、翌朝「な、なんだこの化け物達は!?」って通りすがりの住人が発見するのだ。

きっとニュースにもなるだろう。世界は未知の怪物達に恐れ慄く。

そんな中僕だけは物憂げな表情で「これが貴様の選択か…」と呟くのだ。

 

良い。これで行こう。

 

という事でまだ知られちゃ駄目。

全速力で街に降りようとする狼を切り裂いていく。

 

「……来たか」

 

頭上の呪力が高まるのを感じる。

どうやらまだ出しきれていないらしい。

良いよ、我慢は良くないからね。

 

最初に薔薇から飛び出したのは2本の黒い巨人のような腕。

次に巨大な足。

最後に薔薇が燃え盛り、一つの巨大な物体を落とす。

 

落ちてきたのは、馬鹿でかい手足のついた燃える蝙蝠だ。

 

キョロキョロと周囲を見回し、僕を見て首を止める。

そのまま腕を振り上げ、地を削るように横薙ぎに腕を振ってきた。

馬鹿みたいに呪力で強化された腕だ。

当たればシャドウシールド込みでもヤバい。

 

だが獣は獣だ。僕は軽く後ろに跳ぶだけで避ける。

即座に振り下ろされる左腕。大威力のはたき落としによって土が舞い上がる。

 

「君、魔王みたいでカッコいいね」

 

僕は蝙蝠の左肩に立ってそう言い放った。

 

 

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