陰実廻戦   作:水絆創膏教教祖

8 / 12
アルファ⑤

「君、魔王みたいでカッコいいね」

 

蝙蝠の肩の上でそう言い放ちながら、刀に呪力を込め、首目掛けて振る。

 

「ガァァァァァァッッッッ!?!?!?」

 

首を僅かに切るが、切り落とすには至らない。

痛みを紛らわす様に、蝙蝠は僕が立っている肩目掛けて拳を打ち込んできた。

 

だがその時にはもう僕はそこにはいない。

打ち込んできた右腕の上を悠々と歩く。

 

「ふむ、硬いな。やはりまだまだ未熟。気付かされる事も多い」

 

今日の実戦で学んだ事は多い。

 

例えばスカーさん。呪力量、制御力、運用効率、体技、間合いの取り方といった純粋なスペックは僕の方が上だと言い切れる。

しかし彼女の呪術戦の経験値や騙し方、絡め手、切り札の切り方といった、それ以外の技量によって僕は彼女を逃してしまった。

 

今回の蝙蝠くん。呪力なしでも鋼鉄を斬れるし、使えば微塵切りにできる今の僕の剣術でも一刀両断の首チョンパは難しい。

そもそも、この蝙蝠くんは結構強い。今の僕では決定打にかける。

 

陰の実力者としては40点がいいとこだろう。

残念だが、これが今の僕の実力だ。

今のままでは現代最強には届いていないし、呪術師の全勢力相手にはギリ負けるだろう。

核の域にもまだ達していない。

 

雑魚を殺してイキってるだけの陰の実力者ではダメなのだ。

漸く手に入れた呪力。核を超える可能性を秘めた力を、もっと使いこなせる様にならなければ。

 

「ガルラァオラァッッッ!!!」

「少しだけ本気を出してやろう」

 

僕が腕の上で歩いてることに気づいた蝙蝠は、右腕を勢いよく振り回し始める。

 

それより早く腕から飛び降り、宙を舞う。

そして僕は今の奥の手を切った。

 

「オーバードライブ」

 

スカーさんを逃し、蝙蝠くんには決定打がないのが今の僕の実力。それが限界。

だから僕は、限界を超える。

 

直後僕の呪力は更に高まり、同時に立ち上る呪力は空気を震わせる。

オーバードライブ。呪力を発現した直後に開発した、僕の今の奥義だ。

 

呪力は一定のラインまで圧縮すると、より大きなエネルギーとなって解放される。

この性質を体内で利用する。

体内で呪力を圧縮。肉体が四散する様な爆発を体内で起こし、弾け飛ぶ前にまた圧縮する。

爆発、圧縮。これを繰り返す事で無限の呪力とより高密度の呪力を手に入れられる。

10の呪力で10の効果を発揮するのが今までの運用だったとすれば、10の呪力で100の効果生み出すのがオーバードライブ。

 

無論リスクはある。瞬きでも呪力操作を誤ればそのまま自爆し、死ぬ。

爆弾を全身に巻いている様な行為なので、体外からの刺激で集中力を乱せばそれだけで自爆する。

 

だから今の僕では常時運用することは出来ない。

反転術式で脳の疲労を回復し続けても間に合わないほど集中力を使うからだ。

 

この状態で呪力を体外に出力すれば大抵の物は消し炭になる。

初めての呪霊にこれを使って瞬殺したのも、長引いたり一撃でも喰らえば肉体が爆発していたからだ。

 

だが今回はそれをしない。蝙蝠くん相手の戦闘でもこの状態でスタイリッシュに体技のみで勝つ。

クリアできなければ、陰の実力者としては落第だ。

 

さぁ僕よ、進化の時だ。

 

僕は足裏で呪力を圧縮し、解放。

生まれたエネルギーをすべて推進力に調整して、蝙蝠の右肩から左腰までを逆袈裟に切り裂く。

 

「ガッ、?」

 

空を蹴りつつ再び同じように飛び、跳ね返る様に蝙蝠の左腕を斬り飛ばす。

 

「ッ!?」

 

右足を斬り飛ばす。

 

「ッ」

 

左足を斬り飛ばす。

 

「」

 

支えを失い落下する身体。

だが蝙蝠はまだ諦めていなかった。

残った右腕に全呪力を回し、フルスイングで僕に横薙ぎを見舞う。

 

僕はそれを、敢えて無防備に受けた。

 

僕の体がテニスボールの様に勢いよく吹っ飛ぶ。

木々を粉砕しながらの数回のバウンドを経て、一回転して着地。

脱力による消力でダメージはゼロだ。

 

そしてこの間もオーバードライブは継続している。

つまり、このレベルの攻撃を喰らっても僕の呪力制御は一切の乱れが無かったのだ。

 

「うん、悪くないな」

 

体内での暴発はゼロ。制御は完璧だ。

 

呪力をさっきより高密度に圧縮し、解放時の推進力で音の壁を突き破る。

宛ら黒い流星。

一瞬で仰向けの蝙蝠のもとまで辿り着き、首に向かって横一閃。

今度は一太刀で綺麗に断頭できた。

 

「さらばだ。魔の王よ」

 

僕はそう言い残して、残りの狼達を狩りに戻った。

何匹か森からでて民家の付近まで行ってたのには流石に焦った。

 

 

幸いなことに、空の薔薇の影響か、森全体を囲む様に結界のようなものが張ってあった。

別に侵入脱出を阻害するようなものでも無かったが、空間が歪んでいる様で、森の中での音は外に漏れていなかったらしい。

途中、戦闘音でバレんじゃね?という不安がよぎったので一安心である。

 

頭上の黒い薔薇は、隠れていた最後の狼を斬り殺したところで消えた。

 

明日を楽しみにしながら、僕は肉塊と共に森をあとにした。

 

*************

 

記録ーー2005年11月

宮城県〇〇市××森林にて特級相当の呪力を検知。

緊急事態のため現地の“窓”が現場へ急行し、呪術師と思われる人物一名と、呪力を放つ未確認生物の死体を複数目視で確認する。

 

現場を検証した結果、呪術総監部はこれを未曾有の呪術テロと断定。

現場にいた黒づくめの呪術師(仮称)を特級呪詛師とし、同人に対して死刑を宣告する。

 

死刑執行役として五条悟を任命。

 

 

 




ちなみに羂索が持っている黒キ薔薇は、原作のアーティファクトによく似た呪物という扱いです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。