「さて、これは一体どうなってるのかな?」
僕は床に腰を下ろして、昨夜回収できた唯一の戦果を眺めていた。
場所は自宅ーーではなく、以前僕が呪力を覚醒させた山奥で、偶然見つけたボロ小屋だ。
なんか変な体液が時々流れ出てるからってのもあるけど、流石に自宅の庭先でこの肉塊弄ってたらご近所にバレかねない。
家族にならモロバレしてもいいのかって?大丈夫。
つい最近父親の転勤が決まり、僕の家族はペットのジョン含め皆んな海外に行ってる。
行きたい高校があるからという理由で無理矢理残った僕が、現在あの家の主人なのだ。
まぁそれは置いといて。
修行場にしていた山奥にボロ小屋があったのは幸いだった。
ここなら僕の家からは遠いし、万一場所が割れても即撤退できる。
小屋も見た目はボロいが最低限周囲から見えないし、呪符と結界術でガチガチに呪力感知の対策を徹底すれば特級術師にだってバレない自信がある。
さて、長いこと肉塊を観察して得た感想だが。
稀に見るレベルで面白い事になっている。
まず、この肉塊は元は人間っぽい。
こうなった理由は呪物を取り込んだからだろう。
僕もちょくちょく呪物を見つけては、受肉させて殺すというのを繰り返してたからよく分かる。
だが普通は器となった人間の魂は呪物に負け、奥深くに沈む。
理論上だが、仮に器の魂や肉体が勝てば呪物は体内で消化され、呪力や術式は器に還元される。
今回はどちらでも無い。
今この瞬間も、呪物と器の魂は引っ張り合いを継続している状態なのだ。
そもそもだが、内部の呪物がかなり異質だ。
まるでこの世界以外から来たかのような、変わった呪力を感じる。
その上呪物の中の魂からは、一切受肉の意思みたいなものを感じない。
だが呪物そのものの特性上、人間の体内に入れればもとの魂を沈めようと反応する。
呪物の中の魂が共生を選んで頑張ってくれるのなら話は変わりそうなのだが、一切の反応が無いせいで半端な力に落ち着いていた。
器の方も、天賦の才を思わせるほど呪いに耐性を持っている。
大概の呪物はこの人の体内で消化されてしまうだろう。
だが強力な呪物を取り込めば、頑強な器として素晴らしい性能を発揮していたことも想像に容易い。
そんな器が死ぬほど全力で呪物を拒絶している。
受肉の意思が無い特級の呪物と、受肉させたく無い最上級の器。
この二つが揃った結果何かのバグが発生したのか、本来はあり得ない魂同士の融合が起こってしまった。
これを解くには、それこそ魂に直接干渉するような術式が必要だ。
「ま、別にいっか」
そもそも治すことが目的ではないのだ。
魂が混じり知恵の輪よりも複雑化したこの肉塊に、僕は可能性を感じている。
魂を知覚できるようになった日から、ずっと考えていたことがある。
魂に干渉する事で、より呪力を操作するのに適した生命体に自己改造できるのでは無いか?
だが己の肉体でやるにはあまりにもリスクが高すぎた。
以前一度やって脳が変形しかけたのはいい思い出だ。二度と同じ失敗はしたく無い。
魂が融合しかかってる影響か、この肉塊は普通よりも魂に呪力をとどかせやすい。
魂と呪力を用いた実験にこれ以上ないほど適していると言える。
つまりあの日失敗して死にかけた自己改造を、この肉塊相手ならリスクゼロで練習できるのだ。
「この肉塊、結構使えるな……」
僕は肉塊に手を伸ばし、呪力を流し込んだ。