飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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個性をなくした大人が、異世界転生を機に頑張ってみる物語です。どうか応援よろしくお願いします!


第一話 無価値な俺、転生してみます

私の夢は空を飛ぶことだった。空を見上げた時のあの雄大な感覚と、その中に自分が浮遊するという妄想を繰り返しては空を飛んでいる航空機に羨望の眼差しを向け続けた。そんなどこにでもいるような子ども時分だった私はある時思い立った。私も空を飛べるのでは・・・・・・と。

 

 

 

そう思ってからは行動は早かった。私の住む地域はとある片田舎の雪国である。簡単に飛ぶという行為を達成できるのである。私は家の屋根、といっても平屋の地上3メートルくらいの高さだが、そこに登った。目線の高さを考えるとおよそ4メートル。私にとっては今まで見たこともない景色の高さに高揚感を覚えた。そして、その高揚感もそのままに私は雪原に向けて自由落下を開始する。その時の浮遊感と男特有の股間が浮き上がる感覚は、それは想像を絶するものだった。まさにこの時、私は空を飛ぶこと、正確に言えば落下することだが、それでも空を飛ぶことに惑わされることとなる。

 

 

 

それからは少しでも高く雪を積み、そこから飛び降りることを繰り返した。周りからどれだけ止められようと、とにかく飛びまくった。そしてある時、私はしくじった。とある小高い砂山を発見したのだ。もちろん私は登る。そこから見える景色に満足し、下を見下ろす。砂山だけに下にも柔らかそうな砂が堆積していた。しかし、今までと違うことはその高さだった。今まではおよそ高くても3メートル程度だったが、今回の高さは5メートル程度だった。私は恐れる感情と共に飛んでみたいという感情の両方が巻き上がってしまった。そこで気持ちを落ち着けるために、一度帰り道を確認する。確認することでいつでも帰れるという安心感を得るためだった。しかし、その道は断たれていた。それは物理的にだった。砂山だっただけに、登った際にそのか細い道が崩れてしまっていたのだった。私は少し焦った。それと同時に、飛び降りれれば帰れるじゃないかという楽観的思考も湧いてくる。私は後者を選択した。その飛び降りた瞬間の感覚は今なお忘れもしない。恐怖を克服したという達成感と、今までにない浮遊感に飛び降りている最中の私はまさに最高の快感を得ていた。視線を向ければ落下地点は先ほど砂山の頂上から見た岩・・・・・・岩? 私は飛び降りている最中のほんのコンマ何秒に先ほどの情景を思い起こしていた。見た景色と言えば砂が堆積した柔らかそうな足場である。だが、現実はそれは違った。現実はとんだ飛距離が短く、砂山の真下は本来山を削ったために残っていた大きな岩石が砂山から生えていたのだった。私は今そのおぞましいまでの岩石に向かって落ちている。足から落ちても痛いだろう。他の場所を打っても身体に重大な影響を与えるだろう。私は重力に逆らえずに岩に激突した。

 

 

 

岩に激突した私は足の痛み、尾てい骨の痛み、そしてなにより呼吸困難に陥った。横隔膜が動かず呼吸ができない。なんとか空気を取り込もうと空気を求めるも、出るのは身体から捻りだされる僅かな飛沫だけ。このまま自分は死ぬのだと、そう思ったが私はなんとか呼吸を取り戻す。あれほど求めていた空気を存分に吸った時、ようやく遅れていた恐怖が押し寄せる。私はそれ以降飛ぶのを止めてしまった。

 

 

そして今の私は現代日本のサラリーマンだ。言われた仕事をこなし、下げたくもない頭を下げることもお手の物。毎日同じサイクルを回し続けるネズミのような存在だ。自我がないも同じ私は一体何をすればいいのか、毎日そればかりを考えていた。そして、ある会社からの帰り道、空を飛ぶ飛行機を見た。それは夜空の中で煌めく一番星のように煌めきながら頭上を通過していく。その光景を見つめながらつい口走ってしまった。

 

 

 

 

「飛びたい・・・・・・」

「それはまことか」

 

 

 

 

独り言に返答があったことに一瞬脳が怯んだ。しかも、脳に直接語り掛けるような音にびくりとして周囲を見渡す。先ほどまで夜道を一人寂しく歩いていたが、後ろにはギリシャ神話に出てくるようなおじさんが立ってた。私は困惑しながら擦れた声で問う。

 

 

 

 

「あなたは・・・・・・」

「我は多次元世界を結ぶ神、数多の世界の不足を補う者。そなたの願い、あちらの世界では叶えられるやもしれん」

「え・・・・・・」

 

 

 

 

 

神と名乗るおじさんは何もない空間を指さす。すると、神を信じない私ですらびっくりの渦を巻く空間の歪みが出現する。まさにこれは、日本人が、日本人たるものだれもが夢見るあれではないか。

 

 

 

 

 

「異世界転生?」

「最近の日本人は理解が早くて助かる」

「で、でもチート能力とかそう言うのは・・・・・・」

 

 

 

 

そう言うと神は大きな溜息を吐いて私を憐れんでくる。そんなに多くの日本人を異世界に送ったのだろうか。私でも、その世界では役に立てるのだろうか。そんなことを考えていると、神を自称するおじさんは説明を始める。

 

 

 

 

 

「チート能力? とかいうそんなものはないのが普通なのだ。最近の日本人はこれだから困る。むしろ、この世界で学んだ知識は他の世界では稀に見る高水準のもの・・・・・・それが異世界でチートと言わず何とする」

「は、はあ・・・・・・」

 

 

 

 

腑抜けた返事になってしまったが、神を自称するおじさんは大層めんどくさそうにそう説教してくる。確かに、これまで見て来た異世界モノは全て現代世界よりもはるかに時代が遅れている。元々持てる知識が財産とはよく言ったものだ。とまれ、私は神に説教されなぜか感心してしまっていたが、これも神の力かと話を戻す。

 

 

 

 

 

「まあ、私は能力は望みません。しかし、質問があります」

 

 

 

 

神は私の質問をしっかりと待ってくれる。私の願いは、確実に叶うのか。そんな疑問が過ったが、そのことは最終目標であって、私が重視すべきはその過程である。だからこそ私は神を自称するおじさんに問う。

 

 

 

 

 

「その世界では私は、私の存在は必要とされるのでしょうか?」

 

 

 

 

 

私の問いに神を自称するおじさんは、神の顔になる。そして、私の目を真っすぐに見つめると答えを出す。

 

 

 

 

 

「それは君次第だ」

 

 

 

 

 

私は少し恥ずかしい気持ちを抱いた。この恵まれた日本ですら自我がなかった私だ。厳しい異世界でなら私でも、なんていう生半可な気持ちで務まるはずがない。私は意を決して歪みに入ろうとする。神はそんな私に勧告する。

 

 

 

 

 

「本当に良いのだな?」

「はい」

「この日本でやり残したこと、やらなかったことはないのだな?」

 

 

 

 

 

その言葉に私の心はびくりとする。自分探しをすると言って外国に行くのは愚かなことだ。今の自分を知り、海を渡ってさらに自分を探すのだ。何もしていない自分が探しものなどおこがましいにもほどがある。だが、それでも私は新たな一歩を踏み出すきっかけが欲しかっただけの弱い人間なのだ。だからこそ、このチャンスだけはものにしたかった。そして、迷いなくもう一歩を踏みぬく。

 

 

 

 

 

「やり残したことだらけですよ。だから行くのです」

 

 

 

 

 

その言葉を聞いた神は歪みの先を鮮明の映し出す。私は遂にこの世界を止めるのだ。そして、異世界で為すのだ。異世界では自分を自分たらしめるべく決断し、行動するのだ。なにより、私の夢である飛ぶことを叶えてみせる。その決意と共に歪みを潜り抜ける。その瞬間、眩いばかりの光が私を包んだ。

 

 

 

 

歪みに入った私は光と共に意識が遠のいていき、それと同時に猛烈な熱さで目を覚ます。私は目を開くとそこは正に異世界、とはいかなかった。高い天井と数人の人間に囲まれた部屋の中で、私は抱えられていた。目の前の私を持ち上げている老婆らしき人物が頬を緩めて何かを言っている。私にはその言葉の意味は分からなかった。言語がまるで違うのだ。

 

 

 

 

「おぎゃー!」

 

 

 

 

私は声にならない声で叫ぶ。どうやら私は赤ちゃんらしい。確かに新しく転生したことを確認して私の意識は眠気を催した。

 

 

それから月日を経て、私は少しづつこの世界の言語を理解し始めた。と言ってもまだまだ幼い単語と、拙い発声能力ではまともには喋ることもできないが。しかし、私は赤ん坊ながらに少しずつ理と自分が置かれている立場については観察したつもりだ。どうやら私はそれなりに身分のある家系に生まれたらしい。調度品や召使がいる所を見れば、それなりであろうことはわかる。果たしてどれほどの身分なのか、はたまたどのような身分制度があるのかを調べるのはこれからの課題だ。そして、一番重要なことであるのは俺の性別だ。実はこれも理解している。なぜなら、召使いの老婆が私の、いや俺のムスコをしっかりと洗っているのを目撃したからだ。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま・・・・・・立派な・・・・・・お世継ぎ」

「おぎゃー!!!」

 

 

 

 

 

それから数年の時間を経ると、言語もほとんど理解できるようになっていた。やはり言語は習うより慣れろである。日本では文法などは学んでも話すこと等できるとも思わなかった自分としては、まず第一歩目の小さくはあるが、貴重な成長だ。そして、俺はついに5才になったらしい。自我がきちんと芽生え、手足をしっかりコントロールできることを確認した俺は、ついに異世界で羽ばたくことを決意する。

 

 

 

 

 

「この世界では絶対飛んでみせる!」

 

 

 

 

 

そう小さく囁くと、さっそく行動に取り掛かる。まずは怪我をしないことを第一に高いところから飛び降りることにする。とりあえずはベッドからだ。程よく5歳児には高い高低差に頬を上げて飛び降りる。

 

 

 

 

 

「ほっ!」

 

 

 

 

 

一瞬の出来事ではあったが、このふわりとする浮遊感と若干の重力を感じることの感覚に、子ども時代の感覚が蘇ってくる。まあ今は子どもではあるのだが。それはさておき、この世界では俺の予てよりの願いであった、飛行するとこまで行きたいところである。自分の身分がどれほど高いかは知らないが、ある程度ならおそらく事業を起こせたりする自由はあるだろう。そんな妄想に耽る毎日だったが、さらに私の異世界での行動はこんなものでは済まない。前世では何もできなかった、いえ、何もしなかったのだから、この異世界ではとにかく個性を見出そうと決意した。個性を身に着けるにあたって、私はまずは個性が強い人物を参考にしようと考えた。しかし、如何せん俺の今の身の回りには個性がまるでない。メイドは毎日飽きもせず同じことの繰り返しだ。それでは俺の個性は育たない。だから、俺は見本を見せることにした。

 

 

 

 

 

「ばあや、一つ頼みがある」

「はい、なんでしょう坊ちゃま?」

 

 

 

 

俺は俺を取り上げた老婆に身の回りの世話をされていた。そして、このばあやに無理難題を吹っかけることにしたのだ。まあ、なんせ今の俺は子どもだ。少々の我儘くらい許してもらうではないか。なんなら俺が立派に個性を身に着けた大人になったら武勇伝として語ってもらおうとも考えている。そこで、俺がばあやに頼んだのはもちろんあれだ。

 

 

 

 

 

「空を飛びたい!」

 

 

 

 

 

俺がやりたいことを言いきり、ばあやの反応を待つと、ばあやは面白そうに笑うのだった。

 

 

 

 

 

「おやおや坊ちゃま、そんな下賤な真似はいけませんよ」

「下賤だと?」

 

 

 

 

ばあやは何をバカなとでも言いたげに俺の願望を一蹴するではないか。そもそも空を飛ぶことがこの異世界ではできるのか、はたまたどうして空を飛ぶという行為が下賤なのか、疑問は止まなかった。俺はばあやにその疑問をぶつけてみることにした。

 

 

 

 

 

「どうして空を飛んではいけないんだ?」

「空は災厄をもたらす場所、それ故現在は国王陛下の管轄の下、我々が豊かに暮らすことができるのですよ」

 

 

 

 

 

さっぱり意味が分からなかった。この世界では空は何か脅威の象徴なのだろうか。それにしては俺はこの異世界に生まれてこの方災厄など見ていない。それに国王とやらは空をどう管轄しているのだろうか。疑問は増すばかりである。そして、ばあやは俺の頭を撫でると立ち去ろうとする。まだまだ聞きたいことがあるのだ。俺はばあやを引き留める。

 

 

 

 

「ばあや、なぜ空は災厄をもたらすのだ?」

「あらあら坊ちゃま、ばあやは忙しいのですよ?」

「少しだけ、少しだけだから!」

 

 

 

 

ばあやをなんとか引き留めようとするが、子どもの力ではばあやの動きを止められすらしない。ばあやはそのまま俺を部屋に残していってしまった。部屋の残された俺はこれではいけないと思った。これでは俺の華麗なる異世界デビューが果たせない。俺は何としても個性豊かな人間になるのだ。そう決意してからは早かった。ばあやが部屋に再び戻ってくるとノックをする。

 

 

 

 

「坊ちゃま、お昼ご飯の時間ですよ・・・はあっ!坊ちゃま!?」

 

 

 

 

 

ばあやは顔を真っ青にして部屋を見上げる。そこには天井まで届きそうなほど積まれた本とそこに立つ俺がいた。俺は満面の笑みでばあやを見下ろす。

 

 

 

 

 

「やあ、ばあや」

「いけません坊ちゃま!危険ですから早く降りてくださいませ!」

 

 

 

 

あたふたとするばあやを面白く見下ろしていると、とても気分がいい。俺は自分の願望をこれからばあやに見せつけるつもりだ。俺のこの頑強で雄大な願望への飽くなき探究心を見せつけられるこの興奮はもう止められない。俺はゆらゆらと本の塔を揺らし始める。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま!どうか降りてきてくださいましっ!」

 

 

 

 

 

金切り声を上げ始めるばあやをよそに、俺はついに華麗なる子供時代の武勇伝その一である伝説を残そうとしていた。まさにこんな行為こそが俺の求めていた個性である。ゆらゆらと反動をつけた本の塔はついに倒れ始める。重力に従いゆっくりと俺を地面に倒し始める。

 

 

 

 

 

「きゃあああ!!!」

 

 

 

 

 

ばあやの絶叫と共に本が轟音を立てて崩れ、部屋の埃と本が舞い上がる。ばあやが急いで倒れた先に俺を探しに来る。

 

 

 

「坊ちゃまっ?!!」

 

 

 

 

そこには満面の笑みでばあやを出迎える俺が、ふかふかのベッドで大の字になって寝そべっていた。

 

 

その日は本当にひどい目にあった。昼飯どころか夕飯も抜かれた上、さらには尻を叩かれたのだ。しかし、こんなことでへこたれて堪るものか。俺はばあやを質問責めにし、答えに窮すると逃げるばあやに対して奇行を繰り返す。ある時は階段をローラ付きのそりで下り、扉を壊した。またある時はゴムを何本を繋げて特大の人間パチンコを作成し窓ガラスを破壊した。さらには一番大きなカーテンを外し、二階からパラシュート降下をして足首を捻ったりした。そんなことを繰り返した俺はばあやも含め館のメイド全員に「破壊神」とあだ名されるようになっていた。そんなことを数カ月も続けていると、さすがにばあやも疲労の色が見え始めた。俺はその頃には一通り館を壊し終え、ついでに自分の骨も折っていた。骨を折ってさすがに横になっているとばあやともう一人若いメイドが入ってきた。若いメイドはこの館では見たことのない顔だった。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま、ばあやはお役御免です。お暇を頂きに参りました」

 

 

 

 

あれ、やり過ぎたのだろうか。俺は疲れた顔で挨拶するばあやと、後ろに控えるメイドの景色を間抜けな顔で見ているしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 




頑張って毎日くらいの頻度で投稿してみたいです
頑張ります!

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