飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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今回はなかなか・・・
登場人物増やしますよ


第十話 王族デビュー

数日後、無事にクリスは回復し、俺の王族デビューの日に間に合った。あれからどこかクリスはよそよそしかったが、俺が今まで以上にボルドー君をいじめていたためか気にならなかった。そうそう、ボルドー君は痔ではないが、日ごろの緊張感ある仕事で胃を痛めたらしい。ざまあみろ。良い胃薬をやるとしよう。そんな日を最後に俺はついに館を出立する日を迎える。弟のアルフレッドがお見送りをしてくれ、俺は胸を張って出立する。いや、ちょっと可愛い弟の成長した言葉に泣いたかもしれないけど。

 

 

 

 

「兄様、行ってらっしゃい」

「ああ、行ってくるよアルフレッド」

 

 

 

 

俺は場所に揺られ初めて王宮に向かう。なんとお披露目会の前に両親である国王と女王に謁見しなければならないらしい。実はあまり緊張と言うか、現実離れしすぎていて実感が湧かないのだが。少しずつ立派な宮殿が目の前に広がり、王都の街並みも観察したいなと考えていることをクリスに窘められながら到着したのだった。

 

 

 

 

 

「ここが王都かあ」

「坊ちゃま、あまり突飛な行動はお控えください」

「分かってるよ。ちょっと見てくるだけだって」

「まったく分かっておられませんね。これから坊ちゃまの父君と母君に会われるのです。気を引き締めてくださいませ」

 

 

 

 

 

どうやらクリスも緊張しているようだ。さすがに国王ともなるとこうなるのも当たり前か。俺はしぶしぶクリスに従うことにした。王宮は広く、豪華そのものだった。さすがに王宮というだけあって威厳に満ちている。俺はクリスと王宮の近衛兵に導かれるままに王座の間へとやってきた。これからどんな魔王が来るのだろう、なんてファイナルファンタジー妄想をしながら待っていると、扉が開き、仰々しいエキストラ、もとい従者たちがズラリと並んだ空間が広がっていた。俺は促されるままに進み、王と女王が座るところまできびきび歩いた。

 

 

 

 

「ビスマルク・マクシミリアン・デ・メ・フェルディナンド様のご到着です!」

 

 

 

 

 

近衛の隊長と思しき立派な鎧を着こんだ男が大きな声でそう叫ぶ。声の大きさなら俺だって負けないけどね。こんなとこで闘志を燃やしているのに気付いたのか、クリスが無言の圧力をかけてくる。こいつ、テレパシーか!そんないつものやり取りをしていると、俺の親である王が口を開く。確かに王冠を被り、服装もイメージ通りの王様だ。

 

 

 

 

 

「よく来たビスマルクよ」

「ようやく拝謁することができ光栄です、陛下」

 

 

 

 

俺はクリスが言えと言ったセリフをそのまま申し上げる。そういえば、俺は親の名前も知らないもんね。そう言うと王様は頷いてクリスにも挨拶をする。

 

 

 

 

「ここまでよく育てた。大儀であった」

「はっ! 恐悦至極にございます。ヴィルヘルム陛下」

 

 

 

 

クリスの労をねぎらうにはあと二日ほど言葉が足りないと思ったが、賢い俺は黙っていた。偉いでしょ。さて、こんな時でも俺の疑問をさらっと解決できるクリスってば優秀過ぎるでしょう。あとで誉めてやらなきゃ。俺の父親の名はヴィルヘルムというらしい。どこかで聞いた名だなと考えていると、謁見は終了したようで俺は退室を促された。えっ、あっという間過ぎない?そう感じたのも束の間、俺はすぐに着替えをさせられ、今度はお披露目会の支度を始めなければならなかった。

 

 

 

 

「あのさ、父親ってあんなもんなの?母なんて一言も話さなかったよ?」

 

 

 

 

俺は着付けをしてくれるクリスにそう尋ねるも、クリスはテキパキと俺に服を着せながら答えにくそうに回答を出す。

 

 

 

 

 

「王族は無闇に人を褒めたりしてはいけないのです。それが美徳であり、栄誉を賜る際に価値が上がるというものです」

 

 

 

 

 

なるほど、じゃないよ。え、なに?つまり俺も王様になったら喋っちゃダメみたいな罰ゲーム生活しなきゃいけないの?ヤダヤダやだよ絶対に嫌。現代日本の家族関係も希薄だと思ってたけど、それ以上じゃん王族。王族マジ嫌悪なんですけど。俺は口悪いギャル語を話すくらいには王様になるのが嫌になっていた。ただ、そんなことを考えているうちに着替えが終了していたようで、今度こそ俺の誕生会兼お披露目会に移るようだ。あ、ちなみに順序を誕生会を先にしたのはもちろんあれだよ?俺は祝われる立場なんだからお披露目会なんていらんもんは次いでよ。

 

 

 

 

 

「どれくらいの貴族が来るものなの?」

「坊ちゃまのお披露目会ですから、国中の貴族が集まるはずです。先日、目を通して頂いた貴族の方たちの名前と経歴など覚えていらっしゃいますよね?」

 

 

 

 

あちゃー、それを忘れてたよ。だってこの国貴族ってやたら多いんだよ。爵位ですら覚えるのに大変だったのに、そんな知らん人なんか覚えたくないよだ。俺の中でごろりくんが駄々をこねているが、逆にこれはこれで面白いのでは、と感じているのも事実だ。だって、貴族って言ったら・・・・・・

 

 

 

 

 

「わたくし、公爵令嬢のリーゼロッテ・シュタインマイヤーと申しますわ!殿下にお目にかかれて光栄ですわ!」

 

 

 

 

 

これこれ、これだよ。主語といい、語尾といい完璧だよ。加えるなら、金髪縦ロール。匂いはバラときたら百点満点極まれりだよ。ザ・お貴族様って感じでこれがまた最高。これぞ個性ってやつよね。あたり一面の背景にバラを漂わせられる貴族って、むしろ日本でも貴重な存在でしょ。俺はこのリーゼロッテとの出会いに感動を覚えていた。そして、次に紹介されたのが同じ公爵家の令嬢だ。

 

 

 

 

 

「ブルボン公爵家から参りました、シャルロッテ・ブルボン・オダです」

 

 

 

 

 

ブルボンて・・・・・・お菓子メーカーかよ。いやいや、ブルボン王朝ってのもあったし確かに貴族に分類されるよね、うんうんってオダ?どゆこと?俺は興味からシャルロッテに聞いてみることにした。

 

 

 

 

 

「初めましてシャルロッテ公爵令嬢。オダというのはご先祖の継承ですかな?」

 

 

 

 

 

俺が声を掛けてくれたことに気をよくしたのか、シャルロッテお姫様はその日本美人的な長い黒髪を揺らして答えてくれた。まさかその黒髪といい、和服っぽい出で立ちと言い、まさかだよね?俺の妄想を打ち砕くというより、上回る回答をシャルロッテ姫様は言葉を繋げる。

 

 

 

 

「はい、私の先祖であるオダノブの継承です」

 

 

 

 

 

俺はもう少しで吹き出すところだった。まさかあの織田信長?!もしかして本能寺で討たれたと見せかけて異世界転生してた?あり得る・・・・・・実にあり得る。うわあ、この異世界のネーミングセンスのルーツこれかも~。俺が脳内で爆発が起きる中、シャルロッテ姫様は俺を気遣ってくれる。

 

 

 

 

「あの大丈夫でしょうか?」

「あ、ああ問題ない。よいご先祖をお持ちだね」

「はい、ありがとうございますわ。それと・・・・・・お誕生日おめでとうございます」

 

 

 

 

 

俺は初めてお披露目会の本質を思い出した。そういえば、俺の誕生会のはずじゃないか。俺ですら忘れるくらい、貴族と話してたせいで誕生会をすっかり忘れていた。俺をきちんと祝ってくれる人物がいたことにほっとしつつ、次の面会である。

 

 

そうこうしてあっという間に時間が経ち、ようやくご飯会の時間となった。と言っても俺はほとんど食べることは許されてないんだけどね。俺の誕生日ぃ~ああ、去年のクリスとアルフレッドと祝った日が懐かしいよぉ。そんな少しメンタルが弱った所で俺はこっそり外へ出る。

 

 

 

 

 

「だあ、まったく俺の誕生日なのに祝われてる気がしない」

 

 

 

 

クソでか溜息をかます俺の後ろで気配があった。俺はすかさず背筋を伸ばし、ワイン(水)をクルクルしながら月を物憂げな顔で見上げてかます。

 

 

 

 

「今宵は月が静かだ」

 

 

 

 

 

決まった・・・俺は満足です。俺が感慨に浸っていると裾を掴まれる。俺はなんだろう、話しかければいいのにと思い振り返ると、そこにはふくれっ面の金髪縦ロールでおなじみのリーゼロッテが立っていた。俺何かしましたっけ?

 

 

 

 

「殿下っ! どうして私のお相手をして下さらないの?!」

 

 

 

 

 

おやあ?これはまさかのあれですか?貴族の我儘ルート入りましたか?リーゼロッテさん、あんたどんだけ属性お持ちなのよ。俺は努めて紳士的に対応する。先ほどの決め台詞を全無視されたことはこの際目を瞑ってあげよう。

 

 

 

 

 

「リーゼロッテ姫はおいくつなのですか?」

「12です! そんなことよりお戻りになって私をダンスにお誘いくださいまし!」

 

 

 

 

おおっと出ました。『女の私を放っておくなんて!』攻撃。この手の気の強い女性を俺は俺は幾度となく見て来た。攻略方法ももちろん知っている。漫画でな。俺は漫画の知識を頼りに反撃に転じることを決断する。攻撃は最大の防御なのだ。

 

 

 

 

「あなたのような月の輝きにも負けない美しさを、私が独占するのも心が痛みます。今宵、この月下で二人だけで、というのはいかがですか?」

 

 

 

 

ああ死にたい。俺は二度とキザなキャラは止めようと心に誓った。強気のキャラにはきちんと自分の想いと包容力のある行動が大事なのだ・・・・・・と漫画で学んだ。だが、俺には無理だよクリスぅ~だって俺恋愛経験ゴミよ?確かに前世で一人二人と付き合ったことあるけど、このタイプは経験値ゼロですって。たちゅけてクリス~そんな寸劇を胸中で繰り広げていると、リーゼロッテはプルプルしている。俺は選択をしくじったかと、急いで脳内に保管してある決め台詞を探そうとする。しかし、リーゼロッテは顔を真っ赤にして捨て台詞を吐くのだった。

 

 

 

 

「ビ、ビスマルク殿下っ! あ、あなたという人は・・・・・・・もういいですわ!」

 

 

 

 

 

完璧にやらかした。完全に怒らせてしまったか。初見プレイで貴族対応なんて無理だよ。テンプレを誰か作ってくれ。そんな感じで一人取り残されて傷心した心を夜風で慰めていると、また誰かの気配がした。俺は今度こそ決めてやろうと、趣向を変えて日本で有名な短歌を口ずさんでみることにする。

 

 

 

 

「外に出て 月に立てば 冬の雲 明るき空を 近く飛べるも」

「あかねさす 日は照らせれど ぬばたまの 夜渡る月の 隠らく惜しも」

 

 

 

 

 

まさか俺の短歌に返答しただと?!俺は驚いて振り返ると、そこには妖艶な笑みを浮かべたシャルロッテが立っていた。まずい、俺の学がないのがバレてしまう。なんとか意味を考えろ!たぶん、たぶん日が差してるけど俺が夜空を渡る月のように隠れてしまって悲しいとかそんなだろ!さすがに月と俺の願望を絡めて即答で返すとか学力マウントかよ、怖えよお!俺は百人一首の歌は覚えていたり、お空を飛びたいなという短歌は知っていてもシャルロッテ、あんたの歌は知らないよ。でも、確か百人一首にはないからおそらく古今和歌集か万葉集あたりだろう。見切ったぜ!そんな古典マウントを自分の中で確立していると、シャルロッテがゆっくりとだが確実に、絡みつくように俺の下へやってくる。

 

 

 

 

「ビスマルク殿下・・・・・・私、あのように心躍る歌を贈られたのは初めてです」

「おお、そうか」

 

 

 

 

俺はマジで絶賛焦っている。俺は知っている詩しか知らないわけで、あんな古典和歌の意味なんてまるで分からない。それに俺は空を飛びたいって言ってるのよ?この世界じゃ絶対ダメでしょうがぁ!てか、俺の短歌の意味わかるのか!織田さんやりすぎです!

 

 

 

 

「私の想い・・・・・・つい胸を打って出てしまいました」

 

 

 

 

やばい、この流れだとおそらく茶会やら連歌会とかに呼ばれてしまう!それだけは何とか避けねば!頑張れ、捻りだせ俺の語彙力ぅ!!

 

 

 

 

「シャルロッテ姫のためだけにしか・・・・・・今宵だけの秘密です」

「まあ・・・・・・」

 

 

 

 

どうやらシャルロッテはなんとも惚れ惚れしているようだ。乗り切ったああああ!!!詐欺師になれるぞ、いやならないけど。リップサービスもこんなもんでいいだろう。俺はうっとりするシャルロッテを部屋に戻すと、この場から離れることを決意する。窓辺の近くにちょうどいい大きさの木があるため、それを伝って下に降りてやり過ごすことにする。ああ、これまで二階から飛び降りていただけあって簡単なものだ。下に辿り着き、着地を決めると足元から腑抜けた音がする。どうやら下に空間があるようだ。俺は芝生をめくると案の定鉄格子が姿を現し、空間が顔を覗かせる。はい、冒険ルート突入です。

 

 

 

 

「レディゴー♪」

 

 

 

 

既に脳内は某ゲームの赤いおじさんです。空間はかなり下まで続いており、ラッタルを下り続けるとさらに大きな空間に出た。暗くてよく分からないが、なにかの倉庫のようだ。俺は恐る恐る歩くとなにか目の前を遮る大きな物体があることに気が付いた。夜目に馴らそうと少し待っていると、ようやくその全貌がぼんやりと見えて来た。

 

 

 

 

「なんだよこれ・・・・・・飛行機じゃないか!?」

 

 

 

 

目の前に広がるのは確かに巨大な飛行機状の物体だった。シルエットで分かるだけでも40メートルを優に超える大きさに俺は圧倒された。飛行機なんてものがどうしてこの王宮の地下にあるのか、それを考えるだけでも映画を一本作れる気がしていた。妙な興奮が俺の物づくりの精神を触発してやまない。俺はそんな大発見をしてしまった気がしたが、奥から人の話す声が聞こえて来たため、仕方なく元来た道へ引き返す。俺のこの探究心をどうしてくれようか。俺は興奮のあまり一気にラッタルを駆け上がり、外に出る。俺は再び芝生を元に戻すと、披露宴会場に何食わぬ顔で戻り、食事でもしようとこっそり入室する。すると、そこに立っていたのは般若の形相をしたクリスだった。

 

 

 

 

「今までどこに?」

「あ~お手洗いにね、迷っちゃって。てへぺろ」

 

 

 

 

俺は会場に戻されたが、そこにはきれいさっぱり料理は片付けられた後だった。夜眠る前まで説教されたのはいい思い出だ。枕を濡らしたけど。だけで、その怒ったクリスの顔はどこか悲しげだったのが印象的だった。

 

 

 

 

 

 




やっぱりキザな言葉は身震いがしますよ
まさかの織田信長公も異世界転生してましたですよ
作中の和歌については万葉集とヴィオロンの溜息です
是非皆さんも見てみてください、本当にの意味が分かります

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