飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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ハプニング回突入です


第十一話 左手とクリスの告白

翌日、俺はクリスに起こされる。今日は最後にもう一度国王に会って挨拶をして帰るようだ。俺はお披露目会を無事に終えたし、再び日常が送れるのだと思うとさっさと帰りたい気持ちが先行していた。

 

 

 

 

「坊ちゃま、本日は国王陛下と謁見になります」

「分かってる。さっさと終わらせて帰ろうな」

「・・・・・・はい」

 

 

 

 

俺は寝不足からか、昨晩と今のクリスの変化に気づくことができなかった。むしろ、今の俺には昨日見た飛行機らしき物体の正体を解明したくてうずうずしていたのだ。そうして支度ができたため、王座の間へ向かう。俺はさすがに父親であるヴィルヘルム王に昨日のことは言ってはいけないよな、と思考を巡らせていた。そうこうしてる間に目的に着き、俺は再び父親であるヴィルヘルム国王に謁見する。

 

 

 

 

「おもてを上げよ」

 

 

 

 

厳かな声で顔を上げると、ヴィルヘルム国王は少し険しい顔をしているようだった。ぶっちゃけ昨日の今日で変化なんて分かるわけはないのだが、若干強張っている気がしたのだ。その俺の勘はおおよそ当たることになるわけだが。

 

 

 

 

「息子よ、そなた、左手が使えぬそうだな」

「なっ!?」

 

 

 

 

 

俺はまさかの事態に冷静さを失ってしまった。慌てて焦った表情を引っ込めて無表情を装うも、国王とその隣に鎮座する女王にはバレてしまったようだ。どうしてこのことがバレたんだ。いつそんな素振りを見たのか。俺は過去の記憶を探るもそのようなヘマをこの両親の前で見せた記憶が全く見当たらなかった。まさか、テレパシー?すると、ヴィルヘルム国王は近衛兵を呼びつけると、剣を抜かせる。まさか斬首?まさかの展開に俺の脳内は爆発寸前になる。しかし、近衛兵はしっかりと俺にお辞儀をしてから注意しつつ、俺に剣を差し出す。よかった、切られはしないようだ。しかし、ヴィルヘルム国王は俺に剣を持つように指示する。

 

 

 

 

「ビスマルクよ、その剣を左手でもってみよ」

「陛下、私は右利きです。左手では・・・・・・」

「いいから持ってみよ!!」

 

 

 

 

王の一喝は迫力があった。さしもの俺もこの一喝にはさすがにビビった。俺は渋々剣を左手で持ち上げてみる。俺はなんとか持てることをアピールしなくてはならない。全身全霊の力を無表情で左手に集中させる。あたかも簡単ですよ、と言わんばかりのポーカーフェイスで乗り切ってやると意気込んでみたものの、やはり俺の左手は言うことを聞いてくれなかった。俺はどうか頼むからと、必死に動かない左手に力を込める。しかし、残念ながら剣を左手で持ち上げることはついにできなかった。

 

 

 

 

「もうよい」

「いえっ! まだこれから!」

「もうよい!」

 

 

 

 

さっきから怒鳴られてるけど怖いです。止めてください。俺は力なく剣を手放すと、剣は呆気なく地面に転がる。俺は下を見つめることしかできなかった。しかし、まだだからと言って最悪の事態にはならないはずだ、と俺は必死に頭を振る回転させる。ヴィルヘルム国王は溜息を、女王は額に手をかけ嘆いている。大丈夫、俺がなんとかこの事態を、そう考えていると直球かつ剛速球で俺は攻撃を受けることになる。

 

 

 

 

 

「メイドのクリスティーナを庇ったとにできたのだな?」

 

 

 

 

 

あれぇ、どうしてバレたんだ。俺は目の前が真っ白になり、足に力が入らなくなっていた。その沈黙を見てヴィルヘルム国王は大きくため息を吐く。

 

 

 

 

 

「第一王子たるビスマルクは左手に障害、第二王子たるアルフレッドはまともに喋れぬ・・・・・・か。なんたることだ。そうは思わぬか、クリスティーナ」

 

 

 

 

 

俺はびくりとした。後ろのクリスを見るとまさに沈黙の姿があった。俺はなんとか誤解を解こうとヴィルヘルム国王に弁解を試みようとする。しかし、その言葉を遮ったのは紛れもなくクリス、その人だった。

 

 

 

 

 

「はい、陛下の、延いてはこの国の宝となられるお人に、生涯残る傷を残してしまい、申し開く言葉もありません。ただ懺悔し、この罪を償いたく存じます」

 

 

 

 

 

俺は一体クリスが何を言っているのか理解できなかった。どうしてクリスはそんなことを言うのか、俺がここで否定すれば全て丸く収まるのか、頭の中は混沌に包まれていた。俺は咄嗟に否定を口にする。

 

 

 

 

「違う! 違います陛下! 俺が、私が自分で招いた結果なのです。自分で怪我をしただけなのです!」

「そうなのか? クリスティーナよ」

 

 

 

 

 

ヴィルヘルム国王は、そうクリスに問う。俺はこれが最後のチャンスだと、精一杯のエールをクリスの送る。しかし、クリスは俺のことなど見向きもせず、俺の言葉を否定する。そして、俺も負けじとその否定を真っ向から否定する。

 

 

 

 

「いいえ、私を庇われてお怪我なされたのです。また、もし違ったとしてもビスマルク殿下の左手が使えないのは事実にございます」

「違うっ! 力仕事は出来ないが不自由はない! 黙っていろ!」

 

 

 

 

俺とクリスの声の大きさは張り合うどころか、俺の声が少しずつ小さくなっていた。俺はこの結末を知っている。王族である俺の左手が怪我したことは事実であり、その監督責任は間違えなくクリスに向いてしまうのだ。こんな最悪のことばかり想定できてしまう前世での記憶が憎かった。だからこそ俺の声は小さくなってしまう。

 

 

 

 

 

「今までこの状態で生きて来た。お前は悪くない! 頼むから黙っていてくれ・・・・・・」

 

 

 

 

 

俺の懇願に近い言葉にも、少しもクリスは動揺することも俺を見向きすることもなく、結論を言い渡す。

 

 

 

 

「全ての責任は、監督不行き届きの私の責任です」

 

 

 

 

 

俺は膝から崩れ落ちた。どうしてクリスはここまで頑ななのだろう。俺がダメな子だったからだろうか。それとも俺が迷惑をかけすぎたからだろうか。昨日お披露目会を無断で抜け出した挙句、地下の秘密を見てしまったからだろうか。俺が、嫌いだからだろうか。俺の頭の中で負の記憶が埋め尽くしていく。だが、同時にこれまでのクリスとの思い出も蘇ってくるのだ。初めてキヌタンポを一緒に食べてくれた顔、初めて泣かせてしまった顔、草の名前を調べて笑い合った顔、そして、雪の日にかんざしをプレゼントしてあげた時の顔。それらが負の記憶を上回る速度で駆けのぼる。俺はいても立ってもいられず、行動に移る。俺の行動は簡単だった。

 

 

 

 

「よし、左腕斬るか」

 

 

 

 

その場にいた全員が俺の行動に釘付けになる。俺は転がった剣を右手で持つと左手を地面に置く。右手の剣を振りかぶって、そこで近衛がようやく動き出す。だが、もう遅い。俺の右手は既に振り下ろされている。そんなに左手が駄目ならいっそのこといらないだろう。別に俺が困るわけじゃない。そう考えると、どこか困る人が浮かぶ気がした。その瞬間だった、ヴィルヘルム国王が一喝する。

 

 

 

 

 

「もうよい!」

 

 

 

 

 

さっきからそれしか言ってねえぞ、そう思い俺は剣を止めていた。若干切れちゃったけど。痛くないからいいよね。実は結構痛いです、血が出てます痛いです。この惨状を鎮めるべく、ヴィルヘルム国王は立ち上がると俺の剣を取り上げて、そのいかつい瞳をぎらつかせる。俺は負けじと涙目を引っ込めて見つめ合う。ヴィルヘルム国王は諦めたのか、目を閉じて言葉を紡ぐ。やったね、俺の勝ち。

 

 

 

 

「噂は本当であったか・・・・・・ここまで厄介な息子をよくぞ育て上げた。その功に免じて・・・・・・」

 

 

 

 

あれ、もしかしてこれ勝ったのでは!俺の脳内はこの言葉に勝利確定BGMが鳴り響いていた。俺の個性の大勝利だ。やっぱ個性って大事だな、そうお気楽に考えていると勝手に話が進もうとしていたので、耳を澄ます。あれ、おかしいな。何か聞こえたな。そうだ、もう一度巻き戻そう。

 

 

 

 

「その功に免じて、そなたに子爵の爵位を与え、ビスマルク第一王子の愛人になることを許そう」

 

 

 

 

 

うん、ごめん一旦電源切っていいかな。リセットボタンはど~こだ。あ、リセットさんが出ちゃうからダメダメっと!あははあははは!はあ~?全くもって脈絡がなくないだろうか。この異世界は性急にことを進めないといけない法律でもあるのでしょうか。

 

 

 

 

 

「そなたの子孫に期待することにしよう。それとクリスティーナ、これからも王国と王室に尽くせ」

 

 

 

 

なに言っちゃってくれてんのこの変態国王は。俺とクリスの年の差分かってんの。12歳差よ。てか俺まだ10歳よ。まだ息子は聖剣の加護を受けてないから。俺はすかさず首の骨が折れるかと思うほど早くクリスを見る。さすがに賢いクリスのことだ断りますよね。それはそれで悲しいけど、だってそういう関係だもん。雇用主と労働者、子と親、そんな関係よ?ねえ、クリスさん?

 

 

 

 

 

「寛大なご配慮痛み入ります。陛下の御心のままに」

 

 

 

 

 

はい、ゲームオーバー。誰か担架持ってきて、はいそこ患者が通りますよって、なにさせとんのじゃ。で、俺は今どういう状況なわけ。誰か説明しろください。いや、一旦落ち着こう。一旦ここは大人しく家に帰って寝てみよう。そうそう、家路だよ~わあ、王都ってばきれい!道中の街も栄えて来たなぁ、おっ!もうすぐ愛しのアルフレッドが待つ我が家じゃん。よし、風呂だよ風呂。ふう、さっぱりした。じゃあ、一旦セーブしますよ。魔王倒す前には必ずセーブしなきゃね。

 

 

 

 

「おやすみぃ~」

「おやすみなさい」

 

 

 

 

はあ、我が家のベッドは最高だな。久しぶりなのにこんなにも温もりで溢れて、おまけに抱き枕まで。誰だこんな抱き枕なんて粋なプレゼントしてくれたのは!さてはアルフレッドだな。お茶目な弟だな~あはははは!

 

 

 

 

 

「あん・・・・・・あまり強く抱きしめないでください」

「ああ、ごめんごめん」

 

 

 

 

抱き枕は癒しボイス付きか、なんて気の利いたプレゼントなんだ。最高だよ、ありがとうアルフレッドぉおおおおおおお!!!

 

 

 

 

「アルフレッドぉおおおおおおお!!!」

 

 

 

 

 

俺は瞬発的にベッドから飛び起きる。この速さならオリンピックでも無双できそうだ。この世界にオリンピックないけど。ないなら俺が開催しちゃうか。ああいいねそれ。でも、今はそれどころじゃないよね。俺の理性、少し黙って。うんうん、なにこの状況。

 

 

 

 

「どうして一緒のベッドにいるわけ・・・・・・クリス」

 

 

 

 

間違えようのない俺の愛用してきたベッドには、主人たる俺がいないのに盛り上がり、もぞもぞと中から人が出てくる。そして、そこから出てくる人物も見間違えようのない人物である。俺は心臓どころか脳までやられてしまったのだろうか、確かに王都からここまでの記憶があやふやだ。まずい医者を呼ぼう。そうあたふたしていると、ベッドから手が伸びる。白く艶やかな腕にからめとられた俺は、ベッドへ強引に引き込まれる。これ、シチュエーション違うければ立派なホラーですよ。ああ、ホラー映画作ろう。じゃなかった、なにこれ。なにこのいい香り、俺のベッドの匂いじゃないよ。はわわ。

 

 

 

 

「はわわっわわ!」

「坊ちゃま、いえ、殿下?」

 

 

 

 

止めて、その呼び方というかその色気。なんでこんなに変わっちゃうわけ。俺、恋愛経験ゴミって言ったよね。まだ俺の聖剣エクスカリバーは精霊の加護を受けてないんだって。それでもなにかが爆発しちゃうよなにこれ。前々から思ってたけど、クリスってばダイナマイトボディなのよ。発育良すぎだって。そりゃ街の男どもに鼻の下伸ばされるよ。絶賛俺のなにかが伸びそうだもん。俺は必至の抵抗を試みる。

 

 

 

 

「クリス、いや、クリスティーナ・・・・・・俺まだ準備が・・・・・・」

「はい、待っています」

 

 

 

 

 

待っちゃうのかぁ、いやだからダメだって。こういう時は素数を数えろって、生前ばあちゃんが言ってた気がする。2,3,5,7,11・・・・・・はあ、はあ、だめだそういえばうちのばあちゃんまだ生きてたもん。俺がこんな感じで人生の山場に差し掛かっていたところに、クリスが再び今度は脚を絡めてくる。この形は俺が抱き枕の感じだ。これもこれでまずいでござる。

 

 

 

 

 

「殿下・・・・・・私、待っています。あなたがやりたいことができるようになるまで、ずっと」

「え・・・・・・」

「私は殿下からいただいてばかりです・・・・・・ありがとうございます」

 

 

 

 

クリスはそう言うと俺の背中に顔を摺り寄せて来た。おそらくこの感触は唇だろう。俺の気持ちは高ぶったままだが、俺は動くことができなかった。そうこうしているうちに、クリスは静かに寝息を立て始めてしまった。こうして抱き枕になり果てた俺は、翌朝まで一睡もできぬまま、香りと温もりに包まれ続けなければならなかった。これにて激動波乱の王宮編は無事に終わりを迎えたのであった。めでたしめでたし。

 

 

 

 

 

「次回、ビスマルク死す!よろしく!」

「何を仰られているのですか」

 

 

 

 

 




クリス・・・頑張れ

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