飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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ようやく日常回?ですよ
友達?もできました


第十二話

山場を無事に乗り切った俺は、クリスとの間に勝手に不可侵条約を結んだ。クリスにはいつも通り俺の傍で世話をしてもらうことにし、なんとか束の間の平穏を手に入れたのである。そんな平穏な朝に、俺宛に手紙が届く。初めての手紙に俺はワクワクしながらクリスから受け取る。一体なにが書かれているのか早速封を切って中を見る。そこには達筆な字で招待状が入っていた。

 

 

 

 

「この妙に達筆な感じ、まさか織田のシャルロッテさんかな」

「もしかしなくともこの家紋はシャルロッテ様のものですよ」

 

 

 

 

クリスにそう言われ、よく見ると確かに家紋だ。てかこの家紋完璧にあれじゃん。織田家の家紋だ。だって織田信長と言えばの織田木瓜そのまんまだもん。マジで信長さん転生してたのかな。そんなことを考えていると、内容を見るのを忘れていた。どれどれと、凝視する。

 

 

 

 

「ふむふむ、要するに是非シャルロッテの領地に来てほしいってことか」

 

 

 

 

良く見慣れた日本式の回りくどい言い回しだ。この世界にSNSを普及させたらこういうのなくなるのかなと、考え、考えるのを止める。俺はもう一度よく手紙を見る。よく考えろビスマルク、シャルロッテの領地?まさか俺旅に出られるんの?

 

 

 

 

「ひゃっほう!!」

 

 

 

 

俺は飛び上がって喜んだ。俺は今回の王都でも全然観光できていないのだ。外の世界を見て回る絶好の機会じゃないか。俺は急いで了承の返事を出すべく筆を取ろうとする。しかし、それをクリスに止められる。どうして止めるんだクリスぅ~俺はご飯を取り上げられた犬のような眼差しを一瞥し、クリスが説明をしてくれる。

 

 

 

 

 

「シャルロッテ様の領地であるオワリ領はここより東の大領地です。さらにあそこは軍事大国、坊ちゃまを招く理由が理解できません」

 

 

 

 

そんなの俺だって知りたい。それに領地名がまんまあれなんですが。それに軍事大国だって?絶対侍的なあれじゃん。天下布武?焼き討ち?なにそれ怖い楽しそう。確かによく考えないといけない。自分の身は自分で守らなければいけないのだ。だから、今度こそ慎重に考えて結論を出す。

 

 

 

「よし、行こう」

「私の話を聞いていましたか・・・・・・」

 

 

 

 

クリスが頭を抱えているが、招待されている以上大丈夫なはずだろう。だって俺、王族だし。そんな自信を胸に俺はすぐさま返事を書き始める。もうクリスは諦めたのか旅の支度を始めてくれている。さすがによくわかっている。返事を送って了承をもらう往復時間を考えれば、およそ2週間は好きなことができるだろう。俺はその余暇をアルフレッドと過ごすつもりだ。久しぶりに感じるアルフレッドとの時間にワクワクしていると、館のチャイムが鳴る。俺はまたインテリのボルドー君が、俺のクリスを見に来たのかと、執事より早く下に降りて迎えに行く。

 

 

 

 

「ようボルドー君! 痔にしてやろうか!」

「・・・・・・」

 

 

 

 

俺の時間が止まった。いや、相手も止まったのだろう。相手はボルドー君ではなかったのだ。そりゃ気まずいに決まってる。俺とその知らないおじさんが固まっていると、後ろからツカツカと突っ込んでくる気配を感じた。俺は何とか理性を取り戻し、この場を何とかするべく決めていく。

 

 

 

 

「そして時は動き出すっ!」

 

 

 

 

俺の言葉に目の前のおじさんも俺のザ・ワールドから抜け出し、今しがたこちらは動きを止めた突進人物を見る。そこで俺の魔法にかかった哀れな人物は、金髪縦ロールでおなじみのリーゼロッテだった。

 

 

 

なぜこんなことになったのだ。俺は庭のテラスでお茶を飲みつつ、リーゼロッテの相手をしていた。まじで貴族ってキャラ立ちすぎ。この俺がたじたじなんだぞ。なんでも突然押し掛けたのは、お披露目会で俺と踊れなかったかららしい。うーん、意味が分からん。そんな理由で罷り通るなら俺はきっと空を飛べている。ただ、とにかくリーゼロッテの俺と話をしてみたいと言う気持ちは伝わっていた。

 

 

 

 

「リーゼロッテ姫、突然の来訪なわけだけど、こちらはなにも準備をしていなくて申し訳ない。もしなにか不満なことがあれば・・・・・・」

「ありますわ!」

 

 

 

 

俺の話を聞けぇ~遮るなまったく。俺のプチ怒りが収まった所で、不満な所を聞いてやろうじゃないか。こう見えてもいざと言う時の対応は、うちのクリスを始め優秀なメイドたちのおかげでこなせてしまうのだ。これまでもたくさん、主に俺が迷惑を掛けて来たから、ちょっとやそっとじゃ動じない精鋭メイドに成長しているのだ。だって、俺のせいで館のほとんどを破壊したし、街の半分の住人の対応もさせたしね。そんな臨機応変さには定評があるうちに何の不満だ!さあこい!

 

 

 

 

「この街があんにも栄えているなんて、私、不満です!」

 

 

 

 

 

あんたは神か、悪魔か。俺はリーゼロッテに尻尾と輪がないか確認する。大丈夫、生えてはいないようだ。うん、てことはもっとやばい。どうしちゃったのこの子は。お母さんこの子が心配だわ。まあ、確かにここ最近で一気に活性化したこの街は俺の主導で王都の商店街よりもひょっとすると活気があるくらいだ。少し誇らしい気持ちになるが、リーゼロッテ様は不満らしい。俺は仕方なくその理由を聞いてみる。

 

 

 

 

 

「リーゼロッテ姫の領地は栄えているのではないのですか?」

「当たり前です! ですが、私の領地が一番でないのが許せないのです!」

 

 

 

 

 

二番じゃダメなんですか、の模範解答が出ましたよ。俺は某総理大臣を思いだし、この場を収めることにする。

 

 

 

 

「そんなに興奮しないでください」

「なぜビスマルク殿下のお膝元の街が急に栄えたのですか? そこを教えてくださいましっ!」

 

 

 

 

鼻息荒く聞き出そうとするリーゼロッテには困ったものだ。別に教えてもいいが、せっかくここまで手塩に掛けて育てたのだ。簡単に教えてはつまらない。ここはひとつ勝負といこうじゃないか、そう俺の中のギャンブラーが囁いた。俺はクリスを呼び出すと、指示したものを持ってこさせる。

 

 

 

 

「ビスマルク殿下、これは一体・・・・・・」

「これはオセロだ」

「オセロ?」

 

 

 

 

案の定、リーゼロッテはこのオセロは知らないらしい。チェスのような存在は確認しているが、この王国には娯楽が結構少ない。それこそ自然が遊び相手といった感じの古き良き時代感はあるのだが、やはりここは貴族っぽくオセロでしょ。俺はそこまで強くはないが、初心者には負けないつもりだ。この勝負、もろたで。俺はリーゼロッテにルールを説明し、勝負と称し俺の情報を賭けることにした。リーゼロッテはもちろん乗り気だ。

 

 

 

 

「では、私が勝ったら教えてくださいませ!」

「もちろん、俺が勝ったらなにか頂戴ね」

 

 

 

 

俺は高価なものを要求してやろうと下衆なことを考え、勝ち馬に乗った気で勝負を挑んだ。それはもう圧倒的な勝ちだったよ。ちょっと可愛そうなくらい完膚なきまでに勝ったさ。見れば、オセロ盤は全てが白く塗りつぶされている。ちなみに俺の色は黒だ。そう、勝ったのはリーゼロッテ。あれ、なんで?圧倒的敗北!

 

 

 

 

「どうしてだよぉぉぉぉぉ!!!」

「やった! 勝ちましたわ!!」

 

 

 

 

まじで初心者のリーゼロッテ鬼強い。なにこの子、恐ろしいまでの才能だよ。藤井君もびっくりだよ。俺は完敗を喫し、リーゼロッテの望みを聞くことになった。

 

 

 

 

 

「では、この街の秘密を教えてくださいな♪」

「はいはい・・・・・・」

 

 

 

 

俺はこの街が栄えている情報の一部を話してあげた。それは、店の情報を乗せたマップを配布したことだった。さすがに全部教えるほどお人好しじゃない。だが、そのマップを穴が開くほど凝視するリーゼロッテの好奇心溢れる眼差しは嫌いではなかった。元々商売人気質なのだろう。利益に貪欲なまでの執念は、その矛先を収めることを知らないのだ。俺は少しリーゼロッテのことが面白くなった。しかし、俺はリーゼロッテの本性を根本から取り違えていたことに気づいていなかった。

 

 

 

 

「ビスマルク殿下、もう一つお聞きしても?」

「仕方ないね、もう一つだけだよ」

「愛人の方とはもう初夜を済ませましたの?」

 

 

 

 

 

俺は飲みかけていたお茶を全て自然に返す羽目になった。何言ってんだこの姫は!このバラガキは!この国のモラルを疑うよ!俺は気管に入ったお茶に咽ながらなんとか、回復を待つ。俺にはこの強烈なダメージを回復する時間が必要だ。こんなときのザ・ワールドだが、俺の選択肢は『咽る・吐く・寝る』と役に立たない。くそっ!状態異常条件下ではまともな選択肢がない!クソゲーだ。俺は空気をようやく取り込むと、真剣な眼差しで回答を待つリーゼロッテに向き直る。

 

 

 

 

「ごほん・・・・・・あのね、俺はまだ10歳なんだよね。だから、そんなことはまだ・・・・・・」

「なら良かったですわ!」

 

 

 

 

本当に話を聞かない嬢ちゃんだな。でもちょっとはいい感じなこと・・・・・・してないですすみません見栄張りました。それにしてもなんでこんなことを聞くのか分からない俺は、リーゼロッテにどうしてこんなことになったのかを聞いてみる。

 

 

 

 

「良かったって、まさか俺のこと好きなの?」

「・・・・・・」

 

 

 

 

あれ、今頃ザ・ワールド発動したのかな?ラグがあるなあ。リーゼロッテを見ると顔を真っ赤にしてプルプルしている。あ、これあかんやつです。お披露目会でも同じ光景を見た記憶があります。キンキンの高音ボイスで怒られる奴ですわ。俺は咄嗟に耳を塞いで、リーゼロッテの高音ボイスに防御姿勢を取る。

 

 

 

 

「・・・・・・好き、ですわ」

 

 

 

 

リーゼロッテの口が動かなくなったのを見計らい、俺は耳から手を放す。ふう、無事に鼓膜を守ることができた。上手く風船のガス抜きすることができたようだ。俺は満足してリーゼロッテの機嫌を直してもらうべく優しく応対する。

 

 

 

 

「まあそうなる気持ちもわかるよ」

「分かるのですか?!」

「えっ?まあね」

 

 

 

 

案外微妙な反応に俺は戸惑うも、ここで混乱しては負けだ。勝負には負けたが試合には負けていない。まだここから逆転の俺のターンなのさ。俺はとりあえず言葉を守備表示で展開し、手札を回復させる。

 

 

 

 

 

「じゃあ、こういうのはどう?」

「なんですの?」

「俺、実はオワリ領のシャルロッテに招待されてるんだ。もしリーゼロッテさえよければそっちの領地にもお邪魔させてよ」

 

 

 

 

俺はシャルロッテという切り札かつ公爵令嬢という、リーゼロッテと同格の人物を召喚することによって相手の攻撃を弱体化させる。ついでに、リーゼロッテの領地を見学させてもらうことで、そちらの手札を強制的に開示させると言うダブル攻撃だ。これでいかにバラガキと言えど困惑するだろう。さあ、吐け!吐き出せ!その飲み込んだこれまでの幾人もの人の遮られた言葉を!俺は試合に勝つべく内心で心を鬼にして戦っていた。これで渋れば俺の要求が通らなかったとして、リーゼロッテの先ほど怒りを帳消しにできるという伏兵まで忍ばせておいたのだ。これが三方面飽和攻撃だ。どうだ参ったか!

 

 

 

 

 

「ビスマルク殿下がっ! 私の領地に?!」

「そう、ダメだった?」

 

 

 

 

そうそう、王族である俺がここまで下手に出てるんだ。その小さな要求すらお前は飲めないっていうのか、リーゼロッテ姫ぇ~くへへへへへ!まるで世紀末のような笑い方を内心でしていると、リーゼロッテはまた顔を赤く染めてついに返答する。俺はこの時を待っていたとばかりに追い打ちをかける。

 

 

 

 

「ダメだよね! じゃあ、この話はなかったことに・・・・・・」

「とても嬉しい提案です」

「そうかそうか、じゃあ・・・・・・・あるぇ?」

 

 

 

 

 

俺はどこで間違えたのだろうか。先ほどまであれほど出し渋っていたはずなのに、どうして突然了承してくれたんだ。分からん、このリーゼロッテ姫は思った以上の強敵かもしれん。俺は頭を抱えてこのリーゼロッテというお転婆な姫の理解に苦しむ中、対照的にホクホク顔のリーゼロッテにさらに頭を抱えるのだった。しかし、俺は見逃さなかった。舌打ちをするリーゼロッテの口を。

 

 

 

 

 

「あのオワリの女狐めが、抜け駆けしやがって」

 

 

 

 

おお、やはり渋っていたのか。俺は少し悔しがるリーゼロッテを見てまだ勝負はついていないとバトルスピリッツを燃やす。もちろん何かが食い違っていることを忘れてだが。

 

 

 

 

 

 




たまに鈍感ムーブしちゃうときってありますよね
リーゼロッテくらいがめつくなりたいですな

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