飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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投稿が遅れて申し訳ありません
今日は三話一気に投稿します


第十四話 オビワンとの決闘

シャルロッテが試合開始の合図をすると、オビワン西郷どんが竹刀を構える。武人と言うだけあって、その構えだけで圧倒するほど殺気を放っている。これは時代が違えど剣豪の称号が相応しいだろう。だって名前から武人と騎士の血が流れているんだもん当たり前だよね。俺は剣豪に挑むただの一般人かつ左手が使えない一般人だ。勝てるわけがない。勝負自体成立しないのだから。だが、後ろにいて必死に俺の無事を願うクリスが見えるだろうか。あれがいては負けるわけにはいかない。そう、負けられないのだ。俺は静かに竹刀を手を添える。

 

 

 

 

 

 

「む?」

「あの構えは・・・・・・・」

 

 

 

 

 

何度も繰り返すが、俺は左手が使えない。だが、それでもできることはあるはずだ。俺が導いた答えは瞬殺の間合いだ。格好をつけた物言いにしたがようは簡単な話、右手一本で繰り出す技である。

 

 

 

 

 

「ほう」

 

 

 

 

 

 

オビワン西郷どんも気づいたようで、俺の間合いに気軽に迫ることを止めた。俺は微動だにせず間合いに入るのを待つ。確かに剣道なんか高校の体育で習ったくらいで、居合道なんて知る由もない。だが、これが俺のできる最大の自衛手段なのだ。オビワン西郷どんがじりじりと間合いを詰める度に、俺は少しずつ体の軸を直していく。緊張と言う空気が周囲を冷やし、その熱を体の内側へと押し込んでくる。俺は咽かえる熱気をゆっくりと吐き出し、その時を待つ。自然と汗がほとばしる。その瞬きの刹那を見逃さずオビワン西郷どんが胸声を震わせて突っ込んでくる。俺はとっくに覚悟を決めていた。

 

 

 

 

 

「きええええええ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

なるほどオビワン西郷どんも俺に見合う技を見せてくれるらしい。この掛け声と言い迷いの無さといい、この技はあれだ。一撃必殺を生業とする西郷どん地元の流儀、示現流だ。一切合切の力と魂を込めて振り下ろされる剣戟の最中、背中に集まる視線を受けて抜刀する。勝負は既についたのだ。

 

 

 

 

 

「ありがとうごわぁた」

「ありがとうございました」

 

 

 

 

 

俺とオビワン西郷どんは互いに礼をして竹刀を収める。その瞬間、愛しのクリスが駆け寄り愛の囁きを、と思ったのだが空気は俺を読んでくれはしなかった。くそっ、俺はいつも空気を読んできたのに! 俺に飛びついてきたのはクリスではなく、シャルロッテだった。

 

 

 

 

 

「ビスマルク殿下っ! ありがとうございます!」

「うん、なんで?」

 

 

 

 

 

俺に飛びつくシャルロッテが涙を浮かべて喜ぶ意味が分からず困惑していると、ようやく落ち着いたと思われるオビワン西郷どんが話しかけてくる。

 

 

 

 

 

「ビスマルク殿下の太刀筋、見事でございました」

「いや、俺負けましたけどね」

 

 

 

 

 

オビワン西郷どんが寸止めで止めてくれたからよかったものの、示現流をまともに喰らったら左手だけでなく頭も動かなくなっただろうけどね。俺の居合はただただ真っすぐに抜かれた。ただ、一介の素人が放つ居合などオビワン西郷どんの放つ示現流に適うはずもなく、届くことなく空を切っただけだった。ただ、俺はやり切っただけだ。それでもオビワン西郷どんのお眼鏡には敵ったようだ。

 

 

 

 

 

「おいの殺法に臆せず挑んできたその目は本物たい。ヴィルヘルム国王陛下もおいが稽古をつけてやったち、それでも殿下は殿下の信念を見せてくれよった。おいは満足たい」

 

 

 

 

 

どうやらオビワン西郷どんは俺を見極めるためにやったことらしい。まったく脳筋馬鹿かと思ったがそうではないらしい。俺は全身の力が抜ける思いだったと言うのに。俺は考えるのが馬鹿馬鹿らしくなり、初めてオビワン西郷どんの前で笑うことができた。

 

 

 

 

 

「最初は娘を歌で落とした軟弱者かと思うとったち、これがどうしてなかなか骨のある王子たい」

「なんですって」

 

 

 

 

 

聞いてないぞ、俺がいつこのシャルロッテを口説いたって? 俺がシャルロッテと会ったのなんて、俺のお披露目会のあの一度しか・・・・・・・あの時かああああ!!! 俺もてんぱってたが、俺の飛んでみたいと思った気持ちを格好つけて歌にしてみただけで、むしろ過去の歌人の盗作、パチモン、バッタモン、パクリだぞ!俺の歌なんかじゃ決してないのに。俺は思わず頭を抱えた。

 

 

 

 

 

「シャルロッテ姫、俺あの時は・・・・・・」

「はい、私はわかっておりました。殿下は必ずや父上を納得させてくれると!」

「いや、そういうことじゃなくてね」

 

 

 

 

 

俺の言葉なんて耳に入らないようで、うっとりと自分の世界に浸ってしまったシャルロッテに頬を引きつらせながら父親であるオビワン西郷どんに向き直る。オビワン西郷どんはそんな俺の視線に気が付くと、鼻息を大きく吐きながら恐ろしいことを言う。

 

 

 

 

 

「もし本当に軟弱者だったら叩き斬っており申した。もすっ!」

「父上、これで認めて下さいますね?」

「もすっ!」

 

 

 

 

 

ああ、もすっ!って興奮した時に出るのね。いいや、そういうことじゃない。俺もしかしたら本当にぶっ叩かれてたの? 一応これでも一国の王子なんですけど。いやいやいや、そんなこと言ってる場合じゃない。この二人は一体全体何を言ってるんだ?親子そろって話聞かないとか冗談じゃないぞ。

 

 

 

 

 

「あの俺は・・・・・・」

「もすっ!」

 

 

 

 

 

もすっ! じゃねえ! はっ倒すぞ、無理ですが。雰囲気が俺に喋るなと言っているぅう! これが空気を読む日本人の性か! くそったれめ! どうしてこうなった・・・・・・俺はこの国には旅行で来たと思っていたのだが、どうやらそれ以上に政治的な事情が絡んでいたらしい。くそう!過去の俺はどうしてクリスの言うことを聞かなかったんだ。クリスを見ると肩を落としている。ごめんよクリス。俺は今すぐにこの場から解放されたくて撤退を進言する。

 

 

 

 

 

「あのう、じゃあ俺はこの辺で」

「うむ、シャルロッテ案内してやれ」

「はい、父上様!」

 

 

 

 

 

あっ、シャルロッテは別にいらないんですけど。そうは言えなかった意志薄弱な俺はシャルロッテを連れ立って城下を散策することになった。俺に寄り添って離れないシャルロッテを隣に城下を見ていると、そこら中に腰に刀を差した侍っぽい住人がいた。俺は時代劇の中に入り込んだようで少し興奮してしまった。そんな俺の機嫌を見たのか、シャルロッテがこの街を紹介してくれた。この気が少しでも俺の本音に気づいてくれればね。

 

 

 

 

 

「我が領地は武装国家としての役割を担う為、各個人が日々鍛錬に励んでいます。他の領地の騎士団では到底かなわない武力を個人が所有しているのです」

 

 

 

 

 

確かに一人一人が桁違いに強そうだ。眼光からして常人のそれとは全く異なる。これは農業国家のマルコにとっては臆するわけだ。逆に目を見れないマルコはこの領地の人からすれば軟弱者に映ってしまうということだ。俺は相いれない両者の性にため息が出てしまう。そんな俺の溜息をかき消したのが銃声だった。俺がその音源へ向かうと、そこには銃の訓練場があった。

 

 

 

 

 

「ここでは射撃の訓練をしているわけか」

「そうです。ですがここの者は・・・・・・」

 

 

 

 

言い渋るシャルロッテが気になり話を聞いてみると、なんでもこの領地では個人の武芸が物を言う世界なのだが、それは顕著に武芸として現れる刀によってのみ体現されるべき代物らしく、銃などは所詮刀を扱えない無能の一歩手前だと言う。何たることだろうか、織田信長ですら銃の有効性を見出したのに、その子孫がそれを否定するとは。俺は織田信長の悲願が崩れているのを嘆いた。

 

 

 

 

 

 

「銃は将来的に有効だからこそ持ち込まれたんじゃないの?」

「ええ、それはそうですが森の獣を前にして毅然と構えることができる真の勇者こそが必要とされているのです」

 

 

 

 

 

銃の有効性と言うのはだれでも扱えることである。信長がその有効性を見出したのは、尾張という風土で生み出される兵士の質からだと言う。少し前に農民だった者が立派に武士を撃ち殺すことができ、また射程という距離がその恐怖心を緩和してくれるのだ。さらに言えば、その銃声が相手に次は自分が死ぬという恐怖を誘発してくれることも銃の発達を確固たるものにさせたのだ。つまり、銃の発達はその威力でも射程でもなく、音にある。詰まるところは人間の恐怖と言う感情だ。感情が銃産業を発展させ続けてきたのだ。俺はそんな歴史を学んでいる。だからこそ、ここで理解に阻まれ成長する機会を失う兵士に同情した。

 

 

 

 

 

「シャルロッテ、ここの銃を扱う兵士に話を聞いてもいい?」

「ええ、それはもちろんですが、いいのですか?」

「ああ」

 

 

 

 

 

俺は訓練所に立ち寄ると、訓練をすぐに中断し、一糸乱れぬ規律ある姿勢で整列、敬礼を繰り出される。訓練を中断させてしまったのは心苦しいが、企業の社長が現場を訪れるときと言うのはこういう気持ちだったのだろうと少し感慨深くなってしまった。俺は頭を切り替え、兵士から話を聞くことにする。

 

 

 

 

 

「諸君、先ほどの訓練見事だった。その弛まぬ向上心をぜひとも王国に示し続けてくれ!」

「「「・・・・・・おう」」」」

 

 

 

 

おおこれはなんとも。銃を扱う者はここでは卑下されていると言うが、これはちと考え物だ。萎縮した兵士や自信がないのはいけない。俺がそうであったように、常に自分を卑下し、萎縮してしまうのはこの世界に来てから勿体ないことだと心底感じて来たことだ。だからこそ、俺はそんな過去の俺を見ているようでついつい声を掛けてしまったのだ。これは過去の俺への説教だ。

 

 

 

 

 

「君、先ほどの射撃は見事じゃないか」

「はっ、ありがとうございます」

「名前を聞いても?」

 

 

 

 

 

気の弱そうな、先ほど見た武士より少し華奢な、でもそれでも十分なほどに引き締まった身体をした青年は俺の目を少し見てはじらすという、なんとも過去の俺とそっくりムーブをかましてくれる。俺がしっかりと目を見てやると答えずらそうにしながらも、なんとか回答を出す。

 

 

 

 

 

「ヨイチ・ロシュフォール・ナスと申します」

「ヨイチ・・・え?!」

 

 

 

 

俺は一瞬脳がフリーズした。ここが織田信長が転生したかもしれない場所なら、あの人物がいてもおかしくない。俺は名前と最後の祖先からの継称を聞いて気付いてしまった。この男の祖先はあの源平の合戦で活躍した、天才弓使いの那須与一ではないかと。俺はゾクゾクとする興奮をかみ殺してある提案をする。

 

 

 

 

 

「ヨイチさん、もし俺が君を欲しいと言ったらどうする?」

「え・・・・・・」

 

 

 

 

 

ヨイチは大きく困惑したようで、俺の言葉を信じられないようだった。だが、こんなところで燻っているような人物ではないことは確かだ。先ほどの射撃訓練ではほとんどど真ん中を必中するほどの精度と、射撃速度はぴか一だった。もし、那須与一がこの世界に転生し、この男がその末裔だとしたら、俺はここでその才能を捨ててしまうことを良しとしたくない。俺が過去の俺を捨てることができたように、このヨイチという男にも自分を生きてほしかった。俺はもう一度ヨイチの目を見据えて問う。

 

 

 

 

 

「俺はヨイチさん、あなたが欲しい」

 

 

 

 

 

 

俺の言葉を今度はまっすぐ見て、聞いてくれたヨイチは迷っているようだ。無理もなかろう。ヨイチはここで生まれ、先祖代々この地で育ってきたのだ。この地の理で言えばヨイチは刀を使えない無能であり、それを良しとしてきた。しかし、それでも毎日銃を手に持ち、その腕を磨いてきた。誰を守るでもないかもしれないその腕を。俺はヨイチに踏ん切りをつけてもらうために、シャルロッテに許可を取る。

 

 

 

 

 

「シャルロッテ姫、ここの銃を扱う兵士を少し貰ってもいい?」

「え、ええ・・・・・・ですがこのような兵でよいのですか?もしお望みなら我が領地の精鋭武士を付けますが?」

 

 

 

 

 

 

俺は願ってもない条件に飛びつかず、もう一度逃がさないようにヨイチに向き直る。そして、そのシャルロッテの提案に対する答えをヨイチに向けて放つ。

 

 

 

 

 

「いらない、俺はここの兵に輝いてほしい」

 

 

 

 

 

俺の言葉に数人が顔を上げた。そして、その先頭に立つヨイチも目の奥を少しだけ、ほんの少しだけキラつかせたのを、俺は見逃さなかった。俺は手を差し伸べ、ヨイチの前に突き出す。迷いを孕んだその瞳に、俺は動機を加えてやる。俺の言葉で動くかどうかはヨイチ次第だが、それでもその答えを知っている俺はずるいと言えるだろう。そして、ヨイチは選択を迫られる。

 

 

 

 

 

「我が領地でその腕を存分に発揮させてやろう。来てくれるか?」

「・・・・・・あなた様に仕えます。どうか私たちをお導き下さい」

 

 

 

 

 

その答えを知っていた俺は少し意地悪をしてやる。かつて神が俺にしたように、その真似事ではあるが、ヨイチには必要なことだろう。俺はシャルロッテに許可を取るために書類を作成し、サインと言質をもらう。即決で戦力を貰うわけだが、余剰なら俺が貰っても何も悪くないよね。そして、既に俺の物となったヨイチに先ほどの返答をしてやる。

 

 

 

 

 

「ヨイチさん、俺がお前たちを導くのではない。君が導くんだ」

 

 

 

 

 

あの時の神が俺に言った言葉は、時を変え、形を変えヨイチに届いたようだった。心なしか目が微笑んだ気がした。俺はこうして優秀な人材をこの地、オワリ領で手に入れることができたのだった。

 

 

 

 

 

 




ビスマルクはヨイチを仲間にした
パワーアップですね

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