飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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オワリ領編、少しだけ続きます


第十五話 オワリ領の確執と問題

俺はシャルロッテとの取引として、余剰な兵を貰う代わりに何を要求したいかを尋ねてみた。シャルロッテが少し微笑んだ気がしたが、俺の悪寒がしただけでとりあえず聞いてみようとしたとき、シャルロッテの従者が息を切らして緊急を伝える。

 

 

 

 

 

「もう、あと少しでしたのに・・・・・・」

「何か言った?」

「なんでもないです」

 

 

 

 

シャルロッテが口惜しそうにしたが、瞬時に表情を姫としての顔に変える。ここはさすがに貴族令嬢だ。立ち振る舞いが俺とは段違いだ。話を戻し、シャルロッテの遣いがやってきた内容は俺の耳も疑わせるものだった。その内容は反乱だった。

 

 

 

 

 

「またですか」

「またなの?」

 

 

 

 

 

俺はシャルロッテが肩を落とす内容について興味本位で聞いてみた。なんでもこのオワリ領では国民皆兵の制度を取っているらしく、その徴兵や武芸を怠った者と言うのを反逆者や反乱分子として罰しているとのことだった。前世の日本では大変なことになるだろう、いやお隣の国の事情かな。そんなことを思いながら俺たちは現場に向かう。そこには人だかりができており、中から怒号も聞こえていた。すかさずシャルロッテが割って入ると、群集がきれいに波を切るかのように避けていき、難なく中に入れてしまう。さすがは公爵令嬢は伊達じゃない。

 

 

 

 

 

「あなたがたには法に従ってどちらかを受け入れて頂きます。一つは武芸に励むこと、もう一つは一生を牢獄の中で過ごすことです。どちらがよいですか?」

 

 

 

 

 

わお、案外強烈かも。励め、さもなくば死を!ってやつか。なかなか体育会系まっしぐらだ。いや、軍人系か。俺はシャルロッテが取り治めるその中を覗いてみる。そこには眼鏡をかけた、この領地には確かに似つかわしくない人物たちがいた。知性を感じさせる目つき体格と、散らばる書籍がそれを物語っていた。もしかしてこの人たちは知識人たちではないだろうか。俺はこの旅に出る前の教育施設での問題点を考えていた。その瞬間、俺の中で何かが閃いた。もちろん、後ろに控えている今回は影が控えめだけど可愛さだけは控えていないクリスのため息が聞こえたが。

 

 

 

 

 

「シャルロッテ姫、この人たちは?」

「ああ、お見苦しいところをお見せしました。この者たちは・・・・・・」

「私たちは何も悪くない!」

 

 

 

 

 

シャルロッテの言葉を遮った男がゆっくりと立ち上がる。周りの群集が野次を飛ばしたり、ゴミを投げつけるがそれにも屈さず、その男は俺たちの前に出る。

 

 

 

 

 

「私たちは知識を求め、それを広める者たちです。何も悪いことをしているわけではありません!」

「うるせえ! 弱っちいのはそれだけで罪だ!」

「そうだ! ひょろ長もやしは黙ってろ!」

「そうだそうだ! 少しはお国に仕えることをしたらどうだ!」

 

 

 

 

 

周りからの野次が一層強くなり、既に収集がつかなくなっていた。シャルロッテもこのような事態が一度ではないのか、少し迷いが見えた。だが俺としては俺の利益のためにこんな争いほど無益で無駄なものはなかった。俺は絶賛困っているシャルロッテに提案を持ちかけるべく現状把握に努めてみる。

 

 

 

 

 

「シャルロッテ姫、彼らの他にもあのような知識人はいるの?」

「はい、私も尽力してはいるのですが彼らの居場所を作ってやれず・・・・・・」

 

 

 

 

 

おお、意外なことにシャルロッテは知識人迫害派ではないらしい。ここは安心した点だ。では、そんな困っているシャルロッテを助けてあげよう。さっきの取引の交換条件もまだ提示されてなかったしね。美味しい話は熱いうちにしなくっちゃ。

 

 

 

 

 

「じゃあ、その人たちを俺が引き取るってのはどう?」

「えっ?! 殿下がですか?!」

 

 

 

 

 

俺は胸を叩いて請け負う。シャルロッテは目をぱちくりさせていたが、渡りに船とばかりに先ほどの取引の交換条件として受け入れてくれた。俺はこのオワリ領で兵士と教師の二つを得ることに成功したのである。まさにホクホクである。それにこの野次は何とかしなくてはならない。前世でも今でも、俺はもやしとかヒョロとか言われるのが大嫌いなのだ。前世ではよく俺の祖母によくもやしっ子と言われては悔しい思いをしたものだ。だから、俺はその野次に対抗せねばなるまい。

 

 

 

 

 

「ええ~注目!」

 

 

 

 

 

俺の間延びした声に観衆が一気に注目する。あ、案外視線の集中って怖いかも。いや、ここで怖気づいてはいけないと、今一度心を引き締める。そして、深呼吸をして声を出す。俺のやろうとしたことを理解したのか、控えていたクリスがそそくさと後ろに回ってくれる。さすがはクリスだ。俺はあまりやりたくはなかったが、権力を笠に着ることにしたのだ。クリスに家の家紋を出すように小声で指示を出す。俺はあたかも時代劇のあの人のように家紋を見せびらかす。

 

 

 

 

「この家紋が目に入らぬかあああ!!!」

「「「ははぁ!!!」」」

 

 

 

 

一斉にひれ伏す民衆の姿に俺は若干の罪悪感を抱く。俺は偉いさんなんかじゃない。今は確かに王族かもしれないが、基本の俺は一般人に紛れるモブだ。こんなことを平然とやってのける勇気があの黄門様だとしたら、隣に控えている格さん助さんはよほどの持ち上げ者だろう。なにより威厳たっぷりで真ん中に立っていられる黄門様はやっぱすげえよ。だって今の俺すげえ恥ずかしいし、罪悪感でいっぱいだもん。俺はなんとか取り繕って知識人の前に進む。怯える知識人を前に俺は顔を上げることを許す。

 

 

 

 

 

「お許しを・・・・・・」

「ならば許そう」

 

 

 

 

 

俺ってば何言っちゃってんだろう。時代劇に当てられたか。俺の口調はこんなんじゃないが、ここまで来たら後戻りはできまい。俺は意を決してこの役をやり切ることにする。

 

 

 

 

「そなた名を何と申す」

「はっ! 私はユキチ・オールモンドと申します」

 

 

 

 

うん、これ教育者確定ガチャだね。ユキチとか現代日本のお札のあの人じゃないですか。ユキチさんなんて大学設立者だもん、行くっきゃない。これはぜひとも引き取らないとね。

 

 

 

 

 

「そなたらに罰を与える」

「ははっ!」

「それは終わりなき罰だ。それをもやしのお前たちに償うことは出来るか?」

 

 

 

 

 

俺の脅しに知識人たちだけでなく、民衆も固唾を飲んで見守っている。ここは威厳を示さなければ、知識人たちの門出が不出来なものになってしまう。だからこそ、俺がここまで恥を忍んで演技しているわけだ。それにもやしは悪いことじゃねえ!もやしなめんな!

 

 

 

 

 

「終わりなき罰・・・・・・それは我の下でそなたらの身が朽ちるその日まで成長することだ。人はだれしも成長に怠惰になる。しかし、そなたらを拾う我の下ではそれを許さぬ。日々成長し、欲を忘れてただ人のためだけに生きる、それがそなたらにできるか?」

 

 

 

 

 

俺の言葉に知識人たちは顔を見合わせる。これくらい大げさに言わなきゃ、周りは納得しないだろう。まあ、俺の街に来たら教師としてそれはもう活躍してもらうけどね。だってうちは絶賛人手不足だからね。これからは教育!うん、もやしっ子量産だ! 違うか。そして、知識人たちは互いに決心を固めたのか、俺に向き直ると、その額を地面にこすりつけて許しを請う。だが、俺はいつものようにそれを一蹴する。

 

 

 

 

 

「この命、殿下に捧げます」

「いらぬ、俺ではなく民に捧げよ」

「はっ! ははぁあ!!!」

 

 

 

 

俺は事件を解決に導いたことで民衆の拍手を得ることができ、なおかつ知識人も得ることができた。これぞまさにウィンウィンってやつだよね。ああ、ここで肩を出して一件落着って言いたいな。俺はクリスにそれとなく視線を向けると、小さくバツを作っている。あっ、これはダメだって、残念。

 

 

 

こうして得難いものを手に入れることができたオワリ領での旅も終わろうとしている。まあその後、オビワン西郷どんと一緒に風呂に入らなきゃいけなくなったりして大変な目に遭ったけど。だって、あのおっさん子どもの俺に酒飲まそうとしたり、音痴な歌聞かせたり、裸踊りするんだもん。あんなおじさんのむさ苦しいとこなんて見たくないよだ。逆に、クリスのそういうとこなら見たかったけど。たぶん許してくれるかもしれないけど、ダメだよね。何がとは言わないけど。そして、俺はオワリ領出ようと見送りに来たオビワン西郷どんとシャルロッテに別れを告げていた。

 

 

 

 

 

「今回は招待してくれてありがとう、シャルロッテ姫」

「いいえ、こちらこそ殿下には感謝したいのです」

 

 

 

 

 

シャルロッテは胸に手を添えると、優しく微笑みかける。日本美人的ななんか恨めしい目つきと言い、魅惑の表情ってずるいよね。俺は子どもだから大丈夫よ?だって子どもだもん。俺が邪な思いを抱いていると、真逆に純真な心内をシャルロッテは曝け出してくれた。

 

 

 

 

 

「今回、私の身勝手で会っていただき、その上我が領地の問題まで解決してくれて、本当に殿下のことを私は・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

最後の方は小さく囁いたため聞き取れなかったが、おそらく大丈夫だろう。俺はそう解釈しておく。鈍感系主人公じゃないんで、俺は。今回の政略結婚的なことも、もとあといえば自分で蒔いた種だ。それを上手く回収できたのだ。一仕事終えた別れはいいものだ。俺はシャルロッテに別れを告げて馬車を出してもらう。きちんと見えなくなるまで手を振ってお別れだ。稜線に見えるシャルロッテが小さく見えなくなるまで、俺は手を振った。心地よい風が葉を落としていく。そういえば、もうすぐ秋だ。

 

 

 

 

 

「シャルロッテよ、言わなくてよかったのか?」

「はい・・・・・・」

「武士の娘たるもの、東を向いていろと言われれば、いつまでも向いておくものだぞ」

「はい・・・・・・」

 

 

 

 

 

オビワン西郷どんは城へと足を向ける。残されたシャルロッテがいつまでも見送り続ける中、葉が舞い落ちる。シャルロッテの目線の先には既に馬車は見えなくなっていた。

 

 

 

 

 

「秋の日の 満月のため息の 身に染みて うら悲し 風の音に胸ひたぎ 色かえて 涙ぐむ 過ぎし日の思い出や げに我は うらぶれて ここかしこ定めなく とび散らう落ち葉かな」

 

 

 

 

 

俺はようやく弟の待つアルフレッドの下へ辿り着いたのは秋の訪れが身に染みるようになった頃だった。アルフレッドはここ最近毎日言語聴覚士のサリマン先生の下へ通っているようで、俺が館に着くと部屋から発生練習を行っているようだった。俺はそんなまだぎこちない言葉の羅列を聞き入り、弟の成長を涙ぐましく聞いていると、こちらに気づいたアルフレッドが恥ずかしったのか、顔を赤くしてやってくる。

 

 

 

 

「まだっ、れっ、練習中だっから!」

「ごめんごめん! でも、とても良くなっていると思うぞ!」

 

 

 

 

 

俺が心からの言葉を口にすると、アルフレッドは顔をくしゃくしゃにして笑顔になる。俺はそんな笑顔が最高のお帰りの言葉に変換して悦に入っていた。俺は久しぶりにアルフレッドと遊んでやろうと、部屋に入ろうとすると、クリスが俺を呼び止める。いくら可愛いクリスだろうと、アルフレッドとの楽しい時間を邪魔されるのは癪であり、俺は心の感情をそのまま顔に出した。

 

 

 

 

 

「坊ちゃま、そんな顔をしてもダメです」

「一体なんなんだよう」

「坊ちゃまにご面会です」

 

 

 

 

 

俺の大切な時間を邪魔するとはいい度胸だ。俺はもすもすとオビワン西郷どんばりに鼻息を荒くして玄関へと向かう。もしこれでインテリボルドー君だったら痔にしてやるぞと、息巻きながら玄関の扉を開けると、そこには額に汗を浮かばせていかにも大変だと言うことを知らせる、新設した教育施設を任せた教師の一人が立っていた。彼の名はダンブルドアだ。そう、あの魔法使いの物語に出てくるあの人だ。でも、残念ながらこの世界に魔法はない。よってダンブルドア君は一介の教師だ。そんなダンブルドア君は俺に問題を持って来た。

 

 

 

 

 

「ビスマルク殿下、大変です!」

「うん、そうだろうね」

「生徒が、生徒がおりません!」

 

 

 

 

おやあ、なにそれどゆこと?俺は頭の中が真っ白になった。だって、ようやく待望の学校ができたし、教科指導の教育内容も決めた。それになんたってシャルロッテのところから教師となり得る人材を雇っちゃったんだよ?あれもしかしてこれ、負債抱えちゃった?俺もダンブルドア君と一緒の顔色になる。俺は息を整えてもう一度聞く。

 

 

 

 

 

「生徒がいないって、一人も?」

「はい、一人もわが校には入学しておりません!」

 

 

 

 

なんてこった。




知識人ゲットだぜ!

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