飛べよ個性~異世界転生したら空も飛べるはず~   作:桜子道 晴幸

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案外短めでした
今回はシャルロッテとの会話シーンです


第十八話 シャルロッテの告白

みなさんは当たったかな。俺は全く予想だにしていない回答が来てしまい、絶賛脳がフリーズ中だ。ええと、どうしてこの困ったちゃんはオセロの販売権なんかを欲しているんだ。たかがオセロで何をそんな憤っているのだろうか。そもそもあなたオセロめちゃ強じゃん。あなたがオセロやる相手なんかそうそう見つからないからやめなさいって。それにしても、なんで俺に要求して来るんだか。

 

 

 

 

 

「ええと、オセロならうちの街の行商人から買えばいいじゃない?」

「そう言うことではありませんわ!」

 

 

 

 

 

ううむ、これは困った。みんなは欲しいものがあったらどうする? もちろん買うよね。でも、この困ったお姫様は販売権を欲しいらしい。石油王の思考かよ。オセロなんて娯楽アイテム、あんまり売れ行きがすごくいいわけでもないのに。俺はとりあえずリーゼロッテから訳を聞いてみることにした。

 

 

 

 

 

「あのオセロの販売権を我が領でなら必ずや生産・販売規模を拡大して見せますわ!」

 

 

 

 

うんうん、つまりはあれか。リーゼロッテ姫自慢の魅力ならお客はみんな虜、大儲けですわ! ってとこかな。その自信はどこから来るのか。だが、うちの領地ではオセロはそこまで主力商品ではない。大いに売って設ける算段があってのことなんだろうな。俺はリーゼロッテと交渉してみる。

 

 

 

 

 

「いいよ」

「やりましたわ!」

「でも、利益の20%はちょうだいね」

 

 

 

 

俺の交渉が入った途端にリーゼロッテの表情が変わる。俺そんな暴利を吹っかけたかな。原価率がいい代物だし、これ以上安くするのはうちとしてもよろしい取引とは言えない。そもそも本当にただで販売権をもらえるとでも思ったのだろうか。リーゼロッテは俺の鼻先を指で差すと、キンキンとした声で喚き始める。

 

 

 

 

「どうして下さらないのですか?!」

「どうしてタダで譲らないといけないのさ?」

 

 

 

 

これでは平行線だ。子どもの駄々に付き合っている暇はないのだが、てかこれ俺の誕生会だしね。普通俺に何かプレゼントをくれるものじゃないのか。これでは絶対にアンフェアだ。なにかしらこちらも利益がないと・・・・・・ああ、別に金銭じゃなくてもいいじゃないか。そうだよ、リーゼロッテが売る自信があるならこちらはその秘密なり、人的資源を提供してもらえばいい話じゃないか。俺は自分の中で商談を決める手筈を整えた。

 

 

 

 

「じゃあ、あげるよ」

「最初から素直に渡してくれれば・・・・・・」

「あげるからリーゼロッテの領地の情報をちょうだい」

「・・・・・・情報、ですか?」

 

 

 

 

リーゼロッテがキョトンとしているので、俺はリーゼロッテに前に話した街の情報誌について思い出してもらうことにした。情報と言うのは集めるのに膨大な時間が必要な代物で、それこそ俺は自分の街の情報誌を作成するだけでもかなりの時間を要した。だから、リーゼロッテの領地の地形や商売形態、特産品、医療技術などを記した情報を提供してもらうことでオセロの販売権を譲ることにした。

 

 

 

 

「情報ですか・・・・・・その程度のもので良ければ」

「商談成立だね」

 

 

 

 

俺とリーゼロッテは握手を交わし、これにて商談終了だ。リーゼロッテは未だに不思議そうにしていたが、情報の価値は偉大だ。それにリーゼロッテの領地とも交易が盛んになればみんなハッピーだ。俺はなにも自分だけが幸せになろうなんて思っていない。美味しい物は共有したいし、美しいものはみんなにも見てほしい。誰にとっても便利なものは広めるべきだと考えている。俺はリーゼロッテの齎してくれる情報を楽しみに、今度リーゼロッテの領地に行くことを確約する。

 

 

 

 

「リーゼロッテ姫」

「なんですの?」

「楽しみだね」

 

 

 

 

俺が耳元で囁き、微笑みかけるとリーゼロッテは少し動きを止めたかと思えば、顔をほんのり赤くさせてあたふたし始めた。俺が行くことを忘れてたのかな。なんて薄情な。俺はあれだけ押しかけられたから頑張ってアルフレッドと遊ぶ予定を切り上げてまで準備したのに。リーゼロッテはそそくさと姿を消すと今度はシャルロッテの番だ。なんて誕生日だろう。周りが俺の疲労困憊の顔を察して道を開けてくれたため、俺はちゃっかり戻ってきたクリスの監視の下、バルコニーに出る。そこには確かに月光に照らされて、ほのかに青白く輝くシャルロッテが待っていた。

 

 

 

 

「お待たせ、シャルロッテ姫」

「お待ちしておりました、ビスマルク殿下」

 

 

 

 

その美しい所作で静かにお辞儀をするシャルロッテは、誰もがその上目遣いで見られたら熱くなってしまうような雰囲気があった。先ほどの険悪な感情はどこへ行ったのか、シャルロッテはその厳かな空気を纏い、俺の近くに寄って来る。

 

 

 

 

「今宵、またこの月の下でお会いできましたことを嬉しく思います」

「ああ、俺もだよ」

 

 

 

 

そう言うとシャルロッテは艶やかに微笑み、スッと感情を下げる。冷たい風がシャルロッテの黒く長い髪を揺らす。俺はどこかその表情が恐ろしく、どこか寒々しいものが背筋を駆けのぼった。

 

 

 

 

 

「殿下、殿下は以前空を飛びたいと仰られましたね?」

「そ、そうだったね」

 

 

 

 

シャルロッテと初めて会った日、確かに俺は和歌で自分の空を飛びたいと言う気持ちを表現したことがあった。この異世界では空は災厄を招く場として畏れられ、下賤な行為とされている。俺が空を飛びたいと言うと誰もがいい顔をしなかった。だが、なぜシャルロッテはこんなにも俺の言葉を嬉しがるのだろう。俺はシャルロッテの次の言葉を待った。

 

 

 

 

「私、殿下のお言葉を忘れた日はありません」

「う、うん」

「殿下がそこまで我がオワリ領のことをお考えになってくださるなんて」

 

 

 

 

なんかおかしくない。どうして俺が空を飛びたいことと、シャルロッテの領地を俺が考えてることに繋がるって言うのさ。そもそもさっきあれだけリーゼロッテといがみ合っていた、俺と先に話す権利争奪戦の果てがこんな話題? てっきりなにか告白でもされるのかと思って少しドキドキしてた俺が馬鹿みたいだよ。あああ、気持ちを高ぶらせた俺が馬鹿だった。じゃあ、そろそろ本題きてくれないかなぁ。

 

 

 

 

 

「私は殿下を・・・・・・お慕い申し上げます」

「ああ、なるほどね・・・・・・ん?」

 

 

 

 

 

一体どうしてこうなった! どこで食い違った? 俺はなにか話を聞き逃したか!? 俺は頭の中を必死に回転させるが全ての結論はエラーメッセージばかりである。シャルロッテに限って『お慕いする』だなんて冗談で言うわけないし、えっまさか、この異世界では違う意味になるとか?! もう分からないよ。俺が思考停止していると、シャルロッテがこの場を紛らわすかのように話題を変える。

 

 

 

 

「そ、そういえば、私の領からヨイチやユキチがそちらに向かったと思うのですが」

「あ、あああ! そう、そうだね!」

 

 

 

 

もう、女の子ってわかんないわっ! 唐突な話題転換について行くので精一杯な俺は、脳に酸素を巡らすべく深呼吸する。そういえば先ほどアグリ領主の息子であるマルコのトラックに乗せられてきたヨイチとユキチがこの王都にやってきていた。俺はその話が本題なのかと頭を切り替えることにした。

 

 

 

 

 

「これからは俺の街で活躍してもらうよ」

「はい、ぜひ彼らをよろしくお願いいたします」

 

 

 

 

 

ふう、これで社交辞令は完了だ。それにしても突然の告白と言い、シャルロッテって女の子が俺にはさっぱりだ。俺は再び疲れ果てた脳を休める為、会場に戻ろうとする。

 

 

 

 

「じゃあ、俺は戻るとするよ。シャルロッテも冷えるから早く戻るんだよ」

「お気遣いいただきありがとうございます、殿下」

 

 

 

 

俺はクリスに扉を開けてもらい中に入る。さすがに冬の夜は冷え込む。さきほどまで暑すぎるくらいだった部屋は心地よい暖かさで身体を包んでくれるようだった。一方、バルコニーに残ったシャルロッテは、俺の背中を見えなくなるまで見送ると、夜空に浮かぶ月を覗き込む。

 

 

 

 

「殿下なら・・・・・・殿下となら」

 

 

 

 

 

シャルロッテは冷たく覗き込む月の光に照らされて火照った身体を冷ましていく。未だに燃えるように疼く背中を月の光から隠しながら。その後、無事に誕生会を終えた俺は疲れ果ててしまい、そのまま休むことにした。

 

 

 

 

 




告白とか、リア充イベントを作ってしまった自分が憎いです

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